PandoraPartyProject

シナリオ詳細

盗んだ指輪を持って走り出せ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 頭に超がつく大型耐火金庫の扉に聴診器をあてて、ダイヤルを慎重に回す。
 聴診器は同じビルの一階と二階に入っている新レンタツ循環器内科・クリニックからちょいと借りてきたものだ。返すのはかなり後になるだろう。もしかしたら返せないかもしれない。
 おれの名はヤツェク。ヤツェク・ブルーフラワー (p3p009093)だ。
 なんでドロボウみたいなマネをしているのか、だって?
 いい質問だ。
 事の始まりは例によって例のごとく、スリルとロマンあふれるバーでのことだった。カウンターで泣きながらカクテルを豪快にあおる花嫁(あるいは純白のウエディングドレスを着た女)を見たときから……おっと、この話は長くなる。先にこの金庫の中にある『物騒な結婚指輪』を盗らせてくれ。
 おれたちは一刻も早くダイヤル錠を開けて、結婚指輪とカモフラージュのために現金と換金性の高いものをいくつか取りだし、この現場から立ち去らなくてはならないんだ。
 ちなみにクライアントと出会ったそのバーは、このビルの地下一階にある。で、今いるのは最上階。結婚式場の真上にある、純金が練り込まれた石鹸が置いてあるロイヤルブリッジスイートの一室だ。
「おい、早くしろ。式が始まるぞ」
 ぐるぐると捻じれた大理石の柱の影から、キドー (p3p000244)が顔だけひょいっと出していった。
 キドーにはこの耐火金庫のシリンダー錠の方を、ピックとテンションを使って開錠してもらった。持つべきものは盗賊の友である。
 ブルーブラッドの少女がおれの横に来て、足首まで埋もれそうな、ふっかふっかのカーペットに両膝をつく。
「代わる……よ」
「いや、いい。集中させてくれ、フラーゴラ」
 フラーゴラ・トラモント (p3p008825)は、たまたま祝賀の花火を見るためにこのビルに来ていたのをおれが見かけて、この仕事に誘った。この後の逃走劇にどうしても必要となるキャストだからだ。
 キャストといえばもう一組。おれのチームには幻 (p3p000824)とジェイク(p3p001103)の夜乃夫妻がいる。
 彼らは仕事でこのビルを訪れていた。式後の披露宴で、イリュージョンショーを行うことになっていたらしい。
 らしい、といったのはイリュージョンショーが中止になるからだ。
 二人にはおれとの友情を尊重し、こちらの仕事を引き受けてもらった。楽しみにしていた招待客には申し訳ないことをしたと思っている。もっとも、この後の騒ぎで結婚式自体が中止になるが。
 幻とジェイクには、たまたまこのビルを訪れている運命特異点を探してもらっている。盗まれた結婚指輪を奪還するため、花婿(とそのファミリー)はなりふり構わずおれたちを追いかけてくるだろうから。
 おれ、キドー、フラーゴラ、幻、ジェイク、の五人だけでもなんとかなると思うが、できればあと三人ほどチームに欲しい。
 指先に蜘蛛の糸一本ほどの手ごたえを感じた。聴診器から伝わった音も、それが正解だと教えている。
 おれは口元をほころばせた。
 最後の暗証番号が分かった。記憶したナンバー順にダイヤルを右に四、左に三、右に二、最後に素早くダイヤルを左に回す。
 カチッと乾いた音をたてて、ダイヤルは回らなくなった。
 立ち上がり、観音開きの扉の取っ手に両手を添え、静かに引き開ける。
「ワタシが持ったら……爆発、する?」
「いや、しない。……しないはずだ。指輪は花嫁の指にはまった時、内側からの圧と体温を感知して爆発するという話だった」


