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シナリオ詳細

風雲、夢幻城。或いは、ある妖術師の挑戦状…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●サラシナの受難
 豊穣。
 カムイグラのある城跡。
 荒れた荒野の端にあるその城は、遥か昔に戦火に焼けた。
 もはや塀しか残っていないその場所に、1人の女が歩み寄る。
「よぉ、いるんだろ。人をこんなところに呼び出しておいて出迎えの1つもないのかい?」
 長身に鍛え上げられた体躯。
 背中に担いだ長巻が彼女の得物であろう。
 獣のような鋭い眼差しで、女武芸者……サラシナは城跡をぐるりと見まわして見せる。
 瓦礫や石垣ばかりが残る荒れた城跡だ。
 一見するだけでは、そこに人の痕跡などは残っていないが……。
「隠れてないで出て来なよ。それとも、ビビってんのかい? こんなもんを送り付けて来たんだ。てっきり覚悟は完了してるもんだと思ってたんだがね」
 そう言ってサラシナは、黒い着流しの懐から1通の手紙を取り出した。
 その手紙には、整った文字で“挑戦状”とそう記されている。

 事の起こりは数日前。
 荒野の端で剣の修行に励んでいたサラシナのもとに、矢文として撃ち込まれたのがそれだった。
 記されていたのは城跡の地図と「腕に自信があるのなら、我が城へ訪れるがよい」といういたって簡素なものだった。
 サラシナは武芸者だ。
 豊穣各地を旅しながら、剣の腕を磨いている。
 そんな彼女が、挑戦状を叩きつけられ無視することなどあり得ないのだ。
 なにより生来、彼女は好戦的な性格をしていた。
「どこのどいつか知らないが……挑戦ってなら、受けてやらなきゃ女が廃るってね」
 などと息巻いて、修行地を出発したのが数日前。
 多少道に迷いながらも、どうにか本日、目当ての城跡に辿り着いたというわけだ。
 しかし……。

『やっと来たかえ。待ち侘びたぞ』
「あ?」
 前後左右。
 様々な方向から響く女の声に、サラシナは思わず目を見開いた。
 妖術の類であろう。
 警戒心も顕わに、サラシナは長巻を抜いて構えた。
 その様子がおかしかったのか、声の主はくっくと含んだ笑い声を零す。
「あ? 何がおかしい?」
『いやなに、我のような女……しかも、声だけの女に怯えておるのが、滑稽でな』
「……出て来いよ。ぶった切ってやる」
 長巻を握る手に力を込めて、サラシナはぎろりと目を剥いた。
 その様を見て……姿は見えないが、見ているのだろう……女はまた笑った。
『ははっ。威勢は良いな。殺気もなかなかのもの。好みではあるが、さて……お主は我の挑戦を受けに来たということで良いかな?』
「上等だ。その面拝んで、一太刀いれさせてもらうよ!」
 などと、息巻いたものの……。
 声の主の挑戦は、些かサラシナにとって相性の悪いものだった。
 
●風雲、夢幻城
「まぁ、妖術の類であろうな」
 なんて、言って。
 ふぅ、と紫煙を吐き出して瑞鬼(p3p008720)はくっくと肩を揺らした。
「しかし、攻城戦とは……なかなか面倒よな。たしかにサラシナ1人には荷が勝ちすぎるか」
「まぁ、人を斬るなら得意なんだが……城となると、少しね」
 と、長巻に手を触れサラシナは言った。
 
 サラシナに突き付けられた挑戦状の内容とは、つまり城攻めの腕を見せろというものだった。
 その言葉と共に、サラシナの眼前で変化が起きた。
 ゆらり、と陽炎のように景色が揺れる。
 先ほどまで何もなかったその場所に、突如として城が現れたのだ。
 城、といっても小さなものだ。
 階数でいえば5階か6階ほどだろう。
 その天守には、鯱よろしく狐の飾りが乗っていた。
「それから、忍が15人に、鎧武者が5人。そいつらが城を護ってんのさ。攻めあぐねるアタシに、女は言ったよ」

