PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<フィンブルの春>ブラックアーモンドアイ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●どこかの話
「あれが、魔種?」
 アリストスはおそるおそる扉の覗き窓から部屋を探った。暗い部屋の真ん中に、少女が座っている。周りには様々な年ごろの少年少女が、おだやかな顔つきで眠りに落ちていた。
「どう見ても子どもじゃないか。それもろくな目にあってなさそうな……」
「見た目に騙されてはいけませんよ、アリストス卿。奴隷たちの感情を食い散らかして腹がくちくなっているから大人しく見えるだけです」
 汚れた白衣がアリストスの隣で揺れた。猫背で、眼鏡の奥の目ばかりがぎらぎらした男だ。
「そうだハムレス、おまえの言うとおりこれだけの奴隷を用意してやったんだ。改造兵とやらは作れるんだろうな?」
 ハムレスと呼ばれた男はおかしげに喉を鳴らした。
「もちろんです。機材もそろっているし、あとは存在値kをゴールデン・ムーンの法則に則り……」
「ああ、細かいことはすべてまかせる。とにかく兵隊だ。先日イレギュラーズにすら一泡吹かせたという兵隊を作れ。そうすればバランツ様の覚えもめでたくなろうというものだ」
「ええ、自慢の兵を献上いたしますよ。ところでフェイク・メダリオンの量産は済んでいるのでしょうかね」
 当然だとアリストスは言いきった。どこか自慢げであるようにも見えた。
「あとはほどほどに問題を解決し、実績を打ち立てればいい。期待しているぞハムレス」
「かしこまりました。ところで」
「なんだ」
「近いうちに魔物狩りと言う名の領地の見回りに出るのでしたかね」
「そうだが?」
「私もご一緒していいでしょうかね。万が一イレギュラーズと遭遇した場合、データをとる機会を逃すのはもったいなさ過ぎる」
「イレギュラーズだと? こんな辺境まで来るやつが居るものか」
「わかりませんよ。ローレットの手はあなたが思うより広く長いですからねえ」
「チッ、足手まといにならないようにしろ」
 ハムレスはアリストスを心の中で笑い飛ばした。足手まといはおまえの方だと。

