PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>花を召しませ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●金がないのは首がないのと同じだ
 いくつもある娼館、その主たるマダム・フォクシーを尋ねて娘は右往左往した。
 みすぼらしい娘だ。髪はざんばらで、水へ通しすぎた服はぼろを着ているのとたいして変わらない。化粧っけなどまるでないし、青ざめた唇は固くひび割れていた。
 だがその唇をきっと結び、心に一本の刃を抱いて娘はマダムのもとを訪れた。
 そして娘はマダムのもとへ通されるなり、絨毯へ、おそらくは彼女の一年分の稼ぎでも到底足りないだろうそれへ頭をこすりつけ、懇願した。
「もう一度あなたの下で働かせてください」
 その顔には見覚えがあった。誰であろうマダムその人が、かつて男と添わせるために足抜けを見のがしてやった娘だ。もともと夜の仕事には向いていない、優しすぎる性格だったから、残り少ない借金は帳消しにしてやった。今頃どこかで幸せに暮らしているものとばかり思っていたが、運命は娘に茨の道を歩ませたがっているようだ。
「男はどうしたね」
「病で亡くなりました」
「それで食うに困ったってとこかい。言っておくけれど、おまえは私の顔に泥を塗りに来たんだよ?」
「存じております。許してくれとは申しません。それでも、それでもお金が必要なんです」
 娘はとつとつと語った。病身の夫を介護するためにろくな仕事に付けず、足抜けの際にマダムから手渡された蓄えは砂の城のように消えてなくなったこと。夫を亡くしても、満足に葬式も出してやれず母と二人、むせび泣いたこと。そのただ一人残された身内である母が、夫と同じ病に倒れたこと。首が回らず借金へ手を出し……あとはもう坂道を転がり落ちるように。
 よくある話だ。マダムは水煙草をくゆらせながら娘の白い肌を見た。血色はよくない。満足に食事もとれていないのだろう。
「脱ぎな」
 マダムが言い捨てる。娘の瞳に決意の光が灯った。下着ごと服を脱ぎ捨て、全裸になる。形のいい乳房がまろびで、痩せていながらもしなやかさを残した下肢が露わになる。
「……多少とうは立っているがまだ売れるね」
 娘は緊張の糸が切れたのか、涙にくれながらありがとうございますとくりかえした。
「衣装代と化粧品、それから芸事、毎月きちんと取り立てるから最低でもその程度は稼ぐように」
 娘は服をかき集め、深い謝意を表した。身一つでやってきたにも関わらず、売り物として客の前へ出れるように準備までしてくれるのだ。これから苦界へ身を投じるのに、紐がついているのといないのではまるで安心感が違う。
「ところで」
 マダムは水煙草の吸い口を置いた。
「たかが金貸しにしちゃずいぶんとヤンチャしてるようじゃないか。おまえの身の上、もう少し聞かせておくれ。こちとら『そして幸せに暮らしました』には飽き飽きしてるんだ」

