PandoraPartyProject

シナリオ詳細

古社の狐婦人

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 梅の花が境内に可愛らしい花を咲かせている。
 芳しき香りが鼻を擽り、女――鈴華御前は静かに笑みを浮かべる。
 境内には、動物や人の気配はほとんどない。
 賽銭箱にもたれ掛かるように座る御前と――もう一匹。
「のう、久里や」
 声を掛け、立ち上がって本殿へ上がる階段に腰を掛ければ、美しき白い毛並みをした二尾の狐が膝元に顔を乗せる。
 胸元近くまである大柄な体を持つその狐の顔を、御前は優しく撫でつけた。
 その目が、御前を見上げて知性の輝きを持ち、何かを訴えるように潤む。
「……ふふ、分かっておるわ。
 じゃがのう、妾とて、もう疲れたのじゃよ……」
 喉の奥を鳴らすような狐――久里に笑いかけて、抱き寄せる。
「もちろん、ただで死ぬつもりはないわ。
 それは、妾が在り方を歪ませよう。それだけはのう、流石にできぬ。
 ……もちろん、やるとなれば――本気で相手をするしかなかろうの?」
 ぺろりと自分の頬を舐める久里を撫でつけながら、御前は眼を細めた。
「――それから、鈴をもっとる狐はもうおらんな?」
『クルゥゥ』
「回収しておらんのはあの娘に渡してあるものと、お主のそれ。
 あとは……ここを囲うとるやつだけじゃなぁ」
『クァン』
 御前は緩やかに立ち上がると、再び久里を見下ろして、どことなく寂しそうな――或いは申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「じゃが……お主を逃がすわけにはいかぬのじゃ。
 お主は妾によく似ておる。いつか、妾の域に至るじゃろう……何が原因かは分からぬが、の」
 久里の身体を梳いてやるように撫でてから、御前は笑う。
「なに、奴らは英雄じゃ。どうであれ、妾らを殺すに本気で来てくれるじゃろう。
 じゃから――一緒に地獄の果てまで着いてきてくれるかの?」
『クヮァン!』
「ふふ……妾やお主の行く道が地獄などで済めばよい、確かにその通りじゃな」
 そう言って笑った御前の双眸が悦に揺れる。
「さて、手紙でも出すとしようかの。最後の手紙じゃ。
 この身が尽きるまで、全力で相手してもらうとしようかの!」
 その瞬間、御前の周囲を可視化できるほどの妖力が包み込む。
 境内の木々を揺さぶり、本殿が軋むような迫力を放ちながら、楽しそうに笑って、落ち着くなり本殿の中へ消えていく。


 ――所変わってローレットの豊穣支部に一通の手紙が寄越された。
「……きましたか」
 受け取った水瀬 冬佳(p3p006383)は思わずつばを飲み込んだ。
 宛先人の記されぬその手紙に記されていたのは、1つの住所と短い言葉。
 なんでもこれを持ってきたのは、一匹の狐だったという。
 その狐は手紙をカウンターに置くや否や、くるりと身を翻してどこかへ去っていったらしい。
「貴女も受け取ったってことは……」
 冬佳にそう声をかけたのはレイリ―=シュタイン(p3p007270)だった。
「ええ……そちらにも届いているという事は、これは間違いなく」
「うん、鈴華御前の物だと思う」
 頷いて、2人は各々の手紙を見下ろした。
 短い言葉の最後、そこには『ローレットへの依頼状』が記されてあった。
 内容は単純。高天京より遥かな南方へ街道を進んだ先にある、古びた神社に住まう魔種の討伐。
「ここの住所なんだけど、さっき軽く調べたら、今は存在してなかったよ」
「存在していない?」
「うん……でも時代をずっと辿っていくと、鈴華御前が上坂何某と戦った頃には神社があったみたい」
「なるほど……神社そのものを見えなくしているので公的な地図では記されないということですか」
 鈴が無くては辿り着けないとの趣旨の話を貰った時から薄々は気づいていた。
「それでは……人を集めてそこに参りましょうか」
 レイリーが頷くのを見て、冬佳は脚を受付の方に進めた。


 霊験あらたかとはこういうことをいうのだろうか。
 鳴り響く鈴の音について歩き出した10人は、古い石段を昇り、鳥居を潜り抜けて、そこにたどり着いた。
 たどり着いた瞬間、鈴がぴたりと音を失い、みしりと音を立てて砕ける。
「よくぞ参った。神使殿――待ちわびたぞえ」
 境内の奥、本殿へ上がる小さな階段に腰かけていた鈴華御前が、緩やかに立ち上がる。
 全身から立ち上る妖気が彼女が全力であることを知らせてくる。
「――これで最期じゃ。存分な殺し合いを――させてもらおうかの」
 楽しそうに、愛おしそうに、女が笑っている。
「あぁ、それから。そやつもついでに討伐することをおすすめするぞえ。
 そやつは妾に近い。高い知性を獲得しておる以上、いつ『こうなってもおかしくはない』じゃろう、よく知らぬが」
 そう言って扇子で指し示した先で、白尾の狐がイレギュラーズに向けて構えた。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。