●ローレットにて
「楽にしてくれたまえ」
 心地よく薄暗い、静かな部屋だ。3人の人影がソファに座っている。呼び出されたあなたもまた自分用のソファへ座った。柔らかく上等な感触があなたを包み込んだ。
「依頼人の皆さんです。名前や出自は伏せさせてください、そういう契約なので」
『孤児院最年長』のベネラー (p3n000140)があなたへ資料を手渡した。
 あなたは人影を観察した。着ているものからして貴族。それもかなり高位。なるほど、醜聞を何よりも嫌がる彼ららしい依頼の出し方だ。
「君も知ってのとおり」
 最古参らしき貴族がよどみなく話し始める。それは人に命令しなれた人間特有の重みがあった。
「我らが幻想王国レガド・イルシオンは、ギルド・ローレットの所在地であり、特異運命座標(イレギュラーズ)のホームだ。我々は日々、微力ながらローレットへ協力している」
 貴族の言葉で「微力」とは「いざとなったら切る」を意味する。逆に言えば、彼らの走狗である限り蜜月は続くわけだ。
「さて、迂遠であることが我々の美徳だが、依頼の趣旨を誤解されては意味がない。ここは単刀直入に行こう。幻想貴族の一人、アリストス・ゲーベンを討ってほしい」
 あなたは資料へ目を落とした。細面で狐目の、ブロンドの男の肖像画が描かれている。
「現在、幻想では国王の命令で、勇者総選挙を行うべく活躍に応じてブレイブ・メダリオンを配布しています」
 ベネラーが言い添える。
「アリストス・ゲーベンは地方の一貴族です。しかし領地内でブレイブ・メダリオンの贋作を量産、マッチポンプで入手し、勇者総選挙へ出馬しようとしています」
 なんのために?
「出世でしょう。ゲーベン家は断絶寸前の弱小貴族です。今回の勇者総選挙で名を挙げることで名声の拡大を図ろうとしているのではないかと思われます」
「勇者ごっこをしているうちはよかった」
 別の貴族が口をはさむ。
「だが度が過ぎる。このままの勢いではフェイク・メダリオンによって目立つところへ食い込みかねない。それは我々の望むところではない」
「そのとおり。フェイク・メダリオンはあくまで秘密裏に、節度を持って、夢見る輩の自尊心を満たす程度に生産するものだ」
 あなたはピンときた。この貴族たちもまたフェイク・メダリオンへ手を出しているのだと。それをもって巨万の富を得ているところへ商売の何たるかも知らないハイエナが入ってきた。そう考えているのだろう。
「そのうえ、最近は私兵の強化に走っている。練達の技術でもって作られた改造人間だ。目録上は奴隷であるがゆえに、いかようにも法の抜け穴を突くことができる。ただでさえ小癪なミーミルンド派がこれ以上力をつけるのは阻止したい。わかるね?」
 あなたは舌打ちをこらえた。重くなってきた空気をとりなすようにベネラーが資料を開く。
「気を付けていただきたいのは、アリストスではなく彼の取り巻きです。見た目は少年少女ですが、人体実験によって身体能力を大幅に引き上げられています。そうですね、ブラックアイドキッズ、とでも呼びましょうか。過去の資料によると持久戦に優れた戦いを仕掛けてくるものと思われます。それから……」
 ベネラーはさらに資料をめくった。
「ハムレスという練達出身のドクターが行動を共にしているでしょう。彼はイレギュラーズそのものを研究対象にしている狂人です。彼を狂わせた魔種も近くに居る可能性が高いです」
 魔種がどう出てくるかはわからないが、表へ出てくるとしたらハムレスと連携を取ってくるだろう。この魔種は狂人と持ちつ持たれつの関係にあるようだということがわかっている。
「アリストス本人はただのカオスシードです。討ち取るのは簡単でしょう。随伴するブラックアイドキッズ、狂人、そして魔種。こちらのほうが厄介です」
 無事に帰ってきてください。
 ベネラーは視線を落としてそう言った。この部屋であなたの身を案じているのは彼だけのようだった。

GMコメント

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定は、特にないんですけど、イレギュラーズフェチのハムレスにデータを持っていかれる恐れがあります。予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。まあ本人をころころしちゃえば済む話なんですが。

みどりです。やっぱり幻想貴族は腐敗してなきゃね!

やること
1)アリストスの成敗・生死不問
2)ブラックアイドキッズの討伐
3)狂人ハムレスの撃破
A)オプション 魔種の対処

●エネミー
アリストス・ゲーベン
ちょっと夢見ちゃったばかりに上の方々に睨まれちゃった下級貴族さん
良くも悪くも普通の領主だったのですが、欲って怖いですね
騎馬に乗っており戦闘能力はありません
レベル1イレギュラーズでも一撃で倒せます

狂人・ハムレス
 練達出身のドクター。
 旅人ではありますが魔種によって重度の狂気に侵され、魔種を滅ぼすという矛盾した願望の元無茶苦茶な実験を繰り返しているやべーやつです。自分へも人体実験を施しており自己強化に余念がありません。
HPガン積み型、他のステータスもバランスよく高いです。
・メス投げ 神中単 致死毒・炎獄・失血・鬼道大
・スケフィントンの娘
・ヴェノムジュエル
・フェアリーズゲイム

BEK-コモンタイプ 4人
 HPガン積み型 ミドルバランス EXAやCTもほどほどにあるのでご注意
・フォロウ・ザ・ホロウ
・ハンズオブグローリー
・バスタースマイトV
・怒り無効 精神耐性

