PandoraPartyProject

シナリオ詳細

血潮の街のアリス。

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 殺しますか? 殺しませんか?

●伝聞される噂話
 <赤い雨の降る街。
 赤い雨を降らす少女の街。
 赤い雨が降って全てを洗い流し、唯残ったアリスの街>


 廃街に玲瓏な少女の亡霊が一人。
 真朱色の雨を降らせ、来るものを拒むと云う。
 ……実しやかに囁かれる”そんな噂”に興味を抱いて、男はトリエステの街を訪れていた。

 だが、彼が一歩其処へ足を踏み入れれば、到底街などと形容できる所では無かった。
 寂れ朽ちた廃村。むしろ、そんな表現が正鵠を射る。
 其処に人の影は無く。崩壊した家々が悠久の時を絶叫するだけ。

「―――あった」
 それでも男は進んでいく。
 東側のゲートから六百七十三歩。
 方角的には中心に位置する場所。
 一軒だけ不自然に手入れのされた白い家。
 男は構わず、土足で上がり込む。
 幽霊は、本当に此処に居ると云うのか。
 廊下を突き進んで行き当たるリビング。
 半開きの扉。
 中を覗き込むと、其処には。
 酷く朽果てた内装。
 その中心に一台の車椅子。
 其処に腰掛けた一人の少女。
 男は、彼女の正面に回り込んで―――。


 鋭く息を吸い込む音。
 貌は不器用に継ぎ接ぎされた無数の包帯に覆われ。
 石膏に拘束された、か細い右腕が。

「へ?」

 次の瞬間、男は、少女の強烈な一撃で家の外へ弾き飛ばされる。
 ―――そして唐突に、ぽつりと肌を滑る雨粒。
 男が頬を拭うと、薄く伸びる朱。小さな叫喚。
 拭っても拭っても、その朱は降り続ける。

「何故、此処を訪れた?
 何故、私を起こしてしまう?」

 狂ったように頬を拭い、地面をのた打ち回る男。
 彼を見降し、少女は問う。
 少女の立ち上がった姿。
 美しい黒のドレスを纏って。
 見え得る全ての彼女の皮膚は、包帯で隠されていた。

「私の安寧を妨げるのなら、この街を穢すと云うのなら、逝くが良い。
 貴方が、望むが儘に」

 赤い雨が降り続け、やがて男は息絶える。
 ああ、噂は本当だった。それも、良くない方向に。
 降り続けるのは毒の血、毒の雨。
 一人立ち尽くす少女。
 ―――血潮の街の、アリス。

●ローレットへの依頼
 ≪幻想≫(レガド・イルシオン)にある『トリエステ』と云う街で、連続失踪事件が生じている。
 管轄貴族は自治に混乱を来す事を恐れ原因究明に乗り出していたが、その進捗は芳しくなかった。
 分かっている事は、その街に関して、”異様な噂”が流れているということだ。

 ……トリエステは、数年前に周辺貴族同士の諍いが原因で兵士達の争いが勃発し、現在では放棄された廃街と成っている。
 当時は夥しい量の街人の犠牲があって、人々が”呪い”を恐れ誰も近寄らなくなって久しい。
 ……その街には以前、とびきり美しい少女が居て、人々に愛されていた。
 そして、戦火がトリエステへと及んだ時、彼女はその美しさ故に、兵士達によって酷く醜悪な最後を迎えた。
 曰く、少女はそのまま幽魂と成り、トリエステへ残留し続け、赤い雨を降らしているのだ、と云う。
 曰く、その雨は毒の血から成っていて、浴びれば人の生命を奪うのだ、と云う。
 ―――実際、その少女を目撃して帰ってきた者は一人も居ない。

 今回、一人の女性と貴族から、ローレットにある男性の捜索依頼があった。
 依頼者の恋人が件の噂話を耳にし、トリエステへ向かって以来、数日以上消息不明となっている。彼を探し出して欲しい、と。
 気味悪がっている管轄貴族は今回、その捜索に伴い”幽霊の討伐”をも希望し、十分な報酬を用意してきていた。
「もしもの時は……。
 もしも、彼が本当に噂話の通り息絶えていたのなら、せめて、彼の亡骸だけでも……」
 絶望的な顔色で、女性はその要望をローレットへ伝えた。
 隣の貴族は、そんな彼女の悩みなどよりも、管轄領地の不安定化の心配をしている様子だが。

