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シナリオ詳細

森に、子供達の憎悪は潜んで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●森林迷宮の攻防
 深緑には、他国には存在しない貴重な草木が眠っている。それが、他国では若返りの秘薬だとか、永遠の美を保証するとか喧伝されて――そんな力が本当にあるかは定かではないが――高額で売買されているケースがあり、密猟を行うものが後を絶たない。
 今宵、森林迷宮警備部隊に知らされたのは、そんな大規模な密猟者の一団が発見されたという報告であった。密猟者たちは、『ノノリの花』という希少な植物を密猟しているという。一同は、早速現場へと向かったのだ。
 警備隊の面々は、その誰もが、かなり本格的な対人装備を施していた。昨今の密猟者たちは、傭兵を雇って己の身を守ることもあり、それに対応する警備隊はそれ相応の装備と、戦闘練度を持ち合わせているのだ。
 その日、密猟者の一団に接触した警備部隊たちは戦闘を開始――だが、僅かな時間で彼らは迎撃され、敗走の憂き目にあう事となる。
 敵が強かった。それもある。
 敵の数が多かった。それもある。
 だが最も警備部隊たちにとって障害となったのは、その傭兵たちの姿であった。
 ――警備部隊隊長の男が、刃を手に森を走る。あちこちから聞こえてくる、部下の苦悶の声。爆裂する、深緑ではご禁制の炎は、おそらく敵の魔術の類だろう。大した威力だ。相応の魔術師が、敵にもいるに違いない。
 前方に人影を認める。木々の合間に隠れたその小柄な人影は、手に輝く長剣を持っていた。先手必勝! 警備隊長の男は、気配を殺して人影に飛び掛かった! 刃を振り下ろす――だが、それが事も無げに迎撃された。人影によって振り上げられた刃が、警備隊長の剣を弾き飛ばした。
 できる相手だ! 警備隊長の男は、彼我の実力差をこの時思い知った。だが遅い。人影は返す刃で、警備隊長の男を切り伏せる。肩口に激痛が走る。
「な、あっ!?」
 男は叫んだ。痛みもあったが、それよりも、男に驚愕の叫びをあげさえたのは、松明の炎に照らされた、敵傭兵の素顔である。
 敵は、幼い少年だった。
「こ、子供だと!?」
 幻想種の、警備隊長の男が叫んだ。斬りつけられた肩から、しとどに血がにじみ出す。
「わるくおもうなよ。これも家族ときょうだいのためなんだ」
 男が見てみれば、密猟者を護衛する傭兵たちは、その誰もが、10歳前後の子供達だった。ばかな、と男は呻く。しかし少年は、容赦なく男へと、刃を振り下ろした。
 寸での所で、男は後方に跳躍。その刃を回避した。そのまま、間合いを取るようにゆっくりと、後方へと引いていく。
「隊長、反撃しますか……!?」
 合流した部下が、男へと尋ねる。男は頭を振った。
「馬鹿を言うな……相手は子供だぞ……子供なんだぞ……!?」
 吐き捨てるように、恐ろしいもの見るように、男は言った。言葉を吐き出す。
「撤退する……! 俺たちでは、おそらく太刀打ちできん……!」
 様々な意味をもつ、その言葉だった。警部部隊が退いていくのを、少年は冷たい目で見据えていた。
「多分近いうちに、敵は増援を連れてくる」
 少年が言った。
「傷ついた子は手当てを。それ以外は交代で番をして」
「ミェス、ローレットは来るのかな」
 別の少年が、ミェスと呼ばれた彼に声をかけた。
「ぼく、ローレットが許せないよ。ラサにいった家族たちを、ローレットは全員殺したんだって。マザーが言っていたよ。降伏したのに……スヴィ、ピルモ、クスティ……ミーサにオイリ、ヨエルも、ローレットは殺したんだって」
「分かってる。みんな帰ってこないのがその証拠だ、ユリウス」
 ミェスはが頷く。
「もしローレットが来たなら、ぼく達で復讐しよう。マザーの言う通りに、彼らを殺して、家族の無念を晴らすんだ」
 ミェスは空を見上げた。
 森林迷宮の空は、木々に隠れて見せない。
 それは、少年たちの行く末を暗示しているようにも見えた。

