PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>復興の道遠く

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「……魔物ですか」
 険しい表情を浮かべるテレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)は、一枚の報告書に目を通していた。
「しかも、巨人とは……この集団が到達しうる場所は分かりますか?」
 テレーゼは、そういうと報告書を持ってきた隻眼の男に視線を向ける。
「ブラウベルクではありませんが……恐らくは、オランジュベネに到達するでしょう。
 特に、復興が遅れている場所になるはずです」
「それは……拙いですね。急ぎ、イレギュラーズの方と連携して迎撃に出ましょう」
「それですが……現状、我ら傭兵団は殆どがブラウベルク領内への攻撃に備えています。
 今すぐに使える人となるとかなり限られます」
 隻眼の男の言葉に、テレーゼは少し唸るように俯いて、険しい表情のままに男の方へ視線を上げた。
「彼らの体調はどうですか? たしか、まだどこにも配属してなかったはずです。
 回復が見られるなら、あの方々にブラウベルク家の兵士として、初仕事を申し付けましょう」
「なるほど、彼らですか。ええ、休息は充分に取っております。耐えられるでしょう」
「それは、さっそく、メイナードさんを呼んできてください。
 早期の行動が不可欠のはず……」
 隻眼の男がその場で礼をしてどこかへ歩いていく。
 それを見届けてから、テレーゼはふと溜息を吐いた。
「巨人40人……彼らを使うとして、それ以外にも動員する兵が必要です。どうしましょうか……」
 背もたれに体を預け、青髪の少女はぼんやりと虚空に視線を投げた。


 マルク・シリング(p3p001309)は、その日、テレーゼに呼び出されていた。
「ようこそいらっしゃいました。
 早速なのですが、お仕事の話を始めますね」
 そういうテレーゼの顔には、余裕があまり見受けられない。
「以前、マルクさんから領地の問題の解決に手を貸していただけるとおっしゃっていただけました。
 その時のお話を、さっそくながら使わせていただきたいのです」
「何か問題でも?」
「現在、オランジュベネでも特に復興が遅れている地域を目指し、巨人の集団が侵攻中だという情報が出てきました。
 ……マルクさんに復興のお手伝いをお願いしているあの辺りです。
 そこで、この巨人を迎撃、討伐していただきたいのです。
 とはいえ、数がかなり多く、イレギュラーズの方々にお願いするだけでは不可能と判断しました。
 ブラウベルクから、少ないながら20人ほど兵を出します。
 ただ、それ以上はマルクさんの領地の兵士を出していただくことになりそうです」
 申し訳なさそうに、テレーゼが頭を下げる。
「分かりました。……それで、僕達と一緒に戦う兵士っていうのは?」
「彼らです」
 そう言って、テレーゼが視線をマルクの後ろに向ける。
 振り返れば、そこには青色の髪と瞳をした20代後半らしき青年と 紅髪赤眼、20代前半の女性が立っていた。
「メイナードさんとイングヒルトさん……もしかして」
「はい。以前、マルクさんが私に仕官したらいいとおっしゃった兵士達です。
 ここに残ったのは10人程度なので、他の10人は傭兵から集めました。
 初陣させる必要もあるのですが、その……彼らには『誰の目にも分かる禊』が必要と考える者もおります」
「そうか、幾ら恩赦なり赦免なりするとしても、感情的に難しく思う人もいる……」
「ええ……よろしくお願いします」
 そう言って、テレーゼは再び頭を下げた。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。そんなわけで、ヴァーリでございます。
 マルクさんの領地めがけて侵攻する巨人たちとの迎撃戦となります。

●オーダー
 巨人らの討伐

●フィールド
 マルクさんの領地に存在する古戦場。
 緩やかですが意外と高い丘のようになっており、守りやすい地形です。
 こちらからは回り込む様子が見え、相手からは回り込む様子が見えません。