BEK-AKIタイプ 2人
 アタッカー型 命中・抵抗高め
・リーガルブレイド
・ギガクラッシュ
・黒顎魔王
・怒り無効 精神耐性

BEK-BU01 2人
 EXF型 マイナスファンブル 回避・命中高め
・名乗り口上
・ルーンシールド
・マギ・ペンタグラム
・怒り無効 精神耐性

BEK-MA01 2人
 支援型 マイナスファンブル 防技・抵抗・能率高め
・ファントムチェイサー
・クェーサーアナライズ
・ミリアドハーモニクス
・怒り無効 精神耐性


●戦場
草原 ゆるやかな傾斜がありますが特にペナルティはありません
アリストス軍は森を背にして布陣しています
森の中は遮蔽物が多く命中・回避・機動に大幅なペナルティを被ります

●その他
魔種トリーシャ 薄幸の少女のような魔種 詳細不明 戦場のどこかに居ます
・長い腕
・原罪の呼び声

このシナリオは「<ヴァーリの裁決>ブラックアイドキッズ」の続編ですが前作を読む必要はあまりありません。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5407

  • <フィンブルの春>ブラックアーモンドアイ完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年04月26日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
パーフェクト・オーダー
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う

リプレイ


 風が吹いている。
 やわらかく触れたくなりそうな『虎風迅雷』ソア(p3p007025)の髪を乱していく風だ。
 森の前に布陣するブラックアイドキッズを遠くから見つめながら、ソアはこぼした。
「子どもになんてことをするんだろう……もう助からないのかしら。許せない。でも今は戦いに集中しなくっちゃ」
 風に乗ったわずかな消毒液の匂いを嗅ぎ分けて、ソアは眉をしかめた。あの子どもたちの臭いだろうか。腐敗した貴族と狂人によってなにもかも奪われた子どもたちの。
「人体実験、ね」
『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)の脳裏に妹のことがよぎった。ふつりと血の沸く感覚がする。
「……そのようなことをす人物が好ましい人物であるわけがありません」
「いえいえユーリエ様、人体実験そのものが悪いことではないのです」
 ちっちと人差し指を振りながら『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)が口を挟んできた。目下理想の旦那様を錬成中の彼女だ、思うところがあるらしい。
「現に薬剤や医療器具は治験で効果と安全性が確認されてから流通しているわけで、生きとし生けるものが幸せを享受するなら問題ないでしょう」
 ずばりとその道方面の視点から実験の必要性を説く澄恋。けれど、そんな彼女の目が細められる。
「しかし被検対象に何も還元されないとなると話は別です。その実験、計画書ごと灰燼に帰してやりましょう」
「そうね。貴族同士の争いに巻き込まれるのは、少し思うところもありますが、魔種もいるとのことで、しっかり警戒して成敗すると致しましょう!」
 Re:Artifact製の光焔剣を抜き放ち、ユーリエは戦いの構えを取る。おっとりとした雰囲気は消え失せ、一本の刃物のように鋭い存在感。その瞳にすでに迷いはなかった。
「あの貴族さん達、ほんとヤな感じだったよね。利益のことしか考えてない。きっと私たちのことも駒の一つくらいにしか思ってないんだよ」
 つぶらな瞳をすがめて『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は毒づいた。そうでもしないとやってられない気分だった。やがて彼女は大きなため息をついて肩を落とした。
「やらなきゃいけないとは理解してるよ……まあとにかく、頑張るよ! 研究素体にされたくないし!」
 ぴょんと飛んで自分に喝を入れる。研究素体にされたくないのは本当だ。ブラックアイドキッズはイレギュラーズのデータを元に作成されていると聞く。そんなものになるのはごめんだった。
『決死防盾』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)はべつなものが気になっているようだ。
「成程、贋作のメダリオン。特異運命座標にも名乗りを上げている方がいらっしゃいましたが──ボクには然して関係ない」
「アンタにはなくともオレにはある。次世代の勇者はオレだ」
『被吸血鬼』ヲルト・アドバライト(p3p008506)が吐き捨てた。ヴィクトールはゆるりと笑う。そうすると目の下のクマの印象がすこし薄くなって、端正な顔立ちだと知れる。彼は薄く微笑んだままヲルトへ優しい視線を向ける。
「という前置きはさておき、偽物で名を挙げたところで器が知れる、というものではないでしょうか。そうでしょう、次期勇者様」
「ああ、まったくいけすかねぇ。勇者メダルくらい自分の手で掴み取ってみろよ。くそが。依頼主も依頼主だ。俺たちにケツモチさせやがって。そのうえ奴隷を改造兵にってのも趣味が悪いな。同じ奴隷の身としては許せるものじゃねぇよ。頭にくることばっかだ」
 ヲルトは近づきつつある隊列へ刃のような視線を投げかけた。
「お前らはなんとしてでもぶっ飛ばさせて貰う」
 さくさくと芝生を踏みしめながら、『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と『Nine of Swords』冬越 弾正が進む。
「こうして依頼をともにするのもなにかの縁だな、弾正」
「ああ、アーマデルクン。頼りにしている。以前ハムレスに食らわせた一撃はすばらしかった」
「スーパーノヴァはもう使えないが、ヤツが前回を覚えているなら俺を警戒するだろうな。搦手で行こう。頼んだ、弾正」
「任せてくれ」
 馬のいななきが聞こえた。アリストスがこちらを目視したのだ。とたんにあがる殺気の渦。BEKはアリストスとハムレスを守るように戦闘態勢へ入る。
 弾正は平蜘蛛を起動させた。心落ち着く硬い機械音。
(俺は弱い。ハムレスのように目的のため他者を平気で犠牲にすることは一生できないのかもしれない。だが、弱いからこそ信仰に縋れる。心の痛みを感じられる。背中を預けられる仲間がいる今……俺は貴様を超えてみせる!!)


