PandoraPartyProject

シナリオ詳細

砂塵と幻を繋ぐ馬車

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●アントン=ヴァスの主張
 奴隷とは、有史以来あまねく存在する概念だ。
 混沌世界において、何処の国家もそれについては大概そのようなものだろう。
 戦争に敗れた捕虜だとか、植民地化された土地の民族だとか、貧困によって子供を売らねばならなくなっただとか――事例を挙げていけばキリがない。
 ただ一つだけ共通している事は、なるべくしてそうなった。わたくし、『アントン=ヴァス』はそう考える。
「……どうか、この子だけでも、お見逃しを……」
 手枷をつけられたこの幻想種の女は、奴隷だ。人攫いを生業とする彼奴から買い取る以前の経緯など知らぬ。知って何になる? おおかた、住み処を焼かれた辺りだろう。
 私が関心があるのは、高値で売れるかどうかだけだ。経産婦であろうに幻想種の例に漏れず、そうと思わせない若々しい躯。傍らの男の子の方は……まぁ、この見た目なら買い取りたいという好事家も数多にあろう。
「……ママ、ぼく、怖いよ……」
「大丈夫よ、きっと、大丈夫だから」
 品定めするような目つきをすると、幼子の方にやたら怯えられた。
 親の方は殊勝な事に、自分はどうなってもいいから傍らにいる幼子だけは勘弁して欲しいと懇願の口上を述べてくる。
 ――正義感に燃えていた若い頃の私も、幼い奴隷をわざわざ自分で買い取って逃がしてやった事もあったものだ。
 その後はどうなったか? 飢えて道端で死んでいた。
「悪いが、それは受け入れられん。その子も大切な商品なのでな」
 奴隷というのは、一種の『財産』だ。この男の子が家族同然のように大切に扱われる可能性も、決して零ではない。“餓えて死ぬよりもっと酷い目に遭う”という可能性も決して零ではないが、それもまた私が知って何になる。
 それを言葉にしてみると、幻想種の女から人でなしを見るような目で睨み付けられた。怯むに値しない。そういう目で見られるのはいつもの事だ。
 私はその女から目を背け、雇い入れた傭兵達の方を見た。彼らが準備を終えたのを確認してから、声を発す。
「祝勝会で傭兵どもが浮かれているのに乗じて、我らは幻想国家――大奴隷市へ向かう! 弱き者は肉に、強き我らがそれを糧に成り上がる!!」

