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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>アプレラプルイ→ルボートン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Après-midi blanc
 領地の視察に赴こう、と決めたのは、近ごろイレギュラーズの領地が魔物等に荒らされる事件が頻発していると知ったからだった。
 親しい『ご近所さん』にしばらく留守にする旨を告げ、『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)は出立した。
 急ぎの旅にするつもりはない。特別に危機感が薄いとも思わないが、途中の各領地を横目に眺めるのも悪くないと考えていた。イレギュラーズとして活動していると、なかなか落ち着いて『統治された町の光景』というのを領主の視点で見られる機会に恵まれないものだ。
「課題のひとつ、と数えていいでしょう」
 一定の名声を得たために、この世界で得られた未散の領地。
 そこをどう発展させていくか、どのように扱うか、まだ決めかねている。
 とりあえず必要そうな設備はあり、多少の悪心を持った執政官がいて、緊急時には呼び出すようにという約束を取りつけてはいるが。
 そして未だ、執政官からはもちろん民からも救援要請を受けてはいないが。
 これから、どうするか。
「悩ましいですね」
 途中で借りた馬に乗り、のんびりと街道を往きながらゆるりと瞬く。
 顔を上げれば青い空が目に染みた。
 民家、田畑、旅の楽団、賑わう市、笑う人々、小さな諍い、屋敷、休憩中の傭兵と貴族の馬車。
 見慣れているはずのものを、未散は改めて観察し、その隣を過ぎ去る。
 悲鳴が聞こえたのは日が傾き始めた時分だ。
「領主さまぁああ!」
「おや、ご機嫌よう」
「たいっ、たいへんです!」
 馬車の車輪をがたがた言わせながら走ってきたのは、日ごろ未散に代わって領内の政をとりしきっている執政官だった。御者台に座っていたはずなのに息が切れている。馬も疲れた様子だ。
 転がるように地に落ちた執政官はすっかり動転した様子で喚く。
「領に、領に魔物が!」
「皆様は?」
「兵士たちが避難を……」
 もごもごと執政官は言い、目を逸らした。
 大方、自分の私財だけを馬車につめこんで大急ぎで逃げ延びてきたのだろう。未散と遭遇したのは偶然ではない……と思いたい。
 その件について責めるのは、今ではないと彼女は知っていた。
「このまま走ってローレットへ。店番をしておられる青い小鳥のような情報屋さんに我が領の危機をお伝えください」
「かしこまりました!」
 ばたばたと執政官が馬車に戻り、全速力で駆けていく。
 未散はそっと馬首を撫でた。
「予定が変わりました。――想定内ではありますが。急いでくださいますか?」
 いななきひとつ、馬が応える。

●Pluie bleue
 青い雨が降っていた。
 青い空からざあざあと。
 落涙に似た雨の中、ほんとうに涙を流しているモノがあった。

 翼と下半身と長い尾は燕のそれ。
 他は黄金の、精悍な男。
 碧玉の双眸から滂沱の涙を流し、紅玉がはめこまれた金の長剣を持つ『魔物』。
 彼は天にあり、地にはみすぼらしい服装(ワンピース姿の少女だろう)の骸骨の群れがあふれていた。

 方々で戦闘の音が響く。少女のような骸骨が火を放ち、未散の兵士たちが逃げ惑ったり応戦したりしている。ざっと見たところ、五分五分の戦いだ。
「……此れは」
 いけない、と馬から下り、安全なところに逃がしながら未散は唇を閉ざす。
 あの燕と人の合成体は、一般の兵士には荷が重すぎる。
 恐らく、その足元にいる小さな純白の首なしも。

 嘆きと怨嗟、あるいは慈愛と祝福のような、落ちては砕ける宝石の細雨はやまない。

GMコメント

 初めまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 鉛の心臓も凍えた燕も天に召されない。

●目標
・『金色の鉛』プラケージの討伐
・すべての骸骨少女の討伐

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●シチュエーション
 王都メフ・メフィート郊外、『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)さんの領内のFleur De Saisonです。
 普段は人々が穏やかに過ごしています。

