シナリオ詳細
墓掘りフェリス。或いは、お友達救出作戦…。
オープニング
●ある屍術師の遺産
鉄帝国。
ヴィーザル地方のある湖畔。
寒風吹きすさぶその場所には、無数の墓石が並んでいた。
その中央には、巨大な十字架。
それにもたれるようにして、血塗れの少女が眠っている。
砂色の髪。
痩せた体躯。
襤褸をつぎはぎしたような粗末な衣服。
頭頂部には大きく幅広い三角形の耳がある。
彼女の名はフェリス。
墓泥棒を生業とする、スナネコの獣種だ。
意識を取り戻したフェリスは、愛用しているスコップを支えに墓所を歩く。
ざく、ざく、と。
スコップが地面を抉る音。
「う、うぅ……友達。わたしの友達が、連れて行かれちゃった……助けなきゃ。とも、だち……」
朦朧とする意識の中、彼女は連れ去られた“友達”の安否を気にしていた。
友達、とフェリスは言うが、その正体は彼女が集めた死体の集合体である。
墓泥棒であるフェリスの目的は、死体を集め、彼女の理想とする“友達”を造りだすこと。
既に身体は出来上がった。
後は“友達”に仮初の命を与えるだけ。
そのためにフェリスは、湖畔の墓所を訪れたのだ。
この場所にはかつて、ある高名な女屍術師が住んでいたという。
その屍術師はある日突然に姿を消した。
死体は終ぞ見つかることなく、その研究成果も紛失しているという。
それを見つけ出すために、フェリスは墓所を掘りまくった。
掘って、掘って、掘りまくって。
そして、彼女は“ソレ”と逢った。
ソレは、まるで巨大なダンゴムシのようだった。
正確にいうのなら、ダンゴムシに似た形状のアンデッドだ。
青白い顔をした美しい女の顔。
首から下は、脊柱しか残っていなかったように思う。
背骨を中心に、無数の腕が伸びていた。
気づけばフェリスは意識を失い、彼女の“友達”はどこかへ消えていた。
彼女を襲ったアンデッドもいない。
「あいつ……許さない。許さないよぅ。わたしの友達、連れて行くなんて……なんて、酷いことするのよぅ」
よくよく見れば、地面には大量の手形が残っている。
ダンゴムシのようなアンデッドが這いまわった後だろう。
縦横に墓所を移動しているようで、痕跡を追うだけではその居場所を突き止められそうもない。
それでもフェリスは、墓所をひたすらに歩き回った。
死体を寄せ集めた人形とはいえ、フェリスにとってそれは大事な“友達”なのだ。
取り返さずにはいられない。
●その名はサイギョウ
「件の墓所に住んでいたという屍術師の名はサイギョウ。多くのアンデッドを作成し、付近の村や旅人を襲ったという」
そう呟いた『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、どこか呆れた顔をしていた。
サイギョウという名の女屍術師が何をもってアンデッドを作っていたのかは分からない。
少なくとも、その本性が決して“善”ではないことだけは確かだろう。
「サイギョウの首には賞金がかかっていたらしいからな。本人が姿を消したことで、誰もその賞金は得られなかったようだが」
サイギョウがどこへ消えたのかは分からない。
一説では、1人静かに己の拠点で息絶えたとも言われている。
「少なくとも彼女の拠点が湖畔の墓所にあったことは確かだ。フェリスという少女を襲ったのも、サイギョウの作品だろう」
女の頭部。
つながる脊柱。
脊柱から伸びた無数の腕。
人の形さえ失った、かつては人だったものの馴れの果て。
悍ましきアンデッドは、今も活動を続けている。
「フェリスの“友達”はアンデッドに持ち去られたようだ。アンデッドの目的は不明だが、このまま放置しておくのも……な」
結果的に墓泥棒の手助けをすることになるだろうが、それはいわば“ついで”である。
目的は、アンデッドの居場所を突き止め討伐すること。
可能であれば、サイギョウの隠れ家も見つけ出すことが出来れば良いだろうか。
「アンデッドの攻撃には【災厄】【懊悩】【狂気】といった状態異常が付与されているようだな。また、アンデッドが1体だけとも限らない」
