PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>幻想を破砕する明けの明星

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●巨人の鉄球は総てを砕く
「レガド・イルシオン……破壊スル……」
 うわごとの様にそれだけを口にし続けながら、体高十メートルほどもあろうかと言う筋骨隆々の巨人は棘のついた鉄球が先端に付いた鎖をぶん回す。遠心力によって威力を得た鉄球は、街の家屋であれ防壁であれ、巨人が目をつけたものに衝突すると木っ端微塵に粉砕していった。それは、人間であっても例外ではない。運悪く巨人から逃げ遅れた者は、鉄球によって全身の骨を砕かれるか上から圧し潰されるかして死んでいった。
「ええい、これ以上進ませるな! かかれぇー!」
 接近戦では勝てないと見た兵士達が、巨人から距離を取ってクロスボウで矢を射かける。しかし、巨人は自らの前で鉄球をぶん回して鎖を高速で回転させ、盾とする。巨人へと飛来した矢は、尽く鎖によって遮られ、叩き落とされた。
 のみならず、その巨人を一回り小さくしたような、おそらく眷属の類であろう体高五メートルほどの巨人が数体、十メートルほどの巨人の後ろから飛び出したかと思うと、長い柄の先に棘付きの鉄球をつけたような武器を振るって矢を射った兵士達を叩きのめした。

 巨人達に蹂躙された街は、跡形もなく破壊され尽くした。建物は土台かそれに近い部分しか残っておらず、逃げ遅れた人々は街を守ろうとした兵士達と共に無惨な姿を晒していた。
 それでも破壊の規模に比して人々の犠牲は少ない方ではあったが、それは巨人達が目に付いたものを建物であれ人間であれ区別なく破壊しようとした故だ。巨人達が手近な建物を破壊している間に、何とか難を逃れた者は少なくない。
「レガド・イルシオン……破壊スル……」
 目に付くものを総て破壊し尽くした巨人は、次に破壊するべきものを探し始めた。まるで、幻想に存在するあらゆるものを破壊するのが自身の使命であるかのように――。

●誰の領地だろうと、巨人には関係なくて
「……巨人が、ここに? どうして、私のような一般人Bの領地に……」
 『古廟スラン・ロウ』から出現した巨人が自領に接近していると言う報を受けた天之空・ミーナ(p3p005003)は、首を傾げた。実際の所、巨人の目的は幻想のあらゆるものを破壊し尽くすことであり、ミーナが一般人かどうかは関知するところではなかった。そもそも、イレギュラーズとして豊富な戦歴を持ち、幻想から領地を賜っているようなミーナを一般人と呼んで良いものかについては大いに疑義を呈したくなるところではあるが。
 それはさておき、巨人が自領に向かっているのならば、ミーナとしては領主として領地と領民を守らねばならない。
「執政官。至急、ローレットに救援の依頼を出してくれ」
 その指示を受けた執政官が連れてきた応援のイレギュラーズ達と共に、ミーナは巨人を討伐するべく出撃した。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。領主の一般人Bって、なかなかのパワーワードだと思いました。
 それはさておきまして、今回も<ヴァーリの裁決>のうちの一本をお送りします。ミーナさんの領地に迫る『破壊者』モルゲンシュテルンを討伐し、ミーナさんの領地と領民を守って下さい。

●成功条件
 『破壊者』モルゲンシュテルンの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 ミーナさんの領地付近の平原です。時間は早朝、天候は晴れ。
 環境による戦闘へのペナルティーはありません。

●初期配置
 モルゲンシュテルンは、スレイヴと共に一団となっています。
 イレギュラーズは、モルゲンシュテルン達からミーナさんの領地側に最低40メートル以上離れているものとします。
 その条件さえ満たしていれば、配置は自由です。

●『破壊者』モルゲンシュテルン ✕1
 理由は不明ですが、幻想を破壊せんとフレイル型モーニングスターをぶんまわす巨人です。全高約10メートル。
 特に一撃の威力が大きく、生命力もかなり高くなっています。一方、回避はその巨体もあって低めです。
 鎧などはないのですが、モーニングスターをぶんまわして攻撃を叩き落としたりはするので、防御技術はそこそこ高くなっています。