●エネミーデータ
・『雷哮』フルグル
 10m規模の全身から稲妻が奔る巨人です。
 ブロック・マークに2人必要です。
 このグループのリーダー格です。
 群を抜いて高いHP、高めの物攻、神攻、抵抗を有しますが、回避、EXA、CTなどはかなり低いです。

<スキル>
ガント・ライトニング(A):巨大な腕をハンマーに見立てて対象に叩きつけます。
物中単 威力中 【感電】【停滞】

アンクル・トニトルス(A):強靭な足に纏う雷霆を踏み込みと同時に周囲に走らせます。
神中域 威力中 【崩れ】【ショック】【麻痺】

雷哮砲(A):口の中で帯びた稲妻を咆哮と同時にぶちまけます。
神超貫 威力大 【溜め1】【感電】【停滞】【麻痺】

・巨人×20
 全長5~6m前後の巨人です。
 全てが平均的な能力値をしています。
 近接戦闘をする主力です。

・速戦型巨人×5
 巨人に比べて反応、EXAが高く、防技が低い個体です。
 同じく近接戦闘を熟しますが、中距離まで疾走する【移】攻撃スキルがあります。
 場の掻きまわしを狙った個体と思われます。

・破壊型巨人×5
 巨人に比べ、物攻、CTが高く、それ以外は低めの個体です。
 意図的に戦場を破壊するように暴れまわります。
 衝撃波を起こして中距離を撃ち抜く咆哮を上げます。

・盾型巨人×5
 巨人に比べて防技、抵抗が高く、機動力は巨人と同程度。それ以外の能力値は低めです。
 盾役のような役割を担う個体と思われます。

・督戦型巨人×4
 上記4種の巨人をそれぞれ督戦する下士官のようなタイプ。
 これらを殺すことで巨人側の連携を破壊できます。

●友軍データ
・『忘れられた武略』メイナード
 甲冑に身を包み、剣と盾を持つ青色の髪と瞳をした20代後半らしき青年。
 典型的に分かりやすく『騎士然』としています。
 何もなければ下記のブラウベルク領軍から10人ほどを率いて戦場右方面で戦う予定です。
 もしもそれ以外にやらせたいことなどあれば指定してください。

 全ての能力値をやや高めに整えたバランス型タイプです。

・『流転する槍媛』イングヒルト
 甲冑に身を包み、槍を握る紅髪赤眼、20代前半の女性です。
 優れた武人という雰囲気をしています。
 何もなければ下記のブラウベルク領軍から10人ほどを率いて戦場左方面で戦う予定です。
 もしもそれ以外にやらせたいことなどあれば指定してください。

 反応とEXA、命中、回避などに優れた手数で攻めるタイプです。

・ブラウベルク領軍×20人
 テレーゼ・フォン・ブラウベルクの下から派遣されてきた20人の兵士達です。
 信頼のおける実力があります。
 基本的には上記2名それぞれに付けられて戦闘の予定ですが、皆さんが指揮しても構いません。

・旧オランジュベネ領特別復興区支援軍×20
 マルクさんの領地に元々いた兵士達です。
 兵科もバランスよく取り揃えられています。
 何もしなくてもそれなりに動きますが、指示があれば十全以上の実力を発揮します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>復興の道遠く完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
アクア・フィーリス(p3p006784)
妖怪奈落落とし
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ

リプレイ


 丘の上を春風が穏やかに流れていく。
 流線を描く丘の向こう側に、幾つもの大きな人影が見えていた。
「ふぅ、何処も其処も大忙し。一息つく暇もありません」
 一つ呼吸を入れて、『宵闇の調べ』ヨハン=レーム(p3p001117)はくるりと振り返る。
 口ではそう言いつつも、実際には意外とけろりしているヨハンだった。
 その視線の先では兵士達がヨハンの指示を仰ぐように立っている。
「では、戦闘開始。これよりキミたちは僕の指揮に従ってもらう。
 鉄帝の人間にタクトを振るわれるのは不本意でしょうが、まぁ、悪いようにはしませんよ。
 我々はイレギュラーズ右翼にて防御陣形を組む。 ヒロイズムに囚われて深追いはしないように。
「メイナードさん、イングヒルトさん。絶対に勝って、生き残ろう。
 ここからが始まりなんだから」
 マルク・シリング(p3p001309)は甲冑に身を包む二人組――メイナードとイングヒルトに手を差し伸べながら声をかけた。
「ああ……もちろん。よろしく頼む」
 メイナードが先に握手を交わし、それに続けるようにイングヒルトと握手を交わすと、その視線を彼らの後ろに向けた。
「ブラウベルク領軍の皆さんには戦場の左翼に一緒に来てほしい。
 丘の陰から敵の右翼を奇襲しようと思う」
「分かりました。速やかに参りましょう」
「問題ない」
 敵の主力であろう巨人達を兵士に抑えてもらい、自分達は督戦個体を中心に守られてない者から潰す。
 今回の主要作戦を説明すれば、2人から同意を得られた。
「それじゃあ……行こう!」
 マルクたちは丘の影を利用して走り出す。
「近くに来ると迫力があるわね…。この巨人達も災厄の獣、というやつかしら」
 丘の向こう、巨人たち『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)を見ながら、呟いた。
 見る限り、巨人達にはいくつか種類があるように見える。
「あれだけの数の巨人が集まって…異常な光景、だけど。
 マルクさんの領地が荒らされない様に頑張らないと…!」
 騎士盾を立てるように握り、剣を抜いた『不退転』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)は勇気を振り絞る。
「ちょっと規模でかすぎだろ! 何をどうすりゃこんな事態になるんだ!」
 到着し、敵を見据えながら、『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は思わず声に漏らす。
 目にすれば流石に圧巻という他ない。
「何にしても、マルクさんの領地の危機なら見過ごす理由はないわね」
 アンナの言葉に、風牙も同意を示す。
「巨人、大きい……それに、多いね?」
 ざっとみれば40体ほどか。数を見た『闇と炎』アクア・フィーリス(p3p006784)は小さく首を振った。
「放っておいたら、領地が、すぐ荒地に……
 わたしに、関係なくても……悪さをするなら、許せない……!」
「そうだよ! 皆で復興させようとしてるところに来るなんて!
 ここまで頑張ってきたことを無駄にさせないためにも、被害が出ちゃう前にボクたちで止めよう!」
 カグツチを握り締め、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が告げれば、アクアも頷いて。
「多くても、大きくても……全部殺せば、何の問題も、ないよね……?
 ……じゃあ、殺そう」
 静かにアクアが呟くと漆黒の炎が目に見えて火力を上げていく。
「まぁ、大きいってことは当てやすい的って事っすからねー」
 戦場まで運ばれてきた『扇風機』アルヤン 不連続面(p3p009220)も丘の上に設置――もとい立ち、戦場を見る。


 丘を迂回したマルクはの巨人達のおおよその右翼部分へと突撃を仕掛けた。
 横列に並んだ兵士達が突っ込んで行く。
 全長5~6mほどにもなる人間型の化け物目掛け、20人が一斉に槍を、矛を、剣を撃ち込んでいく。
 マルクは遥かな上空、俯瞰するように見る鳥の視野を持って、戦場を見下ろしている。
「無理に攻めないで、落ち着いて対処してください!」
 いいつつ、その視線は敵の中から抜け出すように走り出し、こちらへ突っ込んできたアスリートのような個体を見る。
 それはある程度の場所で跳躍すると、こちら目掛けて振ってきた。
『ォォォ!!!!』
 続けるように、聞こえたのは怨嗟に満ちた咆哮。
 それがこちら目掛けて劈くように響き渡る。
 それらを導くようにして立つ、2体の巨人。
 それらはどちらともずんぐりとした体格の個体に守られていた。
(あの個体へ攻撃するならあの2体が邪魔……なら狙うべきは……)
 巨人が足元目掛けて、咆哮を上げた。強烈な咆哮が足元を削っていく。
 マルクは深呼吸すると、魔力を練り上げた。
 片方の杖を媒介に、片方の杖を砲身の代わりに。
 戦場を越えて撃ち抜くべく視線を向けたのは、疾走してきたあの個体。
 収束する大地の魔力を、そいつ目掛けて叩きつけた。
 炸裂と同時、巨人の足元四方から棘のようになった土が隆起してその身を貫通させる。
 身動きできなくなったそいつへ、2人が走り抜ける。
 マルクに続けるようにメイナードとイングヒルトが撃ち込んだ各々の大技を受け、そいつが憎悪に満ちた断末魔を上げて戦場に倒れた。