 イレギュラーズはトリエステへと向かい、依頼対象の男を探してきて欲しい。

 そして、亡霊と成った少女の息の根を、今度こそ止めてきて欲しい。

GMコメント

●依頼達成条件
・『アリス』の撃破
・『オルフェ』の死体を判別可能な程度の損傷に抑えて、ローレットへ持ち帰る事。
 ※シナリオとしては、トリエステの街を脱出できた時点で”持ち帰られた”と判断します。


●情報確度
・Bです。OP、GMコメントに記載されている内容は全て事実でありますが、
 ここに記されていない追加情報もありそうです。


●現場状況
・≪幻想≫内の廃街、トリエステ。
・時刻は昼間ですが、後述の通り赤い雨が降り視界が不良になります。足元が泥濘、足場が悪くなります。
 これらの状況は、戦闘判定上、不利に働く可能性があります。
・シナリオはトリエステの中央広場で後述のアリスと相対する時点からスタートします。アリスの傍らには、青年オルフェが倒れています。オルフェは既に死亡しています。
・事前自・他付与可能です。また付与効果はアリスと会敵した瞬間からターンをカウントします。
・トリエステの出入り口は大きく二つあり、西ゲート、東ゲートがあります。中心部は、その何れからもほぼ同じ距離にあります。


●敵状況
■『アリス』
【状態】
・地球人類で云うと、十代後半頃の女性の外見。腰まである長い銀髪。
・所謂、幽魂、地縛霊の類。
・漆黒の美しいドレスに身を包みますが、露わになった肌の部分は、全て継ぎ接ぎされた包帯で覆われており、表情等は読めません。
 目も覆われていますが、視界はある様です。また、一部出血による変色が見られます。
・右腕だけは、大きく石膏で固められていますが、これを凶器としても使用します。左手には、短刀を握っています。魔力に依る魔術攻撃を行います。
・過去トリエステに居住していた美しい少女でしたが、貴族同士の争いに巻き込まれ、兵士たちに蹂躙されて殺害されています。現在は噂話となり、幽霊の実体としてトリエステに踏み入る者に対して強く抵抗を見せ、人々を殺害しています。また、不可思議で有毒な血の雨を降らせます。

【傾向】
・感情、思考能力があります。会話が可能です。
・オルフェの死体には然程執着しませんが、街に踏み入ったイレギュラーズに対して強い殺意を示します。

【能力値】
・高EXA、高CTです。複数回行動を多く取ることが予想されます。
・下記攻撃欄に記載の通り、イレギュラーズは、アリスがフィールド全体に降らせる雨に依る影響を強く受けます。
 これは、合羽や傘等で防ぐことが出来ません。建物は廃墟ばかりであまり役に立ちません。

【攻撃】
 1.怨恨(A物至単、毒、飛、大威力)
 2.慟哭(A物近範、毒、泥沼、飛)
 3.幸福(A神中域、不運、呪い、HA回復)
 4.亡者(A神遠域、毒、ブレイク、HA回復、大威力)
 5.EX血潮の降り続けた日(A特レ)
   フィールド全体に血の雨を降らせます。
   フィールドに居る者は、2T毎に失血、泥沼、魅了のBS付与判定が行われます。
   付与の成否はキャラクターの特殊抵抗値等により判定します。
   流血、泥沼、魅了は全て重複する可能性があります。
   此処で付与されたBSもBS自然回復判定が行われます。またスキルによるBS回復も可能です。

■『咎人』
・街中の廃墟から赤い人影が現れ、イレギュラーズを襲います。特に、オルフェの死体に興味を示し、寄りつこうとします。
・数は数体~十数体で不規則ですが、個体毎のステータスは低いです。また減数すると補充されます。囲まれると厄介です。