 プラケージのパッシブによりサファイアの雨が降りしきっています。
 住民は兵士たちにより安全な場所に避難しています。
 各所で兵士と骸骨少女による戦闘が発生しています。
 現状、戦闘可能(戦闘中)の兵士の数は50名です。

●敵
・『金色の鉛』プラケージ×1
 翼と下半身と尾は燕、他は黄金の精悍な男という姿の怪王種。『神翼庭園ウィツィロ』からやってきたと推測されます。
 主な得物は手にした長剣。大変強力な個体で、特にHP・物理攻撃力・回避に優れます。

・通常攻撃(物・近・単):【流血】【HP吸収50】
・黄金狂乱(物・中・扇):【致命】【暗闇】【懊悩】
・突進(物・中・単):【体勢不利】【飛】

・サファイアの雨(P):双眸がある限り戦場にサファイアの雨を降らせる。雨に触れた者に【凍結】の効果。(骸骨少女・アンジェ・プラケージ以外)
・ルビーの剣(P):黄金の剣にルビーの飾りがある限り、通常攻撃に【業火】を付与する。
・鉛の心臓(P):戦場に『鉛の心臓』がある限り、プラケージは死亡しない。(鉛の心臓が砕かれた際、このパッシブを失う)

・『心臓の籠』アンジェ×1
 首のない小柄な純白のヒトガタ。プラケージに寄り添う。
 鉛色のいびつな玉を抱えています。
 神秘攻撃力に優れます。

・加護(神・万能・付与):対象の物理防御力を上昇させる
・治癒(神・万能):対象のHPを回復する

・天に至れぬ者(P):死亡時発動。詳細不明。

・骸骨少女×40
 みすぼらしい格好の骸骨。衣服から恐らく少女と推測されます。
 一般兵には厳しくとも、イレギュラーズであればあまり苦も無く倒せる魔物。

・マッチの火(神・中・範):【業火】

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ。

  • <ヴァーリの裁決>アプレラプルイ→ルボートン完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
かんな(p3p007880)
ホワイトリリィ
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
フォークロワ=バロン(p3p008405)
嘘に誠に
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り

リプレイ


 並ぶ家々と花を焼く業火。降りしきる宝石の雨。
 破壊の光景でありながらどこか幻想的な町中をマルク・シリング(p3p001309)は駆ける。その頭上には炎を恐れぬ鳥が羽ばたいていた。
 高い声で鳥が鳴く。戦闘が激しい個所を上空から観察し、マルクに伝えた使い魔は役目を終えて姿を消した。マルクの足がとまる。同時に巡らせ続けていた思考も一時停止させた。
「皆も現場に着いた頃かな」
 広域をカバーするため、マルクは鳥の視点から得た戦闘状況を全体に共有、戦力の分散に貢献している。彼の眼前にも骸骨の少女と戦う兵士たちの姿があった。
 手にした杖を振るう。突如発生した激しく瞬く光が骸骨少女の一団を包みこむ。範囲内にいながらも無傷だった兵士たちは、困惑の目をマルクに向けた。
「助けにきました。怪我をした方は下がってください」
 即座に状況を理解した兵士たちが隊列を組みなおす。骸骨少女は悲鳴の代わりに炎を吐き出した。
「時間との勝負だ。アレクシアさんたちが持ちこたえている間に、再集合しないと」
 敵を見据えて呟く。

