シナリオ詳細
<八界巡り>零の世界
オープニング
●ワールドオーダー
介入手続きを行ないます。
存在固定値を検出。
――桜咲 珠緒 (p3p004426) 、検出完了。
――上谷・零 (p3p000277) 、検出完了。
――リュグナー (p3p000614) 、検出完了。
――ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788) 、検出完了。
――清水 洸汰 (p3p000845) 、検出完了。
――マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007) 、検出完了。
――藤野 蛍 (p3p003861) 、検出完了。
――ジェック (p3p004755) 、検出完了。
世界値を入力してください。
――当該世界です。
介入可能域を測定。
――介入可能です。
発生確率を固定。
宿命率を固定。
存在情報の流入を開始。
――介入完了。
ようこそ。今よりここはあなたの世界です。
ほんとうだから うたがわないで
●A9380地球世界より、日常を込めて
練達階層都市の一角に存在する研究棟のひとつ。『イデアの棺』が設置された部屋に、いつもの八人が集められていた。
「もはやこの実験も七回目……か」
リュグナー (p3p000614)はグラスの中で透明な液体をゆっくりと傾けながら、大きな窓ガラスによりかかっていた。
同じ窓に背を突け、腕組みをして並ぶランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788)とマカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007)。
「ここまで来るのに何ヶ月くらいかかったっけ」
「珠緒の世界、マカライトの世界、ランドウェラの世界、洸汰の世界、ジェックの世界、リュグナーの世界……そして次が『零の世界』。現時点で既に一年半だ。長いな」
藤野 蛍 (p3p003861)と桜咲 珠緒 (p3p004426)は顔を見合わせ、その間に起きた自分たちの変化を思い起こしていた。
「時が経てば皆変わっていくものです。けど、ここまで続けられたのは、皆さんのおかげといっても過言ではありませんね」
「そういうこと。できれば最後までやり遂げたいよね」
「なんか最終回みてーな言い方だなー? まだ零のぶん含めて二回分は残ってるぞ?」
清水 洸汰 (p3p000845)が窓の外にひろがる公園の風景を眺めながら、ジェックからスポーツドリンクのボトルを受け取った。
自分もまたボトルのスクリューキャップをねじあけて、口につけるジェック。
「長くなってきたし、おさらいしたいね。この実験がどういうもので、何が目的なのか」
「良いでしょう」
ヒュン、という音をたてて部屋の扉がひらき、これまでを通しての依頼人と零が揃って部屋に入ってきた。
「上谷さんへの聞き取り調査は済みました。このまま実行して問題はありませんが……その前に、ということですね?」
「話長くなるならパン食う?」
零がフランスパンを慣れた様子で取り出し、カッターで切り分けていく。
さくさくという小気味よい音と共に、依頼人である姉ヶ崎博士はぱらりとファイルを開いた。
「この実験の目的は異世界の情報を取得、収集することです。
探求都市国家アデプトの基本方針は皆さんもご存じのことと思いますが、世界ルールの突破と自世界への帰還。そのための研究として、サンプルをより多く集めることにあるのです」
「つっても、肉体から情報を抽出してるだけで、ホントに世界がそうなってたかどうかは分からないんだよな?」
パンを皿に並べてオリーブオイルをかけながら、零が小さなテーブルへと皆を集める。
「知らないところまで再現されてるけど、それが本当にそうなってるのかとか、僕たち知らないしね」
ランドウェラはパンをひとつまみしてつぶやいた。
「シミュレートした世界にバグがあるのは、知ってるんだよね?」
「ええ、もちろん。元となるデータの切除にも成功しましたので、今回の実験でバグが混入することはないでしょう」
姉ヶ崎博士の言葉を聞いて、リュグナーはただ沈黙していた。
代わりにというべきか、パンを頬張って喋る洸汰。
「けど、ちょっとこえーよな。俺の世界が本当にそーなってるのかもって思うし。実際どーなんだ?」
「さあ……我々は現状その世界に行くことも双方向性のある通信をすることもできませんから、本当にそうなっているのか証明できません。そして、この収集の目的は『真実であること』を条件としていませんので……」
ここ混沌に召喚され生きるウォーカーたちの肉体からの抽出と、反応のかけあわせ。これこそが収集すべきデータであって、真実の世界の姿ではないのだろう。