●味方状況
■『オルフェ』
・トリエステの亡霊の噂を聞き、好奇心で訪れていた青年。
・シナリオ開始冒頭、アリスの近くで倒れています。
 イレギュラーズ到着時点では、オルフェは既に死亡しています。
・依頼主は、「もしもオルフェが死んでいた場合は、その亡骸の回収をすること」を要望しています。
 彼の死体を可能な限り温存してアリスを撃破し、トリエステの街を脱出して下さい。


皆様のご参加心よりお待ちしております。

  • 血潮の街のアリス。Lv:2以上完了
  • GM名いかるが
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年06月23日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

スウェン・アルバート(p3p000005)
最速願望
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
罪のアントニウム
郷田 貴道(p3p000401)
煌希の拳
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)
咎狼の牙
高千穂 天満(p3p001909)
アマツカミ
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
ロズウェル・ストライド(p3p004564)
蒼壁

リプレイ


 雨が降っている。
 赤い、赫い雨が降っている―――。
 躰を打ちつける血粒が残響し、ザアザアという雨音が断末魔の様に、酷く、耳鳴る。
 正鵠に悪夢の様なシチュエーション。
 其処に立ち尽くすのは一人の≪Fantasma≫と。
 十人の≪特異運命座標≫。


(怨恨が街や人を蝕むなら、ここで断ち切るッス!)
 それは殺し合いの始まり。事前にギアを上げていた『最速願望』スウェン・アルバート(p3p000005)が疾り、アリスの右手後方へと向かう。
『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401)、石動 グヴァラ 凱(p3p001051)、『咎狗の牙』リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)、『蒼壁』ロズウェル・ストライド(p3p004564)がスウェンとアリスを挟み込むように近接距離に陣取り、前衛を担う。
 『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はその後方、中距離程度に動き、さらに後方に『アマツカミ』高千穂 天満(p3p001909)、『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)が立った。陣形としては、非常にバランスの取れた内容である。
 ―――そして、『神格者』御堂・D・豪斗(p3p001181)はアリスの傍らに伏していたオルフェの死体へと真っ先に向かっていた。
「ブラッドレイン……、この街には悲しみが満ちているか!
 だがゴッド達が終わらせよう、そのトラジェディを―――!」
 途端、何処からともなく群がり始める、血石色の人影―――“咎人“共の腕を掻い潜り、血雨の吹き荒ぶ戦場で豪斗の体躯から光が漏れる。
「ゴッドは全てを救う訳ではない! しかし!
 ―――たった今、この街の、そしてユーの哀しみを癒しに来た!」
「貴方達が哀しみを癒す?」
 アリスが皮肉気な笑い声を零す。其処に被せるように、
「HAHAHA、悪いなバッドレディ! 御堂と違って、俺はそんなに優しくねえ。
 終わらなければ止まらないのなら―――殴らせてもらうぜ!」
 貴道が高らかに声を張る。アリスの見えぬ相貌は、しかし、一転表情を喪ったのではないか。
「どうしたの―――終われない自分がそんなに怖い?」
