シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>余波の毒は
オープニング
●奇しき薔薇の提案
その薔薇が『そこ』に咲いているのは随分と可笑しな心地であった。
ローザミスティカ――幻想国における治外法権と呼ばれた大罪人を収容する絶海の孤島。監獄島と呼ばれたその場所の実質的な支配者である女だ。
本来の名をベルナデット・クロエ・モンティセリという女はフィッツバルディ公の姪である。モンティセリ辺境伯夫人として知られる彼女は貴族殺しの罪で監獄島に投獄されているはずであった。
「ここに居るのが可笑しいって顔かい?」
「外で会えて喜ばしいという顔――って言えば?」
ローザミスティカ様、と呼び掛けた『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)に彼女は小さく笑った。
世界各地の商人達が、幻想の裏市場で大規模な奴隷売買を始めた話で態々『外』へと一時的に出されたというローザミスティカ。
奴隷商と一部の貴族が手を結び、裏で暗躍しているというならば『貴族』を叩く事が先決だ。
荒くれ者の流入や治安の悪化など悪人と分類されるローザミスティカからすれば関係もなく、国難だからどうしたともなるが『一時的にでも外に出ることを赦された』のならば少しは仕事を行っておくのも吝かではない。
そろそろ新しい刺激も欲しい。故に、幻想王国でも特に『面白いくらい悪人と扱われる領主』であることほぎを呼び出したのだろう。
「アンタとは真逆に善人として呼び声高い男がいてね。アタシは昔から嫌いだったんだけれどね。
シアトル男爵。まあ、気障ったらしい男だよ。ダンスに誘われても脚を踏んづけてやったこともある。
今日はソイツを殺して貰おうと思ってね。何、普通に悪人さ。裏ではって言葉がつくけどね」
ローザミスティカのその物言いにことほぎは成る程、と頷いた。
善人として名高い領主であるというシアトル男爵。それは『民にとっては愛される』相手であり、それを殺すというのは『イレギュラーズが悪人』になるという事だ。
「勿論、悪名も付いてくるさ。何せアタシから仕事を承けるんだ。それでいい話な訳がないだろう?
裏じゃァ、随分と黒い男でね。黒魔術にハマったなんざ言って殺しただとか、殺し合う様子を見て楽しんだとか、クソッタレさ。
……けど、領地は落ち着いてる。領民達にとっては良い領主なんだろうさ。人間なんざ裏表があるもんだからね」
「そんなクズでも好かれてるヤツを暗殺するから秘密裏に行えって事だろう?」
ことほぎにローザミスティカは大きく頷いた。
事は簡単だ。奴隷を大量に購入して何に使用するかを選別しているというシアトル男爵の邸に乗り込んで首を取ってこればいい。
護衛の騎士など諸共殺してしまえば良い。だが、手練れであり容易に倒せるとは限らない。
シアトル男爵の遺体はどのようにしても良いが、彼の机の引き出しから印をとってきたならば殺したと見なすとローザミスティカは言う。
「表から糾弾しようが簡単に逃げる相手だ。そりゃあ、みぃんな手を焼いてきただろうね。
でもアタシ達は違うだろ? 悪には悪さ。殺すんだから、殺される覚悟くらいあるだろうよ。勿論、アタシだってね」
いつ首を取られても可笑しくない立場だとローザミスティカはほくそ笑んだ。
奇しき薔薇は美しく咲き誇る。安全地帯からイレギュラーズ達に仕事を出すんだと薔薇のコインをいくつか投げて寄越して。
「追加報酬は払おう。ついでに叔父上――いや、フィッツバルディ公が王様の我儘とやらを叶えてやろうってんだ。
アンタ達のお望みのブレイブメダリオンってのもアタシは呉れてやる事ができるさ。
さあ、殺してきておくれ。選別されてる奴隷にゃ、勝手にすれば良い。アタシはそいつらには興味が無いからね」
- <ヴァーリの裁決>余波の毒は完了
- GM名夏あかね
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月26日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「手際の良い貴族領主も監獄島の主には敵わんか……こわいこわい」
肩を竦めた『こむ☆すめ』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)はやれやれと言わんばかりに頭を振った。監獄島の実質的な主として君臨する美貌の人は、表だっては罪を問えない二つの顔を持ち合わせた男の殺害をイレギュラーズへと持ち掛けた。
