PandoraPartyProject

シナリオ詳細

みんな~卜口になるニャ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――王都メフ・メフィート郊外。
 その一角に名も無き廃墟があった。廃屋ばかりが立ち並ぶ、不思議な区画……
 かつてはジェック・アーロン(p3p004755)が居座っていた場所でもあるのだが、彼女も住処を移してからは冷たい風が吹き荒ぶばかりであった。
 ただし。

「…………ニャ」

 時折、近くを通り掛かった者が奇妙な『鳴き声』を聞くという噂話がある。
 どこを通るにも視線を感じ、されど周囲を見渡しても誰もいない。
 気味が悪くなった者は早足で駆け抜けていくばかりで……
「ふふーん、成程。もしかしたら怪王種の類かもしれませんね……!」
 やがてその話を聞きつけたリリファ・ローレンツ(p3n000042)が(ほとんど興味本位で)廃墟の地へと訪れる。幻想王国各地を最近妙な魔物が襲っている……という事件は一旦落ち着きを見せつつあるが、しかし無くなった訳でないのであれば『そう』かもしれない。
 確かめる事は必要だ。意気揚々と廃墟内を散策するように見て回れば――
「……ニャ」
 確かに聞こえる。
 建物の陰から。或いは、草木の奥から……
 ――なにかいるのは間違いなさそうだ。無害なら良し、しかし害ありし魔物の類なら。
「退治が必要ですね」
 リリファに緊張が走る。ここにいるのは己一人……はたして敵なら倒せるか否か。
 まぁ自分一人だけで必ず打倒する必要はない故に、いつでも逃げられる態勢だけは整えておこう。いざとなれば頼りになるイレギュラーズを連れてもう一度ここに来ればいいだけの話なのだから。
 ――建物内から再度声が聞こえる。
 気配もあれば、意を決して中に踏み込んだ――
 瞬間。

「…………ようこそだニャ」

 リリファの背後。肩を掴まれると同時に耳元で囁かれる――あの『声』があった。


「大変だ皆! リリファがリリ口(りりぐち)になった!!」
 ギルド・ローレット。そこでイレギュラーズ達へ聞き慣れない単語を口走ったのはギルオス・ホリス(p3n000016)だ。え、なに? リリ口……? リリ口ってなに?
「ああ、すまない結論を急いでしまった。
 リリ口の事を説明するには――まずは『卜口(うらぐち)』の説明から必要かな」
 説明しよう! 卜口(うらぐち)とは奇妙な猫の着ぐるみを被った謎の人物の事である。旅人とも精霊とも言われているが……その詳細は明らかになっていない。そればかりか今までに深緑や練達の方でも目撃情報があった神出鬼没な存在だ。
「奴は一人なのか複数存在しているのか……それも今一つよく分からないんだけど、卜口にはまた別の噂がある――それは、卜口に捕まるとその人物も『卜口』にされてしまうらしんだ」
「なんて?」
「そしてリリファは恐らく奴に捕まってしまった……リリファが訪れた廃墟へと、僕も遠目から調査を行ってみたんだけどね」
 そうしたら其処にいたのは――
 卜口と同じような着ぐるみを被ったリリファの姿だったという。
 遠目にしか確認できていないが、しかし廃墟の中を妙な着ぐるみ姿で動き回る彼女はとても正気とは思えなかった。『むきゃーむきゃーにゃ』という発言を繰り返しながら、まるで散策する様に廃墟に留まっているのだとか……
「ええ……なにそれどうなってるの?」
「さっぱり分からない。卜口に捕まると卜口になるというのは本当かもしれないね……だから、皆には現場に急行してもらって事態の確認をしてほしいんだ。卜口の力が本当に存在しているのかを……!」
 なんで!? と思わず口に出した者もいるのだが――一応、正式な依頼ではあるらしいのだ。『廃墟から奇妙な声がして怪しいから調べてほしい……ニャ』という近隣住民からの依頼書が届いている。
「ちょっと待って、なんかその依頼書怪しくない?」
「まぁリリ口を放っておくのもアレだし……頼むよ。別に卜口が本当にいたとしても倒す必要はない。とりあえず行って、何が起こっているのかを調べてくるだけでいいんだ」
 ……まぁそれぐらいならまだいいか?
 うーん、とにかく卜口の存在を確認すれば良い、というだけならそう難しくもない依頼だろう。リリファを適当に回収して、後は逃げ切ればいい。捕まったら卜口になる、という話だけは警戒する必要がありそうだが……しかし意志を侵食する類なら、強い精神で跳ねのける事が出来るのもまたお約束という奴だ。
 もしかすると卜口と『鬼ごっこ』をするような羽目にはなるかもしれない。
 が、一般人ならともかくイレギュラーズなら卜口一人程度に遅れはとるまい……! いやリリファは不覚を取ってるけど、とにかく油断さえしなければどうとでもなると確信して――その時。

