PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<リーグルの唄>光へ向かえ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 逃げろ、逃げろ、逃げろ。
 どこへ?
 どこへなりとも。

 逃げろ、逃げろ、逃げろ。
 どうやって?
 己の足で。

 逃げろ、逃げろ、逃げろ。
 いつまで?
 ――朝が、来るまで。


 はぁ、はぁ。
 はぁ、はぁ、はぁ。
 自らの呼吸が、心臓の鼓動が、唾をのむ音が大きく聞こえる。森の中は静かなようでいて風が戯れに木々を揺らし、月明かりをも揺らす。
 まだ、生きている。
 まだ、生きている。
 まだ、生きている!
 他の奴隷たちが生きているのか、捕まっていないのかは定かでない。バラバラに逃げてしまったから。それでも何人かは協力しあって何かしらの対策を施しているのだろう。
(朝は、いつ)
 空を仰げば、嗚呼、まだ朝は遠いのだと嗤うような三日月で。
 足を止めてはならない――生き抜く為に少年はまた、走り出した。



 ローレットはいつだって慌ただしい。それは勿論この世界を、そして全世界を救うためにイレギュラーズが日々『何か』をするために必要な事である。
 世界の命運を左右するような仕事から、どこぞの町の猫ちゃん探しまで。何でも屋である彼らに皆依頼を持ち込んでくる。
 いいや、もっと焦点を広げて見たならば、ローレットだけでなくどこであっても喧騒に包まれ、活気があるのだろう。人と人が交じり合い、物と物が交じり合い。――それは『裏稼業』もまた然り。
「やあ、揃ってるね」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は待っていたイレギュラーズに片手を上げた。早速だと告げた彼は依頼書と地図をテーブルへ並べる。
「ファルベライズの一件に赴いた人はお疲れ様。それにちょっと関連する話で、ちょっと幻想国も動き始めているんだ」
 というのも――かつて『砂蠍』がラサから幻想へ逃げ延びたのと同じようなケースである。あの時は盗賊であったが、今回はラサでブラックマーケットを営んでいた商人たちが幻想へ流れてきたのである。
 ラサでは遺跡群<FarbeReise>をめぐった戦いが起こっていた。その動乱の中では彼らも思うような商売ができなかったと言うことらしい。
「この国の上層部も君たちと関わったことで多少はいい方向に……そう、国民にとってはそれなりに良くなってきたんだと思うんだけれどね」
 現国王フォルデルマン三世。そして貴族の筆頭たる三大貴族。イレギュラーズは彼らを始めとした国内の主要勢力と親しい、などと言っては失礼かもしれないが比較的距離が近い。そしてイレギュラーズが関わり合いになったことで上層部の腐敗は国難と言われる程には至っていない。
 上に立つ者が荒れればその余波を受けるのはいつだって下の者である。故にショウは『国民にとって』と称したけれど。
「まあ、大抵どこだって一枚岩じゃないからさ。良く思わない貴族もいるんだよ」
 その小康状態を許しがたく思うのは、これまでその腐敗から甘い蜜を吸っていた貴族たち。それは止めろと言われて止められるような味ではない。
「悪徳商人たちが、幻想の貴族たちをターゲットにして商売を行おうとしている。君たちにはそれを阻止してもらうよ」
 ショウは地図の一角を示し、またその場所に対する情報を記した羊皮紙を提示する。それは子供なら1度は『あそこに近づくな』と言い含められている治安の悪い裏路地――ではなくて。
「森……?」
「そう、森。『商品』たちが逃げたと商人達が躍起になって探していてね。この隙に保護してしまおうという寸法さ」
 その話を聞きすぐさま動いたのはその一帯を治めている領主。商人たちは任せて、イレギュラーズには追われている『商品』を救って欲しいと仰せである。
「すっかり夜だ、灯りや見通しを良くするような対策をしていってくれ。保護対象も君たちに警戒するだろうから、うっかり怪我をしないように気を付けて」
 ああ、何が売られているのか言っていなかったね、とショウは視線を落とす。複数枚用意された羊皮紙に乗っているのは商品のリスト。記されているのは――。

「――奴隷、さ」

GMコメント

●成功条件
 逃げ出した奴隷たちの保護

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気を付けてください。

●状況
 ラサのブラックマーケットが幻想へ流れてきており、現在『大奴隷市』として人身売買が行われています。しかしその一部の奴隷たちが何らかの方法によって商人の隙を突き、夜の森へ逃げ出したようです。
 イレギュラーズたちは商人によってけしかけられた追手を退けつつ、奴隷全員を保護する必要があります。

