シナリオ詳細
<コレクトル>剥製美食学
完了
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オープニング
●『剥製』
最近、特異運命座標と言うコトバを知った。
颯爽と現れては世界の危機を救う、英雄みたいなヒトたち。
あーー。いいなーー欲しいなーー。
そのヒトたち、欲ッしいなーー。
欲しい。ほしいほしい欲しい。
彼、彼女、其れがどうしても何としてでも欲しい。
世の摂理など構うものか。
数多の愛憎交々を胎に抱いた、純粋で狡猾な異世界の生きモノなど愛するに決まってる。美しいに決まってる。欲しいに決まってる。
三叉神経を櫛で解かし、体性神経を愛で溶かし、喜怒哀楽を塩で咀嚼し、全部全部キレイに鞣してあげたい。
固定化した皮膚に頬擦りして、磨いた内臓を肋骨に詰めこんだ、宝箱みたいな玩具にしてあげたい。
綺麗な鳥籠に首だけつめて、全てのリストランテに並べるなんて、いひひ、考えただけで興奮する。
イレギュラーズ。
こんなにこんなに剥ぎたいと思わせるなんて、本当に本当に悪い人たち。
大抵、英雄は世界のピンチに現れる。
だから私、今日から世界の敵になるね?
そうすればきっと私に気がついてくれるよね?
会いに来てくれるといいな。
いひ。いひひ。いひひひひひ!!
「……というノリで崩壊しつつあると思います、この世界」
ごうんと座っているソファが揺れて、数人のお尻が浮いた。
絶海の孤島、アルカモトラズ監獄の最下層。
深海に位置する応接室には身なりの良い夫婦と少女が座っている。足元にはダークブルーのスーツを着たテリア犬と水槽に入ったアサリ(二枚貝)。少し離れた場所では首の無い老婦人が編み物をしていた。
一見普通の幸せ家族に見える彼らはコレクターと呼ばれる世界の異端であり、隠者である。
「剥製、あれが世界の異変を引き起こしているのは間違いないでしょう。彼女に正攻法は通じない。アレでも最強のコレクターですから。会うにせよ、戦うにせよ、まずは弱らせて我々のフィールドまで落とす必要があります」
物腰の柔らかい男性はこのアルカモトラズ監獄を治める犯罪蒐集家だ。
剥製のもとに行くツテがあると言って世界崩壊対策部を立ち上げた彼は、凄く……すごーく笑顔だった。
「私たちの蒐集品になってくれませんか?」
おっとりした金髪の女性はそう言って、囚人番号の刻まれた首輪を取り出した。
●vs犯罪者
「執着の強い蒐集家ほど、他の物に目がいきません。そして剥製さん……彼女の『目』はいま『世界を助ける英雄』を探しています。みなさんに『犯罪者』というラベルを貼れば、少しの間、監視を誤魔化せるはずです」
その間に彼女の蒐集品を減らして力を削ぎますと、境界案内人TECは言った。
「犯罪蒐集家のパパさんママさんも凄いコレクターなので油断は出来ませんが……あのご夫婦は一人娘のリトルレディちゃんを溺愛しています。その娘さんがイレギュラーズの大ファンなので、本当に蒐集されちゃうことは無いと思います。多分!」
実に力強い多分である。
「コレクターの強さは蒐集品の多さや貴重さで決まります。先ずは剥製さんが人間界で経営しているリストランテに潜入して、可能なら蒐集品を奪ってきてください」
ところで何でサングラスと黒スーツなの? と誰かが聞いた。
頬を赤らめながら、変装ですと彼女は答えた。
- <コレクトル>剥製美食学完了
- NM名駒米
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年04月08日 15時40分
- 章数3章
- 総採用数18人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
「この度はマーレボルジェを止めて下さってありがとうございました。これでコバルトレクトも元通り、平穏で不穏な不死の世界へと戻るでしょう」
「世界崩壊を企んだ犯罪者が蒐集できただなんて感無量です」
「パパ?」
「こほん。彼女は我々が責任もって監視するのでご安心下さい」
犯罪蒐集家であるレイディアンス夫妻の顔は緩みまくっている。冷ややかなリトルレディの視線が無ければ、今にも踊り出しそうだ。
