シナリオ詳細
ひよとひよこ
オープニング
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幻想に拠点を置くギルド《ローレット》。そこでは多くのイレギュラーズたち、そして彼らをサポートするための情報屋が在籍している。
その中に1匹のひよこがやってきたのは1,2年ほど前だっただろうか? 情報屋になったひよこは自らの不幸体質に苦労しながらも、イレギュラーズたちをサポートするために混沌中を駆けまわっていた。そんなひよこも先月齢をひとつ重ね。そろそろどうにかならないものかと周りも、何より自身が一番思っていた。
――この不幸体質、どうにかならないものか。
「このままじゃ20歳になっても苦労の日々……いやだ、嫌すぎる」
ぜーはーと息を切らした黄色い毛玉――ブラウ(p3n000090)は周囲に誰か近づいていないかと辺りを見回す。少しは休憩できそうか。
ブラウはこの日もまたイレギュラーズへ出す依頼の事前調査を行い、そして魔物に追われていた。非戦闘員である彼からすれば雑魚モンスターであっても十分な脅威であるが、そこは自前の逃げ足でどうにか振り切っていたのである。
しかしこの周囲に住まう魔物は大層しつこいようだ。これではローレットへ変える隙も見いだせない。どうにか策を巡らせようとするのだが、そうしているうちにヤツらはやってくるのである。そう、こう、今聞こえてるドシドシという音を立てて――。
「ひよぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ぴよぉぉぉぉぉぉっ!?」
ドシン、という一際大きな音と共に現れた魔物と、それに追いかけられるブラウとちょっとよく似た黄色いもこもこが飛び出してくる。魔物に捕まってしまう、とブラウはぴょんっと飛び跳ねるなりそのもこもこと同じ方向へと並走し始めた。ついでに、互いの顔を見合わせながら。
「ひよ……?」
「ひよ? えっと、あなたもひよこですよ?」
ブラウがそう返すとひよこが眦を吊り上げる。曰く、自身は『ひよこ』ではなく『ひよ』なのだと。ひよこというのはひよの子供を差すのだそうだ。
ひよについての説明を聞いたブラウは小首を傾げる。ひよ肉、ひよ卵。名称こそ違えど、恐らくそれはこちらでも知られている鶏肉や鶏卵と同じなのだろう。
ひよ湖 ひよ男と名乗ったひよこ、じゃなかったひよと共にブラウは森の中を逃げ惑う。1匹が2匹になったからといって良い案が浮かぶわけもない。残念ながら2匹とも空は飛べないのだ。
「俺、そろそろ、体力尽きそうなんだけど」
「えぇぇっ、頑張ってくださいよ! とりn……ひよ肉になって良いんですか!」
「良いわけねーだろ!」
などと言い合い、何だかんだで互いに互いを鼓舞しながら――さてこの状況、どうしようか。
●
「ブラウが帰って来ないのよ」
「……は?」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)の言葉に『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は思いきり聞き返した。それは日常茶飯事と言うか、何というか。なんだかんだでいつも通り逃げ返ってくるのではないだろうか。
「彼が調査に行った場所、別の依頼が来ていたの。それが中々にバーミリオンなのよ」
ブラウが調査に行った依頼と、舞い込んだという別の依頼の2枚をテーブルへ出したプルー。確かに場所は重なり合っているようだ。
加えて、バーミリオンとプルーが現した依頼は魔物退治である。人だろうと動物だろうと執拗に追い掛け回し喰らわんとする迷惑な魔物を退けて欲しいという近隣からの依頼だ。
「不幸体質のダンデライオン。……何事もなく帰ってくると思う?」
「そのブラウのことなんだが、」
そこへ声をかけてきた『黒猫の』ショウ(p3n000005)はまた別の情報を持ってきたらしい。彼は困ったような表情で「大きなひよこが2匹見かけられたそうだよ」と告げる。
「背格好は大分違ったようだから、ブラウが増えたなんてことではないと思う。似た生物と鉢合わせて一緒に逃げているようだ」
最も、逃げ切れずにひたすら追い掛け回されているようであるが。このままではどちらかの、或いは両方の体力が尽きて魔物にぺろりといかれてしまうだろう。その前に救出しなくては。
「似た生物……ショウ、最近そんなイレギュラーズがいなかったかしら」
ふとプルーが彼へ視線を向ける。ショウはそれを受けて考え込んだ。何しろ特異運命座標は沢山いるし、その中にも人ではない姿の者は多いのだから。
「もしかして……大きいひよさん……?」
もしかしたら――違うかもしれないけれど――同じ世界から召喚されたという、あのひよさんだろうか。そう呟いた祝音・猫乃見・来探(p3p009413)にショウとプルー、2人分の視線が注がれた。
- ひよとひよこ完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月19日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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春の陽気に包まれる森の中、鮮やかな緋の翼が大きく広げられる。
「鳥仲間のピンチだ、今行くぜ!」
高く飛び上がる『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)。鳥仲間でもあり食材適性仲間でもあるブラウを見捨てることなどできるわけがない。
(森の中でくまさんに出会った――ならば、やることは一つ。サーチ・アンド・デストロイ、だ!)