 けたたましく非常ベルが鳴る。マシンガンを構えた黒ずくめの男たちが廊下を飛ぶように走って行く。と思えば駆け戻ってくる。
 情報が錯綜しているようだ。
 とりあえず、無事に地下の駐車場にさえたどり着ければいい。逃走を開始したら、ちゃんと追いかけてきてもらわないとは話にならないからだ。
「しかし、面倒な依頼ですね」
 当たりからマフィアたちの気配がなくなると、幻は幻影を解いた。おれたちは急いでエレベーターホールへ向かう。
 十六基中、最初に到着したエレベーターに乗り込んだ。
「勘違いでなかったら、一部始終を招待者席に座ってみているつもりだったのですよね、花嫁は」
 おれたちが盗み出した『爆発する結婚指輪』は、依頼主である花嫁がRだかSだかいう運命特異点の科学者に作らせて、納品前に店で本物の結婚指輪とすり替えさせたものだ。
 花嫁は結婚式の当日まで、自分がプロポーズされるとは思ってもいなかったらしい。五人いた愛人の、切り捨てられた一人のうちだと思っていたのだ。それが、まさか、自分が愛する人の手で指に爆弾をはめることになるとは――。
 あっという間にエレベーターは地下についた。
 キドーが開いたドアを手で押さえながらいう。
「コエー女だな。幸せの絶頂で、自分を裏切った男の手で恋敵に爆弾指輪をはめさせるか? フツー考えつかないだろ」
 ジェイクが銃を手に先にエレベーターを出て、辺りを見回した。
「本当に爆発して花嫁が死んでいたら、いくら新郎が悪党とはいえトラウマものだな。よし、大丈夫。行こう、向こうでさっき誘った仲間が車を用意して待っているはずだ」
「ところで」、とフラーゴラ。
「指輪……どうやって処分、する?」
 花婿の目前で盗んだ指輪を爆発するかなにかして回収不可能にしてほしい、というのが花嫁のオーダーだ。もちろん、花婿は殺してはならない。怪我はOK。結婚して遺産とファミリーの一切合切を花嫁が受け継ぐまでは、とりあえず生きていて欲しいとのこと。
 で、指輪の破壊方法だが、実はノープランだ。
「花火、は? 打ち上げて、爆発……派手で楽しい」
「いや、もっと単純に。湖に捨てればいいじゃねえか。ボートで真ン中までいって爆発すれば、回収をあきらめるだろ」
 おれは唸った。
「……他の仲間にも意見を聞いてみよう」

GMコメント

ご依頼ありがとうございます。
リプレイは武装マフィアに追われ、ビルの地下から脱出するところから始まります。
派手なカーチェイス、またはボートチェイスをお楽しみください。

●依頼条件
・花婿の見ている前で『結婚指輪』を破壊、または回収不可能にする。
・花婿を殺さない。
・捕まらない。

●日時と場所
・練達、湖のほとりに立つ高層ビルとその周辺
・夜
・晴れ。微風。

●敵 武装マフィア25名(花婿含む)
全員、カオスシードです。
ランク2の物理スキルを2つ、ランク2の神秘スキルを1つもっています。
花婿はそれに加えて【アタックオーダー】を持っています。
街中は5台の黒塗り車(防弾仕様)と白いオープンカーが追いかけてきます。
手下がのる車は、一台につき4人乗車。
運転手はピストル、助手席はマシンガン、後部座席の二人はバズーカ砲と手りゅう弾。
花婿の乗る車は3列シートの白いオープンカーです。花婿は一番後ろの座席に一人で座っています。

●その他障害物
派手な打ち合いをしていると、パトカーがサイレンを鳴らしてやってきます。
当然、街中をたくさんの車が走っていますし、人々も出歩いています。

●打ち上げ花火会場
高層ビルの対岸にある倉庫街。
埠頭で花火師たちが、打ち上げの準備をして開始の連絡を待っています。
高層ビルから花火の打ち上げ会場までは、右回りと左回りのルートがあります。
どちらのルートも、制限速度と信号を守っていれば30分ほどで会場につきます。
右回りルートは途中、ヨットハーバーの近くを通ります。