「い、い、イレギュラーズだと……まさか本当にくるとは」
「落ち着きたまえアリストス卿。なんのために兵をこれだけそろえたのだ」
「ふっ、ひひひ、そうだな。ああ、やってしまえ、奴隷たち! 実験の成果を見せろ!」
 ハムレスとアリストス、もはやどちらが主人かわからない。
(影で采配を握っているのはハムレスね)
 いっせいに飛び出してきたコモンズを見やりつつ、ユーリエは剣をゆるりと突き出し、ステップを踏んだ。複雑なステップは魔法陣の構築式だ。アデプトクロークがゆらゆら揺れて、踊りに華を添える。
「咲いてきらめく琥珀の花に、天空のかけら白い蝶、雲の切れ端、聖者の階段、光の加護よここにあれ」
 薄曇りだった空が一瞬割れて、心あらわれる光が降り注ぐ。スローテンポの踊りはそのままにユーリエはステップを変える。
「満ち足りることなし英雄の心は、果てなき冒険心、飽くなき挑戦心、進め進め風は追い風、不吉の闇を吹き払う」
 ユーリエの加護で心を強くした仲間たち。彼らはまずBU01を相手にすることで一致していた。攻撃を仕掛けてくるコモンズやAKIを無視し、一気にアリストスの懐まで入り込む。その際、主にAKIからの攻撃で甚大な被害を被ったが、幸いにも誰一人足を取られることも注意をそらされることもなくイレギュラーズはアリストスの前までたどり着くことができた。
「ひっ! き、来た! 守れ、奴隷たち! 私を守れぇ!」
 ちらりとハムレスが視線を走らせた。2体のBU01がアリストスをガードする。
(よし、はまった!)
 アリアはこころの中でガッツポーズを取った。もっとも面倒なBU01を落とし切るチャンスだ。逃したくはない。アリアは体内の魔力をギリギリと絞り上げた。額の上に光弾が発生し、アリアのスレンダーな体がひっぱられるようにわずかに浮き上がる。多大な反動が彼女の顔を曇らせたが、途切れることなく集中を続け、光弾が光の扉に変わる。
「チャージ完了! いっけえー!」
 扉が内側から壊された。そこから勢いよく現れたのは小鳥の群れ。目を背けたくなるほどまばゆく光る小鳥たちがBU01に体当たりし、くちばしで懸命につつく。BU01はこの攻撃でダメージは受けない、だから本命は……。彼らの体へ感電したかのように静電気が走る。
「オッケー! 新戦術を試す絶好のチャンス! これからが本番だよ、覚悟しておいてね!」
 アリアの手にスチームパンク風の銃が生じる。アリアは手で撃鉄を覆い、自分の中の悪意を総動員する。怒り、妬み、嫉み、目をそらしたくなる己自身をあえて前面へ押し出し、それらを上回る勇気をもって悪意の弾丸を装填する。
「くらえっ!」
 赤い弾丸を喰らった瞬間、ずしんと、BU01の体に重みが加わった。
「入った、みんな、好機を逃さないで!」
「ああ、アンタの作った勇者への道、迷わず進ませてもらう!」
 ヲルトが自分の左腕の内側、柔らかな部分を爪で引き裂く。激痛、それ以上にあふれでる血。その血が鞭のように伸び、したたかにBU01を打ち据えた。BU01たちが咆哮をあげる。苦悶の咆哮だ。真っ黒な瞳を怒りでぎらつかせ、ヲルトめがけて地を駆ける。
「こら、どこへ行く。私を守れ、守れと言っとるだろうが!」
 アリストスが叫ぶがBU01たちの耳には届いていなかった。
 既にAKIたちの攻撃で他の仲間のようにヲルトは傷だらけだったが、このぐらいどうということはない。