さて、そんなわけでカムイグラの動乱から始まった彼女との縁もこれにて最後、ということになるでしょうか。

●オーダー
【1】『狐婦人』鈴華御前ならびに『白尾双狐』久里の討伐


●フィールド
 梅を中心に、幾つかの種類の花が咲き誇る古びた神社です。
 神からも忘れさられたかのような静謐さ、それでいて引き込まれるような神気のような何かに満ちています。
 人気もなく、視界は良好、足場も何の問題もありません。

●エネミーデータ
・『狐婦人』鈴華御前
 金色の瞳と白い髪の女性。魔種です。
 4本の狐の尻尾を生やし、十二単風の衣装を着ています。

 衣装から察せられる通り、回避性能は低いですが、
 それを補って余りある防技と抵抗、HP、神攻を持ちます。
 EXAも低めではありますが、発動してもおかしくない値です。

<スキル>
・通旋風〔真〕(A):扇子より放たれた旋風をもって目の前の敵を吹き飛ばします。
 神近列 威力中 【飛】【麻痺】【停滞】【ブレイク】

・通閃爆〔真〕(A):己に触れた相手との間に爆炎を起こし、直線上を撃ち抜きます。
 神中貫 威力中 【自カ至】【飛】【崩れ】【業炎】【ブレイク】

・通烈衝〔真〕(A):自らの神秘性を収束させ、至近距離の敵へ衝撃波として叩きつけます。
 神至単 威力中 【飛】【防無】【崩れ】【ブレイク】

・通業撃〔真〕(A):自分の全霊を籠めて対象を打ち払います。
 神超貫 威力大 【万能】【氷結】【業炎】【追撃】【ブレイク】

妖狐体質(P):眼前に振るう勇者への恋心を抑えることなどできぬのです。
【覇道の精神】【充填】【攻勢BS回復】

・『白尾双狐』久里
 尻尾が2本に分かれた美しい白い毛並みをした狐の妖です。
 比較的大柄で瞳には知性の輝きすら感じます。
 鈴華御前の腹心であり、一番弟子であり、
 やがては己と同等にまで行きつく(反転し、怪王種へ変じる)と判断しました。

 驚異的な反応速度と回避力、高めの神攻、命中を持ちます。

<スキル>
・魅惑の咆哮〔雷〕(A):神中扇 威力中 【魅了】【ショック】【呪殺】【呪縛】
・誘いの鳴声〔氷〕(A):神遠範 威力中 【万能】【怒り】【凍結】【呪殺】【呪縛】
・毒婦の顎〔真〕(A):神至単 威力大 【猛毒】【致死毒】【麻痺】【呪い】
・魔の片鱗(P):【HP吸収】【AP吸収】

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 古社の狐婦人完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年03月22日 22時03分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

すずな(p3p005307)
信ず刄
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
彼岸会 空観(p3p007169)
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
観音打 至東(p3p008495)
晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸

リプレイ


「私はレイリー=シュタイン。貴殿を討ちに来た!」
 槍と盾を構え、己を晒すように立ち、『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は堂々と声を上げた。
 彼女の愉しみは分かってしまう。レイリー自身、強者と戦う事を楽しむ気質がある。
 だから――不安があるとすれば、それは。
 御前にとっての勇者足りえるか、彼女と愉しみを共有できるか。
 ただそれだけ。
「だから――死のうとするなよ。
 死を覚悟しても生きようとする者との戦いが一番楽しいのだから」
「くふふ、そうじゃのう……その通りじゃ。折角なんじゃからのう……」
 嫣然と笑い返した御前が、立ち上がって、一歩、二歩とイレギュラーズの方へと歩き出す。
「何時かはこうなるであろうと、思っていました
あの鈴の音と共に始まった奇妙な縁ですが――是非もなし」
 分水剣を鞘より抜いて『竜断ち(偽)』すずな(p3p005307)は静かに構えた。
 間合いは万全、油断も抜かりもありはしない。
「此処で、御仕舞いに致しましょう。其れが、望みとの事ですから」
「そういえば、まともに戦うのはこれが初めてですね
 ――覚悟に敬意を。我らの力、存分に御覧に入れましょう」
 『転輪禊祓』水瀬 冬佳(p3p006383)は敬意を見せながら、過去2度における戦闘の事を思い馳せる。
 一度目はどちらかというと探り合いだった。
 二度目は文字通り、両者にとって本命ではなかった。
 だから――全身全霊を賭して戦うのは、これが初めてという事になる。
(久方ぶりですね。俗世の事も忘れ、面倒な事は捨て置き刀を振るう事のみに専心出来ると言うのは)
 妖刀を抜いて意識を高める『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)は、その視線を真っすぐに御前へ向ける。
「貴女の在り様が『然う』であると言うのであれば、私も、否定するべき自身の獣性を曝け出しましょう」
 告げると同時、油断なく構えを取った。
(もしかしたらと思ってた。
 あの人のお墓の前で話した時にはこうなるって分かってたのかも)
 『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)はごく自然に御前から視線を外し、片方の手で片方の手を包み込むように握る。
 握ったあの手の温もりに未練はある。
(……だからせめて、後悔の無いようわたし達で最期の語らいを)
 視線を御前に向けなおして。呼吸を一つ。
 対して御前はその場で笑っている。
 艶を湛えたまま、やったことといえば他の10人を見渡したぐらいか。
 『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)の様子は普段とは違う。
 衣服に香を焚き、肌には化粧。唇に紅を引いて。
 当然、水垢離も済ませている。
「気の入っておるのう?」
 不思議そうに眉を上げて問いかけられれば、至東は静かに視線を合わせ。
「なに、如何に魔鬼とて狐とて、冥府道連れるならすこしでも、見目の良いほうがよかろう故に」
「ほほ、そうやもしれぬのう」
 言葉少なに返される返事を聞きながら、すぅ、と一気に集中していく。
「死合いが望みとあらばその願いに全力を以って応えましょう」
 惜しむような命は持っていないと、『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)は静かに構えた。
 武器など持たぬ。
 雪村家に伝わるは徒手空拳。
 呼吸を整え、視線を敵に集中する。
「豊穣を乱す者を見過ごせないッス! 恨みはありませんが、お覚悟を!」
 黒蝶を抜きはらい、『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)も堂々と告げれば、それを見て御前が微笑んだ。
「愛いのう……ほほほ」
 やや目を細めて、愛おしげに笑っている。
「やれやれだぜ、全力の果てに認めた相手にやられる事を望むタイプかよ」
 悠々と構える御前を見て『倫理コード違反』晋 飛(p3p008588)は愚痴る。
 その脳裏に浮かぶはここではない故郷の兄弟達。
「ちっ、やーな事思い出させてくれるぜ」
 微かな舌打ちと言葉はどちらかというと小声の部類となっていた。
 その視線で御前から少しばかり離れた所に立つ二尾の妖狐に視線をむける。
 声は聞こえない。
 人ではない妖狐に通用するしないの問題以前に、目を見ただけで分かる。
 深い知性を湛えたその瞳は『助け』を乞うていない。
(これが長い時を経た魔種の妖力か、相対するだけで凄まじい”圧”を感じる)
 拳を握り締めて『背負い歩む者』金枝 繁茂(p3p008917)は午前の方へと足を踏み出した。
「だが怯んでばかりもいられない」
 ぐっと視線に力を入れて真正面から御前を見れば、その瞳に艶が滲む。
 繁茂は術式を刻まれた手甲をはめる拳を構えた。
「ほほほ、よいよい、それでこそよのう。
 ほれ、久里、離れるがよいわ。妾の事は良いからの」
 扇子で払うように指示をすれば、久里が更に間合いを開けた。
「さて……妾を相手取るのは――」
 タイムはその言葉とほとんど同時にタクトを振るっていた。
 美しき旋律を呼び出された御子の宴は、イレギュラーズの士気を高めていく。
 続くように、レイリーは御前の前へと躍り出た。
「もちろん、ワタシよ。さぁ、鈴鹿御前。楽しもうよ!」
 極限の集中へと至ったレイリーに対して、御前が愉しそうに笑い、鉄扇を束ねた。
「ほほほ、レイリー殿、それでこそよの!」
 鉄扇へ、妖力が収束していく。
 ほとんど同時に繁茂は御前の背後へ回り込んでいた。
(俺だけでは勝てない、だが仲間と共になら勝てる)
 ぐっと視線に力を籠めながら、立ちふさがる。

