シナリオ詳細
咲夜祭
完了
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オープニング
●夜桜舞う
灯りが灯された雪洞で飾られた石畳をしゃなりしゃなりと歩く。夜闇に浮かびあがる桜の花は幻想的で儚さと妖しさを織り交ぜ、その美しさが更に際立っていた。
そのまま歩き続けると大鳥居が見えて来た。
潜った瞬間に空気が変わった様に自然と背筋が伸びる。今まで見て来た桜も見事だったが、眼前に聳え立つ一本の桜は気を抜けば呑み込まれそうな程圧巻であった。桜の中心には仲睦まじそうな恋人や夫婦。友人達が桜の枝を渡し合いその手を取って踊っている。美しくも不思議な光景に見惚れていると声をかけられた。
「あら、咲夜祭りは初めてですか」
桜を模した簪を挿した巫女は続ける。
「この神社、並びに国を御守りしてくださってる木花咲耶姫という神様を讃えるお祭りなのですよ。そしてアレは願いを込めた桜の枝を渡し、共に踊ることでその願いが叶うとされているおまじないでございます」
貴方にも女神の加護がありますように。
巫女の差し出した枝を静かに受け取った。
●咲夜祭り
「よう、おはようさん」
境界案内人、朧は片手をあげた。
挨拶を返す貴方に朧は小ぶりな桜の花がついた枝を一本差し出す。
きょとんとする貴方に朧は今度はからからと笑い声をあげる。
「はは、春っぽいだろ。咲夜祭って祭りで貰える千年桜の枝さね」
咲夜祭り。とある世界で春の訪れを祝い花の女神の生誕を祈る祭りである。その国の中央には樹齢千年の桜が堂々と枝を広げ、その桜を中心に街が広がっているそうだ。
「今回はそこの神社で行われる祭りに行ってもらうんだが、ちょっとした伝説があってな?」
なんでもその国では特別なまじないをかけた桜の枝を相手に渡し、共に踊ることで結ばれるという伝説があるらしい。
その説明を聞き、ぎょっと朧を見上げた貴方に朧は今度は楽しげに面布を揺らした。
「なあに、恋愛って意味だけじゃないさね。ずっと友達でいられます様にとか、お前さんに幸せが訪れます様にとか。いろんな意味があるんだぜ。俺からは、お前さんに良いことがあります様に――って意味さね」
そんじゃ、いってきなねと。
朧は貴方を送り出した。
- 咲夜祭完了
- NM名白
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年04月15日 21時05分
- 章数1章
- 総採用数13人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
賑やかな祭囃子が流れ、人々が賑やかに話す屋台が並ぶ道をアンナ・シャルロット・ミルフィールとトリーネ=セイントバードはともに歩いていた。いや、正しくはトリーネがアンナの頭の上に乗ってアンナが歩いているというのが正しい。
ちらほらと行き交う通行人がすれ違いざまに頭上の鶏へ視線を送っている。
羞恥で叫びたくなるのをぐっと堪え、アンナは拳を握りしめる。そんな彼女の気苦労もいざしらず、トリーネはぷりぷりと怒っている様であった。
「酷いわアンナちゃん! 私は桜の木に行きたかったのに!」
羽をばさばさと羽搏かせ頭上から降る羽毛を目で追いながら、アンナはトリーネの抗議に溜息交じりに返す。
「……酷いわと言われても、あなた絶対木に登るつもりだったでしょう? 異世界でそんなしょうもない事で怒られるのは嫌よ」
「え? 登る? 当たり前よ! そんな綺麗な気があったら登ってこけー! って鳴かずにいられないわ!」
あまりにも堂々とした答えにアンナはもう一度大きく溜息を吐いた。あら、溜息を吐いたら幸せが逃げちゃうわよ! という声は無視をしてアンナは切り出す。
「それよりとりあえず何か食べましょうか。和菓子が多いのですって」