(問題ない。全て避けきってやる。オレは少し攻撃くらった方が調子が良くなるんでね)
 いまこそ克己せよ、己を超えろ。
 ヲルトは出血にかまわずBU01たちを引き付ける。
 その引き付けられたBU01の、歪な金銀の輪がしゃりんと砕け散った。アーマデルが悲しき英雄の虚ろな響きをもって砕いたのだ。無効を誇っていたBU01が丸裸にされる。アーマデルは忙しく頭を働かせる。
(前回の敵は戦闘チームとしての纏まりと連携が足りない印象だった。ハムレス最優先であるがゆえの連携の弱さというべきか。今回もそうらしい。ということはアリストスは後回しでかまわない、本当に抑えるべき相手は……)
「ハムレス様、私と踊っていただけますか」
 戦闘中であるにも関わらず、いや、だからこそか、ヴィクトールの洗練された優雅さが際立った。彼の周りを淡く光る木の葉が舞っている。聖躰降臨のつややかな若葉、聖骸闘衣のしなやかな枯れ葉。
「ダンスの心得はないな」
 ハムレスは軽く後ろへ動くことでヴィクトールのマークを切ろうとした。そんな彼へヴィクトールがうっとりと笑いかける。
「ところで、特異運命座標に興味がお有り、と。それは私相手でも、でしょうか?」
「……」
 ハムレスが動きを止めた。値踏みするようにヴィクトールを見ている。
「なら、まず私と逢引きしてみませんか? 旅人(あなた)と純種(ぼく)とでは、体の仕組みからして随分違うでしょうし、どうです? 欲しいなら私の一部でも持っていきませんか?」
「私にデータを差し出す、と?」
「ええ、そう受け取っていただいても構いません。ボクも私がなにかなんてものがわからないですから、興味ありますしね」
「喜んでその申し出に応えよう。貴殿が動けなくなってからな!」
「ああ、やはりそう来ますか。持って行ってもいいのは、本当ですよ。ええ、ぜひとも。ただし、私を倒してからにしてくださいね?」
「ふふふふふ、ひとりだけいい思いはさせませんよヴィクトール様」
 BU01を殴っていた澄恋がすべりこむ。
「データの採取はわたしも望むところ。わたしのデータが出回るということは、まだ出会わぬ運命の人に知られ惚れてもらえる好機でもありますからね、実質婚活!」
「……何を言っているんだおまえは」
「あっ、年齢と体重は秘密で!」
「話にならん。が、データには興味ある」
 ハムレスが足を止める。彼の注意は完全に目の前のイレギュラーズへ縫いつけられた。本来ならダブルブロックで逃亡を完封すべきところだ、が、ハムレスの欲求を逆手にとったふたりの行動は劇的に作用した。
 ヴィクトールが両手を合わせ、口元を覆う。ゆっくりと息を吐いていくと手の内側に靄がたまっていくのがわかる。それは憎悪と享楽の合いの子だ。一定量を吐き出すとヴィクトールは手の中の靄を己の精神力で槍へ変え、ハムレスを貫いた。白衣に赤が染みだし、ハムレスが痛そうに顔をしかめる。そこから流れこむ致死毒が不快に拍車をかけたのだろう。
 それを確認した弾正が目の前のBU01へ向き直る。平蜘蛛を操作し、スロットへ氷の魔術が封じ込まれたUSBを差し込む。流れるような動作はコンマの世界だ。データを受け取った平蜘蛛がオートで調整をおこない、必要な魔力の充填を行う。SUCCESSの表示が表面を流れ、弾正はBU01のひとりを指定した。
「まずはひとつ、刈り取らせてもらう。イーゼラー様の御許へ逝け、そして永遠を知れ、哀れなる魂よ」