●深緑に、子供達は隠れて
「……オンネリネン、って連中でしょうね」
 『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)は、深緑に存在するローレットの出張施設で、そう言った。ファーリナの傍らには、警備隊長の男がいて、今は腕を布巾で吊っているのが痛々しい。
 オンネリネン。それは、アドラステイアに本拠を構えると目される、『子供達の傭兵部隊』である。先ごろラサで発生した<Raven Battlecry>事件にてイレギュラーズ達が遭遇した事を皮切りに、各地でその活動が確認され始めているらしい。どうやら、この度深緑でもその行動を確認されたようだ。
「連中は、密猟者が雇った傭兵部隊だ。確認した限りで、数は20。偵察した限りじゃ、こちらが手も足も出ずに逃げ出したのに調子に乗ってか、密猟者は現場から動いてないらしい。徹底的に、『ノノリの花』を狩るつもりなんだろう」
 男が言う。
「ノノリの花をとられてしまうのも問題だが、このまま連中を逃して、深緑を『割のいい狩場』だと思われてしまうのも問題だ。確実に彼らを捕らえ、相応の罰を与えなければならない」
「そうですね。このまま勝ち逃げされるのも癪です。ただ、オンネリネンは」
「ああ、事情は分かった。その処遇は……殺すにしても、捕まえるにしても、ローレットのアンタたちに任せよう。……すまないが、あんな悪夢みたいな光景はもう見たくはない。俺にも娘がいるんだ……それと同じくらいの子供がだぞ。剣を持って、冷たい目で斬りかかって来るんだ……冗談じゃない」
 其れはまさに、悪夢のような光景だろう。家族のためを標榜し、死を恐れず襲い来る子供達の傭兵部隊。これが悪夢でなかったらなんだというのか。
「ん……では、私たちの仕事は、密猟者たちの確保と、子供達の無力化ですね。生死を問わず」
 ファーリナはそう言って、イレギュラーズ達へと視線を送った。
「対処方法は任せます。悔いのないように戦ってください。ご武運を!」
 そう言って、ファーリナはイレギュラーズ達を送り出した。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 深緑にて、傭兵を雇った密猟者たちが現れたようです。

●成功条件
 1.すべての密猟者を生きたまま確保する。
 2.すべてのオンネリネン傭兵を無力化する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 深緑に咲く、希少花『ノノリの花』。様々な薬効を持ち、他国では高額で売買される可能性の高いそれを、密猟者たちが狙っています。
 密猟者たちは、己の身を守るために、傭兵部隊に護衛の依頼をしたようです。
 その傭兵部隊の名は『オンネリネン』。子供達のみで構成された傭兵部隊で、その出自はアドラステイアに関連するようです。
 深緑の警備隊長からのオーダーは、密猟者たちの確保。オンネリネンの傭兵たちに関しては、無力化を依頼されていますが、生死は特に問われていません。
 作戦決行時刻は夜。フィールドは森林地帯。木々により、足場が悪かったり、視界が悪かったりします。
 また、深緑なので、可能な限り火の使用は最小限にしてください。(とはいえ、火炎を放つ攻撃スキル等は使っても大丈夫です……「このスキルで森を燃やすぜ!」とかじゃなければ。)

●エネミーデータ
 密猟者 ×3
  深緑に現れた密猟者の男女です。
  戦闘能力はほとんどありませんが、護身用のナイフや、マジックアイテムなどで反撃を行ってくることが予想されます。
  依頼の成功条件は彼らの『捕縛』なので、殺さないように注意してください。

 ミェス ×1
  オンネリネン傭兵部隊の少年です。リーダー格。黒髪で、目のぱっちりした男の子。
  剣士タイプとしては優秀な性能を持ちます。彼が戦場に存在する限り、すべてのオンネリネン所属ユニットは、命中・回避性能がわずかに上昇します。
  リーダータイプですが、結構積極的に前に出て戦います……お兄ちゃんは、皆の前に立って戦うのです。
  なお、ミェスを含め、オンネリネン所属のユニットは『説得には応じず』『家族と兄弟のために死ぬまで戦います』。また、なぜか皆さんに強い憎悪を抱いています。