●湖
真上から見ると、ラグビーボールのような形をしています。
湖の真ん中が一番深いです。
透明度はあまり高くありません。
湖上は月あかり以外ありません。

●車とボート
車はプレイングで指定された分だけ用意できます。ただし、どれも普通車です。
バイクも用意できます。
抑留されているボート(またはヨット)は1台しか使えません。
※マフィアたちは少し離れたプライベートの港から、花婿が所有しているジェットボートで追ってきます。

●その他
提示された破壊の仕方のほかに、思いつく方法があればどうぞ。
花婿の目の前で、というところが肝心ですよ。
指輪を諦めてもらわないと、依頼主の花嫁が……。

  • 盗んだ指輪を持って走り出せ完了
  • GM名そうすけ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月21日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長
※参加確定済み※
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
※参加確定済み※
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
※参加確定済み※
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
※参加確定済み※
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
陽気な歌が世界を回す
※参加確定済み※
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼

リプレイ


 用意された車を見た瞬間、『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は喉の奥で唸った。待ち受ける悲劇的な運命に思いを馳せ、いたわるように銀色のボディーに手を滑らせる。
 獲物を追う銀狼のような特徴的なフォルムの車は、マフィアの攻撃を受けて、数十分後には間違いなく廃車になっているだろう。なんてもったいない。
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は、憂鬱の影に沈み込んだ夫の背にそっと手をあてた。
 ジェイク様の腕なら無傷で、と言いたいところだが、さすがそれは無理だろう。
 振り返って、後部座席のドアに手をかける『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)に声をかけた。
「短時間の内によく用意できましたね」
「ん、たまたまキーが刺さったままになっていたんだ。不用心だよな。でも見つけられたのはこの一台だけ。幻たちが乗る車はいま――」
 少し離れたところで、ガチャリ、とドアが開く音がした。続いてエンジンがかかる音。見ると『最期に映した男』キドー(p3p000244)が、ビビットピンクのボンネット越しに手を振っていた。
 ここでもキドーは盗賊の腕と才能を発揮した。
 『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)の要望を聞き入れ、思わずナデナデしたくなるような外装の車を探しだし、ドアロックをちょちょいと解除してエンジンをかけたのだ。
「この程度、屁でもねえ。車を探す方がよっぽど時間がかかっちまったぜ」
 車種はミニバン。ただし、頭に高級という文字がつくが。
 どうしてミニバンなのか。それは『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が、物騒な結婚指のついでに盗み出したモロモロが入った大袋を乗せやすいように、とバックドアがついている車を希望したからだ。それ以外にも何か考えがあるらしい。
「アンタは本当に頼りになる奴だな、キドー。終ったら式場からかっぱらってきた酒で祝杯と行こうじゃないか」
「いいね。じゃ、あとでな」
 ヤツェクはキドーから目をあげて、エレベーターの階数表示を確認した。69、68、67、66……。真ん中とその両端のデジタル数字が仲良くそろって下がっていく。
「さあ、みんな乗った、乗った。エレベーターのドアが開いて花婿たちが降りてきたら、最高にイカれたレースのスタートだ。レッドは向こうの車に乗ってくれ。シスターはこっちだ」
 運転席のシートを前に出していた『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)が、体を起こす。
「わたしはあっちの車ね。フラーゴラ、どうぞ。これでステアリングが掴みやすくなったはずよ」
「ありがとう。車、運転してみたかったんだよね。ワクワク……!」
 フラーゴラは運転席のシートに滑り込んだ。濃紺のマリッジリングケースをダッシュボードに置き、シートベルトを締める。
 ケースの中には花嫁の指にはまると爆発する、物騒な結婚指輪が収まっている。これを花婿の手に渡らないようにするのが今夜の仕事だ。
 Я・E・Dはマリッジリングケースを見つめた。
「うーん、それにしてもしたたかな女の人だよね。でも、花婿さんも悪党だって言うし、ある意味お似合いなのかなぁ?」
「花嫁さん、花婿さんの事大好きなんだね。ワタシだって他の人に好きな人が取られると思うと……。だから凶行に走るの、わかる」
 後ろでスライドドアが滑る音がした。
 『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)が、慎ましく微笑を浮かべて立っていた。二人の視線をうけて、 両の口角がじわりじわりと上がっていく。
「そろそろ車を出しませんか。うふふ、間もなく花婿たちのご登場ですよ。ドンパチを楽しみましょう、そして新婦に殺したいほど愛されている花婿を指輪の爆破で祝福しましょう……、心の底から」
 聖職者の衣の前で指を組みあわせるライの声は、隠しきれない愉悦で震えていた。