現状、湖畔の墓所には1体のアンデッドも見当たらない。
どこかに潜んでいるのだろうが……。
「半径20メートルほどの広い湖。その周囲をぐるりと囲むように墓石が無数に並んでいる」
また、ところどころに納骨堂や十字架などの設備も存在しているようだ。
「時刻は夜ということもあり視界は悪い。アンデッドの奇襲には注意してくれ」
と、そう言って。
ショウは一行を送り出す。
- 墓掘りフェリス。或いは、お友達救出作戦…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月22日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●静かな湖畔に死人が眠る
ヴィーザル地方のある湖畔。
寒風吹きすさぶその場所には、無数の墓石が並んでいた。
「死体を持ち去るアンデッドというのも珍しい気がしますね。仲間を増やそうとでもしているのでしょうか?」
そう宣う『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は、どこか暗い眼差しで墓石をじぃと眺めていた。一見して 四音の姿は少女のようだが、その本性は死体に取りつく粘菌だ。
四音の方をちらと見やって『仁義桜紋』亘理 義弘(p3p000398)はほんの僅かな吐息を零す。
「俺としちゃ仏さんには静かに眠っていて欲しいんだが……」
「だのう。フェリス殿とはなかなか縁が途切れんが……」
生きた友達を代表して助けに行こうかね、と『英雄的振る舞い』オウェード=ランドマスター(p3p009184)が一言告げれば、それに応じて仲間たちが動き始める。
今回の任務でイレギュラーズが捜索する対象……墓泥棒のフェリスとオウェードはこれまでに数度、顔を合わせていた。
生きた人間を恐れ、死体を友達と言い張る彼女の動向をオウェードなりに気にかけていたのだろう。
英雄的な振舞いを己が称号として冠するオウェードとしては、目の前で困っている少女がいるのならば手を差し伸べずにはいられない。
「別に、アンデッドを作る分には、残す分にはいいと思うけど……」
困ったような顔をして『五郎さんと一緒』ノア・マクレシア(p3p000713)は囁くようにそう告げた。
「人のオトモダチを狙うのは許せないよ、ね?」
「それはそうかもしれないけど……やっぱり、死体漁りはいただけねえよなあ」
兎の耳を左右にゆらゆら揺らしながら、ノアは胸に抱いたくまのぬいぐるいみを抱きしめる。『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は、ノアをちらと一瞥すると、鼻先を掻いて言葉を零す。
助けを求めるように、風牙は視線を『狐です』長月・イナリ(p3p008096)へと向けた。
「んー、ネクロフィリアだっけ?」
どこが良いのかしらね……? という疑問の言葉は寸でのところで飲み込んだ。フェリスと同じく、ノアもまた死体をトモダチと称する側の者だからだ。
風牙やイナリが、死体漁りに難色を示す一方で、ノアの言葉に賛同している者もいた。 銀の髪を湿った風に靡かせながら、どこか遠くを見つめる彼女。名を『血風妃』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)という。
「死体がお友達……とは。私の一番下の娘と気が合いそうな子ですね」
外見年齢は10代半ばの少女であるが、実際はもっと長い時を生きている。この世界ではない“どこか”から来た経歴があり、そちらの世界では3人の娘がいたらしい。
タン、と軽い音を鳴らして『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)は墓石の上に飛び乗った。
「アンデットでも実体のあるタイプなら動けば音はするはずなんだけど……」
覗き込むように湖面へ視線を向けたЯ・E・Dは、頭頂部にある獣の耳をひくつかせ、周囲の音へ意識を配る。