「……まずは久里殿、貴方です。
 貴方とも三度目、恨みなどありませんが――死地を求む、その覚悟を御持ちなら!
 介錯、させて頂きます……!」
 最高速で至近して来た久里が毒性を帯びた牙をもって食らいついてくる。
 間合いをあわせて、二の腕に食らいつく狐の牙に対して、返す刀で腹部を切り裂けば、久里が飛び退いた。
 刹那、その動きに合わせるようにすずなも動く。
 着地に追いつき、その一瞬を合わせるように切り結ぶ風の如く舞い散る鮮やかな太刀筋が、久里の身体に傷を付ける。
 乗った勢いに従うまま、すずなは太刀を奔らせた。
 指先で引いた線は五芒星を描き、雷光となって一条の矢へと変質を遂げる。
(多分、祭りの時に連れていた子ですか)
 多分と言いつつも、その実、冬佳は目の前の妖狐がそうであると半ば確信していた。
 知性を湛え、魔性を描く二尾の妖狐には見覚えがある。
(全ての初めに戦った妖狐も確か二尾だったけれど、御前の一番弟子……間違いなくこの子の方が強い。
 もっと力をつけていけば、遠からず人の姿への化身や更なる尾の獲得も叶うのでしょう。
 ……御前がこの戦いに付き合わせたのなら、そういう事なのでしょうね)
 肌がひりつくようなプレッシャーを感じ取っていた。
 何よりも、全ての初めに戦ったあの妖狐と一番の違いは、ここまでの戦いで察するに余りある性格の差。
 あの時の子は、どちらかというと自身に驕り殺戮を好んでいたが、彼女にはそんなものを一切感じない。
「覚悟を以て立つならば、手心は失礼というもの」
 集中する。こちらをひしと見据える敵へ、静かに冬佳は矢を放った。
「へぇ、美人じゃねえか」
 美人――美狐というべきか。眼前に立つ妖狐の容貌は整っているといって良い。
 きっと彼女に人へ化ける力があれば、美女へと化けるのだろう。
「主に殉じて死ぬ、そういう忠義は嫌いじゃねぇ……来やがれ!」
 猛る晋 飛は久里の下へと走り抜けるや、三節棍を握り、妖狐の横顔めがけて殴りつけた。
 ひどく荒々しく、まさに暴力というべき強烈な殴打が、妖狐へと叩き込まれていく。
 しかし猛攻には手ごたえがない。
 小さく、久里が屈んでいた。
 その体勢から、久里が跳ぶ。
 その着地に合わせるように、既に鹿ノ子が動いていた。
「僕の眼と刃から逃げられると思ったら大間違いッス!」
 前足が着地するその瞬間、黒蝶が走る。
 完璧なまでに読み切った斬撃は、久里の身体に吸い込まれていく。
 鮮やかな軌跡を描き、二度、三度と伸びる剣閃は『まるで同じ場所』へと吸い込まれ傷を開く。
「さぁ、月に魅入られた兎のように踊り狂え!」
「貴方にも忸怩たる想いが御座いましょう。然れど、我々とて引く訳には参りません」
 無量は久里の眼前へ躍り出るや、声をかけた。
 知性を持った瞳が無量を見据えている。
 合わせるように放つは瞬天三段。同時に放たれた正中線を穿つ三連突きに久里の身体が大きく崩れた。
 大小二振りの打刀を握り、至東は静かに構えていた。
 その手に握る二振りへ、妖力が収束していく。
「またたきよりも速く、『空谷幽境告天子』、膾に刻んで差し上げよう」
 瞬きよりも速く、その剣は久里へ走り抜ける。
 そこかしこに剣風が吹き荒れ、躱そうとした久里の身体を強かに切り裂いた。
 微かに妖狐の瞳に驚きが浮かび上がるその瞬間、至東が振り抜いたもう一本が追撃の一撃を叩き込む。
 自らへ移すは殺人剣の極意。剣こそ持たざれど、その心得は移すに足る。
 沙月は流れるように久里へと至近する。
 そのまま、驚異的な速度で放たれた無拍子の打撃は、久里の腹部へと突き立ち、追加とばかり踏み込んで打ち出した拳が同じ場所を穿つ。
 ほんの一瞬の隙を抉りだすような打撃に揺れた久里へ、再度の一撃が突き立てば、体勢を立て直すように後ろへ。
 けれど、その余韻たる傷口からはじくじくと血が零れ落ちている。


 鉄扇がレイリーを穿ち、芯を抉るような衝撃が襲い掛かる。
 ほとんど同時、レイリーは握った槍で御前に反撃の刺突を叩き込み、後方へ吹っ飛ばされた。
 レイリーは立ち上がると、再び御前の前へと走り出した。
 その様を見据えながら、どこか懐かしそうに、嬉しそうに御前が笑っていた。
「どう? 私は貴女の勇者になれているかしら?」
「妾の顔を見れば分かろう? 当然じゃの」
 喜びを隠さず答えられた言葉に、油断なく、極限の集中へと潜り込む。
 防御は通じず、強化は壊され、回避に至っては向いていない。
 相性の点で言えば、間違いなく悪い。
 けれど、それでもレイリーは彼女の前に立ち続けようとしていた。
「豊穣鬼っ子魂ィみさらしやがれッ!」
 同じように吹き飛ばされていた繁茂は御前の背後へと張り付きなおす。
 壁役としてみた時、自分はまだ力不足だと繁茂自身も分かっていた。

