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シナリオ詳細

<リーグルの唄>隷属を糧に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想王国に起こる小さな変化。
 この国は封建制的な王侯貴族による統治が続いているが、貴族は民を顧みることは無く、我欲の為の政策を敷くことも珍しくない。
 彼らは自分達の領地内に存在する裏市場も見て見ぬ振りをしている。それは、自分達に少なくない場代が入ってくるからである。
 裏市場には様々な物品が出回る。いわくつきの武具、高価な値がつく盗品や模造品、怪しげな薬、そして、ペットとして手懐けたモンスターや奴隷となった人々まで……。
 なんでも、ここしばらく『大奴隷市』と銘打ち、幻想に集結した商人らが人身売買を繰り広げているらしい。
 孤児であった少年少女、迷宮深林より拐かされた幻想種、見目麗しい旅人に遥か大海で見つかった獄人……。
 そんな『商品』を売り出す商人達の尻尾を、アルテナ・フォルテ(p3n000007)が掴み、その撲滅の為にローレットへと依頼を出している状況だ。
「人身売買……許すわけにはいきません」
 かつて、アクアベル・カルローネ(p3n000045)も海洋の地で人身売買の商品とされていた過去がある。それだけに、彼女はこの一件を見過ごすことができなかったのだろう。
「どうか、奴隷とされた人々の解放を。よろしくお願いいたします」
 彼女は依頼を受けてくれたイレギュラーズに深々と頭を下げるのである。


 アクアベルの情報を元に、幻想某所にある裏市場へと向かうイレギュラーズ一行。
 やや入り組んだ幻想の街の路地を裏手側へと歩いていると、複数の路地が交差した小さな広場に数人もの人が集まっていた。
「本日は遠くからお越しいただき、誠にありがとうございます……」
 司会進行しているのは、金髪でスレンダーな男。幻想にて、商人を営むプブリオである。
「最近、ラサから生きのいいのが大量に届きましてね。『大奴隷市』に便乗して皆々様へとご提供をと思った次第であります」
 一通り挨拶したプブリオは壇上から下がり、侵攻を部下に任せて甲冑に身を包む男と会話をしながら視線を周囲へと走らせる。
「注意は怠るな。親父の代と違って、今は商売がやりにくくなっているからな」
「……承知した」
 身長ほどある槍を構えた騎士は小さく言葉を返しただけで、兜の中から鋭い視線を周囲に走らせる。
「おおお、これは!!」
「ふむ、なかなか可愛いではないか」
 それぞれ客となる商人や貴族は自らの欲望をむき出しにし、声を上げる。おそらくは金に糸目を掛けずに競り落とすつもりなのだろう。
 その様子を物陰から注視するイレギュラーズ達。
 奴隷が売られてしまうと解放が困難になる。商品……もとい、奴隷の紹介が終われば、本格的な競りが始まってしまう。
 作戦を固めたイレギュラーズ達は路地の状況を見ながら、銘々に飛び出していく。
「チッ、やはり来おったか。グラベル、頼むぞ」
「……承知」
 飛び出す槍騎士を見送る間もなく、プブリオは部下の1人へと声をかけて。
「おい、あいつも用意しろ」
「へ? ですが、ここには多数の顧客も……」
「対価も得ぬ奴隷を手放すわけにはいかん。やれ」
「ハッ……」
 ローレット勢の乱入に現場は騒然となる中、プブリオの部下が解き放ったのは、人型のクリーチャー。
「オアアアアァァァ……!」
 ギラギラと目を輝かせるそいつ……バンダースナッチはイレギュラーズを敵と認め、左右長さの違う腕を振るってくるのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。なちゅいです。
 <リーグルの唄>のシナリオをお届けいたします。

●敵……悪徳商人プブリオ一派
○プブリオ
 30代人間種。金の短髪にスレンダーな体つきをしております。
 どうやら、親から地盤を引き継いだ貴族で、コネを利用してどんな手段を使っても利益を得ようとする外道です(先代は何らかの理由で亡くなっているようです)。
 戦闘能力はほぼ皆無ですが、拳銃とナイフで最低限の武装はしていますので、油断だけは禁物です。