「くっころ」
剥製蒐集家であるマーレボルジェの首には犯罪蒐集物としての証が嵌められている。殆ど全ての力を失い人間に戻っているとは言え、力のある蒐集家だ。これからは厳重な監視がつけられるだろう。
「出前頼むけど、何がいい……?」
「脱出不能な監獄の最奥に届くデリバリーって皮肉だよね」
「くっ、展示されていたせいか。拙者、持病のヘルニアがぁぁぁ」
「騒がしいですよ、静かになさい」
賑やかな会話と共に他の蒐集家たちも集まってくる。
「お疲れ様でした!」
さあ、打ち上げを楽しもう。
第3章 第2節
「毎度あり!」
猫柳みたいなパンに生クリームと太陽色した時計草のジャムを挟んで『ポシェティケト』。そう名付けられたサンドイッチを、少し迷ってから皿へと乗せた。オーダーした果実のサンドイッチがウェディングケーキスタイルで届いた時には流石の鹿も目を丸くしたものだが、この人数だものと多い方が良いわよねとダージリンの紅に映った自分に言い聞かせる。
「何よ、憐れみ?」
「ワタシの淹れたお茶、飲んでもらっていなかったと思って」
「フン」
ごきげんよう、マーレボルジェと告げれば床に座った痩せぎすの少女はそっぽを向いた。隣に座って皿を差し出すと、パンから溢れんばかりだった苺が宝石のようにころりと落ちる。
「あなた、森で遭った時とはご様子が違うのね」
「まあね」
サンドイッチを手に取ったマーレボルジェはポシェティケトと視線を合わさない。
「そっちが遠慮なく鏖殺してくれちゃったお陰で、小指一本分の人間性しか残らなかったわ」
ティーカップを手に、残念だったわねとポシェティケトは告げる。
「私が蒐集を止めると思ったら大間違いよ」
「悪すぎたらその時はワタシ達がきっと止めますから。またひとつずつ、集めたら良いのではない?」
訝しげに、マーレボルジェは初めてポシェティケトを見た。
「止めないの?」
「もちろん、勝手に持っていくのは、駄目ですけれど、ねえ」
「甘過ぎィー……」
「ふふ」
舌に残った生クリームの甘さが、やけに優しかった。
成否
成功
第3章 第3節
「毎度あり!」
完熟トマトのソースに蕩けたチーズ。ベーコンからは肉汁が滴り、じゃがいもやコーンが芳ばしい湯気をまとっている。うず高く積まれたピザの箱と自分の背丈を比べていたイーハトーヴは視界の端に黒を捉えた。
「ネヴァンおばあちゃ……レディ・ネヴァン!」
黒鴉がゆっくりと振り返る。
「さっきは、心配してくれてありがとうございました」
礼儀正しく頭を下げたイーハトーヴの手にはお守り代わりのワイングラス。
「ねえ、あとでお時間いただけますか? ほら、お別れの前に、貴女の絵を描きたくて……」
別れ。
言葉に出した瞬間、物語の終わりについてイーハトーヴは考えた。
『みんなは幸せに暮しました。めでたし、めでたし』
今がそのシーンなら、自分は笑顔でいるべきなのだろう。
なのに、こみ上げる寂寥感が邪魔をする。どっかいっちゃえと喉奥に葡萄の酒精をつめこんでみても、ほろり零れるのは笑顔ではなく涙ばかり。
「お酒のせいかな、やだなあ」
「まったく今生の別れでもあるまいし。また来れば良いでしょう」
袖口で拭っていた水分にレースのハンカチが当てられる。
よく知る呆れた声色。だが、慈しむような老婦人の瞳を見るのは初めてだった。
「……へへ、こっちの顔の方を、覚えておいて貰えたら嬉しいな」
「貴方と言えばその顔です。私を描くならさっさとしなさい」
先に挨拶を済ませてくると駆け出す後ろ姿に、足元に気をつけなさいと注意が飛んだ。
成否
成功
第3章 第4節
「レディ・ネヴァン。おや、その頭は――」
黒い小筥を片手に呼びかけてから、言葉を探す小鳥のようにルブラットは首を傾げた。
頭を取り戻した黒鴉と白鴉が並び、テーブルの下では二人の会話に興味津々の元剥製蒐集家が聞き耳を立てている。
「造り物ではなく、返ってきたのだな。喜ばしいことだ」
「貴方達のお陰ね」
世辞でも皮肉でもない純粋な祝辞にレディもまた礼儀で応える。
「そうだ。レイディアンス家に渡した方が良いかとも思ったのだがね。この小筥は餞別に渡しておこう。これからは、貴方の身に平穏が在らんことを。祈っているよ」