「わたしも、仕方ないので、お助けして差し上げますの!」
もう、と呆れ混じりに『人で言う』腰のあたりへ両手を当てた『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)はカイト、ひよこ、ひよに続く食材適性仲間その4である。あのひよこが食べられかけているところなど珍しくもなくなってきたが、さりとて被捕食者になる恐れは誰より知っているつもりだ。
「今回はひよこさん……が、2匹? 2人? なのね。ええ、任せて頂戴な」
『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)は義足の剣先で地面を軽くつつく。自らの、本物の足ではないけれど。それでも此度の探索には十分役立つであろう。
「ひよって、ひよこじゃないのー? なんなのー??」
『ポストランナー』クォ・ヴァディス(p3p005173)が不思議そうに首を傾げるも、『ひよ』という存在についてこの場で唯一知っている『淡き白糖のシュネーバル』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)の意識は既に彼方、何処かを逃げ回っている大きいひよとひよこたちへ寄せられていた。
(助けに行くから、待ってて……ね)
「ったく心配かけやがって……!」
「早く助けに行かないと、美味しく食べられちゃう!」
『Heavy arms』耀 英司(p3p009524)に続こうとした『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はふと真顔になった。その傍らで彼女の様子に気付かず『トリヤデさんと一緒』ミスト(p3p007442)が奮起する。
「か弱い(?)鳥を食べようとするなんて……絶対阻止しないとね!」
言ってから、ミストもまたふと表情改め視線を落とした。そこにいるのは謎の生物であり、なんだか最近幻想に現れたと言う神翼獣に似た――失礼かなやめておこう――ちっさいふわふわがいた。
「……もしかして、トリヤデさんも食べられそうになったりとかするのかな……」
「ヤデッ!?」
「ブラウくんもよく食べられそうになってるし、そんなに美味しいのかな……」
「ヤデーッ!?」
ミストと焔の発言にキョドる謎生物トリヤデ。自分じゃない生き物もさらっと混じっていたような。少なくとも自身は食べられないと必死にアピールするトリヤデを拾い上げて肩に乗せ、ミストは軽く地面を蹴った。
何が美味しいのか美味しくないのか、はたまた食べられないのかはさておいて――まずは創作だ。
(引っかかってくれよ……!)
英司は人助けセンサーにぽつぽつと反応を感じる。魔獣に追われた動物たちもかかっているらしい。そこから詳細な魔獣の痕跡まではわからないが、行ってみればまた違うだろう。
整地されていない場所を軽快な身のこなしで進んでいく彼の上空を、焔が放った使い魔が飛んでいく。魔獣が木々をなぎ倒しながら進んでいるのであれば、上空からでもある程度の痕跡が辿れるはずだ。
(本当に美味しいのかな……うう、気にしてたらお腹が空いてきそう!)