 ジェイクはルームミラーの角度を調節してエレベーターを映した。
 引き絞った弓につがえた矢のように、ブレーキをかけた状態でエンジンの回転数をあげてドアが開くのを待つ。
 エレベーターから黒ずくめの男たちが飛び出してきた。手入れの行き届いたサブマシンガンと銃で武装している。
「行くぜ!」
 ジェイクは車を急発進させた。
「運転よろしく頼むぜ、ジェイクさんよ。恋人をエスコートするぐらいのソフト&スムーズな快適な安全運転でな」
 キドーがギャハハと笑いながらサイドミラーを覗き、ビビットピンクのミニバンを確認する。――と、パパラパララッと軽い発射音が響いた。コンクリートの柱で火花が散り、窓ガラスに砕けた破片が当たる。
「あっぶねェ。さっそく撃ってきやがった」
 Я・E・Dがヘッドレストの後ろからジェイクに話しかける。
「スピードをあげすぎないで。すぐ出せないようフラーゴラが車に罠を仕掛けていたから」
 ルームミラーへ目をやると、白い礼装の男に指示されて、車へ駆け寄る黒ずくめの男たちが見えた。すぐにビビットピンクのミニバンが後ろについて確認できなくなる。
 ミニバンに乗った幻が、花婿の車をちゃんと確認しているだろう。
 体をひねってリアガラスの向こうを見ていた一悟が、ゆっくり体を戻す。
「ビルを出たら右回りでヨットハーバーに行くんだよな。で、ヤツェクさんのボートで花火会場を目指す」
「そうだ。ボートの運転は任せるぜ」
 地下駐車場を出た銀とビビットピンクの車は、テレビ局の前の太い幹線道路をエンジン音いっぱいに響かせて走り抜けた。交差点を右に曲がり、ヨットハーバーを目指して突進してゆく。
 すぐに黒塗りの高級車が数台、猛スピードで追いかけてきた。
 ニヤニヤしながらヤツェクが台数を数える。
「全部で五台。必死だな」
「花婿か乗った白のオープンカーは?」と幻。
「最後尾にいると思うぜ。前の黒塗りが邪魔でよくみえ――」
「揺れるよ、掴まって!」
 張りつめた声をだし、再びバックミラーに目を移したフラーゴラは、わざとアクセルを踏み込んで加速した。黒塗りも同じようにスピードをあげる。
 その瞬間、チェンジレバーをトップからサードに切り替えた。エンジンブレーキがかかり、ミニバンのスピードがガクッと落ちる。足でブレーキを踏んでいないからテールランプはつかない。
 黒塗りの前部がミニバンの後部にぶつかった。
 ガッと大きな音がして体に強い衝撃が加わった。ミニバンの車体が前に飛び出す。と同時にフラーゴラはアクセルをめいっぱい踏みこんだ。
 急ブレーキを踏むと、いったんは後へ傾いた体が前に向かって激しく揺れる。が、逆に加速させると体が前に倒れないので衝撃をうまく緩和できるのだ。これを動物的カンで減咄嗟にやってのけたのだから、彼女には運転の才能がある。
 運転していた男はさぞ泡を食ったことだろう。ブレーキを踏む間はなかったはずだ。
 間髪入れずに幻が大掛かりな奇術を披露する。
「例え外側が防弾でも、重量級のトラックが突っ込んだならどうなるでしょうね?」
 黒塗りはいきなり眼前に飛び出してきた大型トラックの幻影、否、質量を伴った召喚物と正面衝突して前を大きく凹ませた。
 フロント部分を大破させて止まった黒塗りの左右を回り込み、後続の黒塗りが二台、前に出る。
 窓から上半身を乗り出した男たちがマシンガンをぶっ放す。
 バックドアのガラスが割れた。車中に細かく砕けたガラスの破片が散る。
「あっははは、良いですね良いですねこの展開! アガります!」
 ライは笑いながら頭についたガラス片を手で払いのけると、聖書の一節を口にしながら胸のロザリオを握りしめた。
「どうか、貴方の心へ届きますように」
 聖女の祈りは白く輝く弾丸となって、マシンガンを構える男の肩を吹き飛ばした。赤い血がしぶく。
 お返しの弾丸が飛んできたが、ミニバンは尻を左右に振って狙いを絞らせない。弾丸は左右のフェンダーに当って、ビビットピンクの塗装を削り取るばかりだ。
「っはは♪ 良いじゃないですかこういうの! お前らだってアガってんだろ??」
 ヤツェクは曲芸射撃で左の黒塗りのタイヤを破裂させた。
 前輪を撃ち抜かれた黒塗りが、ステアリングを取られて横へ流れた。派手な音をたててガードレールにぶち当たり、横転する。そこへ後続が突っ込んで玉突き事故を起こし、車体がアスファルトをこする耳障りな金属音が響いた。
 通行人にケガがないことを祈るばかりだ。
 顔を前に運転席に向けて叫ぶ。
「三つ先の角を右へ入れ! 裏通りに入るんだ!」
「でも、そんなことしたら、ジェイクたちとバラバラに――」
「問題ありません」
 幻は腕をあげてルーフを押し開くと、助手席に立ち、上半身を外へ出した。
 腕を右に三回振って、前を行く銀の車に合図を出す。
 了解、とテールランプが三回点滅した。
(「ジェイク様なら必ず分かってくれると思っていました」)
 右でパトカーのサイレン音がしたがまだ遠い。だが、だんだん近づいてくるのが音の変化でわかる。
 銀の車のテールランプが、また瞬いた。
パトカーはこちらに任せておけ、という合図か。
 承知いたしました、と微笑みを返す。
「ヨットハーバーでお会いいたしましょう。さて、あちら様にはきちんと私たちについてきてもらわなくてはなりませんね」
 幻は体を後ろへ回すと、今度は追っ手の車に向けて手を振った。指には得意のマジックで出したダイヤの指輪がはめられている。盗んだ結婚指輪とデザインが異なるが、どうせ相手に違いはわからないだろう。
 思惑通り、クラッシュした仲間の車を回避したためやや遅れていた二台の黒塗りと、ようやく見えた白いオープンカーが、指輪を奪還すべくスピードをあげて迫ってきた。
 フラーゴラはウインカーをつけてアクセルを踏み込み、左へステアリングを切った。