「心からの感謝を、我が同志。貴方には刺激と安寧の授かり、果たして何方を祈れば良いのかしらね?」
「それと、マーレボルジェ君」
「ぎゃあ!?」
がばりと捲られたテーブルクロスの中で悲鳴があがった。
「なな何よ!?」
「生きていたとはな。良かったじゃないか。処刑されないだけ幸運なのだから、そう拗ねるな」
「拗ねてない!」
「貴方と監獄の主さえ許すのなら、ときどき面会に行こうか? 脱獄の手伝いは出来んが、話し相手ぐらいにはなれると思う」
「フン、私は重罪人。そう簡単に面会許可が」「良いかね、監獄の主」「いいよー」
「ちっとは悩めよ!」
「……ふふ、いつか私の身体も精神も、全て暴いてくれるのだろう?」
「ぬぐっ」
喉を鳴らして押し黙ったマーレボルジェを覗き込んで、くつくつとルブラットは笑う。
「その時が楽しみだ」
成否
成功
第3章 第5節
「みんなおさまるべきところへおさまったようだね。一部蒐集されてる人もいるみたいだけど、ちょっとやんちゃしちゃったんだから仕方ないよね」
「ナチュラルに頭を撫でるな、この人たらしィー!!」
「おっと」
元剥製蒐集家による渾身のパンチは見事空振った。史之にイイコイイコされていた余波か、マーレボルジェの顔は赤い。
どうやって骨を盗み出したのかという質問をはぐらかし、史之は小舟のように広場を漂う。
「テック」
「史之さま!?」
差し出された花束を境界案内人は驚いた様子で受け取った。
「色々とお世話になってるからさ」
「きれいなお花です」
「これからもよろしくね」
「はいっ!」
似合いますかと嬉しげな顔に頷いて、次の波間へ。
「レディ・ネヴァン、俺の話を聞いてくれてありがとう。すこし気が楽になったよ」
「私は貴方から良き対価を貰っただけ。感謝されるような事は何もしていません。一応、良かったですね、とは言っておきましょう」
身体に気をつけなさいと老婦人は付け加えた。
「レイディアンス家の皆さんにも世話になったね。首輪はお返ししたほうがいいのかな?」
「いや、記念に取っておいてくれ」
「犯罪有望株ですもの」
「いつでも歓迎するわよ!」
答えの代わりに綺麗な笑みを返して、史之は広間を見渡した。
「それではみんなのために腕によりをかけて料理を作ろうか。骨からダシを取ったチキンスープとかどう?」
「賛成!!」
「嫌がらせかァー!?」
成否
成功
第3章 第6節
「マーレボルジェ、ご機嫌いかが? ピザは好き? これ、すっごく美味しいよ! でも俺は、そろそろデザートも食べたい気分なんだ。ねえ、君のオススメって何かある?」
Q.イレギュラーズの蒐集に失敗したと思ったらあちらから寄ってきます。どうしたら良いですか。
「もしかして俺、喋りすぎかな? ごめんね、君とお喋りできるのが嬉しくって」
A.好きにしたら?
「あぁもうっ! ピザは好きだし認めたく無いけどチキンスープは超美味しかったし、デザート系ならパッションフルーツのジャムが挟んである白パンがオススメよ!」
堰を切ったように喋り始めたマーレボルジェに、イーハトーヴは慈愛のこもった視線を向けた。
「何よ」
「あのね、これは内緒のお話なんだけど。俺がこの世界の皆とこうして時間を過ごせるのは、君の蒐集癖のお陰でしょう?」
だからありがとう、マーレボルジェ。
目が点になるとはこの事だ。人から礼を言われるだなんて何百年ぶりだろう。元剥製蒐集家は完全に固まっていた。
「どうしても御礼を言っておきたかったんだ。でも、もうネヴァンおばあちゃん達を困らせちゃダメだよ?」
「お、おう」
「俺は違う世界の人間だけど、さっきネヴァンおばあちゃんがね、コンジョーの別れじゃないって言ってくれたから。だから、君ともまた会えたら嬉しいな」
「まあ」
真っ直ぐな奴は苦手だ。
だが、たまになら悪くない。
「別にいいけど」
答える耳殻は桜色。
成否
成功
第3章 第7節
ポシェティケトはひくりと鼻を動かした。匂いは記憶を刺激する。ならば嗅覚の優れた鹿にとって、此度の出逢いはどれも忘れられない想い出になるのだろう。
美味しい方の『ポシェティケト』をお皿に乗せてシルクハットの犬を抱え、いざ参らん、挨拶巡業の旅!
