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シナリオ詳細

Memories Journey:魔力なす白き剣

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●練達の遺跡
「皆さん、集まってくださってありがとうございます」
 練達の街外れにある、とある古びたビル。その一階ロビーに、ミルヴィ=カーソン (p3p005047)をはじめとするローレットのイレギュラーズ達は集められていた。ミルヴィたちを呼び出したのは、練達で映像関係の技師をしているという、年若い男、ティーノ・ライナルディである。
「別にいいよ。お仕事の話だって言うしね」
 ミルヴィがあたりを見回しつつ言うのへ、ティーノは頭を下げた。このビルは、相当前に建てられたものなのだろう、かなりの年季を感じられた。
「はい。まずは皆さん、こちらに来ていただけますか?」
 ティーノに先導されて、一行は廊下を進む。あちこちに老朽化の跡が見えるコンクリートの床を歩き、しばし。ティーノは廊下奥の古びた扉を開けると、地下へと続く、これまた古びた階段を指した。
「この奥です。急な階段なので、お気をつけて」
 電気の類はまだ生きているらしい。チカチカと点滅する裸電球に照らされて、薄暗い階段を下りていく。
「なんというか」
 アト・サイン (p3p001394)が言った。
「練達というより、再現性東京を思わせる建物だね」
「ええ。お察しの通り、練達でもかなり初期に作られた建物です。言い方を変えれば、まさに練達の遺跡、と言った所ですね」
 やがて階段を降り切った一行は、小ホールへとたどり着いた。部屋の奥には大きな扉があって、ティーノはそれを開く。その先にあったのは、巨大なスクリーンが壁一面に張られた大部屋だった。並べられたいくつかの椅子。そして部屋の後方には、大掛かりな機械が見えた。
 あちこち、部品が外されていることが、素人目にもわかる。しんと静まり返った部屋は、地下特有の冷気に包まれていた。
「なんかあれっすね、映画館みたい」
 ウルズ・ウィムフォクシー (p3p009291)が、部屋を見渡しながら、へぇ、と感嘆の声をあげるのへ、ティーノが頷く。
「ええ、おそらく、ここは映写室だったのだと思います」
「おそらく?」
 ウルズの問いに、ティーノは頷いた。
「ここは最近発見された、放棄された建物だったのです。資料も残っていなくて、何のために建てられたものなのかはわからないのですが……さっき言った通り、練達でもかなり初期に建てられたものだと思います」
「なるほど。それで、遺跡なんだ」
 フラーゴラ・トラモント (p3p008825)が言った。とてとてと部屋を歩いて、件の機械の下へと向かう。大きな機械だった。台座に乗っていて、フラーゴラが小柄と言っても、見上げることが必要なくらいの高さがある。
「じゃあ、この機械は、映画を映すためのものなのかな? レンズがついてるし」
「ご明察です。これは大昔の映写機に違いありません」
 ティーノが言った。
「では、このカラクリを動かせば、えいが、が見られるわけで御座るか」
 咲々宮 幻介 (p3p001387)は、あごに手をやりつつ、ふむん、唸った。
「見たところ、壊れている……ように見えるで御座るが」
「はい。お察しの通り、この映写機はこのままでは動きません。ですから、何の映像が収められているのかは分からないんです。データを抜き出そうにも、現在練達で主要になっているデバイスとは互換性がなく。そもそも、外部にデータを吸い出せるようなものではないのかもしれませんが……」
「という事は、仕事はこの映写機を直せ、という事か?」
 皇 刺幻 (p3p007840)が腕を組みつつ、口を結んだ。
「ローレットは何でも屋のようなものだが……しかし、機械を直すというのは……」
「ああ、いえ、映写機を直していただきたいのは事実ですが、作業は僕が行います」
 じつは、とティーノは言うと、続けた。
「今の練達では、パーツが手に入らないのです。この映写機は本当にかなり初期の頃の機械のようで、練達の外、混沌世界でしか手に入らないようなパーツや、魔道技術の類も使われています。もちろん、練達にも魔道技術を科学的に研究している人たちは居ますが、その人たちでも、なかなか手に入れられないようなパーツを使っています」
「なるほど。読めてきたよ」
 ミルヴィが言った。
「つまり、アタシたちに頼みたいのは、パーツ集めだ」
「その通りです」
 ミルヴィの言葉に、ティーノは頷く。
「ローレットのイレギュラーズの皆さんなら、各地へ飛ぶことも、そこで調査を行う事も容易いでしょう。パーツを集めるのは、多少の危険を冒さなければならないこともありますので……」
「そう言う事なら、確かに僕たち向けの仕事だ」
 アトが言う。
「じゃあ、早速パーツを探しに行こう」
 フラーゴラが頷いた。
「そうっすね! 善は急げ! 何を探せばいいっすか?」
 ウルズの言葉に、ティーノは答えた。
「パーツは混沌の各国にあるのですが、まずは幻想でパーツを探してください。幻想の西方、チュロンの古城と呼ばれる廃城に、『白き水連の剣』と呼ばれる剣があります」
「剣、だって? 剣が機械に必要なのか?」
 刺幻の問いに、ティーノは頷いた。
「厳密には、その剣に宿った魔力が必要なんです。水連の剣は、古城が集める魔力が結晶化して、何年かに一度、生まれるもので。つまり魔力の塊みたいなものなんですよ」
 ただ、とティーノは告げると、
「その魔力は、周囲の魔物も呼び寄せると言います。行って、取ってくる、というだけでは済まないのが現実です」
「まぁ、荒事であればそれこそ拙者らの出番で御座ろう」
 幻介が言った。
「その白き剣、手始めに手に入れて参ろう。ティーノ殿、修復に関してはお任せいたす」
 幻介の言葉に、仲間達は頷いた――。