○槍騎士グラベル
 40代人間種。甲冑を覆っており、普段は表情さえ窺わせはしません。
 プブリオの先代当主から仕えており、先代にはそれなりの恩義を感じていたようですが……。
 戦いとなれば、身長ほどもある鋭い槍を操り、敵の身体を切り裂き、あるいは貫いてきます。

○商人×8人
 プブリオ子飼いの商人。彼らもまた先代から引継ぎで裏市場などの売買に従事しています。
 20~40代の男女が多く、争いごとは一般人よりは慣れていて棍棒や片手斧など、殺傷力の強い武器で襲い掛かってきます。

○バンダースナッチ
 プブリオのペットです。
 原典は姿に関する表記がなく、全長2m程のクリーチャーを思わせる人型をしており、長さの違う左右の腕を叩きつけ、鋭い牙で食らいついてきます。

○奴隷……10名
 多くは日焼けした肌を持ち、ラサから連れてこられたと思われる10~15歳くらいの少年少女です。
 戦闘能力は皆無。金属製の手枷足枷をつけられており、それぞれを鎖で繋がれております。

○奴隷商人など……50名ほど
 奴隷目的の客です。商人、貴族など。
 彼らをどうするかはイレギュラーズ次第ですが、それぞれ用心棒などを雇っていることも多く、争うとなればそれなりの作戦、準備が必要になると思われます。

●状況
 幻想の裏路地で密かに行われている人身売買の現場を押さえます。
 プブリオ一派が取り仕切る市場は複数の路地が交差する場で、競りを行うことができる程度の広さがあります。
 広場の中央でプブリオ一派は競りを始めている状況です。
 その現場を抑えつつ、プブリオ一派を優先して捕らえ、奴隷の解放を目指します。
 客である商人や貴族らは上記の通り、用心棒などを雇っていることも多く、そちらの情報は不足しております。こちらの対処も考えるなら、難易度が上がりますのでご留意くださいませ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <リーグルの唄>隷属を糧に完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月11日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マヤ ハグロ(p3p008008)
斑鳩・静音(p3p008290)
半妖の依り代
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
一ノ瀬 由香(p3p009340)
特異運命座標
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)
忠義はかくあるべし
八剱 真優(p3p009539)
忠義はかくあるべし

リプレイ


 『大奴隷市』と銘打たれ、幻想のあちらこちらで行われる人身売買。
 今回、イレギュラーズが事前に仕入れた情報は、悪徳商人プブリオ一派が取り仕切る市場だ。
「人身売買……人を売買の品にするとは、なんと下劣な!」
「子供たちを奴隷にして、ひどい目に合わせるなんて、許せない!」
 豊穣貴族の娘、『曇り知らずの高気圧龍姫』八剱 真優(p3p009539)や、小柄な黒髪少女の『特異運命座標』一ノ瀬 由香(p3p009340)はこの事態に憤りを隠さない。
「人の命を商品として取引するとはね」
 海賊である『キャプテン・マヤ』マヤ ハグロ(p3p008008)は、敵の捕虜を取引の材料にすることもあるそうで、人のことは言えないとしながらも、今回ばかりは看過できない問題だと語る。
「こういうのって隠れ家みたいなところでやるもんだと思ってたが、大胆というか……」
 この状況に、アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は相手がそれだけの力を持ってるって事なんだろうと分析していた。
「真優様。俺は、幻想が人身売買を許さぬ国で、安堵しております」
 豊穣の武門の出、矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)は真っ当な商いなら当然手を出す謂れもないが、この怒りを抑えての生活などありえないと主張する。
「必ずや奴隷とされた人々を救い出し、野蛮な輩には裁きと制裁を与えましょう!」
 そんな臣下である景護に、力強く真優が事態の解決を誓うと、他メンバー達も呼応するようにボルテージを上げて。
「こうなったら、奴隷商人たちを徹底的に叩く!」
「それもこれで終わりにしよう」
 拳を強く握り締めたマヤが語気を強めたところで、索敵していたアーマデルが仲間達へと現場の接近を告げたのだった。