我慢である。ここで呑気におやつを食べる訳にはいかないのだから。
地表から痕跡を探すヴィリスは文字通り足を頼りに、その身のこなしを活かして手当たり次第に探し回っていた。仲間たちから付かず離れず、空からでも見えにくい場所などを手早く見回っていく。
(なんだかんだ、この脚で森を歩くのも慣れるものね)
元々彼女にだって普通の、柔らかな脚がついていた。けれど自由を望み脚を捨てた彼女にとって、今そう呼ぶことができるのは鋭利な金属状のモノ。それに少しずつ慣れ始めてきた実感を感じながら、ヴィリスは軽やかに森の中を駆けていった。
(探す方は、得意な方に、お任せするとして……)
ノリアは様々な方法でひよとひよこを探し始めた仲間たちを一瞥し、さてとやる気を入れる。
誰も彼もが探索に注力してしまったら、きっと魔獣に不意打ちをくらわされてしまうだろう。それを防ぎ、ひいては全体への痛手にならないよう構えておくことこそがノリアの役目だ。
「この、高級天然海塩は……素材の味を、役立てますの。微かな風味もある、一級品ですの!」
昔ながらの製法で作られている高級な塩。それを取り出したノリアは自慢げにしながらかけた……自分の、つるんとしたゼラチン質の尻尾に。
食材適性持ちが襲われているというならば。ここでさらに美味しそうな食材適性持ちが現れたらどうなるかなんて、火を見るよりも明らかである!
ただでさえ美味しそうな尻尾に仄かな塩味を帯びたノリアは、それを釣り餌の如く空中でたなびかせる。こうして隙だらけになっておけば、魔獣も真っ先にノリアの元へ向かってくるだろう。
「……あ、違いますの。皆さんのために、していることでは、ありませんの」
うっかりつられてしまった森の動物たちにはお引き取りを願おう。
「えーと、まずは木がなぎ倒されてるところを見つければいいんだよね」
「そうだねー! ぼくちゃん、匂いとかは辿れないんだよー」
うんうん、とミストにクォが頷く。鳥類は視力が命。故にまずはその痕跡を見つけるところからだ。
(何かを探すのって大変かも)
トリヤデの頭を撫でながらミストは口を尖らせる。謎解きならばヒントも存在するが、これはそうもいかない。自分たちの力で切り開いていかなければならないのだ。
ばさり。一瞬クォとミストの頭上に影が差す。空から探すカイトの姿にミストは目を瞬かせた。そうだ、自らにも翼があるじゃないか!
皆とはぐれないようにとあまり高く飛び過ぎず、やや高さのついた視界でそれらしき痕跡を探し始めるミスト。祝音も同様に飛行能力で少し浮きながら捜索する。
空と地表、双方からの探索によって程なくその痕跡は見つかる事となった。そこで一旦合流を果たした一同は、空へ舞う者は再び上昇しながらも痕跡を共に辿り始める。
「大きいひよさーん、ひよこさーん、どこー?」
「ひよこさーん、どこかしらー? いるなら返事して頂戴ー」
祝音とヴィリスがそれぞれ声を上げながら辺りを見回す。こちらの居場所も知れるだろうし、自分たちを知っている者だと分かれば助けだと気づきもするだろう。特に祝音はひよと顔見知りなのだから声も覚えられているに違いない。
「ブラウくーん!」
焔も声を上げる。と、脇の草むらががさがさと音を立てて――。
「ブラウくん! ……じゃなかった」
焔の声に皆がそちらを振り返り、そして同時に肩を落とす。草むらから現れたのは1匹のウサギだった。焔が大きなひよこか怖い熊を見なかったかと問うと、ウサギは少し前にその姿を見たと言う。
「行ってみよう!」
既にその場からは移動しているだろうが、それなりに近い筈だ。カイトは教えられた方向へと高く上昇する。
(ブラウたちを探すより、魔獣を探して抑え込んだほうが安全な気がするんだよな)
それは図体からして見つけやすいだろうということもあるし、不意打ちを防ぐと言う意味でも。故にカイトは木々がなぎ倒されている箇所を隈なく探していた。
●
「……いた! 見つけたぜ!」
大きな姿にカイトが声を上げる。急降下と共に地表から探していたメンバーもまたそちらへ全力で向かた。
「てやー!」
クォが自分たちと反対側に黄色い鳥たちを見つけ、咄嗟にケリをかます。硬い表皮の感覚。そこまでのダメージではなさそうだが、それでも気を引ければ十分だ。
(あとは目が合う前に――ッ!)
