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シナリオ詳細

再現性帝都1920:帝都東京IDOLA

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●赤く染まる心臓道路
 歴史の話をしよう。
 探求都市国家アデプトは、異世界から召喚された者達によって形成された、総ゆる世界の総ゆる文明の人間が集う場所。彼らの技術がいかんなく活用されたその国家は、混沌世界一と言えるほど快適な空調管理や安全管理が施された楽園だ。
 その中でも『再現性東京(アデプト・トーキョー)』は日本地域出身のウォーカーや、彼らに関心を持った者達が造り上げた区画。
 敷き詰められるように居並ぶ建築物、それらが放つ光源は周囲を照らし、街が眠るという事を知らない。そんな近代的な街並みは、地球からこの世界に召喚された日本人の“聖域”といっても差し支えない場所であった。

「……ここ、どこだろう……」
 『動物好きの』リトル・ドゥー(p3n000176)は、そんな再現性東京の、更に奥地に迷い込んでいた。
 パサジールルメスの民である彼女は、ファルベライズの解決を経て「イレギュラーズの力になりたい!」と情報屋の真似事をするようになった。
 暗くなる前に保護者の元へ戻る。そんな約束の下に行われる『ごっこ遊び』。そうやって再現性東京を探検していた……はずだった。
「だいーぶ、奥まで来ちゃったのかも」
 辿り着いた場所に見えるは、『2010街』にあるような堅牢な高層建築物とは違う、漆喰(しっくい)で白く仕上げられた建物。『1970街』では当たり前だったコンクリートの道路は、赤煉瓦に置き換わっている。
 瞳の中に焼きつくようなネオンサイン。イルミネエションの点滅はめまぐるしく――

 ――パッ。

 焼けついたネオンサインの色弾け、眼の中に散る蒼いスパアク。
 煉瓦造は真紅の血液を吸い込んで。モツト、モツト。あゝ この血によつて、聖域は啓示(けいし)せられるのである。
「あゝ。可哀(かわい)い、不行儀な奴め。聖域を踏み荒して赦されると思つてゐたのか。」
 少女は涙を翻(こぼ)すまいと、代わりに頬の上を血が伝はつて流れてゐた。

●IDEOLOGY
「あゝ――ああ。えぇ。そうです。窓から見えました。その碧い髪の少女は、赤煉瓦街の心臓道路で。頭を何度も殴られてました。」
 聴取の為に、ローレットの支部まで赴いてくれた“帝都1920街の情報屋”。彼女からソレを聞きだして『狗刃』エディ・ワイルダー(p3n000008)は胃液を吐きそうになった。
 発端はエディ・ワイルダーが「リトル・ドゥーの捜索」を保護者から頼まれた事からだ。単なる迷子捜しと高をくくっていたのだが……いくらか探し回ったところ、その子が血塗れになって倒れているところに出くわして、慌てて保護したという次第だ。
「貴方や、私が駆けつけねば意識を失つていた彼女は何処ぞに連れ去られていたでしょう。」
「……その、再現性東京……もとい、再現性帝都はそういう歓迎が当たり前なのか?」
「いいえ、それは違います。」
 情報屋から心外だと言わんばかりに睨まれた。その怒りご尤も。慌てて謝罪するエディ。

 再現性東京・希望ヶ浜では『完全な人間型』の者以外は街の人達に強く恐れられてしまう事があるらしい。
 もちろん、再現性東京内でもその度合いは時と場所によるだろう。
 昼中に獣人のエディが出歩いてたら「着ぐるみだー!」とか「おおかみさんだー」とか子供達の人気者になるかもしれないし、夜中に歩いていたら狼人間の化け物と誤解されて逃げられるかもしれない。
 彼らに等しく同じなのは、“ファンタジーの存在”あるいは“外から来た人間”という認識だ。
「ですが私達は外からきた人間を目にするなり殴つたり致しません。他の再現性東京だつて、たぶん、そうでしょう?」
「ではなにゆえに……」
「どこにも極端な人間はおるものです。」
 情報屋の女は、苦虫を噛み潰したような顔をした。
 曰く、再現性帝都にはファンタジーの存在を恐れる余り、街へやってくる『外来人の排除』を声高に叫んでいる人間が、ぽつん、ぽつん、と居(お)るらしい。