 分散した仲間たちを追おうとプラケージが動く。その眼前に『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が躍り出た。放たれた魔力の残滓が、小さな花のように散る。
「あなたの相手は私だよ」
「ア――!」
 不快そうに放たれるのは、鳥と美しい青年の声を混ぜあわせた音だった。
 無言で浮遊するアンジェが抱える鉛の玉に、銃弾が直撃する。
「ふむ。効果はありそうですね」
 硬いですけど、と『嘘に誠に』フォークロワ=バロン(p3p008405)は眉尻を下げて微笑む。アンジェがいびつな鉛の玉を隠すように、フォークロワに背を向けた。
 しかし地から跳ねた二射目の魔光は鉛の玉を的確に傷つける。
「残念ですが、逃げられませんよ」
「そして余所見の暇もありません」
 天に向かって放たれた矢が碧玉の雨を引き裂き、地へと注いだ。アンジェと鉛の玉も被害を受けたが、本命はプラケージの双眸だ。
 疎ましそうにプラケージが黄金の剣で矢を叩き切る。
「雨、あまり得意ではないのですよね。片腕が疼きますし、なにより」
 義腕を軽く振って、『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)は凍てつく雨よりもなお冷たく言い放つ。
「星が見えない。ですので、一刻も早く、原因であるその眼を砕かせていただきます」
 吼えたプラケージが長剣を横薙ぎに振るう。アレクシアの眼前に展開した梅花結界が軋みながらもそれを受けた。
「重い……っ、でも!」
 これ以上の被害は出せない。アレクシアたちの背後にだって兵士がいる。多くは負傷していて、動くことも難しいだろう。
 燃え上がる領地は、アレクシアの友人のものだ。人も、この場所も、
「これ以上傷つけさせない!」
 決意がプラケージの剣を跳ね返した。続けざまに攻撃が落ちてくるが、正純の矢が目くらましとなり、アレクシアの右横の空間を縦に裂くだけだった。
「あれも厄介ですね」
 自分の傷などお構いなしに、アンジェはプラケージに保護を与え、治癒を行う。正純の表情に苦さが走った。
「とはいえ、なにが起こるか分からないとなると、直接攻撃も慎重になります」
 敵との距離を爪先で測りながら、フォークロワはいびつな鉛の玉の破壊に努める。
「早めに幕を引きたいところですね。……なにせ、私の領土も幻想にありますので」
 文化交流都市カノン。大きな劇場を建てた自身の領を、無貌の仮面を浮遊させつつ想った。

 炎上し崩れた建物から、それは飛び出てきた。
 空中で華麗に一回転、ついでのように数体の骸骨少女を斬り裂いて、それは低い姿勢で着地する。
 口の周りについたドーナツの欠片をぺろりと舌で舐めとって。
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上!」
 少女の声が高らかに響いた。
 呆気にとられる兵士たちをよそに、『魔法騎士』セララ(p3p000273)は動き出す。天に掲げていた聖剣の切っ先を、
「セーラーラー」
 勢いよく、
「ストラァアッシュ!」
 振り下ろした。
 直線状にいた骸骨少女が天地も海も斬るほどの斬撃に呑まれ、姿を保てなくなり崩れ落ちる。我に返った兵士たちから歓声が上がった。
「安心するにはまだ早い! どんどん片づけていくぞー!」
「応!」
 指揮を向上させた兵士たちの応答が周囲の炎を震わす。
「セララ!? セララ様!? 本物!?」
 一部の兵士(ファン)たちが傷も忘れて興奮していた。
「生き残ったらサインあげるから、踏ん張ってね!」

 空間すら引き裂く大鎌の一撃が、瓦礫も業火も宝石雨も引き裂いた。
 音は遅れてやってくる。眼前にいた骸骨少女たちが前触れなく消滅し、尻もちをついていた兵士は瞬いた。
「間一髪ね。巻きこまなくてよかったわ」
 掠りもしないと踏んでいたとはいえ、ちょっとギリギリだったと『カピブタ好き』かんな(p3p007880)は静かに認める。
「あ……え?」
「敵じゃないの。助けにきたわ」
 五体の骸骨少女が、動けないでいる兵士たちとかんなに殺到する。
「綺麗だけど、冷たくて嫌な雨」
 囁く彼女の細い右腕が、禍々しい爪を持つ黒腕に変異した。炎にあぶられながらかんなは迷いなく、振り上げたその腕を地面に叩きつける。
 直後、地面から黒い鉤爪が突きあげられた。骸骨少女たちが引き裂かれ、炎を口から上げる。
「さあ、雨をとめて。……晴天を、迎えなくちゃね」
 膝を突いた兵士たちが、ほんの小さく笑むかんなを見上げていた。