「良いハグ、夢心地」
「降りなよグラドゥス三世」
なお犬の楽園は開始10秒で終了した。
「ローバーお姉さま」
「ポポちゃん、お疲れ!」
出逢ったのは深海と書物の香。
「きっときっと、あなたの海の底へも遊びに行かせてね」
「いつでも大歓迎よっ」
出逢ったのは熟毒と暗闇の香。
「ネヴァンお姉さま、頭がお戻りになって良かった。また、香水を作ってくださいね」
ネヴァンは微かに笑ったようだった。
「たまには毒の無い調香も良いでしょう」
島とパイナップルの匂いも、よく知っている。
「リトル。どう? ワタシかっこよかったかしら」
「ええ、とぉーっても!」
頷くリトルの耳にポシェティケトは口を寄せた。
「ね、剥製の方は、痛くはされない? あなたがいれば大丈夫だと、思うけど」
「わたくしがいる限りパパとママの好きにはさせませんわ!」
お任せを、と胸を叩いた得意げなリトルの頬に手を添える。
「ゆっくりお顔を見れるって、嬉しいことねえ。お会いできて、良かった」
広間を振り返ってみれば知りあいばかり。世界は意外と狭いのだ。
「ワタシ達、みなさんの力になれて幸せよ。またお会いしましょうね」
成否
成功
第3章 第8節
「テック。今回もね、いっぱい、いーっぱい、ありがとう! 君と一緒にセンニューソーサしたの、ドキドキしちゃった!」
「恐れ入ります、マスター」
すましたテックの物言いから遊びの気配を感じたイーハトーヴは、ニヤリと笑った。
「褒美だ、受け取れ」
「わあっ、美味しそうです!」
「あっ、これね、マーレボルジェがお勧めしてくれたデザートなんだけどふわふわのパンに甘酸っぱいジャムが挟まっててね、可愛くって美味しいんだよ」
もふもふ。もふもふ。
ハードボイルド、即座に終了。
「美味しそうなものを食べているね……」
「博士!」
並んで食べる二人の元へテリア犬が近づいてきた。
「もう一回抱っこしていい?」
「まさかのトライアゲイン」
「だって博士って、ふわふわあったかでうっとりなんだもの!」
「どうぞどうぞ」
褒められて嬉しいのか、灰色の尻尾が振り子のように揺れている。
「ねえ博士、俺、このあとレディ・ネヴァンの絵を描かせてもらうんだけど、その絵はレディ・ネヴァンに貰ってもらいたいんだ」
「それは良いねえ。相応しい持ち主の元へ行く絵は、幸せだよ」
「それでね、他の絵を博士に貰ってもらえたら嬉しいんだけど……ねえテック、何を描くのがいいと思う?」
「皆さんを描くのはいかがでしょう」
広間で笑うコバルトレクトの住民たち。この景色を残せたら、どんなに素敵な事だろう。
「それ、超いいかも!」
幸せな夢を見るように、イーハトーヴは笑った。
成否
成功
第3章 第9節
「ケッ!!」
「たくさん、ありがとうね……」
「また来てよ!」
「怪我などしないように」
「皆さんならいつでも歓迎しますよ!」
見送る蒐集家たちに別れを告げて、境界図書館へと降り立つ。
長いような、短いような不思議な時間を過ごした本を見れば確かに題名が刻まれている。
『コバルトレクト』
砂時計のように世界が消えていく。そんな中で救えたこの世界の名を、小さな出会いの一つとして記録するのも良いだろう。
NMコメント
こんにちは、駒米と申します。
今回は三章構成のラリーノベルを予定しています。
●目標
世界崩壊を止める
『剥製』を弱体化させる
第一章:準備
できることは二つ。
1.剥製が経営する地下リストランテに潜入し、彼女の蒐集品をうばう(敵へのデバフ効果)
2.犯罪蒐集家に自白をして犯罪蒐集箱を充実させる(味方全体へのバフ効果)
また、味方NPCへ蒐集物を渡すと当シナリオ限定の特殊効果を得ることができます。
できることは三つだった。
第二章:剥製と戦闘。
第三章:二章の結果で変化。
●世界観
前回、境界世界『コレクトル(仮称)』を調査した結果、以下の事が判明しました。
敵NPC
【剥製蒐集家】
味方NPC
【境界案内人】TEC
【毒香蒐集家】レディ・ネヴァン(お婆ちゃん)
【稀覯本蒐集家】ローバー・メール・ロワ(アサリのお姉さん)
【絵画蒐集家】パルナスム博士(テリア犬のお爺ちゃん)
【犯罪蒐集家】レイディアンス家(パパとママとリトルレディ)
●舞台
第一エリア【人間界】
禁酒法時代のアメリカによく似た、欲望渦巻く暗黒街です。美食家が集まると云う噂の4つのリストランテ、いずれかに潜入できます。
『トロメーア』鳥籠に入った大きなカラスの首が飾られている。
『カイーナ』シルクハットをかぶった胴の長い子犬が鎖で繋がれている。
『アンテノーラ』店の中心に蝙蝠の氷像が飾られている。
『ジュデッカ』人骨でダシがとられている。
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