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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>スラムを侵す影

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ここ数日、幻想・レガドイルシオンにおいてもちきりのネタがある。
 世界各地の商人達が幻想の裏市場にて行い始めた大規模な奴隷売買。
 その商人達と、一部の貴族が手を結んで何やら暗躍をしているのだという。
(その上、『古廟スラン・ロウ』とかいうところのお宝が奪われ、『神翼庭園ウィツィロ』ってとこの封印が解かれた……か)
 極秘事項らしい情報を反芻しながらシラス(p3p004421)が歩いている場所は、明らかにお世辞にも治安がいいとは言えない場所だった。
 幻想南部のオランジュベネには、所謂『スラム』と呼べるような場所がいくつか存在している。
 シラスが持つ領地は、そんなスラムである。
 わざわざそんなところを領地に選んだのは、シラスが慣れている――ある意味で初心を忘れることのないという覚悟も込めている。
(しかも、魔獣の襲撃は俺達の領地にも広がっている……らしいからな。ひと先ず見には来たけど)
 そこら中に存在する掘立小屋から、視線がいくつか感じられる。
(さて、誰かから情報を聞きたいけど……)
 聞き方が重要だ。治安のいい場所ならばともかく、このスラムで『怪しい人間は見なかったか?』なんて聞き方は下策。
 下手すれば、自身の事をそうみられかねない。
 見慣れない奴、も、ほとんど同じような結果になりえた。
(とりあえずは見回ってみるだけでいいか?)
 一歩、踏み出したその瞬間、シラスは大きく跳んだ。
 それまでいた場所に、銃弾が食い込んでいく。
 咄嗟の判断で射線の把握に努めながら、路地へ。
「期待通り出てきてくれたな……けど」
 どこから狙われたのかはすぐにわかった。
(何人いる? ……いや、それ以前に誰だ?)
 足音が近づいてくる。1、2、3――もっとか。
 シラスは走り出した。
 負けるつもりはない。だが『こんなところで暗殺を試みる』相手が、勝てる可能性もなしに狙ってくるとは思えなかった。
 走り抜け、場所を調節しながら、相手の人数を把握しようと試みながら、そいつらを巻いて治安のいい場所まで走り抜けた。

「はい、お預かりします。……問題は無さそうですね」
 そのままローレットへ駆け込んだシラスは、偶然にいた情報屋にそのまま依頼書の制作を願い出ていた。
「ひとまず、お怪我は無さそうですし、シラスさんもご参加という事でよろしいですね?」
「もちろん。俺の領地でやってくれたんだ」
「それでは、それも記しておきますね」
 頷いた情報屋が追記して、その場を後にする。


 数日後、期日のローレットで、シラスは集まってきた7人を前に、シラスは立っていた。
「皆、手を貸してほしい」
 真っすぐに、目を向ければ、7人も真っすぐに答える。
「暗殺者の人数までは分かりませんが、恐らくは暗殺者のリーダーであろう人物は分かりました」
 そう言ってアナイス(p3n000154)が資料を差し出してきた。
「ジェド・ベザント。炎髪のジェドと呼ばれる、ある筋で有名な暗殺者です。
 腕もいいのですが、彼が恐ろしいところはその統率力だと言われています。
 彼は常に10人以上で仕事に当たるのですが、その『全員が滅多に被らない』そうです」
 練度のいい軍ややり慣れたチームであるならいざ知らず、ほぼ初対面の10人以上のチームで仕事を熟し続けるのはよほどのことだ。
「彼の性質を考えれば、10人以上で来るのは確実でしょう」
「でも、暗殺者がそんな有名じゃ意味ないのでは?」
「ある筋では、なので。皆さん、ご存じなかったと思いますし、私も今回、この件があるまで知りませんでした」
 イレギュラーズの問いにアナイスは微笑を返す。
「でも、どうしてこいつが俺を狙ってるってわかったんだ?」
「あぁ……それは、彼と思われる人物が、数日前にシラスさんの領地方面に入ったと目撃情報があったのです」
 そう言って、アナイスはジェド以外の資料も君達に差し出していった。

GMコメント

 さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 シラスさんの領地で暗殺者と戦いましょう。

●オーダー
 暗殺者の討伐

●フィールドデータ
 シラスさんの領地、スラム街です。
 掘立小屋や路地が多いですが、主な戦場は広めの広場のようになっています。

●エネミーデータ
・『炎髪』ジェド・ベザント
 今回のリーダー格。凄腕の暗殺者とされています。
 炎のように赤く、炎のように逆立った髪が特徴的な人間種の男です。
 物攻、命中、CTの高い遠距離スナイパータイプです。