「こーゆー裏表のある貴族様は、そのうち依頼主になってくれそーな気もするが。
ローザミスティカ様のお呼びとあっちゃ、力を貸さねェワケにゃいかねェなァ」
そうした人間がビジネスの上では友好的になる事が多いことを『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は知っている。一歩間違えば、死に直結するような悪業、手を貸したとなれば一蓮托生と言わんばかりに仕事が舞い入るからだ。だが、此度は『ローザミスティカ』直々の依頼だ。
残念ながら、ことほぎのビジネス相手にもならず、マニエラも世話になることはないだろうと領主館を一瞥する。先にローレットが飛んできてその首を取られるのだから、此程に『外に領民が歩き回り愛溢れる世界』であるのが残念な程に。
「……いやはや、まさかローザミスティカ……ローザさんからの依頼を『外』で受けることになるとは。
こんな風に監獄島から出られるなんて、大物と繋がりがあるという噂は本当でしたか」
それも血縁であるというのだから『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)はそれ以上の言葉が出なかった。監獄島に『投獄され』てイレギュラーズになるまでの間、彼女を見てきたが『路傍の石』と『大輪の薔薇』では境遇が違うのは頷ける。仕事へ往こうとしたチェレンチィをまじまじと見遣った後、「へえ」とローザミスティカが意味ありげに笑ったその表情の真意はまだ悟らぬままに。
「どこの世界にもワルイオトコってのはいるもんだな。『人間とは善悪何方の貌も持ち合わせるべき』ねぇ。
……多面性を持つことは否定しないけど『~べき』はどうかな。貌が増えりゃ増えるだけ敵も味方も増えるし、どれか一つを選ばなければならない場面が来たとき、はたして何かを選び取れるかな?」
『漆黒の堕天使』マキシマイザー=田中=シリウス(p3p009550)は小さく笑みを浮かべた。愚を重ねて天界を追われた神の使いは人間とは斯くも愚かなものなのかと小さく笑う。
「ま、人間の価値観なんてよく分からねぇし、堕天した俺が言えることじゃないんだけど☆」
――生まれてまだ幾許か。天使にとって人の心を理解するなど難しい。
行き交う民衆達は誰もが頬を赤く染め、幸せそうである。その光景だけを見れば、此の地には悪行など存在して居ない。治安の良いシアトル男爵領。調べれば、ローザミスティカの入っていたとおりの悪行が両手の指では数え切れないほどに。『鳶指』シラス(p3p004421)は「因果応報だ」とだけ呟いた。
「ええ。良き領主ではありましたが、善き人ではなかったという事ですね。それでは仕方がありません。全ての因果に応報はあるもの」
この領地に限っての民の笑顔を守ると考えたならば、手出し無用であろうが彼が善き人でないというならば『挫けぬ軍狼』日車・迅(p3p007500)は仕方がない事であると断言した。
「領民以外は好きに殺めてよい、という理屈は好みではありません。
領民に豊かな生活を与えるのが良い統治者とは思いますけれど、それも程度問題というものでしょう。――……せめて彼の後任も、良い統治者だといいのですが」
『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)の呟きに「どうだろうねえ」と『黒武護』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は肩を竦めた。
この国は腐った果実だ。熟した期間が長すぎた。内側からじわじわと腐り墜ちていく甘い果実の香りに蠅が集るのは常なる事で。ムスティスラーフは善悪については何も言わなかった。イレギュラーズとて悪行に手を染めることがある。
式神が歩いて行くその背を見送りながらマニエラは聳えた領主館を見詰めていた。何処からどう見たって幸せが蔓延ったこの空間に、どうして悪が存在して居るか。それも、人の業だというならば救いのないことである。
シラスは空き家であることを確認し、指先に炎を灯した。迅の式神が火を付ける。人知らず付けられた炎が燃え盛り領民達が「火事だ!」と気付き騒ぎ始める.その様子を横目で確認し、屋敷の裏口の扉を摺り抜けた瑠璃がゆっくりと扉を開いた。
●
喧噪とは離れたやけに静まり返った空間で神威六神通を駆使した瑠璃は仲間達を招き入れてから扉を閉める.人の気配が近い。
