シナリオ詳細
ワンデミックでナイス犬しまい!!
完了
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オープニング
●えまーじぇんしー!
境界図書館にはあらゆる世界のあらゆる依頼が集約される。
ともすれば緊急の仕事が舞い込む時もある訳で。
「手のあいてる奴は集まってくれ! とにかく人手が欲しい。時は一刻を争う状況だ!」
その日、いつになくシリアスな顔で『境界案内人』の神郷 赤斗(しんごう あかと)が声を張り上げている。
普段は練達の一般市民のような装いの彼が、騎士服を着込み駆け回るのも珍しい。
「お前さんにも依頼書を渡しておく。少しでも興味があれば、記載された時刻に集合場所へ集まってくれ」
目があった瞬間、有無を言わせず押し付けられた一枚の紙。依頼書と呼ばれるそれには目立つ書体で、こんな一文が書かれていた。
『【急募】犬をしまえるひと!!』
●あらしのまえに
"犬をしまう"とは文字通り、家屋の中に犬をしまう行為の事である。
外飼いの犬を守るための大事な台風対策ほか、副産物として家の中でくつろぐ可愛い愛犬の姿が見れる大切な行動だ。
特異運命座標が降りたった異世界は分厚い雲が空を覆い、昼だというのに薄暗い。
すぐにでもぽつりと来そうな曇天。嵐の前触れを感じさせる不穏な空だが――それ以上に目立つ事がひとつ。
わん! わんわんっ!
キャン! クゥ~~ン……。
右も左も前も後ろも、空からもワンワンワンワン!!
あちこちから犬の鳴き声が聞こえ、『嵐の前の静けさ』からはほど遠い。
路上はもちろん、空には強風に逆らうように翼を広げて飛んでいる犬や、ブロック塀を吠え合いながら器用に走る猫みたいな犬など、本当に犬なのか疑わしい犬までいる始末。
何より一番不気味なのが、これほどに犬が大量発生しているというのに、どこの家にも人の気配がない事だ。民家の玄関は開けっ放しで、窓も開いてる建物が多い。
「集まってくれてありがとう、特異運命座標。この街にはあと少しで嵐が来る。お前さん達にはその前に、街じゅうの犬という犬を家にしまって欲しい」
赤斗の急ぐような早口の説明に、幾人かが疑問を覚えて手を挙げる。
この場の犬すべてが飼い犬とは思い難いが、首輪のついた犬は飼い主が家にしまってやるのが道理では?
至極まっとうな意見だ。しかし赤斗は残念そうに首を横に振る。
「そうしたくても、飼い主達には犬をしまえない事情があるんだ。何故ならこの世界は恐ろしいウィルスによって――……うッ!」
話の途中で赤斗が急にうめいて身を伏せた。その瞬間……彼の姿は消えてしまい、後には服だけ残される。
……もそもそ、もそもそ。
突然、服が小さく動いた。やがてその中から、小さな影が飛び出してくる。
「……クゥ」
赤い首輪をした銀毛のコーギーが、眼帯で隠れていない方の隻眼で、すまなそうに特異運命座標を見上げた。
- ワンデミックでナイス犬しまい!!完了
- NM名芳董
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年03月06日 20時30分
- 章数1章
- 総採用数4人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
「また犬か……おまけに、またこの組み合わせか……」
懐かれたセントバーナードとハスキー犬に頬をべろべろと舐められながら、ミーナはうーんと唸った。
果ての迷宮で犬に囲まれたのは、確か去年の年末頃か。
あの時の依頼に比べれば、気分次第でモフろうと思えばモフれる分、仕事の難易度は落ちるだろうが……とにかく、2匹を引っ剥がさなければ先に進めそうにない。
「ワフッ! ばうわうわぅっ!」
「あ、こら暴れんな! どこの家かなんて確かめようないんだから仕方ねぇだろ我慢しろ!」
「……きゅうぅ」
「いきなりしおらしくなるなよ……あぁもう! 手荒にもできないし、どうしたもんかね本当」
しまわれた後も「あそぼー」と窓に前足をてしてし叩きつけて吠える2匹に戸惑いつつ、誘惑を振り切ろうと彼女は身を翻す。
パカダクラの【砂駆】に跨り、後はもうスピード勝負だ。見つけた犬を手当り次第、手近な家にぽいぽいぽい!