後退しようとしたクォの横合いから影が差し、強力な衝撃が走る。反対側でブラウ(p3n000090)とひよ湖 ひよ男が「ぴよー!」とか「ひよーっ!」とか悲鳴を上げているのが聞こえた。
「まだまだー!」
しかし小さな奇跡はクォの中に。素早く体勢を整えたクォの横合いから英司が飛び出し、洗練された一撃を繰り出す。
「よっ、ひよこちゃん達。まだ生きてんな?」
「はい!」
「ひよこじゃねえーっ!」
つぶらな瞳を輝かせるブラウ、憤慨するひよ男。この分なら元気そうだとくつくつ笑った英司は目の前の魔獣、ウドラステラに向かった。
「クマさんよぉ。アンタはテリトリーで飯を食おうとしただけだ、悪くねぇ。だがよ、」
言葉が切れる。その表情は仮面の下、見えることはないけれど。どう在ろうとしているのかは、握りしめた魔刀が示してくれる。
今、この時。この怪王種は英司のテリトリーに入り込んだ。怪王種がしたことと同じことを、英司もまた執行するのみだ。
「退かねぇなら、ぶん殴るッ!!」
啖呵をきった英司の後方から、緋色の羽根がウドラステラに命中して爆発する。敵の視線が向かった先には大きく翼を広げたカイトが達は立っていた。
「ノリア!」
「ええ……ようやく、大海の抱擁に身を委ねられますの」
隙だらけに、容易に食べられてしまいそうな風を装って、海の力に身を揺蕩わせる。その実――彼女をすべて喰らおうとするならば、それ相応の抵抗と困難が待ち構えているのだけれども。
「ねぇうどらすてら? さん。ひよこさんたちを食べるのやめない??」
彼らに敵が惹かれている間にミストは声をかける。出来る事ならば消耗なく事を終わらせたい。こちらはブラウとひよ男が救出できればオーダークリアなのだ。敵に見逃す意思さえあるならば撤退しておしまい、である。
「ね? ほらもっと他のもの食べた方が良いと思うなー。美味しいものって他にもいっぱいあるよ? トリヤデさんは食べられないけど!」
「ヤデ!」
トリヤデがミストの肩上で主張する。その前へと出た焔は敵の横をすり抜け、ひよ男たちを呼んだ。敵の注意がこちらに逸れている今のうちに逃がさねばならない。
「こっち、早く!」
焔の誘導と共にイレギュラーズ側へと敵を迂回して逃げてくるひよ男とブラウ。彼らに祝音がサンクチュアリで回復を施した。
しかし、そんな停戦状態などほんのわずかな事。彼らがイレギュラーズ側へ渡ってくる頃には戦いも始まっていた。
「踊りましょう。まだ舞台は始まったばかりですもの」
ステップ踏んでワン・ツー。ヴィリスの踊り狂うようなステップが敵を翻弄していく。しかし何十にも張られた警戒網(挑発)に敵の視線はそちらへ釘付けだ。
「グオォォォ!!」
大ぶりな攻撃は標的とした者以外も巻き込まんとしていくが、それにあたるような翼をカイトは持ち合わせていない。むしろ近づいてきた敵へ多重な残像と共に攻め立てる。
「「俺から逃げられると思うなよ?」」
その残像すら質量を持ち、喋っているような錯覚。一瞬惑った敵は、しかし全て薙ぎ払わんと腕を振り上げる。
「こちらにも、的はありますの。ほら、美味しそうな尻尾が」
その横合いから声をかけるノリア。声以上に無防備な体に視線が向けられる。
一同が引き付けにかかると同時、先ほど跳ね飛ばされたクォが果敢に格闘技を繰り出す。その身は先ほどよりも軽やかだ。
「うふふ、盛り上がってきたかしら?」