●とある娼館にて
「本日のマダムはずいぶんと楽しそうでいらっしゃいましたわ」
 我が事のように沁入 礼拝 (p3p005251)は微笑んだが、シラス (p3p004421)はわかりやすく口をへの字にした。
「あれだろ? シマで何か揉め事が起きていて、そいつを叩き潰そうって腹なんだろ?」
「御明察」
「穏やかじゃないわねぇ」
 両足を組んでテーブルの上に乗せていたコルネリア=フライフォーゲル (p3p009315)が、モスコミュールのグラスをとんと置いた。
「礼拝が世話になってる相手よね? 詮索はしないでおいてあげるわ」
「ええ、そうしていただけると話が速くて助かります」
 溶け落ちる直前の蝋のような笑みを浮かべ、礼拝はゆるゆると話し始めた。
「アイデモリー銀行の支店がこの近くにできたことをご存じ?」
 シラスがうなずいた。
「貴族のボンボンが支店長やってる店だろ? いい噂も悪い噂もとんとんの、まあ、フツーのところだな、表向きは」
 裏は? と言外に問うと、礼拝は深い湖のような瞳をシラスに向けた。その気もないのにシラスの胸が高鳴り、彼は動悸をジンジャーエールと一緒に飲みこんだ。
「シラス様は茹でガエルのお話もご存知です?」
「鍋の中にカエルを入れて、水からゆっくりと温度を上げていけば、カエルはきづかずに茹で上げられて死んでしまうって話だろ」
「あれはただの与太話です。カエルは温度変化に敏感ですから、すぐに気づいて逃げ出します」
「そうなのか?」
「だけどもしも鍋に蓋がしてあったら、どうなります?」
 そんなの、結論はひとつしかない。
 シラスとコルネリアは視線を合わせた。礼拝のまどろっこしい言い方はいつものことだ。コルネリアはグラスに口をつけ、不機嫌そうに眉を寄せた。
「逃げるに逃げられない相手には、法外な借金を背負わせてる……ってところ?」
「でもおかしいじゃないか」
 シラスが首をひねる。
「金貸しってのは長く細く搾り取るもんだぜ。焦げ付いちまったら原資の回収もできないだろ」
「ええ、ですので、そこはあちらもよく存じてまして、お鍋の蓋を開けたら洒落たお皿が待っているという寸法です」
「洒落た皿ぁ?」
 コルネリアがわざとらしく語尾を上げる。
「一度は身売りから足抜けした女が、頭を下げてまでもう一度働かせろと言いたくなるような未来をご用意してるわけ? ああ、待って待って、当ててみせるから。そうね、被害者、っつーことにしましょ、今回は。その子には病気の母親が居る。ぶっちゃけこいつは何の役にも立たない、当然金も用意できるわけがな~い。稼げそうなのはまだ若くて身寄りがないに等しい被害者のみ。元が花売り娘だから、悲惨な境遇にはある程度慣れてるはずよね。そんな子が目の色変えて娼館へ自分を売り込みに来るような緊急事態……となるとー……」
 グラスをカラにしたコルネリアは得意げに自分の推理を披露した。
「奴隷として売られる、とかぁ?」
 礼拝は芸をした犬の頭を撫でるように楚々と拍手をした。
「なるほど、それなら貸した金も回収できるな──っていいわけあるかボケ!」
 シラスは毒づくとジンジャーエールをあおり、むせた。礼拝は、なれた仕草でおかわりをつぐ。
「べつに誰が何をしようとかまわないと思うのです。貴族の御子息が奴隷売買をしていようと。ただ、場所と相手が、さらに言うならば運が悪うございましたね。マダムの御威光のもとで、元が付くとは言えマダムの商品へ、手を出そうとしているのですから。それに……」
 礼拝はゆらゆらと脚を揺らした。
「既に何名か、姿を消した娘が居るのです。ええ、もちろんマダムの息がかかった子です。このまま放置すればマダムの御威光に影がさすのは必至」
「げほっ、げほ。で、マダムはなんとおっしゃってらっしゃってくらわっしゃってんだよ」
「方法は任せると。ただ……」
 礼拝は立ち上がり、窓を開けた。くもりガラスに隔てられていた景色が顕になり、あでやかにほころびはじめた風が流れ込んできた。艶めいた髪が流れるに任せ、礼拝は言葉を続けた。
「外つ国では、春を祝してたいへん豪華な『焚き火』をするのですって。屋敷をまるまる焼くようなおおがかりな……」
 へえとコルネリアは口の端をあげた。
「春の祝祭なら『飾り付け』も要るんじゃない? ケチャップましましで」
「まあ、素敵なご提案ですこと。きっとマダムも納得されます」
 そのためにはあと少し人手を集めませんとねと、礼拝は薄い唇で笑みを形作った。寒気がするほどにうぶな笑みだった。

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

春だねー!
日々の温度差で風邪ひきました(真顔)

●やること
1)マダムのメンツを保とう
1-1)『焚き火』をしよう
1-2)『飾り付け』もしよう
1-3)奴隷は助けとこうね

●戦場
『十』型の一見すると2階建ての屋敷です。屋敷内ではR3以上のスキルには威力・命中などのペナルティがかかります。
子飼いの警備兵がおり、建物のどこかに支店長がいます。支店長の居る部屋だけはRによるペナルティはかかりません。
深夜です。しかし建物には煌々と明かりがついており、視界には困りません。
また、最終的にそんなことはどうでも良くなるでしょう。