 劣っている。

 不足している。

 満たしていない。

 ――だが、だからなんだというのだ。
 それが鈴華御前に立ち向かわない理由にはならないのだから。
「ほほほ、よいぞ、よいぞ。その目、その目は良い!」
 心の底から嬉しそうに、御前が繁茂を見て笑っていた。
「自分がまだ未熟じゃと分かっていても、戦おうという覚悟。
 そして自分が未熟じゃという自覚。それを持っとるだけで、お主はとても良い」
「あぁ――そうだ、俺はここにいるぞ!」
 宣誓を告げる意識を向けようと試みた宣誓は、御前の注意を引けてはいない――が。
 そもそもとして彼女はレイリーと繁茂から視線を外さない。


 レイリーと繁茂が注意を引く作戦は今のところ成功している。
 いや、それ以前に御前自身が久里の方へ支援を行なおうとしていない。
 見捨てたというわけではないだろう。
 ただ、死ぬと定めた戦場で互いを邪魔する無粋をしてないだけだ。
 独特な響きを魅せる久里の咆哮は、それの持つ魅惑自体にはおおよそのイレギュラーズが耐性を有している。
 だが、それはそれとして、久里の声には他者を呪い殺す呪性が満ちていた。
 すずなはただ刀を構えていた。
 彼我の間合いを読みあい、一歩前へ行くその寸前、久里が動く。
 跳躍して後退し、声を上げた。
 誘うような音色の声がすずなにズンと襲い掛かる。
 同時、すずなは刀を振り抜いた。
 振り抜いた太刀筋は剣圧となって駆け抜け、久里へと傷を付ける。
 至東は割り込むようにして久里の眼前へ躍り出た。
「これぞ乙女算段……カウンター仕る」
 久里が身体を起こすのとほとんど同時、双刀を走らせる。
 一本で久里の身体を突き、身動きを封じて本命の斬撃一つ。
 完成度高く練られた剣技は外三光。邪剣の一。
 流れたままに、至東の刀が揺らめいた。
 久里のまばたきの一瞬へ、刃を潜ませ、首を落とさんとばかり斬り上げる。
 強かな斬撃は、鮮やかに久里を切り裂いた。
 刹那、すずなは動く。
 もう一度、最適の間合いへと走り抜け、風が舞うが如く自由な剣閃が閃いた。
 鮮やかな剣の流線の果て、すずなはもう一度深く踏み込んだ。
「これにて――終わりにいたしましょう」
 直後、白刃が閃き、ほぼ同時に斬り上げと斬り下ろしの太刀筋が久里を捉えた。
「皆、気をしっかり持って!」
 タイムはある程度の散開を試みる仲間達へ声をかけた。
 範囲を侵す攻撃に対処すべく散開していることで、タイム自身が動いてでの回復も少しばかり工夫が必要だった。
 その一方で、御前への注意を向けることも忘れていなかった。
 幸いというべきなのか、御前からタイムに向けての攻撃は今のところ存在しない。
 寧ろ、それをするのは久里の方だ。妖狐の攻撃は二度タイムへと届いている。
 傷を負った仲間達に近寄って、タイムは天使の歌を紡ぐ。
 目を閉じて、聖句を紡ぐように歌うその声は、やがて救いの音色となって疲労感を削ぎ落とし、傷を癒していく。
 冬佳は再び五芒星を切る。
 久里の足元へ浮かび上がったのは、破邪にして祓魔の光陣。
 大きく広がった陣が瞬時に輝き、久里の身動きを抑え込む。
 身動きを取れなくなった久里の双眸がイレギュラーズを油断なく見据えている。
「逃がさないッスよ!」
 続けて走り抜けた鹿ノ子は同じように踏み込み、黒蝶を舞う。
 鮮やかなりし黒き蝶は再び傷口を押し開き、久里の内側を汚染していく。
 三度に渡る連撃を受けた久里がたたらを踏み、やや後退する。
 その動きに合わせて、無量は再び正中線を穿つ三点撃ちを叩き込む。
 美しい白い毛並みがどす黒く血に濡れていく。
 相手の動き、それを見ていた無量の眼に、それが無意識的に導き出される。
 あとはただそれに添えるだけ。
 吸い込まれるように放たれたただの一太刀が、久里の片目を確かに削り落とし、返す刀がその脇を払う。
 沙月の拳はそんな隙だらけの久里へ、最後の一撃となって鋭く突き刺さる。
 美しき掌打が、血を流す久里の身体を抉り取れば、もう一度の打撃を叩き込む。
 勢いに合わせてもう一度――放つべき拳を、そっと止める。
 そこへ走り抜けたのは晋 飛だ。
「行くぜ、バケモン。お互い全部燃やし尽くそうぜ!」
 晋 飛は未だ輝く光陣の中へと踊りこむや、三節棍を握りなおす。
(こいつらの臨んだ最後の決闘だ、全霊で応えなきゃ格好悪ぃ。
 だから……仲間が助けてくれるたぁ考えねぇ)
 気づけばその手には巨大な双光剣が現れていた。
 それは本来の晋 飛の力。 短期間ながら生み出された強大なる光の剣である。
「絶対にここで俺がテメェを倒す」
 真っすぐに相対した久里の瞳とかち合った。
 震えもしない。怯えた様子も、諦めた様子もない。
 ただ静かに妖がこちらを見ている。
 振り上げた光剣を、そのまま暴力的なまでに振り抜いた。
 極光が走り、久里の身体を焼き払う。
 斬撃と火傷を残してなお、久里の身体が起き上がり――がくりと落ちていった。