『我はお主の力が見たい。力……と言ってもな、何も武力だけでない。知力も、交渉力も、指揮能力もすべて力よ』

「つまり、仲間を連れて行ってもいいってことさ。何で、暇そうにしていたあんたに声をかけたってわけだ」
「暇そうとは行ってくれるのぅ。各地を巡り歩く旅の途中で、景色を眺めて一休みしておっただけじゃ」
「アタシの辞書にはそういうのを“暇”と呼ぶって書いてんのさ」
「そんな辞書は捨ててしまえ」
 紫煙を吐き出し瑞鬼は言った。
 とはいえ、依頼は依頼。
 彼女は黙したまま、さて誰を連れていくべきか、と思案していた。
「サラシナ、分かる範囲で敵方の情報を教えよ。それと、依頼の達成条件もな」
「お、受けてくれんのかい? 嬉しいね」
「わしが行くとは限らんがな。まぁ、暇な者を派遣する程度はできるじゃろう」
「ふぅん? まぁ、誰だってきっと強ぇんだろうな。何しろアンタのお仲間だ」
 にかりと笑って、サラシナは言った。
 彼女が瑞鬼と逢ったのは2回。
 1度目は、ものの見事に打ち負かされ、2度目は命を救われた。
 そんなサラシナが、瑞鬼や彼女の仲間に信頼をおくのも無理ないことであるだろう。
「依頼の内容はアタシを最上階へ送り届けること。忍者どもは糸を使った攻撃をして来る。【停滞】【暗闇】【呪縛】が厄介だったな。鎧武者の方は状態異常こそ持たないが、近距離なら刀、遠距離なら弓を使って威力の高い攻撃をしてくる」
 忍と鎧武者を指揮していたのは、ツチグモという名の長身痩躯の忍である。
 高い指揮能力と、高速戦闘を得意とする体捌きが特徴的だ。
「実力はアタシに匹敵するか、少し上か……まぁ、忍だからな。あれが全力かどうかも不明だけどね」
 とにもかくにも、サラシナを最上階へ送り届けるにあたってツチグモは必ず邪魔になる。
 城主であるらしい女は、戦闘に参加する気が無いようだ。
 つまり、攻城戦において最も警戒すべき相手はツチグモということになる。
「アタシは2階までしか進行できなかったんだけど、どちらも畳敷きの大部屋になってた。広い部屋だったんで暴れるのに不便はなかったけどね、鎧武者の相手をしているうちにあれよあれよと囲まれて、気づけば城の外に放り出されてた」
 命まで取る気はないようだったね、と。
 瞳に怒りの炎を灯し、サラシナは静かにそう告げる。

GMコメント

こちらのシナリオは『呪術師、阿近の木像。或いは、苦悶する樹鬼の怪…。』のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4845

●ミッション
サラシナを最上階へ到達させる。


●ターゲット
・城主
夢幻城、最上階にいるらしい謎の女性。
遠方に声を届ける妖術と、風景を歪ませる妖術を使う。
サラシナの“力”に興味があるようだが……?


・ツチグモ×1
豊穣出身の忍。
黒衣を纏った猫背の男。
背が高く身体は細い。
長い手足を駆使し、高速で駆けまわる様はまさに蜘蛛のようである。
彼を始めとした忍衆は、糸を武器として使う。

ツチグモ殺技:神中範に中ダメージ、呪縛、暗闇、停滞
 視認しづらい大量の糸を辺りに張り巡らせる技。


・ツチグモ配下×14
ツチグモ配下の忍衆。
小柄かつ痩せた体躯の者が多いのは、正面切っての戦闘ではなく攪乱、潜入、暗殺を主任務とするからだろう。

ツチグモ殺技:神中単に中ダメージ、停滞、暗闇
 対象に糸を巻き付ける技。


・鎧武者×5
無言で佇む鎧武者。
動作は鈍いが攻撃力や防御力は高い。
近距離では刀を、遠距離では弓を使って攻撃してくる。


●依頼人
・サラシナ(鬼人種)×1
黒の総髪を後ろでくくった女武芸者。
180近い長身と鍛え上げられた肉体を持つフィジカルに優れた女性である。
武者修行の途中、夢幻城の主に目を付けられた。
挑戦状を送り付けられ、サラシナはそれを受けることにした。