戦いの熱狂。ヴィリスの軽快なステップがそれに合わせて、さらに盛り立て、そして苦痛を麻痺させていく。後方からひよ男たちの安全を確保した焔や祝音も飛び込んだ。焔の闘気が火焔へと変わり、苛烈に揺らめく。
「行かせないよ……!」
祝音もまた焔と同じように肉薄し、ウドラステラが思い通りに動けないようその身で以て妨害する。そして邪悪な怨霊を呼び出すと敵を睨みつけた。
「君が沢山暴れたから……今、僕が呼んだ『彼等』は、怒ってるよ……!」
祝音の合図とともに飛び掛かっていく怨霊たち。応戦するウドラステラの様子にミストは肩を竦めた。トリヤデがその動きでミストの肩から飛び降り、森のどこかへ――多分安全な所へ――姿をくらませる。
「ダメっぽいかな。ま、ダメなら戦闘になってもしょうがないよね! わっふー!」
剣を抜き、接近するミスト。圧倒蹂躙する高威力の斬撃が敵の硬い表皮へ叩きつけられる。それはどれだけ強固であろうとも、無傷とまではいかないほどに。
搦め手だとか、難しいことはできない。けれども愚直に真っ直ぐなミストの剣筋は、重なる攻撃で少しずつ敵の体力を削いでいく。
「喰らいな!」
黒顎魔王を放つ英司は敵の荒々しい攻撃に怯まず前のめりに攻撃を重ねていく。ああ、隙なんて見せてやるものか。
敵の止まぬ攻勢もさることながら、イレギュラーズも負けずに追い上げていく。その内に疲労はあるだろうが――。
(疲れなんて、見せられないわ)
舞台にあがったら、そこにいるのは最早自分に非ず。『自身』をさらけ出すのは舞台に幕が惹かれ、袖に入った後。ヴィリスは華麗なステップを踏みながら剣先で敵の表皮を削るように撫でる。
「おもっ……い、けど!!」
その真下から敵を跳ね上げた焔は追随して跳躍し、相手が落ちる勢いのままに下へと叩きつける。大きく砂ぼこりが舞うも、カイトの翼がそれをすぐさま退けた。
呻くように鳴き声を上げたウドラステラは本能か、回復のための餌を求めて視線を彷徨わせ。
「ピィッ!? ま、まままままて、俺は食材じゃないぞ??? ノリアの方が美味しいぞ? な?? な!?!?」
「聞き捨て、なりませんの! 美味しく見えるとは、思いますけれど、それは同じはずですの!」
うら若き乙女を咄嗟に差し出そうとしたカイトへ当の本人から非難の眼差し。けれど双方とも知ってはいるのだ――もっとも狙われやすいのは、食材適性があって、非力な後方の2匹だって!
「くっそおおお猛禽は捕食者だ! クマごとき、めじゃねえぜええええ!!」
やけっぱちの勢いと共に突撃していくカイト。対する相手はそれなりに疲弊しているようだが、やはり自らのテリトリーと強く認識しているのか退く様子はない。
(どちらかが倒れるまで、戦わなくては、なりませんか……)
食べられたくない。食べられたくないけれど、そもそもどうしてわざと食べられそうになっているのだろうか。ブラウたちを助けるのに、敢えて食材として身を差し出すようなことはしなくてよかったのでは。
もう少し早く気づいていれば方向転換も叶っただろうが、もはや後半戦。ここで引くことなどできようか。
(僕が)
そんな中、1人で仲間を支援し続けていた祝音がぎゅっと手を握りしめる。白猫魔手甲からあふれ出すのは癒しの光、癒しの力。
大気中から力を得ようとも、放出し続けていればいつかはガス欠になってしまう。それでも、この場でこの役目を果たせるのは、自分しかいないから。
「僕が、皆を、癒すんだ……!」
眩いばかりに溢れる光が祝音の周囲へと放たれ、強烈に仲間を癒し支援する。そう、あともうひと頑張り!
