PandoraPartyProject

シナリオ詳細

憧れの蒼を求めて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●知識歪み狂いて
 海に行きたい。
 少女の願いは些細なものであった。もとより彼女は海というものを文献でしか知らない。『海洋』にいけば海を見られるだろうか、程度の知識しか持ち合わせていない。
 潮の香りも言う程には知りえない……知識としては、行商人が運んできた魚ぐらいか。豊かではない村に届く魚と言えば、さして鮮度も保証されていない代物であるのだが。そこから漂うものなど、死臭と同義であろうに。
 ゆえに少女の知識というのは偏っていた。
 曰く、塩水の池を海と呼ぶ。
 曰く、塩と水のみならず。『死』が入り混じった香りが海の、潮のそれである。
 曰く――人の血の匂いこそが潮のそれに親しいのだ、と。

 混沌なる少女の知識は、やがて彼女が命を落とすその日まで偏ったものとして蓄積されていく。
 少女の死因は直接的には失血死なのだが、不審な点はいくつか存在し。
 喉を塞ぐように生まれた血の塊と、一切の痕跡なく失われた彼女の血潮と、彼女の部屋から見つかった『よろしくない』書籍と彼女自身の拙い筆致で描かれた印章。
 そして、特筆するにもう一点。
 彼女の村の人間が、同じような症例で全滅していた事が挙げられる。

 それから、2週間ほどだろうか。
 世帯数20に届かぬ小集落が相次いで全滅ないし半数の死が報告され始め、生き残った者達は口々にこう述べた。
 ……赤い水の塊が蠢き、潮の香りを残して人を呑み込み、吐き出していった……と。

●禁忌、海へ渡る
「こういうのを俺の世界、俺の国だと何て言うんだったかな。『生兵法は大怪我の基』、だったか」
 資料を眺めながら、『博愛声義』垂水 公直(p3n000021)は呆れたように切り出した。相手は『正体不明の強敵』ではなく、『幻想』では既知の脅威、であるらしい。
「恐らくは『ドリームイーター』って魔物の亜種だろうな。なんでも召喚型の悪魔で、召喚コストは低い。でも召喚者の望みをかなり歪めて解釈するし、本人だってそのためには殺すことが多いから殆ど喚ばれることのないようなヤツ。それがお嬢ちゃんと村人を殺して今も元気に活動中ってことだな」
 単純なれど面倒な敵。理想を死に塗り替えるような厄介者。その類を、望みのために少女が召喚したというのか。イレギュラーズの問いに、公直は首を振った。
「正確にはちょっと違う。どうやら、お嬢ちゃんは低位の転移魔法陣を書きたかったらしい。低位つっても魔法の類だからな、訓練なしで使えるものでもないし複雑だしで、正直オススメできないブツなんだけど。それと書き間違えて出てきたのがコイツと」
 一部の書き間違いが『低位の転移』ではなく『低位悪魔の召喚』に置き換えられてしまった、というのが事件の趣旨らしい。
「村の被害を見ていくと、どうやら嬢ちゃんの村から海に向かって進んでるらしい。血を媒介にしたり被害者を『溺死』させたのは嬢ちゃんのイメージ力から来る奴だろう。だいぶたっぷり血を吸ったから、それなりに強いと見ていいだろうな」
 1人の少女の願いごと相手を殺すのだ。願いについては真摯に、任務遂行は真面目に、しかしながら、スタンスは重くなりすぎず気楽に達成すればよい。
 彼の言葉に、イレギュラーズは気が重くなる想いがした。

GMコメント

 未知なるなんちゃら(伏字)に夢を求めると正気度チェック。三白累です。

●達成条件
・『ドリームイーター亜種』の討伐
(失敗時は村が地図から消えたり海に到達したこいつが更なるアレをやらかします。出来れば頑張って止めてほしい)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ドリームイーター亜種(プレイングでは『DE』呼び可)
 人の願いを餌にする下級悪魔。下級なので加減を知らず、願いを食いつくして対象を廃人にする、召喚者を『うっかり』殺してしまうなどザラ。
 不完全な下位召喚陣から生まれたためか、犠牲をいとわない凶暴性がより強く出ているらしい。
 でも臆病なので、人の多い市街地や貴族領を大幅に迂回して海に向かっている模様(そのため小集落の被害が多い)。

