シナリオ詳細
は た め い わ く
オープニング
●
風が吹いている。
青く繁った草原を撫でるように吹く風は、カラッとした空気には肌寒い。
そんな中、一人の男が立っていた。
半袖にズボン、腰のベルトにはナイフという出で立ちの、屈強と言うに相応しい肉体を持った男だ。目を閉じ、顔を伏せた男は、深い呼吸を二度、三度と行う。
そうしている彼の周りを、取り囲むように迫る影が5つ現れた。
立つ男に負けず劣らずの肉体を持つ彼らは、特に示し合わせるでもなく、動きを変える。
上体を、地面へ向かい倒れるように前へ。
落ちきる前に足を踏み出し、地を蹴って加速をいれる。
「ふっ!」
男の元へと一番にたどり着いたのは、大剣を担いだ男だ。一息、吸った息を溜めながら男の側面から迫り、大剣を抜き打つ様に振り下ろした。
「ーー」
それを、短い距離のバックステップで避ける。だが、既に後ろから距離を詰めていた槍の男が、その着地を狙っていた。
地面に足が付いたその瞬間に、点を突く様な動きで槍が走る。
「!?」
しかしその攻撃を、男は回避した。
足を左右に広げた男は、そのままうつ伏せになるように地面へ寝そべる。
そうして一撃を凌いだ彼は、地に付けた両手両足で跳ね、横へ転がって行く。その瞬間には、男の居た位置に複数の矢が突き立っていた。
「ふっ……」
その彼の前に、次いで行くのは両手に刃を握った男だ。
「!」
内から外へ、払うようにナイフを振る攻撃を、上体を後ろへ反らしてやり過ごす。が、攻撃は止まらない。
逆のナイフを上から下へ、振り下ろすと共に払った腕を引き、前へと突き出す。
連撃だ。
無数の刃の軌跡が、標的となった男に向かい殺到する。
だが、それは一つとして、男を捉える事はない。
そして連撃は、唐突に終わる。ハイレベルの攻撃は、その精度故に長く続けられないからだ。
止まった一瞬の隙に、彼は距離を置く。
そうして下がった先、男の左方から光が起きる。
それは、魔術式による発光だ。
赤く、白く、煌めくように。
宙に描かれた円陣から、極太の魔力砲撃が発射された。
「ーーおお!」
それを男は避けない。
光の正面に向き合う様に立ち直し、両手を前に、その攻撃を受け止めた。
押し込んでくる濁流をその身に受け、肌を焼き焦がす熱量を止めた男は、余韻を残したまま姿勢を正す。
「……うむ、良い動きだ」
その言葉を合図に、男達は集まる。
「一段と腕を上げたな、皆」
彼らは、武を追求する者達。
定期的にこうして、修練の成果を体で体現しているのだ。
「なあ、聞いたか?最近、腕の立つ奴等がいるって」
「……ギルドか」
だから、最近目覚ましく活躍するローレットのイレギュラーズに、興味を持ったのは当然の流れだろう。
「一手、結んでみたくないか。本気の彼等と」
「……どうする気だ?」
「いい考えがある」
そして男達は、暗躍を始めた。
●
「えぇ~~~~!?」
幻想の町中に、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の叫びが響き渡る昼間。
道行く人々は、何事かと驚く顔や、なんて騒がしいのだとしかめた顔など、様々な表情でその音を眺め過ぎていく。
「なぜなのですか、どうしてなのですか!」
彼女が騒いでいるのは、そこにお気に入りの甘味がないからだ。
いつもは週に一度納品され、この日に棚に並ぶはずなのに。そう期待して訪れた先で、「いや無いよごめんね」の言われても「あららそれは残念なのです」とは引き下がれない。
引き下がれない!
「こっちも困ってるんだけどさぁ、なんか最近、搬送経路におかしな強盗が出てるらしくて届かねえんだよ……」
「ふ、ふふ……わかりました、そういうことだったのですね……」
そうと聞いたら黙っていられない。なぜなら彼女は情報屋であり、ギルド、ローレットの一員なのだから。
だから、
「その強盗、この僕が調べて丸裸にして皆さんにえいやっ、としてもらうのです!