「真なる黄金と、黄金の鉛の違いとはなんでしょうか」
 華奢な両手の指が、月のように丸い闇を包んでいる。
「或いは、我が身を削り領民に尽くす者と、傷つける者がそうなのかもしれません」
 負傷した兵士たちを背に庇い、『花嫁』は熱風に髪と裾を躍らせた。
「見せかけの美しさには、惑わされないようにしたいものですね」
 結論とともに闇の月を放つ。子にボールでも投げるように、ポォンと優しく。
 それは突進してきていた骸骨少女に触れた瞬間、巨大化し周囲の敵まで苦しめた。
「治癒は進んでいますか?」
「も、もう少し!」
「そうですか」
 なるべく急いでください、など言わなくても、治癒術師は額に汗を浮かべて必死に頑張っていた。
 であれば、『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)がなすべきことはただひとつ。
 彼らの『領主さま』がそう望んだように、敵に手出しをさせないことだ。
「引いてくださいませ」
 提案に対する返事は、炎を以てなされた。
 嗚呼、とマグタレーナは嘆息する。
「マッチを擦っても、此処で幸せな夢は見られないでしょう。……帰るべき場所へ、眠りの旅を捧げましょう」
 闇が広がる。
 丸く禍々しく、聞き分けのない子どもを見る母の眼差しとなった女の手元で。
「おやすみなさい、少女たち。どうか、安らかに」
 子守歌を紡ぎ額に口づける唇に、マグタレーナは死をのせた。

 ローレットによる救助活動は、場所によってはもう行われ始めているだろう。
 領主が請け負ったのは最も戦闘が激しい場所。
 最後まで人々が残っていた場所。
 最多数の骸骨少女に襲われ、最多数の兵士による最終防衛線となり、今まさに瓦解しようとしていた場所だった。
 くすぶっていた木片を、踏み割る。
「さあさ、皆さま御立会」
 凛とした声はあらゆる音を引き裂いて響き、薄らいでいた意識さえ現実へと引き戻した。
「ぼくが、指揮を執りましょう」
 誰かがその名を口にする。音色は震えていた。彼女は指揮棒を掲げる。
「一度此の聲が聞こえたならば。ぼくの、目が届く所で膝を折る事を赦しません。死した者に手向ける為に、花を育てている心算は御座いませんから」
 死を待つだけだった兵士たちが、次々に立ち上がる。よろめきながらも膝を伸ばし、今一度、敵に刃を向ける。
「――オーダー。『全軍、進め』!」
「おぉぉおお!」
 幾重にも重なる雄叫びが熱気も冷気も振り払った。
 骸骨少女が火を放つ。兵士たちは臆することなく前進し、その胴を薙いだ。
あぶられた鎧が溶ける。盾が燃え滓となる。それでももう、とまらない。
 再び『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)が指揮棒を上げると、兵士たちは後退しぴたりと攻撃をやめた。
「弓兵、構え。剣兵は前へ、身を寄せ一斉に敵を斬りつけよ」
「応!」
「生き延びれば、腕利きの兵としてより良い戦地への推薦状でも何でも、お書きしますよ」
 冗談とも本気ともつかない一言に、兵士たちの肩のこわばりが解ける。
 自らの前に出ようとする兵士たちを視線で制し、未散は最前線で号令を放った。
「散開、散開。――今だ、撃てッ!」