 追撃するイーリンの糾弾。
 匂い立つ罪業の匂い。それは、ああ、きっと。
 貴女に罪は無く。
 だから、別の結末もあっただろうに。
 躰を打つ雨が弾け、大地に染み渡る。
 黒き装飾着に覆われた右腕を、石膏で封印された右腕をアリスは肩まであげる。
「殺してあげる。
 尤も惨めな終末で―――殺してあげる」
 ザアザア。耳を劈くノイズ。
(“掛かった”か。しかし、この膨大な殺意)
 天満は口元を手で隠す。一先ず最初期の戦法は、自分達の思い通りに運んだ様だ。アリスは、イーリンへとその殺意を向けている。
「だが、楽に帰させても貰えなさそうじゃの」
 次の瞬間。
 アリスは異常なまでの俊敏さで、イーリンへと肉薄する。
「―――させません」
 前衛のリュグナートがそのアリスの前に立ちはだかる。
「同じ軍人として、貴女を辱めた者達の所業は恥ずべき所です。
 その無念も察するに余りあるものです。
 ……ですが貴女が屠った者達にも愛する者がいた。
 愚かさの代償故の死と、言い切る程に薄情ではない心算です」
 だから。リュグナートはデストロイを握る手に、力を籠める。
「ここで、終わらせます」
 深く相手の間合いへと踏み込みんだ一刀―――力強いその刃を、アリスは石膏の腕で受け、弾ける音と共に、リュグナートに衝撃が走る。一方のアリスは特段の変化は無く、その強靭さを改めてリュグナートは理解した。
「私から全てを奪っておきながら、この街の思い出すら許さないというのね」
「―――死して尚、遺る。成る程、その思いは余程強いのでしょう。
 ですが、それも今日までにしましょう。
 雨は何時かは止むもの、それを我々が成し遂げて見せましょう」
 続けて、ロズウェルから放たれる慈悲を帯びた一撃。鉄槌と共に繰り出されたその攻撃は、
「―――雨は、止まないわ!」
 アリスの強い口調での否定と共に、左腕で振るうナイフで甲高い炸裂音と共に軌道を逸らされる。
(彼女も本当なら被害者なんだろうけど……。
 理由はどうあれ、これ以上被害を出させるわけにはいかないよ……)
「誰かが止めて上げないと、彼女は止まらない……なら、私達がやらないと……!」
 セシリアが既にハイテンポで始まった戦闘を眼前に気合を入れ直す。彼女はこれからその悪辣さを発揮するであろうアリスと最前線で対峙する前衛陣を、体力面で支える、正に療術手の要である。
 天逆鉾を、そのセシリアの横で天満が振るう。遠距離術式により放たれた魔弾がアリスへと切迫すると、アリスの目に見えぬ視線が咄嗟にそれを捉える。
「小賢しい」
 アリスの眼前で展開された不可視の障壁が天満の魔弾を堕とす。
「余の一撃を“小賢しい”とは、全く失礼な輩であるな」
 やれやれと天満が吐き出すと、アリスは包帯で覆われた目で天満を見遣る。
「神など居るものか。居るとするなら、何故、“あんな事”が赦される?
 己が欲望だけに忠実に生きる者共―――何故そんなものを蔓延らせる?」
「ゴッドは居るぞ! 此処に!」
 アリスが視線を動かす。オルフェの遺体をシュラフに回収していた豪斗は、軍馬にそのシュラフを乗せ、既に離脱を試みている。
「だが、このゴッドのワールドには争いは少なかった。故に、エンジェルの疑問には、簡単に答えられぬ!
 それでも、ゴッドは今、此処に居る。ユーを救うために!」
 豪斗に続けるように、クラリーチェが紫色の瞳でアリスを見詰め、
「……雨はいつか止む、という言葉があります。
 貴女の心に振り続ける雨も……どうか止みますように」
 穏やかな声色で、しかし、強い意志を孕んだその言葉。凱はそのクラリーチェの言葉に、この血雨を想う。
(憎しみか、悲しみか……この、空は。御前の涙、か?)
 ―――ならば拭ってやらねば。
「涙の後に残るのは……晴れ渡る空、その筈だ」
 凱は拳を握り締める。
 其れが哀しき少女だとしても、叩き潰す。
 ……オーダーの遂行。
 彼の存在意義は、何時でも……。