 ジェイクはミニバンが左へ曲がって角に消えたことを確認するや、ブレーキを踏んで減速した。
 窓から顔を出したキドーが、獰猛な妖精たちを放つ。
「ほーら、お前らの好きそうなガラの悪そうな連中が箱詰め選り取り見取りだぜ。遊んでもらってこい、犬っころ!」
 悲鳴が聞こえてすぐ、後にひょろりと長く尾を引く飛翔音がした。フロントガラスの前を上から下へロケット弾が落ちていく。重力に引っ張られて、地球に落ちてきた流れ星みたいに。
「ガツンとくるぞ!」
 キドーが怒鳴った直後、車のすぐ前で爆発の炎と爆煙が立ち昇った。
 赤く膨れ上がる炎に飛び込む直前、ジェイクはブレーキとステアリングさばきのテクニックで、スピン・ターンして身をかわす。イキな離れワザだった。
 刹那、東からこちらに向かってくるパトカーの青い点滅灯が窓ガラスを薙いだ。
「一悟ッ」
「わかってる」
 一悟は開いた窓から腕を出して、流れる空気をぶち抜いた。拳より放たれた光が柱となって一直線に飛んでいき、曲がり角の赤い消火栓をへし折った。
 大破した消火栓から、棒状の水が音を立てて高く噴出する。夜空を撫でるように先端で水が広がって、雨のように道路を濡らした。大量の水がアスファルトを黒く塗り変えながら、反対車線まで広がっていく。
「お祝いのライス抜きライスシャワーだ」
 パトカーは次々と回転スリップして止まった。
 銀の車にも水が降りかかる。
 ジェイクはあやうくコントロールを失ってスピンする寸前で、すばやくカウンターステアを当てた。かろうじて姿勢を立て直し、角に消えたミニバンを追いかける黒塗りに突っ込んでいく。
 拳銃の発射音。
 車の前部、左ライトのガラスが音を立てて砕けた。
 Я・E・Dが交差点に保護結界を張る。
「さすがに、これで一般の人達に被害が出たら可哀そうだしね。じゃあ、気にせずに全力で行くよ」
 Я・E・Dは窓から上半身を出した。腕をまっすぐつき出し、けたたましく笑う狂気のリングをはめた手を上にして指を組み合わせる。
「花婿以外、ぶっ飛んじゃえ!!」
 きらめくオレンジ色の閃光が、角を曲がる黒塗りのルーフを吹き飛ばした。砕けたガラスが街の光を弾いてキラキラと飛び散る。だか、黒塗りは屋根を失ったまま角を曲がり切り、ミニバンの後を追いかけて行った。
 飛ばされたルーフは建物の角に当たってぐしゃぐしゃになり、跳ね返って後続の黒塗りのボンネットに刺さった。
 ジェイクはアクセルを踏み込んだまま、停止した黒振りの前に銀の車を滑り込ませ、そのまま角を曲がる。
 小さく悲鳴をあげてЯ・E・Dが車内に体を戻した。
 すぐ後に、白いオープンカーがついた。ジェイクもまた屋根を失った黒塗りを追いかける。前と後ろでサンドイッチになった形だ。
 花婿の両サイドにいたマフィアが立ち上がり、マシンガンを撃ってきた。
 キドーと一悟、Я・E・Dが応戦する。
 狭い道で障害物を避けながら猛スピードで駆け抜けるため、双方ともに的を捕えきれず、むやみに壁や道を削る。つかず離れず、なかなか距離をとれない。もっとも、前も詰まっているのだが。
 キドーがぼやく。
「クソ、これじゃあボートに乗り込む暇なんてねェぞ……って、ヤツェクのおっさん、なにをする気だ」
 ミニバンのルーフから体を出していた幻が大きく腕を横へ流す。ライも腕を横に振っている。
「――みんな、腕を引っ込めて掴まれ! 舌を噛むなよ」
「アン?」
 ぐっと加速したかと思うと、いきなり車体が傾いた。ほぼ垂直、左側の前輪と後輪だけで車体を支えたまま、屋根なしに並ぶ。
 車体と車体がこすれて耳障りな音を立てた。
「うわっ、アチチッ。火花が、火花がァ! 頭が焼けちまう!」
「我慢してくれ、キドー! 一悟!」
「レッドが重いんですけどぉ」
「失礼ね!」
 マフィアたちがドタバタ劇の銀屋根に銃口を向ける。その瞬間――。
「金は返すぜ、ほらよ!」
 ヤツェクは袋口を開いて、盗んだ金をばら撒いた。大量の紙幣が吹雪いてマフィアたちの視界を奪う。
 隣が減速を余儀なくされた隙に、銀の車は前に抜け出した。
 激しくなるクラクションを後に残し、ビビットピンクのミニバンと銀の車はヨットハーバーを目指す。