「何か聞こえるかね?」
「んーん。それらしい音は……あ、いや」
墓所をぐるりと見まわして、Я・E・Dはふと目を見開いた。
墓石と墓石の間、周囲よりも一層暗くなっている場所に誰かの影が見えたのだ。
●死人を探して彷徨う墓所で
まず動き始めたのは義弘だった。
拳を握ったまま、腕には僅かに力を入れる。
「狙うアンデッドは一体のみだが、ここは屍術師の拠点だった場所だ。他にも徘徊しているかもしれないし、墓下からわき出てくるかもしれねぇ」
「襲って来るのがフェリスさんのお友達という可能性もあります。その場合は壊さないよう注意ですね」
暗闇の中に視線を走らせ、四音が言った。
スコップを引き摺りながらふらふらと歩くフェリスに追いつくことは容易であろう。
しかし、この墓所に居るのは何もフェリスだけではない。
かつて、サイギョウという名の屍術死が拠点としていた墓所なのだ。その者が作ったと思しきアンデッドの存在も確認されている。
「うぅん……今のところ、近くにそれらしい影は見当たらないみたいだけど。何だか怖がっているみたいで、少し情報が不明瞭、かな?」
「怖がってる? 件のアンデッドか? それともサイギョウか? サイギョウがもう死んでるならいいんだけど、潜伏してるだけだとしたら厄介だよなぁ」
「そこまでは、分からない、けど」
と、言葉を交わすノアと風牙も油断なく周囲を警戒している。
そうしている間にも、フェリスはふらふらとどこかへ向かって歩いて行った。後を追いかけるか、呼び止めるかしなければ、再び見失ってしまいかねない。
「やれやれ、仕方ないのう。お前さんらは周囲の警戒を続けてくれ。フェリス殿の元へはワシが行こう」
ガシャン、と重たい音を鳴らして駆けだしたのはオウェードだ。フェリスを警戒させないようにという配慮か、得物の手斧は腰の後ろに吊るしている。
「おぉい、フェリス殿! 友達を探してるのか? ならば、ワシも手伝お……ぐっ!?」
オウェードがフェリスに向けて声をかけたその瞬間。
墓所の静寂を打ち破るほどの、けたたましい絶叫が夜闇の中に響き渡った。
怨嗟の籠った絶叫が、死霊を伴い空気を震わす。
そのうち1体が、オウェードの頭部をすり抜けたのだ。
彼の呼びかけも、叫びに掻き消されたせいかフェリスの耳に届いてはいないようである。
「っ……⁉ お友達の居場所を突き止める前に、まずはアンデッドの撃破でしょうか」
耳を押さえたクシュリオーネが、手早く周囲を見渡した。
【暗視】と【超視力】を併用することにより、彼女の瞳は暗闇の中でも問題なく、遠くまでを見渡せる。
遮蔽物の多い墓所であるため、遠見はさほど効果を発揮しないかとも思われたのだが、幸いなことにすぐに“ソレ”は見つかった。
「右斜め前方に、何かいます!」
「左側にも……。どちらもアンデッドで間違いなさそうね」
クシュリオーネに続き、警戒の声をあげたイナリは木刀を構え駆け出した。一瞬、視線を義弘へと向けたが、既に彼も行動を開始している。
イナリは左へ、義弘は右へ。
「っし! 討って出るぜ!」
その背を追うべく、風牙も低く身を沈め……。
「待って」
その脚が地面を蹴る直前、Я・E・Dによって呼び止められた。
「たぶん、あっちが本物だと思う」
と、そういってЯ・E・Dが指さしたのは斜め後方。
湖の畔付近であった。
Я・E・Dの指し示す方向へ視線を向けた風牙の視界に横倒しになった墓石が映る。
墓石の下から覗いているのは、青白くも美しい女の顔だ。
1本。
伸びた腕が地面を掴む。
2本。
両の腕で女は墓穴の底から、己の体を持ち上げる。
3本。
4本、5本、6本、7本……。
次々と墓穴から這い出して来る無数の腕を蠢かせ、現れたのは異形の怪物。
美しい女の顔。
体があるべき部分には、数十本の腕が連なっている。
全体のフォルムとしては、死体で出来たダンゴムシのようでさえある。
「出やがったな……新道 風牙、推して参る!」
愛槍を構え、風牙は低く身を沈めた。
いつでも駆け出せる姿勢を整えながらも、しかし風牙は駆け出しはしない。