『みんな……卜口とあそぼうニャ?』

 イレギュラーズの耳に何か言葉が届いた様な気がした。
 が、ここはギルド・ローレットだ。まさかな……そんな筈はない。
 とにかく往こう。卜口が確かにいるかを確認し――そして皆で無事に戻って来るんだ、ニャ。

GMコメント

 Q:つまりこの依頼は一体?
 A:襲い来る卜口を排除したり、或いは卜口になったりして楽しむ依頼です。卜口になったとしても依頼終了後には意思を取り戻していますのでご安心ください、ニャ。

●依頼達成条件
 卜口(うらぐち)がいるかの確認。
(あとついでにリリファの回収)
 卜口の姿を確認したら帰還しても構いませんし、捕獲を試みても何してもOKです。

●フィールド
 名も無き廃墟、とされる場所です。時刻は昼。
 廃屋が立ち並び、人の気配はしない――のですが『何か』がいるような気はします。
 どこからか聞こえてくる声は猫の様で。
 しかし周囲を見渡しても気配は希薄です。
 暫く捜索しているとやがてリリ口を見つける事でしょう。

 ……その後からが本番かもしれません。
 どこからともなくやってくる卜口には気を付けておいてください――ニャ。

●卜口(うらぐち)×?
 謎の人物(?)です。旅人であるとされますが、ハッキリとはしていません。
 ジェック・アーロン(p3p004755)の親しい関係者だニャ。
 猫の様な着ぐるみを被り、その素顔は謎に包まれています。
 戦闘能力の類はありません。たぶん……

 卜口に捕まると『貴方は卜口になる事があります』
 これは強い精神力(プレイング)で跳ねのける事が出来ます。
 ……が、卜口と遊ぶニャという声に屈してしまうと貴方はいつの間にか卜口と同じような着ぐるみを着ていて、語尾に『ニャ』を付ける様になってしまうでしょう……ニャ。

 なお、卜口は一人とは限りません。

●リリ口(りりぐち)×1
 リリファ・ローレンツ(p3n000042)……ですが、まるで卜口の様な着ぐるみを着て『じぇっく……』と呟く存在『リリ口(りりぐち)』となってしまっています。廃墟に侵入した人物の死角に回り込んで捕まえようとしてくるようです。やはり卜口に意志を……
 やけに早いですがダメージのある攻撃はしてきません。むきゃむきゃ。
 元の意志を取り戻すかは不明です。とりあえず気絶させた方が早いかも。

●備考
 この依頼は卜口の姿を確認出来た時点で成功となります。
 万が一全員が卜口になっても問題ありません。ないったらない。
 卜口になっても、なぜか次の日になると皆ふらふらとローレットに帰って来ることでしょう――卜口の着ぐるみ姿で。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はJ(じぇっく……)です。
 想定外の事態は絶対に起こりませんニャ。安心してほしいニャ。

  • みんな~卜口になるニャ完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月31日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)
異世界転移魔王
鬼灯 長門(p3p009738)
特異運命座標

リプレイ


 じぇっく……

 幻聴か、それとも本当に――足を踏み入れると同時に脳内に響き渡る声がある。
 違う! こんなの絶対おかしい!
「どうしてよりにもよってアタシにこの依頼を持ってくるのさ! くそぉ! いくら勝手に居座ってたからってこんなのあんまりだ! 依頼を紹介したんだから一緒に来てよね、ギルオス!」
 どうしてッ! 『黒いガスマスク彗星』ジェック・アーロン(p3p004755)はとにかく生贄、じゃない道連れ……とにかく仲間が欲しかった。だって相手は卜口だよ? またあの『鬼ごっこ』が始まるなど冗談ではない――あ、この称号鬼ごっこのだ。
「ふふ! ジェック君、そんなに恐れなくても大丈夫さ! 卜口か何か知らないけれど、相手は猫! 私は虎だ! 大船に乗ったつもりで任せるといい! 猫と虎の違いって奴をみせてやるさ!」
 大丈夫かなぁとジェックは自信満々の『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)を見据えるのだった。ふふん! と得意げな表情のマリア。皆さんこの時の表情をよく覚えていてくださいね、約束ですよ。
 ――ともあれ件の廃屋の現場に入り込んだイレギュラーズ達。
 ジェックにとっては三年くらいは住み着いていた場所だった。地の利はこちらにある――と良いのだが、ひとまず一刻も早くリリ口を無力化し卜口を見つけて帰りたい所だ……