ジェックはパンにチョコレートを塗りながら零のほうを見た。
「それで、零の世界ってどんなところなの?」
「え? 普通だよ? あー、えっと、希望ヶ浜っぽい。夜妖とかいない表向きのほうね?」
そう言われて、蛍と珠緒の脳裏に学校や道路標識やコンビニエンスストアの風景が浮かんだ。
「なんか、たまに異世界人とかテレビで見るけど、別に変なことないぜ?」
「いるのか、異世界人」
「そりゃ居るだろ。俺たちだって別々の世界に生きてたんだし、ウォーカーの中には世界移動ができたやつもいただろ?」
マカライトは個別に分離したモーテルの部屋を想像した。部屋から部屋へ行き来することは物理的に可能だが、多くの場合壁や鍵に阻まれる。零の世界はそれが比較的緩いということなのかもしれない。それでいて希望ヶ浜っぽいと言わしめるのだから、よほど問題にならないだけの外交をしているのだろう。
「それで、今回のオーダーは?」
「いえ特には……」
姉ヶ崎は眼鏡に指をやって一秒ほど考えるしぐさをすると、皆の顔を見た。
「この世界で何かしらの立場になって、日常生活を送ってください。それだけで結構です」
- <八界巡り>零の世界完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年03月15日 22時02分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●『恋揺れる天華』上谷・零(p3p000277)の日常
目覚まし時計のアラーム音に呼ばれて手を伸ばす。
手探りから逃れたスマホが床に転げ落ち、零は渋々といった様子で布団から起き上がった。
「なんだ、もう朝か……」
鏡に向かって歯を磨く。キッチンも風呂場もついたワンルームアパートを横目に見ながら、鏡をもう一度のぞき込んでみた。気の緩んだ三白眼と寝癖のたった髪。
登校をサボって寝てしまいたい気持ちをおさえて、零は鞄を手に取った。
高校にあがるに当たって零は一人暮らしが許された。通いたい学校が家から遠かったのも理由のひとつだが、零がそこそこ真面目に学生をやっていたことも無関係とはいえまい。この生活を続けるためにも、真面目であることは重要だった。
誠実さが生活を維持する。零にとってそれは、シンプルな社会のしくみのようにも見えた。
「や、零。今日もギリギリで登校か?」
十字路で合流してきたクラスメイトのイデアに、零は目を擦りながら『おー』と返事をした。
苦笑するイデア。
「そんなにしんどいなら一人暮らしなんかしなきゃいいのに。毎日飯が出てくる生活はいいぞ~」
「テレビでみたようなこというなよ。こういうのはな、無くなってはじめて分かるんだ」
「それこそテレビじゃん」
零にとって一人暮らしの高校生なんていうのは漫画やアニメの中のハナシで、ちょっと憧れがあったのだが、いざやってみるとその面倒くささといったなかった。
必要とされる家事の分量がハンパなく、手を抜けば抜くほど生活が渇いていく。ごく普通の暮らしとやらを手に入れるのにどれだけの苦労があったことか……。
(ありがとうお母さん……今すごい実家暮らしに戻りたい)
「あ~、実家帰りたいって顔してる」
イデアと左右から挟み込むように、同じクラスの女子であったエイスが話しかけてきた。
「どうせ昨日もフランスパンだけだったんでしょ。無駄遣いするからだよ」
「けど新作の発売がな~、かぶってな~」
ふああとあくびする零に、エイスとイデアは笑った。
「しょーがないなー。今夜バイトないから、ご飯つくりにいったげる。イデアお兄ちゃんは買い出しよろしくね」
「えっ俺も?」
いつもと変わらない、ごく普通の日常。いつかなにか、刺激的なことでも起きないものか。
零は期待ともいえない何かを抱えながら、今日も通学路をゆく。
●『穿弾不乱』ジェック・アーロン(p3p004755)の日常
夜眠る時に、こんな想像をする。
自分が一人っ子で、ママと二人で海の見える白い家で暮らすこと。自分には何か夢があって、ママはそれを応援してくれている。テレビで見るアニメやドラマみたいに、夢に向かって頑張る自分。
それはスポーツだったり芸術だったり動画配信者だったり想像するたびに違うが、いつも決まって……。
夢は見ない。魅惑のお布団を引っぺがされるその瞬間が唐突にやってくるだけ。
「もう、また夜までゲームしてたでしょ」
「してない」
目を擦って起き上がるが、掛け布団を足下へ畳んでいく母にはどうやらお見通しらしい。
「ご飯できてるから、支度しちゃいなさい」
「うん……おはよう、お母さん」
服を着替えて扉を出る。隣の部屋からほぼ同時に出てきたであろう弟……義理の弟が、ジェックの顔を見て『ん』と言った。
「おはよ、イデア」
「ん」
朝交わす会話はこのくらい。二言だけ。それも両方『ん』。
「だから家に居づらくて」
「ふむ……」
学校の保健室。
