シナリオ詳細
潜入!九頭竜大飯店
オープニング
●道理と義理と
虚ろな目の少年が舞台の上に引きずり出される。ここは法の光さえ届かない、無法者達の娯楽施設。
『さぁ、調教したてのこちらの少年! 大人しく轡(くつわ)や手錠も必要ありません。
初めて奴隷をお買い求めの方も扱いやすく大変オススメの品となっております!
なんと今回は特別価格、8万元(ウォン)からのスタートです。さぁ皆様、お手元の札をどうぞ!!』
仮面をつけた司会が煽るたび、我先にと入札の札があがる。現場の熱から少し離れた上空、オークション会場のバルコニーから様子を伺う巨漢は、冷めた目で闇オークションを眺めていた。
「その様な態度はいけませんよ、グレイ。我々は主催側なのですから」
「俺がそのような事で腹を立てているとでも思っているのか? 組織の狗である以上、汚れ仕事をこなす分には一向に構わん。
だが……悪にも秩序というものがある。薬を使っている事がボスにバレてみろ、ただでは済むまい」
競り落とされた少年の瞳は空虚な色を映していた。あの"濁り"はマフィアの間で流行り始めた麻薬の副作用だ。
強面のグレイの忠告も、群青色のアオザイを着た男――飛(フェイ)は気にせず明るく笑った。
「分かっているから貴方をこの店のNo.2に据えたのです。悪の世界において、その義理堅さは諸刃の剣だ。
グレイは私を裏切れない。なにせ命の恩人ですから」
「……忠告はしたからな」
これ以上の問答は無意味と悟り、グレイはコートを翻す。その場を飛に任せ、裏の顔から表の顔へ。
闇オークションの隠れ蓑となっている九頭竜大飯店へ戻っていった。会場と店を繋ぐ連絡通路は2人の屈強なガードマンが終始きびしく目を見張らせている。
「状況は」
「ハッ! 特に異常ありません!」
「鼠一匹通すな。侵入者が出れば、貴様らに明日は無いと思え」
●潜入!九頭竜大飯店
「今回の依頼はちとハードだぞ。今回の敵はマフィア組織。お前さん達には人身売買が行われている闇オークションを潰してもらいたい。
……ただ、オークション会場の場所が特殊でな。九頭竜大飯店っていう大型の飲食店を隠れ蓑にしているそうなんだ」
当然、店の中にはオークションなど何も知らない一般客が出入りしている。
正面から強硬手段で乗り込めば、罪のない人間を巻き込んでしまう事になるだろう。
異世界の事とはいえ、寝覚めの悪い展開は『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)も避けたいそうだ。
「おまけに店から会場へ続く侵入経路は警備が厳重でな。暴力で無理矢理おし通る事は難しい。
オークションごとに変わる秘密の合言葉を関係者から聞き出して、客として潜入するのが一番スマートだろう。
潜入時の身分の偽造や服装の準備は俺の方でやっておくが、怪しまれないかどうかはお前さん達の行動次第。手を抜かずにちゃんとそれらしく振舞うんだぞ」
- 潜入!九頭竜大飯店完了
- NM名芳董
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年04月06日 22時15分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●
「搬入を急ぐアル! 荷解きしたら、すぐ下ごしらえヨ!」
独特な訛りで白服の男が声を張り上げる。九頭竜大飯店、搬入口。華やかなネオンの看板に彩られた正面口とは異なり、ここには飾り気ひとつ無い。冷たいコンクリートの壁と搬入用のトラックが並び、発泡スチロールの箱が絶え間なく厨房の方へと運び込まれている。
指示を出している男――料理長の浩然は、すれ違った搬入スタッフ達へ振り向いた。
「その荷は第一厨房じゃないヨ!」
「ここの他に厨房があるんですか?」
業者を装い作業服を着た『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は目を瞬いた。共に業者を装っていた『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も、話に乗っかろうと口を出す。