 ――あア。異端祭文化物地獄。さても地獄をどこぞと問えば。この再現性帝都の外にある。やって来るクル、クルリと。眼玉をくり抜くに違いない。修羅や畜生、餓鬼道の化物。数をつくした八百万。やって来たならその八百万。拳や剣で殺してしまえ。我ら“聖域”守る為。

「そう公に吹聴し回って他人を煽っている人間がおるのです。」
「そんな物騒な事を吹聴するヤツが?」
「ええ。ですが私の認識からいわせてもらえば。貴方のような獣の人妖ならまだしも、髪が碧いだけの子供を何度も何度も殴る方が畜生化物ではないでしょうか。その認識については帝都とて東京とて、同じでありましょう。」

 話を伝え終えた情報屋の女が帰ると、エディはイレギュラーズへ向き直った。
「簡潔にいえば、『女の子に乱暴を働いた男を、逮捕して欲しい』」
 彼は複雑そうに口(マズル)を両手でおさえながら、細く溜息を吐いた。
「帝都1920……えぇっと、タイショウだったか? ショウワだったか? そんな時代を再現した街並で、住民達の人柄もちょっとクセはあるが……他の再現性東京と大して変わらんはずだ。ちょっと機械が少ないとかそういった不便はありそうだが、そこだって他の国家で仕事するのと大差ないさ。問題はこれだ」
 そう言ったエディは、自分自身に親指を向けてみせた。
「……容姿だ。人間種(カオスシード)なら衣装を替え、言葉遣いや振る舞いに気を遣えば誤魔化せよう。だが俺のような見た目の獣種(ブルーブラッド)や旅人(ウォーカー)は、外来人だと即座にバレる」
 それは他の『非人間容姿』を持った種族についても同じ事がいえる。一般人からどういう対応をされるかその時の状況によるだろうが、少なくとも“外から来た人間”と“同じ街に住む身内”に対する反応は違うはずだ。
「なんにしてもだ。練達の首脳陣や保護者達から懸賞金が寄越されているし、この依頼を断る理由も特にない。帝都にとっても、外の人間にとっても『共通の敵』というわけだ。それを捜す事を、君達にも頼んでもいいかい?」
 エディぎこちない笑みを浮かべてながら、再現性東京から取り寄せた1920年代の衣服をイレギュラーズに着せようとしてくるのであった……。

GMコメント

 全2~3章予定のラリーとなります。

●成功条件
『外来人(リトル・ドゥー)を誘拐しようとした男の身元を捜索し、確保する』
『?』

●第一章
 再現性帝都の『心臓道路』と呼ばれる場所でリトル・ドゥーは誘拐されそうになりました。
 彼女を連れ去ろうとした男は、そこから逃げていく場面までは目撃されています。
 現地の情報屋曰く「外来人を異様に嫌う人間がいる。たぶんその手の人間の仕業でしょう」との推測が立てられました。
 何にしても、犯人を捕まえるには情報が足りません。
 各々の得意分野によって現地で情報を収集していき、そこから集まった情報から更に深層へ辿り着く必要性があるかもしれません。

●同行可能NPC
『狗刃』エディ・ワイルダー
 標準的な前衛能力を持った傭兵。同行を提案した場合、プレイヤーキャラクターに対する護衛を引き受けてもらえるでしょう。
 ただし彼を引き連れてると、外来人だと非常にバレ易いです。
(指示すれば顔を隠して衣装を替えるなどはしますが、目立ちます)

『動物好きの』リトル・ドゥー
 パサジール・ルメスの子供。動物と話せますが、戦闘能力は全く有していません。
 なお、犯人の顔は見ていませんが、声はハッキリ覚えているようです。

●プレイングについて
 特定の人と同じ節で描写希望の場合は、一行目に『【タグ】』あるいは『キャラクター名(ID)』をお願いします。
 また、今回は“非人間的な容姿”かどうかで左右される場面もあります。スキル『変化』『変化Ⅱ』の使用の旨も含めて、依頼に赴く際のキャラクターの容姿(ないし服装)について簡単に書き込んでいただけるとリプレイに反映されやすいかもしれません。