リュグナー先生がコーヒーのマグカップを片手に表情を変えた。
左右の眉を上下逆に動かして唇をまたその逆に動かす、性格に難のありそうなひとがやりそうなフェイスアクションだった。もしかしたら欧米じゃみんなやってるのかもしれないし映画でもよく見たが、少なくとも学校では見ない。
そしてこの人らしく、こんなことを切り出した。
「人間は無意識に、恐怖に寄り添うという」
●『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)の日常
保健室でいれるコーヒーは美味い。なにかと肩身の狭い教員という職業のなかで、保健室は特別だからだ。この場所で多少変わったことをしても、そう咎められることがない。『保健室の先生』の職務は特殊であり、多くの場合替えが効かないからだ。
そんな中で飲むコーヒーは、優越の味がする。
「人間は無意識に、恐怖に寄り添うという。紀元前の哲学者の言葉だ」
そしてそんな場所だからこそ、寄りつく人間というのはいる。
「親の再婚は自分の居場所を損なう危機かもしれない。『もう一人の子供』は自分を追い出してしまう存在かもしれない。
その義弟とやらは素直にその恐怖に向き合っているようだが、貴様は目をそらし逃げるという形で恐怖に寄り添ったようだな」
「逃げてなんて……」
言いよどむ女学生。
「夜更かし。仮病。将来への露骨な不安。……みな目の前のものからの逃避だ」
女学生の顔がより低くうつむいた。
空気のよどみが目に見えるかのようだ。
しかしリュグナーは、それが見えていないかのように続けた。
「嫌われたくないと考える人間は嫌われる。義弟に、義父に、嫌われたくないという恐怖は溝を更に広げることだろう」
「だったら」
耐えかねたのか女学生が――姉ヶ崎エイスが強く声と顔をあげた。
「だったら、どうすればいいんですか」
『どうすればいいの』と問いかけるのは子供の特権だ。
そしてそれに答えるのが大人の義務だとされている。
が。
「知らんな」
リュグナーは、いい大人を演じるつもりはなかった。
●『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)の日常
教育実習という制度がいつできたのか、知らないし調べるつもりもないが、少なくとも意地の悪いひとが作った制度に違いない。
教師という仕事がいかに過酷で、無茶で、ブラック極まるものであるかは嫌と言うほど聞かされていた。だから教員免許をとるだけとって全然違う仕事に就こうと考えていたし、なんなら免許なんてとらず大学の単位だけ……と考えた人々がただの通過点として教育実習生となり、まんまと歓迎され、まんまと感動し、まんまと約束し、まんまと教師になっていく。
そんなサイクルの中で――。
「ボクは絶対教師になるの。教育を通じて学生達の視野を広げられるような、未来に色々な可能性を見出してもらえるような、そんな先生になりたい!」
蛍は異様なほど、最初からやる気満々だった。
そしてだからこそというべきか、更に言えば教育実習性ならではの無敵さを活用し、蛍は生徒達の悩みを率先して聞くことにしていた。
「先生が生徒と遊んでていいのか?」
「教育実習性だからね。怒られても、クビになったりしないんだ」
ゲームセンターで生徒のイデアと隣り合わせになりながら、シューティングゲームの協力プレイをしていた。
「どこまで話たっけ。家に帰るのが嫌だって所?」
「んー……」
ゲーム画面の中で、自機が砕け散る。
「俺、多分嫌われてるから。いないほうがいいんだ。父さんも、ジェック姉さんも。その方が幸せになれる」
「どうかな。いないといないで、また不幸かも」
コンテニューしてすぐ、自機が再び砕け散った。
「遠慮して消えちゃうのは簡単だけど、最初からいなかったことにはできないよね。だから、未来の自分を納得させる程度のことはしていかないと。
もし将来失敗しても、『これだけやったんだからな』って過去の自分に納得できないとつらいじゃない?」
いつもそうやって前を向く。
後ろを向くのは、納得するときだけ。
「ボクの大事なひとも、そうやって前を向いて生きてるんだ」
●『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)の日常
蛍がテレビゲームの下手さを披露し続けているその間、珠緒は病院のデスクにいた。
昨今、『脳の拡張』という分野が投資家達の脚光を浴びている。
脳にチップを埋め込み、脳波だけでコンピューターへの文字入力やクリックといった操作が行える仕組み作りをしているのだ。
といっても、珠緒の担当は外部出力というより、脳への入力。
ファントムペインなどの解析が進むうち脳へ架空の手足の感覚を伝達させるという実験が成功してから長い。