「そういえば今日はやたらと酒の入庫が多いよな。VIPの集まりでもあるのか?」
「それは……」
もごもごと明らかに喋るのを躊躇う浩然だったが、綻びを見逃す訳にもいくまい。闇オークションの全貌を暴くには、合言葉が必要なのだ。
「俺達は信頼と実績の一翼運送。運びなら何処にでもするさ。なんなら搬入、奥までしようか?」
大都市の中にはアングラな"運び"の仕事もある。若いのが興味本位で首を突っ込んで……と浩然は眉を寄せた。
「搬入先は我にも分からないアル。オーナーの部下が受け取るものでネ」
「信頼されてないんですね、何だか可哀想」
「否! オーナー黒い噂あるヨ。巻き込まれるのは御免ネ……」
「でも、何に使われてるか知らないままなのも問題なんじゃないか? 食料の管理は料理長が全て仕切っていた――なんて濡れ衣もあり得るだろう」
「確かにそれはあり得るネ……うムム」
「それじゃあ浩然さん、僕達と取引しませんか? この用途不明の食料が何処へ行くのか、僕達が調べます。その代わり……」
ごく、と浩然が唾を飲む。暫しの沈黙の後、睦月はにへらと愛想よく笑った。
「じつは僕、いつか結婚したらお店を持ちたいと考えてるんです。心構えを教えて下さいますか。この店の味を一手に任されている浩然さんのお話をぜひお伺いしたいのです」
「……! 今時の若者にしてはいい心がけネ。この天才料理人こと浩然の手ほどきを受けたいがために、涙ぐましい取引アル。
そこまで言うなら搬入先が分かった暁にはイロハを叩き込んでやるアルよ。これは噂なのだけどネ、店のあの階には――」
持ち上げられたのがよほど嬉しかったらしい。喋る喋る、聞いていない情報まで寄越す浩然。これは確かに調子がいいなとアーマデルは肩をすくめた。
「さっきはありがとうございます、アーマデルさん。インスタントキャリアって凄いですね。あっさり滑り込めちゃって」
「睦月の人心掌握術があったからこそ浩然を味方に付けられた。侵入するだけなら物質透過でいけるかもしれんが、こういうのはチームワークが大事だな」
搬入用のカートを押し、二人は厨房を抜けて大胆に潜入を進めていた。浩然がバックについた事により捜査は格段に楽になる。加えてアーマデルが霊魂疎通で呼び寄せた死者へ道を聞いては進むのだ。どんどんきな臭い場所へと景観が変わる。
「幻想で奴隷市とかがあったばかりだが……やはりどこでも人身売買のようなことはあるものなのだな」
「奴隷オークションだなんて許せません。人をモノ扱いするなんて絶対にしてはいけないことです」
睦月の言葉に力強さを感じ、アーマデルは一瞬目を見開く。
「何か思うところがあるようだな。俺なりに睦月殿の力になれるよう、尽力しよう」
「ありがとうございます。アーマデルさんが頼もしいお方で助かりました」
会話の途中で睦月が歩みを止める。人気の少ない薄暗い廊下に怪しい紫の扉。その前に立つ男2人組は見張りだろう。カッチリしたスーツと首輪のコントラストが異様な空気を醸し出している。
「前情報には無かったが、あの首輪は奴隷の証か?」
アーマデルの推理は順当だが真実は小説よりも奇なり。彼らの首を戒めたのは『首輪フェチ』首塚 あやめ(p3p009048)である。
「私のためにその首輪を? まあ、なんて素敵なのでしょう」
従業員としてバーラウンジに潜り込んだ彼女は、信仰蒐集をフル活用して店の男衆を骨抜きにしていた。赤いチャイナドレスのスリットからチラリと白い脚が見える度に感嘆の溜息が聞こえ、客も従業員も我先にと首輪を自慢し合う。
誠実そうな笑顔で対応するあやめをカウンターに頬杖をついて眺め、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は半眼になった。
(演技だとあんな顔もできんのか。普段のハイになってる姿からは想像もつかんが……)
「自慢の看板娘です。とても素直でいい子でしてね」
世界の視線に気づいてか、カクテルを出しながら初老の男が語りかけてきた。合言葉を知っているであろう人物、近平だ。