・血潮の呼び声(ターン開始時点で出血系BS保有者数に比例し再生・充填を自身に付与)
・血波(神中ラ・出血・窒息)
・潮縛(近物範・乱れ・流血)
・血槍(超遠神貫・出血・致命)
・願望器(歪)(超遠神域・万能・無・呪殺。ダメージ判定は発生せず、呪殺ダメージのみの判定)

●戦場
 海にほど近い小集落入口。
 進行方向を塞ぐ形でイレギュラーズが布陣します。大量に血を吸って大型化しているので、発見からレンジ4到達までに2ターンほどの猶予があります。

 そんな感じで、少女の夢を終わらせましょう。
よろしくお願いいたします。

  • 憧れの蒼を求めてLv:4以上完了
  • GM名三白累
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月13日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
Remora=Lockhart(p3p001395)
Shark Maid
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風

リプレイ

●絶望の足音
 波の音が聞こえる。――幻聴。
 砂の擦れる囁きが聞こえる。――これも幻聴。
 世界が終わる音と悲鳴が響き渡った。――これは現実。
 悪魔の産声とともに積み重ねられた罪の澱はすでに召喚主の願いのそれとは趣を大きく異にする。
 さりとて、それを止める手段などない。少なくとも、召喚主自身の意志ではどうしようもなくなっていた。
 肥大化し、混淆として混濁した自我はもはや、誰のものでもなく悪魔自身のものである。
「願いを喰うだけの魔物が調子に乗るな! ここから先へは行かせない!」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の堂々たる声が戦場に響き、鈍重な悪魔の視線を釘付けにする。『ラムレイ』に騎乗し実体なき二刀を振りかざす彼女の姿は、身の丈に似合わぬ堂々としたものだ。その目はただ前を見て、悪魔に対して侮蔑に近い憐憫の感情をのぞかせていた。
「分かっていても、気が重くなるわね」
 『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は加速した勢いそのまま刺突剣に乗せ、悪魔の芯を抉る勢いで貫いた。彼女の意識とは別に、その足取り、攻撃速度は切っ先が霞むほどの境地に達していた。……尤も、その刺突剣はもとより幻影を纏ったそれなのだが。
「……悪いが、オマエを海に招くわけには行かないな」
「大地の精霊、厳かなる魂よ。彼の悪徳の跋扈を諌め給え」
 『放浪カラス』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)と『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)の言葉に乗って、魔力の縄と数多の石礫が悪魔に降り注ぐ。一発一発は微弱な威力であろうと、数を揃えればその限りではない。まして、精霊の声を聞き、有意にその力を引き出すエーリカのものとなればなおさら。
 魔力のロープに捕まった悪魔が、煩わしげに身じろぎする。血を魔力で練り上げた束縛が、間合いに入ったイレギュラーズへと襲いかかる。だが、その束縛をものともせず踏み込む影があった。
「ま、これが仕事なんでね。諦めてもらうしかないな」
 『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)は、二刀をもって血の束縛をいなし、勢いそのままに悪魔へと叩きつけた。この上ないタイミングで打ち込まれたカウンターは、不定形の喉から絶叫を迸らせる。ルナール自身も無傷とはいくまいが、さして大きい傷でもなし。
「……残念だ。こうなった以上、俺は君の願いを殺すしかない」
 『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)は至近距離で気功の爆弾を生み出し、爆破させることで血の束縛を引きちぎる。肉体に被った不利は覆せずとも、一撃叩き込むだけの猶予は生まれた。自他の攻撃により傷つく体を強引に再生、さらに自ら痛めつけるチキンレースめいた戦い方に辟易しつつ、しかしそうでもしないと止められない敵であることを、彼は認識していた。
 ――或いは彼女の願いがそれだけ強固であったのか。原型すら定かではない悪魔の姿から、それを汲み取ることはままならない。
 『常人』であった彼に魔術の云々や悪魔のあり方など理解出来ようはずもない……理解する気は最初からない。汲み取りたいのはただひとつ、餌食にされた少女の願いであるのだから。
「負傷者は少数、今にも倒れそうな方は……大丈夫ですね」
 『Shark Maid』Remora=Lockhart(p3p001395)は周囲の損害を素早く把握すると、攻撃に回るべく銃を構えた。油断なき構えから吐き出された術式は悪魔の胴を掠め、空気に溶けて消えていく。まだだ。もう少し狙いはつけられる。もっと上手くやれる。仲間に油断なく視線を這わせ、彼女は再度、銃口を悪魔へ向けた。
「こけー!」
 『聖なるトリ』トリーネ=セイントバード(p3p000957)の鳴き声が高らかに響いたのはその時だ。『いかにも』な姿をした彼女の鳴き声は、戯れのそれではない。冷静に状況を分析した結果として選択した『聖なる』鳴き声である。
「見切った! この状況、鳴けば好転するわ!」
 彼女の言葉に誤解や偽りのたぐいはない。少なくとも、彼女の鳴き声は流れ出る血を止め、傷を癒やし、仲間達の状況を好転せしめた。戦闘において、その働きは多くの仲間の背中を押すに足るものだ。……『鳴けば好転する』という言葉にはどこか誤解を生む表現が含まれるのだが、それはそれである。
「焦るな! 確実に追い込め!」
 イーリンは馬上から叫び、仲間に警戒を促す。危なげなく戦いを進めているように見えるが、その実、気を抜けば一気に苦境に追い込まれる危険性を内包している。彼らの背後には村落がある。人の築いた世界がある。
 エーリカは次弾を叩き込むべく詠唱を続けながら、ちらりと見た人々の視線を思い返す。
 思い出すたび体が震える。喉が貼り付くような焦燥感を覚える。……だが、彼らを助けたいと願ったのは他ならぬ自分である。その決意が、宝珠を握る手に力を与えた。
 ……万全とは言うまい。だが、間違いなく。人々を救いたいという決意は間違いなく人々に届いていることだろう。