今回の目的は異形のアンデッドの討伐だ。
けれど、風牙の心情としてはアンデッドに連れ去られたというフェリスの“友達”を回収したい。
そのためには、アンデッドの住処……おそらく、製作者であるサイギョウの拠点でもある……を、突き止める必要がある。
四音、ノア、Я・E・D、クシュリオーネの4人もまた風牙の周囲に身を寄せ、戦闘の開始に備えた。
その、直後……。
『――――――ぁぁああああああああああああああああああ!!』
再度、異形のアンデッドは怨嗟を叫んだ。
どれほど歩き回っただろうか。
手足はじくじくと痛みを発し、思考には靄が掛かっている。
ろくに休みも取らなかったせいか、頭の奥がずきずき痛む。
けれど、フェリスは歩き続けた。
大事な“友達”を攫ったアンデッドを見つけ出し、友達を取り返すために。
「あ、あぁぁ!! 見つけたっ!! 返して! 返してよぅ! わたしの友達、返してよぅ!」
そしてついに、アンデッドが目の前に姿を現したのだ。
怒りと、喜びが綯い交ぜになった感情に突き動かされ、フェリスは駆ける。
アンデッドの顔面に、スコップの刃を突き立てるために。
しかし……。
「待て! 危険じゃフェリス殿!」
鎧を着こんだ大男……オウェードが、彼女の前に立ちはだかった。
「退いてよぅ!」
いかに頑丈な鎧とはいえ、関節部分は装甲が薄くなるものだ。
フェリスは迷わず、伸ばされたオウェードの肘へ向けてスコップを叩きつけるように振るう。
「ぐっ……この程度なら逆にテンションがあがるわい!」
しかしオウェードは怯まない。
2、3と続けざまに打ち付けられるスコップを、巧みに鎧で受けながら彼はフェリスの進路を塞ぐ。
青白い体に、生気の失せた目。
粗末な衣服を纏ったそのアンデッドには、両の腕が存在しない。
「フェリスの方はオウェードに任せておけばいいとして……なんだこいつ? 腕はどうした?」
噛み付きと体当たりを交互に繰り出すアンデッド。
その懐に、雷光を纏う拳を打ち込み義弘は僅かに思案した。
アンデッドの身体を紫電が貫き、それはついに動きを止める。
腕はおそらく、異形のアンデッドによって奪われたのだろうが……このようなアンデッドは、つい先ほどまで付近に存在しなかった。
となれば、どこかに隠れていたのだろうが。
「今まで、どこに居やがった?」
焼け焦げた死体に視線を落とし、義弘は頬の血を拭う。
墓石の1つが傾いている。
見れば、その下には地下へと続く階段があった。
アンデッドはそこから出てきたのだろう。
2体のアンデッドに左右を囲まれたイナリは、焦ることなく周囲へ視線を巡らせる。
「もしかして、同じような入り口が他にもあるのかしら? 少し見て来てくれるかしら?」
右から迫るアンデッドの頭部へ刀を叩き込みながら、イナリは地下へ【ファミリアー】で呼び出した鼠を1匹走らせる。
異形のアンデッドも既に出現しているようだし、もしも地下にフェリスの“お友達”がいるのなら、場合によってはイナリ単独での侵攻もあり得るだろうか。
とにもかくにも、まずは情報の収集を優先するべきだ。
アンデッドの口腔へ刀の切っ先を突き込みながら、イナリはそう考えた・
飛び交う怨霊がイレギュラーズの体力を削る。
降り注ぐ燐光が、イレギュラーズのダメージを癒す。
リィン、と鈴の鳴る音が響いた。
胸の前で手を組んだまま、四音が静かに言葉を紡ぐ。
「皆さんの命を守り、癒すのが私の使命。支援いたしますので、どうぞ思う様に力を振るってくださいね」
「おぉ、任せとけ! 今、あいつを解き放ってやる!」
槍を構えた風牙が姿勢を低く疾駆する。
展開された怨霊の壁を、強引に破り突き進む。その様はまさに一陣の疾風のようでさえある。
「うん。オトモダチを狙うあいつは好きじゃない……倒さなきゃ」
と、そう呟いてノアは片腕を高く掲げた。
その腕に描かれた紋様が妖しく光る。
バチ、と空気の爆ぜる音。
解き放たれるは、一条の紫電。
それはまっすぐ宙を翔け、アンデッドの口腔を貫いた。
絶叫が止まる。