●『再現性東京』及び『再現性帝都』について
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 再現性帝都1920は、その再現性東京と同じく練達に作られた一区画である。
 成り立ちについては他の再現性東京と変わりはないが、住民達は独特な文化を有するせいか再現性東京の枠組みから外れ、『再現性帝都』を自称しています。
(再現性東京1920自体は、また別の区域として存在しているらしい)
 再現性東京と再現性帝都の違う部分は、住民達の「地球人である」という自負や自立・自活の精神が強く、帝都住民同士との交流は密接で……外の世界と関わる事に消極的な事です。
 彼らの言動は奔放的――かつ、どことなく排外的――で、他の再現性東京と比べて外来人(特に非人間容姿)が物珍しい目で見られる事は多いかもしれません。
 再現された帝都の街並はまさしく近代化の過渡期にあり、場所によってはその差が著しく激しい。エスカレーターやエレベーターなど現代的な機械が導入されている建物がチラホラあるかと思って足を伸ばせば、そういった機械技術の浸食が及んでいない町村部(群部)もあるみたいです。
 そんな帝都の一般人にとって共通しているものは――異邦人が理由なく暴行されるというのは、彼らにとっても許しがたい事件という事です。

●赤煉瓦街・心臓道路
 赤煉瓦街。ネオンサインやイルミネエションが眩しい商業・娯楽の盛んな地です。(1920年代の)流行の最先端をゆく街であり、映画、演劇、ショウ、そして劇場――それらを楽しむ人々が押し寄せる活気のある街です。
 赤煉瓦街とはいうものの、建築物は漆喰で塗り固められており赤いのは歩道だけ。その見た目から『心臓道路』と呼ばれています。
 多数の商店やカフェーが立ち並んでおり、洋食を提供する店では、キレイな女給さんがお客さんとの噂話に興じているダトカナントカ……。
 また、特筆すべき文化としては外からやってきた異邦人が、現地人とは『趣の違った優れた(あるいは特異な)容姿』を見込まれ女給さん・俳優として雇われる事がしばしばあるそうです。
 もし平時に寄ってそういうお声を掛けられたならば、貴方も帝都の一員として加わってみるのもどうでせうか。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • 再現性帝都1920:帝都東京IDOLA完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月28日 20時50分
  • 章数2章
  • 総採用数29人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

「まあ可哀い。希望が浜から来たのかしら。」
「えぇ、まぁ」
 希は、オムライスを「おいしいおいしい」と頬張るオイリの対面に座りながら、女給と会話を交わしていた。
「ふふ。まあ。そな風に食べてくれると私もうれしいわあ。それにしても希望が浜の方から観光だなんて珍しい。うちら以上にお外の事がお嫌いでしょう?」
「……ま、観光で」
 好意的に振る舞ってくれているであろう女給からでさえ、言葉の端々に何かしらの壁を薄らと感じる。希望ヶ浜の人間に対してもこの態度。
 ともあれ希の方から「名所や、行くべき場所。あるいは近づかない方がいい場所を教えて欲しい」と尋ねると、女給は快くそれを教えてくれた。
「赤煉瓦街の名所といえば、やはりデパアト。それ以外だと演劇や劇場でしょうね。」
「あぁ、異邦人も雇うと聞いているけど」
「それは本当。だって、お外の方つて見た目や“素の振る舞い”ですら私達にとつてオモシロイですもの。」
 女給は微笑みながらオイリを見た。食べ終わっていたオイリは、彼女の視線を受けて首を傾げる。
「でも気いつけて。心臓道路――あの劇場地域近く。少し前にこの娘くらいの女の子が鈍器で殴られて血塗れにされたいう事件があるし。」
 ……“一人ではその様な場所へ行かない方が良い”という事か。
「ご忠告感謝する」
 食事代を支払い去り際、希は声を掛けられた。
「暇してる友達が居うたら紹介してね。こんな可哀い子なら、うちは歓迎よ。」

成否

成功


第1章 第2節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

 場所は心臓道路。そこで劇場広場に行き交う人が立ち止まり、いつしか人集りが出来ていた。
 その中心にはよく分からない肉が詰め込まれた食料樽に囲まれた、三メートルの人影が……
「嗚呼。『その噂』ならば聞いた。何でも血塗れで発見されたとか――」
 オラボナだ。人外的容姿を隠そうともせず、一般市民と会話を交わしている。
 周囲の人間達も、見世物小屋を観に来ているような感覚でケラケラと笑いながらオラボナと対話していた。
「何。私。私を殴る奴が在るとは思えぬ。折角だからお兄さん、もうひとつどうだい。Nyahaha!」