●祈りあれ
 イレギュラーズ達の提案を受けた時、情報屋の表情に険しいものが混じったこと、その意味を一同は理解していた。
 時間と照らし合わせて適切でない、どころか――不利になる可能性すらあるもの。避難誘導に割ける時間はどう急いでも5分取れれば重畳であろう、程度。
 トリーネとRemoraの用意した馬車に、あるいは自前の騎乗動物にまたがった一同はあらん限りの速度で目的の村へと急ぎ、家に籠もるように強く進言した。
「ここから逃がすのはいささか現実的ではありません、馬車をバリケード代わりにして入り口を塞ぎましょう」
「そうね! ……えーと。危ないと感じたらあっちにダッシュ!」
 トリーネは外に出て戸惑う村人に、ばさりと羽根で村の出口方向を示してみせた。ギリギリまで待ってから逃げるのは得策ではないが、殺されるままを待つよりは余程マシと考えたのだ。……彼女の動きの滑稽さはともかく、『崩れないバベル』様様である。
「…………っ」
 エーリカは、不思議そうに見上げる少女を前にして一瞬だけ立ち竦んだ。未だにヒトと話すことは苦手だ。イレギュラーズ相手ならまだしも、面識のない一般人は、厳しい。
「家から出ないで、窓に近付かないようにして。……私たちローレットが、こわいおばけをやっつけるから」
 だが、そう言っていられるほどの余裕などどこにもない。少女の目線にあわせると、噛んで含めるように言葉を紡ぎ、ぎこちない笑みを浮かべた。少女は笑って自宅へと駆けていく。意志は確かに通じた。次は、その言葉を現実にする番だ。

「これで、少しはマシなのかな」
「ここで倒せれば問題ない。……負けた時のことを考えなければ、なんの問題にもならないな」
 威降が心配そうに村に視線を送ると、ルナールは気にしたふうでもなく前方に視線を向ける。僅かな時間での避難誘導がどれほどの効果を及ぼすかは未知数だ。
 今、彼らができるのは襲い来る悪魔を討伐し、当面の脅威を取り除くこと、ただそれのみ。
 じわりと世界を歪ませて現れた悪魔とイレギュラーズの激突は、そこから間を置かずして。
 求められるのは容赦なき決着。情を向けるには、悪魔の所業はあまりに手遅れであったのだ。