●血の契約
「悪いな、ジグリの。祝勝会で賑わっていた最中だというのに、呼び出したりして」
「いや」
 ラダ・ジグリ (p3p000271)は、古い付き合いの商人から『商売の話』だといわれて呼び出しされた。ジグリ家自体は商人の家柄だから、これ自体は別に珍しい事ではない。
「一つ、仕入れを頼みたい」
 その商人は、周囲にいるイレギュラーズに対して視線を合わせた。
 信頼出来る間柄にも関わらず、わざわざ「イレギュラーズを数人同席してくれ」と指定してきた。商売話で傭兵に護衛させる事も、別に珍しい事ではないが……。
「……地元の傭兵には依頼出来ない仕事か?」
 ラダは声を潜めるようにして呟いて、相手の商人は大きく頷いた。
 曰く、『幻想種の奴隷を買い取った商人が身内から出た』。
 ザントマン事件の事は記憶に新しい。いくらかの奴隷が彼奴の手に利用され、それを救い出す為に多くの死傷者が出た。
 そんな事もあって、イレギュラーズや赤犬ディルクに味方したこの商人は内々に「奴隷と薬には手を出すな」と《契約》を交わした。
 無論、そういう代物が金になる事は承知している。……が、それ以上に商人全員が金の亡者ではない事はこの商人も、ラダも理解している。
「話は分かった。アントン=ヴァスを、その……仕入れてくればいいのか?」
「……ジグリの。ファルベライズの動乱もあって、現状ラサでは奴隷商売が難しくなった」
 ラダは考え込んだような顔をした。
 奴隷商売が行われるのは、ラサが唯一の国というわけであらぬ。とかく、近頃の情勢の影響で幻想国家において大奴隷市が催され――他のイレギュラーズ達が奴隷解放の依頼を請け負っていると聞き及んでいる。
 つまりはその機に逃げ込んで、同業者や買い手に保護の宛てをもらおうという魂胆か……。
「そういった判断も含めて、アントンは良くも悪くも機知に長けた奴だ。ラサの傭兵に頼めば、左右に散らばる情報から奴は勘付く。そこから追っ手の経路すら判別出来る。だが、イレギュラーズ相手なら違う――だろう?」
「…………」
 自分達、イレギュラーズが呼び出された理由は理解出来た。
「ザントマンの事もあったのだ。護衛している傭兵達を説得する事は?」
「無駄だろうな。奴らにも相応の見返りが与えられ、そもそもアントンと同じく『餓えて死ぬくらいなら機会を与えてやった方がいい』と実に慈悲深い傭兵達だ」
 商人の言葉を聞いて、ラダは少しだけ顔を顰めた。
「アントン=ヴァスという男の動機も分からなくもない――が、商人としての《契約》を破っていいかどうかは全く別問題だ」
 同席したジョージ・キングマン (p3p007332)が指摘するように言葉をこぼした。
 然り。商人はそう言いたげに、肯定するように頷く。
 アントンがどういう思想を抱こうが、極端な話をすれば『個人の自由』だ。“それはそれとして”アントン=ヴァスは《契約》を破った報いを受けねばならない。
「それは他の商人達へみせしめの為にも『アントン=ヴァスが奴隷にされる』という形がもっとも望ましい」
 普通なら口にし辛い事を明確に確認する為にも、ジョージは冷静な口ぶりで言葉にした。商人は、少し躊躇いがちながら頷く。
「……私達は、わけのわからん盗賊団や化け物を、協力し合って退けたばかりなんだ。それに水をさされるような事をされては、商人の間だけに留まらず赤犬ディルクのメンツすらも汚しかねん。あまり気持ちのいい依頼じゃないが……頼んだぞ」

GMコメント

●成功条件
・『慈悲深き』アントン=ヴァスを倒す。ただし、殺してはならない。
・護衛している傭兵を全滅させる。
・幻想種の親子(二体)を救出する。

●ロケーション
 ラサと幻想の間にある砂漠地帯。
 伏せっていれば潜められる緩やかな丘陵だとかがある以外、特筆する障害物があるでもない。
 比較的移動しやすい地形な事から交易路としてよく使われるし、夜盗だとかがキャンプ中のキャラバンを襲うのだとかにもよく使われる。
 イレギュラーズは先回りし、アントン=ヴァスのキャラバンを捕捉している状況。また、襲撃の時間帯はイレギュラーズ側の自由とする。
 馬車には他の奴隷も積まれているが、成否条件は幻想種の親子のみ。

●エネミー
・護衛隊、六人
 ラサの地元傭兵という性質上、ブルーブラッドが主体である。
 格闘術、あるいは剣や槍といった至近から中距離などの攻撃を使いこなす。
 特筆すべきは、全員火力と反応のステータスが高い。ただしHPは水準より低い。
 職業柄戦術的知恵もあろう事も併せて、集中攻撃や連携的な行動は警戒すべきだろう。

・『慈悲深き』アントン=ヴァス
 ラサ商人のブルーブラッド。
 商売の為に護衛を抱えているが、本人自身も戦士として一定の名を馳せている。
 その戦い方は状態異常を誘発する弾丸や榴弾を、銃で放つという独特の攻撃手段を使う。
 状態異常の種類は様々だが、それら全てに共通している事は『長距離戦主体』であるという事だろう。

