シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>朝焼けは赫々たるや
オープニング
●朝焼け街道
――影が見えた。
朝焼けに被さるような、赫々たるその焔。不死の焔を思わせたのは、それが余りにも巨大であったからだ。
翼までもが焔に染まり大きく広げた翼から落ちた火の粉が地を灼いた。
響いた鳴き声が劈く。周囲に踊った焔の精霊達は何かを喜ぶようにワルツを踊り続け――
●モルゲンレーテ
モルゲンレーテ領の街道通りは閑散としている。北方戦線に面する国境沿いに存在するその領は嘗てフォルデルマン二世によって取り潰された。だが、正統なる後継者であるユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)が特異運命座標となって重ねてきた功績により嘗てのモルゲンレーテ領を彼へと『貸し与えた』のである。
酔狂なるユリウスの祖父、元・モルゲンレーテ卿が使用人として雇っている彼の副官『ノエル』よりローレットへと入電す。
――モルゲンレーテ領に魔物が現われました! 若、至急戻ってきて下さい!
幻想王国を普段はほっつき歩いている副官からの連絡だ。直ぐさまに向かった方が良いだろう。
こうして、イレギュラーズが拝命した幻想の領地が『魔物』に襲われる事件が頻発して居るのだという。
幻想王国では古廟スラン・ロウや神翼庭園ウィツィロの調査も行われている。其方で見られたモンスターにも類似した生物による強襲と云う事だが……。
考えても解決しないことだ。モンスター達は地を蹂躙し、領民達の命を塵芥の如く散らしてゆく。
それを見過してなるものか。
奴隷事件、レガリアの盗難、神翼庭園への侵入、そして町の壊滅――これらの点と点を線で繋げるものは何なのか。背後で蠢く者の正体は誰なのか。
全容は未だ不明だが、まずイレギュラーズは眼前の事態に対処しなければならないのだ。
●ローレット
「集まってくれて有難うございます。いやー、若。これで安泰ですね?」
にんまりと微笑んだノエルはモルゲンレーテの『副官』と言うには余りにも可愛らしい外見をしていた。
練達で触れたギャル文化にどっぷりとはまり、それらしい外見をしている彼女は主であるユリウスには軽薄な態度をとるが信用出来る人物であるのは確かだ。モルゲンレーテ領にモンスターが観測されてからの初動は早かった。
「さって、のんびりしてる場合じゃないのは確かなんでー、あたしが調べた情報ですけど共有しますね。
場所はモルゲンレーテ――若の領地ですね――の街道通り。まあ、そうは言っても閑散としてますよ。
あたしたちモルゲンレーテ家は嘗ての悪政で領地がお取り潰しになってますから。それでも領民はいます」
護らねばならない存在が居ると、ノエルはそう言った。
「其処に現われたのは怪王種(アロンゲノム)って呼ばれるヤツだと思います。
まあ、強敵であるのは確かで……変異した巨大な鳥なんですけどね、周囲に精霊を連れてきているのが観測されていて、それがまた厄介かと」
ノエルは「若一人じゃどうしようもないですよ、これは」とユリウスをつんつんと突いた。
それもそうだ。簡単な自警団だけではどうしようもない状況になっている。
だが、此れを打開するのが『フォルデルマン国王陛下』より宣言された『ブレイブメダリオン』だ。
「勿論、報酬はお支払いしますし、国王陛下から宣言があった通り、ブレイブメダリオンも配布する事になります。
アタシが優先して欲しいのは領民の無事。そりゃ、良い領主は領民に尽くすモンですから。
けど、そうも言ってられないのは確かです。モンスターの撃破、宜しくお願いします!」
- <ヴァーリの裁決>朝焼けは赫々たるや完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月26日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「貴族の責務を果たすためにも、この戦い負けるわけには行かない。
そして何より民を護るため、どうかイレギュラーズの皆も力を貸してくれ」