 悪魔の指先に、血液が収束して歪な槍を形成する。一瞬の後に宙を駆けたその槍はエーリカの胴をやすやすと貫通すると、背後の地面に突き立ち、霧散した。
 反射的に腹部を押さえ、治療を試みたたエーリカのもとへ、どこからともなくヒヨコ達が群がっていく。ヒヨコ達の鳴き声が歌となり、動揺と驚愕で揺さぶられた彼女の感情を少しずつ鎮めていく……トリーネの召喚による治療は、エーリカの危機を紙一重で救ったのだ。
「歪んだ夢の力なんて私の癒しの前では無意味!無意味だわー!」
 強がるトリーネが内心でかなり気圧されている状態なのはともかく……エーリカは貫かれた瞬間に確かに、悪魔の中に渦巻く数多の感情をその身で感じた。もはや個々の感情を理解できるほど『マトモ』な状態ではなかったが。あの悪魔が取り込んだ人の悲哀は、負傷を押して立ち上がるに十分すぎる理由だった。
「これ以上、無視されるのもいい気分じゃないんでな。俺の相手でもしてもらおうか」
 ルナールは二刀を押し込むように悪魔に叩きつけ、自らに意識を向けんとけしかける。司書(イーリン)が適時長髪を繰り返しているのは確かだが、悪魔の特性なのか、持続させるのは容易ではないようだ。
 それを差し引いても、正面で切り結ぶ相手を無視して後衛に手を出された事実が彼にとっては気に食わない。
 間断なく叩きつける自らの手練手管を無駄であると断じられているようでもあり、実に不愉快だ。その報いを、僅かな隙を生み出すことで報いる事ができるなら、それ以上の成果はあるまい。ぎょろりと向けられた目を睨みつけ、ルナールは再びの一撃を叩き込む……とほぼ同時に、別方向からも凄まじい衝撃が響き渡る。
「叶えたい事は知っているわ。でも、それは許されるものではないのよ」
 あらん限りの魔力を絶えず細剣に注ぎ込み、愚直に己の速度を武器に変えて叩き込む。自らの命を削って魔力に変え、さらに踏み込むその姿勢には騎士としての誇りと意地が垣間見えた。
(皆さん、揃って無理をなさる……でも、それくらいやらないとこの相手は倒れませんか。短期決戦でなければ間違いなく押し返されるわけですから)
 Remoraは周囲の傷や出血状態を確認しながら、慎重に仲間達の治療を進めていた。トリーネ含め、相互である程度治療出来る環境にあるとはいえ、時折襲いかかる血の波や槍の威力も侮れない。悪魔そのものにも、消耗している兆候がみられるが……消耗に比して潤沢とは言い難い彼女の表情にも、徐々に焦りと不安が浮かぶのはやむを得ないことだろう。

 威降の脳を、痛覚が繰り返し殴りつける。爆彩花による反動、血の束縛による浅からぬ手傷、それらが再生力と治癒魔法で癒えていくさきから焼き切れる感覚。
 潤沢な体力があればこそ立っていられる彼ではあるが、悪魔の凶暴性はいささかも緩まない。この凶暴性は少女の願いの強固さなのだろうか。だとすれば、哀れだ。
 誰かを殺してまで得るほどの夢ではないのに、望まぬ形で他者を殺すしか選択肢が無いなど哀れというほかないではないか。
「望んでない理想を叶えてあげられるほど、俺は親切じゃない。君の願いはここで殺させてもらう」
 許してほしい、と乞うことなく。許してくれるだろう、という楽観。少女の本意がそこではないと理解するがゆえに、彼は自らを強いて剣を握る。
 ……その言葉が聞こえたわけではなかろう。イレギュラーズの猛攻が奏功したのかもしれない。
 だが、確かに……その悪魔の動きは鈍っていた。
「臆病なこと、最初に食った娘の末期の言葉にさえ怯えたわね?」
 イーリンはその兆候を見逃さない。双剣にあらん限りの魔力を籠めた斬撃は、悪魔の胴を大きく裂き、取り込まれた人々の血を撒き散らす。自らのギフトによって垣間見た少女の末期の言葉は、夢見る少女のそれであり、悪魔に対する激しい否定であった。
 理想を糧に能力を増す悪魔にとって恐れるべきは、『望みの否定』である。希望と搾取の契約の均衡は、悪魔にとって崩すべきではない絶対性を秘めている……それがどんなに歪に再解釈されたものであれ、だ。
 悪魔の目が輝きを増し、自らを中心に広範に暗い光を撒き散らす……『願望器』の紛い物としての能力の発露は、しかしトリーネ達の尽力の甲斐あって、イレギュラーズを傷つけるには至らない。
 怒りを顕にしての猛攻は、イーリンに有意な傷をつけるには余りに『雑』であった。すでに展開されたスクトは攻撃の軌道を歪め、危険な一撃を掠るのみの打撃にまで低減させる。
 その変化は、距離をとって戦っていたレイヴンとエーリカが見れば明らかな兆候であっただろう。
 悪魔は、自ら歪めた少女の願いそのものに、自らを否定されている。
 徹底した自己矛盾を、しかし否定する者が存在しなかったことが……或いはその悪魔の不幸であろうか。
 煌鴉を翻し、剣の軌道を巧妙に隠し、ルナールは苛烈な一撃を悪魔に叩き込む。ありったけの魔力を打撃力に注ぎ込み、何度となく叩き込んだことで魔力は順調に減っていき、彼は自らの燃費の悪さに小さく毒づく。着実に悪魔は弱っている。それは確かだが……人の命を多量に吸っただけあって、しぶとく生き永らえていた。
「忌々しい……! 子供の戯れの結果とはいえ不愉快なものは不愉快だ!」
「海に焦がれる気持ちは否定できません。ですが、迷惑なものに変えてしまうのはいただけませんね」
 Remoraはどこか呆れたようにため息を零しつつ、癒やしを絶やさぬように注力する。彼女とトリーネ、ときにエーリカもが癒やしを与える側として立ち回り、やっと五分。一度ならずとも膝を屈しかけた仲間がいる以上、弱っている悪魔を甘く見ることは許されない……自らも含め、楽観視できるほど丈夫には出来ていないのだ。
 だからこそ、前線に立つ者の献身と、渾身の力を籠めた猛攻が輝きを増す。