 彼は必ず生かしたまま捕らえねばならない。ゆえに【不殺】の使い手が求められる。
(今シナリオの特殊ルールで、命中・火力に大きなペナルティを付与して【不殺】を付与した攻撃扱いにも出来るとする)
 気をつけなければならないのは、アントンは追い込まれれば幻想種の親子を盾にする選択肢を取る可能性がある。 

  • 砂塵と幻を繋ぐ馬車完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月17日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
※参加確定済み※
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
※参加確定済み※
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
※参加確定済み※
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
※参加確定済み※
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
駆ける黒影

リプレイ


 動くものの影とてない荒涼たる砂の海。天からの陽光はその直射と砂からの反射によって、この交易路を渡る者達の体力を等しく奪っていく。それには迫害も選別もない。奴隷も、傭兵も、商人も。
「少し休まぬか」
「贅沢を言うな」
 アントンは弱音を吐く傭兵を叱咤する。傭兵は無茶な行軍に慣れたものだが、奴隷達は違う。砂漠の高温は馬車にすし詰めにされた彼らの体力を着実に奪っていた。高熱に罹った奴隷がいるのを悟り、アントンは馬車の外へ奴隷を叩き出す。
「……冗談じゃ……砂漠のど真ん中に放り……」
 馬車から放り出されたカオスシードの奴隷が、掠れた声でいう。肺がやられているのだろう。
「冗談で利益を放り出せるものか」
 アントンは冷淡な声を発しながら、鞘からナイフを抜いた。そのまま弱り切った奴隷の首元目掛けてナイフを振り下ろす――しかし、それが首へ達する前に、飛来した何かがナイフを弾き飛ばした。
「……!?」
 傭兵とアントンは持ち前の反射神経で、飛来したものが弾丸である事を察知した。砂丘に複数人。ラサの傭兵? いや、そちらの追っ手にしては速すぎる――竜首狩り――剣砕き――
「そうなる前に、お前の商人としての人生をここで終わらせる」
「……私達の事をご存知なのね? ならば……私がここに来た事に心当たりでもあるのかしら?」
 『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)。『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)。アントンの視線が注がれ、彼女らもそれに応じるように言葉を投げかける。
「――イレギュラーズ……っ!!」
 アントンの声を皮切りに、傭兵は一斉に武器を構え、爆ぜるようにイレギュラーズへ切り込んだ。


