PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>ブラックアイドキッズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●どこかの話
 いやだこわいここどこさむいつめたいパパママたすけてどうなるのやめてこわいこわいこわい……。
「だいじょうぶよ」
 不意に優しい声が聞こえてきた。たぶん私とそんなに変わらないくらいの女の子。目隠しと猿轡をされているから彼女がどんな人なのかまではわからない。けど優しい、やさしい、やさしすぎる声。
「何も怖くはなくなるわ……」
 小さな手が私の額に触れたとたん、恐怖は淡雪が溶けるように消え去った。ふしぎ。この暗闇もまるで怖くない。優しい声が言ったとおり。

「始めていいわよハムレス。この子の絶望は私が食べてしまったから……」
 ハムレスと呼ばれた白衣の男は注射器へ毒々しい色の液体を注入していく。そしてベッドへ縛り付けられた少女の腕へそれを突き立てた。
 とたんに少女はがくがくと痙攣し、血泡を吹きだした。不随意に動くかかとがシーツを打ちのめし、拘束具からがつがつと耳障りな音が響いた。ベッドが赤く染まっていく。
 やがて糸が切れたように少女は大人しくなり、ハムレスは目隠しをはぎ取った。閉じたまぶたから黒い涙があふれだしていた。男はそれを丁寧に拭き指先で強引にまぶたをこじ開けた。
 見えたのは深淵。白目のない真っ黒な瞳。
「成功だ」
 ハムレスは満足げに嗤い、よくわからない機器に張り付き数値を眺めて悦に入った。
「見ろ、存在値kの多量放出。それによる各能力の上昇。すべて計算通りだ、協力感謝するトリーシャ」
 ハムレスは振り返った。その先には見るからに幸うすげな少女が壁に背を預けて膝を抱えていた。
 トリーシャと呼ばれたその少女は興味なさそうに「そう」と相槌を打った。
「やはりイレギュラーズを関与させたのは当たりだった。彼らの持つ可能性、アルファにしてオメガ、フィボナッチ関数も祝福している! 運命の特異座標、抜きんでた鏡のように磨かれた力、素晴らしい、すばら……」
「あなたが彼らを引き込んだせいで私の巣が壊れたんじゃないの、そのせいで幻想くんだりまでくるはめに……」
「そう言ってくれるなトリーシャ。君とて一山いくらの大人より無垢な子どものほうがいいし、私が君の食いくさしをどう扱おうとかまわないだろう?」
 ハムレスは大仰な身振りで腕を開いた。
「幸いにも協力的なパトロンを捕まえた。私としては練達よりも今の方が研究がはかどる。この状況を利用しない手はない!」
「でも現状あまりにも派手に動いているのではないかしら……またイレギュラーズが来たら、めんどうだわ……」
「その時はまた新しいパトロンを捕まえればいいだけだ。この国は人の命が安い。人体実験とて貴族の庇護下であれば見過ごされる! 私にとっては天国だ!」
 すでにトリーシャはハムレスの話を聞いていないようだった。ぽそりとつぶやく。
「おなかがすいたわ……」