●エネミー
支店長『コンラウス・アイデモリー』
貴族の子息です。わるいこといっぱいしてます。膝の上ににゃーが居てワイングラスを傾けてるような人物です。周囲にはタイやヒラメが舞い踊っています。
そこそこ強く、回避と抵抗が高いのが特徴で、逃走の危険性があります。
・ディスペアー・ブルー相当の攻撃
・ピューピルシール相当の攻撃
・光翼乱破相当の攻撃

警備兵・A
4人が一組になって、屋敷を巡回しています。数は不明です。
・バウンティフィアー相当の攻撃
・豪鬼喝相当の攻撃
・ぽこちゃかパーティ!相当の攻撃

警備兵・B
12人 コンラウスの警備を担当しています。CTが高めなのが特徴です。
・名乗り口上相当の攻撃
・SADボマー相当の攻撃
・剣魔双撃相当の攻撃
・天下御免相当の攻撃

奴隷
5人
タイやヒラメです。戦闘能力はありませんが、戦闘が始まれば逃げ惑うので足手まといになるでしょう。
無事連れ帰ることができればマダム・フォクシーが保護しますが、なにかやりたいことがあればどうぞ。

●その他
『焚き火』による延焼は発生しません。

  • <ヴァーリの裁決>花を召しませ完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
シラス(p3p004421)
竜剣
※参加確定済み※
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
沁入 礼拝(p3p005251)
足女
※参加確定済み※
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
※参加確定済み※
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ

リプレイ


 小高い丘の上から、一行は街を見下ろしていた。
 そこからでもわかる、陽光に輝く白亜に金の縁取りの、一見して貴族趣味とわかる十字型の建物、そこが今回のターゲットだ。
「普通に家業に専念しときゃ良かったものを……」
『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は哀れみとも諦めともつかない声音でぼそりとつぶやいた。
 裏事情など彼の知ったことではない。ナワバリ争いがどうした、メンツがどうした。そんなせせこましい事に興味はない。だがコンラウスはやり過ぎたのだろう、ということだけは分かる。
(調べる頭がなかったのか、そんなもん気にする必要もないと思ってたのか。どっちにしろ下調べしておくべきだったとは思うがな)
 クリアリングは戦闘の基本だ。商売という盤上で戦うならば、そのくらいはしておいてもらいたかったものだ。
「まぁ大人しく授業料払って立ち退いてもらうよう頑張るか」
「高い授業料になりそうですね。土地に建物、ついで銀行業務に関する書類と金融資産一式、さら言えば信用と醜聞。これらをもみ消し、損切をするだけでいくらかかるのでしょう。いやいやいや、想像するだけで楽しい……おっと失礼、残された方々の心中察して余りあります」
『悪徳貴族』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)の言葉へ、マカライトはうっとおしげに瞬いた。
「アタシはアンタを信用しなくちゃなんないってのが気に障る」
 ちょうど『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)が彼を代弁してくれた。
「そうおっしゃらずに、仮にも仲間ではないですか。全身全霊協力させてもらいますよ」
「そう言う事を言う奴にかぎって後ろから撃つもんさ。ローレットのハイ・ルールは知ってるよな?」
「もちろんですとも」
「アンタの良心とやらがまだそれを覚えてることを祈ってるから」
「まあまあ。正直は美徳ですけれども、時と場合を選びますよ」
『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)がコルネリアとウィルドの間へ割って入る。そのまま微笑を浮かべてゆったりと告げる。
「春も近くなってきました。祝祭をあげるのにはよい季節ですねぇ。……と、建前はまあこの程度で。いかなる背景があろうと出る杭は打たれる、それが歪に刺さっていればなおのこと。そこには正義も悪もないのでしょう」
「おかえり」
「どうだった?」
『黒の猛禽』ジェック・アーロン(p3p004755)と『鳶指』シラス(p3p004421)が素早く応じる。
「外から見た分には、ジェックさんやコルネリアさんの銃が活かせそうなほど広い部屋はなかったですねぇ。二階は企業やVIP用の応接室が多かった印象です。警備員の数は一階よりも二階に集中していました。中へ入ってみたら、一階は受付まで、二階は前面立ち入り禁止でしたが……」
 正純はふしぎそうに首をひねった。
「事前情報によると広い部屋があるという噂だったのですけれど、それらしい部屋がなかったのですよね。情報屋さんたらしくじったのでしょうか」
「いいえ、事前情報通りですよ」
 草を踏み分け、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)と『足女』沁入 礼拝(p3p005251)がやってきた。寛治は各員へ会釈をした後、結論を先に述べた。
「地下です。広大な地下室があるという情報を地元民から聞き出しました」
「地下……。ふぅん。建物の形に左右されない場所だね」
 ジェックの相槌に寛治もうなずく。
「左様でございます。おそらくは地下へ警備兵で陣を敷き、奴隷売買の場につかっているものと考えられます」
「よく聞き出せたね」
「たいした手間ではございません。珍しい形の屋敷ですから、私のクライアントが造りを知りたがっている旨をお伝えしたまでです。問題は地下への入り口ですが……これはコンラウスの居室が怪しいと睨んでおります」
「まあ寛治様は見た目どおり鋭いお方ですのね。私の成果などこれっぽっち」
 礼拝は白魚のような手を広げ、無骨な鍵を一同へ見せた。
「この鍵は?」
 シラスが問うと、礼拝はとろりと笑った。
「裏口の鍵です」
「すごいな、アンタ、お手柄じゃないか。どうやったんだ?」
「いいえ、私めにできることなどたかが知れております。ただ使用人の方へ丁寧にお願いしただけです。『コンラウス様とお近づきになりたい』『できればあなたとも』と……」
 礼拝は微笑む。しとどに蜜で濡れた花がそこにあった。
「そんな思わせぶりなことを言われてぐらつかない男はいないな」
 シラスは感心半ば、あきれ半ばといった顔で礼拝の勝利品を手に取った。
「決行は夜。一気呵成に、だ」
 冷たい鍵の感触が妙に生々しくて、シラスはぞっとした。今から始まるのは、きっと、ただの殺戮。