 そんなこんなで数時間経った頃合い。さすがに人集りも失せ、夕方になってこの道路では通りかかる人々もまばらになってきた。
 周囲に誰もいなくなったので、オラボナは一旦切り上げるべく謎の肉が詰まった樽を抱え上げようとした。
 ――そして鈍い音と共に、彼女の頭に鈍器が打ち込まれた。

 一方で、デパートに向かった希とオイリ。
 エスカレーターやエレベーターがあるとは聞いていたが、その様子は希望ヶ浜などのデパートとそこまでの変わりがない事に少々驚いた。
「ニッポンって、百年前からこんな風だったの?」
 不思議そうに店内を見回すオイリ。その様子があまりに初々しいものだから、希含めて笑みがこぼれた。
「そうみたいだね。でも、手を離しちゃ――」
 希は違和感を覚えた。周囲からニコニコとした視線が注がれてるまでは、まぁ理解出来る。だが、一切笑わずにずっとこちらを睨み付けるあの男性……。
「……何か?」
 男性は背中に棒を入れたような歩き方で近づいてくる。
「外来人だな?」
「そうだけど」
 希はオイリを庇うように後ろへやる。それを見て、男は懐から何かを取り出した。

「……以前からだって?」
「あゝ。そうだ。」
 希はデパートの外へ一旦出て、取り出された手帳を偽物でないか確かめながら警察官の『清次郎』から話を聞いた。
 彼曰く――“異邦人が襲われる事件は以前からあり、既に行方不明者も数名出ている”。
「なんで他の区域に応援を要請しないの?」
「上官殿曰く『異邦人の誘拐事件など帝都の恥。我々だけで解決すべし。情報屋のアッパッパ共にも報せず――」
「バカげてる」
 希は額を覆った。自分達は囮扱いか。……それならもっと心配されるべき人がいる。

 希達は心臓道路の方に急いだ。そこに広がっていたのは凄惨な光景。道路には臓物がぶちまけられ、中心の人影の頭部はカチ割られ――
「Nyahaha。頭のオウトツ程度で我が存在は失せぬ」
「!!?」
 何でも無い風に立ち上がるオラボナ。卒倒しかけるオイリと、それを支える希。
「何故、平気なのだ。」
「此の臓物とて樽が爆ぜただけに過ぎぬ。私を襲撃した者の逃走は、赦してしまったが――イヤ、其れより」
 オラボナは希達に語った。“犯人は、明らかにイレギュラーズと対等に戦えるだけの能力を有している”と……。

成否

成功


第1章 第3節

ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
アイシャ(p3p008698)
スノウ・ホワイト

「見たか。御化けが肉を樽イッパイに詰め込んで。」
「人を捌いて売り払っているに間違いない。アッハッハ。」
 和気藹々としている男達が通りすがり、ティスルとアイシャは不思議そうに首を傾げた。
「どうかなされたのですか?」
「あぁ。あちらさんの道に――」
「イヤイヤ、外来人の陰口など止めておけ。」
 ……おそらく余所で情報収集している仲間の事であろう。
 さておき、彼らに「異邦人絡みの噂話などはないか」という話を尋ねた。
「異邦人絡みと云えば、ここで碧い髪の子供が――」
「ふむ、それ以外には?」
「劇場で異邦人の役者を見掛ける機会が、妙に増えた。」
「俺達が見たのはBLUEBLOODという人種だったか――人から獣に変化する瞬間ときたら、オモシロイったら。」
 獣種への微妙な偏見を感じて、複雑そうな顔をするアイシャ。
「うん、ありがとうございました。行こっ」
 ティスルは彼らへお礼を述べると、アイシャの手を引っ張ってその場から立ち去った。