「ふふ……何を言うかと思えば、卜口などという奇妙な生物を調べずに帰る?
 ――何の冗談だというのかねそれは!」

 しかし『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)にとっては話が別だった。
 好奇心そそられる情報の塊ではないか。故にリュグナーはむしろ卜口の存在を確認すべくの探索を優先していた。なに、猫の扱いならば慣れているが故、簡単に背後を取られる事もないし、意識を持っていかれるという失態も……
「……あら? リュグナーさんはどこにいったのかしら?」
「えっ? さっきまでそこにいましたけど……あれ?」
 と、その時。『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)と『特異運命座標』鬼灯 長門(p3p009738)はリュグナーの気配が完全に消えている事に気付いた。あれれ~?
 猫さんだといいなぁなんて思いながら長門は歩いていたから気付かなかったが、しかしさっきまで確かにそこに……
「まったくもう別行動したら後で合流が大変なのに……あら? 今後ろで気配が……そこにいるのかしらね。先に行ってて頂戴。すぐに追いつくから――」
 そう言って向かった小夜も帰ってこなかった。こ、これはまさか!!
「早速脱落者がいるではないか! ええい、しかしあの者のように不用意に接触せずに行動すれば、この依頼簡単すぎるであるな。決して背後を取らせないようにすればよいのだろう? ハッハッハ!」
 まさかリュグナー達は捕まってしまったのだろうかと『異世界転移魔王』ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)は察するものだが――なぁにまだまだあと六人もいるのだ、全滅する事などありえまい!
「はははホントだよな! 小夜達もちょっと道に迷っちまっただけだろ!
 おーい! 卜口ー! でてこーい! オイラが遊んでやるぜー!」
「ホントニャ?」
「ああマジだって! だから出てこ……」
 瞬間。『ガトリングだぜ!』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)の耳元で確かに囁かれた声があった――が、そちらを瞬時に振り向いても誰もいない。
「ワモン、どうした? いきなりあっちこっち見て」
「いや別になんでも……それより卜口を連れてかえればきっとほーしゅーにボーナスがついてゴールドうっはうは! イカ食い放題だぜー! こーんなよゆーな依頼中々ねーよなー!」
 ジェックが不思議そうにのぞき込んでくる――ので、ワモンは笑い声と共に栄えある未来に想いを馳せる――おっ、そうこうしている内にリリファがいたぞ?
「おーい、リリファじゃねぇかー! なんだよ卜口がいるのかと思ったら拍子抜けしたぜー……おーいどうしたんだリリファー、帰るぞー?」
「……むきゃにゃ?」
 だがなんだか様子がおかしい。なんだあの猫の着ぐるみは?
 おいリリファ、なんでこっちに近付いて……な、なんだ? 様子が明らかに……うわああああ! や、やめろ! お、オイラはじぇっくじゃねぇ!
「く、くるな――!!」
「うわあああワモン君何してるんだい! ガトリングガンは仕舞って、うわあああ――!!」
「むきゃニャ――!」
 迫りくるリリ口の恐怖にワモンは銃撃を乱射。
 マリアが止める声すら届かず――廃屋の中で激しい音が轟いていた。

「……ニャ」

 そしてその影では、笑みを浮かべながら見つめる一人の卜口がいて……


「メリー・フ口ーラ・アベルよ。よろしくね!」
 ワモン乱射事件以降バラバラとなったイレギュラーズの内『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は謎の猫の着ぐるみに挨拶――をしたら、肩にタッチされた。ああ、また卜口に捕まった者が一人!
「はぁ、はぁ! どうなってるんだコレ……!? どうしてこんな事に……!」
 その最中ジェックは逃げていた――マジで姿見たら帰るつもりだったのだが、どうしてこんな事に。