「和菓子! じゃああの桜餅っていうのが食べたいわ! もちもちしてそう。もっちもっち!」
トリーネが翼で一つの屋台を指す。
淡い桜色をした餅が緑の葉で包まれ、ふわりと甘い香りを漂わせながら綺麗に並べられていた。
「桜餅ね。確かに美味しそう」
「ええ! ええ! きっとおいしいわ! ……はっ!」
うんうんと頷いていたトリーネにぴきーんと天啓が降りてきた。
「閃いたわ! 大きいのを私に乗せたら紅白饅頭よ!」
暫しの沈黙の後アンナはかれこれ三度目の溜息を吐く。
「……あなた位の大きさの餅って縁日にあると思えないし、歩くのは私なのだけど?」
「探しにいきましょう! まだ見ぬビッグ桜餅を探して!」
「待って。話を聞いて。痛いから髪の毛引っ張らないで……!」
「無いなら作ってもらう! 職人さんが私を呼んでいるわ!」
トリーネは約五十センチメートルはある。それが乗っかることが出来るサイズの桜餅等置いてある筈がないのだが、スイッチが入ったトリーネはふんすふんすと鼻息を荒くし、アンナの髪を引っ張った。
無遠慮な痛みにアンナは目尻に涙を浮かべながらもひとまず先ほどの桜餅の屋台を指さした。
「探すにしても普通の桜餅を食べてから探しましょう。お腹が空いたわ。」
「あ、それもそうね。おじさんお一つくださいな」
「あいよ、二つだね……鶏……?」
桜餅の包みを渡しながらアンナの頭上を凝視する主人に一つ咳ばらいをし、アンナは包みを受けとった。少し離れた場所の赤椅子に腰かけ包みを開く。
「もぐもぐ。うーん、でりしゃす」
嘴で器用に食べるトリーネを横目に、巨大桜餅を忘れさせるべくアンナは次の桜菓子の屋台を探すのであった。
成否
成功
第1章 第2節
「ふむ、鬼共を世に蔓延らせた神など信用したことがないが、まあよかろう」
源 頼々は艶やかな紅を孕んだ黒髪を揺らし、ふと頭上の桜の枝を見上げた。
「桜の枝を贈るような相手もおらんしな。ひとつ御籤でも引くか」
ここに青い翼の弟子がいればまた違ったのだろうが、生憎今日は同行していない。
「わぁ、きれいな桜……! 素敵なお祭りもあるものですね~!」
空中から絶景を楽しみながらユーリエ・シュトラールは感嘆の声をあげる。
お供の蝙蝠も嬉しそうにすりすりと頬をユーリエへ寄せていた。
「さっそく参拝しにいって……あっ、飛び出しちゃダメ……!」
美しい景色の中にご機嫌で飛び出した蝙蝠にユーリエの制止も間に合わず――。
「きゅっ!」
「ぐっ!?」
偶々神社へ訪れようとしていた頼々の顔面に激突した。
「なんだ……!? 蝙蝠?」
痛む顔を抑えつつ頼々は蝙蝠を摘まみ上げた。
蝙蝠はぐるぐると目を回し、その周囲を星が散っていた。
「ご、ごめんなさい! お怪我は無かったですか?」
「問題ない」
頭を何度も上げ下げするユーリエを制しながら頼々は蝙蝠をユーリエの掌に返してやった。鬼以外には優しいのである。鬼以外には……吸血『鬼』はセーフだろう。
「あの、せめてお詫びさせてください……そうだ、和菓子などはお好きですか?」
「本当に気にしていないのだが……そうだな、そこまで言うのであれば。だがその前に神社への参拝と御籤を引いておきたい」
「私達と同じですね! 是非ご一緒させてください。差し支えなければお名前をお伺いしても?」
「頼々。源頼々だ。」
「頼々さんですね、私はユーリエ・シュトラールと申します」
「ユーリエ殿か。宜しく頼む」
「はい、こちらこそ!」
年齢も近い二人はすんなりと打ち解け、参拝客の列の最後尾へと並んだ。
他愛ない話をしているとわりとすぐに順番が回ってきた様で、二人はそれぞれ神へ願う。
(今年がより良い年になるようにお願いします)
(神よ、もし実在するなら鬼共をなんとかしろ! 貴様らが産んだのであろう? こう、なんかいい感じに滅ぼせんか?)