よろしく頼む、と頭を下げた『貴族の儀礼』ユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)はモルゲンレーテ領を護るが為に武器を手に取ると決めていた。この場にイレギュラーズを招集した彼の『副官』ノエルはにんまりと笑って「若もこう言ってるんで~」とつんつん突き続ける。
「……そろそろつつくのはやめてくれ。締まらない」
大奴隷市が発生し、各地で事件が起こった。今回は各地で魔物が現われて怪王種(アロンゲノム)まで現われたのだという。何かが暗躍し、その事件が発生したと届けられる心地の悪さ。『はなまるぱんち』笹木 花丸(p3p008689)は一つ一つを辿れば、発端となる何かに辿り着く事ができるのだろうか、と考えた。その尻尾を掴むためには目の前の事件をこなさねばならないのである。
「怪王種か……人語を解すとは、個人的には都合がいい。
彼らの生態やら社会性やら、聞いてみたいことは色々あるのだが……どうにも教えてくれそうな雰囲気ではないね」
そうした会話を行えるほどに彼等はコミュニケーションに長けているわけでもなさそうかと『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は肩を竦めた。モルゲンレーテ領の幾許肌寒い春風の中で、ゼフィラは太陽が二つ存在するような錯覚を覚える。
「――こっちの領地は怪王種? 面倒な!」
見上げれば、赫々たる陽。それが怪王種で有ることを『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は知っている。領地を失ってなるものか、と武器を構え続けている。彼等の士気の高さは感嘆するが相手が『変異種』であるならば彼等の手に負えるものではない筈だ。
「領民の人たちは気合溢れてるみたいだけど、さすがにちょっと相手が悪い。
ここはプロに任せといてくれよ。適材適所ってやつだ。あんたたちの仕事は、この戦闘の後なんだからさ!」
笑った風牙が姿勢を低くし、槍を構える。隕石の鉱物を使用しての槍に輝くのは自由と春風の悪戯――そして、人造魔石か。鍛え抜かれたその槍に民はどよめき、イレギュラーズをまじまじと見遣る。
はらりと散ったのは太陽から落とされた火。火の粉を遮るように袖口で払う仕草を一つ。『闇之雲』武器商人(p3p001107)は「おやまァ」と妖艶に笑み浮かべる。
「怪王種が太陽神の名を名乗ろうとは愉快愉快。であればここはひとつ、可愛らしい王様に沈まぬ月を見せてやろうじゃないか。ねぇ?」
甘い声音は誘うように。『気の合うコ』をそっと構えて魔的な親和性に身を委ねた武器商人の傍らで『もふりたい』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は眩しいと言わんばかりに目を細める。
「焔の鳥、か……太陽の化身とは大きく出たな……いや、そう言って高く、更に高く飛んで太陽に近づき過ぎ、焼け落ちた鳥の説話が故郷にあった事を思い出してな」
アーマデルが思い浮かべた寓話では、太陽の熱さは何かの比ではなかった筈だ。ならば、二つ目の太陽――そう自身を称し翼より火の粉を散らせる『朝焼けの』スーリヤは太陽の熱さに灼かれ落ちるべきか。
「生きとし生けるものを見守り続けてきたのが太陽だ。
その名を騙り、愉快だからと降りてきて町を焼くのが太陽の化身だなんて烏滸がましいね」
溜息を混じらせる『ワルツと共に』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)へ「我は太陽、象徴であるぞ」と低く地を這うような声音が響く。
それがスーリヤのものであると気付いてアントワーヌは可笑しいとでも言うかの如く小さく笑った。
「――お手をどうぞプリンセス。今宵私と踊ってくれますか?」
ばさり、と音を立てて火が毀れ落ちてくる。一歩後退したラクロスは「強引なプリンセスだ」と微笑んだ。
「わっ、太陽の化身なんて凄いのだ! でもみんなを困らせるのはダメだって僕は思うのだ!