●エネミー
・サベラス×15
 1体で2頭を持つ四つ足の魔獣です。商人の放った追手です。
 耳が良く夜目が利きますが、視力に関しては日中だと弱体化するようです。つまり、倒しきれなくとも朝まで凌いだなら勝ちです。
 EXAにも優れているようです。傷つけてでも引き摺り戻すよう命じられています。言葉を解しますが、主人(商人)の命令しか聞きません。

●フィールド
 幻想に広がる森のひとつ。
 良く木々が育っており、月明りも遮られて暗いです。また見えたとしても視界は悪く、不意打ちにはかなりの警戒が必要になります。

●保護対象
・奴隷×10
 カオスシード、ブルーブラッドなどの少年少女たちです。皆ボロ布を纏い、ちぎれた鎖を手足から垂らしています。
 怯える者、警戒する者、絶望する者……様々ではありますが、いずれも生きる事は諦めていません。
 イレギュラーズを見れば追手と思って攻撃、不意打ちなどを行う可能性があります。また知恵を巡らせ、トラップを森の中に仕掛けているようです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 ここまで読んだ人は是非エクストラカードも見にいってみてくださいね。奴隷もそれ以外も盛況ですよ!
 こちらのシナリオもどうぞよろしくお願い致します!

  • <リーグルの唄>光へ向かえ完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月14日 21時56分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
マヤ ハグロ(p3p008008)
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
一ノ瀬 由香(p3p009340)
特異運命座標
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ


 夜――月明りの照らす道をイレギュラーズたちは駆ける。目の前には広大な森の一端が影となって立ちはだかっていた。その入り口で『キャプテン・マヤ』マヤ ハグロ(p3p008008)は一旦立ち止まり、月の光が差し込まない暗闇を見通すように先を見る。
 とはいっても、何も見えないのだけれど。これは暗視を持つものならやっと薄暗く見えると言った所だろうか?
「子供の奴隷たち……か。あんまり他人ごとにはしておけないかな」
 『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)は豊穣で散ったという肉腫(ガイアキャンサー)、ザントマンを思い出す。伝承から発生したというあれは幻想種を奴隷として狙っていた。ともすれば自分もそうなっていたかもしれない。そう思うと――未来ある子供と思えば尚更――どうにか助けてあげたい。
 『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)はクルルへ頷き、でもと森へ不安そうな瞳を向ける。その漆黒はあまりに深く、まるで呑み込まれてしまいそうだ。
「こんな暗い森の中……そう長く保つとは思えない」
 逃げているという状況も相まって子供達は余計に神経を摩耗させているはずだ。残された時間は少ないと見て良いだろう。
「二手に分かれるんだよね。えーと、アタシは……」
「こっちだよ!」
 『闘技戦姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が視線を彷徨わせるとクルルが手を上げる。皆が誰と一緒なのかを覚えていてくれて助かった、とミルヴィは彼女の元へ行くとメルナたちを振り返った。
「ファミリアーを追いかけるようにするけど、あまり離れたら戻って来ちゃうカモ」
 ミルヴィの言葉に頷く一同。その足元をチチッと鳴き声を上げてネズミがちょろちょろ動き回る。『虎風迅雷』ソア(p3p007025)はそれに視線をくれると次いで森へ向けた。
(奴隷は10人……でも、固まっていてくれるとも限らない)
 固まっていない方が個々の生存率は上がるだろう。最悪『誰か』が囮になってくれればその他は逃げ切れる可能性が上がる。
 勿論、イレギュラーズは誰1人としてそんなことをさせる気はない。一同は2班に分かれて森へと侵入した。