「本日は遠くからお越しいただき、誠にありがとうございます……」
 すでに、路地裏の広場に集まる怪しげな風体の人々に対して悪徳商人プブリオが競売を始めようとしていた。
「まずは敵の行動を阻害しませんと……」
 マヤの意見はもっともだが、どこまでを敵とするかメンバー間で認識を共有する。できるなら、人身売買に関与する悪徳商人は全て捕えたいところ。
「この場に集う客達にも思う所がありますが……依頼を受けて動く身として、優先順位を誤ってはなりません」
 真優がそこで、外道一味の撃破捕縛と、奴隷とされた子供達の救出をと優先事項を列挙する。
「数十人もいる奴隷商人やおつきは対処しない……いや、個人的にはしたいけど……」
 存在感が希薄な『神は許さなくても私が許そう』白夜 希(p3p009099)の一言は注意しないと聞こえぬような声だったが、しっかりと耳にしていたメンバー達からは異論は出ない。
「プブリオ一派も勿論逮捕するよ! でも、今回はあたしとしては子供たちを助けるの優先かな……?」
 手足を繋がれて震える子供達を注視し、由香は自らの気持ちを口にする。
「現場は往来で、奴隷は戦闘能力の無い拘束された子供……」
 アーマデルは子供達が連れてこられた荷馬車に着目していた。
 戦闘になれば馬が暴れるかもしれないし、荷馬車は馬車として使えるかもしれない。あるいは、奪い取って子供達の避難に利用できるかも……アーマデルはその有用性を考える。
「ん、ちょっと大変だけど、時間稼ぎができれば良いかなぁ」
 また、赤い頭巾の狼獣人の姿をした『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)は客である奴隷商人らの他、プブリオ一派にも護衛がいることを視線で示して。
「プブリオ達に関しては任せるね、奴隷の子達は巻き込まないようにお願い」
 改めて、Я・E・Dは奴隷商人に手を出さず、彼らが騒ぎを嫌って逃げ出すよう誘導したいと話す。
 それぞれの心情もあり、メンバー達は手早く役割分担する。
 その間に、マヤはポケットから取り出したラム酒を一気に飲み干してテンションを高め、希は後で奴隷買いなど行う貴族がいないか後でチェックすべく、瞬間記憶で貴族の顔を覚える。
「さあ、メインイベントに移るとしましょう」
「そこな見物人達!」
 挨拶も終わり、プブリオの部下が競りを始めようとしたとき、真優が姿を晒す。
 なお、敢えて客でなく、真優はこの場の面々に見物人と呼び掛けることで、人身売買とは無関係だと見なすと意思表示してみせる。
「私達は人身売買の摘発依頼を受けたローレットの者です!」
 公的権力からの依頼と言わず、真優は名乗りを上げる。
「野郎……!」
「ローレット……」
 この場にいた貴族らが殺気立ち、護衛が主を護ろうと剣を、銃を抜く。
「我が名は海賊マヤ・ハグロ! 人の命を金でやり取りする愚か者たちよ。潔くこの海賊と勝負しなさい!」
 続き、マヤもまた威風堂々と名乗りを上げ、素早く抜いた拳銃を発砲する。
「それとも、私に恐れをなして逃げるかしら?」
「やはり来おったか」
 客である貴族達は現れたイレギュラーズに出方を窺っていたが、確実に足がつくプブリオは応戦を決め、部下と槍騎士をこちらへと差し向けてくる。
「オアアアアァァァ……!」
 そして、左右の腕の長さが違うクリーチャー、バンダースナッチが吐息を漏らして近づいてくる。
「人身売買は如何なものかなとは思うけど、それ以上にそんな化物を人の居るところで放つのは流石に看過出来ないかな」
「…………」
 太陽のレリーフが描かれた盾を構えた『半妖の依り代』斑鳩・静音(p3p008290)がそいつへと突撃しながら告げる。同じタイミング、Я・E・Dもバンダースナッチの背後へと音を立てず軽やかに回り込んでいく。
「やれ」
 ナイフと拳銃を手にしたプブリオが凶器を手にした部下達へと号令を出す。
「巻き添えを望まぬならば、疾く立ち去りなさい!」
「余計な真似を」
「撤収だ、急げ!」
 真優が周囲へと呼び掛けると、周囲にいた貴族達はこの場の抗争に巻き込まれぬよう撤収の準備を始めるのだった。