ということなのですが!!」
所かわってギルドの一角。あらましついでの説明を終えたユリーカは、フンスフンスと鼻を鳴らしてイレギュラーズに語り出す。
「こちらに届く筈の輸送馬車を、襲っては追い返す輩が出てきているようなのです、許せないのです、食べたいのです!」
本音が駄々漏れなのはさておき、
「追い返す、って?」
気になるのはそれだった。襲って奪う、ではない。追い返す、とはどういうことなのかと。
そこを突くと、怒髪天だったユリーカの勢いがみるみる衰えて、困ったような表情を浮かべた。
「もしかしたら、その人達の狙いは皆さんかもしれません。襲われた人から聞いた話ですと、襲撃者はやたらと強く、しかし見逃され、必ずこう言うそうです。『強い奴を連れてこい、そういうギルドがあるだろう』って」
「なんだそりゃ……」
よくわからないが、とにかく強い相手と戦うのが目的らしいことだけは、なんとなくわかる。ただ何故、こんな回りくどいことを?という疑問は拭えない。
「推測なのですが、本気の皆さんと戦いたい、のかもです。調べたところ、襲撃者の方達はそれぞれが修行をし、定期的にその力量を測るための手合わせ等をしているらしいのです」
武芸者、もしくは求道者と言うのがしっくり来る様な一団だ。
そんな奴等が、今、知名度と武勲をあげているローレットに目を付けるのは、そこまで不思議ではないのかもしれない。
「怪我人とかは出ていません……ですが!ぶっちゃけ困るのです!流通の途絶えは由々しき事態だと思うのです!
なので、みなさん。彼等を反省させてやってほしいのです!」
多分に個人的事情が付加されている気はするが、放っておくわけにもいかない。
熱烈に敵の情報を語るユリーカの声を聞きながら、イレギュラーズは肩を竦めるのだった。
- は た め い わ く完了
- GM名ユズキ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年06月10日 19時20分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
甘味を奪われたユリーカに請われ、イレギュラーズは街道を行く。
近くまでは馬車で。それ以降は徒歩で。
出現ポイントへ向けて進み、遠目に六つの影を見る。
話に聞く武芸者の敵だ。
対して、誘いに乗ったイレギュラーズの影は七つ。それぞれがそれぞれの思惑を秘めて、近づいていく。
「止まれ。ここより先は通せぬ。大人しく下がればよし。下がらねばーー」
「おしゃべり目当てでこんなことをしているのか?」
そうして対面した武芸者の口上を、『軋む守り人』楔 アカツキ(p3p001209)が遮る。
「それともまさか、お前たちは口先を鍛えたいだけなのか?」
と、その言葉に武芸者達は一瞬驚き、すぐに表情を引き締めると、
「ギルド、ローレットの者とお見受けする」
言葉と態度を改めた。一様に背筋を伸ばし、腰から曲げる一礼をする。
「すまなかった。この様な手を選んだこと、悪く思う」
それは、礼儀としての言葉だ。しかし彼らの本音は、
「そしてありがとう。応えてくれたことに、礼を言う」
戦いへの渇望だ。
謝辞を述べ、構えた武芸者達に、イレギュラーズも倣って構えを取る。
一秒か、一分か。
睨みあった時間の感覚は、張り詰めた空気に溶けて行く。
そして、
「ーー!」
開戦する。
●
一対一、ないしは一対二を選んだイレギュラーズに対し、武芸者はそれを良しとして応じた。
『誓いは輝く剣に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が対面するのは、十字槍を手にする男だ。決闘の形式に則り、礼節を重んじた一礼の構えに、男も頭を垂れて応える。
それは、奇妙に静かな立ち上がりだった。
「いざ」
「ええ」
顔を見合わせ、一言のやり取りの後に、動いたのは同時だ。
互いにあった数mの距離を、互いの得意な間合いに縮める為に行く。
……リーチはやはり、そちらに分がありますかっ。