正しく言えば一人はわりと理不尽な注文であった。
昨今のコンプライアンス的に無理ですね――。
なんか頼々にだけ聞こえた気がした。
「無理? 神とは無力であるな……」
「?」
さて、無事に参拝(?)を済ませた二人は桜御籤を受け取った。
桜の蕾が二人の手の中で花開く。結果を見たユーリエは花が綻んだような笑みを浮かべる。
「わぁ、大吉です! 頼々さん!」
「ふむ……せっかくならワレも満開の運勢を引き当てたいが……」
開いた花弁の中心に目を向けると達筆な『凶』の文字が。
「はぁ?! 凶!? FBか! FBが悪いのであるか! ……はぁ、ワレ、こういうくじ引きの類は本当に運がないな……」
大きく溜息を吐いた頼々にユーリエはとりあえずあそこの桜団子をご馳走しようと固く決意するのであった。
成否
成功
第1章 第3節
「きれいな花だね。すぐ散っちゃうんだっけ。もったいないけどそれがいいのかな」
境内の片隅に置かれた長椅子に腰かけ、セリア=ファンベルはひらひらと上から舞い降りた桜の花弁を掬い上げた。
桜というのは春を告げる花としてあまりにも有名だが、雨に打たれれば地面へ落ち、四月の末には殆ど散ってしまう。
ふっと息を吹きかければ再度舞い上がるその軽さは儚くも美しくセリアは目を細めた。
ふと、社の方に目を遣れば桜の簪を付けた巫女が神楽を舞っていた。
舞に合わせて鈴の音が境内に静かに響いている。
「踊るのも苦手だし、お参りだけしていこうかな」
本坪鈴へと続く石畳を歩く。
よく見ると両端には桜の花弁が積もり無機質な灰色に色を添えていた。
孤独に生きてきた彼女には正しい参拝方法はわからない。
生きることに必死で、物心つく頃にはそんなことを教えてくれる家族はもう居なかった。
だが周囲の人の様子から察し、見よう見まねで手を合わせ瞳を閉じる。
(ただ平穏でありますように)
たったそれだけの願い。祈り。
だがそれがどれだけ大切で尊いことか、セリアはよくわかっていた。
けして当たり前ではないのだ。笑って、明日を迎えられたらそれで十分だ。
暫くの沈黙の後にセリアは目を開けた。
「そうだ。桜御籤ってあったよね」
せっかく来たのならばとセリアは桜の蕾を模した神籤を引く。
春の訪れを告げるかの様に一人でに開いた、その運勢は――。
成否
成功
第1章 第4節
境内に現れた豪奢な白無垢を纏った花嫁に周囲は神前式でもあったのだろうかとざわついている。それにしては真っ赤な番傘も花嫁行列もないけれど。
もしかしたら神様のお嫁様かも、いや咲耶様の化身かも。
さぞ位の高い方なのだろうなぁ。
一挙一動、所作の一つ一つの美しさから彼女の気品が漂っている。
だが彼女の美しさを讃える声は当の花嫁には聞こえていない。
「この澄恋、プロ花嫁の道を極めすぎて相応しいお相手がなかなか見つからず
本来なら参拝では「運命の人と出会えますように」と願かけしているのですが……コホン」
聞き耳を立てている者がいないかチェックし、澄恋は小声で願った。
「だいえっとが成功しますように……」
それは全乙女の切実な祈り。
時代が移ろい、価値観が変わりゆく中でも変わることのない願い――。
「ち、違うのです、正月のおせちとかぐらおくろーねのちょことかが美味しくて…少しだけお腹周りがましゅまろわがままぼでぃになっちゃっただけで決して太ってなど……! なかなか願いを叶えてくれない神様のことを考慮し比較的低難易度の願かけにしてあげたっていうか……うぐぐ、夏までに愛の炎でかろりーばーにんぐして相手のはーとをきゃっちしたいのです! 有り金全部お賽銭箱にぶち込み申し上げますから神様なんとかしてくださいな!」
なんとここまでノンブレス。
澄恋の情熱(圧力)により今後素敵な出会いがある――かもしれない。
成否
成功
第1章 第5節
「今日は小言はなしでお願いね。だってデートなんだし」
ふわりふわりと透き通るような白髪を翻し愛しい人を振り返る冬宮・寒櫻院・睦月。大好きな人とのデートなのだ。心弾まない訳がない。
