シナリオ詳細
鉄屑ブーゲンビリア
オープニング
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もうすぐお別れがやってくる。
足早に駆け出した少年は連なる店先のショーウィンドウを眺めてはあれじゃないこれじゃないと悩まし気に首を捻る。
彼女は何が好きだろうか。
いつも喧嘩ばっかりしていたから、最後まで好きなものは分からなかった。嫌いなものは分かったけれど。
可愛らしいリボンは汚れてしまうから嫌いだと言っていた。可愛い服も以ての外だ。
ぬいぐるみを持っているところは見た事はないし、アクセサリー類も一切付けてたことがない。
……そう言えば、小さな頃に似合わないと言ってしまったことがあっただろうか。
慌てて想い出して首を振った。そんな事を思い出している場合じゃない。
もうすぐお別れがやってくるのだから。
彼女にとびきりのプレゼントをして応援しているって伝えないといけないのに。
決まらない、と少年は頭を抱えた。
ふと、覗き込んだショップに飾られていたのはパルス・パッションの特集。
『イレギュラーズの皆と』と楽しそうに書かれたその文字を見て、少年はローレットの英雄の事を思い出したのだった。
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「ラド・バウで新しく闘士になる事に決まった女の子がいるの。魔術に長けていて地元じゃちょっと有名ってタイプの子よ」
そう微笑んだ『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)はラド・バウの広報誌を差し出した。
新人闘士を特集した欄に掲載されていたのは燃えるような赤い髪と雪の様な白い肌の可愛らしい少女だった。名前はルフィナ。
才能を見出されてラド・バウで戦う日々を送るらしい。因みに、愛らしい外見からは想像もつかないが喧嘩に強く、ガキ大将である。
「この子がね、ラド・バウの闘士になるから首都スチールグラードに行ってしまうんですって。
故郷はヴィーザル地方にも近い片田舎に当たるから……少し距離が空いてしまうの――ね? ティト君」
そうフランツェルが振り向けば、先ほどの少女と同じような赤い髪をした少年が立っている。線の細い、弱弱しい印象を受ける少年だ。
「まあ……そう、うん、そう」
何処か歯切れの悪い答えを繰り返す彼は、ルフィナの幼馴染らしい。
いつも喧嘩ばかりであった彼は『幼馴染』の門出を祝いたいという。応援していると、伝えたい。
それ以上に伝えたい気持ちは――まだ幼いゆえに分かっていないのかもしれないけれど。
「ティト君はルフィナさんにお祝いと、それから応援の気持ちを贈りたいそうなの。けど、何が良いのかが決められなかったんですって。
そうしているうちにね、時間が過ぎてしまって……あと少しでルフィナさんの出発の日が来てしまうから慌ててご依頼をくれたそうなの」
フランツェルが説明する間も少年は落ち着かなかった。そわそわとし、イレギュラーズを見ては緊張したようにフランツェルの背後に隠れる。
曰く――『戦えない自分』にとって『戦いに赴く人々』=戦士がとても格好よく見えたのだそうだ。
憧れの人、イレギュラーズがそこに立っている。ティトは鉄帝人ではあるが戦闘能力に乏しく、文官になる事を目指しているのだそうだ。
「あの、ギア・バジリカを止めたのもローレットでしょう? それに、グレイス・ヌレの海戦も聞いてます!