 強力な斬撃を連続で受け、アレクシアがよろめく。砕けた結界が光の粒子となって鮮血とともに舞った。
「アレクシアさん!」
「っ、大丈夫!」
 焦燥を帯びた正純に返し、アレクシアは体に力を込めてしっかりと立つ。
「なかなかしぶといですね」
 フォークロワが肩をすくめる。プラケージの右目に入った罅が修復されたところだった。
「ですが、肝心な方へのダメージは着実に蓄積しています」
 アンジェはプラケージを優先する。自らが持つ鉛よりも。
 その習性を、正純は知っていた。
「あなたは、どうして泣いているの?」
 刃を防ぎながら問うアレクシアの手首で、ブレスレットが揺れる。
「アァ――!」
 言葉ではなく、泣声が応じた。
 はらはらと落涙する、男の黄金の顔に表情はない。
 剣を押しこもうとしていたプラケージが思い返したように後退した。
 一瞬ののち、魔物がいた地点に漆黒が殺到し、弾ける。
「外しましたか」
 牽制を目的としていたマグタレーナが、残念がらずに首を傾けた。
「怪王種としてのプラケージとアンジェの記述は、極端に少ない。まるで『ひっそりと隠れて生きていた』か、『つい最近反転した』とでも言うように」
 マルクの杖先はアンジェに向けられる。
「疑問はいくつかあった。だから調べた。結論から言おう。アンジェが持つのはプラケージの心臓だ。そして、プラケージは」
 涙を流し続ける、この『敵』は。
「幻想北部、古い時代に、凍える夜に貧しい人々に火を与え、飢え苦しむ者にその身の黄金を与え――そして、魔物であるからという理由で迫害された」
「似たような童話が、今も残っているんだよ」
 話の隙にフォークロワが鉛を撃ち、低い姿勢で駆けたセララがついに『鉛の心臓』を両断した。アンジェが全力で回避できなかったのは、正純が矢を降らせ、かんなが斬撃を放っていただめだ。
「小さいころに読んだことがある。……ボクは、燕や王子様にも、幸せになって欲しかったな」
「嘗て善良であったとも、今は魔に堕ち我が領土を踏み荒らした身」
 真横から聞こえた、静かで、しかし嵐を連想させる声音に、かんなが顔を上げた。
「黄金の躰、ばりばりに剥いでやりましょうぞ」
 兵士たちに的確な指示と任務を与え、合流した未散が指揮棒を振るう。
「ええ。過去はどうあれ、こうなった以上は敵です」
 穏やかに言い放ったフォークロワの真横で、エクリプスが漆黒の涙を流す。地に触れる前に高速飛翔、プラケージの右目を穿った。
「この雨は悲しみなのかもしれない。怒りなのかもしれない。正確なところなど分かりませんが、他所様の家を雨で濡らして、挙句草木を凍らせ、さらにはしもべを使って燃やすなど、さすがに勝手がすぎましょう」
 正純は弓を引く。
 翼を射られ体勢を崩したプラケージが、騒音とともに地に伏せる。
「堕ちなさい、雨燕。貴女の飛ぶ空は、ここにはないのですから」
「天に至れぬ者。揃ってそうであるならば、地で砕けるより他にありませんね。残念ながら」
 すぐさまマグタレーナが追撃を仕掛ける。
 拳を握り締めていたアレクシアは、大きく息を吸って吐いた。
「ごめんね。あなたのことは、私たちが倒す。……もう、空を夢見なくてもいい。泣かなくても、いいから」
「苦しまなくていい場所へ、送ってあげるわ」
 かんなが純黒の大鎌を手にする。セララは唇を一度噛んでから前に跳ねた。
 体勢を立て直したプラケージの怒号が響き、アンジェの治癒の光が黄金の身体で踊る。