 ユリウス ×1
  ミェスの『弟役』。こげ茶の髪で、実は正義感の強い男の子です。
  魔術師タイプのまとめ役で、彼が戦場に存在する限り、すべてのオンネリネン所属魔術師兵は、神秘攻撃力がわずかに上昇します。
  後方にいることが多いです。ミェスが前を守ってくれるから、彼は安心するのです。

 オンネリネン剣士兵 ×9
  オンネリネンに所属する、剣士タイプの少年・少女兵です。
  皆さんより性能は劣りますが、大人顔負けの剣技を披露してきます。

 オンネリネン魔術師兵 ×9
  オンネリネンに所属する、魔術師タイプの少年・少女兵です。
  皆さんより性能は劣りますが、大人顔負けの魔術を披露してきます。

●参考:オンネリネンの子供達
 <Raven Battlecry>事件にて、『子供たちの傭兵部隊』と呼ばれ、イレギュラーズ達と戦った経緯のある、『十歳前後の少年少女で構成された傭兵部隊』です。
 これまで戦った少年少女の多くは戦闘後イレギュラーズに保護されています。
 以下参考シナリオ。
<Raven Battlecry>孤児たちの墓穴
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4726
<アアルの野>幸せな子供たち
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4999

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
 

  • 森に、子供達の憎悪は潜んで完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月12日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
レン(p3p009673)