それから、ヴィーサルでのいざこざにも介入しているだとか……あっ、いや、その……憧れてて、つい」
もごもごと言葉を繰り返す少年は本当にイレギュラーズに憧れているという事が仕草や声音から伝わってくる。
「――そんな風にルフィナさんにも声を掛けてあげたらよかったのに」
フランツェルの意地悪な言葉にティトはびしりと固まった。どうしても幼馴染には素直になれず「脳筋女」や「ゴリラ」と心無い言葉を掛けてしまったのだ。
「……そのう、イレギュラーズの皆さん。よければ、ルフィナへの贈り物を一緒に選んでくださいませんか。
行きたい場所はもう決めてあるんです。けど、俺一人じゃいけないから。だから、どうしてもお願いします!」
――向かうのはラサと鉄帝の国境。
『銀の森』と呼ばれた精霊たちの住まう穏やかな地。
- 鉄屑ブーゲンビリア完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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素直になれないお年頃。特にずっと側に居るから――『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は緊張で体を硬くしているティトをちらりと見てから小さく笑みを零した。
「誰だってそういう時はあるよねぇ。うん、面と向かって伝えるのは普通の夫婦ですら難しいんだぞ。
……ましてや子供ともなれば尚更かな、思い出に残るものがきっちり渡せるといいね?」
「渡せる、かな」
おずおずと口を開いた少年は何とも愛らしい。此れから戦いの場に身を投じるルフィナを一番に応援する少年――そんな彼の為にとやる気を漲らせた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は「頑張って探してこようね!」と腕を高く振り上げた。えいえいおー、とやる気を漲らせればティトも慌てたようにソレに続く。
「でも、受け取って貰えるか、分からないですよね。探し出せたとしても……俺、ルフィナにゴリラとか言っちゃって……」
「ゴリラって言うのはね。森の賢者って言われるくらいに理知的でカッコウイイ生き物なんだよ。筋肉もスゴイしね。
……だから悪口じゃなくてホメ言葉だったってことにして――……いや、率直に誤った方がイイね! うん!」
それは無理があったかと『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はからからと笑った。鉄くずブーゲンビリアの生息地についての情報や摘んだ後の保存方法等、調べられる者は先に調べて用意しておこうと告げたイグナートに協力的であったティトは衝撃を受けたように落ち込んでがくりと肩を落とした。
「謝るかあ……」
「謝るのも大事だぞ。いやはや、なるほどなぁ。甘酸っぱいじゃねぇの」
『Heavy arms』耀 英司(p3p009524)はティトの肩をぽんっと叩いた。ティト自身はルフィナと比べればか弱いのだろう。戦う力もなく、彼女には叶わない――それでも、彼女の為にと思うならば何か一つ壁を乗り越えたい。そうしなくてはルフィナと対等になれず、対等に接するなんて夢のまた夢だと。
「まあ……男心ってのはそんなもんだ。胸張ってルフィナに花を渡せるよう、全力で手助けしてやろう」
「素晴らしいと思います。思いを伝えるための贈物……境遇が他人事のようには思えませんから。その目的が果たせるように尽力させて下さい」
やる気を漲らせた『竜胆に揺れる』ルーキス・ファウン(p3p008870)は銀の森が掲載されていたガイドブックをティトへと見せた。
青年のルーキスは恋の途上に、魔術士のルーキスは愛しい人の傍らに。その違いがあれども何方も思いを伝えることの大変さは知っているのだろう。
「少年の冒険……こういうのも冒険譚って言えるよな。ハッピーエンド目指して頑張るぜ!」
早速出発の準備だと『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)は銀の森を目指した。彼にとっては故郷に当たるその場所は勝手知ったる所ではあるが氷の精霊、女王たるエリス・マスカレイドの居場所は定かではない。
「まずはエリス様を探す所からだ! 鉄屑ブーゲンビリアの事も知ってらっしゃる筈だからな!」
鉄屑ブーゲンビリアは何処に存在するか。その花がもつ花言葉を彼が知らなくとも、強く咲き誇るそれがルフィナに一番似合うと彼が感じたのであれば協力してやりたいと『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は心に決めていた。
ブーゲンビリアには情熱的な花言葉が存在して居る。その意味を知ってはなく進むなら今はそれでいいだろうとオリーブは笑みを浮かべた。
「銀の森でプレゼント選びはなかなか良いチョイスでありますよ少年。
北部から離れ一人で旅をするのではなく我々を共連れに選ぶのも良い判断であります」
そう微笑んだ『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)に銀の森に踏み込んだティトはぱちりと瞬いてから首を傾いだ。
「普通――」
「普通だろうって? 確かにそうかもでありますな」
実力者揃いのイレギュラーズ。そんな人達だから少年は『彼女の為』に勇気を出せたのだと「じゃあ、皆さんと一緒に行くって決めたのは俺の、功績ですね」とわざと誇らしげに言って見せた。
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戦闘を進むエッダは自身は盾役であると自負していた。戦う事に関しては余りに頼りないティトを守ってやらねばならない。贈物を手に入れて彼が怪我をしていたら目も当てられないからだ。
「ねえ、ティトくんは鉄屑ブーゲンビリアの話は何処で聞いたの? そのお花がどの辺にあるのかとかまでわかってるのかな?