 被害を最小限にするため、イレギュラーズは湖上を行くルートを選んだ。ヤツェクのボート(ロマンチックな夜を過ごすために用意されていた。結婚式場があるホテルビルへはそのお相手を探しに行っていたのだ)にあわただしく乗り込むと、白いオープンカーが港に入って来たのを確認してボートを出した。
 操舵は一悟だ。
 ジェイクとフラーゴラ、そしてキドーが後ろに陣取って、追いかけて来た花婿のボートを威嚇する。
「もうすぐ着くぜ。降りる時間を稼いでくれ」
 お安い御用だ、とキドーが追ってきたボート嵐のような光撃を見舞った。船体が激しく揺れ、マシンガンを構えるマフィアと花婿をよろめくのが見えた。すかさずジェイクが電流の走る魔法の網を投げつけて動きを封じた。
 一悟がボートを横づけすると同時に、爆弾と銃撃の音がした。海上から放たれた砲弾が、岸壁の所々に白っぽい光をひらめかせて炸裂する。
 岸から打ち上げの準備をしていた花火職人たちの姿が消えた。
「早く飛び移れ!」
 みんなで揃って、花火の筒とその横に置かれた玉に駆け寄る。
 フラーゴラが魔方陣を巻いた枝を指輪にセットしている間、残りのメンバーで壁を作って湖上からの攻撃を防ぐ。
「できた!」
 よし、といって一悟が取りだしたガムテープで、指輪をはめた枝を花火玉に巻きつけた。
 筒にそっと落としこむ。
「さあ、派手に打ち上げてやろうぜ」
「祝砲だ、受け取れ!」
 ヤツェクは銃を抜くと、筒から伸びる導火線を撃った。