思うシフォリィの前に、点の様な槍の穂先が来る。彼女の間合いまでは後ほんの数歩足らず、先手を取られる形になった。
だが、予測の範囲内だ。
自己強化による反応の向上は、槍の一突きに対応出来るだけの余裕を彼女に与える。
「得物は違えど、私も剣を振るう者の端くれ。腕試しに挑む気持ちは解ります」
言いながら、身体をくるりと回す。
左へとズレる体を、軸にした足を支えにして、槍の隣をすり抜けて回避と同時に距離を詰める。
「ですが、他の方にまで迷惑をかけるのは許されません!」
そして回転の終わり。強く地を踏み込み、横薙ぎの範囲を切り裂く一撃をシフォリィは打った。
「!」
それを、槍の男は落ち着いた顔で対処した。
伸ばした槍は穂先を下げながら戻し、石突きを上に向ける。そうして縦にした武器で、シフォリィの攻撃を受け止めた。
「確かに、それは悪手だった」
そう言いながら、男は直ぐに動く。
完全に攻撃を止めた一瞬、生まれる硬直を狙い、シフォリィを思いきり蹴り飛ばした。
「だがこうして相対が叶った。我等は、それでいい」
「ぐっ……!」
華奢な身体は、男の一撃に飛ぶ。
いや、わざと蹴られる方向へ身体を浮かし、威力の減衰を狙ったのだ。
そして着地と同時、さらに彼女は行く。
元々、敵の攻撃手段には警戒していたのだ。リーチを活かした突きも、至近からの蹴りも、予想の範囲内と言える。
だから行く。
前へ、前へと。
「お望み通り、本気で行きます!」
迎え撃つ為に腰を落とす男に向かうシフォリィの攻撃は、懐へ向かう飛び込みからの袈裟斬りだ。
思い切り良く、両手で握った振り下ろしはしかし、空を切る。
男はすでに剣の間合いを読んだ様で、半歩後ろへ下がる事で紙一重の回避を成功させた。そして、近い距離のシフォリィに行う攻撃は、石突きによる強打だ。
上から下へ、短く持った石突きを突き下ろそうとした所で男は気づく。
シフォリィの目が、見上げる様に男を見ていることに、だ。
そして、手首を返す様に上へ向けた刃が、カチ上げられる。
「……ッ」
攻防の結果は、相討ちだった。
シフォリィの肩には石突きがめり込み、男の身体には一閃された傷が残る。
「くっ、仕切り直しをーー」
男は身体を後ろへ倒し、しかしシフォリィはまだ前へ行く。
下がろうとする隙を、彼女は逃さない。
「これで」
追いかけるその手には、白銀に煌めく魔力の塊。それが、瞬く間に両刃剣の形に精製され、
「思い切り、反省してください!」
打った後、花弁の様に散った残滓の下に、男は倒れていた。
「二人か」
大剣を担ぐ相手と対するのは『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)と『レディ・ブレイド』ベネデッタ(p3p004956)。
それを見た男が呟く声に、QZは刺突槍を構えて言葉を作る。
「私は防御するだけ。この子、攻撃一辺倒だからさ」
「人数の関係もあります。ご不満はおありかと思いますがーー」
と、続くベネデッタのセリフに男は笑って首を振ると、
「いや、滾る……!」
片手で軽々と振り上げた大剣を持って、突撃する。
早速か……!
思い、迎え撃つ為QZは踏み出した足で地を蹴った。
上段から落ちてくる単純な攻撃。それを、掲げる槍で受け止め、
「重……っ」
QZの膝が一瞬で折れる。だが、それで構わなかった。
「本気の戦いをご所望であると聞き及んでおります」
何故なら、彼女の役目はベネデッタの攻撃をサポートする事だからだ。
「わかります。ええ、ええ。よくわかりますわ」
そうしてQZの影から抜き出る様に接敵を果たしたベネデッタは、両手に握る大太刀を横に振り抜く。
しかし男は慌てない。QZに掛けていた圧を一瞬弱め、ベネデッタの刃をいなしにいく。
大剣をベネデッタに向け、角度を付ける事で大太刀は剣の腹を滑り斬る。
そうしていなした後は、武器ごと身体を回す回転斬りで二人を大雑把に振り払った。
「ふふっ」
後ろに下がらされたQZは、吐息を漏らしたベネデッタを見る。
可憐な少女は、うっすら血の滲む体を嬉しそうに抱き、口角を吊り上げながら突撃を行った。
戦いたい。
ベネデッタは、武器を握る手に力を込める。
刃を重ねたい。
向かう男も、大剣を両手に握り直し、真っ直ぐに見据えていた。
「さあ、命を削り合いましょう」
そうして交錯を願う二振りの刃は、しかし、交わることはない。
「悪いけど私もいるからね……!」
先とは逆に、ベネデッタの後ろから飛び出たQZが、大剣の刃に穂先を打ち合わせる。
刃と刃の拮抗は瞬間だが、その刹那の時間は大太刀を男の体に届かせるには十分だった。
そうして、一筋の傷を刻む。
「ぐぉ」
吹き出す鮮血がベネデッタを彩り、力を無くした剣の切っ先が地に落ちて、
「……!?」
そこからすくい上げる様な軌道で、QZの体を斬り飛ばした。
「こ、のっ」
男は止まらない。
上に振り上がった大剣は、縦に割ろうと更に落ちてくる。深い傷を気にしない、そんな姿勢だ。
だから、QZは容赦をしない。
踏み留まる体を落とし、低い体勢から槍を構え、
「そう簡単に、貫けると思わないでよね……!」
空まで届かせる様な突き入れを、落ちる大剣越しに男へぶちこんだ。
威力にたわむ剣は男の体をぐらつかせ、
「失礼いたしますわね」
ベネデッタがそれを、重剣を叩きつけて圧し斬った。
深い傷を負った男は大剣を杖代わりに体を支え、そして。
「ご満足、いただけたでしょうか」
もう二度と、動く事はなかった。
●
『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)は剣である。
魔剣との契約により得た力は、自身を武器と化す事を可能とした。
その特性を活かし、『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741)の背に剣として擬態していた彼は、敵へと向かっていく体から飛び出して行く。
出た先は、魔法使いの前だ。
戦いに身を置き、幾千の戦場を知っていたとて、目の前で剣が自立して襲ってくるなど考えていなかったのだろう。
男の顔が驚愕に歪む。
「どうやら、『動く魔剣』を相手にした事は無かったようだな」
しかも、それは喋る。
男の眼前に浮かぶ剣先が宙を踊っていく。軌跡が描くのは、円を基本とした魔法陣だ。それが、完成と同時に溶けていき、瞬間。
「む」
男の周囲に再出現した。浮かぶ魔法陣には、人間の目を象る模様が追加され、そして炸裂する。
「一手目。抵抗を弱めるべし」
魔法が起こす光りが男を飲み込む。そうしてシグが狙ったのは、男の魔法を封じる事だ。
だが、
「ふっ……!」
男は光りを突っ切って、手にした魔術媒体である杖をフルスイングした。
多量に魔力を帯びたそれは、剣の形を保っていたシグを強かに打ちのめす。
「ぐぅ、くっ……」
直撃だ。それでも彼は、更に追加の魔法陣を描く。
それに倣うわけではないが、男も杖を掲げて空中に陣を生成させる。
互いの距離は近い。そんな状態から繰り出す魔法は、男の方が早かった。
完成したのは同時だ。だが、発動速度には差がある。
それは、距離の問題だ。
シグが扱うのは、遠距離でこそ効果を十全に発揮できるもの。対して男が選択するのは、近距離で効果を得られるもの。
実際の戦いの中では、その差は大きい。
魔法能力を封印するシグの技は、男には有効に働いたであろう。だが、それは運用を適切にすれば、の話だ。
そのせいで、戦いの流れは完全に男に握られている。
「ああ、そういうことか」
シグは理解した。何よりも知識を得る事が喜びの彼だからこそ、それに結論が行くのは早く、ただ一つの失策も認めるだろう。
人間形態へ変化し、腕を覆う金属を振るって男を牽制。微かな回復を試み、立て直しを図る。
「……ダメか」
だが、相手は戦う為の研鑽に年月を捧げた男。一度掴まれた流れを捉えるのは容易では無く、
「だが、次に活かせる経験だ」
身を包む魔力の爆発を肌で感じながら、敗北の経験を知識とした得たシグは、意識を手放した。
●
『同胞殺し』猟兵(p3p005103)と共に弓を持つ男へ向かう鼎は、シグと別れて軽くなった体を走らせる。
片手に弓、腰には矢筒。そんな相手は、二人の出方をしっかりと見ている。
「よォ其処の。弓持ってる奴。来いよ、喧嘩相手になってやンぜ?」
むしろこちらから向かっているのだが、猟兵にとっては些末事だ。
「てめェらみたいなバカ、嫌いじゃあねェがよ、他に迷惑掛けてンじゃあねェぞ阿呆が!」
だから、彼女は愚直な程まっすぐに進む。
「やれやれ。戦闘向きではないから、その勢いは助かるけどね」
その背を見ながら、鼎は小さな笑みを浮かべ、
「君の相手は私達だ。的当て遊びが達者と見えるが、まさか二人相手は流石に厳しいかな?」
言葉の攻撃をまず撃ち込んだ。
タイマンを好むと聞いているからこそ、二対一を渋らない様にという作戦でもある口撃だ。
「まさか」
男は、解っているとでも言いたげに笑うと、矢を二本だけ筒から抜き取る。
一本は小指で握って予備とし、一本は弓につがえて引き絞る。
「なんの問題もあるものかね」
そして、矢が光をもって放たれた。
鋭い風切りの音と共に行くその矢には、特殊な力が付与されていると見て分かる。しかし、猟兵の頭に防御や回避という考えは無い。
脇腹を掠めて行く肉の痛みを無視してでも、彼女は行った。
だが、鼎はそうはいかない。
「やっぱり貫通してくるか……!」
むしろ猟兵はついでで、元々の狙いは鼎なのかもしれない。そう思えるのは、猟兵を過ぎて尚速度を上げる様な矢の軌道のせいだ。
それに、鼎は弓兵の能力をなんとなくの精度ではあるが、察するだけの力がある。
予想外の攻撃、というわけでもないのだ。
だから、その矢を回避することに成功した鼎は、横飛びに動いた体を受け身で立たせ、猟兵へと回復を飛ばす。
「ッは!この距離なら、オレの間合いだ!」
傷は塞がり、至近まで接近を叶えた猟兵は、愛用の銃剣を振りかぶる。
「取り付いちまえばコッチのモンーー」
「じゃない、気を付けるんだ!」
男を両断せしめんと振り下ろす最中、背後から聞こえた鼎の注意で猟兵は気づく。
男が握る弓と矢。特に、矢の握り方がおかしい。
つがえる為に持つなら矢筈のハズだ。だが手の位置は、ちょうど中間の辺り、篦と呼ばれる位置だ。
「ーーいや、関係ねェな!」
どのみちもう止められない。止める気もない。ただありったけを込めて、武器を振り下ろす。
「ぐっ」
そして、苦悶を漏らしたのは、二人だった。
猟兵の一撃を鋼製弓で受けた男にも浅くない傷が付き、男の突き出す矢が足に刺さった猟兵もその痛みを無視することは出来ない。
だが、二人は一様に、痛みに止まる事だけはしなかった。
猟兵は銃剣を縦横無尽に振り切り、男は弓でそれを弾きいなす。
男は矢を突き立てながら猟兵の攻撃をいなした一瞬を突き、一歩の距離を空けてつがえた矢を速射していく。
「好きなだけ暴れるといい、とは言ったけれど」
繰り広げられる攻防を、鼎は後衛から見る。
絶えること無く回復の光を猟兵に浴びせ続け、それを持って尚増え続ける傷に、思わず苦笑いを漏らした。
それでも、男に対して練度で劣る猛攻は、回復の有無の差でついに猟兵に軍配が上がる。と、いっても。
「へへ……」
体力も精神力も尽きた二人は、クロスカウンターの形で打ち込まれたお互いの拳によるノックダウンという決着に落ち着いた。
他と比べ、静かな立ち上がりで戦闘を開始したのは、アカツキとナイフ二刀の男だ。
元々、口で語るタイプではない。
ボクサーが試合前に拳を打ち合わせる様に、ナイフと蹴りをぶつけ合った後、二人の男はただ粛々と攻防を重ねて行った。
お互いの間合いはほぼ同じ。
先にペースを乱し、有効な一打を加えた方が、一気に勝負を決めるだろう。
だから、二人は移動をほとんどしなかった。ナイフを拳で、蹴りをナイフで。
受け、捌き、避け、打ち、弾いて刺す。
突く、殴り、叩いて斬る。
そうして続いた応酬を変えたのは、二刀流の男だった。
いや、焦れたと言った方が正しい。
有効打を見出だせなかった男は、手数を武器にしていたスタイルから、一撃の重さを重視した大振りの攻撃を混ぜたのだ。
そこの逃さず、アカツキは行動する。
軽いジャブを打つように素早く拳を胸に打ち、一瞬止まる体へストレートをぶちこむ。さらにそこへ、拳を引く動きで体を捻り、逆の拳でねじ込む様に鳩尾を抉った。
「ぐぇ」
潰れる様な悲鳴で体を折る男の顎へ、アッパーを打ち込んで意識を刈り取ったアカツキは、静かに残身して決着とした。
「いい機会だと思ったんだ」
逆手に握った片刃短刀を持つ男を前に、『幻影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)は誰にでもなく言う。
「コッチに来て、どれくらい強くなったか実感出来るってな」
白と黒のナイフを両手に持つ彼は、向かってくる男の動きを見る。
ナイフか、拳か、それとも蹴りか。
予測する動きと実際の動きを観察し、そして、
「全部かよ」
言う通りの攻撃が来た。
男の振るうナイフを白のナイフで弾くと同時に放たれる拳。それを横へ回避すれば直ぐ様蹴りが飛んでくる。回し蹴りの要領のそれを屈んで回避したシュバルツの上から、体を回して軸足を交換した男の踵落としが降ってくる。
「は、そんなんじゃ当たらねえぜ?」
向かって右へと体を転がして回避し、言葉を作る。が、余裕の言葉と違い、内心では敵の力量を正しく把握もしていた。
こいつは強い。
と、そう思う。だが、圧倒的ではないとも。
だからシュバルツは、防御から一転して攻勢に切り替える。
男がナイフを振る瞬間に前へ。掻い潜る様に懐へ行き、握りこんだ拳をそのまま腹へ打ち込む。
「隙だらけなんだよッ!」
肉を伝わる衝撃は男の内臓へ浸透し、外と内から人体を破壊する。
「ーー」
それでも男は止まらない。
込み上げた血反吐を撒きながらも、打ち込まれた腕にナイフを突き立て横へ引き裂き、シュバルツの片腕を使用不可能なレベルで傷つけた。
「……言っただろ、隙だらけだ」
ダラリと下げた腕の代わりに、逆の拳を再度ぶちこむ。内臓をぐちゃぐちゃに掻き乱す様な衝撃の二連発は、男の意識を一瞬飛ばし、
「……!」
その崩れかけた体を、シュバルツは足を掛けて浮かす。腕を取り、地面に向けて引き落として、叩きつける様に投げた。
「おい、まだ殺り合うーー」
ナイフを突き付けて言葉を作ったシュバルツは、しかし武器を納める。
大地に横たわる男の意識は、既に喪失していた。
●
「で」
晴れやかな顔の男達は、戦いに満足したのか抵抗無く捕縛されていた。
「後は司法の手に委ねる、で構わない?」
「敗者は勝者に従うさ」
確認の声に答える声も、やはり満足そうだ。ただ、
「ただ、身勝手だが。死んだアイツの埋葬だけ、お願いしたい」
深い傷の元に亡くなった、大剣の男の事は無念そうだ。
「罪を償ったら、今度はその腕を活かしてください。今回の事は、多少なりとも広められるはずです」
「それに戦いたいなら、堂々とローレットに来れば闘技場くらい用意してもらえると思いますよ」
シフォリィとシグがかける言葉に、男達は素直に頷き、「感謝を」と頭を下げた。
こうして事態を納めたイレギュラーズのおかげで、ユリーカは安心してお菓子を食べたとか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
プレイングを加味した結果、今回の冒険はこんな感じです。
やっぱり文字数を削るのは大変だと思いました。
GMコメント
はい、ユズキです。
補足をさせてもらいます。
●依頼達成条件
・求道者六人の撃破(生死不問)
●詳細
敵はそれぞれの得意武器を用いて、スキルも使いつつ戦ってきます。
自分が決めた相手に挑むという性質があり、怒りによる誘導などにかかりづらいと思われます。
逆に言えば、定めた相手以外に目を向ける事はなく、タイマンするなら喜んで乗る、そんな戦闘狂だと思ってください。
そんな彼等を各個撃破で着実に倒すも良し、付き合ってド突き合うもよし、搦め手を使うもよし。
敵の種類はそれぞれの武器種の通りに、
・大剣 ・槍 ・弓 ・二刀 ・魔法 ・短刀
となります。得意レンジもそれぞれ異なりますが、決して攻撃手段がないわけではない、と思います。
それでは、楽しく戦闘しましょう。
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