よくわからないなら、この森について詳しいお友達がいるから聞きに行こう! さっき言ってたでしょ? エリスちゃんって!」
にんまりと微笑んだ焔にティトは「お母さんが言ってたんです」と答えた後に首を傾いだ。焔からすればエリス・マスカレイドは友人の一人だ。
花を捜索していたオリーブはそれだけでは鉄屑ブーゲンビリアには辿り着けないと感じていた。エリスと出会えたならばより情報が得られるはずだ。
「氷獣が近付くと寒くなるらしいね。ケド、オレは寒いほどチョウシが良くなるくらいだからね!
安全なルートは一応考えたけど、ミンナ気をつけてね。相手はケモノだし、何処から遣ってくるか分からない!」
「はい!」
元気よくイグナートに頷いたティトは魔術士として後方で戦っていたルーキスが『怖かったら誰かにしがみついておきなさい』と告げた言葉の通り彼女にしがみ付いていた。
「私でいいのかい?」
「前衛の方のルーキスさんは、前で戦うでしょうから……」
そう呟いたティトに前線でケモノの気配を探っていた剣士のルーキスが苦い笑いを漏らした。確かに、自分の側に居るよりも後方で誰かと共に居た方が安心できる。だが、エリスと出会う前からこれだけ緊張していては見て居て少し不遇だとさえ思えてくる。
「緊張してる?」
「……し、してます。だって、皆さん凄い強い人ですよね……俺なんて戦士でもないし……酷いことも言ったし……」
ぶつぶつと呟いたティトに二人のルーキスは肩を竦めた。思ってなくても酷い言葉が出てしまう――それが少年にとって心残りにならないように支えてやらねばならないか。
「面と向かうと上手く言葉が出なくなるその気持ち、良く分かるよ……俺にも覚えがあるから。
戦士に憧れているって言っていたけど。彼女の為にこうして花を探しにきた君も、立派な『戦士』だと思うよ」
その言葉にティトは嬉しいと胸を躍らせた。それでも、進む足が竦むというならば、英司は彼の肩をぽんっと叩く。
「これはお前の冒険だ。俺たちは手助けするだけ。しっかりやれよ」
冒険したことが彼にとっての自信になればと英司は願っている。全力でポートをすると石神ゾンビをいざという時に獣撃退用にすると意気込んだ彼の姿を見てティトは可笑しそうに笑った。
「そんな風に、英雄でも準備するんだ?」
「寧ろ英雄だからするんだ」
そう自慢げに笑う英司に緊張が解れたのだろう。エリスの居る場所へと案内するというリックが「地元民の誇りに掛けて! うぉおおお!」と叫ぶ背を焔は追いかけた。
「ティトくん、ティトくん! ほら、あれがここの『女王様』のエリスちゃんだよ!」
焔の声に顔を上げれば氷を纏うた女が優しげに笑みを浮かべテイル。リックは「エリス様!」と手を振って見せた。
「皆様……?」
首を傾いだ氷の精霊。彼女を見てエッダは自身が纏っていた護りの気配を失せさせてしっかりと向き直る。銀の森の空気が下がった気配がする。精霊達の住まいに不用意に踏み入れたような――そんな感覚に陥りながら「お邪魔しております」と礼儀正しく頭を下げた。
(……美しいように見えてやはり人の居る所ではありませんね、ここは)
彼女の傍には氷獣は存在しないか。それでも精霊達が此方を警戒している気配をひしひしと感じる。
「やあ久しぶり、と言っても私は領地も此処だけど……探し物があってちょっと奥まで行くんだ、氷の花って見掛けたことない?」
己の背にぴったりと張り付いているティトに「此処は大丈夫だ」と告げたルーキスは柔らかに白い髪を揺らして見せた。武装は敢て解く。