・攻撃手段など
 モーニングスター 物中単or物自域 【変幻】【邪道】【出血】【流血※】
 ※【流血】は物中単の時のみ。
 マーク、ブロック不可

●モルゲンシュテルンスレイヴ ✕5
 モルゲンシュテルンの眷属です。こちらはメイス型モーニングスターを装備しています。全高約5メートル。
 一撃の威力が大きく、生命力も高くなっています。一方、回避は低めです。
 鎧などはなく、モーニングスターを振り回して受けると言う技量もないため、防御技術も低めです。
 遠距離からモルゲンシュテルンを攻撃しようとする者を排除するように動きます。

・攻撃手段など
 モーニングスター 物近単 【邪道】【出血】
 薙ぎ払い 
 巨体(マーク、ブロックには2人が必要)
 ヘイト:遠距離以遠からモルゲンシュテルンを攻撃する者
  【怒り】が付与された場合は、【怒り】の方が優先されます。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <ヴァーリの裁決>幻想を破砕する明けの明星完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)
傍らへ共に
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
酒々井 千歳(p3p006382)
行く先知らず
蘭 彩華(p3p006927)
力いっぱいウォークライ
一条 夢心地(p3p008344)
殿
マキシマイザー=田中=シリウス(p3p009550)
漆黒の堕天使

リプレイ

●明けの明星振り回す巨人を前に
 棘の付いた鉄球で目に付くものを破壊する巨人『破壊者』モルゲンシュテルンが、自分の領地に迫っている。その報を受けた『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)は、執政官を通じてギルド・ローレットに救援を要請。そして救援に訪れたイレギュラーズと共に、モルゲンシュテルンを迎え撃つべく自領から出撃した。
 しばらく進むうちに、一行はモルゲンシュテルンと遭遇する。
「また巨人……巨人にも色々と種類が居るのですね。というより、そういう種族かという点もかなり怪しいけれど」
 はぁ、と『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が深く溜息をついた。このところ、幻想の各所――特にイレギュラーズの領土――を巨人が襲撃する事件が続いている。リースリットがまたかと思うのも無理はなかった。
 それにしても、これまで出現した巨人はバリエーションに富んでいた。リースリットの言うように、巨人、と言う種族としてひとくくりに出来るものなのかも怪しい。
「巨人を駆り立てるものは何かしら? レガリアの消えた今、誰が貴方の手綱を握るの? 教えて頂戴……?」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は、何故こうも巨人が幻想の各所を襲撃するのかを考察した。特に今回の巨人に至っては、明らかに幻想を破壊するとつぶやき続けていると言う。
 イーリンはその所以を問うてはみたが、モルゲンシュテルンは変わらずただ「レガド・イルシオン……破壊スル……」と口にするのみであった。
(相手は幻想に余程恨みがあるのか、それとも別の感情があるのか。
 他の依頼の様子を見る限りだと、あの勇者王の時代に封印されていた魔物達が目覚めたとも見て取れるけれど、さて……)
 その様子を見た『行く先知らず』酒々井 千歳(p3p006382)は、モルゲンシュテルンがそこまで幻想の破壊に固執する理由について考えたが、途中で打ち切った。千歳にとって重要なのはそこではなく――。
「要は──斬っても良いか、駄目なのか。それだけだよ」
 モルゲンシュテルン討伐の依頼を受けた。強くなる為に刀を振るえれば良い千歳にとっては、その事実だけで十分だった。
「巨人の名に恥じぬ大きさですね、これは驚きです」
 モルゲンシュテルンの体躯に、『力いっぱいウォークライ』蘭 彩華(p3p006927)は思わずそうつぶやいた。しかし、驚いてばかりはいられない。
(あんなのが街にやってきたら、ひとたまりもありませんね。この場で何とかしなくてはなりません)
 実際、モルゲンシュテルンが現れた街や村は無惨に破壊されている。そして、この場で何とかするための重要な役割を彩華は任されている。そのプレシャーに負けないように、彩華は深く深呼吸して精神を落ち着かせた。
「破壊の明けの明星を討つべく、漆黒の堕天使参上だよ!」
 いわゆる中二的なポーズをビシッと決めながらそう言い放ったのは、『漆黒の堕天使』マキシマイザー=田中=シリウス(p3p009550)だ。もっとも、シリウス自身は戦闘力を持ち合わせていない癒やし手であるが故に、一行の後方に位置していたのだが。しかし実際に、シリウスによる癒やしなくしては、モルゲンシュテルン討伐がより苦しいものになったであろうことは事実である。
「はー、やれやれ。なんだってこんな面倒な事になってんのかねぇ?
 ……まあ、理由なんてどうでもいい。私は、私の領地に生きている者の生活を守るだけだ」
「ミーナの領地に攻めてくるなんて、厄介だね〜。ん〜、目的が幻想を破壊する事なら私の所にも来そうだしやだな〜。
 恋人のミーナのお願いだし、頑張って倒すね〜」
 モルゲンシュテルンを前にして『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)はぼやいたが、すぐに気を取り直して、領主としての務めを果たすことに意識を集中する。『傍らへ共に』アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)はその背中に寄り添いながら、恋人のためにモルゲンシュテルンを倒すと囁いた。
「――命あっての物種とは言え、身一つで生きるには人は余りにも弱い。
 民を救うとは、その生命のみならず、彼等が生きる場所、環境を守ることに他ならぬ。
 殿的存在である麿の目が黒い内は……これ以上の蹂躙は許さぬよ、デカブツ共!」
 『殿』一条 夢心地(p3p008344)が、その一風変わった装いには似合わないような真剣な口調で独り言ちる。そして夢心地は、妖刀『東村山』を鞘から抜き放つと、その剣先と鋭い視線をモルゲンシュテルンへと向けながら見得を切った。