 御前が笑っている。
 その笑みが、微かに哀愁を漂わせた。
「どうしたの?」
「ほほ。なに……少々、哀れでの……」
 その言葉はレイリーに、しかし、その視線はレイリーにはなかった。
 しいて言うなら、レイリーの後ろ――だから、何となく察しはついた。
「さて、レイリー殿……少々、離れてもらおうかの?」
 扇を広げた御前がそう言って、手を払う。
 その瞬間、身体が煽られて再び後ろへ吹き飛ばされた。
 何とか持ち直せど、旋風に交じっていた電流が身体に微かな痺れを齎した。
 視線を上げれば、御前が場所を改めていた。
 追いすがるように、繁茂が走り、御前の正面に陣取っている。
「――さて、佳境かの。存分にやり合おうぞ」
 その瞬間、御前の纏う妖力が、一層と増した。
 その双眸に、陶然とした笑みをたたえたまま、否応にでも敵が本気を出したのが分かる。
「俺は、お前の事を何も知らない、どれほどの善行を、どれほどの悪行を積んだのかすらわからない。
 だとしても、安らかに逝けるように、願っている」
「ほほほ、そうかそうか。それは頼もしいのう」
 そう言って笑う御前の瞳が、繁茂を刺す。
「お主、改めて見ると良い男ではないか……じゃからこそ、少々惜しいのう。
 まぁ、よく知りもせぬ者に言葉を話すのも無粋じゃが」
 手元に扇子を添えて口元を隠す御前と視線が合った。
 繁茂はそれへ睨み返すように視線を交える。
(俺だけでは勝てない。だが、仲間と共になら勝てる……)
 緩やかに笑む女と視線を交えれば、怯みそうになる。
 パンドラの箱は既に開いた。あと少しで、この身は倒れるだろう。
 それでも、ここにいるのは自分だけじゃないのだから。
「お主、何のために立つんじゃ?」
(豊穣の未来の為、あいつの夢の為……)
 思うことはあれど、それをわざわざ言ってやる筋合いはない。
「俺は俺が為すべきことを為す」
「そうかえ……まぁ、良いわ。役者も揃うたことじゃしの」