「ふっふーっ、森の中なら任せて頂戴」
 やる気満々のソアは《森の王》たる力で周囲の動植物や精霊たちへ声をかける。月の光も届かぬいま、ほとんどが眠りについてしまっているようだが、その中でも起きていた精霊へソアは他の誰かが通らなかったかと問うた。
『小さい、ヒト、そっち』
 片言に示してくれた方向を見てソアはありがとうと礼を言い、仲間たちへ共有する。獣の話が出なかったと言う事はその子はまだ見つかっていないのだろう。
「ハッ、商品に逃げられるとはだせぇ三流商人だ」
 『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)はその言葉に鼻で笑った。だからこそ獣を仕掛け、対抗するためイレギュラーズが呼ばれている訳であるが――何にせよロクな人物ではないのだろう。子供達も子供達で何故奴隷になってしまったのかはわからないが、逃亡を成功させ今なお逃げ続けるとは良い根性だ。
(生き汚ぇのは嫌いじゃねぇ)
 故に、そちらへ加担してやろうではないか。優れた視覚で、聴覚で子供を探すルナの傍ら、メルナは罠などがないかを探る。
「すごく暗い……こんな場所を、逃げ続けているの……?」
「何としても助けてあげないとね」
 人助けセンサーにひっかかるものがないかと探す『特異運命座標』一ノ瀬 由香(p3p009340)はメルナの言葉に頷く。そもそも子供を奴隷にするなんてことが許せない。由香の世界では、少なくとも由香の知る場所では身近に奴隷など存在しない。子供なんて保護されるべき対象であろう。それが――良いように扱われる身分だなんて、許せるわけがないのだ。
「ソアさん、どう?」
「あっちだって」
 自然へ足取りを問うソアと協力しながらセンサーを辿る由香は、その内遠方にひとつの反応を見つける。こんな暗い夜の森に無関係の人間が紛れ込んでいるとも考えづらい。
「行ってみよう!」
 由香、そして感覚の優れるルナを先頭に一同はそちらへ進み始める。しかし向かい始めて暫し、不意にルナが由香を引き留めた。
「転ぶぞ」
 それは糸――いや、糸のように細く裂かれた布だ。道を渡るように木と木の根元で結ばれている。これで転ばせて、あわよくば怪我でもして追跡の手が緩めば良いと言った所か。恐らくこの布は服の裾でも割いたのだろう。
「さっきここを離れたみたい。すぐそこだよ!」
 ソアが布が結ばれていた木から話を聞き、一同を振り返る。今ならまだ追いつけるはずだ。走り出した一同はすぐに1人の少年を見つける事となる。
「く、来るな」
「困ってるんでしょう、助けに来たよ。一緒に逃げよう」
 ソアの言葉に首を振る少年。その顔には恐怖がこびりついている。掌を見せるように両腕を上げたソアがゆっくり近づくと、同じだけ後ずさる――と見せかけて少年は突進していく。渾身の体当たりもソアほどの者であれば躱すことができただろうが、彼女はそうしなかった。
 衝撃。息の詰まる感覚。それでもソアは上げていた両腕を下ろし、そっと少年を抱きしめる。
「なっ……離せよ!」
 少年はもがくが、ソアの腕は彼を逃さんと捕まえている。その脇で同じ視線まで屈んだメルナが声をかけた。
「ねえ……私、メルナって言うの。君の名前も教えてくれる?」
「……、……リュイ」
 さんざ暴れて、それでも解けなかった抱擁(拘束)にぐったりとした少年リュイが答える。そこに浮かぶのは最早恐怖ではなく――諦めか。
 メルナが彼らを助けに来たことを伝えると、未だ疑いは解けないようだが抵抗もしないようだった。武器があれば放棄させた方が良いかとそれとなく所持如何を聞いて見ると、特に武器は持っていないらしい。
「逃げるのに必死で、武器なんて探す余裕がなかった」
 それで先ほどの突進だったらしい。双方が無駄に傷を負わなかったと思えば良かったのだろうが、身一つでの逃亡は心細かっただろう。
「まずは1人だね」
 ソアが視線を巡らせるとちょろりと一瞬長い尻尾が見えた。恐らくはミルヴィのネズミだろう。彼女たちもそこまで遠い場所にはいなさそうだ。
「オイ」
 ふと、それまで後方で周囲を警戒していたルナがリュイへ呼びかけた。本当は子供を怖がらせ泣かせてしまわないため――だって面倒だから――だが、リュイの頭と腰に良く見たことのある耳やら尻尾やらが見えたものだから声をかけたのである。
 リュイはルナに警戒こそすれ、泣き出すような感じではない。ルナはそれを見てニッと笑みを浮かべた。
「飼い主に噛みつくたぁ、いい根性だ。その牙(心根)、折るんじゃねぇぞ」
 折れない限りは生き続けられる。たとえそれが泥水を啜り、底辺で生き足掻くようなものであったとしても、牙があれば何度だって抜け出せることだろう。