●分断戦術
「それじゃ、行くね~」
 そう言ったアイリスだは、瞬く間にモルゲンシュテルンを取り巻く眷属、モルゲンシュテルンスレイヴの一体へと詰め寄っていた。そして、その圧倒的な速度を威力へと変えたドロップキックをスレイヴの下腹に叩き付ける。その衝撃にスレイヴはたまらず、後ろによろけて尻餅をついた。
「美事じゃ。麿も続こうぞ」
 夢心地はアイリスの攻撃に感嘆して賞賛すると、立ち上がろうとするスレイヴに対してすかさず黒き大顎を創造して放つ。大顎は隙を衝かれたスレイヴの肩口にガブリと深く食らいつくと、その肉を大きく抉り取った。
「――!」
 痛覚はあるのだろう。スレイヴが、頭を前後させてジタバタと悶える。
「あのデカブツを、自由にはさせるわけにはいきません」
 そのためにモルゲンシュテルンの敵意を煽り、味方がスレイヴを殲滅している間攻撃を引き付けるのが、彩華の役割だ。自分に任された役割を、命に代えてもやり遂げる覚悟は既に固めている。
「いけ、狐火! あなたの相手は、この私なのです!」
 彩華は他の仲間達から離れながら、ここが正念場とばかりに気合いを込めて、敵を惑わせる魔性の炎を放つ。炎はモルゲンシュテルンの表面を軽く焼くと同時に、モルゲンシュテルンとスレイヴ達に彩華への敵意を抱かせた。
「さって木偶の坊、ここは私が相手してやるよ。かかってきな!」
 掌を前に突き出して、ミーナが叫ぶ。同時に、ミーナの掌から膨大な熱量を伴う光線が放たれた。光線がモルゲンシュテルンの大腿部に命中し、その皮膚と肉をジュウ、と焼く。すると、彩華の方を向いていたスレイヴ達が一斉にミーナの方を向く。してやったり、とミーナは笑みを浮かべた。
「レガド・イルシオン……破壊スル……」
 モルゲンシュテルンは鉄球を振り回しながら、狐火を放った彩華へと迫る。高速で旋回する鉄球が、彩華を襲う。
「ううっ……中々、痛いですね……」
 彩華は鉄球自体は避けたものの、鉄球から生えている棘までは避けきれなかった。鋭い棘の先端が、彩華の身体を傷つける。
 一方、ミーナに群がったスレイヴ達は、誰一人としてミーナを傷つけることは出来なかった。
「今こそ、漆黒の堕天使の歌声を響かせる時!」
 シリウスはすかさず、詩のない歌声を奏でて調和の力を癒やしの力と為して彩華を癒やした。彩華の傷は、完全にとまでは至らないものの、みるみるうちに塞がっていた。
「ありがとうございます、シリウスさん!」
 傷がかなり癒えて、苦痛もそれほど感じなくなった彩華は、しっかりとした声でシリウスに感謝を伝えた。
(彩華さんが耐えていられるうちに、この眷属達を撃破しませんと……)
 スレイヴ達から距離を取ったリースリットは、魔術で雷の鎖を創り出すとスレイヴ達に向けて放つ。雷の鎖は蛇がうねるが如くスレイヴ達の間を這い回り、その身体へしっかりと絡みついていった。
「さあ、狩りの時間よ!」
 時間に干渉を行い微かな予知を得たイーリンは、モルゲンシュテルンとスレイヴを同一の射線に捉えられる位置を確保する。そして掌に魔力を集めて塊と為し、さらに剣へと象らせる。その剣を大上段に振り上げたイーリンは、一気に振り下ろした。剣閃から魔力の奔流が放たれ、射線上のモルゲンシュテルンとスレイヴの身体を穿っていく。モルゲンシュテルンの方はさほどの痛痒は感じていないようであったが、スレイヴは魔力の奔流に身体を抉られた苦痛に悶え苦しんだ。
「大きな敵とは戦った事はあるけれど、巨人は初めてかも知れないなあ──悪くないね」
 『武御雷』と『阿修羅』の二刀を手に、千歳はミーナの周囲のスレイヴ達へと斬りかかる。その唇には、笑みが浮かんでいた。何しろ、混沌に来てからと言うもの色んな相手との戦いに事欠かない。強くなる修行という意味では助かるし、何より退屈しなくて楽しい。
 乱れ斬り、とでも言うべき千歳の息をつかせぬ連続攻撃は、スレイヴ達をズバズバと斬って傷を刻んでいった。千歳に斬られたスレイヴ達のうち、最初に彩華に蹴られたスレイヴが力尽きて倒れた。