 真夜中だというのに煌々と明かりがついている。まるで野犬に怯えて焚き火をしているかのように。
「こちらです」
 礼拝が先頭になって進み、裏口までたどりつく。灯りに照らし出された白亜の城はやけに綺麗だった。
「趣味の悪い屋敷ねぇ。見てくれも大事なんだろうがこんなとこ住みたくねぇわ」
 コルネリアが毒づき、火炎放射器付きガトリングを腰だめにかまえる。シラスが皆を見回す。
「さあ、ここから先は地獄だぜ。ブルってるやつはいないよな?」
「冗談。イイ趣味してる」
 ジェックが吐き捨てた言葉をウィルドがつないだ。揉み手せんばかりの上機嫌で彼は言う。
「いやはや、悪徳貴族の『飾り付け』ですか。怖い怖い……」
「さっさと終わらせてしまいましょうか」
 正純が身を躍らせた。裏口がこじ開けられ、近くの警備兵がうろたえる。なだれこんだイレギュラーズの攻撃が乱れ飛ぶ。
 シラスは手近にいたひとりの警備兵の胸倉をつかんだ。
「コンラウスの部屋はどこだ!」
「い、言えるかよ!」
「なら死ね!」
 至近距離からのシラスのアッパー、顎が砕けた男をマカライトの剣魔双撃が襲う。ガンブレイズバーストが男の首を刎ねた。
「次行くぞ!」
 気を吐くシラスにうなずき返し、マカライトは無言のまま次の対象へ走り寄る。
「ひっ!」
「どうした。こんなところに居るから覚悟はできてると思っていたが」
 男は命乞いもできなかった。袈裟切りにした警備兵の胴を蹴飛ばし、マカライトは援軍へ放り込む。
「シラス、透視の結果は?」
「この辺は外れだ! 奥行くぞ!」
「右棟の突き当りは金庫です。無駄足かと」
 寛治が言い添える。
「となると、正面は来客用入口だから、左だな!?」
 シラスは警備兵へ強引に飛びかかり、空中で回し蹴りを放った。胸へ強打を受けた警備兵が怒りに任せてシラスを攻撃する。それを見事な体捌きでかわし、シラスは床の上を転がり跳ね起きる。
「雇われ何だろうがこんなところで死ぬなんざ運がなかったねアンタ達」
 コルネリアが仁王立ちになり、ガトリングを扇状にぶっ放す。足元を狙われた警備兵が次々と倒れていく。
 正純がそのうちのひとりの顔を蹴り上げ、再度問う。
「コンラウスの部屋はどこです?」
「言えねえ、殺される!」
「ならすこしそれが早まるわけですね。おやすみなさい」
 周りの兵士ごと、ぞりりと首が刈りはらわれる。
「いと気高き北斗よ、この光捧げたもう。死を兆すななつ星よ、なにとぞ受け取り給え」
 短く祝詞を唱え、星の輝きをまとった正純は、そのまま亡兆星を連打し警備兵へ致命的なダメージを与えていった。右肩がずきりと痛むのは星々との絆の証、高揚する。この身へ星が降りてくる。返り血で血まみれになりながら、正純はうっそりと笑んだ。
 左棟へ近づくにつれて警備は厚くなっていった。
 45口径は相手を逃がさない。ショルダーホルスターから抜いたオートマチック、寛治の一撃で残党の頭が吹き飛んでいく。ヘッドショットを決めた寛治は、だからといってそれを得意げにするわけでもなく、淡々と次の獲物を処理していく。
「申し訳ありませんが香典はご辞退ください」
 なにしろキリがありませんのでなどと、うそぶきながら。
「チクショオオ!」
 警備兵の起こした剣圧が寛治に迫る。
 パキン、音高くそれがひび割れ、警備兵は喉を撃ち抜かれていた。ジェックの援護射撃だった。気配を断っていた彼女が物陰から飛び出し、射線を合わせて警備兵の急所を狙ったのだ。
「お見事」
「まあね」
 短く言葉を交わすと、ふたりはざっと道の両脇に分かれ、柱を遮蔽物にして警備兵の攻撃から逃れた。ジェックは床めがけて一撃を放つ。天井へ、それから壁へ飛んだ跳弾がまた新たな犠牲者を増やした。
「残念だったね、至近距離だろうと外さないよ」
 遮蔽物へ隠れたまま一方的に攻撃を続ける。
「敵はコンラウス様の部屋が目的だ。バリケードを築け!」
 わらわらと集まってきた警備兵が近くの部屋の扉をあけ放ち、机や椅子で簡易なバリケードを作る。しかしそれは……。
「この奥でまちがいないというわけですのね」
 礼拝が楽し気にスカートのすそをつまんだ。そう、その行動は目的地を明らかにするも同然だった。警備兵たちは守りを固めるつもりで自らの思考を赤裸々にしてしまったのだ。長いスカートがあるかなきかの風で揺れる。そのまま礼拝はくるりと回ってお辞儀をした。クェーサーアナライズの効果が仲間の士気をあげる。
 それを受けたウィルドが突進した。
「あなたがたのささやかな砦を崩す、破壊槌となりましょう」
 バリケードへ向けてバックハンドブロウを叩き込む。まっぷたつになった机やひしゃげた椅子と共に警備兵の体が宙に舞う。後方から礼拝の援護を受けてウィルドは暴れまわった。猛獣のようなその勢いを止められる者は誰一人としていない。三度バックハンドブロウが炸裂しかけたところ、兵士が苦し紛れに放った豪鬼喝によって後退。ウィルドはその巨体相応の精悍さをもってこれを受け流した。ウィルドがあけた穴へコルネリアが攻撃を集中させる。動くに動けなくなった警備兵たちを、寛治やジェックが狙い打つ。
 銃撃の隙間を縫い、正純とマカライトが動いた。それぞれ最大の奥義でもってバリケードを狙う。もとより彼等にとってあわててつくりあげたバリケードなど砂の城に等しい。障壁は破られ、丸裸になった警備兵たちは地へ転がった。