 一方のもうひとチームは、やはりそこまで遠くない場所で子供たちを探していた。
(幼い子を捕まえて、無理やり働かせて……しかもそれで金儲けしてるってのは、流石に看過できないね)
 『両手にふわもこ』アルム・カンフローレル(p3p007874)は暗視を働かせながら森の中を見渡す。月明かりも届きにくい中だ、魔獣に見つかったらひとたまりもないだろう。それに自然の中とあれば野生動物の中でも刺激してはいけないモノがいるかもしれない。
 子供達にそこまで配慮する余裕があるかはさておいて、自分たちはなるべくそういった手合いを避けていかねば魔獣に先手を取られかねない。暗視で痕跡を探し、危険を避けて進まねば。
 後を行くクルルの腰でカンテラが揺れる。日中を苦手とする魔獣が光を嫌うことを祈ってのものだが、一応クルルも暗視の用意はバッチリだ。視界に頼らずともミルヴィがエコーロケーションで周辺の様子は探ってくれているので、複数人がスルーすると言うことは考えにくいだろう。
「この辺りは足元が見えにくいみたいだ。気を付けて」
「うん……あっ、待って!」
 アルムの言葉に頷いたクルルは一同へ声をかけて止める。草に紛れて罠が張ってあるようだ。良く見ると草同士を結んで、つま先がひっかかるようにしているらしい。クルルはうっかり転ばないよう、ギフトで干渉して順番に罠を解除していく。
「まあ、そこまで高度な罠は作れないよね……でもこれがあるって事は、近くに子供達がいるかもしれない」
 気を付けて、とミルヴィは声を潜める。もう一方も1人、2人と順調に保護しているようだが、こちらも近いのであれば保護してあげたい。皆の視覚とミルヴィのエコーロケーションが頼みの綱だ。
 ほどなくして走っていく音を拾った一同はちぎれた鎖をつけた少女に追いついた。アルムが天使の歌を響かせると少女は思わずといったように足を止め、不思議そうに自らを見下ろす。
「……痛く、ない……?」
「もう大丈夫。アタシたちは味方だよ」
 ミルヴィはゆっくりと少女へ歩いていくと屈み、その目を見つめた。吸い込まれそうなサファイアの瞳に少女が映り込む。
「大丈夫……?」
「そう。よく頑張ったね」
 抱きしめられた少女はミルヴィの言葉を繰り返すように口にして、ぺたんと座り込んだ。



 双方とも微かな痕跡を辿りながら比較的順調に子供達を保護していく。時に反抗や不意打ち攻撃をする者もいたが、それぞれの方法で諫めることに成功していた。
 保護された子供達はと言えば、口数少ないもののイレギュラーズを完全には信用していないものの、ひと先ずは着いて行ってみようといった所か。
 しかし子供の数が増えて行けばそれだけ、大所帯となっていく。『彼ら』に見つかるのも時間の問題だっただろう。
「この辺には誰も来てない? そっか、ありがとう」
 近くの植物へ質問し終わったソアが立ち上がると同時、ルナが目を眇める。聞こえたのは――足音、そして息遣い。
「来るぞ。ガキ共、こっちにこい」
 即座にイレギュラーズが庇える位置へと誘導を行うルナ。子供達には疲労も濃いが、生きたいという願望故か比較的早く動き出す。その中で一番遅い、言い換えれば最も疲れの溜まって良そうな子供の首根っこを掴んだルナはひょいと自分の背へ乗せた。
「舌噛むんじゃねぇぞ」
 突然のことに目を白黒させる子供へ告げ、ルナは子供達を追い抜き先導していく。子供達の速さには自分も、そして敵もまた待ってくれない。
「こっちは任せてっ」
 ぱち、とソアの周囲で放電する雷。可視化したそれはただで転ばぬ雷精の守りだ。やがて見えてきた獣の数は――4体。全力前回、一気に懐まで飛び込んでいったソアはバーストストリームを撃ち放つ。
「誰も傷つけなんて、させない! 私が相手だよ!」
 次いで飛び込んだメルナへ4体の視線が移っていく。子供達を襲わせてはいけない。まだ見つかっていない子供達もまた然り。そのために――全て、仕留める!
 防御の体勢を取りながら引き付けた敵をギガクラッシュで応戦していくメルナ。しかし不意に視界の奥で『交戦する』ルナが視界に入る。
(あっちにも……!?)
 少し時を遡りて、ルナが子供達を先導していた時。向かう方向からも獣の存在を感知したルナは小さく舌打ちすると子供を背から降ろした。
「絶対に前へ出るんじゃねぇぞ」
 そこまで遠く離れてはいない。途中で気づいて貰えることを祈りながら――ルナは現れた2体の魔獣へ挑発した。
 正直な話、ルナはかなり打たれ弱い。速度へ全てをつぎ込んだ結果であるが、この場での耐久力を考えればかなり厳しいだろう。
「だがな――あんまりなめんじゃねぇぞ」
 攻撃を受け、今にも崩れ落ちそうだったルナが持ち直す。その瞳の奥で燃えるのは意志が起こす可能性(パンドラ)だ。
(クソ痛ェのに、簡単には死なせてくれねぇ)
 素直に倒れてしまえばそれまでではあるのだが――この子供達を取り返されるのは惜しい。
 そこへ気づいたメルナが最初に会敵した4体を引きつれつつルナの元まで合流し、彼が引き付けていた2体も自らへと向けさせる。そこへ飛んでくるのは由香の魔弾だ。
(私も接近戦は特異じゃないし……)
 元の世界でも平々凡々とした、争いなど遠い世界であった彼女だ。唯一、両親から聞く冒険譚には危機一髪というような展開もあっただろうがそれもやはり『物語』のようなもので。
 それでもここは現実故に、なるべく傷を負わない様に立ち回らなければならない。
「もうちょっと、頑張って!」
 ソアのミリアドハーモニクスがメルナを癒す。いくらかの力を取り戻したメルナは大剣を旋回させ、荒ぶる風へ魔獣を閉じ込める。
(負けない。奴隷の子たちは全員助け出す。お兄ちゃんなら……きっと、それくらいやってのけた筈だから!)
 由香の魔弾が魔獣の体力を削っていき、ソアの強力な一撃が敵を1体、また1体と沈めて行く。度重なる魔獣たちの攻撃をしのぎ切ったメルナはほう、と小さく息をついた。
「援軍は……なさそう?」
「みたいだね」
 ふう、と息をつくイレギュラーズたち。しかし子供達はすぐ切り替えると言うわけにもいかないようだ。顔色をなくしている子供達に由香は優しく笑いかける。
「無事に脱出できたら、おいしい料理を振舞ってあげるよ!」
 怖い今ではなくて、楽しい先を考えられるように。そうして一同は再び捜索を開始した。