 じぇっく……
 じぇっく……
 じぇっく……

 耳に聞こえてくる声もなんだか増えている気がする。建物の陰に潜み気配を消失させ、多くの探知から身を隠すステルスもフル活用――とにかく捕まらない為に全力であった!
「もしかしたら次の瞬間にはその隅っこにでも――あれ、ここってこんな恐怖の地だったっけ……」
 もうちょっと静かで綺麗な場所だった気がするのだが。
 暗い場所にも視線を巡らせ足音が聞こえないか耳も澄ます――そうしたら。
「みんな……どうして逃げるニャ……? 小夜口と遊ばないのニャ……?
 あ、わかったニャ、皆でかくれんぼ――いや鬼ごっこで遊ぶのニャ」
 足音を忍び足で殺している小夜の気配がいつの間にか近付いていた。うわあああ小夜が卜口にやられてるううう!
 彼女の機動力は正に圧巻の一言。逃げる? 無意味だ。隠れる? 面白い。
「すぐに捕まったらつまらないニャ。さー……どーこーかーニャ……?」
 廃屋の一つに突入する小夜。微かな物音も捉える彼女の耳が、皆を追うのだ。そして。
「ここかニャ?」
 錆びついているのか開かない扉があれば――大鉈をぶち込む。
 強引に開くために。一発二発三発……衝撃で壊れた隙間に顔を張りつけ中を覗く――
「じぇっく……まりあ……もっともっと遊ぶのニャ……」
 ここにはいないと確信すれば大鉈引き摺りながら彼女は外を練り歩く。
 本物の様に動く猫耳カチューシャと付け尻尾が小夜口の恐怖と共に――
「どうして……どうしてこんな事に……?
 すまないジェック君……もしかすると君を守り切れないかもしれない……」
 そんな中マリアはとある廃屋のベッドの下に潜り込んでいた。
 というか卜口って一匹じゃなかったのか――? たくさん声が聞こえるし、それ所か小夜君みたいになんか増えてるんだけど――!? 聞いてない情報が盛り沢山でもうこわすぎる。たすけてヴァリューシャ……(鳴き声)
「ううん、でもこのままじゃ捕まっちゃう! 一刻も早く脱出しないと……!」
 おそるおそるベッドの下から周囲の様子を伺うにゃんこ……違うマリア。
 そうだ――恐れてばかりでは進まない――!
「しかし周囲から猫の声ばかりして……一体どこに卜口がいるのか……」
 同時。長門もまた同じ結論に至り卜口を探しているのだが。
「でもこれだけ猫の声が聞こえるんだったら……もしかして本物の猫も混じってるんじゃないですかね……? 野良猫がいたって不思議じゃない環境ですし……」
「そうニャ。時々そこの隅っこで猫集会が開かれていたりするニャ~」
「へー! やっぱりそう……なんです……か……?」
 刹那。いつの間にか隣を歩いていたのは――件の卜口!
 うわあああああ注意していた筈なのに、どうして!
「不思議がることはないニャ~だって卜口はこれぐらい当然ニャ」
「え、あっ、はい、そうですね!?」
 全く理論立っていないが何故か納得してしまう気がするので不思議だ。
 しかし卜口は長門を襲ってくる気配はない……近くでまじまじと見てみれば、確かに猫……いや猫の着ぐるみを被ってるだけの人間……人間ではなさそうだな少なくとも……ニャってつくから猫の一種だとは思うのだが。
 ともあれどう動いたものか。
 襲い掛かられるのであれば迎撃も考えたがしかし、うぅっ……!
「や、やはり猫の形をしたモノに危害を加える訳には……!!」
「大丈夫ニャ。長門も卜口になれば解決するニャ」
「いやイレギュラーズとしてここに来ている以上そういう訳にも……あれ、今なんで僕の名前」
 不意を突かれた一瞬で肩タッチされた。あー! 長門ォォォ!
「ふぅ……まさかあんなことになるとは思わなかったぜ……リリファのやろー、驚かせやがって……しかし逃げてる間にすっかり仲間ともはぐれちまったな……まずは仲間と合流するとこからだニャ……」
 そして段々と増え続ける卜口イレギュラーズ。
 ワモンもまた先の騒動の最中にリリ口に捕まり『ワモ口』と化しつつある……廃屋の中をさまようアザラシは今はゆっくりだが、見つければ高速ですり寄っていく害悪アザラシとも言うべき存在になるだろう……想像するだけでこわいよぉ。
「くくく、だが! さすがにあやつらには魔力探知のような物はないはず……
 ならばどうとでも出来ようものよ!」
 卜口自体の姿は見たルーチェは現在追手から逃れるために暗がりに潜んでいた。
 ダークネス・ルーラーの効力で彼女は闇に染まりやすい。くくく、これならば見つかるまい……
「こんなカオスな状況、さすがの余もついていけぬのでな。悪いがこのまま脱出していただk……」
「え、もう帰っちゃうのかニャ?」
 瞬間。そんなルーチェの隣に体育座りでいたのは――ば、ばかな!!
「なっなんだ貴様ら!? いつの間にそこに……まさか余が見えているのか!?
 そんなはず……! ま、待て! 話せば分か……やっやめ……」