「地下室に進もっか」とムスティスラーフが笑みを浮かべれば、ことほぎは「……なんだ至れり尽くせりだな! 周囲の警戒ぐらいしかやることねーじゃん!」と快活に笑みを浮かべて見せた。
「ええ、護衛以外の使用人は気を失って貰います。命を奪う必要はありませんから」
「オーケー、んじゃ地下室まで行きますか!」
ことほぎの指先が屍檀楼を掴み、とんと叩く。マニエラは「ちょっとだけ良い?」と前進む瑠璃へと声を掛けた。
「ほら、貴族の館には一つや二つ隠し通路が繋がってるってもいうしね? あったら潰すだけだよ。まぁ簡単に見つかるなら偽物の可能性もあるけど」
出口付近に繋がる通路があるものでしょ、と指させばシラスが「確かに空洞だな」と囁く。壁の向こう側の通路が何処に繋がっているかは知れないが、これが在ることを把握しているだけでも随分と違う。迅の式が一先ずその前で待機をするようにちょこりと座ったのを確認し、一行は領主の執務室へと向かった。
「それにしても、使用人達から隠れながらも進めるものですね。余程隠しておきたいものが多いのか、執務室に近付くほどに人の気配が減る」
チェレンチィの呟きにシリウスは「ワルイオトコだよ」と小さく笑った。民衆を欺くための火は窓から覗けば未だに盛る。領民達のパニックを伺うに、どうにもそうしたハプニングには慣れていないようである。
(……ワルイヤツでも、彼等にとっちゃカミサマみたいな存在だったってことかな)
シリウスは困ったような笑みを浮かべてから、仲間の背を追いかけた。
重厚な扉を前にして、瑠璃は「此処ですね」とそう言った。シラスが確認すれば内部には執務用の机が一つ、資料棚など業務用に心地よさそうな空間が存在して居る。来客用のテーブルなどは存在して居ないのか、男爵にとって、プライベート空間であることが窺えた。
言葉なく、瑠璃が扉を摺り抜ける。鍵を内側から外し、仲間達を招き入れた後、直ぐさまに扉を閉めた。その前と迅とムスティスラーフが家具を運び『通常の出入り口』を封鎖した。執務室からの脱出口でも存在して居るかも知れないが――念には念を入れておくべきだろう。
「執務室って普段から誰でも入れるのかどうかはわからないけど……まぁ見える範囲に証拠は置かないだろうけど、取り敢えず見える範囲は確認してみるか」
マニエラは資料棚やテーブルを確認しながら小さく呟いた。ことほぎが「机に鍵が掛ってんなぁ」と小さく笑えば、「リスクにも対応する狡い人間なのでしょうね」とチェレンチィは囁いた。
「其れだけ徹底していても、尻尾を掴まれたらこの処遇だもんな。
……ああ、けどさ、資料はほら、自己満足だよ? どこから買ったのかなーとかなんとなく知っておきたいじゃん?」
奴隷についてとか知れるかも、と笑ったマニエラにことほぎは小さく頷いた。ある程度の封鎖が済んだところで、一行は『地下室』へと下り始める。
かつん、と音を立てた足跡に男爵が「誰だ」と声を荒げる。この場所に『護衛』以外が訪れるわけがない。獣か其れに類するものかと瞳がぎょろりと動いた気配がした。
「――やあ、男爵。お楽しみのところを悪いが死んでもらうぜ」
開口一番、シラスはそう囁いてから護衛の中へと飛び込んだ。長期戦は覚悟の上。護衛達も手練れであろう、油断はしない。
武器に頼ることない裸の掌を握り込む。自己暗示のように極限の集中に至ったシラスの挑発に護衛の男達の瞳がぎょろりと向かれた。
「一体、如何して!」
「『さるお方』からのご命令でねぇ。裏表のあるオトコってのは俺は嫌いじゃないけれど――あの人が言うんだ、『仕方ない』って納得してくれよ?」
魔女が扱う呪いは、意地悪な魔弾。彼女の教えをなぞるように飛び出した其れは悍ましくも這うように男達の身体を包み込む。
傭兵の一人が方向転換したようにコンバットナイフを構える様に領主が絶句したように小さく声を漏らした。
「同士討ちしてくれりゃ楽じゃん? オレの為に争って、ってか!」
「――貴様等……!」
『柔和で優しい笑顔の領主サマ』――そんな物が存在して居ないことをマニエラは知っている。眼前の男の表情を市井の人々に見せてやりたいものだと小さく笑えば、ムスティスラーフは大きく息を吸い込んだ。
「正直、僕らは君をとやかく言えやしない! けど、これだけ言っておくね。君が気に入らないからぶっ飛ばすよ!」
エゴイズムにはエゴイズム。身勝手には身勝手を。そう言う様に言霊が『むっち砲』へと変化する。極限まで吸い込んで――吐く!