その隙に、風牙はアンデッドとの距離を詰めた。
「疾っ!!」
一閃。
振るった槍は、数本の腕に阻まれた。
うち2本が地面に落ちるが、アンデッドは止まらない。風牙の槍を3本の腕で掴むと、そのまま後退を開始した。
「は!? え!?」
「……手を吹き飛ばしても効果は薄そうだね。やっぱり頭を潰さないとダメみたい」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇって!!」
「もしかして、風牙さんを地下に引きずり込むつもりなんじゃ……」
慌てる風牙の様子を視て、クシュリオーネは人差し指を宙に這わせる。
ぐにゃり、と一瞬景色が歪んだ。
放たれるは夜闇よりもなお黒い、1発の弾丸。
タン、と軽い音をたて、それはアンデッドの喉元を撃ち抜いた。
ぐらり、とアンデッドが姿勢を崩す。
しかし、その腕が風牙を離すことはなく……。
「あ、ちょっ……⁉」
「あー……わたしにBSは効かないし、ちょっと追いかけてみるよ」
アンデッドと共に地下へと落ちた風牙を追い、Я・E・Dが駆け出した。
●お友達の行方
「フェリスさんのお友達は地下にいます! それとアンデッドが10体ほどと……え、風牙さん?」
「申し訳ありません。アンデッドに連れ去られました」
ファミリアーを通じて得た情報をイナリは急ぎ仲間へ伝える。
地下に風牙がいることを知り、困惑している様子であった。
クシュリオーネはイナリに応えを返しながらも、風牙やЯ・E・Dの後を追い地下へと駆けこんでいく。その背へ向けて、四音が回復術を行使した。
「10体……あの異形のために、それだけの数の遺体が使われたのですね」
燐光の軌跡を引きながら、クシュリオーネの姿が消えた。
イナリ、そして義弘が近くの墓石へと向かう。
傾いた墓石の下には地下へと続く階段がある。伝って降りれば、風牙たちのいる地下空間へ辿り着くだろう。
「イナリ。俺たちも地下へ突入するぞ!」
「承知!」
「とはいえ、フェリスの動きにも気をつけねぇと……戦闘に巻き込まれかねない」
「いや、こちらはワシに任せておけ! 代わりにサイギョウにこう伝えてくれぬか? イレギュラーズに負けましたとなッ!」
今にも地下へと向かわんとするフェリスを押さえながら、オウェードは言う。フェリスを落ち着かせるためか、その手にはゆるい顔をした鳥(?)のぬいぐるみが握られている。
スコップの殴打を浴び続けているが、オウェードはまだ倒れない。
床に転がるカンテラが、周囲を朱に照らし出す。
零れた油に火が付いて、さらには転がる腕無し死体へ着火した。
「……お前らも、サイギョウに弄られて無理やり働かされてるんだよな」
ギリ、と歯を食いしばりながら風牙はアンデッドの頭部に槍を撃ち込んだ。
既に2体。
地下を彷徨っていたアンデッドを屠っている。
落下の際に異形のアンデッドにのしかかられたせいで、骨には罅が入っているが、動けなくなるほどではない。
さらに……。
「アンデッドは任せて。一気に削って、短期決戦でいこう」
Я・E・Dの魔力砲が、数体のアンデッドを飲み込んだ。
衝撃で、地下空間が激しく揺れる。天井から零れる土埃を避けながら、追いついてきたクシュリオーネが弾丸を射出。
今まさに絶叫しようとしていた異形のアンデッドの口腔を正確に撃ち抜き、無理矢理攻撃を中断させた。
さらに部屋の奥からはイナリと義弘も到着。
刀と拳が、アンデッドの1体を強く打って停止させる。
「僕だって……フェリスさんのオトモダチは返してもらうよ」
召喚した死体を左右に配置し、ノアは一路、部屋の最奥へと走る。カンテラから零れた火の回りが、予想以上に早いのだ。このままでは、アンデッドごとフェリスの友達も燃えてしまうかもしれない。
「オトモダチを失うのは辛いよね。待ってて、すぐに連れて帰っ……え?」
手術台らしき場所に安置されていた死体……フェリスの“お友達”に手を伸ばし、そこでノアは動きを止めた。
ぼんやりと。
けれど、確かな生気を宿して。