「カンちゃん、あまりはしゃがないようにね」
睦月の様子を柔和な笑みを浮かべ秋宮・史之は見守っていた。
睦月の足元を彩る春色のフェミニンなデザインのパンプスはいつも履いている靴よりもほんのちょっぴりヒールが高い。だからだろうか、石畳に脚を取られてしまった。
「わっ」
「おっと危ない」
咄嗟に史之は睦月を腕の中に抱き留める。とくとくと心臓の鼓動が睦月の心臓も高鳴らせる。抱きしめてもらえたことが彼の特別になれたのだと再度実感できたような気がした。
「もう、ちゃんと前を見て歩いて、カンちゃん」
「ええ、こんなにきれいな社殿なのに眺めて歩かないなんてもったいないよ」
拗ねた子供の様にぷくっと頬を膨らませるのが可愛くてつい史之は吹き出してしまった。笑わないでよと小さな睦月の抗議にごめんごめんと軽く謝り、史之はそっと手を差し出した。意図が掴めず史之の顔と差し出された手を睦月が何度も見比べていると、やや強引に手が絡めとられる。俗にいう恋人繋ぎである。
(婚約者だしね。これくらい普通だよね……うん、ふつうふつう……)
「どうしたの、今日のしーちゃんは大サービスだね。普段そんなことしてくれないくせに。桜の魔法かな……しーちゃん顔真っ赤だよ?」
「……あんまり顔見ないでカンちゃん」
そう、婚約者。改めて実感すると気恥しく史之は思わず顔を覆う。
隠せなかった耳は真っ赤に染まっていた。
「ね、しーちゃん」
「何? カンちゃん」
「大好きだよ」
せっかく落ち着いてきたというのに、自分を見上げる赤い瞳が幸せそうに細められ愛の言葉を囁くものだから、史之はまた顔を隠さなくてはならなかった。
二人で手を繋いだまま賽銭箱の前へ。空いている手で小銭を投げ込み一瞬だけ手を離す。時間にして数分程度だが僅かに手に残った温もりが名残惜しい。
(俺とカンちゃんがいつまでも仲良く暮らせますように)
つい小言を言ってしまうのは嫌いだからじゃなくて良く相手を見ているから。ただ、心配なだけだから。
(カンちゃんはけっこう無鉄砲だからさ、自分から危険に飛び込んでいくところがあるから……)
だからずっと隣に笑っていてほしい。仲良く笑い合って生きていきたい。
それが史之の願いであった。
真剣そのものな横顔を睦月は見つめていた。
(しーちゃんは何を祈ってるのかな。こういうのって聞いちゃいけないんだけど)
「しーちゃん」
「うん?」
「僕はしーちゃんといつまでも一緒に居られますようにってお願いしたよ」
僅かに目を見開いた後に史之は嬉しそうにはにかんだ。
「それじゃおみくじ引きに行こうよ」
「うん、きれいな細工だね。本物の花みたいだ」
良い結果でも悪い結果でも、きっと今日はいい一日だ。
成否
成功
第1章 第6節
「朧さんとずっと一緒に居られるおまじない! やれたら素敵ですねー!」
「お前さんくらいだぜ、そんなこというの」
ラビア・マーレ・ラクテアは朧を誘い咲夜祭へとやってきた。
「特別な桜を渡して一緒に踊ると、ずっと一緒に居られるのですか?」
「ああ、そういうのもありだな」
「とっても素敵ですね!! ああ、でも私ではもしかしたら背丈合わない気もしますが……確か踊るのって背丈が低すぎると踊りにくいとか」
「今回は舞だから大丈夫じゃねぇか?」
「まい……まい?」
こてんと首をかしげるラビアの様が可笑しく、朧は喉の奥で笑う。
「むむ、でもでも! 一緒に踊りたいから頑張りますよー! いっぱい練習して朧さんに華麗に『シャルウィーダンス?』って言ってみせますー!」
「いや、だからそれは舞じゃ……見ていて本当に愉しいお人だねえ」
早速踊りの練習を始めたラビアだが、虚弱体質故にすぐに息が上がってしまう。
「……あれ? なんか……踊りって……ちゅらいでしゅね?」
「おっと」
ふらふらとし始めたラビアの腰に手を回し支えてやりながら朧は近くの長椅子まで彼女を連れていった。
「気持ちは嬉しいが無理はいけねぇな」
「うう……桜、桜を朧さんに……特別な桜を……」