リプレイ

●夜森と密猟者、そして
 穏やかなはずの夜の森に、些か剣呑な空気が満ちて居る。
 夜を休む動物たちの声だけが響くはずのその森に、今は無数の人の気配を感じる。
 仄かに香る油のにおいは、カンテラか松明のそれか。
 『ノノリの花』の群生地に、今宵再び、悪の手が忍び寄っていた。
 そんな静かな森を見つめるのでは、ローレット・イレギュラーズ、『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)だった。
「……深緑の地を害し、同族を傷つけるコトを許す訳にはいけません。ですが……」
 ドラマは、ふう、と息を一度吐くと、続けた。
「子供達の傭兵部隊、ですか。何か事情がある様に思いますが……アドラステイアとやらの関連でしたか?」
「うん。アドラステイア、オンネリネン部隊……アドラステイアは、相変わらず子供をいいように使っているらしいね」
 マルク・シリング(p3p001309)が、サイバーゴーグルの調子を合わせながら、言う。
「報告を読んだ限りでは、オンネリネンは内向きのコミュニティを作り、洗脳を施されているらしい。命惜しまず戦え、家族のために、ってね」
「見事に。面白いほどに洗脳されているようですね」
 レン(p3p009673)が言った。呆れるような、感心するようなため息。
「せっかく外で自由になれているのですから、己で真実を確かめるよう考えたりしないものなのでしょうか」
「それだけ、強固な洗脳を施されれていることなのでしょう」
 『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)が、不機嫌そうに、その形のいい眉をひそめた。
「信仰とは、その者の心の芯に紐づくもの。アドラステイアの施す偽りの信仰は、その心の芯をも蝕み、利用するのですから」
 正純が、ぐ、とその手を握りしめた。やり場のない怒りをそこに向けるかのように。
「……それで傷つけられるのが子供ってのが気に食わないやり口よね」
 頭に手をやりつつ、『never miss you』ゼファー(p3p007625)が言う。胸に浮かぶのは、僅かな同情と憐憫。
 子供達は、神に捨てられ、神に拾われた。その拾った神が死神であったとしたら、はたして拾われた子供たちは幸せであれるのだろうか。
「皆、聞いて。私は今日、ここで、誰も死なせたくない。誰一人、よ」
 ゼファーの言葉には、確かな決意がこもっている。
「手伝ってとは言わない。私の我儘だもの。でも、私の行動を見逃してくれると嬉しい」
「大丈夫だよ、ゼファー君」
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が微笑んで応えた。
「皆、そう思ってるよ。誰も死なせないって。だから、一緒に頑張ろう」
 アレクシアの言葉を後押しするように、仲間達は頷いた。ゼファーは一瞬、目を開いてから、
「ありがと。じゃあ、がんばりますか?」
 にっ、と笑ってみせた。
「裏には、子供達を利用して、いいように消費してる奴らが居るんだ」
 『両手にふわもこ』アルム・カンフローレル(p3p007874)は、静かにそう言った。アドラステイアの教導者たるティーチャーやマザー、ファーザーたち。
「俺は、そんな奴らは許せないよ。子供達を助けてやりたいって思う」
 それは、仲間達も想いを同じくするところであっただろう。少なくとも、積極的に子供達の命を奪って良しとするものは、ここには居まい。
 意を決したように、一行は森を行く。やがて松明やカンテラの明かりが、闇の森の中にはっきりと見えるようになってきた。人がいる。一般人であるはずがないのだから、これらは間違いなく、敵の放つ明かりであるのだろう。
「……木々に情報を聞きました。この先に布陣していますね」
 レンが言うのへ、『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)が頷いた。
「予定通り、正面からぶつかることになるけれど。準備は良い?」
「ええ」
 ゼファーが言う。
「悪い奴をやっつけて、迷子の子供達を拾いに行くの。真正面から真っすぐ、最短距離で。それ以外の選択があるかしら?」
「了解。援護は任せて。こっちはこっちで、誰も死なせたりしないよ」
 ルチアの決意の言葉に、ゼファーは目を細めて頷いた。
「行きましょう――皆!」
 その言葉に、仲間達は一斉に走り出した。ざ、ざ、ざ、と木々と草をかき分けて、森林をかけるイレギュラーズ。それを確認したオンネリネンの少女が、声を張り上げた。
「敵襲! 敵襲!」
「深緑の警備隊?」
「ちがうよ、たぶん、ローレットだ!」
 子供達が各々武器を抜き放ち、迎撃の態勢をとる。リーダーと思わしき少年が、駆けだして最前線に突撃する。
「剣士隊は前へ! 術士隊は後方から攻撃! 術士隊はユリウスに従え! いつも通りやればできる!」
 剣を抜き放った子供達が、森に駆けだした。かくして、イレギュラーズ達は彼らと衝突する――。