<スキル>
サイレントスナイプ(A):無より穿つ高速の弾丸です。
物超単 威力大 【万能】【致命】【崩れ】【体勢不利】【必殺】

ツインスナイプ(A):二発同時に放たれる弾丸です。
物超単 威力中 【万能】【スプラッシュ2】

ハウンドスナイプ(A):その弾丸は跳ね、狂い、敵を逃さず厭らしく食いつきます。
物超単 威力中 【万能】【必中】【邪道】

・絶対号令(A):その命令は拒むことが出来ぬのです。
物中域 【AP回復小】【BS回復】【HP回復小】【治癒】【識別】【副】

キリングスナイパー(A):暗殺者の心得です。
自付与 【瞬付与】【副】【命中:中アップ】【物攻:中アップ】

・『静謐の影』エラ
 ジェドが唯一、他の仕事で一緒になったことのある飛行種の女。
 腕を買われているのでしょう。
 神攻、EXA、命中、回避が高く、FBがかなり低め。
 二刀流の短刀使いです。

<スキル>
ワンサイドキリング(A):魔力で膨張した刃を振るい、超高速で繰り広げられる斬撃の乱舞です。
神至単 威力大 【必殺】【追撃】【致命】

ポイズンキリング(A):劇毒に変化した魔力を攻撃と共に対象に潜り込ませます。
神至単 威力中 【猛毒】【致死毒】【麻痺】【ショック】

メルトダウンキリング(A)周囲一帯を斬りつける超高速戦闘です。
神近範 威力中 【致命】【崩れ】【感電】【氷結】

翼の理(A):それは翼の理。遥か遠く、速く。
自付与 【副】【命中:中アップ】【反応:中アップ】【回避:中アップ】

・暗殺者〔剣〕×3
 剣と盾を持つ近接物理型。
<スキル>
シールドスラッシュ(A):盾で体勢を崩して斬りつけます。
物至単 威力中 【崩れ】【体勢不利】【恍惚】

・暗殺者〔拳銃〕×3
 拳銃と格闘術を駆使する中距離物理型。
<スキル>
乱れ打ち(A):適当なあたりに銃弾をぶちまけます。
物中扇 威力中 【泥沼】【停滞】

・暗殺者〔魔〕×3
 一見すると無手ですが、指輪を媒介とする神秘中距離型。
<スキル>
魔力衝(A):対象に魔力の風をぶつけた後、至近して殴りつけます。
神中単 威力中 【移】【追撃】【崩れ】

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>スラムを侵す影完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月26日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
蘭 彩華(p3p006927)
力いっぱいウォークライ
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ

リプレイ


 再び領地であるスラムへと訪れた『鳶指』シラス(p3p004421)は、淀みない足取りで突っ切り、やがて広場のような場所にて立ち止まる。
「こんな開けた場所で応じるなんて大した自信じゃないか」
 挑発を籠めて笑えば、10人、姿を見せた。
「あなたがターゲット? へぇ、実物はすごく良いじゃない。
 ちょっと若すぎて趣味じゃないけど」
 小さく笑ったのは、飛行種の女。
 年の頃は20代中ほどか。
 隙だらけに見えるが、その所作は油断なくイレギュラーズを見ていた。
「私はエラ。よろしくね、坊や」
「暗殺者が名乗っていいのかよ」
「えぇ――どうせどっちか死ぬんだもの、ねぇ」
 そう言ったルージュの塗られた唇が弧を描く。
 同時、スゥ、と鋭い殺意がシラスを射抜く。
(モンスターの襲撃だけでなく、暗殺者まで、か。騒ぎに乗じて来たのか、偶然か……)
 油断なく構える『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は暗殺者全体が入るように視線を向ける。
 この国で何かが起ころうとしている。
 それが確かである以上、今何が起きてもおかしくない。
「どちらにせよ、仲間をみすみす殺されるわけにも、いかない」
 エクスマリアの言葉を聞いたのか、エラがくすりと笑う。
「名のある暗殺者とはいえ、シラスさんが標的というのは相手が悪かったね。同情するよ」
 既にファミリアーを上空へ飛ばしているマルク・シリング(p3p001309)は静かに声をかけた。
「あら、良い男。10年後ぐらいに良い感じになりそうじゃない」
 くるりと短刀を遊ばせ、マルクを見据えたエラは、その一方で視線で何かを他の暗殺者達に指示しているように見える。
(見る限り炎髪っぽい奴はいない……スナイパーらしくどこかに隠れてるんだろうけど)
「確かにボク達は色んな事をしてるから凄く恨んでる人がいてもおかしくはないけど……」
 ざっと敵のメンツを眺めて『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は呟いた。
「そっちも何とかしないといけないんだろうけど、
 ひとまずはこの人達をなんとかしないと……」
 その視線は抜かりなく敵を見ている。
「ええ、イレギュラーズを狙う暗殺者なんて許せませんね」
 何よりも明日は我が身かもしれぬと考えつつ、蘭 彩華(p3p006927)はここまでの道中、周囲を見る目に好奇心が滲んでいる。
 旅慣れているつもり――いや、寧ろ旅慣れているからこそ、この手のスラムの奥地まで入ることはめったにない。
(後で散策でもしてみようかしらと思ったけど……少し臭うかも)
 衛生面があまりよくなさそうなことを感じ取り、そっと袖で口元を隠す。
「降参するなら今のうちですよ!」
「どうして? まだやってみてないじゃない」
 彩華の言葉に、エラは心底不思議そうに首をかしげる。
(領主にしてイレギュラーズと言えども暗殺者に命を狙われるなんてことが普通に起こるのね)
 ――あるいは、領主にしてイレギュラーズだからこそ狙われるのか。
 それはまだよくわからないが。
(最近の奴隷売買や神翼庭園の騒動に乗じて誰かがシラスさんを消そうとしてる?
 あちこちで同じような事が起こっているみたいだし、裏で大きな事が動いてるのは間違いなさそう)
 そう考えを纏めつつ、『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)は少しばかり握る手を強くした。
(……にしてもこういうの、イヤな感じ)
「領地にまで暗殺者を差し向けられるとは、シラスさんも大変ですねぇ」
 なんて、『悪徳貴族』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)はにやりと笑う。