「いや、もっと従順なのを買いに来た」
「買いに来た、とは?」
驚く近平を世界は真っ直ぐ見つめる。
(このバーテンダーは俺のように誠実な人間を好み、例の合言葉を知りながらも悪事への関与を避けている。とすれば仮設がひとつ立つ。
――話せば分かってくれるんじゃないか? 店の客が被害を受けるなんてことは避けたいだろうしな)
「説得力がありませんね」
「なに?」
「"買い物"をする様な方には見えない、と申し上げたのです」
空いてるグラスを下げ、近平は一礼して去っていく。
後にはぽつりと取り残されたコースター。走り書きで文字の書かれたそれを、世界はそっとポケットの中に忍ばせた。
「クヒヒ! 門番の懐柔はバッチリですよぅ!」
「……やっぱり、こっちの方がしっくりくるな」
バーカウンター越しの対面から暫くして、ファンを撒いたあやめは人気のない廊下で世界と落ち合った。同行して調査を進めたアーマデルと睦月のコンビとは逆に、この2人は情報を各々で探って合流すると決めていたのである。
「"こっち"って何の事です?」
「そんな事より、さっさと潜入するぞ。合言葉はこれだ」
コースターを受け取ったあやめが真顔になる。次の瞬間、彼女が放った大きな殺気に世界の頬が引きつる。
「おなじ奴隷商人として、奴隷を扱う事に否とは言いません……ですが奴らは禁忌に触れた。
薬漬けなど言語道断! おまけに何ですかこの合言葉は!悪戯に奴隷を苦しめているとしか思えない!!」
●
『蠱毒』とは――ひとつの壺の中にあらゆる毒を持つ生き物を閉じ込め、殺し合わせる儀式。
それを合言葉にしたのは飛の皮肉である。
「この会場は欲望という名の毒が支配する掃き溜めです。強きが弱きを屠り、喰らった弱者の薬物(どく)によって腐ちていく。――奴隷(ごみ)を掃除に使って何が悪い!!」
怒りのままに飛が吠える。闇オークション会場という名の蠱毒の壺の中で、自分だけが最後まで生き残ると信じていたのだろう。
彼の野望はオークション開始直後、特異運命座標の活躍によって刹那のうちに砕かれた。集められた20人もの戦闘員は紙切れの様に容易く吹き飛ばされ、会場は大混乱。そんな中でも客にだけ被害が出なかったのはアーマデルの采配だ。
――英霊残響:怨嗟。
悲しく狂気にも似た不協和音が辺りに響き、一人また一人と呪縛に絡め取られて気絶する。
「こいつら生きてる……んだよな?」
混乱に乗じて会場入りした赤斗が客の額をペチペチ叩くと、アーマデルは真顔でしれっと一言。
「生かせば、神郷殿がうまいこと始末をつけてくれると思って」
「事後処理はするが、頑張るのは主に現地の警察官になると思っ……うぉ!?」
唐突にアーマデルが赤斗を抱き上げ跳躍する。彼ら2人が立っていた場所を、魔砲に巻き込まれたグレイと飛が通過した。
「力技が通用せんとは面妖な。飛、生きてるか」
「ええ。役立たずの貴方を叱責するくらいには」
「それだけ悪態がつければ上等だ」
「退いてください。僕は飛に用があります」
潜入のため纏った盛装が戦いの中で汚れようと、強い意思を持って闘う睦月は高潔であり美しい。
「退けぬ。俺は飛の剣だ!」
グレイは丸太のように太い腕を振り上げたが、それよりも睦月の神気閃光が疾く、聖なる力で強かに撃つ。
睦月が攻めの光を扱うなら、世界は守りの光を操る。イオニアスデイブレイクの輝きが辺りを照らし、闇のオークション会場は眩い力で暴かれた。
「要するにお前ら詰んでんだよ、諦めな」
「ッ……! グレイ、何をしている。さっさと私を守りなさい!」
不殺の一撃で気絶したグレイを飛が蹴り、叱咤するうち――世界の支援で力をつけた大きな殺気が目の前に。
「償いなさい、その生命で」
H・ブランディッシュ――あやめの容赦のない乱撃が飛を容赦なく撃ち上げる。
「が、ぐ……ッ」
反撃とばかりに放たれた蛇の式神も、毒の効かないあやめには赤子も同然だ。エメラルドの守り石が胸元で跳ねた。
『――とどめだ!』
「いっきますよおぉーー!!」
世界のクエーサーアナライズがあやめの身を癒やし、全力を込めた彼女の拳は飛に届いて――