 騒然となる人身売買の現場。
 いくつかの勢力が交錯する中、イレギュラーズは希の提案した役割を果たすべく布陣する。
 先んじて現場へと飛び込んだマヤは商人達から距離をとったままデザート・イーグルで弾幕を張り巡らすと、アーマデルがそれらの無力化の為に蛇鞭剣をしならせて音を発する。
「うう……」
「ぐあああっ!」
 アーマデルの操るそれはいくつも絡み合って不協和音を奏で、商人らの動きを縛り付けていく。中には早くも倒れる者もいたようだ。
 客として現れていた貴族らはその場から離脱しようとするのだが、どさくさに紛れて奴隷を狙う者もいて。
「くはっ、いただくぜ!」
「これ以上、こっちに来た場合は……こうだから」
 そいつらに向けて希は武器とするハンマーを思いっきり地面に叩きつける。
 ダアアアァァァン!!
 轟音が路地に響き、貴族らの注意が一時希の方へと向く。そいつらがどさくさ紛れに奴隷とされた子供を連れて行かぬよう牽制していたのだ。
「チッ……」
 舌打ちし、貴族らは逃げていく。
 その間に、他メンバーが強敵らと対していた。
 槍騎士グラベルには真優、景護が当たっていて。
「彼を抑えれば、他の戦局の優位に繋がりましょう」
「…………」
 槍を構えた騎士は並々ならぬ威圧感を放っており、それだけの凄みと力量を真優は感じていたのだ。
「景護、頼りにしてますよ!」
 戦闘最適化の為の特殊支援を真優から受けた景護は囚われた子供達の解放にと、人身売買など行う連中に対する怒りを自らの武器に籠めて。
「神威神楽が八剱の守護役、矢矧鎮綱が当代、景護……お相手仕る」
 自身の相手にする槍騎士を挑発すれば、向こうも望むところと飛び出して槍を突き出してくる。
 槍の一閃はあまりに速く、見切ることは容易ではない。
「――掌握」
 その切っ先を体に感じる景護は流れる血と共に体力がすり減るのを感じつつ、両腕の手甲に鋭い爪を発現させて。
「……この鬼の爪、獲物は何人も逃がさぬよ」
 鈍く光る凶爪が槍騎士の身体を薙ぎ払う。
 強固な甲冑を一撃で引き裂くとまではいかぬが、注意を引き付けるには十分だったようだ。
 なお、皆が交戦している間に、由香が奴隷とされた子供達の解放に当たる。
「皆、助けに来たよ!」
 人助けセンサーを駆使する由香は詠唱を行い、光を発して子供達の身体についた傷痕を癒し、彼らの気持ちを落ち着かせていた。
「オアアアアァァァ……!」
 正気を失ったバンダースナッチ。
 その背後へ、いつの間にかЯ・E・Dが回り込んで奇襲の一撃を叩き込み、静音も正面から自らの盾でそのクリーチャーを押さえつける。
(奴隷の子達が巻き込まれる様な真似だけは避けたいからね)
 奴隷商人はいざ知らず、奴隷の子供達は今なお広場の中央。由香が救出している状況を目に入れ、静音は敵を煽る。
「私が殴り倒されるのが先か、拳が砕けるのが先か試してみない?」
「オアアアアッ!!」
 バンダースナッチは左右の腕を鞭のようにしならせて叩きつけてくる。子供達の保護が確認できるまで、静音はこの態勢から一歩も引かぬ構えだ。
「今、やるべきは……」
 希はバンダースナッチがプブリオへと護衛に向かうのを止めるべく、影から伸びた触手でバンダースナッチを叩く。
(まだ、奴隷の子以外が残っているが……)
 尻もちをついたり、右往左往したりする貴族がまだ残っている状況だが、Я・E・Dは彼らには多少の被害が及んでも構わないと割り切り、リング型の暗器に魔力を纏わせてバンダースナッチへと攻撃を続けるのである。