(しかし、一連の事件といい、これはまた面白そうなことが始まっているようです)
 その脳裏にて、急速に纏められていく勘定はこの騒動で自分がどう利益を得るか、それに尽きる。
「暗殺者だなんて薄汚い稼業もムカつきますが、
 何よりも友達を狙ってきた事が許せませんね。
 叩き潰してやりますよ。シラス君が」
 魔術書を片手に『宵闇の調べ』ヨハン=レーム(p3p001117)はじっと敵を見つめてしれっと言い放つ。
「シラス君が!」
 大事なところを二度言うのと同時、ヨハンは魔力を魔術書に練り上げた。
 ヨハンへとツッコミながらも最速で動いたのはシラスだった。
 深呼吸と共に、極限の集中へ。
 零の領域のその奥で自らの動きを戦場に最適化させると同時、シラスは静かに声を上げた。
「俺が独りの時に殺れなかったのが運の尽きだって教えてやるよ。
 お前らの攻撃なんて通らないぜ」
 静かな、けれど不敵に笑った瞬間、暗殺者の一部がその挑発に乗って動き出す。
 焔は続けるように動く。カグツチを真横に振り抜けば、紅蓮の焔が刃と化して真っすぐに走り抜ける。
 尾を引き、火花を散らす真っすぐな斬撃は2人の剣士風の暗殺者へと炸裂し、その身に業炎が転移する。
 彩華はその中で一番動きが鈍った敵目掛けて走り抜けた。
 その手に握るは二本の剣。
「降伏するなら今のうちって確かに言いましたからね!」
 踏み込みに合わせるように剣を振り抜けば、剣士風の男はそれを盾で防ごうとして――もう片方の剣が相手の盾で生まれた死角を奔った。
 遅れて動いた敵の剣に勢いこそ殺されるもの、その斬撃は強かに敵を裂き、一瞬の隙を貫くように、もう一歩踏み込んで斬り下ろす。
 鮮やかな牽制込みの斬撃に、そいつが動きを乱す。
 エクスマリアも敵の前衛の方へと走り抜けるや、可能な限りの敵を視界に収め――その目を輝かせた。
 それこそは二人の友より学んだ魔術を自分の物と合わせて作り上げた魔術。
 その深い色の眸とであった数人の暗殺者達がふらりと体勢を崩して倒れそうになる。
「ふふふ、いいわね――そうこなくちゃ」
 敵が動く。全身に濃密な魔力を生みだしたエラが、一瞬でシラスへと走り出す。
 その手に握る短剣が魔力を帯びて膨張し、シラスを狙って伸びる。
 シラスはそれを一気に後ろへ跳んで退避する。
「あぁ、やっぱりいい動きしてるじゃない!」
「おいおい欠伸が出そうだぜ! もっと本気で狙ってみろよ!」
 挑発に挑発で返しながら、2人はせめぎあいを開始する。
 エラの注意を引けてはいない。
 恐らくは元々ターゲットであるシラスを殺すことを優先しているのだろう。
「イオニアスデイブレイク! 栄光を我らが手に!」
 練り上げた魔力を、魔術書を媒介に魔術へと書き換えた。
 それは仲間たちの守りをより堅牢に高める守りの術式。
 落ち行く太陽の如き輝きが、戦場を包み込む。
(さあ来なさい! ……なんて言う勇気はないけど)
 指揮棒を握り締め、タイムは英雄の叙事詩を美しき声に乗せて歌う。
 それは英雄をたたえる歌。この身を奮えたたせるに十分な思いに満ちる愛の歌。
 スラムにはあまり似つかわしくない讃美歌が、戦場に響き渡る。
「お相手しますよ、三流暗殺者諸君」
 ウィルドはその身を堂々と敵陣に晒し、2人の剣と盾を握る暗殺者の前へ立ちふさがる。
 胡散臭さの滲む満面の笑みを浮かべるウィルドに、警戒するように2人の暗殺者が後退していく。
 それに従うように、ウィルドの方も追いかけていく。
 マルクは静かに杖を構えて突き出すように敵陣に向けた。
 静かな詠唱がスラムに響き渡り、光の束が戦場を劈いた。
 鮮やかな神の光が瞬き、戦場をホワイトアウトさせる。
 突然の輝きに、多くの暗殺者達が目元を抑え込みながらうめき声をあげる。