静心一閃:物至範に中ダメージ、乱れ
自身を中心として放つ長巻による一閃。技を放つその瞬間、彼女の心は無の境地へと至る。


●フィールド
夢幻城。
荒野の一角、かつての城跡に突如として出現した小さな城。
おそらく5階か6階建て。
内部の構造は詳細不明。
サラシナ曰く、1~2階は畳敷きの大部屋となっていたようだ。
天井も高く、戦闘に問題は生じない。
忍たちは、捕縛した対象を窓から外へと放り出す模様。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 風雲、夢幻城。或いは、ある妖術師の挑戦状…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月04日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●風雲急を告げる
 豊穣。
 カムイグラのある城跡。
 荒れた荒野の端にあるその城は、遥か昔に戦火に焼けた。
 残るは城壁や崩れた石垣のみといった有様の寂れた城跡である。
 
 ところがある日、そこに突然、小さな城が現れた。
 その城の名は夢幻城。
 城主はどうやら女のようだが、その容姿は不明。
 配下である忍集団と鎧武者に城を守られ“力持つ者”を集めようとしているらしい。
「どんなつもりか知らねぇが、アタシに喧嘩を売るとはいい度胸だ。その面拝んで、叩き斬ってやる」
 と、意気込んでいるのは黒衣黒髪の鬼種の女性。
 肩に担いだ長巻を得物とする女武芸者、サラシナである。
「なんともよく厄介ごとに巻き込まれるのぅ。頼られるも悪い気はせんが……お主、一度敗走しておるのじゃろ?」
「諦めてねぇから敗走じゃねぇ」
「そうか。城攻めとはなかなか厄介だからな……罠や伏兵など気を付けることが多い」
『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)と『背負い歩む者』金枝 繁茂(p3p008917)が、それぞれサラシナに声をかけた。互いの身体を縄で結びつけ、これで準備は完了だ。
 長柄の刀を獲物とするサラシナは、十全に動けなくなったせいか少々不満げな顔をしているが……。
「糸やら何やら搦め手が多いから、一筋縄ではいかなさそうだ」
「待ち受けている側が罠を張ったりあれこれしてるのが定石でありますが。此度はどうやらその手のものはなさそう、でありますかな?」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)と『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)は、城の正面入り口を見やりそう告げる。
 極僅かだが、誰かの視線を感じる。
 けれど、現在のところその視線が誰のものか、そしてどこから向けられているのかは分からない。
「よく1人で突っ込んだものだな。そもそも攻城戦なんて一人でするもんじゃねーよ……っと、そういえば、挑戦状の差出人に心当たりとか無いのか?」
 『怪盗ぱんちゅ』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の問いを受けたサラシナは、顎に手をあて思案する。
 はて? と首を傾げている辺り、どうにも心当たりはないらしい。
「とりあえず、上へ登る際の先頭は僕に任せてくださいッス!」
 腰に括った縄の具合を確かめながら『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)は城へと向かって進む。その後に続くのは、巨漢のオーク『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。
 彼の胴体には、いくつもの縄が括られている。
「ぶはははっ、城攻めたぁ剛毅な話だ! 折角だし勉強の一つでもさせていただくかねぇ!」
 呵々と大笑するゴリョウは、その太い腹をパンと叩いた。
 既に一行の接近は城主の女や忍たちにばれているだろう。ならばいっそ、とばかりに鹿ノ子とゴリョウは、いかにも威風堂々とした様子で肩で風切り前へ、前へ。
「よし! いっちょかましてやろうじゃないか!!」
「何処の誰ともわからない輩の挑戦を受けて立つだなんて、サラシナさんって律儀だなぁ」
「あん?」
「あ、いや、やだなぁ冗談だよ」
 人好きのする笑みを浮かべて『若木』秋宮・史之(p3p002233)はサラシナから1歩距離を取った。
 ゴリョウと縄で繋がっているため、1歩下がってもまだサラシナの攻撃圏内ではあるが、とはいえサラシナも貴重な協力者に敵対するつもりはないようで、ふん、と鼻を鳴らして視線を城へと戻す。
 その様子を見て瑞鬼はくっくと肩を揺らした。
「相変わらず喧嘩っ早いのぅ」
 なんて。
 からかうように告げた彼女に、サラシナはじっとりとした視線を向けた。