どれほどの犬を救っただろう。一息入れようと彼女が油断した折に、変化は訪れた。
『……っ!?』
急速に低くなる視点。道路のカーブミラーを見上げれば――なんとそこには、赤い羽根の生えた小型犬がちんまりと立っているではないか!
コーギー赤斗がフム、と考え込む。
『なるほど、ミーナは常々猫っぽいと思ってたが……猫みたいにマイペースで強がりさんなシーズーときたか』
『いや、冷静に分析してる場合か? どうやって戻るんだよこれー!』
成否
成功
第1章 第2節
嵐の前が好きでした。だってなんだかすべてがご破産になりそうで。
こんな世界終わっちゃえばいいと思ってました。――ついこの前までは。
風に煽られ、睦月の髪がそよそよと揺れる。
なびく銀糸の隙間から赤い瞳を覗かせて、睦月はじぃっと史之を見る。
「はいはい、しまっちゃおうね。赤斗さんもダックスもシーズーも柴犬もドーベルマンもお家に入るんだよ
……聞いちゃいねえな。飼い主じゃないからかな?」
「猫さんほどじゃなくても、犬さん達は自由だからね。……どうする? しーちゃん」
「こんな時のためにちゃんとアレは用意済みだ」
テレテテッテテー。骨ガムー(※独特のダミ声)
「今なんか青いたぬきが歩道を横切らなかった?」
「気のせいだろ。それじゃあ早速、ほい」
ぽいっと史之が家の中へ骨ガムを放った瞬間、犬達の目が輝いた。
わんわんきゃんきゃん賑やかに駆けていくわんこ達。
「こっちだよ、おいでおいで」
ガムの人気に気後れした犬達も、睦月が言いくるめて家にしまう。
ただ放り込むだけでは可愛そうだと2人は一緒に家に入り、窓や扉の施錠の状態を見てまわった。
「赤斗さん、勝手口は鍵かかってますか?……言葉が通じてます?」
助けを求めた睦月と、目があったコーギー赤斗は同時にカクンと首を傾げた。
「しーちゃん、もしかしたら犬になると、話が……」
「嵐が来るからね。みんないい子にしてるんだよ?」
――どうでもいい話だね。しーちゃんの優しさが垣間見れてよし!
「カンちゃんも部屋の振り分けを手伝ってよ。ぎゅうぎゅうに詰めたら可哀想だし」
「はーい。それじゃあこのわんちゃんは、こっちに……」
ひゅるる、ぽふっ!
「「……?」」
一人と一匹が顔を見合わせる。
「言った矢先に犬化ですか。……まあ予想はしてたよ」
あんあん元気な鳴き声をあげてすり寄る白ポメは紛う事なく睦月だ。
こういう時でも頭頂部の赤いアンテナは健在で、彼女が駆け回る度にぴょいんぴょいんと跳ねている。
『あそんであそんで! しーちゃんあそんで!』
「犬をしまうまで遊ぶのはがまんね」
『やだーいっぱい遊んでよー!』
「足元にいたら踏んじゃうよ。とりあえずここに――」
もふっ、ふわわっ……
「……!!」
抱え上げた白ポメ睦月は雲のようにふわっふわで……小さな温もりを懐に収め、史之はほんのり頬を染めた。
「か、かわいい、ね、睦月……」
『しーちゃん? よく聞こえないよー』
小声を聞き取れず不思議そうにフンフン胸元へ鼻を擦り寄せ、甘える睦月。
仕事があらかた片付けば、ようやく一人と一匹きりのブラシタイムの時間がはじまる。
「ブラシ越しでも伝わる感触。なんていうか……やぁらかいね、カンちゃん」
『きもちいい! もっともっと!』
「適度にしないと毛が抜け過ぎたりするかな」
『やだーもっとー! もっ……ふわっ!?』
うつらうつらと睦月を抱きしめて船をこぐ史之。婚約者を労おうと、睦月は静かに身を預け――。
成否
成功
第1章 第3節
曇天の下で両手を広げ、あやめは口角をつり上げる。
「クヒヒ! まさか犬になってしまう異世界とは……」
見渡す限り、犬、犬、犬。これはつまり――合法的に首輪をつけ放題なのでは?
「クヒ、クヒヒヒヒ! そう考えると滾ってきた――!!」
まさかの『首輪パラダイス』の再誕ッ!