●憎悪に焼かれて
「聖なるかな、聖なるかな、降り立ちて我らに力を!」
 ルチアが祝詞をとなえ、その手を振るう。放たれた聖なる力がアレクシアを包み込み、聖躰の加護をその身に宿す。
「ありがとう、ルチア君!」
 アレクシアはウインク一つ。
「ゼファー君、敵を引き付けるよ!」
「OKです! ボーヤたちと遊んであげるとしましょ!」
 ゼファーと隣立ち、構える。
「心を侵せ、赤の花よ!」
 アレクシアがその手を突き出す。途端、その手に出現する魔力の塊。それは静かに脈打ちながら、やがてさく裂した。それは、赤き花がその花弁を周囲に散らすような様にも見える。さく裂した魔力塊、その衝撃波が、前衛剣士たちを貫いた。敵視がアレクシアに集まる。ゾッとする、何か憎悪のようなものを、アレクシアは感じ取った。それは、己の魔術のせいではない、子供達から向けられる、純粋な敵意だった。
「なに……この感覚? 憎まれてるの……?」
「遊ぶなら私とにしなさい、ボーヤたち!」
 ゼファーの声に、ミェスが応じた。その手に剣を構え、ゼファーへと突撃する。振るわれる斬撃。一振り。二振り。大人に引けを取らぬ、鋭い斬撃を、ゼファーはよけ、或いは手にした槍ではじき返した。
「ローレットだな!」
「ええ、そうよ!」
 ゼファーが叫び、槍を振るう。上段から払われたそれを、ミェスは後方に飛んで回避。すぐに前方を駆けだすと、ジャンプしながら刃を振り下ろす。
「魔女め、悪魔め! よくも皆を殺した!」
 振り下ろされた刃を、ゼファーは槍の柄で受け止めた。
「ごめんね、心当たりがないわ!」
「あなたたちの身に起きたことは聞き及んでおります。が、そもそも傭兵稼業は命の取り合いですよ」
 レンがそう言って、魔力弾をうち放つ。宙を飛ぶそれが、ミェスを狙い――ミェスの肩を撃った。くぅ、と呻き、ミェスはゼファーから距離をとる。
「ですが――それを差し引いても、私たちには恨まれる理由が思い浮かびませんね。あなたの仲間達は、可能な限り全員を保護しているはずです」
「嘘を言うのか!?」
 ミェスが吠えた。
「誰一人帰ってこないんだ! 殺しておいてよくもそんなことを言う!」
「まって! あなたたち、私たちのことをどう聞いてるの!?」
 アレクシアがたまらず尋ねた。アレクシアに刃を振るう、女の子が怒るように言った。
「何言ってるの!? ラサで降伏した皆を殺したんでしょ!?」
「殺した!?」
 振るわれる刃を魔術障壁で受け止めながら、アレクシアが声をあげる。
「私たちは、誰かの命を無闇に奪ったりはしていない!
 あなた達のことだって助けたいんだ!」
「そんなこと……信じられないよ!」
 女の子は怒りと憎悪を隠す様子もなく、アレクシアへと斬りつけた。振るわれる刃。憎悪の発露。アレクシアの背筋に、何か冷たいものが走る。わずかな逡巡が、アレクシアの動きを鈍らせた。憎悪の刃はアレクシアの肩を切りつけ、血をにじませる。
「く、うっ!?」
「アレクシアさん!」
 正純が声をあげた。同時に放たれる、矢の一撃が、女の子の肩口を貫いた。
「ううっ!」
「きっと……この子達は話を聞いてはくれません。アドラステイアのやり口は分っています……言葉では、今はこの子達は止まらない……!」
 正純が再度、弓を引き絞る。同時に、ユリウスが叫んだ。
「あの弓使いの人を狙って!」
 途端、放たれる炎の魔術が正純を狙って放たれる。どん、どん、どん、連続で放たれる焔の魔術、正純は駆けだしてそれを回避。正純を追うように、赤い炎が着弾し、その足跡を炎で照らした。
「だけど……声をかけることはやめたくない! 今は通じなくたって、心をぶつけることは必要なんだよ!」
「分かっています……分かっています、けれど!」
 正純は顔を歪めながら、地を滑る様にかけつつ矢を放つ。放たれた魔性の矢が、術士の少年を貫き、意識を失わせた。分かっている。けれど今は、力を以ってしなければ、彼らを止めることはできない……!
「アドラステイア……ッ!」
 ぎり、と正純は歯を食いしばる。現状への怒りに。アドラステイアへの怒りに。
「リーダー格の子を先に止めます!」
 ドラマが叫び、ミェスへと飛び掛かる。振るわれる、蒼の魔術剣。その剣先か放たれるのは聖光。裁きのそれがミェスたちを穿つ。
「くっ……怯まないで! 死ぬのを怖がるな!」
「死ぬのが怖くない人なんていないでしょう!?」
 振るわれたミェスの剣を、ドラマは鞘ではじき返した。
「あなた達は歪んでいます……そうさせたのは、ティーチャー? それともマザーですか?」
「マザーは僕たちに生きる場所と力をくれたんだ! だから……!」
「子供に死ねなんて言う母親は間違ってるんです!」