バーチャルリアリティーを用いて手足の感覚を伝え、たとえ寝たきりの状態であってもリバヒリテーションが行えるようにする。リハビリ施設がなくなることはないだろうが、その苦労をかなり軽減できるだろう。
テレビに出る平行世界人なんかは、テレパシーが一般化していたり身体を全部機械にしたりと、この世界の医療技術に活かせそうな話も聞かないでも無いが、他人の親切や偶然に頼っていては誰も助けられない……というのが珠緒の考え方だ。
「精が出るな」
同僚の大学生イデアが、インスタントコーヒーの入った紙コップをデスクに置いてくれた。
「ありがとうございます」
やりがいがありますから。なんて台詞はもう何度も言ってきた。今更なことだ。
更にいうなら。
「……指一本動かせない身体から変わる体験をしたのですから」
「なんて?」
小声でつぶやいたせいか、聞こえなかったらしい。
きょとんとするイデアに、珠緒は首を振った。
「いいえ。午後の会議、始まりますね。一緒に行きましょうか」
●『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
罠にかかった猪が、鳴き声をあげながらロープを千切ろうと暴れている。
その様子を、マカライトは遠くからスコープ越しに見つめていた。
撃つべき弾は一発。
引き金にかけた指が、極めて正確に、そして最低限に動く。
銃声。
サバイバルナイフを手に取って、マカライトは立ち上がる。
猪を撃った日は、肉を集落で広く配るのが決まりだ。
冷凍庫が無かった時代は急いでその日のうちに食ったというが、最近はだいぶ便利になったもので、少ない世帯数でも猪が余らず行き渡るようになった。
「それにしても、久々だな」
冬をあけ、春めいたことで獣が山にもどりはじめた。
そう言う時期は出番が来やすいもので、冬ごもりを終えたマカライトにお呼びがかかるのも無理からぬことである。
「おー、また綺麗にやったなあ。さばくの手伝おうか」
軽トラックで家の前につけると、隣の家に住むイデアが麦わら帽子をあげて声をかけてきた。
基本、この山では助け合って生きていくのが昔からの決まりだ。
それが通用しなくなって久しいと聞くが、マカライトにとってはこの閉じたコミュニティも悪くない。
解体用の道具を作業場に並べると、着替えたイデアがやってくる。
「畑のほうは良いのか?」
「今日はもういいよ。それより、手伝ったらいいとこの肉くれよ」
にひひと笑うイデアに、マカライトは苦笑で返した。
こういうコミュニティも、悪くない。
●『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)と『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)の日常
こんぺいとうを指につまんで、空にかざす。
小学校にお菓子を持ち込むのは禁止されていたが、ビロードの袋に入れてこっそり持ち込むのがランドウェラの日課になりつつあった。
ランドセルの重みを肩に感じながらも、こんぺいとうを口にふくむ。
下校中の長い道のりを短縮する、彼なりの裏技である。
「あー、いいなあ」
「ランドウェラ、またお菓子食べながら帰ってる」
後ろから声がした。
振り返るまでもなく、同じクラスの洸汰とイデアが左右へと小走りに追いついてきた。
「先生に言うなよ」
口の中でころがる甘い感触を確かめながらいうランドウェラに、イデアがにひひと笑って手を出した。
「口止め料」
「現金な奴」
袋から一個取り出して渡してやると、イデアが嬉しそうに口に含んだ。
「先生にバレたときは全部とりあげられたしな。一個くらい安いもんだろ」
「コータは?」
声をかけられて、洸汰はびっくりした顔をしたが、すぐに表情をあらためた。
「オレはいーや。それより土手で野球しよーぜ。今日は誰も使ってないよな」
肩に担いだ金属バットをぺしぺし戦う洸汰に、ランドウェラが苦笑する。
帰り道の夕焼けは、やけにまぶしくみえた。
土手にいつの間にか置かれたベンチにランドセルを三つ並べ、キャッチボールを始める。
しばらくすれば近くを通りかかった友達連中が集まってきて、あっというまに野球ができるだけの人数になるだろう。それまでの暇つぶしだ。
「なあ、将来なにになりたい?」
イデアにそんな風に言われ、放られたボール。
キャッチした洸汰が変な顔をして、ボールをランドウェラへと投げた。
「わかんねー。野球選手とか?」
「僕に聞かれても困るなあ」
キャッチしようと手を伸ばしたランドウェラだが、捕球をミスしてボールが転がっていく。
転がった先には、白い髪の少年がいた。
「あ、ジェイドじゃん」
「何してるの。野球?」
拾いあげたボールを眺め、ランドウェラへとパスする。
「まだ野球じゃねーなー」
グローブを叩きながら歩いてきた洸汰が、ジェイドにグローブを突き出した。
「おまえも今日は帰り遅かったんだな。ゲーセンよってたのか?」