 ドドーン、パリパリ――。

 会場を圧する炸裂音。ひらいた火の花が、黄金色から紅に、青にと色を変え、最後の光芒を放ってかき消える瞬間の美。
 きれい、とライたちがため息を零す。
 フラーゴラが起きに向かった叫んだ。
「綺麗な花火だね。粉々になって湖の底に沈んだ指輪だけど、探してみる?」
 ジェイクは花火を見つめたまま、幻の肩をぐっと抱きよせた。
「たまや~」
 遅れて小さな光が夜空に弾ける。煌めくダイヤモンドの破片はハート形に広がって、二つに割れた。
「Rの野郎……」
「なかなかシャレが利いているな。っと、のんびりしている場合じゃないぞ。警察が来た。みんな、隠れ家で落ちあおう!」
 ヤツェクの掛け声で一斉に散った。バラバラの方向へ走って逃げる。ある者は近くに止めてあったワゴン車に、ある者はボートを使って一目散に逃げる。
「お幸せに……!」
 手を振りながら。ボートの上で口を開けたまま夜空を見上げている花婿に、祝福の言葉を投げつけて。
「――と、幻!?」
「ジェイク様、ちょっとだけ時間を頂けないでしょうか。どうしても言っておきたいことが」
 幻は花婿に向かって声をかけた。
「貴方が本当に愛している方はどなたですか? 花嫁様は貴方が愛人を何人も作るから、想いが恨みとなり、こんな指輪を作らせたのです。貴方が本当に愛している人の元に今すぐ行って謝りなさい。そして愛人と別れなさい」
 花婿の視線がゆっくりと下がっていき、幻の上で焦点を結んだ。
「盗人が何をぬかす。大きなお世話だ! おい、野郎ども。やっちまえ!」
 花婿たちが武器を構える前に、ジェイクは幻の腕を引いて駆けだした。
「あ~ばよ~」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)[重傷]
社長

あとがき

指輪の爆破に成功。
怪我人は出ましたが、奇跡的に死者は出ませんでした。翌日、練達で発行された新聞の一面を、カーチェイスバトルが飾り、巷で持ちきりの噂になったようです。
その後一週間、新聞に花婿の死亡記事は出ていませんから、結婚生活は穏やか(?)に続いているのでしょう。

リクエスト、そしてご参加ありがとうございました。

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