 路地の広場の交戦は激しさを増す。
 槍騎士と武器を交える景護は相手を引き付け、攻防一体の構えを取る。そうして、敵の槍を頑強な刀で打ち返し、さらに受け流してからの手甲で固めた拳を打ち込む。
 しばらくは互いに消耗戦となるが、真優が景護を支えるべく賦活の力を与え、さらに天使の歌声を響かせる。
 真優にとっては、目の前の戦いは従者同士の戦いであるのだが、生まれながらに景護と主従の縁を結ぶ真優は明らかに感じていたこと。それは……。
(かの槍騎士から、主たる悪徳商人への強き絆を感じません……)
 同じことを、護法憑で周囲の状況把握を行っていた景護も感じていたらしく。
「弱きを踏みつける者にはわからぬかもしれん。主に無言で付き従う貴殿には、わからぬかもしれん」
「…………」
「俺の主は日差しの如き方でな……お天道様に恥じる真似はできぬのさ!」
 主に対する景護の想いは強い。力に優れる槍騎士だが、その切っ先は鈍り始めていたようだった。
 少し距離を離し、バンダースナッチは3人が抑える。
「真っ黒に塗りつぶされた世界には何もないわけじゃない……何もかもありすぎて、気がおかしくなるんだよ……」
 主としてそいつの気を引く希は、死神の魔手で包む目の前のクリーチャーが元々如何なる存在だったか考える。
 最低限の知性はありそうなこいつはプブリオにとってペットでしかなく、奴隷よりもぞんざいな扱いを受けている感もある。
 それに、希は少し哀れみも感じていた。
 そのバンダースナッチを、Я・E・Dは逃げる商人らの方へと敵を誘導し、暴れさせる。
「うわああ!!」
「逃げるぞ!!」
「指揮系統の統一されてない集団……、やはり退いていったね」
 アーマデルはそれを横目で見つつ、商人達の制圧の手を強める。
 一方、希から商人へと、バンダースナッチが攻撃対象を移したのを見て、静音が盾を携えて割り込む。
「折角、こうして目の前に無抵抗な獲物が居るのに、他の人を狙うなんて無粋じゃないかな?」
「アアアアアッ!」
 体を大きく捻らせ、そいつは静音へと短い腕、長い腕と連撃を叩き込んでいた。
 それを見た希は祝福をもたらし、静音の傷を塞ぐ。
 やがて、この場に残るのはイレギュラーズ、プブリオ一派と奴隷にされた子供達だけに。
 由香は交戦に紛れ、プブリオ一派が奥に止めてあった馬車へと子供達を避難させる。
 戦いに巻き込まれ掛ければ、由香は子供達の盾になりつつ魔弾を発して商人達を牽制する。
「クソッ!」
 比較的フリーになっていたプブリオも銃で応戦し返そうとするが、商品として認識する子供らを狙わぬようにしている分、照準がブレていたようだ。
 その周囲では、商人らが武器を手に応戦し続けていたが……。
「自由にさせるわけにはいかないな」
 アーマデルは蛇腹剣の擦れる音で商人達の動きを鈍らせる。
 商人達も荒事は得意なはずだが、満足に動けぬ中ではただの的。マヤのデザート・イーグルが火を噴き、弾幕や抜き打ちで撃ち抜かれた商人は次々に倒れていく。
「ぐうう、このままでは……!」
「さぁ、これが人身売買を邪魔したお詫びよ。遠慮なく受け取りなさい!」
 歯噛みするプブリオへと、マヤが投げつけたのはラム酒爆弾。
 その破裂に巻き込まれ、崩れ落ちるプブリオはしぶとく逃げようとするが、マヤが石畳に作った落とし穴へと半身が埋まる様に落ちて動けなくなってしまう。
「そこで大人しくしてたら、命は取らないであげる」
 憎々しげに見上げるプブリオに、マヤは海賊としては不本意ながらも攻撃の手を止める。
「でもね、まだ抵抗するのなら、命はないと思いなさい!」
「くそっ……」
 ダメージが重なっていたこともあり、プブリオはうなだれるように意識を手放したのだった。