 アントンに雇われた傭兵達は、ブルーブラッドが主体。獣の俊敏さを誇示するかのように、異様に優れた反応速度。イレギュラーズの誰もが先手を取られる結果となった――ただ一人除いて。
「おぅおぅ、筋を違えた奴隷商を奴隷に。怖ぇ怖ぇ」
 イレギュラーズ陣から黒い影が先駆けた。『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)である。
「遅すぎんだよ。速さ自慢だって聞いてたんだがなァ?」
「……!」
 ルナは悠々と傭兵達の合間をすり抜け、奴隷が積まれた馬車の方へ向かう。傭兵らが気を取られたその一瞬を突いて、イレギュラーズ達は行動を始めた。
 手始めに動いたのは『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)だ。
「俺はキングマン。ジョージ・キングマン。少しばかり、顔を貸してもらおうか!」
 そういって傭兵達の前に歩み出る。
「……キングマンズポートか!」
 彼の名を聞き、そういう商会が海洋にあった事を思い出すアントン。その頭がヤクザ紛いの輩だのと噂も耳にした事もある。商人である身の上、契約破りをした事が同業者達に知れ渡れば色々面倒だ。
「奴を狙え、生かして帰すな!」
 その名乗り口上に応じるようにして、傭兵達が一斉にジョージへ狙いを定めた。それを阻むかのように応射するラダや他のイレギュラーズ。他にはルナに随伴する、『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)。
「囮を任せる事になっちゃったなぁ」
「野郎にしてもラサの顔みてぇな連中にしても、半端な仕事はできねぇだろうな」
「うん……」
 フランの気落ちしている声色に、ルナは彼女の顔を見やる。
「……首輪は冷たくて、重くて、怖くて。これでもう大丈夫って思ったのに……もう、やだよ」
「ま、半端仕事は出来ねぇのはこっちも同じか。おら、行くぞ」
 仲間が狙われるのを背にしながら、奴隷が大勢積まれた馬車の元まで接近した。
 馬車を牽引する動物は、戦いの騒ぎに怯えたのか奴隷を確保する事を優先するように教え込まれているのか、その場を退避しようとしている。
「……待て待て。動くんじゃねぇぞ。暴れなきゃ、無事に帰っていいもん食える。動きゃ、ここで連中と一緒に砂の下だ」
 ルナは動物疎通の能力を使いながら、馬車を牽引するパカダクラを脅しつけた。これに応じたかどうかは分からないが、パカダクラは退避する素振りを止める。
「よしよし、飼い主よりゃよっぽど懸命だぜ」
「あとは保護結界を馬車に……」
 余裕そうに笑うルナのこめかみに、銃口が押しつけられた。銃を向けたのは馬車の傍に居たアントンだ。傍らに護衛の傭兵も二人いる。
「わざわざ踏み込んでくるとはな。命知らずが」
「そりゃお互いサマさ」
 飄々と振る舞うルナ。慌てるフラン。
 そのやり取りの最中にも、傭兵達とイレギュラーズ達の剣矛が合する音が鳴り響いていた。

 視点を傭兵達とイレギュラーズに移す。
 ジョージが名乗りを挙げたその直後、彼目掛けて次々に獣種の傭兵が斬りかかる。速さを活かしたその攻撃に、それらを受け流したジョージの掌が血に塗れる。
「……成る程、ソニックエッジか」
 体力自慢のジョージでも、この技は中々に堪える。連続攻撃も相俟って捌き切るのも容易くはない。傭兵達が次の手を繰り出そうとしたところに、その頭上から鋼の雨が降り注いだ。
「――何事!!?」
 射手であるラダが、特殊弾を使いジョージ以外のそれらを撃ち抜いた。傭兵らが怯んだのを境に、『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が意気揚々と切り込む。
「そうやって集まってるといい的だぜ」
 ソニックエッジは強力な技でもあるが、何よりも至近の殺術。連携攻撃ともなれば必然的にその周囲へ間合いが集中する。
「ジョージ、合わせろ!!」
「あぁ」
 ジョージが相手の胸ぐらを引っ掴み、敵同士を衝突させる。そのまま放り投げられた彼らへ両手剣を大きくに振るうルカ。見事に避けてみせた傭兵もいたが、先の銃弾で体勢を崩された傭兵が一人、その連撃をマトモに受けて『死に体』の状態になりかけた。
「俺はお前らの主張が正しいかなんて知らねえしわからねえ。興味もねえ。ただ、ラサの盟約を破ったっていう責任は取らせる」
「ぐぅ……!!」
 胸の深部を切り裂かれて、流血が迸る――あと数秒で意識が飛ぶ。
 そう確信してから、判断は早かった。まだ体が動く内に、仲間と連携してジョージにトドメを刺そうと体を動かそうとする。ここは流石ラサの傭兵といえよう。
「ディルク様のメンツを汚すようなこの行為……ラサの盟約すらも破って……余程手痛い処遇は覚悟されておられるのでしょう?」
 失望するような声が耳元で流れた。聞き覚えのある。エルス・ティーネの声。
 傭兵が動くのが先か。エルスが動くのが先か。そのような刹那、傭兵の首を双鎌が刈り取る。
 首からパッと鮮血が散り、そしてジョージの前に倒れ伏すような形で倒れていく。
「……まったく、それを真っ当に使えばラサの為に役立ったでしょうに……」
 エルスは、死体となり果てたラサの傭兵を見下ろして残念そうに呟いた。 