緑の閃光は濃く、身を滑り込ませた傭兵が領主の見開かれた目にぎょっと息を飲む。庇い立てたのはあくまで仕事の上だ。それでも此れまでの報酬を貰うためには守りきらねばならないか。
「……やれやれ。研究機材や資料もこんなにも隠して居たのですね。魔術の研究とやらの二次被害が出ても困りますから壊しはしませんけれど、何れ何方かが発見してしまうかも知れませんね?」
くすくすと小さく笑った瑠璃はすらりと射干玉とその名通りの刀身を引き抜いた。刃に宿すのは虹の如く輝く雲。
命奪うことなきその気配と共に風邪のように奔るのはチェレンチィ。男爵の所在を確認し、地を蹴った。気配を消し――疾風の如く。
「生憎ですが、此方も『チーム』で戦っていますから。有象無象の寄せ集め傭兵では太刀打ちできませんよ」
囁きと共に放ったのは音速の殺術。豪運が更なる高みへと頂くように。チェレンチィの刃は決して曇ることはない。元より罪人と呼ばれた自身が人を一人殺すことに途惑う事など在りはしない。
「……くそ、あいつらを捕えろ!」
「は?」
何を言っているんだと迅は男爵を見遣った。「捕まえて贄にすればいい!」と動転し叫ぶ男の声に従うように傭兵達が飛び込んでくる。シラスの頬を掠めたナイフ、赤き血を拭ったシラスが地を蹴って、叩き込む。
「――全てが思い通りに行くと思うな、クズ野郎。
テメーらの腹ん中腐りきってんだろうな、掻っ捌いて中身確かめてやるよ」
シラスの低い囁きその言葉と共にムスティスラーフに施された最適化支援。マニエラはその様子に小さく笑った。嗚呼、男爵は何とも愉快ではないか。こうして支援も行い布陣もバランスが良いのだ。狂ったように弾を撃ち出すだけでは当たりやしないとまだ気付かないか。
「まぁこの程度の人数差なら覆せるさ。主にそこの火力組が頑張って」
「支えることは支援側がだ」
戦闘はからっきしでも『支える』役には適していると。シリウスは星への願いを歌声として天啓のように響かせる。
その旋律の美しさの中でシラスと迅が頷き合った。その双拳密なるは雨の如く、粉砕するスピードと共に護衛が壁へと叩き付けられる。
鳳兵は矜持と共に青き血をたぎらせた。攻防一体の構えを崩すことなく。姿勢は小さく、動作と打撃はコンパクトに。教えに忠実に戦い続ける。
「何が目的だ!」
「……次は何でしょうか?」
呆れ返った瑠璃に気にすることなく男爵は「金か!?」と叫んだ。地にへたり込み傭兵の背に隠れた男の何処に尊敬できる領主の要素を感じられるか。
「金なら出そう! 何なら、お前等を雇った奴等よりも倍額で!」
「……残念だけど、それは無理じゃないか?」
ことほぎが肩を竦めた。誰の差し金か、と問われれば答えることも途惑うほどに大きな存在と。匂わすように微笑んで。マニエラは「まあ、金だけでも無理には無理か」と小さく笑う。
傭兵達を牧コインだ緑の閃光の中ムスティスラーフはふと、男爵の背の向こうに奴隷達が見えるのに気付く。盾代わりか。助けられる可能性は低いと知っている。
「は、そ、そうか。奴隷が欲しいのか? はは、……いいぞ、呉れてやる」
「――違うよ」
割り切らないといけない。奴隷を一人失ったとて、救える命が増えるならそれでいい。ムスティスラーフの囁きと共に、男爵が盾のように掲げた奴隷も巻き込むように瑠璃の雲が包み込む。
ちら、と視線を送ったシラスは『何かをアピールするように』壁の前に立った。勿論、こんな地下室だ。袋小路な訳がないと考えた。護衛連中の数が減れば、隙を付いて逃げ出す手立てもあることだろう。