僕にはまだ護るべき場所はないけど、それでも力になりたいって思うのだ!」
強く、決意するように刃仕込みのマントを揺らしたのは『若葉マーク』ヴェルデ・w・ヴェール(p3p009687)。赤毛を纏め上げた快活な少女にとって、見上げるべき太陽は朗らかであるはずだった。太陽が喧嘩を望むなら『月』が受けて立つべきだ。
美しい銀の色。どうしてか心を引かれるとヴェルデが盗み見た武器商人は薄く口元に笑みを浮かべて、その地に立っていた。
「――それに、綺麗な綺麗な月の化身なら、こっちにだっているのだ」
その視線に気付いたか、『月』は少女へ小さく笑う――「さァ、アビシニアン。進もうか」と囁く声に、大きく頷いて。
●
先代の領主、嘗てこの地を統治していたモルゲンレーテ家の『元・当主』であったユリウスの父は決して良い領主とは言えなかった。幻想を護る武の一角であったモルゲンレーテの凋落。先代の悪政をユリウスは知っている――それでも、言わねばならない。言わねば、領主として振る舞わねば。民を護る為には、其れが必要であると少年は知っていた。
(……彼等は反発するだろう。悪政を強いたモルゲンレーテ家。だが、怯んでいるわけにはいかない――!)
ユリウスは緊張を滲ませて民へと向き直った。風牙のように明るい声音ではない。緊張を孕んだ、不安だらけの声色は凜と響く。
「ユリウス=フォン=モルゲンレーテ。フォルデルマン三世陛下より此の地を賜りし者だ。
我が名に反発する者が居ることは理解している。だが、事は命に関わる。恨み言なら後ほど聞こう。頼む、どうか、私に皆を護る機会を与えてほしい」
それが貴族としての務めであるはずだ。民を護り、領地を護り、そして、貴族の誇りを掲げ続ける。己の信念を歪めてはならぬとユリウスは知っている。民等の慨嘆を理解していないわけではない。ユリウスは覚悟を決めていた。
「先ずは事件解決のプロである花丸ちゃん達にマルっとお任せっ! みんなみんな、花丸ちゃん達が守ってみせるよ!」
だから、ユリウスを疑わないで。任せて欲しいと微笑んで。花丸は皮膚の硬くなった掌にぎゅうと力を込めた。
先を行く花丸の背、ユリウスは小さく頷いて「頼む」と領民へと再度言葉を重ねた。
赤き炎。その燃え盛る勢いは激しさを増すばかり。精霊達の下へと飛び込んで、花丸が「武器商人さんっ!」と名を呼んだ。
「ああ、分っているよ――さァ、こっちをご覧? おっとキミたち、そうそう、キミ達さ燃ゆる隣人達。
お遊びにしたってこんな炎じゃあ、我(アタシ)の髪一筋焦がすのも難儀するぜ? それともそれが本気と言うまいね?」
それは扇動の一言、小さく笑うように破滅の呼び声が急き立てる。破邪の決壊は精霊達の憤りの焔さえも関さずに。
「本気だって? まさかまさか! さァもっと遊んでおくれよ。キミ達は精霊、自由なるモノ。
力を貸す事はあれど、例え如何なる者の下命でも従わずにいていいのだから!」
躍る様な仕草。武器商人の許へと花丸が精霊を誘い込む。その声を聞いて、その存在を認識して目を離さないでと願うように。
「キツイ役目を任せることになるけど、そっちは頼んだよ!」
花丸が精霊達を武器商人へと預け続ける。
上空躍ったスーリヤの炎よりも尚遠く、家屋を燃やされぬようにと周囲に気を配ったアントワーヌは胸元で煌めいたサファイアを握り込む。
王子様は円舞曲(ワルツ)で失敗は赦されない。黄色い薔薇は嫉妬の証。美しき舞踏に嫉妬に狂い追いかけるが良いと嗤うが如く。雷の気配を宿した薔薇の棘がスーリヤへと突き刺さる。
「やぁ、ごきげんよう。太陽の名を冠するプリンセス。けれど君にはその名は少し豪華すぎるんじゃないかな?