 碧玉の双眸が砕け、雨が上がった。
 紅玉の飾りが砕け、剣は炎を失う。
 攻撃を受けた黄金の皮膚が剥がれ、その下の鉛色があらわになる。
 美しかった黄金の男が、徐々に冷たく醜い姿に変貌した。
 付与される物理防御の結界も、治癒も、徐々に追いつかなくなっていく。
「ボクは、皆の平和を守りたい」
 プラケージの腕とセララの剣が拮抗する。
 少女は独白として、悲痛を吐き出した。
「街の人々に被害が出ている以上、やっつけないといけない。でも、でもね」
 自ら反動をつけて上に跳んだ。長剣が高速で迫るが、アレクシアに阻まれセララには届かない。
「キミのことだって、守れたらよかった!」
 叫びとともに全力のセララギガブレイクを放った。プレケージの左腕が斬り飛ばされ、鉛に変わって重く落ちる。
 とっさに後退したプラケージを、マルクの魔光閃熱波が襲う。回避できなかったプラケージが直撃を受けて仰け反った。
「いい加減、眠っていただかないと、此方も辛いのですよ」
「ええ本当に」
 このあと一体残っていると思うと実に憂鬱だと、フォークロワはマグタレーナ同意する。肩で息をするのは二人だけでなく、イレギュラーズ全体が消耗していた。
 幸いだとすれば、定期的に走ってくる伝令使が各地の兵士の善戦を告げることか。
「アンジェが攻撃した記録はなかったと、思いますが!」
「……少し、嫌な予感が、するのよね」
 プラケージの援護を続ける魔物に、正純とカンナの目が向く。一方で攻撃の手は休めず、その対象は黄金の怪王種だ。もちろん、長く余所見をするわけにもいかない。
「もう暫くの辛抱を」
 最前線で未散は鮮烈な光を生み出し、プラケージとアンジェを包む。兵士たちとともに、骸骨少女をそうして葬ったように。
 セララの斬撃もとまらない。アレクシアは誰も傷つけさせまいと、魔力の花を無数に散らせる。
 ついに宙に浮いていたプラケージの体が傾いだ。
「総攻撃!」
 言い切るより早く未散の指揮棒が振られ、神聖な光が空間を白く染める。
 圧倒的な破壊力を誇る魔術をマルクが行使し、白光と入れ替わるようにかんなの斬撃が奔った。
 軽やかな足どりで接近したフォークロワがエクリプスによる攻撃を与える。マグタレーナのエメスドライブが黄金の胸に穴を開けた。
「この祈り! 明けの明星、まつろわぬ神に奉る!」
 鉤爪が完全に消えるより早く、フォークロワの服の裾をかろうじて射抜かないタイミングで正純が叫びとともに矢を射る。
「これで終わり!」
 セララがプラケージの心臓を聖剣で貫いた。
 どう、と怪王種が倒れる。
 静寂が落ちた。
「さぁ、ピリオドは打てましたでしょうか?」
 回答を期待しないまま、フォークロワが問う。ふらついたアレクシアをかんなと正純が支えた。
 未散が片手を上げる。物陰に隠れていた伝令使が駆け寄った。
「伝令。総員、直ちに撤退せよ」
「はっ」
 領主の、指揮官の言葉を伝えるため、ところどころ焦げた男が走っていく。
「念には念を、か。そうだね」
 天に至れぬ者。
 死の間際にアンジェが起こす事象について、推測を進めてきたマルクが杖を握り直す。
 ――治癒を受けても、プラケージは動かなかった。
 諦めたように、アンジェが体をイレギュラーズに向ける。
「あなたも、さようなら」
 かんなの天堕がアンジェを捉える。
 地に頽れた『天使』の首元に、未散が立った。
「贖いを」
 神気閃光の光があふれる。
 それが収束すると、ぼろぼろと崩れて灰になっていくアンジェの姿が見えた。首のない魔物は指先をプラケージに伸ばす。
「正気ですか」
 心底嫌そうなマグタレーナの言葉がすべてだった。
 黄金の剣に紅玉が。
 虚ろな眼窩に碧玉が。
 剥がれた黄金の皮膚が。
 そして、砕け散った鉛の玉が。
 元に、戻っていく。
「アンコールとは」
「勘弁して欲しいのですが」
 さすがにフォークロワが口の端をやや引きつらせ、正純も頭痛を堪える顔になる。セララは剣を握り直し、アレクシアは両足を叱咤した。かんなが構え、未散はじっと見据える。
「不死を可能とさせる心臓でも。一度砕ければ、その効果を失うよ」
 マルクが断言し――その通りだった。
 完璧な姿になっても、プラケージは動かない。


 方々での骸骨少女討伐戦も終わり、兵士たちは消火活動を開始した。
「有難う御座います、皆さま」
 戦場より少し離れた地域で、深々と未散は頭を下げる。
「気にしないで、未散君」
 明るくアレクシアが笑い、かんなが頷く。
「被害も、あまり出ていないみたいで、よかったわ」
「あちこち燃えていますが」
「事後処理もできるだけ手伝うよ」
「ええ、そうですね」
 ここからでも見える、天に伸びる炎と黒煙に正純は目を向けた。マルクが申し出、マグタレーナが首肯する。
「明日は我が身、ですか」
 いやはや怖いですね、とフォークロワはあまり深刻でない口調で呟いた。
「さて、なにからしようか?」
 ぐっとセララが伸びをする。
「まずは消火を。その後――どうか、細やか乍ら、祝杯の席を設けさせて下さいまし!」
 晴れた空を背負って、未散は目を細めた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
それはいつか物語の起源となった――かもしれない、魔物の結末。

ご参加ありがとうございました!

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