 細剣を構えたアルテミアが、遠間から一気に距離を詰める。体力を魔力に変換し、あらん限りの意志を速度に変えた鋭い突きが、彼女の体ごと悪魔へ向けて叩き込まれる。先程までよりも重い手応え。薄れた存在感の奥に垣間見えた『核』の感触を逃さぬよう、口の端に浮いた血の泡を拭いもせずに彼女は更に細剣を押し込む。
 悪魔の存在感が見る間に弱っていく。最期のあがきと伸ばされた腕は、しかし「ぴよぴよぴー!」と気抜けする鳴き声を放ちながら突っ込んだひよこによって引き千切られた。
 直後、ひよこの後を追って打ち込まれた星が悪魔の核を撃ち抜き、凝集した血は周囲へと飛び散った。

●希望の果て
 村のはずれ、海が見える高台に訪れたイーリンとエーリカは少女の墓を作り、祈りを捧げた。
「今は亡き神々と、我が名において――健やかたれ」
 イーリンの聖句を、果たして少女の魂が聞き届けたかはわからない。
 威降が供えた花は、物言わず潮風に揺られるのみだ。終わった命に、報われぬ願いに、何かを与えてやることはできはしない。彼らに出来るのは、魂の救いを祈ることだけ。

「本当の綺麗な海、見せたかったわねぇ」
 トリーネの残念そうな言葉に、アルテミアはええ、と頷いて手元から小瓶を取り出す。悪魔の散り際、多量の血を浴びながらも小瓶に収められたそれに、少女の血が混じっているかは疑わしい。
「私にできるのは、彼女の願いを……叶えてあげたい、と思うことだけよ。これが救いになるかはわからないけど」
 アルテミアの言葉を押し流すように、血は潮と混じりその色を失っていく。どこに行き着くかは分からぬが、僅かでも救いになれば。そう願う想いは本物であろう。
 Remoraの喉が鎮魂歌を紡ぐなか、ルナールは不機嫌そうに表情を歪め、踵を返す。
「結局のところ……いや、今更言ったところで無意味、か……」
 もしも、或いは、だとすれば。
 仮定の言葉を口にすることは出来ようが、それがなされなかったからこその結末である。
 ……口にした時点で無力感を自覚することが耐えられなかったのだろうか。彼がそこにいたという事実は、わずかに風に流れた煙の残滓だけであった。

成否

成功

MVP

トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 非常にアレな敵、アレな発生原因なのに皆さんのお気遣いに感謝しかありません。
 少女もここまで想われれば幸せではないかなあ、などと思う次第。
 回復は充実していたと思いますが、それでも結構な苦戦だったようです。お疲れ様でした。

 MVPは、全体を通していぶし銀の活躍を見せたあなたに。
 シリアス、とは……。

PAGETOPPAGEBOTTOM