所詮君は『太陽の化身を自称しているだけの紛い物』に過ぎないのだから」
「我は太陽。我こそ真なる光。何人たりとも邪魔はさせぬ――!」
アントワーヌを襲う焔。それでも王子の高貴なる薔薇は焼き落ちることはないと言わんばかりに咲き誇る。地を蹴って、アクロバティックに走り回るヴェルデはマジックガンを構え魔的な純粋な破壊力を撃ち出した。弾丸となり飛び込めば、ぱちりと火が爆ぜる。
「僕はヴェルデ・W・ヴェール! 何だか、あの人を護らなきゃいけない気がするのだ」
護ると決めたならば。どうしてかは自身に問わなかった。そうだと直感したからだ。
小柄なその身体を生かして戦場を駆け回るヴェルデの傍らで撓るのは蛇剣。鱗の波紋が本物の蛇のようにぐにゃりとしなり動く。
「――朝焼けは陽が昇り切れば消えるが道理。大火になる前に消火してしまわないとな……物見遊山で人里を焼かれちゃたまらないしな」
「笑止! 昇り続け、そして赫々たる輝きで君臨するのだ!」
それが王たる存在であるとでもスーリヤは叫んだ。アーマデルの二対の剣を這うように怨嗟の声が響き渡る。命を削るほどの努力を踏み躙られた怨み節。刃が軋り歌うその音の生み出す不協和音の中でもスーリヤは統率するように翼を広げ精霊達を呼び寄せんと焔に躍る。
それでも、アーマデルは怯むことはなかった。その様な悍ましさよりも尚、自身の聞いた怨嗟の声が『しつこい』事を知っていたからだ。
「スーリヤ? ただの化け鳥に大層な名前なんて必要ねえ。化け鳥で充分だ」
ひゅ、と風を切る音一つ。睨み付ける翡翠は輝きを失わない。飛ぶ斬撃がスーリヤの声音を割くように鋭く響いた。
「太陽の化身だぁ? 地を焼き尽くすだぁ? ちょっと熱いだけの鳥風情が偉そうに。お前じゃせいぜい芋焼く焚火だ。
そして、焼かれるのはこの地でも人でもない、お前自身だ。オレの槍で串刺しにして、焼き鳥にしてやるよ!」
それは過剰なほどの挑発。地へと怪王種を引きずり落とし、精霊達から意識を削ぐために。そうは言いながらも風牙は本心であると小さく笑った。
本心を包み隠す相手でもない。焼き鳥にするのは確かなことだ。焔の雨が降注ぐ。槍で凌ぎながらも睨み付ける風牙の傍らで、冷たき霊刀を構えたゼフィラは静かに息を飲む。
「さて――其れなりの対話を可能としても、欲しい答えは得られない.それ程に太陽の座に固執されては困ってしまうね。
この領地は仲間のもの。大人しく引き返して欲しかったが、そうした説得も成せないならば――……仕方がない、この場で倒れて貰おうか」
味方全体へと号令放つ。言霊は励ましと苦境を響かせ、スーリヤと名乗るモンスターの好きにはさせぬと伝えるように。
●
さァさ、お手を拝借。
無限に遊ぼうと自身の周囲に障壁を張り巡らせて、精霊達と『遊ぶ』武器商人は決して焼け死ぬことはない。獄炎の随であれども、その身体を打ち倒す能力を精霊達は有していない。
「どうだい? 楽しいだろう、精霊は縛られない。自由気儘に遊ぶモノ。我(アタシ)となら永遠に遊んでいられる――永遠なんて、何処にもないけれど」
囁く武器商人の声音に重なるように、ヴェルデの弾幕が飛び込んだ。痛みはあるが、それでも『気にはしない』と嗤った武器商人の言葉を信じ、少女は弾丸をばら撒き続けた。どうしてか、武器商人を特別視している。何か、不思議な感覚をヴェルデは感じていた――はじめて見たのに、あの美しい静謐溢るる月は、揺らぐことがない。
敵の統率が乱れている。スーリヤの声を聞く間もないほどに精霊達は夢中になっている。ならば、とユリウスは力の化身なる大戦斧を担ぎ上げた。言葉に嘘はない。領民を護ると決めたのだから、その身を盾にしても良い。