●夢幻城
「では、予定通り先頭は僕に任せるッス。妖術や罠を見破ってみせるッスよ!」
 と、そう言って鹿ノ子は大上段に剣を構え駆け出した。
 城の正面入り口、大きな木戸へ疾走の勢いを乗せた斬撃を叩き込んだ。
 木っ端と共に扉が吹き飛ぶ。
 その先には畳敷きの大部屋。奥には3名ほどの忍が待機していた。
 しゅるり、と。
 畳の擦れる音がして、鹿ノ子の足首に糸が巻き付く。
「っ!? さっそく仕掛けてきたッスね。とにかく囲まれたら厄介なので確実に数を減らしていくッス!」
 脚に巻き付く糸を斬って鹿ノ子が言った。
「隠れている敵もいるぞ。少しズルい気はするが、俺にはお見通しだ」
 構えたライフルの銃口を、アルヴァは上方へと向ける。
 木戸の上に潜んでいたらしい忍が、駆けこむ鹿ノ子へ向け腕を伸ばすがそれより速く、その肘をアルヴァの放った弾丸が射貫く。
 響く銃声。
 それを合図としたように、部屋の後方で控えていた忍たちが一斉に動き始めた。1人は天井へ向け跳躍、残り2人は部屋の左右へ。
「ぶはははっ、こいつら良い腕してんなぁ! こりゃ確かに防衛側として優秀だわ!」
 巨体を壁にするようにして、ゴリョウが前へ。
 宙や床を這うようにして迫る細糸が、ゴリョウの身体に巻き付いた。
 ギリ、と糸が張り詰めてゴリョウの皮膚がプツリと裂ける。
 全身に無数の裂傷を負いながらも、ゴリョウはその場を動かない。
 彼の体力を削り切るのに些か時間がかかる。
 そう判断したのか、忍の1人がピュイと指笛を鳴らす。
 何の合図か、とアルヴァが警戒心も顕わに周囲へ視線を巡らせた。
「急いだ方がいいかもね……っと、はい、もうだいじょうぶ」
 史之が刀を一閃させれば、ゴリョウに巻き付く糸がプツンと断ち切れる。
 糸を切られた忍たちは即座に反転。部屋の後方へと向け逃げて行った。
「逃げるんじゃない! この卑怯者! だから顔隠してるんだろう!」
「追撃……否、罠か? うぅん、城攻めの経験はない故、よい修行になるでありますな」
 史之と希紗良が刀を構えて前に出る。
 鹿ノ子へと視線を送るが、彼女のハイセンスには何も引っかからなかったようだ。大きく首を振るばかり。
「サラシナ。指揮も見たいと言っておったのじゃろ? わしらに指示を出してみるとよい」
「は? いや、瑞鬼の姉御よ……指揮ならアンタが」
「これはお主に叩きつけられた挑戦だろうに。いいから、まずは落ち着け。周りをよく見るのじゃ。心が揺れれば刀も鈍るぞ」
「う、む……いや、そうか」
 瑞鬼の言葉に、サラシナは多少うろたえる。
 視線をキョロキョロと左右へ巡らせている様子を見るに、どのような指示を出すべきか迷っているのだろう。
 そんな彼女へ
「幸い、攻め手も盾役も揃っている。俺自身とて無様な戦いをするつもりはない。一番良いと思う指示を出せ」
 と、繁茂が告げたことによりサラシナはようやく決心が付いたようだ。
 ギリ、と歯を食いしばると彼女は長巻を肩から降ろし下段に構えた。
「先頭はゴリョウだ。悪いが、敵の攻撃を全部受けてくれ。アルヴァは援護。敵を近づけないよう鹿ノ子、史之、希紗良は前衛!」
「挟撃の対処はどうする?」
「あー……繁茂と瑞鬼の姉御に頼めるか? 後ろから来たら、2人がカバーしている間にイズマが対応。一気に最上階まで駆け抜けちまおう」
「了解した。俺も城主に会ってみたいしね」
 アサルトブーケを構えたイズマが、視線を背後へ。
 サラシナの指示に従い、残りの者も一斉に行動を開始した。
 