 気づけば、応戦を続けていたのは槍騎士グラベルとプブリオのペット、バンダースナッチのみとなっていた。
「…………」
 その片割れ、槍騎士はプブリオを救出する隙を見計らっていたようだが。
「不本意な忠義の下に振るわれては、その槍もきっと泣いておりましょう――貴方の心のように」
 槍騎士に一片の人の心が残っているのなら、正しき道へと戻したい。景護の回復を続ける真優は槍騎士へと呼び掛ける。
「む…………」
 先程から、槍騎士の槍捌きが鈍りがちなのは、主のこと、そして、真優や景護の言葉に惑っているのだろう。
「守り抜く剣こそ我が忠なり。貴殿の忠や、如何に?」
 真優に癒しを受ける景護の言葉を受け、槍騎士は再び、地面に埋まる主を見やる。
 そこで、商人を制圧したアーマデルが間合いを詰める。
 銃短剣で闇と呪いを帯びた一撃を叩きつけたアーマデルは続けて加速したことでスピードを破壊力へと転化し、蛇鞭剣を叩きつけた。
「…………!」
「応えてみせよ、その槍が、鎧が、虚飾でなくば!」
 その間も、呼びかけを続ける景護は、勝ち切らねば言も通じにくいだろうと防御技能を破壊力に変えて槍騎士の甲冑を手甲で打ち砕く。
「無念……」
 兜の中で大きく目を見開いた槍騎士グラベルは、主を護ることもできずに果てていった。
「あちらの左右の腕の長さが違う者も、任せきりにはできぬよな」 
「ええ、行きましょう」
 景護に同意した真優は、アーマデルと共に残るバンダースナッチの方へと向かう。

 ただ、そちらももう追い込み。
 狂ったように腕を叩きつけてくるバンダースナッチを抑えるЯ・E・D、静音が攻防を続け、戦線を支える。
 こちらにも商人らを片付けた面々が駆けつけ、マヤが素早く弾丸を発してバンダースナッチを傷つけ、体力を削ぐ。
 倒すべき敵は残り1体。
 大天使の祝福を使って癒しを振りまく希は前線を見ながら、広域回復の夜天の唄はやはり出番がなさそうだと感じていた。
 その戦いの模様を、由香は子供達を宥め、護りながら見つめる。
 仲間の指示を受けてプブリオの馬車を押収した由香は、そちらへと子供達を移動させる。
「こっちには近づけさせないよ!」
 その上で、由香は子供達の傍から魔弾を発し、敵の牽制と合わせて仲間を援護する。
「アア、アアァァ……」
 イレギュラーズ達へと牙を突き立てることもままならず、身体に傷を増やして弱っていくバンダースナッチ。
 仲間達にも余裕ができている為、Я・E・Dは最前線からは一歩引いて仲間と並び立つようにして魔力を纏わせた暗器を叩き込む。
 前に残ったままの静音が攻撃をバンダースナッチの両腕から打ち付けられる形だが、彼女は平然と相手にこう告げる。
「生憎と痛いのには普通の人よりは慣れてるんだよ。といっても、慣れてるってだけで痛くないという訳じゃないんだけどね」
 仲間達の援護を受ける静音がさらに異能の炎を燃え上がらせると、バンダースナッチが大きく仰け反った。
 そこにЯ・E・Dが再び、魔力を纏わせて殴りつけると、バンダースナッチが後ろへと倒れる。
「アァ、ァァ……」
 ぐったりとうなだれたそいつの目から光が消え、完全に動かなくなったのだった。


 戦いが終わった時には、この場から客だった貴族は全てが姿を消していた。
 落ち土たところで、由香を筆頭にイレギュラーズ達は改めて奴隷とされていた子供達の枷を外して。
「これからは自由の身よ」
 大変なこともあるだろうが、これまでを想えばきっと強く生きられる。マヤは子供達に頑張りなさいと力づける。
 
「大丈夫だと思うけど、横やりが入るかもしれないし。……少しだけ我慢してね」
 連行するプブリオ一派をそいつらの荷馬車に乗せ換え、Я・E・Dは自分の馬車に子供達を移す。
 横やりが入る可能性も考えながら、イレギュラーズ達は迅速にその場から撤収することにしたのだった。

成否

成功

MVP

マヤ ハグロ(p3p008008)

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPはプブリオを捕らえた貴方へ。
 捕らえた一派は幻想貴族に裁かれる形となるでしょう。槍騎士グラベルは皆様の説得もあり、主を見限ることにしたようです。
 今回はご参加、ありがとうございました!

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