 彼らから注がれた好奇の目。それ自体に悪意は無いが、何かの拍子に変貌してしまうのではないか。アイシャはそう思い、顔を俯ける。
「アイシャとお揃いね?」
「え?」
「真っ白な髪に、豊穣の衣――」
 ティスルは自分達の髪や衣服を指さした。獣種か、飛行種か、自分達にとっては些細な事だと励ましてくれているのであろうか。
「普段からアイシャの髪って綺麗で羨ましいって」
「ふふ、ありが――」
 ティスルが突如としてアイシャに寄りかかる。二人達はそのまま体勢を崩し――ティスルの背中が杖状の物で殴打され、彼女は自分に殴り掛かってきた男の腕を迅雷脚で蹴り上げた。
「ティスル!?」
「あゝ、気ずいてゐたのか。」
 殴り掛かってきたのは顔を仮面で隠した男。彼は腕の痛みを堪えながら「ククク」と笑う。
「うん、二人っきりになった辺りからずーっと狙ってたでしょ?」
 冷静に構えを取るティスル。慌てて、聖光の呪文を唱え始めるアイシャ。
「ついて来い、来い。嫌だ嫌だと喚くながら、頭を割って棄てて行くぞ。」
 男は誘拐されるよう命令しながら、アイシャへ殴り掛かる。
「お断りするわ!」
 再び彼女を庇い、勢いままに体当たりを仕掛けるティスル。組み伏せられる形で倒れ込んだ男へと、目眩ましのような聖光が降り注ぎ、その眼を焼いた。
「お、おとなしく降参を……」
 アイシャは取り押さえたと認識して降参を促す――だが、その瞬間、ティスルが後ろに飛び退いた。
「?!」
 ティスルの腹部を見ると、横一閃の切創が深々と刻まれている――攻撃される瞬間、彼女も反撃を加えたのか、男の人差し指が歪な方向にねじ曲がっている。
「ナント。其れで死なぬとは――只のカルメンかと思つたが、まさか『特異運命座標』か?」
 仮面の男は相手の力量を見極めるや否や、逃走の構えをみせる。
「ま、待て!!」
 ――常人ならざる機動力。そのまま仮面の男は、劇場地域の方へ逃げ去っていった。

成否

成功


第1章 第4節

 ――襲撃を仕掛けられたイレギュラーズは、ひとまず警察官の清次郎に聴取という形で保護された。
「劇場地域の方に逃げたのだな?」
「……えぇ、それはハッキリと」
 仮面の男を撃退したイレギュラーズ達は、清次郎や仲間のイレギュラーズに犯人は、劇場地域の方に逃げていったと説明する。
「ならば、おそらくはその地域の人間だろう。Nyahaha」
 イレギュラーズの一人がそう意見を述べた。
 ――実際、負傷したのなら自分のテリトリーに逃げ込んで治療するのが自然だ。一般市民に目撃されない経路だとか、もし相手の方が力量が上だと判断すればその逃げ道だとか、そういうのを知り尽くしてるに違いない。
 ……“犯人は、劇場の関係者”。
 誘拐犯を捕らえるには各々の得意手段によるだろうが、清次郎からいくらか相談があった。
「考えられる事が幾(いく)つかある。」
 まずは、『立て続けに実力のあるイレギュラーズに遭遇した誘拐犯の手段が慎重化するであろう』という事が考えられる。例えば、非戦闘員を装うかしないと全く襲って来ないなどだ。
 それを踏まえた上で「それだけならまだいい方だ」と彼は述べた。
「もし誘拐犯が一人でなければの話。集団で襲ってくる可能性も有る。市民の目の前で大つぴらに襲うとは考え難いが。」
「こんなあからさまに警察官です、っていう人の目の前で襲うとも考えられないけどね」
「………。」
 劇場地域自体は、『余程の時間帯でなければ一般市民の往来が多い。場所や時間帯を気をつければ襲われる心配はまずない』。それは清次郎なり、現地の協力者を連れている場合も同じだろう。
 ローレットギルドに控えていた仲間達にもそれらの事を説明し終え、イレギュラーズへの聴取も終わった清次郎はひとまず帰って行った。


第1章 第5節

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮

 アルヴァは、無害な少年を装い、碧い髪の少女の事を赤煉瓦街の道行く人々に尋ね、あるいは心を読んでみるが市民は些細な事しか知らぬらしい。
 存外収穫だったのは、住民に『現地人同士』と誤認させれば異邦人へ憚られる話題の尽くが聞き出せそうな事だ。変装か演技の技術を要するだろうが……アルヴァは次に移る。