 ドラマは再び、蒼の魔術剣を振るう。斬撃のように放たれる聖光が、ミェスを貫いた。
「うう、くそ……っ!」
 ミェスが光に貫かれ、その意識を失う。子供達が浮足立つのを感じた。
「マルク! 突破して密猟者たちを確保して!」
 ゼファーが叫ぶ。マルクは頷いて、駆けだした。
「分かった! アルムさん、手伝って!」
「うん、行こう!」
 アルムが頷き、その後を追う。果たして二人の前には、浮足立ち、逃げるそぶりを見せた密猟者たちの姿があった。
「ガキどもは何をやってるんだ!?」
 密猟者の男が叫ぶ。
「くそっ! 所詮ガキか、使えない――」
「その子供に護ってもらって、それで悪事を働いて……何を言っているんだ!」
 マルクが叫んだ。手にした杖を掲げる――その先端に輝くは聖なる裁きの光。
「マルク君、あわせるよ!」
 アルムはマルクのそれに重ねるように、己の杖を掲げた。クロスする杖。先端に輝く、二つに裁きの光。それはさらに輝きを増したように見えた。
「悪しきを裁け、義憤の女神よ!」
「神気、閃光……!」
 放たれた裁きの怒りが、密猟者たちを撃ち貫く。元より戦闘能力など持ち合わせていない輩たちである。マルクと、アルムの連続攻撃を浴びては、とてもではないがひとたまりもない。
 三人の密猟者たちは次々と倒れ伏し、そのまま意識を失った。二人は密猟者たちに駆け寄ると、そのまま縛り上げる。
「もう、君たちの雇い主は倒れた」
 アルムが声をあげた。
「戦う必要はないんだ……!」
「だ、騙されちゃだめだ!」
 ユリウスが叫ぶ。
「投降したって殺されるだけなんだ……あいつらをやっつけて、皆を助けないと!」
「くそっ……どうしてそうなるんだ……」
 マルクが悔しげにうめいた。オンネリネンの子供達も、イレギュラーズにより次々と昏倒させられており、壊滅は時間の問題と思われた。だが、それでも彼らは、戦いを放棄しようとしはしなかった。
「降伏しても殺された……? はてさて、戦場に、あなた達のマザーは居ませんが、その事を誰が伝えたというのでしょう?」
 レンの言葉に、ユリウスが叫んだ。
「マザーから聞いたんだ! 偵察に出ていた子が調べたって……!」
「帰って来なかったのは、帰る必要がなくなっただけですよ。偽りだらけの楽園、その欺瞞に気づいたが故に、子は楽園には戻らなかった」
「……気づいてください、あなた達は、その信仰を利用されているのだという事に……!」
 正純が叫び、矢をうち放つ。矢じりの先端を潰した殺傷性の低いそれが、ユリウスの腕に当たった。
「信仰は! ……信仰が、あなた達に一方的な犠牲を強いるなら、それは嘘なんです!」
「う、うるさい!」
 ユリウスが激しくかぶりを振りながら、叫んだ。その絶叫に応じるみたいに、オンネリネン部隊の最後の猛攻が始まる。残った剣士たちが一斉にイレギュラーズ達に切りつけ、それを援護するように火球と氷柱が舞った。イレギュラーズ達はそれを受け、或いは回避し、反撃に転ずる。剣士たちを昏倒させ、術士たちを昏倒させる。辛い時間だった。混乱し、泣きわめくような子供達を、自らの手で打たなければならないとは。
「正直、こんなに真っすぐに憎悪をぶつけられるとしんどいわね……嫌な戦いだけれど……けど!」
 ルチアが歌う。精一杯に。天使の救いの音色が森に響いて、仲間達の傷を癒した。心まで癒せたなら、と刹那、思う。だがそれもまた戯言ではあるのか。
「もう終わらせよう、皆!」
 ルチアの叫びに、イレギュラーズ達の攻撃が始まる。敵の攻撃に身体に傷を、己の行為に心に傷をつけた。されどそれも今は、すべてをすくためだと痛みを飲み込んだ。
「これで最後よ、ボーヤ」
 ゼファーがユリウスへと迫る。放たれる火炎の術式、ゼファーは着弾する其れの合間を縫って、ユリウスへと接敵した。
「向いてないわよ、傭兵なんて。やめなさい。あなたみたいな子が、やるような仕事じゃない」
「けど……他に生きてく方法なんて、僕たちにはないんだ……!」
 ユリウスが言った。ゼファーはつらそうに顔を歪めた。
「思い込みよ。あなた達にはいろんな未来が待ってるんだから。今は……頭を冷やすためにも、おやすみなさい」
 ゼファーが放つ一撃は、華やかな白百合の如き一撃だった。本来なら乱撃となるそれを、ゼファーは一撃に全てを込めた。一撃で眠らせてやろうと決めた。白百合の一撃か、ユリウスの意識を奪った。どさ、とユリウスが地に倒れ伏す。息はある。全員。子供達は誰一人、死んではいない。
 イレギュラーズ達が追った傷は大きい。それでも、救えたのなら。この結果がもたらされたのなら。
「ま、悪くない痛みね」
 ゼファーは槍に身を持たれかけさせて、ふう、と息を吐いた。新緑の夜森は静けさを取り戻して、穏やかな静寂があたりを包んでいた。