●幻想廃城・チュロンの古城
 ――その城は、満月の晩に月の魔力を集めるという。
 真っ白な月の魔力は、古城の天辺のステンドグラスから中に入って、玉座に降り注いで光り輝くのだ。
 やがて集まった魔力は、何年かに一度、美しい白い剣の形をとって、玉座に現れるのだという。
 かつては多くの人が見物に訪れたというその城には、もう訪れるものは居ない。
 代わりに小鬼や悪鬼たちが、魔力を求めて徘徊するのだそうだ。
 魔物達がはびこる古城に、今宵も静かに、水連の剣が咲く――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方のシナリオは、イレギュラーズへの依頼(リクエスト)により、発生したお仕事になります。

●成功条件
 『白き水連の剣』の回収

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 皆さんが、練達の映像技師ティーノ・ライナルディに依頼されたのは、「古びた映写機を治すためのパーツを、世界各国から集めてきて欲しい」と言うもの。
 そこで皆さんは、手始めに幻想の西方に存在する『チュロンの古城』へと向かう事になりました。
 チュロンの古城には、数年に一度、集めた魔力から『白き水連の剣』が発生すると言われ、その魔力が、映写機の修理に必要なようです。
 しかし、その魔力に誘引され、小鬼(ゴブリン)や悪鬼(オーガ)の類が、城へと引き寄せられているともいいます。
 『白き水連の剣』は古城の三階、玉座の間にありますが、内部は朽ち果てており、道がふさがっていたりなどもします。そのため、素直に入り口から真っすぐ三階へ到達することはできません。
 皆さんはこの城を攻略し、『白き水連の剣』を回収しなければなりません。
 作戦決行時刻は夜。外は満月が昇っており、多少は城内も明るいですが、明かりを持ってくるとよいと思います。

●エネミーデータ
 ルナ・ゴブリン ×?
  白き満月の魔力に中てられたゴブリンたちです。基本的にはイレギュラーズの皆さんより戦闘能力は低いですが、その分総数は多いでしょう。
  一度にぜんぶと遭遇するわけではなく、城内を徘徊している、数体ずつと遭遇する形になります。トラップなどを使えば、上手いこと出し抜いたり、戦闘を避けることも可能かもしれません。
  汚れた剣を持った近接タイプや、月の魔力を放出する術士タイプがいます。術士タイプの付与してくるBSには注意してください。