ルーキスの言う『ロクス・ソルス』は銀の森の一角に存在して居る。自然の美しい観光地は彼女にとって面白い土地だからだ。
もう一人のルーキスにとっては慣れない地だ。エリスも神秘的で慣れない相手なのだと緊張に背筋がぴん、と伸びる。エッダに倣うように礼儀正しく接すれば「氷の花ですか?」とエリスは周囲の精霊に警戒を解かせて首を傾いだ。
「今日はお仕事で来てるんだけど、鉄屑ブーゲンビリアって知ってる? 銀の森にあるお花みたいなんだけど、それが欲しいんだ。
知ってたらどこにあるか教えて貰えると助かるんだけど……あと近くに危ない場所があったらそれも知りたいんだ」
素直に告げる焔には何の裏もナイ。オリーブも「手伝って頂けると有り難いです」と事情全てをしっかりと彼女と共有しておきたいという姿勢を見せた。
「ええ、それならばもっと奥へ。けれどお気を付けて。氷獣が今日は騒いでおりますよ」
すい、と指さしたエリスに焔は瞳を輝かせた。氷獣達の縄張りの程近い場所に咲いているその花。どうやら一度は戦闘を挟まねばならないか。
「ありがとう! 今日もお菓子とか持ってきてるから無事に終わったらまた来るよ! お菓子食べながらおしゃべりしようね!」
「有難うございます」
「手伝ってくれればとてもありがたいのですが、あまりお世話になるのも悪い気がしますね。彼の依頼なので――後でティトさんと連名で菓子折りとか送った方が良いでしょうか」
オリーブは悩ましげにエリスへと問い掛ける。エリスは「菓子折りは、あまり詳しくありません」と肩を竦めた。
「俺らシティーボーイでよ、森でなにか粗相があっちゃいけねぇ。作法含め、手伝ってくれねぇか。
菓子折りでも包もうと思ったが、精霊の好みはわかんねぇからよ……礼は肉体労働でするぜ。なんでも言ってくれ」
エリスは英司のその言葉に首を傾いでからくすくすと笑った。オリーブは「ならば共に手伝いましょう」と胸を張る。
エリスからの情報は有益だ。「女王」とエッダが呼べば「エリスと呼んで下さい」と氷のドレスをひらりと揺らした。
「情報に感謝を。彼の為に必ず花を取って参ります。少年の願いとは言え、森を荒らし回るように感じさせたならば申し訳ない」
「いいえ……皆さんは此処を救って下さった方。恩返しに過ぎないのです」
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指し示された場所へと。ずんずんと進むエッダは進行方向に道から顔を出して飛び込んできた氷獣を難なく撃退していた。
進行方向に巣があることを鑑みて余りに食い下がるならば遠回りを提案する。それは、獣を出来れば傷付けたくはないと言う仲間とは違う感情なのだとエッダはティトへと言った。
「力量の差が分かり、敵意がないならば戦いません。巣も好んで撃滅もしたくはない。
……お優しい皆様と違って自分は、無駄な労力は使いたくないだけでありますので。ここまでしてまだ捕食の為に襲ってくるのであれば斃すでありますよ」
エッダに「戦士としては一番イイ戦いカタだよね」とイグナートは応えた。鉄屑ブーゲンビリアは彼が調べた情報に合わせれば一番冷たい空気が漂う場所にあるらしい。それが氷獣の縄張りの近くだと言われれば頷ける。
「エリスの情報によればコッチだけど……こちらがテリトリーに侵入してるし、モクテキは花だからね。ケモノはオレもそんなに構いたくないかな」
「皆さん、色んな考えがあるんですね」
不思議そうにイグナートとエッダを見比べたティトに「それぞれがそれぞれの思想を持つ。それがローレットだよ」とルーキスは魔力を魔導書へと満ちあふれさせた。