武器に集中させたエネルギーを刃状に伸ばした英司と共に、強烈な一撃を叩き込むべくミストが踏み込む。かの強固な装甲もだいぶ傷が目立つようになってきた。
(怪王種、怪王種か。……食べられなさそうかな)
なんて内心別の事を考えながらも。ミストの圧倒する威力は変わりない。
「チッ、そろそろ頼むぜ!」
敵を翻弄し続けるカイトが仲間たちへ叫ぶ。焔は思いきり跳躍し、仲間がつけた傷へと新たな攻撃をねじこんだ。ノリアの熱水流を浴びせられたウドラステラは眼前に迫る鋭利な剣先を目の当たりにする。
「とっても強そうな熊さんだけれど――強いだけじゃ、勝てないのよ!」
ドォン、と森中に振動が響き渡り。鳥の群れが空へと羽ばたき逃げていく。
動かぬ骸と化したそれから視線を巡らせ、ヴィリスは遥か後方でこちらの様子を窺う黄色い鳥たちを見た。
「災難だったわね、ひよこさんたち」
一緒に帰りましょうか、と彼女は優しく声をかける。ほんのちょっぴり、あとでもふらせてくれないかしらなんて下心も宿しながら。
「無事でよかったな。早く大きくなって――美味しい唐揚げになってくれよ?」
「ひぃっ」
「ぴぃっ」
悲鳴を上げる彼らに笑い声をあげた英司はウドラステラの亡骸へ手をかける。苦戦させられたが、その分良い素材として防具や武器になることだろう。
「そういや、ここに来た目的は達成されたのか?」
「はい!」
ブラウの返事に英司が頷き、去っていく傍ら。カイトはひよ男が喋れることに仰天していたり。かと思えばどこからか戻ってきたトリヤデと友達になってくれないかとミストに打診されたり。祝音には癒しを得たのちに水分を貰ったりと和気あいあい、ブラウたちは安全な場所に辿り着いたと安堵した――。
「この埋め合わせは、ひよこおふたりを、かじることで、させてもらいますの……!」
「ぴっ!?」
「ひよさん、かえって落ち着いてからでいいから……また美味しい卵をくれると嬉しい、な」
「あ、そういうことなら、ひよさんは、たまごをくださるのでも、かまいませんの」
祝音の言葉によりあっという間にひよ男の無事が確保され。ブラウはノリアを震えながら見上げる。
「さあ、ブラウさん……親子丼の、時間ですの!」
「い や だ !!!」
追い掛け回されるひよこ。追い掛け回すノリア。その構図を見ながら、焔はぽつりと呟いた。
「やっぱり……ブラウくんって、美味しいの?」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
無事に2ひk……2人は救出されました。また別の危険に突っ込んでいくかもしれませんが、まあそれはそれ。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
ひよとひよこの救出
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。
●エネミー
・『強靭なる皮膚』ウドラステラ
クマのような怪王種です。その表皮は鎧でも身に着けたかのように強固になっており、どんなものに体当たりをしてもそうそう負けることは無いでしょう。
ウドラステラは元々この森に住まうモンスターであったようですが、突然変異を遂げ怪王種としてここ一帯を自らの縄張りとしたようです。そのためこの森に踏み入った猟師などが執拗に追い回され怪我をしたという報告があります。幸い猟師の命に別状はありませんでした。
この怪王種は脅威の防御力だけでなく、動き出したあとの手数にも目を見張るものがあります。また、その攻撃の多くは広い範囲に届くようです。
それなりに知能が高まっているようですが、強いナワバリ意識があるため説得は難しいかもしれません。今のところ人語を喋った場面は目撃されていません。
●フィールド
幻想にあるひとつの森。それなりに広く、木々や根っこが視界や足元を邪魔するでしょう。
しかしエネミーが通った場所に関しては木々がなぎ倒され、若干視界は良いようです。
ブラウとひよ男はこの森の何処かを逃げています。
●NPC
・ブラウ(p3n000090)
ローレットの情報屋。ひよこのブルーブラッドであり、もふふわで実物よりぬいぐるみを思わせる形状……なのだが、食材適性によりイレギュラーズからもたまに狙われる。非戦闘員。
とても不幸体質だがギフトによりそれなりにタフ。死ぬ時は死ぬので見殺しにしないで。助けて。食べないで。
・ひよ湖 ひよ男
祝音・猫乃見・来探さんの関係者。同じ世界から召喚された元・普通の男性です。召喚されたら『ひよ』と呼ばれる生物になっていたようです。
固定スキルとして食材適性を持っています。ちなみに彼がギフトで召喚するひよ卵(鳥卵と同義)は美味しいそうです。彼も多分美味しいのだと思います。食べちゃダメですよ。
●怪王種(アロンゲノム)とは
進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。
●ご挨拶
ひよこの関係者を見た瞬間運命だと思いました。愁です。
2匹……じゃなくて2人を助けるにはあのエネミーを倒さなくてはならないようです。グッドラック。
それではよろしくお願い致します。
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