 ルナ・オーガ ×?
  白き満月の魔力に中てられたオーガです。イレギュラーズの皆さんと同等か、それよりやや弱いくらいの性能です。その分、総数は少なくなっています。
  一度に全てのルナ・オーガと遭遇するわけではなく、上記のゴブリンと共に城内を徘徊しています。ルナ・ゴブリン同様、戦闘を避けることも、出し抜くことも可能でしょう。
  基本的には、至近~近距離の物理攻撃を行ってきます。BSの付与などはないですが、その分タフです。

 白き水連のオーガ ×1
  PL情報になりますが、玉座の間で遭遇する大型のオーガです。いわゆるボス敵。配下などは居ません。
  長年にわたり白き水連の剣の魔力を吸収しており、体が白く発光しています。
  高いEXAと、蓄積した白き水連の剣の魔力を利用した攻撃、そして物理攻撃を得意とします。

●備考
 幻想での冒険になりますので、こちらのシナリオクリアによる報酬は『幻想の名声が上昇』になります。

 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。

  • Memories Journey:魔力なす白き剣完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年04月09日 21時55分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
皇 刺幻(p3p007840)
六天回帰
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼

リプレイ


 このお城に住んでいた者たちは、かつてはひと時の繁栄を極めたという。
 いろいろな理由で人がやってきて、そしていなくなって、やがて寄り付く者もいなくなった。
 それでも月は、今も変わらず、優しくこの地を照らしている。
 人々の営みと、繁栄と滅亡。長い時がたって色々変わったけれど、月だけは何も変わらない。
 ――ある旅行者の手記より。