 ――そして、銃弾が奔った。

 銃声に合わせるように、シラスは咄嗟に跳んで躱す――しかし、銃弾はシラスのその動きに合わせるようにして跳ねた。
 持ち前の身体能力で勢いを殺しながらも、その銃弾は確かにシラスを削る。
「くっ――どこから?」
「――いた。あそこの小屋の上だ!」
 マルクがそう言って指さしたのは、広場からやや奥ばった場所にある建物の小屋の屋上だった。
「でももう動いてる。路地に入られたら分からないよ」
「僕に任せて!」
 焔はマルクが指し示した方へ使役している鼠を走らせる。
(ここなら僕達も戦いやすいけど、相手にとってもシラスさんが狙いやすい。
 だから応じたのか……)
 考えを纏めながら、マルクは鳥を飛ばし続けていた。


 イレギュラーズの戦いは、徐々に形勢有利に立ちつつあった。
 ジェドの狙撃とエラの斬撃はたしかに脅威的だったが、そもそも2人が狙うのは注意を引くまでもなくシラスだった。
 対して、シラスは今回、守りに徹したスタイルでここにいる。
 この相性の良さは、それ以外の暗殺者を討伐するのに足るだけの時間を与えていた。
 一人一人、暗殺者を潰していき、残り4人になった頃、ジェドはその姿を見せたである。
「何がスラン・ロウだ。何がブレイブメダリオンだ。何が勇者総選挙だ。
 どいつもこいつも僕を蚊帳の外に置きやがって」
 苛立ちを露にするのはヨハンは、自らと混沌の在り方を接続する。
 静かに呼吸を整えて、迸る無痛の電流が仲間たちの身体を密かに書き換え、気力を蘇らせていく。
 己は華々しいわけではない。少なくとも、ヨハンの視点から見ればそうだった。
 けれど、彼ら華々しきイレギュラーズの影、ひたすらに藻掻いてきた。
 それは事実なのだ。
「僕だってどんなイレギュラーズとも仕事を成功させてきた。
 ローレットの戦い方を教えてやる! 年季が違うんだよ炎髪の小僧っ!」
 寓喩偽典が鮮やかに光り輝いていく。
 それはヨハンの魔力に呼応するように。
 眩き輝きを放つ魔術書より呼び起こされるは美しき煌き。
 聖域は傷ついた仲間達をへ強烈な祝福を齎し、癒していく。
「――はっ、小僧に小僧呼ばわりされるとは」
 ジェドが口角を釣り上げ笑いながら、ヨハンへ銃口を向けていた。
 引き金が絞られる。
 ヨハンはその銃口を静かに見つめている。
 放たれた弾丸はしかし、ヨハンの抵抗力と防御技術を前に最低限まで効力を失していく。
 エクスマリアは静かにエラを見据えていた。
 エラが一気に後退していく。
 恐らくはエクスマリアの術式を警戒したのだろうが――遅い。
 昏い金色の髪がキラキラと輝きを放ち、エクスマリアの意思に従い、鞭のようにしなる。
 その一本一本が鮮やかな光の翼と化し、エラへ襲い掛かる。
 それらは退避を試みるエラを微かとは言え傷つけていく。
 踏み込む脚に力が入る。
 気づけば、彩華は真っすぐにエラの眼前に踊りこんでいた。
 互いの剣がぶつかり合い、せめぎ合う。
「何度だって――どれぐらいだって、食らいついていきますよ!」
 互いの牽制を与えあいながら、彩華は一歩ずつ前へ歩き続ける。
 当たらなくてもいい。
 例えそうだとしても、今ここにいるのは彩華だけじゃない。
(その分、仲間の攻撃が深く刺さるはず――)
 白刃が閃き続ける。
「流石に、しつこいわね――あなた!」
 彩華から退避しようとしたエラの前へ、ウィルドは立ちふさがる。
「おっと、こちらを忘れてもらっては困りますねぇ……」
 満面の笑みを受けて、エラが表情を引きつらせたのが分かる。
 ウィルドの堂々とした立ち姿に、エラがウィルドにも警戒心を向けてくる。
 ウィルドはそれを軽く受け流しながら、敵の様子を窺っていく。
 タイムはぎゅっと指揮棒を握り締めた。
 深呼吸して、静かに振る。
 それは指揮棒の軌跡はやがて魔力を旋律に定め、美しき音色を奏でていく。
 穏やかなる音色、大いなる治癒術式へとそれを転換して、そのままシラスの方へと指揮棒を向けた。
 流れるままに、旋律が色を得て飛び、身体を包み込めば、傷だらけの身体を急速に癒していく。
 マルクはその機会をずっと待っていた。
 それは、スナイパーたるジェドが姿を見せるとき。
「機は逃さない……ここだ!」
 杖へと収束するは極大の魔力。球体へと収束していく魔力は、圧縮を重ねていた。
 圧縮されてはその上に魔力が生み出され、また圧縮される。
 全霊というべきその魔力を、マルクは真っすぐにジェドへと叩きつけた。
 強烈な光と熱を帯びた弾丸と化した魔力が、ジェドへと叩きつけられ、その身を焼き痺れさせていく。
「ぐっ……ぁ……」
 ごふりと、ジェドが血を吐きながら後退する。
 立ち上がったジェドが後退するのを見て止めたシラスは、静かにパチンと指を鳴らす。
 スナップの効いた小さな音を媒介とする魔術は、それだけでは痛みをさほど伴うものではない。
 しかし、しびれを起こさせ、注意を引くには十分。
 じとりとシラスを見たジェドが、懐から何かを取り出して口に放り込む。
 それを見た瞬間、焔は爆ぜるようにジェドへ駆け抜けた。
 強かに燃え盛る紅蓮の炎。
 それをさながら流星の如く振り抜いて、焔はジェドの鳩尾へと叩き込んだ。
 ゴウ、と激しい炎を巻き上げながらも、それは慈悲の刺突。
 痛みこそあれど、決して死ぬことのない刺突だった。
 受けた敵が、がくりと崩れ落ちていく。


「何か言い残すことは?」
 暗殺者達を退け、ジェドを捕らえたシラスが問いかけると、ジェドは静かに鼻で笑い、じっとシラスを見据える。
「はっ。んなもんあるかよ。」
「裏で手を引いてるのは一体誰?」
 タイムの問いかけに、ジェドは薄い笑みを零す。
「悪いが、答えられないな」
 そう言い残し、ジェドがイレギュラーズを見渡して、不敵に笑う。
「教えてくれないと困るな。もう捕まってるんだよ?」
 慈悲の一撃により彼を殺さず仕留めた焔は、静かに問う。
「確かに、捕まってるんだから、雇い主の名前をばらすことぐらい訳ないが……そうはいかねえ」
 不敵な笑みを湛えたままのジェドが、やがてその口元から血を垂れ流す。
 すぐにがくがくと震えだして、そのまま地面に倒れていった。
「死んでる。遅効性の毒かなにかみたいだね……」
 マルクは脈を図り、目を閉じて首を振った。
(誰しもが心穏やかに暮らせるほど世界は平和じゃないって分かっていても
 人が殺し合う理由が仕事やお金っていうのは、どうにもやるせないわ……)
 倒れた敵だった物を見下ろして、タイムはその胸に微かなもやもやを抱いていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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