 マルク隊の動きに呼応して、ヨハン隊も動き出した。
「まずは横陣! 丘からの奇襲効果を最大限に活かしますよ。撃ち方はじめーっ!」
 横陣に並び、弓兵と銃兵が雨あられと範囲射撃をぶち込んでいく。
『ォォオオ!!』
 巨人たちが吼える。
 複数の巨人たちの集団をまとめて砲撃の的とした攻撃に、敵がヨハンの方を向いた。
「盾持ちは前面に! 方陣を組んで衝撃に備えますよ!」
 疾走する細身の――アスリートのような巨人が、陣目掛けて突っ込んでくる。
「イオニアスデイブレイク――!!」
 ダメ押しとばかり、ヨハンは寓喩偽典ヤルダバオトを紐解き、魔力を練り上げて魔術を行使する。
 栄光を望み果てた男の在り方を示す夜明けの光が、兵士達の心を引き締め、守りを固めていく。

 2つの軍勢が巨人達を押し上げるように攻めていく。
 それを見つめていたアンナは、眼下に敵を見下ろして、静かに『そこ』を導き出した。
 最奥にある他の巨人よりも遥かに大きな雷霆の巨人。そこへの最短距離、最速でたどり着く道のり。
 跳ぶように駆けた黒い影が、大型の巨人――フルグルへ走る。
 不吉を呼ぶ黒兎の舞は、他の追随も他の存在も無視して、そいつの前へ躍り出た。
『オオオオ』
 憎しみに満ちた声がする。
 それが振り下ろされるのに合わせて、アンナはふわりと宙を舞った。
「さぁ、私と踊ってくれるかしら?」
 フルグルの腕を足場に駆けあがりながら、アンナは挑発を籠めて笑った。
 その視界に、ダンスに魅入られた複数の巨人たちが見えた。
 風牙は駆けだした。
 まるで風のように丘を降りて、暴れまわる巨人たちの方へ。
 ある程度まで走ると、跳躍。
 くるりと愛槍を回して穂先へ『気』を集め――刺突の要領でぶちまけた。
 複数の巨人を巻き込みぶちまけられた『気』は、巨人たちの内側へ浸透し、敵の気をかき乱す。
 がら空きと化した巨人達のうち、最も傷の通りが良い個体を見据え、アクアは走る。
 ある程度まで近づくと、手をそいつへ向けた。
 気持ちを落ち着かせるように、一つ深呼吸。
 その後は、ただこの身に思う邪悪を反射させるように、巨人へ。
「狂え、歪め、沈め、散れ、哭け、呻け、嘆け」
 怨嗟の声が、響き渡る。それは果たして巨人のものか、あるいは――
 焔はその手に火球を生みだした。
 球体のそれは、必殺を刻む炎の爆弾。
「よし、あの辺かな……えいっ!」
 肩をくるくる回して、一気にぽい、と爆弾を敵陣めがけて投げ込んだ。
 火の粉を散らしながら放物線を描いた爆弾は、複数の敵が纏まる場所へと炸裂し――中央にいた巨人が断末魔を燃やし尽くされながら落ちていく。
 それを見る間もなく、焔は戦場目掛けて走り出す。
(まずは巨人の数を減らさないと)
 ボール、或いは足元を蹴散らすように、巨人達がイレギュラーズへと踏み込んでくる。
 シャルティエはそれを騎士盾で受け流すようにして防ぐと、大きく踏み込んだ。
 狙うは巨人の脚の腱。
 敵の攻撃に弾かれ、跳ぶようにして反対側の脚へ踏み込み――剣を薙いだ。
 愛剣が肉を裂く感覚を感じ取ると同時、シャルティエは引き金を弾いた。
 勢いの加わった剣が、敵の腱を削り落とす。
「よーし、いくっすよー」
 ギュンギュンと羽が渦を巻く。
 空気をかき回し、魔力をかき回して、収束させるは純粋なる魔力。
 不浄と不要な物を削ぎ落とし、破壊力のみを注ぎ込む極大の旋風を、巨人の集団が多くいる場所めがけて叩きつけた。
 魔力は直線上を穿ちながら、防御する暇さえ与えることなく、真っすぐに巨人4体を抉りつぶした。
 フルグルが口を閉ざし、バリバリと雷鳴が響き渡る。
 全身に纏う雷霆が、鳴りを潜め、口元から稲光と音。