「裏口に繋がる道を見つけたんだけどさ、用意周到って言うんだろうな。まあ、其れも無駄になっただろうけど」
シラスの囁きに男爵が唇を噛んだ。くそ、と呻くその声に男達の痛みに喘いだ声が降る。
ムスティスラーフは覚悟をしていた。攻撃に巻き込まれたように意識を失った奴隷。それが生きているか死んでいるか男爵には分からない、否、理解しようともしていない。彼にとって奴隷の命など端た雑草と同じだからだ。彼等の攻撃に巻き込まれて奴隷が死ぬ事だって――覚悟はしていた。
(まだ、生きてる……!)
今、救いの手を伸ばせば屹度救える。そんな事を行えば隙を付かれる。ぐ、とその衝動を抑え攻撃に徹し続ける。
チェレンチィは「男爵はどうしますか」と敢て聞こえるように囁いた。
「……貴族殺しのひとりやふたり、今更変わらないでしょうしねぇ」
美しいアクアマリンの瞳がすうと細められる。
男爵が「ひ」と息を飲んだその声にも気を止める事無くチェレンチィは一歩踏み出した。見下ろせば、何とも殺し甲斐のなさそうな優男が腰を抜かせている。怯えに歪んだ表情をまじまじと見下ろしたチェレンチィの傍らで迅は「因果応報という言葉があるのですが」と日常会話を行うように微笑んだ。
「悪因苦果と、言われるそうですよ。悪事から生まれるのは苦しみしかない――ね?」
迅の言葉に男爵が叫んだ。助けてくれと怯えるように。マニエラはやれやれと肩を竦め、ことほぎは「小物じゃねぇか」とぽつりと呟く。
「慈善家の『結末』と言うには何とも――……」
「まあ、それもこの男の人生だったって事だろう?」
マニエラに瑠璃は「まあ」と溜息を吐いた。周囲の護衛達に最後の『お別れ』を告げるように瑠璃とことほぎが感情の揺れもなく『処理』を行う様子を眺めながらシラスは「じゃあ」と手を振った。
「最後に教えといてやるよ。買収も出来ない、依頼人のことも教えない。その背後に居るのは誰だと思う?」
ちゃりん、と落ちたのは薔薇のコイン。噂を聞いたことはあるだろう。
幻想王国の大罪人が送られる場所。永遠の牢獄。逃れることの出来ない罪――監獄島の噂を。
男の目がぎょろりと剥いて怯える声だけしか聞こえない。
「――まあ、其処へ行く事はできないのですが」
チェレンチィの囁き一つ、男の命の終が、訪れた。呆気もないほどに、容易に。罪など、重ねた所で何も痛くはないと整ったかんばせに表情を浮かべ痩せずに。
●
周囲の確認をして、マニエラは奴隷達を保護した。奴隷達の怪我のチェックを行いケアするシリウスは「怖かっただろうね」と柔らかな声音を天使のように掛けた。
言葉なく奴隷は縋るようにイレギュラーズへと飛び付いてくる。その心に深い傷が残ったことだろう。
「奴隷の方は如何しましょうか。さぞ、恐ろしい思いをしたでしょうから、解放しても市井で生きていけるかは……」
瑠璃は自身の隠れ家で仮住まいを用意しても良いと進言した。ムスティスラーフはと言えば、火事の影響を聞きつけてきたローレットのイレギュラーズの役に徹し、火の手を抑えるように立ち回った。
迅も後処理が気になっていたのだろう。消火できているかを確認してきますと背を伸ばして仲間達へと宣言する。
「行くとこなさそーならウチの領地で預かって教育とか? ローザミスティカ様が外に出てくることがあるなら、専任の使用人とか必要だろ?」
「奴隷ちゃんたちに決定して貰ってもいいかもね?」
シリウスの問い掛けにことほぎは「だなあ」と頷いた。マニエラは「孤児院とか紹介しても良いかもしれないけど」と呟く。