 爆破音。破砕音。氷結音。大量の音が重なり不協和音をくりひろげる。全身に氷の破片が刺さったまま、まだ動こうとするBU01の頭を、弾正は踏みぬいた。
 最後のBU01へソアが急接近する。あらぶるそれはタケミカヅチの加護かもしれない。全身に静電気をまといながら、ソアは拳を突き出した。
「ごめんね、おやすみなさい。次はきっと、すてきな人生が待ってるから……それまで、すこしだけ」
 見た目だけとはいえ子どもを手にかける心の痛みと戦いながら、ソアは雷電の連撃を容赦なくたたきこむ。一撃は軽くとも、連撃となると脅威だ。一撃が顎を削り取り、二撃が頭蓋をかち割る。BU01は救われたに違いない。永らえたとしてもまともな生は望めないのだから。
 それは他のBEKも同じだった。AKIが機能を停止し、回復を司るMAタイプが次々となぎ倒される。ちょこまかと怒りをばらまいていたコモンズが刈り取られていく。
 ソアはハムレスと対峙した。
(滅茶苦茶に打ちのめしてやろうと思ってたけど、彼も何だか様子がおかしい? そうか、これが魔種の狂気か。彼をこんなにした魔種が側に居るとしたら、きっと森の中!)
「みんな、お願い。おかしなやつがいるの、教えて!」
 ソアはギフトで森の生き物たちへ呼びかけた。
「いってください! 異常があればすぐに教えて!」
 ユーリエも相棒の蝙蝠を呼び出し、ハイセンスを活性化させる。
 それが有効打になるとはその時点では気づけなかった。とにかく戦いへと、意識を戻すふたり。
「踊りも終盤に近付いてきましたね。どうでそゆ、私のデータはとれそうですか?」
「口の減らないやつだ」
 ヴィクトールが肩で息をしながら笑う。ハムレスからの攻撃を受け続けた彼は、全身ボロボロで今にも倒れそうだ。ユーリエが懸命に回復をしているが追いつかない。ハムレスの一撃一撃が重いのだ。しかしそれゆえに、ユーリエによって威力が減じられるのはありがたかった。彼自身もイモータリティで己を鼓舞する。
「わたしのならいつとってくれてもかまわないんですよ、ほらほら!」
 澄恋が放った外法の刃がハムレスへ命中した。
「ぐうっ!」
 片腕を切り落とされ、ハムレスが痛みにおののく。落された腕を拾い、ハムレスは大きく後ろに下がった。出血で青白くなった顔で歯噛みする。
「くっ、なんの成果も出せないとはな! トリーシャ!」
(きたか!)
 弾正が、アーマデルがかまえる。
 が、なんの返事もない。
「トリーシャ! トリーシャどこにいる! トリーシャ!」
「おうおう、後ろ盾がいねえと無様なもんだな」
 ヲルトがハムレスへ肉薄する。そしてハムレスの眉間を正確に拳で撃ち抜いた。
「がっ! うう、なんだ、これは……」
 様々な不調がハムレスを支配していた。なにより、耳元で唸りをあげる葬列にも似た足音。
「聞こえるかよクソ野郎。お前が殺してきたやつらの足音だよ。お前もそれに加わるんだ」
「呪いの歌よ……縛れ!」
 アリアも攻勢に走る。Code Redからのウェンカムヒ。さらに歪曲のテスタメントで動きを縛り付けていく。
「ま、待て! 私が死ねば貴重な知的財産が、失われるのだぞ! 惜しいとは思わないのか!」
「だから『どうかしてるドクターは間に合ってる』。空気読め。おまえはここで終わりなんだよ」
 アーマデルが渾身の力を込めた崩滅呪王を放つ。その威力で空高く打ち上げられたハムレスが落ちてくる。落ちてくる、弾正のもとへと。