座らせた傍から桜を取りに行こうとするので宥めて再度座らせる。
「少し休んだら一緒に取りに行こうな。俺も桜も逃げやしねえからよ」
ほんの僅かに笑った口元が透けて見えたような気がした。
成否
成功
第1章 第7節
「さて、ここに辿り着いて尚、神聖だと感じもしない己が不信心を解いたらば、春の陽気が死人の体温ほどに下がりそうだ」
淡い桃色の雪洞に横顔を照らされ、風に舞い上がる桜の花弁を饗世 日澄は優しくつまみ上げる。剣士のように凛々しい蒼の眼差しで儚げな花弁を見つめた後、引き下げていた口角を引き上げて、今度はカラカラ笑いだす。
「ま、そもそも、この雰囲気に水を注すだなんて風情のないことしやしねえさ。いつもと違って、神誓って」
いなせな江戸っ子の様に鼻の下を擽って今度はクルリと一回転。
嫋やかに服の袖を摘まんでそのまま口元を覆い隠す。
「そう! 本日のわっちは超絶淑やかなので、黙って神籤を引くという参拝ムーブをこなすでありんす」
吉原を練り歩く花魁の様に艶やかに空に舞い上がった花弁を目線で追って、細めていた目をいったん閉じてぱっちり開く。
「それにしたって、花孕む枝を見上げる誰彼の咲う声を聞いて、無防備にも目を閉じ祈る人々の表情を覗き込めるなんてすっごく素敵だわ! 何にもしないけど!」
宛ら詩歌に夢見る乙女の様に頬に朱が差し日澄の周りに花が咲く。
歯を見せて笑っていた乙女は今度は真一文字に唇結んで己の足元を見遣る。
「この桜という花もいい。落ちた薄紅の花びらがいつまでも蜜でベタベタと張り付いているのが、未練がましくて美しいことこの上ない」
僅かに上がった口角。その微笑みは桜の下で眠る幽鬼の如く美しかった。
成否
成功
第1章 第8節
「おみくじで大凶を引くなんて生まれて初めてだよ」
「まさか御神籤がふたりまとめて大凶だなんて思わなかったね」
秋宮・史之と冬宮・寒櫻院・睦月は先ほ引いた桜御籤の『大凶』の文字を思い返し苦く笑っていた。まさかこんなことで二人お揃いになるなんて。
「これでも神様のなりそこないだったのに……あ、でも大凶を引いたってことは、僕は普通の人になれたってことだね」
「ある意味いい思い出になったかな」
書かれていた運勢とは裏腹に綻ぶ睦月の表情は明るい。
そう思うと、大凶でも存外悪くはないなと史之は思った。
「厄払いも済ませたし次は千年桜を見に行こうか」
「うん」
手を絡めて、二人は千年桜の元へと脚を進めていった。
「ふわ~、なんてきれいなんだろう」
「……」
絶景、とは。こういう光景の事を云うのだろうか。
空を覆ってしまう広げられた枝に千年この地を守り続けてきた太い幹に巡り張らされた根。そして満開に咲き誇る桜花。
花の隙間からは光が差し込みきらりと輝く花弁が頬を撫でる。
余りの美しさに史之は言葉を忘れていた。
愛刀を片手に戦いに身を投じていた日々。
目を背けたくなるほどの戦いも何度も繰り返した。
そんな日々に花を愛でる心を忘れてしまいそうだったけれど。
「うん、元気をもらった気分だよ」
「良かったねぇ、しーちゃん。僕も見とれちゃいそう。ふふっ、でも乙女の恋心はこんなのじゃ揺らがないんだから」
悪戯っぽくくすくすと笑って睦月は手にした桜の枝を史之へと差し出した。
「はい、しーちゃん」
「え、桜の枝? 俺に? うれしいけれど……何そのなにか企んでる顔」
ちゅ、と手にした桜の枝に口づけて睦月は史之へとおねだりをする。
「ちゅーして」
「ダメだよ」
「ダメなの?」
「カンちゃんが18になるまでは清い付き合いだって決めてるんだから」
「ええ、またそれ……。17も18も変わらないよ。ねえ、ちゅーして!」
「ダメです」
即答されむすぅと膨れてしまった睦月に若干罪悪感を覚えつつ、ぐっと揺らいでしまいそうになる男心に鞭を打って絆されそうになるのを耐える。
この誓いだけは破れないのだ、絶対に。
「じゃあこの枝で返礼。そうだねカンちゃんの無病息災を祈ろうか」
「むびょうそくさい……」