 アントンは、ルナへ銃口を突きつけながらあざ笑うように銃を傾けた。いきなり馬車の方へ踏み込んでくるのはアントンにとって予想外だったが。
「お前ら、奴隷を助けろと依頼されたのだな?」
 半分正解。半分不正解。アントンは奴隷達の方をギロリと睨んだ。奴隷達はそれを受けて怯える。
「怖いよね。でも絶対守ってみせるから、出てきちゃだめだよ……!」
 フランは彼らへ馬車に隠れるように指示して、アントンを牽制した。
 イレギュラーズの目的は少なくとも馬車にあるらしい。それが誰なのかはアントンには分からぬ。
「貴様らを倒してからそれを確かめる事にしよう」
 アントンが引き金に力を込めた瞬間、ルナはその場から勢い良く飛び退く。弾丸が獅子の足を貫き、赤い血が乾いた砂に滴る。
「っ……あっつッ!?」
「ルナさん!?」
「頭を撃ち抜こうとしたのだが、言うだけのことはある」
 致命傷には至らなかった。だがしかし、弾丸本来のダメージ以上に出血が酷い。急ぎ回復魔法を詠唱するフラン。
「ホローポイント弾か。狩猟向けだ」
 相手の武器の性質を伺いながら傭兵達の目の前に現れる『飢獣』恋屍・愛無(p3p007296)。
 護衛していた傭兵らは、不定形のモンスターの姿を形取った彼女へ威嚇するように武器を構えた。
「ウォーカーか。何者かは知らぬが、お前のようなタイプへの対抗手段も私は持っている」
 アントンはすぐさま狙いを切り替えて、愛無の方に弾丸を放った――躱す。地面に着弾した瞬間に弾が爆発し、その地面の箇所が凍結した。
「退くがいい。さもなくば同じようなガス弾を馬車へ撃ち込むぞ」
 アントンはそう脅す。虚勢だ。通用するか愛無で試していた。一瞬、その対応を考える愛無。
「新人ウォーカーとでも見くびられたか? 恋屍 愛無。決して退くものか」
 護衛する傭兵達を目の前に、愛無は挑発するように名乗りを挙げた。
「……『烱眼の』か」
 傭兵らはその名乗りに応じるようにして武器を構えた。

 次に状況を大きく動かしたのは前進してきた傭兵達を相手取る『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)である。
「あたしが援護するから、思いっきりやっちゃえー!」
 フランから強化魔法を付与されていた彼女は、ジョージが陣形を死守していたのも相俟って魔法の詠唱に集中する。
「自分達がどんな商売に加担したか、身を以て知るといいわ」
 全力のソウルストライク。彼女からそれが来るのを察知した傭兵は武器で叩き落とそうとするが、ラダ・ジグリがその足を撃ち貫いた。
「……ッ!!」
 がくりと膝が折れる。その瞬間、魔法が傭兵の頭部に当たってその頭蓋を弾け飛ばした。
「率先して殺すつもりはない。投降するなら命の保証だけはするわ」
 セリアは二人の傭兵に呼びかける。しかし動揺する様子すら見せず、またジョージに斬りかかる。
 彼女が次に仕掛けようとした瞬間、銃声が響いた。ラダの連射? 違う、彼女は驚いた顔をしている。
「――ぬ、うっ!」
 ジョージの腹からボタボタと血を垂れ流れ出る。傭兵らがやったのか。いや、ジョージはそれらを受け止め切ったはずだ。
「たった一人討ち取れず、何が護衛か! 恥を知れッ!!」
 戦線の膠着に憤ったアントン=ヴァスがジョージを撃ったのだ。ジョージはその場で歯を食いしばる。
「チッ、こっちに手ェ出してきやがった」
 ジョージに食ってかかる傭兵の一人に対し、ルカは大剣で振り下ろして傭兵の体ごと地面に叩きつける。仕留めきった感触――そうしたはずが、それがぬるりと大剣と地面の合間を抜け出した。
「おいマジかよッ!!」
 パンドラの力とは違う、純粋な意思の力。傭兵はそれに肖って、ボロボロな体のまま意識を繋ぎ止めて、もう一人の傭兵と共にジョージへソニックエッジを撃ち放つ。
「――パンドラに比例する根性は賞賛しよう。だが、引き際を見誤ったな」
 ジョージは腰を落として、重傷の傭兵へ向いた。躱すつもりはない。
「止まれッ!!」
 アントンの声が響く。だがもう遅い。ソニックエッジがジョージの体に刻まれた瞬間、その勢いを利用する形で相手の顔面にガントレットが叩き込まれる。
「……ッ!!!」
 音速の剣技に対し、極大の反撃。ジョージは一人の傭兵を道連れにする形で、その場に倒れ込んだ。