●輝くハイペリオンの羽根
 イレギュラーズ達は、順調にスレイヴ達を倒していった。ミーナが遠距離からモルゲンシュテルンを攻撃すれば、モルゲンシュテルンの射程外から攻撃する者を排除せんとするスレイヴ達はミーナを集中して狙う。だが、スレイヴ達の攻撃は威力は大きいものの、如何せん回避の技量に長けたミーナの前では躱されるか精々掠り傷しか負わせることが出来ない。その間にスレイヴは一体、また一体と倒されて、全滅するまでにほとんど時間は要しなかった。
 しかしその間に、彩華がモルゲンシュテルンによって深手を負わされていた。彩華は如何にか鉄球の直撃は避けていたが、鉄球の棘が掠っただけでも彩華にとっては大ダメージとなった。シリウスが必死に彩華の傷を癒やすべく歌声を響かせるが、彩華の傷は次第に深くなっていき、遂にはパンドラを費やすまでに至る。

「お待たせ~、彩華~」
 スレイヴ達が全滅すると、アイリスは瞬時にモルゲンシュテルンとの距離を詰め、その圧倒的な速度を以てモルゲンシュテルンの脛に体当たりを仕掛けた。そして、モルゲンシュテルンとの距離を取る。
「レガッ……!」
 これまでダメージを受けてもうわごとのように「レガド・イルシオン……破壊スル……」としか言わなかったモルゲンシュテルンであったが、高速の体当たりを脛に受けたのは相当痛かったのだろう、苦悶の表情を浮かべ、お決まりの台詞を言うのを途中で止めた。
 一方、アイリスが声をかけてきたこととモルゲンシュテルンを攻撃したことで、彩華はスレイヴが全滅したのだと察した。そして、傷の苦痛に苛まれる中にもかかわらず、パアッと明るい笑顔を浮かべる。それは、如何にか任された役割を果たせたと言う喜びによるものだった。
「ここまで、よくやってくれたわ。後は任せて。――さて、上手くいくといいのだけれど」
 イーリンは彩華を労うと、紅い瞳でモルゲンシュテルンを視て、造作も無さげにつぶやく。魔眼を発動したのだ。
「レガド・イルシオン……破壊スル……」
 イーリンの魔眼からの視線を受けたモルゲンシュテルンは、これまで彩華に執着していたのをあっさり忘れたかのように、イーリンをギロリと睨んだ。
「多対一となった段階で、もはやモルゲンシュテルンに勝ち目はない。麿が倒れても、誰かがトドメを刺してくれるじゃろ。
 故に、後の憂いなく力を振るおうではないか。削れるだけ、削ってやるわ!」
 既に気力を半ば以上消耗している夢心地だったが、敵がモルゲンシュテルンのみとなれば勝ちは見えたと、さらに気力を費やして黒き大顎を召喚する。夢心地によって放たれた大顎は、モルゲンシュテルンの脛のアイリスが体当たりをかけた場所に食らいつき、深々と牙を突き立てるとそのまま肉を食い千切った。
「――ガッ!」
 脛を襲うさらなる苦痛に、モルゲンシュテルンはたまらず背を仰け反らせ、苦悶の悲鳴をあげた。
「貴方達は何者です。何故、破壊する」
「……レガド・イルシオン……破壊スル……」
 リースリットは問うてはみたが、モルゲンシュテルンはお決まりの台詞を繰り返すだけだった。
(……この巨人も、やはり言語を操っている。それどころか、レガド・イルシオン……この国の名すら知っている。
 ……その上で古廟スラン・ロウから出現したというのが本当なら、やはり、彼らは勇者王と関わりがあるのは間違いないのでしょうね。
 それも敵対関係……巨人……伝承に……)
 ならばと、リースリットは探りを入れてみることにした。果たして、この名を聞いたモルゲンシュテルンが、どのような反応をするのか。
「勇者王アイオンの御名に誓って。――国と民を害する者は許しません」
「アイ、オン……アイオォォォン!!」