その日、蠱毒の壺は破られた。
「クヒヒ! 赤斗さん。会場に残った奴隷達、私が引き取ってもいいですか?幸せにしますよ!」
あやめが殺気を解いて赤斗の方へ振り向くと、そこには恥ずかしそうにしている赤斗をお姫様抱っこで抱え上げたままのアーマデルの姿があった。
「ああ。神郷殿ならうまいこと対応してくれるだろう」
「だから何なんだその謎の信頼感。そして降ろしてくれよ恥ずかしい!」
始まった茶番を見てくすりと笑い、睦月はぺこりとお辞儀をひとつ。
「僕は料理長さんと約束がありますので、これで」
「待て睦月、俺も行く」
店の暗部を暴いた対価に甘味のひとつでもせびってやるか。
そんな軽い気持ちでついて行った世界が、睦月の料理下手によって引き起こされる厨房大爆発に巻き込まれる事になるのだが――それはまた、別のお話。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
バディで潜入モノがやりたい人生だった……!
●目標
闇オークション会場への潜入およびオークションの阻止
●場所
異世界にある巨大都市『星幽香港(アストラル・ホンコン)』。
その中にある九頭竜大飯店(くずりゅうだいはんてん)というお店が今回の舞台となります。
店の一階から三階までは吹き抜けとなっており、一階はバーラウンジ、二階と三階はレストランとして、華やかな中華料理を振る舞っています。
店内のどこかに闇オークションの会場への通路があるようなのですが、潜入時点ではどこにあるか分かりません。
オークション会場自体は収容人数300人ほどのホールとなっており、薄暗さはありますが、視界や足場に戦闘ペナルティはありません。
●プレイングについて
以下の2パートでの行動を描写してください。
1.潜入パート
身分を偽り九頭竜大飯店に潜入した貴方。相談で決めた相棒(バディ)と連携し、闇オークションの入り口と合言葉を探ってみてください。
2.戦闘パート
4人集まって開催中のオークションへ突入し、場を制圧しましょう。
エネミーとの戦闘となります。
●エネミー
戦闘員×20
オークションの主催、マフィア『黄龍組』の戦闘員です。
黒いスーツを着込み、銃を所持しています。戦闘力は一般に毛が生えた程度でしょう。
『黄龍組』幹部 飛(フェイ)
群青色のアオザイを纏う銀髪の男。20代後半と年は若いがなかなかのキレ者で、このポジションに登り詰めたそうです。
気に入った人材は男でも女でも愛人として傍に置くと噂されています。
妖術と毒の扱いに長け、毒の霧を発生させたり、毒蛇の式神を扱う事ができる。攻撃レンジは中~長距離。
『黄龍組』副幹部 グレイ
身長2メートルほどの巨漢。歳は30代半ばほどで、毛皮のコートをスーツの上から羽織っています。
鋼の義手の腕を持ち、近距離戦闘のプロフェッショナルです。いわゆるパワータイプ。
腕の立つ側近を探しているようです。
●その他人物
『九頭竜大飯店』マスター 近平(ジンピン)
1階のバーラウンジを担当するマスター。自らバーテンダーとしてカウンターに立つ事もあります。
荒事には関わっていませんが、緊急用に合言葉やオークション会場への入り口は教えられているようです。
穏やかな性格で誠実な人間を好むようです。
『九頭竜大飯店』料理長 浩然(ハオラン)
2~3階のレストランフロアを仕切る料理長。普段は厨房にいますが、シェフの呼び出しとあればお客さんの所にフットワーク軽く出て来るようです。
調子のいい性格で大の噂好き。闇オークションの話も仕入れているようです。
『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
仕事熱心な境界案内人。特異運命座標のサポートを行います。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
説明は以上となります。それでは、よい旅路を!
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