 相変わらず無害な少年を装う所は同じ。が、尾や獣耳を晒し、己が獣種である事を示した。
 ひとけのない場所をうろつき。突如、背後から風切り音。反射的に徒手で受け止めた。
「ねぇ……おにーさん何者?」
 殴り掛かってきたは、人差し指に怪我を負っている仮面の男。それは早くも逃げの姿勢を見せる。
 しかし機動力自慢のアルヴァ。彼が追うと決めた以上、逃げるのは容易い事でない。
「何か知ってるなら教えろよ。俺の妹を傷付けたことは万死に値するぜ」
「さうか。窮奇め」
 逃げられないと悟った男は、真っ向勝負を仕掛ける。
 場面を左右したのは近接能力の有無だった。お互い数合ほど打ち合い、本来が射手役であるアルヴァ側が攻め手に窮す。
 刹那、暗闇に銀色の筋が走る。
(――仕込み刀)
 直後、アルヴァは逆袈裟懸けに切り上げられる。
 男は返し刃で心臓を突き刺そうとする。しかし、直前に戦闘を行ったティスルらの追走する音。
「あと一歩のところを!!!」
 激昂する仮面の男。アルヴァの足の甲を刀で地面に串刺し、包囲される前に逃げ去っていった。

成否

成功

状態異常
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮

第1章 第6節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて

「体の怪我がようやく良くなった頃合いかと思っていた矢先にコレか」
 ローレット支部。ラダは聴取の傍ら、頭に包帯を巻いたリトル・ドゥーを見つめながらいくつかの質問をした。
 犯人の年齢や口調、内容。思い出せる事をなんでも。
「――以前の事もある。思い出す事が苦痛なら止めていいんだ」
 リトルは以前も大怪我をした事がある。だが「大丈夫!」と笑顔を見せ、必死に思い出そうとする。
「……後ろから殴られたから顔は見てない。けど声が演技っぽかった」
「声?」
 芝居がかった声色をしていた、と証言する。
 おそらく声質を誤魔化す事も兼ねていただろうが、それ以上に重要なのは“演技経験がなければ出来ない声調”であった事。
「……役者、か?」

 そうして日が高い頃合いに移る。
「えぇと……聖域がどう、とか調べればいいんだよね?」
「あぁ」
 作戦を確認するドゥー・ウーヤー。ラダは流通区分へ聞き込みで、不穏な事を声高に叫ぶ者へ大雑把にアタリをつけていた。蛇の道は蛇――しかし、いざそういった集団に対面するとまさしく蛇蝎の如く睨まれた。
「私ではマトモな対話は望めそうになかった」
 人間形態に変化した自身の体を示すように腕を広げる。
「彼らに探りを入れる事は出来るか?」
 一通りの話を聞き終え、ドゥーは考え込む。
「……その、彼らが利用するカフェとか、アタリつけられる?」


(何処で己の技が役立つか分からないものだ)
 ラダは遠巻きに見守りつつ、お互い上手くやれそうな事を誇らしく感じた。


 が、同時にちょっと目を背けたくもあった。

 帝都(及び大正)においてカフェは二分化されたものだった。一つは飲食を楽しむ純喫茶。もう一つが、女給による『サービス』を主とするもの。
「まあ。お客さんったら――たまらなかったもんですから――」
「……ハハハ」
 ドゥーは乾いた笑いを浮かべ、女給とのやり取りを聞き流す。
 ともかく意識を対象へ向けよう。二人は聴力を活かし、外来人嫌いの対話を聞く。
『外の子供が血まみれにされたらしい。』
『我らが聖域に足を踏み入れた罰よ。』
 暫し犯人を賞賛するような会話が続く。
『まさかお前であるまい?』
『俺はお前がやつたと思つてゐたが。』
『いくらなんでも子供に手を出すものか。』


 無言。


『我々は建前に使われたか?』
『何?』
『例の、異邦人が妙に増えた――【劇団IDOLA】』
「!!!」
 その言葉が、そして仲間の集めた情報が、二人の頭の中で一纏めに繋がった。
 “以前から異邦人が誘拐されており――劇場で異邦人を見掛ける機会が増えていて――誘拐犯は劇場関係者で――”。
 仲間に情報と警戒を伝えるべく慌てて立ち上がるドゥー。すると、女給にヒシリと腕を掴まれた。

「な、何か……」
「チップ。」
 ――単に彼女へ直接支払うシステムだった、らしい。お金を受け取りニンマリ顔の女給。
 後でローレットの経費で落としておくか。
 ラダはしたり顔でそう思うのであった。

成否

成功


第1章 第7節

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護

 オウェードは現地人として情報収集する為、まずは帝都区域の歴史や喋り方を学ぶ事にした。
「つまり――は、こうであるかね?」
「あゝ。」
「うむ、ありがとう清次郎殿。それにしても、何故こうも協力してくれるのだ? こういってはなんじゃが、現地の治安機関は自分達だけで解決したいと聞いておるが……」
 帝都自体の事には疎いが、地域の治安を守るにおいては一応の経験があるオウェード。
「全員がそうではありませぬ。」
 清次郎曰く、『体面を重んじるより解決を優先すべきだ』と考える憲兵も少なからず居ると述べる。
「小生は、一個人として帝都の平和を願つておるのです。」
「ふぅむ……ならば、ワシも全力を尽くさねばな」