態度を変えない史之をじっとり恨めし気に見つめた後、漸く観念したのか睦月はやや大袈裟に溜息を吐いて、してくれないならせめて僕と踊ってよ、と。
手をとってダンスのお誘いを。
「社交ダンスは踊れる? ?ああ、無理か。ワルツはどう? 基本のステップは僕が教えるから」
「舞ならいくつか覚えているけれど……ワルツはどうだったかな? 3拍子だっけ」
足を踏んだらごめんねと申し訳なさそうな史之の手を絡めて音楽に合わせステップを睦月は踏む。
一緒に踊ってよ、未来の旦那様。
「――ご主人さまは、僕だけどね」
世界で一番大切なあなたへ
どうかこれからもずっと一緒に居てね。
成否
成功
第1章 第9節
「これは見事な桜の花だ。見ているだけで生命力が満ち溢れていくような気がするな」
「綺麗ね!」
右腕に抱いた愛おしい妻、章姫と共に黒影 鬼灯は千本桜を見上げた。
章姫の金糸についた花弁をそっと指でとってやれば擽ったそうに、もっと撫でてと言わんばかりに掌に頬を摺り寄せて甘えてくるのが愛くるしい。
鬼灯の目元が緩むのを見て章姫は地上へ降ろしてくれと強請る。
少し残念がる鬼灯だったが、愛しい妻のお願いを断れる筈もなくそっとその小さな靴を地面に降ろした。
途端に目の前にずいと差し出される小ぶりな桜の枝。
「はい! 鬼灯くん!」
春の日差しを思わせる満面の笑みにああ、そういえばと鬼灯は思い出す。
此処では想いを込めた桜の枝を贈り踊ると願いが叶うのだったか。
片膝を着いて細い枝を折ってしまわぬ様に慎重に受け取る。
「鬼灯くんといつまでも一緒に居られます様に!」
(……ああ、やはり貴殿は俺のお日様だ。光で、希望だよ)
常に影で、闇の自分を照らしてくれる穢れなき太陽であり伴侶。
その小さな掌を手に取って、布越しの口づけを。
絵本が好きな彼女の為に今日だけは忍じゃなくて王子様になろう。
「永久に共に、章殿と在れます様に」
「まぁ、嬉しい!」
影の忍、黒衣に過ぎたる願いとわかっていても。やはり貴殿と、章殿と此処から先の道を歩んでいきたいのだ。
互いに一歩足を引いて一礼を。
さぁ、踊ろうか。
成否
成功
NMコメント
はじめましての方ははじめまして。
そうでない方は今回もよろしくお願い致します。
ノベルマスターの白です。
今回は異世界のお祭りに参加していただきます。カップルでもお友達でもグループでもお一人でも、お気軽にお越しください。
グループ名の際はタグを、お連れさまがいる場合はお相手さまの名前をお願いいたします。
今回のラリーは一章構成を予定しておりますが何度でも参加して頂いて大丈夫です。
●全体目標
咲夜祭りを楽しむ。
●行ける場所
①咲夜神社
神社に参拝することができます。
桜御籤という桜の花の御神籤も引けますよ。
②千年桜
中央に聳え立つ巨大な桜です。
この木の下で願いを込めた桜の枝を相手に贈ると願いが叶うという伝説があります。
自分自身へのプレゼントとして送っても良いかもですね。
間違っても登ってはいけませんよ!(怒られます)
③縁日
神社のお祭りには欠かせない縁日を楽しむことができます。桜に託けた和菓子が多い様です。
●サンプルプレイング
プレイングには行く場所、何をしたいかをご記入ください。お相手様がいる場合はタグor相手のID、お名前をお願い致します。
なおおひとり様の場合他の方と絡みが発生することがありますのでNGの場合のみ絡みNGとご記載をお願い致します。
●NPC
朧
リプレイには基本的に登場しませんがご指名があればホイホイついていきます。ちなみに桜は結構好きらしいですよ。
②
そうさね……折角なんだ。俺も桜の枝を彼奴らにやるとするかね。なあに、いつも依頼に行ってくれてるお礼みたいなもんさね。
お前さん達に沢山の幸せが降り注ぎます様に、ちょっとクサイかねぇ……。
こんな感じです。それではいってらっしゃい!
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