 馬車近くの傭兵らは、手負いのルナや自衛手段が無いフランに狙う事なく、愛無に戦いを挑んでいた。それは武人として正々堂々か。
「人間の考える事は良く解らぬ。嫌いではないが」
 愛無は凍結した部位を庇いながら、ソニックエッジの軌道にチェーンソーをあてがうようにして相手の皮や肉を削いでいく。まるで純粋なダメージレース。これが決闘というならば傭兵が勝つだろう。しかし今回は『命の取り合い』だ。
「馬鹿者が……集合せよ!」
 アントンは痺れを切らして傭兵の全員を呼び寄せた。傭兵らもそれには従う。
「イレギュラーズ。何かしらの依頼をされたのだろうが、その倍を払うからここは穏便に済まさぬか?」
 そのような提案を述べるアントン。今回の一件に思うところあるエルスは、少々ムッとしたように不機嫌な顔をした。
「まだ金で済む問題だと思っているの?」
「そうとも、君達だって金で動いているのだろうErs! それに、君は殺さずに裁く女なのだろう?」
 知った風な口ぶりで語るアントンに対し、エルスティーネは一層に顔を顰めた。
「殺さず裁く女? ああ……そんな事もしていたわね 死は全てを終わらせられるから、牢屋送りの方が効く場合にはそうするわ。でも残念。あなたのように『行き過ぎた悪』にはそれ相応の罰は与えられるのよ? 安心してちょうだいね」
 ――直後、アントンの傍に権限する膨張する黒の大顎。未だ馬上にあった彼の体を削り取り、その激痛で落馬する。
「ぐっ……傭兵風情が……」
 さすがにこのままではまずいと思ったアントンは、奴隷のいずれかを人質に取ろうと動く。
 それを食い止めるようにフランが立ち塞がった。
「どけ、幻想種の」
 銃を向けて脅しつける。だがフランは退かず、アントンを睨み付ける。
「ザントマンの事があったのに、なんでそんな事が出来るの!?」
「金になるからだ」
 フランは歯軋り混じりに、アントンに言い放った。
「……絶対絶対、貴方になんか好きになんてさせない!」
 その瞬間、フランの胸元目掛けて弾丸が数発撃ち放たれた。奴隷達を守る為にも、彼女は目を瞑ってそれを受け止めようとした。