 一方のアルム達もまた、魔獣たちとの戦闘へと突入していた。
 ミルヴィが敵を引き付け、他のメンバーが攻撃していく。子供達を守るために立ちはだかるのはクルルだ。
「早めに切り抜けたいね」
 アルムは背に光の翼を生やし、敵を傷付け、味方を癒していく。その後方からクルルは誤射に気を付けつつ矢を放った。鳴り響くのはまるで――マンドレイクの絶叫のように。
「人買いの手伝いする悪い子は、お仕置きしちゃうんだよ!」
 イレギュラーズたちからの攻撃に唸りながらも反撃する魔獣たち。ミルヴィは応戦しながらも声を張る。
「ねえ、こんなこと自ら進んでやってるの? 本当は嫌だったりしないの!?」
 返ってくるのは言葉ではなく、鋭利な爪と牙。変わらぬ殺意が進んで主人に従っているのだと教えてくれる。ならば――。
「――倒す!」
 その瞳が瞬間、昏い黒と赤に染まる。二振りの剣が魔獣を仕留めた。
 多少の苦戦はあったものの、無事に敵を倒した一同は視線を巡らせ、そして武器を収める。これはそろそろ合流を試みた方が良さそうだ。今のまま連戦するのは余力を鑑みても危険だろう。
 一同はミルヴィのファミリアーを頼りにもう一方の班へ合流すべく動き出した。


 暫しして双方の班は合流を果たした。子供達も顔を知る者たちが再び会えたと言うことで少なからずほっとしているようだった。
「あと2人くらい、かな」
「うん。はやく見つけてあげよう!」
 メルナが子供達を数え、ソアが視線を巡らせる。まだ危険は潜んでいるかもしれないから油断は禁物だ。
 それでも双方に別れて捜索をしたおかげで残る範囲は狭まっているはず。残る範囲を一同で捜索して、ほどなく残りの2名も発見される。子供達が集まっているおかげか、特に抵抗もなく保護された子供達へクルルは笑みを浮かべた。
「もう怖くないよ! さあ、安全な場所へ行こう!」
「そうだね。……彼らの引き取り手も探したほうが良いかな?」
 アルムはふと考える。奴隷商人から保護したは良いが、そのままはいさよなら、としてしまっては彼らが路頭に迷うだろう。入れる孤児院とか、何か――。
「……え?」
 ふいにくいくい、と裾が引っ張られる。アルムは視線を下げて、裾を掴んでいる子供に目を丸くした。その瞳が『引き取ってはくれないのか』と訴えている。

 その訴えにどう答えるかはさておいて――まずは、安全の保障された場所へ、帰ろうか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

マヤ ハグロ(p3p008008)[重傷]

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 子供達は無事に保護されました。

 それでは、またのご縁がございましたらよろしくお願い致します。

PAGETOPPAGEBOTTOM