「んー……、まあね」
「小学生がよくゲーセンなんて入れるな。それも下校途中に」
からから笑いながらやってくるイデア。
洸汰は自分のグローブを脱いでジェイドにパスすると、駆け足で距離を取った。
「じゃ、今から四人で野球しようぜ! 2対2で!」
「それ守備側不利すぎない?」
夕焼けが、まぶしくみえる。
やがて沈む太陽が、まぶしく。
●介入終了
開く扉。突然呼吸が戻った気がしてドキッとするこの感覚は、『六回目』でもまだ慣れない。
蛍は睡眠チャンバーから起き上がって、すぐそばに立っていた研究員の男へ振り返った。
「今回の世界は平和だったね。ええっと……」
研究員の男。依頼人でもある男。眼鏡をかけた男という印象以外まるで残らないこの人物の名前を、そういえば知らない。
名前を今更聞くのも失礼かと考えて、話題をそらした。
「次は私の世界になるんだよね。八回……目?」
「いいえ」
そこでやっと男が答えた。
「実験は全部で七回です。零さんの世界をエミュレート中に不具合が発生したので飛ばした形になりましたから。……そう、ご説明したはずですが」
「あ、そうだっけ」
見回すと、チャンバーが並んでいる。
自分のぶんを含めて十台のチャンバー。
そのうち二台だけ、開いたまま空っぽになっていた。
「ここまで長かったけど……次で最後かな。よろしくね!」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――リュグナーの世界、介入終了。
――データの取得に成功しました。
――システムに侵入した異常の特定に成功しました。
――疑わしいデータがサンドボックスへ隔離されました。
――データを消去しますか?
――NO
――データをセーフ扱いとしました。
GMコメント
ご用命ありがとうございます。
こちらはVRマシンを用いて異世界を仮想体験するシナリオシリーズ<八界巡り>です。
皆さんは練達での実験スタッフとして依頼をうけました。
ウォーカーの身体に蓄積されている異世界の情報を抽出、追体験し、一定の行動をとらせることでデータを完成させていくという実験です。
これまでのシリーズはこちら
https://rev1.reversion.jp/scenario/replaylist?title=%EF%BC%9C%E5%85%AB%E7%95%8C%E5%B7%A1%E3%82%8A%EF%BC%9E
■ミッション
・『地球』世界で日常を送る
この世界は2020年リアルな現代と酷似した世界です。
特別な理由はありませんが、標準化のためにフィールドは日本国内に限定してください。
当世界は世界中に『異世界の観測機』なるものがはるか昔から発見されており、日本にも一台存在しています。ここから他の世界を約10件程度まで観測できるそうです。
一般の市民でも申請すれば普通に記録を閲覧することができます。
ただし今回観測できる世界に皆さんの出身世界は含まれていません。
こうしたことから、当世界人は平行世界があることを一般常識として認識しており、時折何かしらの手段によってこちらの世界に異世界人がやってくることがあります。
といっても珍しさの部類が『ハリウッド女優来日!』程度のインパクトなのでさほど派手にとりあげられはしません。朝のニュースでちょっとふざけたインタビュー映像とか流れるくらいです。
・立場と日常の選択
皆さんは『この世界に生まれたらこんな人物になっていただろうな』という想像をもとにプレイングを書いてください。
たとえば学校の先生としてクラスメイトの面倒を見ているとか、コンビニ定員として毎晩ラッシャーセーしているとか、ブラック企業に勤めちゃって毎日ヘトヘトになってるとか……現代パロディのつもりでお楽しみください。
零さんに関してはもはやそのままなので、この世界でどういう風に過ごしていたのかを書いてください。
異世界人に会ってみたいな! と言う方はそういった人間に触れられる職業や立場を選択してみるのもいいでしょう。
リプレイではこれらのノーマルな日常が描かれることになります。
■大事な補足
これまでのOPやリプレイに対していろんな疑問や、警戒を抱いていることと思います。
ですが今回のプレイングに関しては、できる限りそれらを排して書くようにしてください。
と言いますのも、『こうなったらどうしよう』『これはどういうことなんだろう』といった心情でプレイングの数割を埋めてしまうと普通に空振りになりかねないので、とても勿体ないためです。特に今回はそうなりがちなスタイルになっているので、どうかお気をつけくださいませ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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