「警戒されるのは仕方ないとはいえ……放置して後々追撃されるのも困るからね。ほら、また来たぞ。諦めが悪い、本の角でおねんねしよう」
溜息を吐いたルーキスに応えるようにエッダと前線に立ったもう一人――金の髪のルーキスが応じる。刀を構え、氷獣を引き寄せる。
「なるべく穏便に済ませたいですが、向かってくるのなら仕方ありません。この地を穢さぬ様、不殺で迎え撃ちます」
探索者便利セットを活用し、狼を出来る限り退ける様に工夫を行っていた英司は小さく溜息を吐く。
「荒らす気はねぇ! ちっと通りたいだけだ!」
――そして投げた腐臭。視線を逸らすにはそれだけで十分だ。だが、その傍に立っていたルーキス・ファウンの表情は苦しげに歪んだ。
「あ」
そう呟いたリックに焔が「鼻が死んじゃう!」と指を差す。シティボーイだから許してくれと笑った英司にリックは「おれっちも予想以上の匂いだ!」と叫んだ。
サポート役であるリックも氷獣を殺さぬように時を配っていた。「旅立ちの門出を飾る花、何かの拍子に血がついちまうのは縁起が悪いしな」と告げる声に頷いてからエッダは氷獣を退ける。
「少年、君が花を探すのであります。『精霊』に聴いたでしょう」
少し高いところにあるのよ――
その言葉に頷いたティトを庇う様に立っていた焔は「気をつけてね」と頷いてから周囲に保護の術を施し、動きを阻害し続ける。
オリーブは少しばかり急いていた。ルフィナとの別れの時間が迫っているならば急ぎの帰還をしなくてはならない。出立までに彼には考えることもあるはずだ。
徹底抗戦を選ぶ氷獣達をある程度退ければ、その決意も揺らいでいく筈だ。
●
その花は、やはり高い場所に合った。見上げれば届くような、その場所。イレギュラーズ達ならば苦労はないそれをティト本人に取って欲しいと彼等は願ったのだ。
「お、俺が?」
イグナートは自然知識を活かして花の採取方法のアドバイスを優しく告げる。「ほら、花を取っておいで」とティトを促した。。
「やっぱり本人もお荷物になってるだけじゃなくて仕事が欲しいんじゃないかと思うんだ。
自分の力で手に居てた方が、ルフィナに謝るユウキも出しやすいんじゃないかな?」
「が、頑張ります」
少し高い場所だと見上げるティトに手伝いますとオリーブがその肩を貸した。ぐ、と背を伸ばす少年は余りに細身である。エッダは「落ちないようにするでありますよ」と一応彼が滑り落ちたときに備えて下で構えた。
「採れそう?」
焔の問い掛けに「も、もう少し……」とティトが呟く。ぐ、と背筋を伸ばしたティトにリックが頑張れと応援し続けた。
「お、採れた? さあ、遅くならないうちに帰って、ちゃんと渡してあげないと」
「はい!」
その晴れ晴れとした笑顔にルーキスはオッドアイの瞳でぱちりと瞬いた。右手の薬指に飾った指環を見下ろしてから唇を吊り上げる。
「ひひひ若い恋心っていうのは見てて楽しいネ」
「恋――!?」
―――――
――
急ぎましょう、とオリーブがそう告げたのはルフィナとの別れが迫っているからだ。
焔とリックは後ほど、エリスとの休憩とお菓子を食べる約束をして置いたのだとアフターケアはばっちりだと微笑んだ。エリスは英司のお手伝いを楽しみにしているようでもある。自領をこの銀の森に持っているルーキスは「先に森へ戻るよ」と囁いた。事の顛末は後で教えておくれと肩を叩けばティトは大きく頷いて緊張したように包装を施した鉄屑ブーゲンビリアをぎゅうと握りしめる。
「もし、彼女に伝えたい言葉を上手く言える自信が無いのなら、手紙に書いてみたらどうかな?