 一階最奥へ辿り着いたその直後、階段から現れたのは鎧を着こんだ武者だった。
 地面と水平に構えた刀を、先頭を進むゴリョウへ向けて繰り出した。ゴリョウはその身を盾にそれを受ける。
 ゴリョウの腕を刃が貫く。
 黒い肌が朱に濡れた。しかしゴリョウは、腕に刃が刺さったまま、力任せに前へと進む。狭い階段の内部では、武者も十全に刀を振れまい。
 さらに、背後で響く足音。
 窓から忍たちが飛び込んできたのだ。
「ゴリョウさん、階段半ばぐらいまで進めないか⁉」
「ぶははは! 2階でいいのか? 何なら最上階まで突き進んでやってもいいぜ!」
 木材の砕ける音がした。
 木っ端を散らしゴリョウが階段を駆け上がる。床や壁を砕きながら疾走するゴリョウ。背後に仲間たちが続いた。
 後ろから迫る忍の糸が瑞鬼や繁茂の手足に巻き付く。
「サラシナ、斬れ」
 瑞鬼は糸の巻き付いた腕を掲げそう言った。
「え? 腕をか⁉」
「糸に決まっておるだろう小童!!」
 それもそうか、とサラシナは長巻を一閃。
 サラシナの腕を拘束する糸を切り落とす。
 切られた糸を破棄し、忍たちは次の糸を懐から取り出した。
「詰めて来ないな……なら、これで。少し離れていても当たるからな」
 親指を噛み切りイズマは言った。
 腕を振るえば、赤い雫がぱっと散る。
 散らされた血は、まるでそれが意思を持つかのように刃のような形状へ変異。剃刀の刃にも似たそれが、手前にいた忍の身体を貫いた。
「うぉ……ぐ」
 黒衣を血で濡らした忍が、苦悶の声を零してよろける。他の忍たちは警戒心も顕わに、一瞬その場で足を止めた。
 ほんの僅かな隙。
 けれど、その隙を突きイズマと瑞鬼が階段へと駆けこんでいく。
 足止めすべく、忍たちは糸を放つがそれは繁茂がその身で受けた。
「盾として、鬼として尊敬できるお二人がいるのだ。多少遅れても問題なかろう」
 腰に括った縄を解いて、繁茂は忍に相対する。

 2階に到着すると同時に、ゴリョウは武者を殴り飛ばした。
 仰向けに倒れた武者。
 跳びかかるのは史之である。
「はい、いっちょあがりっと!」
 タン、と。
 鎧武者の腹部へ刀が刺さった。
 呻き声すら漏らさないまま鎧武者は、腕を掲げる。その手には血に濡れた刀。
 斬。
 がら空きになった史之の腹部に深い裂傷が刻まれた。
「っぐ……思ったよりタフだね。こいつは俺がやっとくんで、皆は先に進んでくれるかな?」
「すまないね。死ぬんじゃないよ?」
「お互いにね」
 軽口を交わし、サラシナたちは先へと進む。
 史之の縄を解いたゴリョウは、腕を広げて部屋の中央を突き進んだ。
 その後に続く残りの面々。
 全員が先へ進んだことを確認し、史之は武者から刀を引き抜く。
 瞬間、バチと空気の爆ぜる音がして史之の刀に紫電が奔った。

 部屋にいた鎧武者は2人。 
 そのうち1人は、鹿ノ子による連撃を受け壁際へと後退していた。
 その鎧に鎧に刻まれた裂傷には、不気味な瘴気が纏わりついている。
 【恍惚】や【狂気】といった状態異常を付与するそれは、鎧武者を弱体化させただろう。
 ツインテールを靡かせながら鹿ノ子はまるで独楽のように踊り、跳ねた。
 負けじと武者も鹿ノ子の胴を斬り付けるが、手数が足りない。
 鳴り響く銃声。
 アルヴァの放った銃弾を受け、鎧武者はどさりとその場へ倒れ伏す。
 残す武者は後1人。
「弓か……面倒だな」
 3階へと続く階段前に、鎧武者が立っていた。
 剛腕でもって大弓を限界まで引くと、風を裂くような高速の矢を撃ち込んでくる。
「ぶはっ!!  勉強になるねぇ!」
 城の攻略が目的となるうえ、ルートが限られているとなれば一行は階段目掛けて進むしかない。
 だからこそ、弓を構えた鎧武者は階段に控えているのだろう。
「だが……アルヴァ!」
 ゴリョウは壁役をこなしつつ、アルヴァへ向けてスキルを行使。
 光の鎧を纏ったアルヴァは、天井付近まで飛翔した。