「領地どうするんだ? ここをことほぎに渡しとけば悪名跳ね上がるんじゃね? ……いや流石に1依頼の報酬を超えてるか」
「領地はフィッツバルディ家に引き渡しで良いだろうね」
奴隷の処遇についてはローザミスティカは興味はないだろう。ことほぎが引き取って教育を施した後、市井で暮らすなら瑠璃の元へ行っても良い。彼等に必要なのは教育と庇護者であろう。
領地は流石のローザミスティカとて無碍にしない筈だ。そも、彼女は『叔父』に言われて任務の斡旋を行っていた。ならば、『叔父上』が何とかしてくれると考えても良いだろう。
喧噪の領内は火事が収まったと朗らかに笑い合う領民達が居る。彼等にとっての良き統治者は、悪しき罪人として命を終えたことを――まだ、知らない。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
MVPは脱出ルート含め、色々と気配りしてくだったのでお送りします。
ローザミスティカ出張編でしたが、まあ、暫くすれば監獄島に戻されるんでしょうね、彼女も……。
GMコメント
夏あかねです。
●成功条件
慈善家『シアトル男爵』の殺害
●シアトル男爵
慈善家として名高い男爵です。ですが、裏では悪事を働いてきています。
奴隷を購入し、興味のあった黒魔術の材料にしたりだとか、殺し合わせたりだとか……。
ですが、それでも彼は表だっては慈善事業を手がけるとても心優しい男爵です。
故に、『民に愛される貴族を暗殺する』という悪事を働いて頂くこととなりました。
シアトル男爵には戦闘能力はありません。護衛達が主な戦闘の相手になるでしょう。
●護衛 *10
シアトル男爵の護衛騎士。手練れであるのは確かなようです。
彼等はシアトル男爵の裏の顔を知っており、悪事に荷担することで賃金を得ている共犯者です。
人間とは善悪何方の貌も持ち合わせるべきだと考えています。
非常に統率が取れており、リーダー格1名を中心に回復などバランスもとても良いです。
シアトル男爵を護る様に立ち回ります。
●シアトル男爵邸宅
忍び込むこととなる男爵邸です。外には沢山の領民が歩き回っていたりと非常に愛される貴族様で有ることが分かります。
出入り口は3つ、メイン玄関、裏口、勝手口です。何処からでも入ることが出来ます。
内部の使用人の数は減らされており、シアトル男爵の執務室までは難なく行くことが出来るでしょう。
侵入や戦闘が外部にばれないように工夫した方が良いかもしれませんね。バレてしまうと、領民に批難されるなどなど面倒が起こるかも知れません。
男爵の執務室には地下室が存在します。地下室では護衛が10名待機しており、男爵は奴隷の選別を行っているようです。
窓や出入り口がないために、地下室での戦闘であれば外部にバレることはないでしょう。地下室に侵入することを男爵達に悟られなければ問題はありません。
●選別される奴隷 3名
生死は問いません。奴隷商人から購入したようです。
●薔薇のコイン(出張編)
ローザミスティカが満足する依頼遂行でしたらばお礼に『薔薇のコイン』を得ることができます。
監獄島ではローザミスティカが用意した仮想通貨が存在し、『薔薇のコイン』を使用することで様々な恩恵を得られるそうです。
『薔薇のコイン』を得る事で追加報酬(gold)が増幅します。
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
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