「臭う、臭う、臭いますねえ」
 コンラウスの部屋、すなわち支店長室へ入るなりウィルドはくつくつと笑った。
「悪徳と退廃の腐臭、若い女の柔肌、後ろ暗い美酒と山海の珍味、敵意の軍靴。私の鼻はごまかせませんよ」
 大股で歩いていった先で、ウィルドは支店長の執務机から椅子を乱暴に抜き取った。
「ここですね」
「……? なにもないじゃないか」
 シラスの言うとおり、机の下は豪華な絨毯が敷かれているのみで、地下への入り口らしきものはない。
「目くらましの魔術だ」
 マカライトが一歩進み出ると、その場に立った。じゃりんと鎖が鳴った。有機的な動きでめきめきと膨れ上がり絡み合い、黒龍の顎と化す。
「こういうものはな、さくっと壊しちまうのが一番なんだよ」
 大きく口を開いた黒龍がマカライトの指し示すまま絨毯へ食らいついた。猛烈な破壊音がたつ。もうもうと土煙があがるなか、一同はそこに地下への階段を見た。マカライトを先頭にして一気に駆け降りる。そこは地下とは思えぬ快適そうな広い部屋だった。
 地上よりもさらに豪勢な絨毯が敷かれ、壁際には警備兵がずらりと並んでいる。そして裸に剥かれた奴隷たちで、人間椅子を作らせ、そこにふんぞり返っているのがコンラウスだ。淡い金髪に堂々たる体躯を包む白スーツ、彼はフットレストにされた少女を踏みつけ、じろりと侵入者を見やった。
「イレギュラーズか」
「派手に動き過ぎたねコンラウス。所望は飾り付け用の『飾り』だとさ!」
「どこの誰かは知らんが、俺の精鋭を前にしてよく言えたもんだ」
 首を落とせと言外に告げ、コンラウスはさらに深く人間椅子へ座りなおした。
「余裕かましてられるのも今のうちだ!」
 コルネリアはガトリングを構えた。福音砲機Call:N/Ariaは持ち主の生命力を吸い取りだした。緑に輝くマグネタイトが機構を流れ血肉となりて滑らかに動かす。火炎放射の青い炎が警備兵を襲い、ついで銃弾が雨あられと降る。コルネリアは奴隷たちを睨みつけた。
「死にたくなけりゃ立て、生きることを諦めてねぇなら今は脚を動かす事だけを考えな! 意志がなけりゃここで終わるだけだ!」
 その声を聴いた奴隷たちの瞳に光が灯った。コンラウスの下であがき、抜け出そうとする。コンラウスはその尻へ鞭を入れたが奴隷たちは不自由な足枷をものともせず動き回る。とうとう玉座は崩れ、コンラウスは床へ降りたった。
「いい子ですよ。部屋の隅に固まっていてくださいね。助かりたいのならば、危険がない限りは動かず大人しくしていてください。ね?」
 微笑みを浮かべたまま正純が奴隷を誘導した。銀色の矢を天へ目掛けひょうとうがつ。それは天井付近で星々の煌めきの如くバラバラになり、自分へ襲い掛かってきた警備兵を巻き込んで苦痛の雨へと変わった。