●月下の廃城へ
「うわぁ……」
 どこか瞳をキラキラさせて、入り口ホールのあちこちへと視線を移すのは、『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)だ。石造りの白が強い灰色の壁は、今は月光を浴びて強く真っ白に輝いているように見える。人がいなくなり、そして相応に時間がたち朽ちているはずだが、しかし往年の美しさを保つかのように、未だ廃城はくすぶりを見せない。
「素敵なお城だねぇ……ウルズさん、見て、あのステンドグラス……きらきら」
 おー、と声をあげる『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)は、フラーゴラの隣に立って、その手をかざして見せる。
「立派なもんっすね。入り口であのできなら、玉座の間にあるステンドグラスはどんな感じなんっすかねぇ」
「きっとすごいよ……お月様の光がきらきらしてて、真っ白で……ウルズさん、こんな所で結婚式挙げたら素敵だろうね……」
「結婚式っすか……うーん、和風のものを想像していたっっすけど、なるほど、こういうのも捨てがたいっすね……」
「どっちも挙げちゃおうよ……二回やるの……!」
「二回……!」
 強火な女性たちがきゃっきゃとウェディングプランを練っているのを、しかして二人は胡乱気な顔で見つめている。
「結婚は人生の墓場というけれど」
 『観光客』アト・サイン(p3p001394)は静かに頭を振った。
「こんな墓場みたいな場所で挙げなくてもいいんじゃないかね」
「墓場で御座るか……」
 『裏咲々宮一刀流 皆伝』咲々宮 幻介(p3p001387)が苦笑する。
「いやいや、中々趣のある場所ではなかろうか。魔力が集まる、という理由もわかる気がするで御座るよ」
「おや、結婚に乗り気かい?」
 アトが肩をすくめる。
「年貢の納め時か。結婚式には――まぁ、観光で忙しくなかったら参列くらいはしてあげるよ」
「冗談で御座ろう?」
 幻介が目を丸くした。
「拙者のような人間には縁のない話で御座るよ。まだアト殿の方が希望が御座ろう」
「それこそ冗談だ」
 アトは笑った。
「僕は観光客。根無し草に嵩張る荷物は邪魔なだけさ」
「えええ、そんなこと言わないでぇ! 結婚してよぉ、アトさん……!」
 会話を聞いていたのか、フラーゴラがわたわたと手を振りながら言う。アトはアトで、頭を振って肩をすくめてみせた。
「やれやれ、皆口説き甲斐のない」
 『闘技戦姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)はそんな様子を見つつ、言った。
「はいはい、今日は式場の下見に来たわけじゃないんだから、そのくらいにね。魔物もいるっていうし、気は抜いたらだめだよ」
 ぱんぱん、と手を叩く。一同は各々返事などしつつ、思考を切り替えた。
 未だ美しい地ではあるが、しかし内部には魔物が巣食っていると聞く。油断は出来まい。
「刺幻、たのめる?」
「任せろ、ミリー」
 『廻世紅皇・唯我の一刀』皇 刺幻(p3p007840)は頷くと、す、瞳閉じた。ゆっくりと息を吸い込み、辺りの『気配』を探る。
「さてさて……霊の一つや二ついるだろう? 出てきな。そして私に、墓荒らし駆除の依頼を。……君達が眠る地は、魔王の名において守ってみせよう」
 ぼう、と何かの気配を感じられた。それは、この地で命を失ったもの達の、残された思念体のようなもの。ありていに言ってしまえば、霊魂と言ったものだ。その誰もは、非業の死というわけではない。各々天命を全うした者達で、死後もこの地で静かな眠りにまどろんでいた者達だろう。
「この城について聞きたい。対価は先述した通り、墓荒らしの駆除だ」
 ぼんやりと光る霊魂たちは、何事かを囁くと、月明かりの中へと消えていく。偵察のようなものを行ってくれるのだろう。ファミリアーほど便利ではないが、しかしこの場合はありがたい。
「……罠に使えそうなものは探しておいてやる。ミリー、その優しさに免じて使い方は任せるぞ」
「ありがと、刺幻」
 ウインクなどしつつ、ミルヴィ。ミルヴィはカバンの中から、一匹のネズミを取り出す。
「アンタも頼むよ、カット」
 ねずみのカットに囁きつつ、放つ。カットはととと、と走ると、そのまま幻介の方へかけ登った。
「うむ。よろしくお願いいたす、カット殿」
 幻介が頷くのへ、カットはちち、と鳴いた。
「では、拙者が斥候をいたそう。今回は隠密任務故、拙者の使い道はこんなものであろうからな」
「カットを通じてお願いはするから。気を付けてね」
 ミルヴィの言葉に、幻介は頷く。
「先輩先輩! あたしを忘れてるっす!」
 ぴ、と手をあげてアピールするのはウルズである。
「この優秀な後輩! ウルズが! 斥候も戦闘も、先輩の補佐をするっすよ!」
 はいはーい、と手を振りながら、ウルズが幻介の元へと駆け寄る。幻介はふむん、等と唸りつつ。
「ウルズ殿、気を付けるで御座るよ」
「はい、頑張るっす!」
 ぎゅっ、と己の手に力を入れて、ウルズが頷く。
「ウルズさん、ふぁいと……! いいとこ見せよ……!」
 フラーゴラがぱたぱたと手を振るのへ、ウルズはぐっ、と親指を立てて見せた。
「……やれやれ」
 アトは肩などをすくめつつ。
「さ、観光を始めようか」
 そう言って、ゆっくりと歩き始めた。