「お待たせ致しました――さぁ、私とも死合いましょう?」
「くふふ! そうでなくては! さて……久々の全力じゃ!」
 すずなは満面の笑みを浮かべた御前へ踏み込んだ。
 敵は堅牢、在り方は宛ら固定砲台のようなもの。
 生半な一撃はその防御技術と抵抗力に防がれる。
 故に――狙うべきは急所。
 そして、それは手に通るように分かる。
「――お覚悟を!」
 舞い散る連撃のほとんどは、御前からあふれ出す妖力の壁にほとんどの勢いを殺されていく。
 命を削り落とすための攻撃を、とても嬉しそうに笑って受けている。
 だが、その最後の一太刀がわずかに届いた。
 ピシリと走った斬撃が微かに十二単を裂く。
「お待たせしました、御前。楽しんでいらっしゃるようですね」
 御前の方へ歩みを進めた冬佳も同じように声をかけた。
(御前は……どうやらご自身の反転を、変化をきちんと把握している。
 その上で、然程変わらない自我を保っていらっしゃる)
 眼前で、楽しそうに笑いながら剣戟と交わす御前を見つめ、思う。
 これまで見てきた魔種は大遺体の人格が影響で大きくゆがんでいた者が多い。
 それは恐らく反転によって増大した衝動に精神が呑まれてしまうから。
 冬佳はそう仮定する。
(……いっそ衝動のまま狂えていれば気が楽だったのでしょうけれど、そうなれなかったのですね)
 それは既に聞き知ったこと。彼女が執着を向けていた先の死。
 元々の性質と反転の方向性が合ってしまったが故に狂い果てきることもなく、それでも素面で長い時を生き続けて。
 彼女がどれだけの生を生きたかは知らない。
(けれど、長い時を経たが故に、飽きて疲れてしまった……というところでしょうか)
 雷光が迸る。集中して、描いた破魔の五芒。
 煌く一条の雷霆を、冬佳は静かに弾いた。
 真っすぐに放たれたそれが、死角から鈴鹿御前へ炸裂する。
 抵抗力を削り落とす破魔の矢に御前の瞳が見開かれた。
 同じころ、タイムは再び饗宴を舞う。
 仲間達の集中力を取り戻させてから、レイリーの近くへと歩み寄り、詩を紡ぐ。
 美しき音色が集中力と気力を取り戻させる中、タイムは視線を御前に向けた。
(殺し合いの中で生まれた愛……殺し合いの中でしか生まれない愛)
 それは、タイムの知る『愛』とは違うもの。
「それでも、あなたに刻むと決めた。どうか、愛して」
 言葉を小さく、御前に向ければ、聞こえたかも分からないが御前が笑う。
 御前からの攻撃は、タイムには来ない。
 距離的に通せないわけじゃない。
 通さないのだろう。
 舐められているわけではない。
 しかし、彼女はタイムには攻撃するはずがない。
(……御前は唯一の癒し手のわたしを倒せば有利になると考えるかもと思ってたけど。
 むしろ逆……唯一の癒し手のわたしを倒そうとだけは絶対にしないつもりみたい……)
 その理由も、なんとなしに理解出来てきた。
 癒し手がいれば、それだけ長い間、戦えるから。
 効率も、戦略性も度外視している。
 勝つための戦いであればそんなことをするとは思えないが、『全力で殺しあって死ぬつもりの』彼女は満足するまで死力を尽くすつもりなのだろう。
 久里の攻撃の殆どを受けきった晋 飛の傷は決して浅くない。
 御前の前へ歩みを進め、三節棍を構える。
 至近距離へと走り抜けた晋 飛は真正面から御前を殴りつけた。
 暴れまわるように振るう暴力的なまでの猛攻が御前の首から肩辺りを殴りつける。
 確かな手応え――けれど、芯にまで通った気はしなかった。
「はっは、お前ら強いなぁ……」
 晋 飛は笑っていた。
 これが最後の大技だった。
 燃費はかなりいいが、それを差し引いてもほとんど空っぽだった。
 真っすぐ御前の方へ鹿ノ子は駆けた。
 閃く黒刀は鮮やかに月の魔力を帯びたまま御前に伸びる。
 張り巡らされた妖力の壁、その隙間を導かれでもしているかのように縫って、首筋を捉えた。
 数度の連撃が御前を裂き、女の瞳が驚きに揺れる。
「ほほ、真っすぐでよいのう」
 連撃に愛おしそうに笑って――直後、炎熱の如き一撃が放たれる。
 鹿ノ子はそれを何とか躱して、その場に着地する。
(このひりつくような緊迫感……
 命のやりとりをしていると実感が湧いてきますね)
 自然体を崩さず、沙月は前に出た。
 応酬続く合間に、己の現身に邪剣の理を描きながら、人体への理解を追い進めていく。
 踏み込みと同時、流れるように御前の腹部目掛けて拳を振るい抜く。
 静かな拳打はその殆どを殺されながらも、御前に傷を与え、勢いに任せ自然体のまま、もう一度、同じ所へと拳を叩き込む。
 無量は意識を御前に向ける。
 構えを突きへ向けようとして、太刀を降ろす。
(否……御前様の最後を彩るに小細工等で汚してしまっては飾り映えとしては下の下)
 構えを静かに、駆け抜けた。
(貴女が何を思い、我々を此処へ招き最後を求めるのか。
 この額の瞳をもってしてもそれを見通す事は叶わぬでしょう。けれど――)
「嗚呼、貴女が最後に自らを斃す者を求めると言うのであれば、
 私がそうなりましょう。貴女の存在を赦さぬ英雄となりましょう」
 集中する。
「手向けにお見せ致しましょう。この社に咲き誇る物に勝るとも劣らぬ花を」
 腕に握る太刀の間隔さえ失せるほどの集中と共に、踏み込み一閃。
 白刃に反射し、開くは白蓮華。
 曇りなく、美しき道を示す花。
 その向こう側に、確かに鈴華御前を見せた。
 これこそは救いの体現。罪ある者を蓮華の座へと誘う太刀。
 御前の前、至東は御前の顎を撃ち抜くように足刀を撃ち込み、その勢いのまま、魔剣の力を増していく。
 軸足をバネに、くるりと跳ねて撃ち込んだ斬撃は、削れつつある御前の妖力の壁とせめぎあい、勢いを殺され――壁を割って内側へ。
 刃が御前の肉体を裂く中でなお、彼女は笑っていた。
 その笑みを見ながら思い浮かぶ。
 あの時の恋の話を。あの愛の歌を。
 捨てたはずの共感はしかし、刹那く、この身を追い縋る。
 自然と、目を閉じていた。
 集中力を切らしたわけじゃない。寧ろ、冴えていく。
 連撃の隙に反撃を撃ち込まんとする御前を見据えながら、それは血と鉄の匂いの中にある――
 その視線の先で、鈴華御前が喜びに満ちた笑みを浮かべた。
 迷いは失せた。次の一太刀へ――