「この祈り、明けの明星、まつろわぬ神に奉る」
 まだ動いている警備兵めがけて一矢。左目を射抜かれた兵士はぎこちなく動いた後息の根を止めた。
「なぜイレギュラーズが俺を襲う」
 コンラウスが味方もろとも背後から魔力銃を撃ち、攻撃を始めた。
「ここら辺の事情、知らなかったのか?」
「誰の指金だ!」
「ニュースソースは秘密でね」
 マカライトはこんどこそ呆れてためいきをついた。ウィルドが邪魔な警備兵へ割って入る。
「背後から味方を撃つとはねえ。ふふっ、そんな相手に仕えているのですから、ここで終わることもじゅうぶん織り込み済みでしょう? 遺族年金は出ますかね? あなたがたのご家族はどんな思いをするのでしょうねえ」
「挑発だ、のるな!」
 コンラウスの声とは裏腹に、目を血走らせた警備兵がウィルドへ殺到した。
 その隙を縫い、透明な悪意の弾丸がコンラウスをうがった。
「がっ!」
「ごめんあそばせ。ご挨拶が遅れましたわ。初めましてコンラウス様、私と踊ってくださるかしら」
 しゃらしゃらとスカートから零れ落ちる光は味方の士気をあげるもの。礼拝はコンラウスの前に陣取り、優雅に礼をすると手を差し出した。その手をコンラウスがはたき返す。
「せっかくの美女からの誘いを断るなんざ、礼儀がなってないな」
 シラスが背後へまわりこむ。思わず振り向いたコンラウスの顔面間近で猫騙し。礼拝とのコンビネーションが決まり、ふたりの間から動くに動けなくなったコンラウスが怒りのあまり吠える。
 寛治がステッキ傘から銃弾をばらまきながらコンラウスへ向けて説く。
「怖いお方に目をつけられたものですね。同情いたしますよ。なまじ戦う力がある分、奢ってしまったのでしょうか。しかしどうやらそれも張りぼてだったようだ。上に立つものはいかなる時も悠然としていなくては」
 間断なく降り注ぐ弾の破壊力はすさまじいものだった。警備兵が銃弾の雨に打たれて踊る。そのうちの一体が奴隷たちの目の前まで弾き飛ばされてきた。奴隷たちが頭を抱えて悲鳴をあげる。
「味方には当てないさ。大丈夫、アタシの腕を信じて」
 びくびくと痙攣する死体を蹴飛ばし、ジェックは眉間を叩いて集中する。そしてコンラウスごとまとめて鉛を撃ち込みまくる。コンラウスは逃げに入ったが、礼拝とシラスがそうはさせない。
「くそがああ!」
 礼拝とシラスを排除せんとコンラウスは魔力弾を床へたたきつける。だがそれもコルネリアのヴァルキリーオファーで耐えしのがれ、ジェックをはじめとする仲間たちの攻撃が集中する。最初に引き裂かれたのは、手首。そして足首、最後に残った喉へ、寛治の45口径が食いついた。