●そしてこれから
「ドラマ君、こっちの子たちは治療を終えたよ」
 アルムがそう言うのへ、ドラマは頷いた。
「こちらもあらかた……ルチアさんは?」
「大丈夫。全員治療を終えたわ」
 ルチアが頷いた。戦いを終えたイレギュラーズ達は、まず子供達の治療に当たった。密猟者たちは縛り上げていたが、子供達からは武器を取り上げただけで、特に拘束はしていない。
「……手荒な事して、ごめんね。でも、私達の気持ち、わかってくれたかな。あなた達を、傷つけたくないって」
 アレクシアが言うのへ、ミェスは警戒の目は向けつつも、ゆっくりと頷いた。
「今すぐに、殺されないって事は」
「今はそれでいいよ」
 アレクシアが微笑んだ。
「もう一度言うわ。私たちは、あなた達オンネリネンの子達を、わざわざとって殺したりはしてません」
 ゼファーが言う。
「むしろ……保護したいと思ってるわ。あなた達、こんな事するべきじゃないのよ」
 懐から飴玉を取り出して、子供達に配って回る。子供達は不思議そうに、それを見つめていた。
「ただの飴玉よ。余ってたからあげる……で、あなた達をアドラステイアに返すわけにはいかない。けど、最大限あなた達の意思は尊重するわ」
「ラサに現れたあなたたちの仲間は、ローレットに保護されています。
 我々はあなた達に無用な血を流して欲しくはない」
 正純が言った。
「私たちは、あなた達を保護する用意があります。これでも、領地を持っているものですから、あなた達を引き取る事は出来ます……その際、どこへ行きたいかの希望は聞きますよ」
「戦いで命を危険に晒す事無く、ちゃんと衣食住を提供できる場所がある。少しの間でいいからそこで暮らしてみて、家族と住むにはどちらがいいか、考えてみてもいいんじゃないかな?」
 マルクが言う。
「もちろん、捕虜になったんだ、と思うのなら、それでもいい。いずれにしても、君たちの身を保護する。これだけは約束するよ」
「本が好きなら、私の領地に来ると良いですよ」
 ドラマが微笑んだ。
「それしか取り柄がないともいいますけれど……本が好きなら、退屈はさせません」
「相談させて」
 ミェスがそう言うのへ、イレギュラーズ達は頷いた。
「……すぐには打ち解けられませんか。閉ざされた世界の独裁は、かくも人を惑わせる……」
 レンが言った。強固な洗脳は、そう直ぐには解除できないだろう。
「けれど、選択肢は増えたはずよ」
 ルチアの言葉に、仲間達は頷く。
「子供達、か。幸せになれると良いね」
 アルムが呟いた。
 かくして子供達は各イレギュラーズ達の領地にて保護されることとなる。
 彼らの未来がどうなるのかは、今はまだわからない。
 だが、より良き道が示されたことは、間違いないだろう。
 子供達を伴い、そして密猟者たちを連行し、イレギュラーズ達は帰途へ着くのであった。

成否

成功

MVP

ゼファー(p3p007625)
祝福の風

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、密猟者たちは捕まり、相応の罰則を受ける事でしょう。
 オンネリネンの子供達は、皆様の領地へそれぞれ保護されていったようです。

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