 咆哮が、戦場に轟いた。
 それは咆哮になくば雷霆と呼ぶほかなき凄絶なる怒号。
 地上を焼き払い、有象無象の巨人を灰燼に帰し、全ての音を割るが如き轟音を放ち。
 しかし、イレギュラーズ側の人的被害は最小限だった。
 帯電を開始したことで明らかに危険な攻撃だと判断し、散開したことが大きかった。
 既に巨人の数は三分の一に減っている。
 半数にまで減った所に撃ち込まれた雷哮砲が、追加とばかりに巨人を消し飛ばしたからだ。
 督戦する個体に至っては雷哮砲の巻き添えとイレギュラーズの猛攻によって死に絶えている。
 こちらも兵士を中心に損害が出てもいるが、ヨハンとマルク、双方の指揮官の統率と治癒術式により最小限におちついてもいる。

「深手を負った者は下がれ! 回復します!」
 ヨハンは声を張り上げた。
(誰一人として欠けない完全な勝利以外、僕は興味がない)
 先ほどの砲撃は、幸いにしてこちら側の兵士達にはあまり通ってきてない。
 とはいえ、巨人との戦いで傷を負った者は多い。
 兵士達から魔力を供給させてもらいながら、ヨハンは魔力を籠め上げた。
 中心近くにいる兵士達へともたらすは聖域たる魔術。
 白亜の内側、人々を癒す領域にて、兵士達が奮い立つ。

「フラウベルク領の復興は道半ばだ。人の暮らしを破壊し命を奪う災厄、必ずここで食い止める!」
 マルクは声を上げた。
 たしかに、大なり小なり、こちらにも損害は出ているが、それでも既に半数未満となった巨人達であれば、兵士達で対処できる。
「これよりフルグルを集中攻撃で落とす!」
 宣誓するように指示を上げて、マルクは手をフルグルに向けた。
 抜群の射程、自身の渾身の力を籠めた魔光閃熱波がフルグルへと叩きつけられ、メイナードとイングヒルトが駆け抜けていく。