堂々たる決死の盾。聳え立った自己犠牲。ノブレスオブリージュを知る高貴なる血統を穢さぬと、風牙と花丸の元へと降り立ったスーリヤへ向け、雷撃を一閃し続ける。
「お前は何処から来た?」
「何処から太陽が昇ると問うか! いいや、いいや、全てはこの国の破滅を見るためだけだ。破滅を告げる太陽、実に良いではないか!」
この国の破滅――ユリウスはそう唇を動かした。さて、どういう意味か。正答を得れなくとも、其れは些か気になる言葉であるのは確かだ。
「だが、その太陽も沈み掛けだ。『朝焼け』とは素敵な異名だが、こちらも黎明の名を背負っているものでね。
新しい始まりを迎えるためにも、この地の平穏は破らせないよ……なんてね」
揶揄うように小さく笑ったゼフィラがスーリヤを相手取る花丸へと与えたのは強烈なる支援。燃え盛る烈火なる魔石の力を宿した剣を握りしめ、賢者は支援を行い続ける。
スーリヤの視線が武器商人へと移動した。「現に見てごらん、君の炎は私を焼くことすら出来ていないじゃないか」と揶揄い笑ったアントワーヌは躍る様に青き薔薇を花開く。
「君のダンスの相手は私達だろう? 余所見なんて妬けてしまうな」
うっとりと、乙女ならば夢見るような。そんな声音でアントワーヌは囁いた。軽やかなステップを踏みながら氷の棘を突き刺した。
アントワーヌの視線は花丸へと向けられる。彼女と、彼女を支えるゼフィラ。二人がいれば問題はないだろうがいざとなったときの『替えのシューズ』は用意するに越したことはない。
「元凶(たいよう)はさっさと沈んで貰わないと! まるっと解決するって皆と約束したんだから!」
花丸はスーリヤへとその拳を叩き込んだ。傷付け、壊すことしか出来ない拳でも何かを救う手立てになる筈だと、決意を叫ぶ。
アーマデルは小さく頷いた。領民を救うために自身らはやってきた。捻れ完全に開くことの出来ない翼の幻影を背にしながら祈るように叩き付けたのは至上の破壊力。瞬時に加速したのは非実弾の弾丸であった。
死神は命を刈り取る様に、その弾丸を叩き込む。スーリヤより舞い散った炎を受けようともアーマデルの剣は燃え落ちることはなかった。強固なワイヤーで繋がられた剣が撓り叩き付けられる。
「太陽に焦がれる余り落ちる鳥がここにも居るのか。寓話というのは奇妙なものだな。現実にも化してくる」
「俺達が叩き落とすんだ! ――この身、流星と化して悪しき者を地に墜とさん!!」
小さく笑った風牙。太陽を地へと叩き落とす。天を奔る彗星の如く少年は一気に間合いを詰め、『気』を持ってスーリヤの身体を地へ伏せさせた。
焔の勢いが僅かに緩む。アントワーヌは「プリンセス、そろそろダンスタイムは終わりのようだ」とエスコートを終えるようにひらりと手を振った。
武器商人へと集まった精霊達へと視線を向けてヴェルデは領民達を護る様に立ち塞がり、攻撃を重ね続ける。
「お待たせ!」と風牙が笑いかければ「翡翠色のコの攻撃を受けることになるとはね」と揶揄うように声が踊った。
ゼフィラの支援と共にイレギュラーズは皆、精霊へと向き直った。地へと叩き付けられたスーリヤは最早、動くことも叶わない。
「ごめんね、スーリヤの対応はOKだよ! 花丸ちゃん達も加勢するから!」
花丸は風牙に続き、蒼天へと手を伸ばすようにそのこぶしを突き立てる。謳う様なアーマデルの刃が精霊達を不協和音で包み込む。
「それにしても、炎の精霊はスーリヤに連れてこられただけなのか。狂気を振り撒く存在というのは厄介だな。
太陽が沈もうとも、焔の鳥が焼け落ちようとも、それでもその狂気から抜け出せない。……同情は、してしまうけれど」