応援したい想いを、そのまま書けば大丈夫。花束に添えて渡せば、きっと喜んで貰えると思う。
……今自分の中にあるその気持ち、想いをどうか大切にして欲しい。上手く行く様に応援しているよ」
ルーキスが穏やかに細めた青い瞳には優しさが灯っている。ティトは「実は」と懐から封筒を取り出した。
「ルフィナちゃんにはもうずっと会えなくなるっていうわけじゃないんだろうけど、遠くに行っちゃうなら思ってることは今のうちに伝えておいた方がいいと思うよ。――ほら、頑張って!」
焔に送り出されて、走る。前を進む少し背の高い少女の元へ。
「ルフィナ!」
名を呼んでから、彼は応援してる、また何時でも会いに来て、俺も行く。そう辿々しく伝えた。
渡した手紙と花に、彼女が浮かべた笑顔はティトが見た中で一番美しく、そして、寂しげだった様に思う。
一人取り残された少年は俯いた。守られて、冒険して、それでも彼女が遠くて――不甲斐ないなんて、泣いている暇もないだろうか。
そっと、肩を叩いたエッダに少年は顔を上げる。
「人間は感情を優先する生き物。普通の判断を普通に下せるのも、ひとつの才能だ。ゼシュテルは、貴様のような者を待っている。
……早く追いつけるといいですね、彼女に。私は、応援しています」
屹度、いつかは文官になって。前を走って行ってしまうお転婆な彼女を支えるから。
エッダの激励に応えるようにティトは「待っていて下さいエッダさん」と晴れ晴れとした笑みを浮かべて見せた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
ティト少年にとってのたっぷりの勇気は皆さんがいたから為し得たことでしょうね!
GMコメント
夏あかねです。久しぶりに銀の森へ遊びに行ってみます。
●成功条件
『鉄屑ブーゲンビリア』の採取
●銀の森
ゼシュテル鉄帝国とラサ傭兵商会連合の国境を跨ぐ様に存在する森です。
溶けない万年雪に覆われた雪化粧の美しい森です。その姿とは掛け離れ砂漠地帯から流れ込んだ温暖な空気が優しく、観光地としてもよくガイドブックに掲載される場所です。
森は中心部に『雪泪』と呼ばれる深い湖が存在し、その湖には鉄帝特有の『失われた古代兵器』の残骸が沈んでいます。もはや起動することのなくなった兵器は深い眠りについたまま一種のオブジェとして親しまれています。
精霊種達と出会った地として知られています。多くの精霊達が住まい、日々を穏やかに過ごしているようです。
●氷獣
銀の森の奥地を拠点にしている野生のモンスターです。狼タイプ。彼らにとってはイレギュラーズが侵入者。
自身らのねぐらを荒らす者として襲い掛かってくることもあるでしょう。
彼らに気を付け、ティトを守りながら進んでください。
●鉄屑ブーゲンビリア
ルフィナへの贈り物にしたいという花。氷の棘を持つ、一年中枯れないと華だそうです。
一見すれば普通のブーゲンビリアの花ですが、その性質は鉄と万年氷であり、とても珍しいものだそうです。
銀の森の奥地に存在し、その周辺にはモンスターが出没しているという情報があり〼。
●精霊『エリス・マスカレイド』
銀の森を拠点に過ごしている氷の精霊です。彼女の配下は皆仮面をつけており『マスカレイド・チャイルド』と呼ばれています。
以前は敵対しましたが、とても穏やかな性質でありイレギュラーズには好意的です。
出会った際には鉄屑ブーゲンビリアの採取を手伝ってくれるでしょう。
●同行NPC:ティト
戦闘能力は余りに乏しい赤い髪の鉄帝人の少年。とっても可愛らしい男の子です。
幼馴染でラド・バウ闘士になる女の子ルフィナに片思いをしていますが、本人は無自覚です。
遠く離れたスチールグラードへ行く彼女を応援するために花の採取に訪れました。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。エリスと協力する事で不明点は少なくなるでしょう。
それでは、お花探しへ。行ってらっしゃいませ。
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