 シャルティエは視線をフルグルに向けた。
 その視界に、もう一体、巨人が見える。
 シャルティエは走り出すと、その巨人目掛け意識を集中する。
 踏み込みと同時、刀身が爆炎に爆ぜる。
 そのまま、突撃をかましたシャルティエは、巨人の肉体を貫き、その後ろにいたフルグルへと刃を突き立てた。
 貫通する衝撃の直後、引き金を弾けば、隙のあるフルグルへと痛撃せしめることに何の問題もない。
「うぃーんうぃーん」
 アルヤンは再び羽を回して魔力を攪拌する。
 急速に収束していく魔力を帯びた旋風に身体が揺れる。
「どんなにタフだろうと、いつかは死ぬんすよー」
 極限まで収束した魔力を、そのままドウ、と叩き込む。
 真っすぐに駆け抜けた砲撃は、射程にいたただの巨人の頭部を吹っ飛ばし、フルグルの胴体に風穴を開けた。
「とはいえ、当たるとシャレにならねえなこれ」
 咆哮を何とか躱した風牙は真横で削り取られた地面に少しばかり寒い物を感じながら一つ呼吸を入れる。
 一息で迫る。一瞬の踏み込みの同時、風牙は文字通り風のように走り抜けた。
 さながら彗星の如く、真っすぐに駆け抜けたその身は巨人へと炸裂する。
 炸裂と同時、己の気をフルグルの身体へと叩きつけた。
 その巨体が微かに揺らぐ。
 アンナは自らを律する。
 それは遥かな先、どこかで到達するべき自身の全盛。
 爆発的に上昇した技量を糧に、地面を蹴り飛ばして駆ける。
 そのまま、フルグルの視界を擽るように走り抜けた。
「さぁ、私と踊りましょう? あなたのお仲間がいなくなるのも時間の問題よ」
 数度に及ぶ挑発的な足取りは遂にフルグルを捕らえていた。
 振り抜かれた雷霆の如き腕を再びふわりと躱して、そこを足場に駆け抜ける。
 目指す場所は敵の眼前――踏み込みと同時に跳躍。
 夢煌の水晶剣が鮮やかな業火を纏う頃、その刺突はフルグルの眉間に突き立った。
 圧倒的な高速戦闘を熟す2人に続けるように、アクアと焔も動いた。
 全身が痛む。ドクン、ドクンと心臓の鼓動が強く感じ取れた。
 右腕の黒炎が、火力を増していた。
 アクアはフルグルの下へと到達すると、その巨体を見上げた。
「許さない――殺す」
 微かな憎悪を力に転嫁させるべく燃え上がらせて、アクアは踏み込んだ。
 黒炎が爆ぜる。
 時間を置き去りにするが如き爆発が拳と共に炸裂し、巨体の内側まで抉りだす。
『ォォオォォォ』
 悲鳴の如き声と共に、眉間の火傷に巨人が顔を振る。
「これはもたもたしてると友軍の人たちが危ないね……」
 走り出す焔とフルグルの間、死に体の巨人が割り込んでくる。
(流石にここまで来ると無視できないや……でもこれならいける)
 踏み込みと同時、穂先に魔力を炎を収束させて、巨人の心臓部辺りに叩きつける。
 肉体を貫き、内臓へと到達した穂先。
 収束させた炎を敢えて開放した瞬間――敵の内側で心臓が爆ぜる音がした。


 イレギュラーズの力戦により、フルグルが倒れる頃、他の巨人達もまた、最後の2体にまで減っていた。
 その2体を蹴散らして、イレギュラーズ達は戦後警戒も兼ねて小休止していた。
「今回は助かりました」
 マルクが手を差し出したのはメイナード。
「ありがとう。久々に人の為に戦うことができた」
 憑き物が取れたようにメイナードは笑う。
「御無事でなによりです」
 兵士達を見ていたらしいイングヒルトも声をかけてきた。
 ヨハンは戦いの後も兵士達に治癒術式をかけて回っている。
 一応、死者はいない。重傷者は少なくないが、ちゃんと休めばよくなるだろうという者が大半だ。
 アルヤンは久しぶりに扇風機らしく人々に風を送っている。
 春の息吹を感じる温かくも涼しい風が仲間たちの身体を癒していた。
「他の領地でも、此処みたいに大変な状況なのかな…一体幻想で何が起きてるんだろう」
 シャルティエはそんな兵士達の様子を少し遠巻きに眺めてぽつりと呟いた。
 まだ分からない。けれど確かに何かが起きていることを感じながら、一つ息を吐いた。

成否

成功

MVP

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
激闘を最小限の損害で退けることができたようです。
MVPは一番危険なところで危険な任務を熟したあなたへ。

PAGETOPPAGEBOTTOM