 レイリーは静かに槍を構えて御前の前へと舞い戻る。
(一目惚れでした。
 敵としても女性としても。
 血沸き肉躍る好敵手とも、妖狐達を愛する母としても)
 初めて出会った時は、数ヶ月に渡っての関係になるとは思っていなかった。
 ――けれど。
「……勇者と妖狐という仲良き宿敵の間柄になりたくて。
 家族亡き私にとって母として重ねてしまってもいて」
 奮い立たせて、前へ。槍を構えなおせば、緩やかに御前が笑っている。
 彼女に刻まれた傷は多い。
 平然としているように見えるが、よく見れば体中に傷が見え、十二単で分かりづらいものの、その呼吸が荒くなっているように思える。
「妾を母と……ほほほ、照れてしまうのう。
 なるほどたしかにのう……娘がいれば違ったのかもしれぬのう……」
 目を細めて御前は笑う。
 その視線は、やがてレイリーの後ろの久里から、レイリーに戻ってきた。
「妾も、短かったが楽しかったぞえ。
 まったく、つまらぬ長い時を生きたが……こうなるのであれば、生きてきて悪くなかったとも思えようぞ」
 強烈な打撃が身を穿つ。
 それはレイリーを貫通して後ろへと走り抜ける。
 煽られる中、もう一度槍を撃ち込んだ。
 真っすぐに入った槍は弾丸のようになって御前の心臓部を貫いた。


 芯を捉えた一撃に、御前の身体がゆらりと揺れて、そのまま崩れ落ちた。
「御前……満足いただけましたか?」
 冬佳は剣を握り油断なく構えたまま、そう問うた。
 御前の命がもう風前の灯火であろうことは明らかだった。
「くふ……ふふ、当然……じゃのう」
 視線を上げて、冬佳を見た御前が笑みを作る。
「……そうですか。では……亡骸はお望み通り彼の墓の傍に葬りましょう」
「そうかえ……それは……助かるのう……」
 タイムはそう語る御前の下へとゆっくりと歩み寄り、その手を握った。
「あなたに愛されるほど、わたしは上手くやれた? これで良かった?」
「娘……」
 傷だらけになった掌を、御前が弱弱しく握り返す。
 泣かない。笑顔で別れを――そう思っていても、喉の奥が詰まって声が引きつってしまう。
 そんなタイムの頬に、御前が開いている方の手を添える。
 敵意はなかった。
「……無理に笑うものではないぞえ……きっとの。
 じゃが……笑おうしてもらえるのも……悪くないのう」
「今度はわたしが忘れないから」
 声に出せば、御前が緩やかに笑みをこぼす。
 そのうち、タイムの頬に添えられていた手が、地面へ落ちていった。


 戦いを終えたイレギュラーズは戦場となった神社から高天京に向かって進んだところにある久留尾郷という村に訪れていた。
 以前に来たことのある面々が村の翁に話を通してから、御前の遺体を運んだのは、風化しかけた石塔婆の近く。
 御前を石塔婆の手前に開けた穴の中にそっと横たえて埋めなおす。
 すずなは作業が終わると一輪の花を供えて後ろに下がり、そのまま静かに目を閉じた。
 念入りに準備を整えると、無量は目を閉じて、経を唱え始めた。
 丁寧に静かに導かれる経の言葉が、竹林を包み込む。
 御前の埋められた場所を見つめ、レイリーは静かにおもう。
「ねぇ、鈴華。私は貴女の勇者になれた?」
 気づけば、そう声に漏らしていた。
 戦場でも問うたこと。
 その答えはもう知っているけれど。それでも、自然と言葉にしていた。
「……私は貴女ともっとお話ししてお酒でも飲んで良き友となりたかったよ」
 ほんの少しばかりの後悔だ。もっと長く、そうあれたら良かった。
 でも、それが彼女の願いだったから。
 自分達と命がけで戦う事こそが、最後の願いだったから。
 経を最後まで締めくくった無量は、そのままそっと手紙を取り出した。
 一言、『帰楽邦』とのみ記された文を、礼に則った通りに折って燃やす。
 燃えて消えたそれは死出の手向け。
 静かに、もう一度だけ手を合わせてから、そっと立ち上がる。
「さよなら」
 最後にもう一度振り返って、レイリーは一言だけそう告げた。
 石塔婆の手前、埋めなおされたそこで、どこからともなく姿を見せた子狐が小さく丸くなっている。
 それは瞬きとともに消え、微かに震えた竹の音が耳を打っていた。

成否

成功

MVP

レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

状態異常

彼岸会 空観(p3p007169)[重傷]
レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ
観音打 至東(p3p008495)[重傷]
晋 飛(p3p008588)[重傷]
倫理コード違反
金枝 繁茂(p3p008917)[重傷]
善悪の彼岸

あとがき

激戦お疲れさまでした、イレギュラーズ。
MVPはその情熱と盾役としての力へ。
幾つかの称号を出しました。

PAGETOPPAGEBOTTOM