「貴女の背負った哀しみ、私の知識の糧にさせて貰うわよ」
 イーリンが立ち位置を変え、アリスに近づく。
 ―――ゆらり、とアリスが動く。それは蜃気楼の様に朧で、しかし、確実の内にその間合いは殺されて。
「……っ!」
「その自己犠牲の精神は、嫌いじゃない。だから貴方にも、分けてあげる」
 イーリンは直ぐ様、全力で防御の体勢に入る。一体一の身体能力で勝ち目がない事を、イーリンは自覚している。アリスという亡霊から放たれる攻撃を、彼女は、受けなければいけない。
「私の人生で最も辛かった、その瞬間を―――分けてあげる」
 そして―――突然の激痛。
 イーリンの下腹部を灼熱の様な熱量が襲い、次の瞬間、その可憐な体躯は後方へと大きく吹き飛ばされていた。
「かはっ……!」
「だ、大丈夫?」
 近くに立っていたセシリアがイーリンの元へ駆け寄る。その下腹部には大きな裂傷、流れ出る激しい流血は雨と同化し、脈脈と流れ出る。しかし、その傷は、そんな出血よりも。
「何……この感覚……っ!」
 イーリンが表情を歪め、傷口を見遣る。斬られた傷みもその原因だが、それよりも、その傷口から体の奥深くへと伝播していく異常な熱―――躰を蝕むその熱が、イーリンを内部から激しく苦しませた。
「これは、毒……?」
 セシリアが手当てをしながら、そのイーリンの異変に気付く。
 これは、躰を蝕む害毒―――。
「アリスさんがこれ以上、誰かを殺す必要も失くすために。
 ボーとしてる暇も、無いっスよ!」
 彼女の常軌を逸した能力は、知っている。だからこその短期決戦。速さでは誰にも負けぬスウェンが鋭い踏み込みから激しくアリスへと肉薄する。
 金属製義足がアリスを穿ち、アリスはそれをナイフで受ける。金属と金属の擦れ合う甲高い破裂音。互いに見えぬ視線と視線が、交差する。
「私はこれからも殺すわ。私を蹂躙した全ての“獣”を葬り去るまで、それが私の復讐なのだから」
「―――成る程、詰まり貴女の“噂”というのは、撒き餌という事ですか?
 自身を穢した、全ての関係者を誘き寄せる為の」
 リュグナートがその場で導いた推論を述べる。アリスは頷きはしなかったが、首も振らなかった。肯定と見て良いのだろう。
「……私はこの街から出る事の叶わぬ身。けれど、目的は果たす。
 何があってもね」
 そう答えたアリスに、貴道が肉薄する。
「悪いが、こっちも仕事なんだ! 大人しく成仏してもらうぜ!」
 回転させながら放たれる、貴道の剛健なる拳―――、それがアリスへの顔面へと伸び、
「―――言ったでしょう? 貴方達には、凄惨に死んで貰うって」
「ほう……っ!」
 アリスが正面から石膏で固められた腕で拳を返し、貴道の拳と相対する。激しい衝撃が両者を襲い、そして、
「避けるのじゃ!」
 天満がその前兆を感じ、声を上げる。アリスが右腕を大きく薙ぎ払うと、前衛陣を膨大な“圧力”が襲った。
「くっ……!」
「なんて威力なの……! 待ってて、回復するから……!」
 セシリアがハイ・ヒールの体勢に入る。出し惜しみをしている余裕も無い。何せ、先のアリスの攻撃で貴道、リュグナート、スウェンが後方へ吹き飛ばされた挙句、
「SHIT! これが、ジョーンスの受けた毒って奴か?」
「っ……、どうやら、その様ですね……!」
「滅茶苦茶しんどいっスよ、これ!」
 三人の躰を毒が巡り、“何かが体内から激しく殴打する感覚”に襲われる。
 一瞬で陣形は乱れた。そして、オルフェの遺体を回収し、近すぎず離れすぎずの中衛域に居た豪斗の周りに、凡そ八体もの咎人が押し寄せる。
 凱が重盾を構えアリスの前に一人立つと、ロズウェルは豪斗の、オルフェの遺体に群がり始めた咎人目掛けて、騎士の雷なる一突きを放つ。その一突きで凡そ半分の咎人を葬った。
「助かった、マイフレンド!
 哀しきコープスは必ずゴッドが守りきる!
 そして―――マイフレンズ全員をも!」
 一方、前へ詰めた天満は焔式をアリスへと放つ。
 それは炸裂する炎の術式―――その魔術はアリスの皮膚と、同時に吹き荒ぶ血雨を蒸発させ、激しい音が周囲に撒き散った。
「どうじゃ? “小賢しい”一撃は」
「……」
 アリスを焼いた炎に、致命傷を与えられた様子は無いが、躰中を覆う黑色のドレスと包帯の一部が塵と成り、其の肌が一部露わになる。
 ―――垣間見えたのは、元の皮膚が全く見えぬ程の、激しい暴力の跡。
 そして、右下半分だけが見える相貌は、綺麗なままだった。顔は傷つけておかない方が、“彼等にとって都合が良かった”のだろう。
(……酷い。余りにも)
 クラリーチェが僅かに顔を歪める。アリスの半分だけ覗く唇が、自嘲気味に歪んだ。
「これが私。この醜い姿が私。この汚れた存在が私。
 こんな私に変えてしまった世界を、私は許さない―――決して」
「貴女に罪は無い。貴女は何も悪くない。私は、貴女の存在を、否定しません」
 ちらりと、アリスがそう言ったクラリーチェに顔を向ける。
「貴女をそんな風にしてしまった世界は、きっと間違っている。私も、そう思います」
「だったら、何で……」
「けれど」
 アリスの言葉を途中で止めて、クラリーチェは続ける。
「貴女のやり方も、きっと間違っている。世界は間違っていても、全ての世界が間違っていると、私は思いたくない。
 貴女は正しい世界も一括りにして、復讐しようとしている。
 ―――そんな貴女を、放ってはおけません」
 十分、アリスは傷ついてきた。
 なのに、また彼女を傷つけようとしている。
 これが、正しい魂の導き方だろうか?
 分からない。分からないが。
 クラリーチェは聖遺物を握り締める。
 そして、その身から放たれる簡易封印――――。