『縄張りで寛ぐ豚は旨い』
 血のりで塀へそう書いたマカライトは『絵具』を塀の中へ放り込んだ。
「おーよく燃えるもんだ」
 白亜の城はすでに業火へ包まれていた。中央のもっとも高い屋根へは、寛治がコンラウスの死体を逆さに磔てある。
 裸の奴隷たちへ警備兵からはぎとった服を渡しながら、ジェックは口を開いた。
「好きにすればいいと思うよ。キミたちの人生だし。まぁ。今度は精々騙されないように気をつけな」
 穴だらけで血まみれの服。それでもないよりましだと娘たちはそれを身に着ける。
「自立したいなら俺の領地へこいよ。借金はなんとかしてやるからさ」
 シラスは打って変わって優しい瞳を娘たちへ向けた。
 娘たちは話し合い、やがて5人ともシラスの領地へ引き取ってほしいと願い出たので、シラスは大きくうなずいた。
 礼拝は陶然とした目で屋根の上のコンラウスを眺めている。
「ああ、可哀想な方。折角事業が軌道に乗り出したのにこんな風になってしまうなんて。せめて盛大に送り出して差し上げましょうね」
「あばよコンラウス。先に逝って待ってな。堕ちる所は同じさ」
 コルネリアが踵を返す。
「そろそろ人が来ます。退散しましょう」
 正純がころりと笑った。
「ウィルド様、そちらは?」
 寛治が膨れ上がったポケットを目ざとく見つける。
「手間賃ですよ。ええ、盗賊に襲撃されたという建前があった方が警邏も納得しやすいでしょう。私利私欲のためではありませんよ」
 ウィルドは笑った。業火の照り返しを受け、とてもそうは見えなかったが。

成否

成功

MVP

ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

敵は全滅しました。さすがやでえイレギュラーズ。
MVPは私利私欲に満ちたあなたに。

またのご利用をお待ちしています。

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