単なる死体の継ぎ合わせでしかないはずの“お友達”が、目を開いて虚空を見つめていたからだ。
「私の燃料が切れるか、貴方の耐久力が勝るかの勝負よ!」
体を軸とし、回転するようにイナリは異形のアンデッドへ連撃を叩き込んでいく。
イナリの刀が閃くたびに、アンデッドの腕が地面に落ちた。
「確実に仕留めろ!」
伸ばされた腕に顔や肩を掴まれながら、義弘はアンデッドを奥へ奥へと押していく。
ミシ、と掴まれた頭蓋が軋んだ音を鳴らし、義弘の鼻から血が零れた。
『ぁぁあ……ぁぁ』
「もう黙ってろ」
ぐちゃり、と。
異形のアンデッドの肉が潰れ、鼻骨が砕ける。
義弘の拳が、その顔面に突き刺さったのだ。
その巨体は壁に押し付けられ、もはや身動きもままならない。
そして……。
「なぜ死体を収集していたのかは分からないけど」
「安らかに眠れ!」
クシュリオーネの弾丸と、風牙の槍がその眉間を撃ち抜いた。
刹那。
時が止まったかのような静寂の後、アンデッドは力を失いその場に伏した。
『私の死体、たち……』
と、最後にそう呟いて。
地上に戻った一行を出迎えたのは、傷だらけのオウェードと、その隣で蹲っているフェリスであった。そんな2人の背後では、四音が苦く笑っている。
「終わったようですね。せめて弔いの祈りだけでもいたしましょう、どうか安らかにお眠りください」
業火に飲まれた無数の死体へ、四音は静かに祈りを捧げる。
「おぉ、戻ったか。して、首尾はどうじゃな?」
オウェードの問いに、応えたのはノアである。
ノアが抱きかかえているそれは、フェリスの造った“お友達”だ。
身動きもせず、しゃべることもない人の形をした死体。
けれどその目は、確かに開かれフェリスの姿を映している。
「え……お友達が、起きてるよぅ?」
ぬいぐるみを抱えたフェリスが顔をあげ、呟くようにそう言った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
返却、遅くなりました。
異形のアンデッドは討伐され、フェリスの友達は無事に救助されました。
単なる死体であった友達に、多少の変化があったようです。
依頼は成功となります。
この度はご参加ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
異形のアンデッドの撃破
●ターゲット
・異形のアンデッド×1
サイギョウという名の女屍術師が作製したアンデッド。
女の頭部。
体はなく首から下は脊柱のみ。
脊柱には膨大な量の腕が繋がっており、全体の形状としてはダンゴムシのようにも見える。
腕を蠢かせることで移動する。
本体はあくまで女の頭部であるため、腕を幾ら破壊しても討伐できない。
死霊の呼び声:神遠範に中ダメージ、災厄、懊悩、狂気
耳障りな怨嗟の絶叫。
半透明の死霊を周囲へと解き放つ。
・フェリス・マルガリータ×1
スナネコの特徴を備えた獣種の少女。
ボロ布を繋ぎ合わせたような服。
砂色の髪。
痩せた体躯。
スコップと棺桶を携えた少女。
墓泥棒を生業としている。また、趣味として気に入った死体の部品を収集することも。
現在、連れ去られた“友達”を探して墓所を徘徊中。
墓掘りフェリス:物至ラに小~大ダメージ
がむしゃらにスコップを振り回す。攻撃がヒットする度にテンションが上がり与ダメージも上昇する。
●フィールド
半径20メートルほどの湖。
その周囲を囲むように墓石が立ち並んでいる。
ところどころに十字架や納骨堂が存在している。
時刻は夜であることと無数の墓石が並んでいることもあり視界は悪い。
また、墓石が障害物となるため長柄の獲物は取り回しづらいだろう。
※現在、確認されているアンデッドは1体のみ。
※屍術師の拠点であったこともあり、他にも活動しているアンデッドが残っている可能性もある。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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