「このブラッドレイン―――聊か甘く見ていたか」
 豪斗が呟く。打ちつける血雨の効果は、次第にイレギュラーズ達を蝕んでいた。
 貴道がアリスを挑発しその攻撃を惹きつけ、クラリーチェが簡易封印によりアリスの異能を封じる。だがアリスも容易にそういった術式が決まる訳では無かった。
「良い貌になってきたわね―――」
 アリスが垣間見える口元を歪める。そして、左腕を高く掲げる。
「次は耐えられるかしら」
 吹き荒ぶ風、衝撃。アリスを中心に、同心円状に溢れ出る血流―――弾けるように溢れ出た瘴気が遠距離にまでおよび、中・後衛陣の多くを襲う。
「っ……」
 天満、クラリーチェ、セシリアが大きく顔を歪める。躰には、例の毒も這いずりまわり、蝕み、立っているだけでやっとだった。
「……酷い状態ですね」
「ああ、全くだ。とんでもなくツいてない仕事だ」
 ロズウェルの言葉に貴道が頷く。
 ……撤退。誰がと云う訳でも無くそんな二文字が思い浮かぶが、
「弱気になったら駄目! 依頼人の彼女の為にも頑張らないと!
 ……オルフェさん、何とか連れて帰ってあげたいから……!」
 セシリアが血で汚れた美しい相貌で、必死に声を上げる。スウェンも呼応する様に、
「まだまだ! 何としても今日、悪夢は断ち切るっス! 諦めちゃダメっス!」
「その通りですね。
 幸い、全員が一度は“可能性”を消費したとは云え、まだ立っていますから」
 リュグナートも血みどろの相貌で強く頷いた。
 セシリアと豪斗の療術に依り戦線は何とか維持するが、ほぼ全員が血塗れ。
 それは降り続ける血雨によるもの、そして、その影響で躰から脈脈と噴出する自らの血液である。
「失せろ―――!」
 平時は寡黙な凱から、全身全霊で吐き出す大喝―――群がる咎人を消滅させた。
 聊か決定打に欠けている現状への咆哮であったかもしれない。ロズウェルとリュグナートが傷だらけの手で構えた得物でアリスへと斬り込むと、しかし、彼女に初期の頃の様な堅牢な守備が見られないのも、また事実であった。
「っ……」
 十名のイレギュラーズを相手に均衡を保つのは極めて難しい。
 ―――アリスもまた、激しい疲労の中で戦っているのだ。
「何故……、何故、邪魔を……」
「理不尽に打ち拉がれることの辛さ、分かるとは言わない」
 イーリンが魔力を帯びた件でアリスに斬りつける。苛立つアリスに、イーリンは自己を投影する。
「けれど、私は前に進むわよ。
 ―――だってそれが、“生きる者の意志”に他ならないでしょう?」
「―――私だって、“生きたかった”わよ……っ!」
 はらり、とアリスの包帯がはだける。
 無数の傷。
 只々美しい相貌。
 露わになったその表情からは。
 否、その双眸からは―――血涙が流れ出て。
「アリス、貴女を助けるなんて烏滸がましい事は、当時居る事が出来なかった私に言う事は出来ない。
 それでも、あなたはもう安らかに眠っても良い筈だ!」
 ロズウェルが一際強く踏み込む。ここが“最後の好機”と彼は見た。続けて、豪斗が短剣をかざす。其処から放たれるは、温かなオーラ。
「っ……」
「ゴッドオーラは討つだけでなくゴッドのソウルを伝えるもの!
 ゴッドはユーも救いたいのだ、エンジェル! この街の様なユーのハートを、晴らす!
 ―――それこそがゴッドの光!
 この地にブラッドが流れる必要は最早無いのだ!
「う……っ!」
 怒涛の攻撃に、アリスの躰が削れていく。
 凱が、スウェンが、リュグナートが負けじと最後の気力を振り絞ってアリスへ攻撃する。
 それは恨みでは無い。
 それは只々、鎮魂の一撃―――。
「この街はもうデッドエンドを迎えてやがる。ユーも此処で終わりだ。
 ―――だが、終わらなければ、始まらないんだぜ」
「かは……っ!」
 貴道の重い拳がアリスの肺を捉える。熱い拳だった。
「苦しむのは、これで終わりじゃ」
 そして、天満が静かに天逆鉾を振るう。
「何、恐れる事は無い。八百万の神、全ての細部に神は宿る。死は始まりに過ぎぬ」
 放たれる炎。それはアリスの総てを葬り去る様に強く、そして、美しく……。
 イーリンは彼女の最後に何を見ただろう。
 けれど、輪廻に燃え尽きる時まで、彼女は微笑むのなら……。
「……神がそれを望まれる」