 にゃ~~~~~~~~~!!

 轟く絶叫。後に残っているのはジェックとマリアぐらいか、そんな! もう負け確定では!?
「なんか今凄い失礼な事を天の声に言われた気がする……!
 くっ、でもこのまま卜口に負ける訳にはッ――!!」
 いざとなればギルオスを盾にすればいいやと動き出したジェック――しかしそこへ。

「じぇっく……ようやく見つけたニャ……」

 聞こえてきた声は、リュグナ――?
「じぇっく……トロはいいニャ……この着ぐるみの中では、皆平等ニャ。
 胸の無いリリ口も、平べったいのが目立たないニャ。
 リュ口(りゅぐち)のこの角も、目も……等しく隠れてくれるニャ」
 建物の上――屋根の上に立つは、卜口の着ぐるみを来ている……リュ口! あ、リリ口に頭噛まれてる。
「みんな、いっしょ……みんな、平等……
 だから、きさまらも……トロになるニャ……?」

 あ そ ぼ う ニ ャ ?

 襲撃してくるリュ口。同時、ギルオスをブン投げ囮にすると――超加速に至るジェックは絶対に捕まるまいと逃亡開始。じぇっく君って奴はさあああ! という文句がなんか聞こえてくるけど知らない見えない聞こえない!
「じぇっく……じぇっく……」
 だってあんな連中まともに相手するなんて出来ないし!!
 ジェックの影を追っていくチェイサー・卜口。
 逃がさない――まだ遊び足りないんだニャとばかりに!


 リュ口は至福の中にいた。着ぐるみは心地よく、まるで原初の温もりが如く。
 いやそれだけではない――『卜口の輪』の中にいると何故かそれだけで落ち着くのだ。
 だから一緒に此処に来た者も仲間にしてあげるニャ……!
「じぇっく……じぇっくは北に逃亡してるニャ……追い立てるのニャ……」
 統率のリュ口が号令を出す。
 さすれば廃屋の中から、木々の隙間から、或いは空中から次々と卜口たちが飛び出してきてジェックを追い詰めんと一気に集合を……いやお前達本当に何者なんだよ!
「マリア! マリア――! まだ無事!? 無事だったら助けて――!!」
 空に向かって銃撃放つジェック。
 本当は卜口たちにブチ当てたいし牽制にしたいし、なんなら建物を壊して障害物にでもしたいのだが――なんかギルオスが駄目って言ってた。どうせ廃屋だしスラムになる前に取り壊しちゃっても良くない? だめ? そんなー
 瞬間。ジェックの視界端から至る一つの閃光があった。
 それは。