 ――その瞬間、傭兵とイレギュラーズの各々が動いた。
 まず真っ先に動いたのはルナである。引き金が引かれる瞬間、銃を握りしめたアントンの腕をソニックエッジで打ち上げて軌道を逸らした。
 弾丸はフランの内蔵を逸れ、直後に視界を覆う煙が撒かれる。
 愛無が時間を稼いでいる間に、二人は幻想種の奴隷を探し当てていた。
「代われ、ラダ!」
 煙の中から幻想種の親子、そしてフランを背負ったルナが駆け抜けようとする。
 傭兵は駆け出すルナを討ち取とろうとするが、ラダの射撃がそうしようとする傭兵の頭を撃ち抜いた。
「……共に契約を守る身だ。遠慮なく頭も胸も撃ち抜かせてもらう」
 傭兵は残り二人。足を刈るようにしてルナへソニックエッジを撃ち込む。ルナはその衝撃で意識を飛ばしかけ、道半ばに転倒した。
「ああっ……!」
「よくやった!」
 幻想種の親子から悲鳴のような声があがる。アントンは彼女達を人質に取って、形成を立て直そうとする。幻想種の子が親を庇う。アントンは構わず踏み込もうとした。
 そこに、突如として目が眩むような閃光が走った。傭兵やアントンは目を焼かれたように、瞼を瞑る。
 セリアの放った神聖の光は彼らを怯ませるに十分だった。次の瞬間には、愛無が異常な大音量を傭兵二人に放って、その衝撃波で彼らの脳髄を揺さぶった。
 目や耳が潰れ、その好機を逃さぬ形でルカが踏み込む。
 彼は大剣の腹で殴るように彼らの頬を横薙ぎにし、その意識を刈り取った。
「そいつらも殺さないのか?」
「生きたまま落とし前をつけさせる」
 人というのはやはりよく分からぬ。ルカの物言いに首を傾げる愛無。
「……く、くくく」
 依頼内容を見抜いたアントンはここで必死の抵抗――凶行ともいえる悪あがきに走ろうとした。ルナやフラン、幻想種の親子ともども殺す為、気絶した傭兵達を巻き込むのも構わず毒ガス弾を撃ち込もうとする。
「これで、お前らの依頼は失敗というわけだ!!」
「――ラダッ!!!」
 凶行を察知したルナが叫んだ。ラダは流れるような動作で弾薬を取り替え、ノンエイムで撃ち放った
 ゴム製の弾丸はアントンの鳩尾に当たり、彼は呼吸困難に陥る。必死にトリガーを引こうとするも、それも叶わずついにアントンは意識を失った。
「――契約を守る者には相応の対価を、背く者には相応の報いを」


「よく頑張ったな坊主。偉いじゃねえか」
「う、うん」
「ありがとう、本当にありがとうございます……」
 アントンを拘束し終え、安全を確保したルカは幻想種の子を不器用に撫でてやる。親の方もイレギュラーズへしきりに感謝を述べていた。
 対して、この世の終わりを待ち受けるような顔のアントン。彼は奴隷に顔を向ける。
「俺の手元を離れて、生きていけると思うか?! 何ら庇護もない奴隷のお前達が!」
 彼がそういうと、奴隷らは不安そうにする。ラダと愛無は、それに反論するかのように口を開いた。
「行く当てのない者は私達の庇護下に置いてはどうだろう。幸い、領地を管理する者はいる」
「領土に招くなりはできるか。住むなり働くなりの場所の一つや二つくらいは用意できるとは思う」
 それに驚くアントンと奴隷達。
「そりゃあ、いい。この坊主もウチの団員として素質ありそうだしな」
 わざとらしく笑って応えるルカ。フランから治療を受けているジョージも、それについて軽く述べた。
「そいつの言葉を借りるなら、飢えて死ぬくらいなら『機会』を与えよう。だが来るも来ないも自由。……明日を生きたい奴だけ、付いてこい」
 幻想種の親子含め、奴隷達はそれに大きく頷いた。この様子ならば働き手として扱うに心配はあるまい。
 それ言い終えたイレギュラーズ達はアントンに向けて顔を向ける。
「同じ事は繰り返してはならない。だから、分かるわね?」
「……自分がどんな商売に手を出してたのか、体験してくるといいわ」
 ――自分の未来を予想しえたアントン・ヴァスは、イレギュラーズの慈悲に青ざめるのであった。

成否

成功

MVP

ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
駆ける黒影

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れ様でした。

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