●廃城探索
 保存状態は良いとは言えた廃城だったが、しかしそれでもいくつかの通路は年月の経過によって潰れて居たり、壊れかけの柱なども見える。
 刺幻の霊魂との疎通による情報収集に加え、幻介&ウルズの斥候部隊による先行調査を行い、一行は慎重に歩を進めていく。
 ――明り取りの窓から覗く月光が、多少は内部を照らしてくれてはいるものの、それで充分な光量とは言えない。手にした明かりをつけ、或いは隠密のために消したりしつつ、一行は進んでいった。
「前方……ゴブリンが三、オーガが一」
 幻介が呟く。それはカットの耳を通じて、ミルヴィに伝わっていた。ミルヴィは、周囲の仲間達に目配せすると、
「刺幻、罠に使えそうなものはある?」
「まて、尋ねる」
 霊魂との疎通を試みる。しばしの問答の末、
「……其処の柱があるだろう。あれは飾り柱だから、固着されてない。倒せる」
「なら僕の出番だ」
 気配遮断用の装備から顔を出しつつアトが言う。
「幻介に確認してくれ、敵の動く経路はわかるかな?」
 ミルヴィが、ファミリアーに命じて簡易な質問を行う。幻介から帰ってきた答えを、ミルヴィはそのまま復唱した。
「結構だ。隙が付けるなら、その間にもう少し派手な罠にしてやろう。ついでに他のところからも敵を引っ張ってきて、まとめてドカン、だ」
「アトさん、ワタシも罠の設置、手伝うよ。それから、敵を引き付けるのもできると思う」
 フラーゴラが言うのへ、アトは頷いた。
「よし、じゃあ僕とフラーゴラで罠を仕掛けてくる。幻介とウルズは引き続き先行。此方の動きに応じて、敵の背後から攻撃してもらおう。ミルヴィと刺幻、ここを確保。万が一敵が来るような事が有ったら、僕たちか、幻介と合流してくれ。Ok?」
「了解だ」
 刺幻が答えた。
「そちらも、敵に発見されたら合図を。すぐに援護に向かう」
「よろしく頼むよ」
 アトがひらひらと手を振った。フラーゴラを連れて、道を逸れていく。
「えへへ、共同作業だね、アトさん」
「僕らが入刀するのはケーキじゃなくて壊れた柱だぞ。というか、まだ頭が切り替わってないな、フラーゴラ……」
 雑談交じりで去ってゆく二人を見ながら、ミルヴィはうんうんと頷いた。
「恋する乙女って奴かな」
「ミリーには浮いた話はないのか」
 刺幻がからかうように言うのへ、ミルヴィは苦笑して肩をすくめてみせる。
「さあて? ほらほら、こっちも頭を切り替える」
「君から振った話では? まぁいい」
 刺幻はそう言いつつ、周囲の警戒に意識を映した。すう、と冷えるような空気は、月の魔力の影響もあるのだろうか。確かに周囲に魔物の気配はあるが、それを差し引けば、中々に清々しい場所である。観光地のように扱われれていた理由もわかるが、流石に現在の人類の生息圏からは離れており、客足が遠のいていった理由もわかる。
「栄枯盛衰というか盛者必衰というか……なんともだな。こんなことを考えてしまうのも、この城の魔力か」
 ふ、と刺幻は苦笑した。古城を見下ろす月は、少しだけ傾いた。

 フラーゴラが、ぴょん、と通路へと飛び出す。あえて派手な音を立てて。目立つように、手にしたカンテラを振り回す。
 うごご、とゴブリンとオークが鳴いた。フラーゴラへと気づいたのだ。フラーゴラは挑発するようにカンテラを振りながら、
「魔力と言う篝火に魅せられた鬼たち……。
 どこにあるかわからない魔力より、
 生きてる獲物のほうが魅力的じゃない?」
 フラーゴラがそう言って、走り出す。うごご、とゴブリンたちは吠えて、フラーゴラを追いだした。
 あちこちに転がる瓦礫を飛び越えて、フラーゴラは走る。その後ろをつかず離れず、ゴブリンとオーガがバタバタと追いかける。
「ん、鬼さんこっち……それから、ここっ」
 ぽん、と瓦礫を飛び越える。続くゴブリンたちがその瓦礫に手をかけた瞬間、天井から大量の『こしょう』が落下してきて、ゴブリンたちの目や鼻に入り込んだ。激痛がその視界を奪い、ゴブリンたちが足を止める――同時に。
 ぴん、と張っていたワイヤーに、ゴブリンたちは触れた。途端、四方から取れ込む飾り柱。それは噴煙を上げて、ゴブリンたちの頭上へと迫る。慌てたゴブリンたちが飛びずさるが、遅い。ほとんどのゴブリンたちは柱の下に潰されていた。這う這うの体で生き延びた一匹がはいずりだすが、それを見かけたフラーゴラが、ハンドサインを送る。
 途端、暗がりから飛び出してきたのは、ウルズだ。スピードを乗せたまま放たれる、必殺の速撃。高速の掌底! 撃ち抜かれたそれがゴブリンの胸をうち、そのまま吹き飛ばした。
「よーし、絶好調っす!」
 ブイサインなどしつつ、ウルズ。フラーゴラはとてとてと歩み寄ると、ウルズとハイタッチ。
「やったねぇ、ウルズさん。かっこいいとこ見せられたね!」
「これもフラーゴラ先輩とあたしの友情タッグの結果っすよ! チームとかコンビ結成とかする? ウルズ&フラーゴラ先輩みたいな!」
 きゃいきゃいと喜ぶ二人を迎えるように、周囲から仲間達が姿を現す。
「やれやれ、上手くいったようで何より」
 アトが肩をすくめた。
「なかなか順調のようで御座るな。玉座の間までは、あとどれほどで御座るかな」
 幻介が言うのへ、ミルヴィが頷く。
「このペースで行けば、もうすぐだよ」
「最短ルートで進んでこれたからな。これなら件の宝の入手もすぐだろう」
 刺幻の言葉に、皆は頷いた。
「よーし、このまま最後まで、テンポよく行くっすよ!」
「うん、がんばろう……!」
 ウルズとフラーゴラが片手をあげてそう言うのへ、仲間達も苦笑しつつ頷く。
「まったく、今日は皆、元気のいい事だ」
 刺幻は肩をすくめて、そう言うのであった。