「ふっふっふ――虎は朽ちない、滅びない! 虎の誇りを抱いてマリア・レイシス見参!」

 卜口たちをぺしぺしと薙ぎ払いつつ訪れた――マリアだ!
「ジェック君! 卜口の姿は見えたよ、これで依頼は成功だ……さぁ早く逃げよう!」
「――まりあ、そんな所にいたのかニャ……」
 勇ましく現れたマリア――の背後。
 刹那に縮こまる。なぜなら『聞こえた』からだ。
 大鉈を引き摺る音が。猫耳カチューシャを付けんとしている――小夜口が。
「まりあ……じぇっく……小夜口たちとあそぶニャ……?」
「ひぇ!? 小夜君!? これはいけない! 小夜口君は流石に私の管轄外だよ!」
「一瞬で闘志が無くなるのやめてくれない!?」
 まりあ……一緒に猫じゃらしで遊ぶニャ……
 追い縋って来る大量の卜口たち。いや、それどころか前にはッ――!!
「じぇっく……ハハッ……じぇっく……オイラ達とあそぼうニャ……たのしいニャ……」
「げぇ、ワモ口!!」
「じぇっく……余といっしょに遊ぶにゃ……どうしてそんな顔をするニャ……? 卜口たちのこと忘れちゃったのにゃ……? なら……いっぱい遊んで思い出してもらうしかないニャ……?」
 ワモ口とルーチェ=B=アッ口(くち)ガーンス……略して『ア口』が立ちはだかっていた!
 ア口に成ってしまったルーチェはなんと飛行しながら空から真っすぐ強襲してくるし、完全に卜口に侵食されたワモ口は助けを求める声を探知する術でマリアとジェックの下に高速接近。なんてタッグだ!
 彼らはジェック達を追い詰めるのを宿命と思っている節がある。ま、まずい!
「うわあああだ、駄目だ! 幾らなんでも数が多すぎる……でも私には虎の誇りがある!決してうらぐちには屈しない! ジェック君! ここは任せて! 私を置いて先に行くんだ――ってもういない……どうして……」
 超速度でマリアを見捨てるジェック。流石の虎も驚きの速さだよ、じぇっく……
「く、くそ――だが虎は屈しない――うわあああああとらぁ君、私に力をッ――!!」
 大量の卜口の波にもまれるマリア――しかしその時脳裏に浮かんだのは。
 愛すべきヴァリューシャとVDMランドの守護神……とらぁ君であった。

( ╹⋏╹)<「とらぁ……」

 とらぁ君の顔が――マリアに力を与える――!!
「あ、あれはまさかニャ……!」
 卜口は見た。卜口に対抗するためにマリア領技術開発局で開発された無敵のとらぁ君着ぐるみ型パワードスーツ。とらぁメタルスーツのマスク部分がロックされた瞬間を……!
 マリアはうらぐちの力を弾く。あれは――うらぐちではなく、とらぐち化!
「これが私の力とらぁ……」
「お、ぉぉ!?
 なんだかよく分からないがマリアがパワーアップを……あれなら卜口も――」
「じぇっく……一緒に遊ぶとらぁ……」
「駄目じゃん!!!!!」
 一瞬希望をもったジェックだったけどやっぱ駄目だった。おのれあの猫!!
「赤い糸をまるめて毛糸玉にして遊ぼうニャ~じぇっく、じぇっく遊ぼうニャ~」
 再会する逃亡。しかし、その目前には長門、いや長口が大量の卜口と一緒にいた。
 その顔には笑顔が詰まっている――召喚された以来の笑顔で、まるで猫の様に。
 紐や丸いモノなど、何でも無いような物で遊んでいる。
 ニャ、ニャ、ニャ――
 合唱と共に着ぐるみにリボンを。裁縫上手な長門の手が彼らに彩りを与えるのだ。
 そして唐突にジェックを視る。
「あっ」
 目があった瞬間――一斉に長口と卜口達がやってきて――
「うわあああヤメロ! いやだ! とにかく、絶対、卜口にはならないから!!」
「じぇっく……安心するニャ。痛いことはしないニャ。無理強いも良くないニャ……ただ、呼び掛けるだけニャ……誘うだけ、ニャ……じぇっく、リュ口達はそれだけが望みなんだニャ……」
「そう思うならこの包囲を解けよぉぉお!」
 一瞬止まった逃亡の足。その瞬間にジェック包囲網は完成していた。
 もはや前後左右卜口ばかり。空にはア口もいるし、もう逃げられない。
「じぇっく……」
「じぇっく……」
「じぇっく……」
「ひっ!!」

 ――リュ口達と一緒に、あそぼうニャ?


 その後の事はよく覚えていない。ふとした瞬間に皆ローレットにいた。
 後日、リュグナーは語る。
「ふむ……我はなぜ、このような着ぐるみを着ていたのか」
 不思議な事もあるものだと、己が服を眺めてみれば。
 来ていたのはなんと――卜口の着ぐるみ。
 長門もあんまりよく覚えていないが……しかし
 ……何故か、手離し難いな。
「これを持ってるとなんか楽しかった気がするんですよね――」
「ああ、とりあえず洗濯して干しておくとするか…………ニャ」

 うふふ。卜口はいつでもみんなと一緒にいるニャ。

成否

成功

MVP

リュグナー(p3p000614)
虚言の境界

状態異常

なし

あとがき

 うふふ~みんな、楽しかったからまた遊んでニャ~!

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