 放たれた弾丸は鎧武者の手……正確には、その手に握った弓へと命中。
 へし折れた弓を投げ捨て、鎧武者が刀を抜くが……。
「っらぁ!!」
 ゴリョウのタックルに弾き飛ばされ、階段横の壁にその身をめり込ませた。

 3階。
 びっしりと地面に張り巡らされた糸がゴリョウの身体に絡みつく。
 部屋の四方に配置された忍たち。
 糸を手にしたまま彼らは素早く移動を開始した。
 さすがのゴリョウといえど、4人相手を抑え込むのは少々きつい。
 畳に引き倒されたゴリョウが、窓際へと引き摺られていく。
「っ! 姉御!」
「心得た」
 長巻を手にしたサラシナ。
 そして刀を抜いた瑞鬼は部屋の中央へと駆けこむ。
「サラシナ!」
「おう! っらぁぁあ!!」
 瑞鬼が忍を牽制しているその隙に、腰を落としたサラシナは長巻を握る手に力をこめた。
 ギシ、と長巻の柄が軋む。
 脚を畳にめり込ませながら、サラシナは長巻を一閃させる。
 畳を抉り、天井に深い傷を付け、目にも止まらぬ速度で奔った長巻が、糸を千々に刻んで見せる。
 解放されたゴリョウが戦線へと復帰する中、鹿ノ子、アルヴァ、希紗良の3名は階段へと疾走。
 最後尾を務めるイズマが、悲鳴と歓喜の混じった声を張り上げる。
「繁茂さんと史之さんが来た! でも、その後ろを追って鎧武者と忍も来てるぞ!」
「じゃあ階段をぶっ壊しな!」
 サラシナの指示を受け、イズマはアサルトブーケを構える。
 史之、繁茂が階段を上がりきると同時に足元へ向けそれを振り下ろした。
 轟音。
 木っ端と粉塵が舞い上がり、階段とその周囲の壁が砕けた。
 砕けた階段の破片と共に、鎧武者と忍たちはもつれるように階下へ落ちる。
 それを確認し、反転したイズマ。
 その足首に、しゅるりと糸が巻き付いた。
「あ、やば……」
「掴まれ」
 滑落しかけるイズマの手を繁茂が掴み、引き上げた。

 4階。
 そこに居たのは2人の武者と3人の忍。
 うち1人は長身痩躯……ツチグモという名の忍たちの頭目だろう。
「散れ」
 と、ツチグモが短く告げれば2人の忍は左右へ展開。
 放たれた糸を、ゴリョウと瑞鬼が受け止める。
「この先が最上階でありますか? サラシナ殿を送り届ければ任務は完了でありますが、この後一体何が……?」
 と、そう問いながら希紗良は疾駆。
 忍や武者に目もくれず、彼女はまっすぐツチグモの懐へと潜り込んだ。
 その手に握った妖刀がゆらりと不気味に光って見えた。
 ツチグモは左右の手と手の間に糸を渡し、希紗良の刀を受け止める。
 衝撃を利用し後方へ跳躍。
 その後を追って希紗良は前へ。
 下段から上段へ向け、跳ね上げるように放った斬撃がツチグモの顔に一筋の裂傷を刻む。
「なかなかやるが……俺を斬るのは容易ではないぞ。御主の間など気にしてどうする?」
 鮮血が散る中、希紗良へ向けてツチグモは問うた。
「むむ……このようなものを拵えた目的など気になります故」
 一閃。
 ツチグモは潜るようにして希紗良の斬撃を回避。
 そうしながら、ツチグモは足元に糸を垂らす。
「来い」
 と、彼が短く告げれば、それまで鹿ノ子と斬り合っていた1人の忍が身体をくるりと反転させる。
 鹿ノ子に背を斬られながら、忍はまっすぐ希紗良の元へ疾駆した。
 伸ばした糸が希紗良の脚に巻き付く。
 忍を迎え撃つべく、希紗良は背後へ刀を一閃。
 瞬間、忍は加速した。
 まるで自ら希紗良の刀に刺さりに行くかのように……。
「むむっ!?」
 