 アイオンの名が出た途端、ただお決まりの文句を繰り返すだけだったモルゲンシュテルンが憎悪を露わに咆哮した。
 やはり勇者王と何らかの因縁があったのだろうと察したリースリットは、紅い魔眼の力を以て、その手に炎を纏う剣を生み出した。そして、横薙ぎの一閃をモルゲンシュテルンに向けて振るう。炎を纏った斬撃はモルゲンシュテルンの脛へと伸び、夢心地の放った大顎に食い千切られた傷口を直撃する。
「……ガッ! アイ、オォォォン!!」
 よくもアイオンめ、と言わんばかりに、モルゲンシュテルンは苦痛と憎悪の叫びを上げ、リースリットを睨み付ける。
「こんな私でも慕ってくれる民はいる。ならば、その命を背負って戦うのが、役目なんだよ!」
 領主として、民を思い、民を守る決意とともにミーナが吼えた、その時である。ミーナの持つハイペリオンの羽根が白く輝いた。輝いたのは、ミーナの持つ羽根だけではない。イーリン、リースリット、夢心地の持つ羽根も、ミーナの持つ羽根に呼応するかのように白く輝いていく。
「身体に力が漲ってくる……蒼穹(そら)が、力を貸してくれているのか……?」
 広々とした蒼穹(そら)のビジョンが視えると共に、まずミーナ達ハイペリオンの羽根を持つ者の身体に力が流れ込んでいく。それは決して大きくも強くもない力ではあったが、ハイペリオンの羽根が力を貸してくれると言う事実が、ミーナ達の心を勇気づけた。
 ミーナはモルゲンシュテルンへと、掌を向ける。狙いは、仲間達の攻撃によってダメージの重なっている脛だ。やや白みを帯びた熱光線が、狙いどおりモルゲンシュテルンの脛に深々と突き刺さる。
「ガアアアッ!」
 モルゲンシュテルンはたまらず、大きく叫ぶと共に、ガクリと地に膝を突いた。
「皆さん……ありがとうございます。――うおおおおおっ!」
 自分が倒される前にスレイヴ達を倒し、モルゲンシュテルンを攻撃しに来てくれた仲間達に、彩華は感謝を述べた。そして裂帛の気合いを放つと、モルゲンシュテルンに駆け寄りその地に着いた膝の上の大腿部を蹴って真上へと跳躍し、二度の斬撃で斬りつけた。最初の一閃がモルゲンシュテルンの下腹を軽く傷つけて、続けての一閃が先の一閃による傷をザックリと深いものにしていく。
「その憎悪にも似た破壊の感情ごと、斬って捨てよう、次はもう少しうまくやるよ」
 千歳は『武御雷』と『阿修羅』の二刀を構え直すと、殺意を研ぎ澄ましながら駆けた。口元には、楽しそうな笑みが浮かんでいる。そして彩華に倣ってモルゲンシュテルンの大腿部を蹴って跳び上がり、月下に桜が舞うが如く華麗な剣閃で、彩華が斬った場所をさらに斬りつけた。モルゲンシュテルンの下腹には、彩華のものと合わせて三条の深い傷が刻まれた。その傷からは、脛よりも多くの血が流れ落ちている。
「レガ、ド・イ……ル、シオン……破壊、スル……!」
 脛と下腹を襲う苦痛に顔をしかめて耐えながら、モルゲンシュテルンは鎖の先の鉄球をぐるぐると回転させ、リースリットに叩き付けんと狙う。だが、元よりリースリットの回避の技量は高い。それに加え苦痛に苛まれながらの雑な攻撃では、リースリットを傷つけることは出来なかった。
(はは……俺の歌声で彩華ちゃんを支え切れて、本当に良かった)
 シリウスは彩華を倒れさせずにすんだことに内心で安堵しながら、調和の力を癒やしの力と為す歌声を響かせる。深手を負っていた彩華の傷は、シリウスの歌声によって半ば近く程までは癒えた。
「シリウスさんも、本当にありがとうございます!」
 思えば、彩華が役割を果たせたのは、シリウスの歌声による癒やしがあってのことだった。それなくしては、彩華は味方が駆けつける前に倒れていただろう。胸いっぱいの感謝を込めて、彩華はシリウスに礼を述べた。