●玉座と白の剣
「へぇ……これは」
 ミルヴィは思わず嘆息する。玉座の間についた一行を出迎えたのは、ステンドグラスから差し込む月光と、玉座に刺さった剣のような物体の姿だった。
 ステンドグラスより注ぐ月の魔力は玉座の間に満ちて居て、高濃度の魔力は可視化され、まるで水面のように周囲に波打っている。そこに刺さった一本の白い剣のような魔力の塊は、なるほど、その名の通り『白い水連』を思わせた。
「綺麗だね。此処が観光地になってた、って理由もわかる気がするよ」
 ミルヴィがゆっくりと歩くたびに、地面の魔力は湖面がそうなる様に揺らめいた。玉座へ、白き水連の剣に向けて、一歩一歩――。
「……ミリー!」
 刺幻が叫んだ。同時に、ミルヴィ―が後方へと飛びずさる。瞬間、天井より落下してきた巨大な影が着地して、魔力が激しく波打った。
 それは、白く発光するオーガの類である。目は満月のごとく黄色く輝き、どこか清廉な空気すら感じさせるのは、長年このオーガが吸い続けた月の魔力のせいか。
「おっと……最奥にはお決まりの番人が存在してるようだね」
 アトが言った。恐らくこれが、この城に入り込んだ魔物たちの群れのリーダーなのだろう。名付けるならば、白き水連のオーガと言った所か。オーガが轟、吠える。それが神秘的な圧力となって、イレギュラーズ達の身体を叩いた。
「生意気に、魔力を放出する手段も知っていると見える。けど、まだまだ『使い手』には程遠いね」
 アトが言いつつ、背後へと視線をやった。
「フラーゴラ、ウルズ、後方を警戒してくれ。増援が来られると厄介だ」
「了解……!」
「了解っす!」
 フラーゴラとウルズが返事、後方への警戒にうつる。
「アタシがあいつの足を止める。刺幻がサポート、アトが攻撃して、幻介でトドメ。どう?」
 ミルヴィが言うのへ、
「了解で御座る。探索では後れを取ったが、切った張ったでは拙者の出番で御座るよ」
 幻介が頷く。
「では行こうか!」
 刺幻が叫び、術式を編み上げる。同時に、仲間達は走った。
「嫉妬を歌え、グリンカムビ!」
 放つは魔力型瞬間ECM。目に見えぬ魔力波が、床に湛える魔力の湖面を揺らし、オーガを打ち据える!
「そして怠惰に沈め!」
 続いて放たれるのは、魔力で生み出したヴァイオリンより奏でられる旋律。旋律は神秘的な衝撃となって、オーガの身体を強かに打ち据えた! 轟! オーガは痛みにその声をあげ、手にした月の魔力の棍棒をうちふるう!
「させないっ!」
 ミルヴィが跳んだ。その瞳が、昏い黒と赤とに染まる。手にした二振りの長剣。踊る様な所作で放たれる連続斬りが、オーガの右腕を切り裂いた。があ、と悲鳴を上げて、オーガが棍棒をとり落とす、魔力の湖面に墜ちて、しぶきをあげたそれが消滅する。振るわれる左腕。ミルヴィは後転しながら回避。
「アトっ!」
 ミルヴィの声に、アトは行動に移すことで返した。背後へと忍び寄り、振るわれる銀の剣の一撃。背後に登る激痛に、オーガはぎり、と背後を覗き込む。アトは冷淡に切りつけた刃を振り払うと、曇り一つ鳴き銀の刃が月光に輝いた。
「よそ見はいけないな」
 アトの言葉と同時に、ちん、と音が響いた。
 幻介の、納刀の音である。
 すでに攻撃は完遂している。目に映る間もなく刃は振るわれ、そしてあるべき場所に収まった。
 ばしゅ、と、オーガの首から血が噴き出す。その勢いに押されて、首が胴体から転がり落ちた。
「一刀のもとに斬り捨てる。裏咲々宮一刀流は参之型。名を神断」
 ぐらり、と、オーガの身体が揺れた。ずん、とあおむけに倒れるや、床に揺蕩う魔力が、水の飛沫のように飛び散った。
「これにて仕舞い、で御座る」
 佇む幻介に、イレギュラーズ達に、月光が降り注いだ。温かな光、その魔力に包まれて、オーガの血臭すら、瞬く間に浄化されていくかのような気分だった。