 忍が加速したのではない。
 彼はツチグモの糸で引き寄せられたのだ。
 希紗良の刀が忍の腹部に突き刺さる。
 肉薄した忍と希紗良を、ツチグモの糸がまとめて縛った。
 身動きも取れず、刀も振れずに希紗良はその場に転倒。
「引け」
 と、ツチグモが告げれば、窓の外に黒い影が現れる。
「伏兵か! だが、させねぇ!  俺の領分は空を飛ぶことでな!」
 ライフルを構えたアルヴァが飛翔。
 糸を握った忍へ向けて銃弾を放つ。
 牽制のつもりで撃ったそれを、忍は回避せぬまま受けた。
「は?」
「あ、駄目かもしれませぬ……5階分を駆け上がるのは、良い足腰の鍛錬になりそうでありますな」
 落下していく忍。
 それに引きずられるようにして、希紗良の身体が窓の外へと消えていく。飛翔したアルヴァが手を伸ばすが届かない。
「くっ……」
 悔し気に歯を食いしばるアルヴァの背へ、ツチグモの蹴りが叩き込まれた。

「こいつは……どうすりゃいい?」
 混戦の様子を一瞥し、サラシナは唸るようにそう呟いた。
 鎧武者の刀を受け、イズマが倒れる。
 忍を追って駆ける鹿ノ子と史之。その全身が血に濡れている。
「ふむ。どうすればわしらの勝ちとなる?」
「アタシが最上階へ辿り着くこと……だが」
「では、そうしよう」
 と、そう言って刀を構えた瑞鬼はゆらりと歩き始める。
 部屋の中央を進みつつ、進路を塞ぐツチグモへ向け刀の切っ先を突き付けた。
「退け」
 数度、辺りの温度が下がった。
 刀を一閃。
 飛ぶ水の粒。
 タン、と短い音がしてツチグモの脇に穴が開く。
 小さな穴だ。
 けれど、血を流したツチグモは思わずといった様子で膝を突く。
 その隣へと進む瑞鬼は、ツチグモの首浦へ刀の峰を叩き込み、その意識を奪ってみせた。 

 5階へと辿り着いた瑞鬼とサラシナ。
 紫煙の漂う薄暗い部屋に、毛皮を敷いて寝そべる人影。
 豪奢な着物を纏った金髪の華奢な女性である。
「ほぉ……少々力任せではあるが、よくぞここへと至ったものよな」
 なんて、言って。
 にぃと笑う少女の頭部には狐の耳。
「お初に……我はクラマと申す。歓迎しよう」
 と、そう告げてクラマと名乗った少女は煙管を唇へと運ぶ。
 タン、と。
 短い音がして、サラシナが駆けた。
 その刀がクラマの加えた煙管を斬る……かに思えたが、しかし瞬間、クラマの姿は掻き消える。
「は?」
「妖術は苦手と見えるの。まぁ、力は確かに見せてもらった」
「あ……どこに行きやがった」
「斬られたくないので、一旦退かせてもらったまでよ。我は力を……戦力を集めておる。お主なら合格じゃな。士官先を探しているなら、またここに来るといい」
 なんて、言って。
 プツン、と。
 途切れるように、クラマの気配は消え去った。

成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド

状態異常

希紗良(p3p008628)[重傷]
鬼菱ノ姫

あとがき

お疲れ様です。
お待たせして申し訳ありません。
依頼は成功です。

この度は、サラシナと謎の城主との邂逅依頼にご参加いただきありがとうございました。
どうやら彼女は戦力を求めているようですね。
ともすると、今後彼女とどこかで逢う機会もあるかもしれません。
縁があれば、また。

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