 ―――ああ、やっと終れた。

 次第に薄れゆくアリスの体躯。
 二度目の死は、やはり気持ちの良いものでは無かったが―――。
 ―――けれど、こんな暖かな終末なら、もう化ける必要も無さそうだ。


 何時の間にか、雨は止んでいた。
 ずっと降り続けていた血雨は、全て幻影であったかのように、大地は何事もなかったかのように元に戻っていた。
 ただ、イレギュラーズ達の躰に残った多数の傷と疲労感だけが、アリスが本当にさっきまでは居たことを、思い出させた。
 馬上に安置したオルフェの遺体を運び、イレギュラーズはこの街を出る。もう二度と、訪れる事も無いだろう。
 クラリーチェは、最後に街を振り返った。
(……彼女の魂が、どうか安らかな場所に導かれますように。
 もう苦しむことがありませんように)
「どうか。―――どうか」
 「おーい」と呼ぶスウェンの声に「今、いきます!」と返して、クラリーチェは後を追う。
 
 ―――やがて血の様に赤く美しい夕日が姿を現し。
 街を。そして、イレギュラーズの背後を照らした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

スウェン・アルバート(p3p000005) [重傷]
最速願望
イーリン・ジョーンズ(p3p000854) [重傷]
天才になれなかった女
石動 グヴァラ 凱(p3p001051) [重傷]
リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218) [重傷]
咎狼の牙
高千穂 天満(p3p001909) [重傷]
アマツカミ
ロズウェル・ストライド(p3p004564) [重傷]
蒼壁

あとがき

皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。

 壮絶な戦い、お疲れ様でした。
 緻密な作戦立てはお見事で、仮説に対するメリット・デメリットを十分に考察されたのではなかと推測します。
 細やかな攻撃順序、陣形、役割分担と、素晴らしいプレイング揃いのおかげで成功となったと思います。
 そういった難しい細やかな動きであった分、若干各プレイング間で整合の解釈が難しい部分もありました。
 その辺りが整合取れてきますと、大成功に近づく内容だったと思います。

ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『血潮の街のアリス』へのご参加有難うございました。

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