「これが白き水連の剣か……ミリー、抜いてみると良い」
 刺幻がそう言うのへ、ミルヴィは頷く。ゆっくりと玉座へと近寄って、些か神妙な顔で、その剣の柄に手をかけた。
 重さはない。す、と滑るようにそれは玉座から抜けて、月光を受けて白く輝いた。剣とは言ったが、厳密には剣ではない。剣の形をした、魔力の塊である。
「わぁ……やっぱり、すごい綺麗」
 フラーゴラが、ほぅ、と息を吐きつつ声をあげた。確かにそれは、生命の魔力の輝きに満ちたような、美しいものであった。
「これが映写機のパーツになるんっすね。なんだか全然、想像がつかないっすけど……」
 ウルズが言う。今回の依頼の目的は、映写機修理のためのパーツ集めである。この魔力の塊が、修理のためのパーツになるというのだから、世の中不思議なものである。
「拙者には、映写機と言うものそのものが想像がつかぬで御座るがな」
 苦笑する幻介。ウルズは言った。
「あ、幻介先輩、映画とか見たことないっすか? 今度一緒に行くっす? 練達のでもいいっすし、再現性東京のでもいいっすよ!」
「いやいやいや、少し考えさせてくれ……」
 幻介が苦笑しつつ頭を振る。
「アトさん、ワタシたちも、映画行く?」
「僕は一人旅が性に合ってるよ」
 フラーゴラの問いに、アトは肩をすくめた。
「さておき、これで観光も終わり(ダンジョンクリア)だ。速やかに帰ることを勧めるけれどね」
「そうだな」
 刺幻が言った。
「霊魂たちも消滅しかかっているようだ。今のうちに帰り道も確認しておこう」
「お願いね、刺幻」
 ミルヴィはそう言いつつ、剣を布で優しく包み込む。
 これでパーツはひとつめ。残りはいくつになるのだろうか。戻ったら、それも確認してみる必要があるだろう。
「お疲れ様、皆。謎の映像が見られるまで、まだまだ冒険、頑張ろうね!」
 ミルヴィの言葉に、仲間達は頷いた。
 ステンドグラスから、一層輝いて、月光が差し込む。
 その柔らかな光は、これからの皆の冒険の安全を、祈っているかのようにも思えた。

成否

成功

MVP

アト・サイン(p3p001394)
観光客

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト、ご参加ありがとうございました。
 まずは一つ目のパーツを回収できました。
 次の冒険の時まで、ゆっくりとお休みください。

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