●憎悪宿せし巨人の死
 夢心地が言ったとおり、残るはモルゲンシュテルンのみとなった時点で、モルゲンシュテルンに勝ち目はなかった。鉄球はまともにイレギュラーズ達を傷つけられず、傷つけたところでシリウスがすかさず歌を奏でて癒やした。その間にも、アイリスの速度を活かした蹴撃が、イーリンの創り出す剣からの魔力の奔流が、夢心地の妖刀『東村山』の一閃が、リースリットの放つ雷による光の剣が、ミーナの放つ熱光線が、彩華の二重の連続攻撃が、千歳の殺気を交えて放つ華麗な剣閃が、モルゲンシュテルンの生命力をみるみるうちに削り取っていった。
 モルゲンシュテルンの生命力が高い故に討伐完了まで時間はかかったが、イレギュラーズ達はスレイヴ共々モルゲンシュテルンを完全に討ち果たした。そしてそれは、ミーナの領地、そして領民の命と生活が、守られたと言うことでもあった。

成否

成功

MVP

蘭 彩華(p3p006927)
力いっぱいウォークライ

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって『破壊者』モルゲンシュテルンは討伐され、ミーナさんの領地と領民達は守られました。
 ハイペリオンの羽根が輝いたのはミーナさんの台詞がいい感じだったのでアドリブで入れましたが、これは基本的にこのリプレイだけの特別な描写とご承知おき下さいませ。
 MVPは、モルゲンシュテルンの敵意を引き受けて隔離することで、スレイヴの早期かつ安全な殲滅に寄与した彩華さんにお送りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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