アーマデルの呟きに、ゼフィラは「彼等は屹度、大丈夫だ」と囁いた。癒しと共に仲間を強烈に支援して、言葉なく焔を振り撒き武器商人へと火の雨を降らせる精霊を睨め付ける。
遊ぶように、躍る様に。そのステップを止める事無い武器商人は楽しげであった。傷付き続けようともその身体は動くことを止めない。眠ることない永劫に遊ぶように月は相容れぬ太陽の光を眺め続ける。
それでも、その『永遠』は長くは続かなかった。
――人の世に仇為す『魔』を討ち、この世の平穏を拓く。
その心は揺らぐことはない。風牙は真っ直ぐに槍を突き立てる。平穏を拓くが為、他者を害する者を決して許しはしない。
精霊達の狂気を打ち払うが為、投じられた攻撃に、鮮やかなる焔が形を潜め続ける。
その様子を領民達は見て居た。強敵との戦い――そう感じられた。イレギュラーズと常人の違いを、確認するように。
そして己が領主であると名乗ったモルゲンレーテの嫡子が身を張って脅威から守ってくれることに、僅かな期待を感じていた。
彼にならばこの地を任せても良いのだろうか、と。暗き闇から見えた太陽は朝焼けに似ていた。
その期待の傍らで、もう一つの太陽が呆気なく沈む。その様子を見詰めながら、ユリウスは静かに告げた。
怪王種が此の地で死そうともまだまだ領地を襲う手はあるだろう。だが、危機より民を護るのが貴族の役目なのだとゆっくりと斧を振り上げて。
「――些か早いだろうが、斜陽の時だ。沈め」
ユリウスは、そう言った。民のためだ。恨まれようとも此の地は、モルゲンレーテが護り導く場所なのだから――
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
『副官』ノエルさんがとっても可愛いので此れからもユリウスさんをつんつんしてて欲しいです。
GMコメント
夏あかねです。
●成功条件
・『朝焼けの』スーリヤの撃破
・炎の精霊の沈静化
●『朝焼けの』スーリヤ
巨大な鳥の怪王種(アロンゲノム)。人語を理解し、自身を太陽の化身であると認識しています。
如何したことか此の地へと訪れ、焔の精霊と共に地を焼き尽くしてゆかんと考えているようです。
ステータスはEXFが高く、BS火炎系列を所有しているようです。
彼(便宜上、彼と云います)は「獣共のが暴れているのが愉快故に、太陽たる自身も姿を見せた」と云い、遊びに来ているかのようです。
放置すればモルゲンレーテ領以外の領地を灼く可能性もあるので、討伐が急がれます。
●炎の精霊 *10
一つ一つは弱いですが、スーリヤに統率されることで驚異的な連携を見せます。
BSを多数所有しており、嫌がらせのように攻撃を行う存在でしょう。
●怪王種(アロンゲノム)とは
進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。
●モルゲンレーテ領
ユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)さんの領地です。北方戦線に面する国境沿いに存在しています。
幻想王国にしては少しばかり寒さを感じるその領地は未だ閑散としていますが領民達の復興への意志が強いようです。
領地を失ってなるものかと領民達はモルゲンレーテでモンスターの脅威に打ち勝つべく武器を手にしています――が、彼等が出陣しても得るものは何もないでしょう。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、メダリオンを獲得して領地を護りましょう。宜しくお願いします。
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