●ローレットにて
 あなたは個室へ通された。夜も更けているというのに灯りはろうそく一本。依頼人の顔は影に沈んで見えない。
 だが車椅子に乗っているのはわかった。身にまとっている服装から言って、貴族、それもかなりの高位のようだ。
「楽にしてくれたまえ」
 声は低く、しわがれていた。60かそのくらいか。
「誠に申し訳ないが、自己紹介は省かせてくれ。醜聞は我々にとって何よりもこたえる」
 つまりこれから託される依頼は世間へは顔向けできない類という事だ。あなたはゆらりと揺れる蝋燭を眺めた。
「他でもないうちの愚息のことだ。あれは子どものころから不出来でね。後継ぎの立場を傘に来てやりたい放題。社交界デビューへこぎつけるもパッとしない。すこし甘やかしすぎたかと思い、勉強になるだろうと領主にしてやったのだが、ここでも好き放題」
 老人は深いためいきをついた。
「特に最近は練達から来たという悪い友達に捕まってしまってね。領民を使い、人体実験。その成果を奴隷として売り出しているときた」
 まことに嘆かわしいと老人はゆっくりと首を振る。
「領民を奴隷にするなどもったいないと思わないかね。民は生かさず殺さず搾取してこそだ。我が家が名門として長く続いているのも、民草の処遇をよく知っているからだよ。息子はそのへんがどうもよくわかっておらんようで『父さん、これからの新時代は僕が切り開くよ』などと豪語する始末。馬鹿な子ほどかわいいとはよく言ったものだが、少し目に余る」
 ならその息子とやらを罰すればいいのか、そうあなたは尋ねたが、老人は否を返した。
「君には練達から来た悪い友達を排斥してほしい。それと、息子が自慢の種にしている人体実験をした奴隷、これも皆殺しにしてもらいたい。そうすれば息子の鼻っ柱も折れ、私の言うことを聞くようになるだろう」
 くれぐれも息子には手を出さないように、そう老人は念を押した。

●撃鉄
 オーケストラが音楽を奏でている。
 舞台にはまだ緞帳が降りたままだ。
 50人程度の小さな劇場だ。だが客席は仮面で顔を隠した貴族で埋まっている。
「ケッ」
 青いドレスを窮屈そうにまとっているコルネリア=フライフォーゲル (p3p009315)は小さく気を吐いた。
「どいつもこいつも金とヒマだけはありあまってそうだな」
「静かに。今はこらえる時です。それに、観客はなるべく殺すなとの依頼人からのお達しです」
 振袖に身を包んだ夢見 ルル家 (p3p000016)がコルネリアへ声をかける。
「そりゃまあな。ぼんくらボンボンからおもちゃを取り上げるだけの仕事が、お貴族様大量殺人事件になっちまうわな」
 あなたはコルネリアのへらず口へ同意しつつも、黙っているよううながした。
 静かだった音楽が勇壮なものに変わる。同時に舞台袖へ派手な羽飾りを胸元に付けた若い男が現れた。
「皆様、長らくお待たせしました!」
 はりのある弾んだ声が劇場へ広がる。同時にドラムロールが鳴りだし、緞帳がするすると上がっていく。
 舞台の上に勢ぞろいしているのは、美しく着飾った見目麗しい少年少女だ。その瞳が深淵のように真っ黒であることを除けば。
「ご覧ください、BEKシリーズ最新作、今回は総勢12体のお披露目です!」
 観客の瞳に異様な熱意が灯った。じわじわとささやきが高まり、波のように劇場内を支配する。
「もっとも扱いやすいBEKコモンタイプ。続けて今回が初のお披露目になります、耐久力を重視したBU01タイプ、ならびに治癒支援に特化したMA01タイプ、3種類をご用意いたしました!」
 拍手が漏れる。貴族たちは今か今かと司会の青年──誰であろう、この地方の領主、依頼人の息子だ──の言葉を待っている。
「それでは今回の目玉のひとつ、BU01タイプのご紹介をいたしましょう!」
 言うなり司会の青年は拳銃を取り出すと、手近に居た少年の頭へ銃口を押し当て、発砲した。少年の首から上が吹き飛び、血と脳漿がとびちって他の子どもたちのドレスを汚した。しかし惨劇を目の前にしても、子どもたちは微動だにしない。
 少年の体がぐらついたが、倒れはしなかった。ずるりと肉がうごめき吹き飛ばされた頭部が再生する。何事もなかったかのように少年はその場へぼんやりと立っている。劇場内は驚嘆のため息に包まれた。
「見てのとおり、どんな傷を負っても再生いたします。ハチの巣にしたところで次の瞬間には元通り、この不可思議な耐久力こそBU01タイプの見どころです。皆様ならこの不死身の特性をいかに利用いたしますか」
 ついで青年は別の少女を引き寄せ、銃弾を三発撃ち込んだ。胸に腹に、太ももに、痛々しい傷が現れる。
「癒せ」
 少女はうなずきもせず両手を広げた。紫色のオーラが立ち昇り、銃弾が体内から排出されみるみるうちに傷がふさがっていく。
「ご覧いただけたでしょうか。これがMA01タイプの能力です。体力だけでなく気力も充実させてくれるこの天使、必ずやあなたの心をお慰めすることと思います」
 青年は自信満々に声を張り上げる。
「見た目は不老の少年少女、しかして実態はかのイレギュラーズをも凌ぐスペック。かつ一度マスター登録すれば命令には絶対服従!
耐用期間は約3年と乗り換えも気軽にできる寿命! 兵士に、愛玩に、番犬に、暗殺に、これが新世代の奴隷です!」
 どよめきが起きた。わしに、俺に、私に、ねだるように舞台へ向かって手が延ばされる。あなたは渦巻く欲望に吐き気がしそうだった。
「さて、それではここで我々の朋友、BEKシリーズ開発者のドクター・ハムレスへ話を聞いてみましょう」
 汚れた白衣の男が舞台へあがる。壮年だろうか、痩せて猫背で、目ばかりギラギラ光っている。
「ターゲット確認」
 ルル家が立ち上がる。次の瞬間には獲物がその手に現れていた。
「あいつをぶっとばして、奴隷どもも皆殺しにすればいいんだな!」
 コルネリアが椅子の背へ片足を乗せ、燃え滾る眼で壇上を見つめる。
 劇場はパニックのるつぼと化した。異変に気付いた青年がハムレスの後ろに逃げ込む。BEKシリーズと呼ばれた少年少女が彼らを守るように陣取った。あなたは獲物の感触を確かめ、席を立った。

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

春ですね。ご指名ありがとうございました。
人体実験にかけられた子どもたちを速やかに成仏させてあげましょう。
ついでに狂人をぼこりましょう。

やること
1)BEKシリーズの全滅
2)狂人・ハムレスの撃破
3)観客の死亡5人以下

●戦場
縦50m*横40m*高さ30mの劇場
特に足場ペナルティはありません
戦場は50人の貴族が逃げまどっています、ファンブル+5

●エネミー
狂人・ハムレス
 練達出身のドクター。
 旅人ではありますが魔種によって重度の狂気に侵され、魔種を滅ぼすという矛盾した願望の元無茶苦茶な実験を繰り返しているやべーやつです。自分へも人体実験を施しており自己強化に余念がありません。
HPガン積み型、他のステータスもバランスよく高いです。
・メス投げ 神中単 致死毒・炎獄・失血・鬼道大
・スケフィントンの娘
・ヴェノムジュエル
・フェアリーズゲイム

BEK-コモンタイプ 4人
 HPガン積み型 ミドルバランス EXAやCTもほどほどにあるのでご注意
・フォロウ・ザ・ホロウ
・ハンズオブグローリー
・バスタースマイトV
・怒り無効 精神耐性

BEK-BU01 4人
 EXF型 マイナスファンブル 回避・命中高め
・名乗り口上
・ルーンシールド
・マギ・ペンタグラム
・怒り無効 精神耐性

BEK-MA01 4人
 支援型 マイナスファンブル 防技・抵抗・能率高め
・ミリアドハーモニクス
・クェーサーアナライズ
・サンクチュアリ
・怒り無効 精神耐性

●その他
魔種?????
会場のどこかに居ます。能力不明。

司会の青年
派手な羽飾りを胸に付けた青年。依頼主の息子です。
彼が死亡した場合、強制的に失敗になります。

このシナリオは「そして誰かが居なくなった」の関連ですが前作を読む必要はありません。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5218

  • <ヴァーリの裁決>ブラックアイドキッズ完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月27日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
離れぬ意思
※参加確定済み※
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)
紅炎の勇者
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
奏でる記憶
冬越 弾正(p3p007105)
Nine of Swords
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
霊魂使い
笹木 花丸(p3p008689)
人為遂行
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
※参加確定済み※

リプレイ


 ざわめく会場に『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)の声が凛と響き渡った。
「さぁ、皆様! ここからは少々過激なデモンストレーションとなります! 巻き込まれぬようお下がりになって下さい! お近づきになると身の安全は保証出来かねます!」
 貴族たちはとつぜんの演説にとまどいを隠せないようだ。真偽を図る視線がルル家を幾筋も貫いた。
「イエーイ! 御子息のお命を狙う犯罪者集団だぞー!」
『奏でる記憶』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)のやけに明るい声に、会場は一瞬水を打ったように静まり返った。
 そして次の瞬間、会場は再び混乱に陥った。貴族たちがもみ合いながら出口へ押し寄せていく。転んだ老貴婦人や若い紳士が踏みつけられ、命を失ったが『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)はつゆほども興味がわかなかった。
「状況の変化にうろたえて逃げまどうなんて、実戦の経験もなさそうですね。まったく、本当に困ったものです」
 貴族たちは殺気だっている。言い争いから殴り合いまで起きていた。このままでは被害者が増えていくだろう。
「チッ! 客共がパニックを起こしてやがる。これを処理しねぇと邪魔でしょうがねぇか……」
『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は天へ向かって射撃しながらわめいた。
「そこで突っ立ってんのは自殺志願者かぁ!! 鳴いてねぇでとっとと下がれや!! 死んでちゃクソみてぇな趣味ももう出来ねぇんだぞ!」
 これにより貴族たちはいっそう混乱した。窓から飛び降りようとする貴族のベルトをつかみ、『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)は床へ引きずり下ろした。
「貴様はまだイーゼラー様の身元に参るべき魂ではない」
 ひきずりおろされた貴族は失禁し、腰を抜かしている。同じように恐怖が限界を超えた貴族が会場のあちこちに取り残されていた。コルネリアは駆けずり回り、鉄拳とヴァルキリーオファーで彼らを鎮めていった。
「転んだ拍子に痛めたか……おら、とっとと見せろ。……処置はした、逃げるぐらいは出来んだろ、さっさと行け!」
『蒼空』ルクト・ナード(p3p007354)は貴族たちの他を顧みない行動に頭が痛くなってきた。狭い出口では押しつぶされんばかりになっているし、足元など確認せず仲間を踏みぬいて前へ前へ。
「なんたる無様な、これが幻想貴族」
 怒りにも似た感情がわいてくる。
 貴族たちの退避は徐々に進んでいるが、全員が逃げ切るまでまだまだかかろう。それまでこの混沌とした会場で戦わなくてはならないのだ。
(一刻も早くハムレスをおさえなきゃ)
『はなまるぱんち』笹木 花丸(p3p008689)は宙へ浮き上がり、まっすぐにハムレスへ向かった。拳を突き出し、勢いを乗せ、まるで矢のように。
「花丸ちゃんぱーん……ち!」
 ハムレスは自分の足に縋る貴族の青年の襟首をつかみ、盾にした。勢いを殺しきれず、花丸の拳が青年へ突き刺さった。
「げふっ」
 血を吐き、白目をむく青年。だが息はある。
「な、なんでそういうことするわけ!? うっかり殺しちゃうところだったじゃないの、仮にもおともだちでしょ!!」
 掴みかからんばかりの勢いで花丸がかみつくと、ハムレスは不思議そうに言った。
「『その時はまた新しいパトロンを捕まえればいいだけだ』」
 そのやりとりを耳にした『もふりたい』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は真顔でこぼした。
「どうかしてるドクターは間に合ってる」


 壇上で青年を盾にするハムレスを見据え、ルクトは怒りが研ぎ澄まされていくのを感じていた。
「…………くだらない依頼だ。とはいえ、汚れ仕事もまた傭兵業としては切れない縁か。……奴隷だからと、何をしてもいいと?発展のために、幾つもの命を犠牲にしていいと? ……理解しがたい。故に、ここで断つ」
 天井すれすれまで舞い上がるルクト。
「……奴隷だからと、使い潰すような事をしていいわけではない。好きに使っていいわけではない。……私はルクト。……傭兵B.E.O.AirForceリーダー、ルクト・ナード。これより、殲滅作戦を開始する」
 そこからは戦場が一望できた。壇上にハムレスと貴族の青年、相対する花丸。手前にBEKシリーズと味方達。そして間を縫って逃げまどう貴族。
「邪魔だが、やるしかない」
 高所を取ったことでルクトは多大なペナルティを自ら抱え込んでいた。
(優先は後衛だが……BEKシリーズの所在はバラバラでどれが後衛とは、はっきりとわからん)
 ルクトは慎重に狙いを定めた。ミサイルポッドから魔弾が次々と放たれ、空中で複雑な軌道を描きBEKシリーズ最後尾の少女に当たる。少女はぐらりと揺れたがまだ健在だ。何かを待つように立ちすくんでいる。
(反撃してこない? どういうことだ。そうか、あくまでハムレスを守ることが優先なのだな)
「ブローック!」
 花丸がハムレスの動きを抑える。
「よし、ハムレスは花丸ちゃんがなんとかしてくれる!」
 秋奈が駆け出した。
 ぞりっ。
 会場に響くほどの大きな音が立った。見ればハムレスが毒を塗ったメスで花丸の顔を切り裂いていた。声にならない悲鳴が続く。
「てめえ、花丸になんてことしやがる!」
 コルネリアが回復弾を装填、花丸へ近づき、一気に撃ちこむ。だが赤い血筋は止まらない。毒のメスは致命的な一撃でもあったのだ。
「目を狙ったのだがな。避けるとはさすがイレギュラーズだ。コモン-α、β、γ、総攻撃」
 ハムレスの落ち着き払った声に続き、3人の少年少女が壇上へ飛び上がった。空中で姿勢制御、蹴りが、拳が、花丸を襲う。アバラの折れる音がした。
「花丸!」
 駆けつけた秋奈がコモンタイプへ戦神ノ刀を振るった。背中を脇腹から逆袈裟に切り上げる。少年は悲鳴を上げることもなく花丸を殴り続けている。
「バーカバーカ、こっち向けこのお!」
 二撃目を振り下ろさんとしたとき、少年の傷口に紫色の炎が燃え広がった。炎は傷口を癒やし、あとかたもなくしていく。
「くっそ、やっぱりMAなんたらからやるべきか!」
「だけどこのままだと花丸が!」
 ハムレスは毒のメスで花丸を切り裂き続け、コモンタイプもそれに追随している。回復するいとまがない。花丸が落ちるのは時間の問題だった。
 そこへ宙を割いて荒れ狂う雷が押し寄せた。
「うおっ!」
「うあっ!」
 ふたりは思わず目を閉じたが、苦痛は感じない。顔を上げるとリースリットが神鳴る縛鎖を連打していた。
「能力についての謳い文句は伊達では無さそうですから加減できる相手でも無し。自我故の状況判断力位は劣る事を祈りましょう」
 リースリットは顔をしかめ、会場を見渡した。貴族たちの数は随分減ってきたが、場の混乱はもはやどうしようもない。リースリットはためいきをついた。
(何処からこんなに集まったのやら……。凡そは恐らく、落ち目の家に没落した家、あまり力の無い家、野心に燃えている家……といった所でしょうか。物珍しさと興味本位で来ている者も居るでしょうが、本当に期待している者は……この様子だと、そちらの方が多数のようですね)
「!!」
 思考回路が途切れた。いつのまにか忍び寄ってきたBU01のひとりがリースリットへ飛びついたのだ。回転する視界。押し倒された彼女へまたがり、BU01はリースリットを殴りつけた。さらに名乗り口上で場をひっかきまわす。
「BU01が攻勢に出たと!?」
 てっきり庇ってくるものだとばかり思っていたルル家は対象の取捨選択を迫られた。仲間を助けるべきか、優先順位を守るべきか。だが彼女はBU01と相性が悪かった。断腸の思いでリースリットへ背を向け、MA01のひとりへ駆け寄る。
「時代が変わり、場所が変わっても弱きものを食い物にする輩は尽きぬ者ですね……これ以上の犠牲が出ぬよう、きっちり始末をつけさせて頂きますよ!」
「そうだな。他者の命を弄ぶ輩には相応の報いを受けて貰おう」
 アーマデルがルクトの狙ったMA01を探し当て、怨嗟響く一撃を入れる。そこへルル家が本領発揮とばかりに夢うつつの魔剣で斬りかかる。二撃、三撃。待機していたMA01は血泡を吹き、かすかに何事かをつぶやきながら絶命した。
「俺の故郷では、ヒトの本体は魂の方で、肉体は適合した容れモノであるとされる……が、一旦ひとつとなれば、互いに干渉しあう。肉体は比較的可逆性が高いが、魂の方は……あれほど器を歪められてしまえば、中身がもたないだろう。往くべき処へ逝かせてやらないとな」
「それがアーマデルクンの信仰か」
「そうだ」
 弾正は短い問答を交わした弾正は、仲間を巻き込み静寂とバラードを平蜘蛛から再生した。耳へキンキンと突き刺さるような人工的な音が仲間の抵抗力を上げる。そのまま弾正はリースリットとやりあうBU01をルーン・Hで凍らせにかかった。
 うわっ、ひい! 貴族たちがぎりぎりの攻撃におびえてしゃがみ込む。
「行け、俺の魔法へ巻き込むぞ」
 その尻を蹴り飛ばし、弾正はハムレスへ顔を向けた。
(実験に巻き込まれたあの日から、俺は変わる事が出来た。教団の信徒らしく殺しに躊躇が無くなり、死を恐れる事はなくなった。しかし……命を刈り取った後に残る、この胸の痛みは何だ? 教えてくれハムレス。お前の狂気を飲み干せたら、俺は黒に染まりきれるだろうか)


 最初に気力が切れたのはコルネリアだった。
 短期決戦を挑んだイレギュラーズに対して、ハムレスの一軍は持久戦に強かった。そしてなんとか貴族の息子を奪取するも、相互の地味なズレが重なり、イレギュラーズは少しずつ劣勢へと追いやられていった。その証拠にいまだハムレス側は意気軒昂、守りを崩せていない。
「ははははは! 生きの良いイレギュラーズが8人も! データが取り放題だ!」
 ハムレスが哄笑する。顔をずたずたにされた花丸が、ついに膝を屈した。皆、既にパンドラは使い切っている。これ以上は危険だった。死亡していないのはただ単にハムレスがデータへ固執しているからにすぎない。
「まずはおまえから取ってやろう。なかなかのガッツだった。さて、中身の方はどうかな?」
 ハムレスの手の甲から注射器の先端を模したコードがずるりと生えた。それが花丸のうなじに突き刺さる。
「あうっ!」
「ほう、コモンをさらに昇華したようなタイプだな。なるほどなるほど、もういいぞ。楽になれ」
「させるかこのお!」
 コモンを一匹仕留めた秋奈がその勢いのままハムレスへ斬りかかった。
「イレギュラーズが自ら飛び込んでくるとは嬉しいことだ。こちらから近づく手間が減る」
「ぐっ!」
 コードが伸び、秋奈の背へ周りうなじへと……。
「なんと洗練されたアタッカーだ。すばらしい破壊力。耐久力もなかなかにある」
「ざっけんなこのー! よくも乙女の秘密を覗いたな、ぶち殺してやんよ!」
「おっと」
 秋奈が得物を振り抜く。バックステップでそれをかわしたハムレスだったが、その胸に一本、赤い筋が走る。
「うおおおお!」
 秋奈が踏み込む。生き残っていたコモンがハムレスをかばった。
「おまえはもう死んどけ!」
 秋奈は少年の頭を刀で切り刻んだが、少年は変わらずそこに立っている。そこへコルネリアのCall:N/G.Bが炸裂した。脳漿を撒き散らしながら倒れる少年。
「引け、秋奈! 頭に血が上りすぎだ!」
「だってこいつは花丸ちゃんを!」
 ルクトがハムレスの脳天を狙い撃つ。だがそれをかわされ、ぎりりと歯を噛み締めた。
「敵勢力、残りはBU1、コモン1。ハムレスはほぼ無傷」
 リースリットがなけなしの気力で練り上げた雷光の剣でハムレスへ斬りつける。
「貴方にデータなど渡してたまるものですか!」
「くっ!」
 とびすさった拍子にコードが両断された。虹色をした液体があふれでて、リースリットの視界を汚す。ルル家が加わり、銀河旋風殺を使おうとした。それをBU01に防がれる。
「邪魔な!」
「っと」
 アーマデルが割り込んだ。長期戦に備えていた彼は諦観の勇者の剣技を忠実になぞり、BU01のシールドを打ち砕いた。
「やれルル家殿!」
「はい!」
 銀河の力がルル家に宿る。くりかえす攻撃がとうとうBU01の首をへし折った。すぐに復帰しようとするもアーマデルの必殺によって首を刈り取られる。
「さあこれで丸裸だな、ハムレス殿。……奥の手は最後までとっておくものだ」
 スーパーノヴァ、アーマデルの全力がハムレスへ突きささった。大きく後退るハムレス。腹から血を流しながらハムレスはアーマデルを憎しみの目で睨んだ。
「こんなところで、私の研究を閉ざすわけにはいかん。トリーシャ!」
(来た!)
 弾正は歯痒い思いをした。気力はとうに切れている。弾正は全身を緊張させ、来たるべき脅威へ備えた。
 だらん。舞台のライトから、長い、長すぎる腕が垂れてきた。同時に、すさまじい重圧が戦場全域に広がった。
「イーゼラー様、御加護を!」
 祈りが通じたのだろうか。呼び声が弾正を蝕むことはなかった。イレギュラーズの、誰一人として。だがそれはかりそめに過ぎなかったようだ。
 場へ残っていた貴族たちがイレギュラーズを見つめる。その目には強迫観念が浮かんでいた。己が身を盾と化し、スクラムを組んでイレギュラーズとハムレスの間に立ちふさがる。
「どいて、どきなさい! 何をしているの!」
 リースリットが叱責するも、貴族たちは怯えた顔のままその場から動こうとしない。汗をダラダラ流しながら、老紳士がうめいた。
「あの子を、守らなきゃいかん気がするんだ。どうしてかわからんが、そんな気がしてたまらんのだ」
 その隙にハムレスは壇上へ上がり、うやうやしく長い手を取った。ライトの上から少女が飛び降りてくる。
「……」
 その魔種は幸薄気な少女だった。ろくな目にあってこなかったのだろうというのが見て取れる。彼女はイレギュラーズを一瞥するともはや興味をなくしたのか、長い腕をふるい、壁を壊した。
「さらばだ諸君」
 その穴からハムレスとトリーシャは出ていった。あとには正気に戻った貴族たちと、BEKシリーズの亡骸だけが残った。
「ちくしょおおおおおおおおおお! ちくしょおおおおおおおおおおおおおお!」
 顔を覆ったまま泣きわめく花丸を、誰も責めることは出来なかった。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862) [重傷]
奏でる記憶
笹木 花丸(p3p008689) [重傷]
人為遂行

あとがき

おつかれさまでした。

次の戦いに備えてゆっくり休んでください。

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