 そしてオウェード達が『劇団IDOLA』の公演の時間を調べ、希達はそれを参考に劇場へ向かう。
「警察にメンツだの何だので邪魔されないといいけど……」
 ――腕時計を頻りに見る。約束をした人物が来ない。
「はぁ……よぉーしリトル。お兄ちゃん来ないみたいだし三人で劇場でも見にいこっか」
「うん! オイリちゃん、今日はよろしくねー」
「うん、よろしく……」
 子供同士で気が合ったのか、入る前に和気藹々と談笑を交わしている。
 外来種として雇われた人達に接触出来れば、何かしら情報が得られるはずだ。
 そうして入ってみた劇場はルネサンス風フランス式5階建。客席1700のそれらは全て椅子席。オーケストラ・ボックスを持つ洋式劇場……。
「飲食ダメなんだって」
「そうなんだー」
 他の練達区域で鑑賞する映画のノリでポップコーンやコーラを楽しみにしていた子供達。

 ――いくらか鑑賞が進めんだところである。獣種らしき人物が舞台に出て来て、変化を駆使して主人公を襲う化け物の役をやってみせた。
(あれが雇われた異邦人か)
 どうにも彼は演技が上手いという素振りでない。むしろ周囲の役者達に比べると、浮いている程だ。だがそれでも獣種特有の『変化』という演出技術で、観客達を「あっ」と言わせてみせた。
 ブルーブラッドの役者は威圧するような素振りで、観客席をぐるりと一睨み。――すると、希達の方を見て一瞬視線が止まった。
「…………」
 途端、希の袖を引くオイリ。トイレに行きたいのだろうか? そのように考えながらも、観客達の邪魔にならぬように腰を屈めながら通路の方へ退出する。

「どうしたんだいオイリ。トイレなら――」
「あの人、助け求めてた」
「……へ?」
 オイリは、確かに、助けを求める人のソレを感じ取るのが得意だが。どういう事か尋ねようとした所に、背後から声を掛けられた。
「もしもし、厠の場所が分かりませんか?」
 振り向いてみると、劇場の事情に詳しそうな振る舞いをする男がいた。異邦人の対応慣れしているのか、言葉が流暢で聞きやすい。
「えぇ、まぁ」
 異邦人が雇われた経緯について、この男に聞くかどうか希は一瞬考えてみる。するとカチカチと妙な音が聞こえた――リトルが、男を凝視しながら歯を震わせていて――。
「では、私が案内致しましょう」
「い、いやっ!!」
 返事をする前に、男はリトルとオイリの腕を掴んだ。その手の片方には、人差し指に包帯が――

 ――誘拐犯ッ!!!!!
 希はそう勘付いて、即座に武器を抜こうとした。人質に取られる前に動けるかどうか。そういった頃合い。

「オオヤ、ここにおつたか」
 制止するように間延びした声が掛けられた。オウェード。それに学ランを着たエクスマリア。
「ご家族ですか?」
「えゝ。ゐやあ……わしや娘達は映画とか演劇が好きでのう……」
 オウェードは誤魔化す風に振る舞う。男はそれ以上詮索せずにスッと二人の腕を離した。
 エクスマリアは、帽子を目深く被ってその男を睨み付ける。
「色々な人の匂いが染み付いてるね」
「様々な方と出会う身の上ですから」
 エクスマリアの嗅覚は――その男から、様々なイレギュラーズの血の匂いを感じ取った。人差し指に大怪我を負っているのも併せ、「こいつが犯人か」と確信づく。
 剣呑とした雰囲気を感じ取ったのか、ドヨドヨと劇団関係者や一般市民が集まってきた。
「何か困り事が?」
 そのように尋ねてくる劇場の警備員。
「いえ、なんでもありません」
 周囲が敵か味方か分からぬこの状況、戦いを仕掛けるのは得策ではあらぬ。
「――アンタの顔、ハッキリと覚えたよ」
「……光栄でございます」
 ひとまず、ローレットに撤退して作戦を練り直す事にした。

成否

成功

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