「よかったな、ハムレス。貴様の実験体にもっとも接触した特異運命座標の手にかかることができて……地獄で先に待っていろ、貴様を喰らい、俺は鮮やかな黒と成る!」
 平蜘蛛が落下するハムレスの背へ張り付いた。機械的な音声が終わりの時を告げる。ハムレスは地へ戻ることなく、そのまま爆散した。
 火薬と、焼けた肉の臭い。ぼたぼたと降り注ぐ何かはかつて生命だったものの燃えカス。
 誰もが強敵の死にほっと肩の力を抜いた時だった。ユーリエが急に森へ顔を向ける。
「私の蝙蝠が!」
 握りつぶされる感触が鮮明にユーリエへ伝わってきた。ユーリエは顔を歪め、不快感に耐える。やがて、森の奥から、小さな少女が現れた。
「あら」
 少女は転がっているBEKと澄恋に拷問を受けたアリストスを無感動に眺め、ハムレスがいないことを確認すると小さなため息を吐いた。
「森の動物たちが襲い掛かってくるから回り道していたら……そう、間に合わなかったのね」
 代わりを探さないと、ああ面倒くさい。少女はぶつぶつ言っている。
「あれが魔種?」
「そうだ、侮るな」
 弾正がヲルトへ注意を促す。
「ちっ、見た目に騙されるかよ!」
 ブロックに入ったヲルトは、しかし長い腕で一気に振り払われた。猫のように空中で姿勢制御し、着地する。
「くそっ、吹き飛ばし持ちかよ」
「腕がゴムみたいに伸びて気持ち悪い」
 アリアがうへえと口をひん曲げた。そのまま魔術砲の詠唱に入る。
「で、誰か私と契約したい人はいる? いないなら帰るわ」
「何の契約? 魔種としたってろくなものじゃない。それに、森の動物を片っ端から殺して回ったね、ボクにはわかる! 許せない!」
 ソアは怒りの涙を目元に浮かべていた。
「火の粉を振り払っただけなのに」
 トリーシャはうっとおしげにそういうと、踵を返した。
「待て!」
 アーマデルが叫んだ。イレギュラーズが総攻撃をかける。しかし心を握りつぶされるような衝撃が全員を襲った。
「この程度の呼び声でひるむようなら、手駒にもならないわ」
 それはさらに上があるということだ。トリーシャが立ち去るのを、一行は見守る事しかできなかった。

成否

成功

MVP

アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

アリストス確保&ハムレス討伐おめでとうございます。
トリーシャはそのうち出てくるでしょう。

またのご利用をお待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM