PandoraPartyProject

シナリオ詳細

サイレンの鳴る日

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●だれかのゆめ
「****……****どこだ……」
 足音が近づいてくる。僕は物置の奥で身を縮こまらせた。大股で歩き回り自分を探し回っているのは、実の父だ。村長として、神父として、この村を愛し守ってきた父だ。
「どこだ****、どこにいった……」
 鉄錆の臭いがする。執念深く自分を探す足音。それが前を通り過ぎていく。僕は内心安堵し、次の瞬間凍りついた。
「なぁんだここにいたのかぁ……」
 顔の半ばまでが赤黒いゲル状化してしまった父が自分をのぞき込んでいた。父は笑顔だったように思う。

●ローレットにて
「あの、あなたを見込んでお願いがあるんですが」
 ローレットでくつろいでいたあなたへ、少年が話しかけてきた。14かそこらのカオスシードに見える。少しおどおどしたところのある、内向的な雰囲気の少年だった。快活さはないが、代わりに聡明そうではある。
「申し遅れました。ベネラーと言います。お願いというのは僕の代わりに、ペトルという村へ行ってほしいんです」
『孤児院最年長』ベネラー (p3n000140)は自分が天義の辺境、ペトル村の出身だという事、そこから今の幻想の孤児院へ引き取られたという事、かつてはその身にビースチャンムースというスライム化する呪いを背負っていたこと、それをイレギュラーズに救われたこと、などなどを簡単に話した。そして丁寧に畳まれた一枚の紙切れを取り出した。
 手帳の切れ端だ。開いてみるとアドレス帳の一部だということがわかる。そこに載っている住所をもとに孤児院までやってきたのだろう。
「これが誰のものか僕には覚えがありません。じつはその、お恥ずかしながら僕は記憶喪失というやつで……孤児院へ来る前のことがあいまいなんです。だけどこれがあったから僕は生き延びることができた。だからその人へお礼を言いたい。故郷へ帰れば手がかりがある筈だと思ったのですが、どうしてだか院長のシスターが許可をくれなくて……」
 それで代わりに行ってくれる誰かを探しているわけだ。あなたは納得し、話を聞く姿勢になった。

●地図から消えた村
 荒野の真ん中にあるのは、村とも呼べない集落だった。
 農業と酪農で細々と暮らしていたのだろう。だがしかしいまは人っ子一人いない。枯れた井戸が放置されてからの長い年月を物語っていた。
 哀れにも廃棄された集落。それは辺境において珍しいものではない。食い詰めたか、魔物の襲撃に合ったか、自然の猛威に晒されたか。理由は多々あれど、生まれ育った土地を捨てること自体は珍しいことではない。ここ天義においても、そんな村はいくつもあった。いや、中央がいまだ魔種からの爪痕から復興しきれず、アドラステイアなる不穏な都市を生んでしまうほど落ちぶれかけた国ならばなおのこと。
 中に入ってみれば、石造りの建物はすべてどこか砕けて壊れている。火事があったのだろうか。煤けた痕がかろうじて残っていた。
 丸まった枯草が風に吹かれて吹き飛んでいく。
 かすれて読めない看板が、冷たい風にさらされて震えている。村人たちが憩いの場に使っていたバーだろうか。
 静寂に覆われ、世界から切り離されたような場所。建物はほとんどが破壊の憂き目にあっていた。けれども奇妙なことに石壁は外からではなく内側から打ち壊された痕がある。
 奇跡的に姿をとどめているのが教会だ。神が守り給うたのか、それともただの偶然か、他の建物に比べて損傷が少ない。
 何かがその影から草むらへ走った。鼠だ。見た目こそ鼠なのだが奇妙に赤黒くつやつやしている。まるでゲル状物体に覆われているかのように。
 痩せた犬がよろよろと歩いている。いや犬ではない、やはり赤黒く、胸のあたりで丸いコアがどくどくと鼓動を打っている。その犬の形をしたなにかは枯れた草むらへ鼻を突っ込むと、先ほどの鼠を探り出し丸呑みにした。
 それではちっとも腹が膨れないのか。犬らしきものは不満げに遠吠えした。孤独な声は風にさらわれて消えていく。砂ぼこりが起きた。一枚外套を脱がされた大地からは乾ききった白骨がのぞいていた。

GMコメント

みどりです。たまにはこういうのもいいかなと思って。

やること
1)村を探索してベネラーの恩人の手がかりを見つける


●エネミー
ビースチャンムース・鼠
集落のあちこちに隠れており奇襲される恐れがあります
といっても攻撃力・HPともにしょぼいです
毒・麻痺系の
BSを持ちます

ビースチャンムース・犬
集落を歩き回っている野良犬もどきです
攻撃力もHPもほどほどにあります
また遠吠えで仲間を呼ぶようです

????・???
??です

●戦場
薄曇りの荒れた集落です
元は農村であったようです
遮蔽物だらけで、足場も悪く命中・回避に軽度のペナルティがかかります

●その他
依頼人 ベネラー
幻想の名もなき孤児院に住まう最年長の少年 あなたの帰りを待っています
その身にビースチャンムースの呪いを宿したまま孤児院へ来てしまったため一時期大惨事に(1分30秒の狭間~孤児院・読む必要はありません)
事態を解決してくれたローレットに深い感謝の念を抱いています
ただ誰かさんいわく「よくない影が視えるよ」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • サイレンの鳴る日完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月18日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
金色のいとし子
ハロルド(p3p004465)
聖断刃
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
子供達のお姉ちゃん
シュテルン(p3p006791)
こころの花唄
ルチア・アフラニア(p3p006865)
「Concordia」船長
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
不退転
グリーフ・ロス(p3p008615)
白き不撓

リプレイ


「ベネラー」
「はい」
『闘技戦姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は申し訳無さそうにかがんで少年と目を合わせた。
「貴方を診察させてほしい。念の為なの、すこし我慢して、ね?」
「かまいませんよ」
 ベネラーの微笑にはイレギュラーズへの全幅の信頼があった。ミルヴィはそれを受け、大きく口を開けて少年の肩へかぶりつくように音を吐いた。体内で反響した音を受け取り、頭の中の医療知識と重ね合わせる。
「特におかしな点はないわね」
「そうでも、ない」
『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がぼそりとつぶやいた。
「胸のあたりに、違和感はない、か?」
「胸ですか?」
 ベネラーは自分の胸に手を当て、首を傾げた。
「いえ、特には」
「そうか……いや、なんでも、ない」
 そのまま部屋を出ていったエクスマリアを、ミルヴィは追いかけた。
「なんだっていうのサ」
「心臓の温度が、やけに、低い」
「心臓?」
「何を、意味するのか、マリアには、わから、ない。だから本人には、伏せて、おく」
「そう……今はそれがいいかもね」

「よくない影がなんなのか突き止めたかったんだけど」
 外へ出たイレギュラーズへ、孤児院の子どもたちが思い思いに手を振っている。ミルヴィはそれへ手を振りかえし、冒険への一歩を踏み出した。
「呪い、ですからね。医術ではどうにもできないものですね」
『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)が言葉を継ぐ。
「治すことができないのは私も歯がゆい。せめて彼の願いに寄り添うことにいたしましょう」
「そうね。クソ親父が前に関わった事件……。必ずベネラーの恩人の手がかりと、この悪夢を終結させるヒントを持って帰る!」
 いきごむミルヴィに、『こころの花唄』シュテルン(p3p006791)も両の拳をギュッと握った。
「んん…シュテ、力なる、よ…。いっしょーけんめい、頑張る、するっ! ベネラー、恩人、探したい、手伝う、するっ!」
 懸命に言葉を探し、連ねる。その思いは誰にも負けないほど真剣だ。苦しむのはいつも子どもたちだから。それをシュテルンはしっている。
(お父様のいけないこと…シュテ、見つける、出来なかった、だけど…。シュテ、暗い暗い、あの場所、ままだったら、これも、思うする、なかった…なの、かな…)
 対して『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)は一歩距離を取っていた。依頼は依頼、そんな態度だ。
「歩きまわって探しては見るけれど、私にはその手の探索の心得があるわけではないから、あまり期待しないで頂戴ね、とは」
「そうだねえ。朽ちた村らしいし、手がかり、残ってるかなあ……。難しそうだけど、恩人ならそういう気分になっても仕方がないか。力になってあげたいな」
『不退転』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)が腰の剣へ手をかける。まだ幼い整った顔立ちをしかめ、そっと孤児院を振り向いた。
(でも、よくない影って……一体……? ……とにかく、気をつけて行かないと、……なのかな)
 背筋を寒いものが降りていき、シャルティエはぶるりと体をふるわせた。
「記憶喪失、か。ただの事故か、あるいは、忘れたくなるほどのことが、あったかもしれない、な」
 エクスマリアは遠目にベネラーを見やりながらつぶやく。
「引き受けた以上は、全うするのみ、だが」
 ダークゴールドの髪がうなずくように揺れた。

 ペトル村へついたイレギュラーズは、その荒れっぷりに唖然とした。
「これは……廃村なんてレベルじゃないぞ。ずいぶん時間がたっているようだな」
『聖断刃』ハロルド(p3p004465)がうなる。一歩足をすすめると、赤黒いネズミが飛び出した。ハロルドはそれを手づかみで捕まえ、コアの位置を探る。胸のあたりに、どくりどくりと脈打っているものがある。よくよく見ればそこには小さく丸まったネズミが居る。
「外見特徴は報告書通りだが、1分30秒で自壊する様子はない。おなじに見えるが種類が違うのか? どうなっているんだ」
「ふふふ、怪異の潜む廃村での探索。雰囲気はとてもいいですね。果たして何が出てくるのやら。不謹慎ですが、少し楽しみでもあります」
『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は鈴を転がすような音で笑った。
「石づくりの建物が多くてよかったですね。これが木や藁でしたらとうの昔に風化していたでしょうに」
「そうですね……」
 グリーフがパンパンと手を叩く。保護結界の展開の合図だ。ついでにルーンシールドをはりめぐらせる。
 ハロルドは舌打ちしながらネズミを握りつぶした。どろりと不快な感覚が利き手を濡らす。コアを破ってみると、なかにいるネズミはまだ息があった。ぶるぶると頭を振って水気を飛ばすと、ネズミ本来の俊敏さでハロルドの手の中から抜け出した。そして物陰へ隠れようとしたとたん、赤黒い粘液に襲われピイと悲鳴を上げた。次の瞬間には、ネズミはコアへ収まり、元通りのビースチャンムースとなって、のたのたと動き回り物陰へ消えた。
「この村にはビースチャンムース以外の生物はいないのか」
「そうかもしれませんねえ」
 四音がゆっくりと答える。
「そして彼らも私たちを求めているようですね」
 ふらりと犬が、犬らしき赤黒いものが現れた。瓦礫の隙間からじうじうと鳴き声がいくつも重なって聞こえる。
「彼らに身を任せたらどうなってしまうのでしょう。すてきなことになると思いません?」
「い、いや。さすがにごめんこうむるよ」
 四音の言葉に、警戒にあたっていたシャルティエが剣を振りかざす。
 犬が遠吠えをあげた。仲間を呼んでいる。現れたのはやはり犬の姿をもした何か。しかし首が2つあるもの、腰から下が形をなしてないもの、見た目だけはバリエーションに富んでいる。それらが敵意を剥き出しにしてぞくぞくと集まりだした。瓦礫を跳ね上げて、ネズミの群れが襲いかかってきた。
「いくよっ!」
 別人のようにするどい殺気を身にまとい、シャルティエがネズミの群れに肉薄する。ブロッキングバッシュで弾かれたネズミが空中で風船のように割れた。撒き散らされる汚濁、そのひとしずくがシャルティエの顔面に飛び、彼はいやそうに拳で頬をこすった。ぬるついた感触が不快だ。鎧を駆け上ったネズミが隙間から入り込む。
「あづっ!」
 火に焼けた棒を押し当てられるような感触。しかしすぐにルチアのミリアドハーモニクスが痛みを癒やした。内側へ入り込んだネズミをつかみだし、シャルティエは思いっきり地面へ叩きつけた。はぜ割れるネズミ。しかしてネズミはまだ何匹もいる。
 そこへカッと白い雷が落ちてきた。四音の神気閃光だと気づいたシャルティエはあえて動かずネズミを引き寄せる。
「皆さんの命を癒し、守るのが私の指名。安心して戦ってくださいね。軽度の毒や麻痺くらいでしたら、直ぐに快調にしてみせますよ」
 それに、と四音は続ける。
「期待して待っている方のためにも、たくさん見つけて帰りたいですね。そのためにも、邪魔者はしっかり排除しませんとね? ……ふふふふ」
「遊びじゃないんだぞ?」
 ハロルドが無月秋水と聖剣リーゼロットを打ち合わせる。硬い音が響き、結界が展開されていく。それに絡め取られた犬どもがいっせいにハロルドへと押し寄せた。
「わんわん、と…チューチュー? 倒す、皆、頑張っ…て…!」
 シュテルンが放ったライフアクセラレーションの光がハロルドを包み込む。
「シュテも、頑張る…から…! 絶対、絶対、負けない…で!」
「おうさ!」
 聖剣の輝きは今日も美しい。エクスマリアはわずかにそれへ見とれ、いかんと頭を振った。長い髪へ白い蝶を宿し、光翼乱破でハロルドにかみつく犬どもを蹴散らす。つぎつぎと汚れた液体へ変わっていくビースチャンムース、ミルヴィはその中の一匹へロザ・ムーナを放つ。
「こんなところで足止め食ってられないのよ!」
「まったくです」
 グリーフが静かに言った。ネズミの群れは半数を失い、物陰へ逃げ帰っていくところだった。
 一行は探索を再開した。

 村の中を浅く探索した一行は、村の真ん中の井戸へたどりついた。
「よいしょっと」
 ミルヴィが簡易飛行を用い井戸の奥へゆっくりと降りていく。腐った土の匂いが鼻を突いた。井戸の底へ降りると、しめった土が靴にまとわりついた。枯れた井戸だ。もうここに生命の源である水はない。壁面を見ると、水道に使われていたのだろう穴がポッカリと空いている。調べてみたが特に気になる点はなかった。けれど……。
 井戸の底から出てきたミルヴィの手を、グリーフがそっと握る。ミルヴィはなにか考え込んでいるようだ。
「ねえ」
「はい?」
「井戸って、そんなに簡単に枯れるものかな」
「原始的な井戸は地下水脈に直結して作られますから……枯れるということはあまりないでしょうね」
 グリーフの発言は、裏返せば地下水脈が変わるほどの時間がたっているという証左でもあった。

 続いて家屋の探索をしていいるうちに、日記が見つかった。棚の奥に隠されていたせいで風化を免れたようだった。エクスマリアはさっそく中身をあらった。
『○月○○日 晴れたので収穫を行う。今年も豊作とは言いづらいが、食い扶持は稼げた。来年の種籾も残せた。大成功とはいいがたいが、まあまあの成果だろう。春には新しい子が生まれる。もっとがんばらなきゃな』
『○月○○日 いい天気だ。藁を編む手も軽くなろうというものだ。せっかくなので子どもたちと一緒に遊ぶことにした。鬼ごっこをしているとついついムキになってしまって、気がつけば夕方だった。女房に怒られると思ったが、逆に子どもたちの面倒を見てくれてありがとうと言われた。俺はいい女房を貰ったもんだ。』
『○月○○日 今日は雨。親子で黙々と藁細工を作る。すこしでも作っておけば行商と交換が……』
 エクスマリアはぱらぱらと日記をめくっていった。たわいもないことばかり書いてある。役に立たないかと思い、ページを繰る髪をとめそうになったが、ついでなので最後まで見ることにした。仲間に一言断り、ページをめくっていく。四季折々のつましいがやさしい暮らしがそこにあった。
(やはり、役にはたたない、か)
 けれども一人の男の家族愛が緊張していたエクスマリアの心を溶かしたのは確かだった。エクスマリアは優しい瞳で続きを読み進め、ぎょっとした。
『助けてくれ。これを見たあんた、かたきを討ってくれ。魔種が呪いを村中へ振りまいた。家族はとっくに魔物になった。俺ももうだめだ。おしまいだ。どうか家族のかたきを(判読不能)』
 エクスマリアは日記の一点をじっと見つめた。「魔種」「呪い」。おそらくはビースチャンムースの呪いだろう。ならばその呪いを振りまいた魔種は、今どこにいるのだ。既に去ったか、それとも……。エクスマリアは不吉な予感に身を震わせ、皆へ注意を促した。

 村中の探索を終えたイレギュラーズは覚悟を決めて教会へ入り込んだ。
 広い講堂が皆を迎えた。
「これ…は…?」
「戦闘の痕、だな」
 シュテルンのつぶやきにエクスマリアが答える。そこここに激しい闘いの跡があり、神の像があるべき場所には、白い柱がたっていた。うっすらと何者かの影が見える。
「これは、塩ですね?」
 四音が近づき、柱のかけらをぺろりと舐める。
「なにか封じられているようですね、なんでしょう。さっきエクスマリアさんが言っていた魔種でしょうか」
「どうだろう、な」
 温度視覚では特に反応がない。エクスマリアはダメ元でリーディングをしかけてみた。同時に目の前が暗くなる。光明のない暗闇だ。そしてとてつもない飢餓感がエクスマリアを襲った。
(これ、は……!)
 エクスマリアはリーディングを急いで切った。だが遅かったようだ。みしりと塩の柱が揺れる。内側からクモの巣状にヒビが入っていく。
「総員、戦闘態勢!」
 エクスマリアは叫ぶなり後ろへ退いて、轟く迅雷の詠唱に入った。黄金の髪が実がなるように球体へ変化し、火花をちらし始める。
 グリーフがヒーラーたちの前に移動した。みるみるうちにひび割れがひどくなり、塩の柱は内側から砕け散った。そこから現れたのはひとりの男だった。端正な顔立ちだが、やつれはて、肩で息をしている。
「どこだ、グドリアスめ、よくも私を封じてくれたな……誰だ貴様らは」
「ふんっ!」
 金とも銀ともつかないきらめきが男を襲った。ハロルドだった。寸でのところでかわされたが、右腕にうっすらと傷跡が入る。
「何者だ!」
「魔種に名乗る名はない!」
 続けてミルヴィが殺人鬼ミリーからの幻影のカデンツァをしかける。
「こいつ弱ってる! いまなら押し切れるよみんな!」
 それを受けてエクスマリアが轟く迅雷を放出した。ごうと眼の前が白くなり、魔種の左足が吹き飛ぶ。シュテルンのヴァイス&ヴァーチュが魔種の顔を殴りぬけ、四音の神気閃光が落雷のようにその身を穿つ。
 黒い血を流しながらその魔種は青い顔に壮絶な怒りを浮かべた。
「呪われろ、どいつもこいつも!」
 魔種が鋭く手をふる。すこし遅れて赤黒い汚濁が振りまかれた。
「……なんのつもりでしょうか?」
 仲間を庇ってその身に受けたグリーフは眉を寄せた。赤黒い粘液はただ不快なだけで、それ以上は何も感じない。
「くっ、魔力が足りないか。貴様らの顔、覚えておくぞ……」
 魔種は粘着質な音をたて、背中にコウモリの翼を形成する。そのまま天井の穴を通って撤退していった。
「すばしっこいやつですね……」
 シャルティエが歯噛みしてぼやく。
 ふと視線を落とすと、乾ききった赤黒い痕が残っていた。
「血? なにかな、なんでしょう」
 一行はその痕をたどっていくことにした。
 痕は講堂のさらに奥、物置に通じていた。赤黒いシミの上に、古い神父服が広がっている。そこで痕は途切れていた。
「『中身』が溶け落ちたみたいだな。犬やネズミなんかの小物は魔物として固定できても人間となると無理ってことなのか?」
 憮然とした表情でハロルドが言った。
「待ってください」
 グリーフがしゃがみこんで神父服の内側を漁る。そこから、一冊の手帳が出てきた。乾いた汚濁ではりついた手帳を、グリーフは慎重にはがしていく。メモ帳を開いた最初のページへ、震える手で書いたであろう文字が並んでいた。

『我が息子ベネラーへ。半端な封印しか施せなかった父を許してほしい。呪いはお前を蝕むだろう。だがどうか希望を失わず強く生きてくれ、父グドリアスより』

 アドレス帳の覧を開くと、ちぎり取られたページがあった。まさか、そう思いながらグリーフはベネラーから預かった手帳の切れ端を取り出す。それはぴったりと重なった。
「まちがいありません……ベネラーさんの恩人は、お父さまです」


 一行は幻想の孤児院への道を急いだ。夜が深まっていく。だがすこしでも早く調査結果をベネラーへ渡したかった。しかしあとすこしで孤児院というところで、道を塞ぐものが現れた。
 シスター服を着た女だった。孤児院の院長だろう。シスターは一行を前にするなり口を開いた。
「調査の成果を渡していただけますか」
「理由を聞かせてください」
 不穏な雰囲気を感じ、グリーフはとっさにそう言った。
「あの子を守るためです」
「なにから?」
「様々なものから」
「そんな漠然とした理由では渡せません」
 そうでしょうねとシスターはうつむいた。その瞳には諦念が浮かんでいた。しかしきっと顔を上げ、半身になる。
「あの子はまだ真実を受け入れられない……。ゆえに私はあの子達を守らねばならないのです。院長として、育ての母として」
「8対1は無謀だと思いますけれども」
 四音が微笑みながらからかった。だがシスターは引く気はないようだった。
「しかたありませんね……」
 夜風がひときわ激しく吹いた。

 10分もたたずにシスターは膝を屈していた。いや、8人のイレギュラーズ相手に10分ももったことのほうが奇跡だろうか。
「シスター、そこを通してもらえますか」
 グリーフの言葉にシスターはゆっくりとうなずいた。
「……私はここまでのようです。あとはあなたがたを信じます」

 孤児院へ入ると、ベネラーは講堂で一行を待っていた。夜はまだすこし冷える。暖炉で薪の爆ぜる音が静寂を強調していた。火の番をしていたその少年は、一行を認めて立ち上がった。
「おつかれさまです。なにか手がかりはありましたか?」
 無垢な期待と、冒険に対するいたわりがにじむ声。
「聞きたいことは山ほどあるんだけど……」
 ミルヴィは手の中の手帳を開いた。そこに記された日付を目の前の少年と見比べる。少年……少年だ。そうとしか見えない。
「ベネラー」
「はい」
「あなた、いったいいくつなの?」
 日付は、20年以上前を指していた。

成否

成功

MVP

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
金色のいとし子

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー。

ベネラーくんは『孤児院最年長』です。

続きは後ほど。

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