私のワタシによる私の為のパラダイスッッ!!
「こうなっては致し方ありません! より多くのワンちゃんをしまい、首輪を付けなければ!」
「……何をやってるんだ?」
「おぉっ! これはこれは、境界案内人の黄沙羅さんじゃありませんか!」
赤斗の仕事ぶりを見学に来た黄沙羅は半眼になりながら一人と一匹を見た。
眼帯をした銀毛のコーギーがギャインギャインと喚き散らし、あやめに無理矢理おさえ付けられている。
「見てくださいよ、赤斗さんに新しい首輪を用意したんです。可愛いでしょう? 赤いのが本当によく似合う!」
「本人……いや、本犬めちゃくちゃ嫌がってるが」
「照れちゃってるんですね、そうですね! さあ、愛でてあげますよ!クヒヒヒ!」
狂気じみた光景に怯える犬達、暴れ疲れてしんなりしたコーギー赤斗。
混沌とした状況に、黄沙羅は帽子の鍔を弄り――真顔になった。
(嗚呼。これ、めんどくさそうだから遠巻きに見ていよう)
「時よ止まれ、その首元は美しいッ!」
その後も彼女の暴走は続き、嵐が過ぎた後にたっぷりお叱りを受けるのだが――それはまた、別のお話。
成否
成功
第1章 第4節
●あらしはすぎて
ガタガタ、ごごご!!
わんわん! きゃんきゃんきゃん!
風が強く窓を打ち、そこらじゅうの家の中から犬の声が響く。
――嵐だ。
怯えるもの、しきりに吠えるもの、犬達の様子は様々だが、
幸いなことに外で吹き飛ばされる犬の姿はなく、
一夜を明けた後には天の柱が街へ差し込み、雲の切れ間から伸びた光はやがて広がる。
「虹だ!」
誰かが吠えた――いや、叫んだ。
青空の下、虹を見ようと家から飛び出す人間達。
嵐とともに脅威は矛を収めたのだ。
ふと、市民と犬から人間に戻りたての赤斗の目があった。
「うっすらとしか覚えていないのですが、貴方と一緒にいた方が私達を助けてくれたんですよね?」
「俺も! 助けてもらったような気がする」
「あの人達にぜひ、お礼を!」
犬の姿が解かれても尻尾を振っていそうなほど勢いよく群がる市民達を、赤斗はどうどうと落ち着かせ。
落としてしまった帽子を拾い、小さく笑った。
「あいつらなら、新たな冒険地を探して先に行っちまいましたよ。
貴方達との思い出ひとつ、持ち去って。……いつかまた、会いに来る時もあるかもしれません」
NMコメント
今宵も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董です。
大事な犬はどんどんしまっちゃおうねぇ。
●目標
犬をしまう、または犬としてしまわれる
●重要
この異世界ではパンデミックならぬワンデミックが起きています。
依頼に参加している特異運命座標が『ワンデミックウィルス』に感染すると、たちまち犬の姿になってしまう様です。
※もともと犬であるブルーブラッドやウォーカーの皆さんは、感染しても姿の変化はありませんが、すさまじく周りの犬に懐かれる症状が出ます。
感染希望者はプレイングの一行目に、ご希望の犬を記載してください。思いつかない場合は「お任せ」と記載して戴ければ、こちらでそれっぽい犬を考えます。
※もともと犬であるブルーブラッドやウォーカーの感染希望者は、一行目に「感染希望」と書いて戴ければ幸いです。
ラリーに同行者がいる場合は、二行目にお相手のIDとお名前をフルネームで明記してください。
現状、この世界でワンデミックウィルスに感染した者を元の姿に治す方法は見つけられていませんが、依頼が終わった後に元の世界にもどればあっさり治ります。
●ロケーション
現代日本風の家屋が立ち並ぶ街。どこも感染拡大によって特異運命座標以外の気配は全て犬となっています。
今のところ電気や水道は供給があり、ちゃんと使えるようです。
●登場人物
『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
仕事熱心な境界案内人。銀の毛並みのコーギーになってしまいました。
犬になる前に身に着けていた眼帯と赤い首輪がそのままなので、他の犬と見分けはある程度つくでしょう。
人語を喋れなくなっていますが、人並みの知能は持っており、皆さんが声をかければ手伝いをしてくれるようです。
●その他
ひたすら犬をしまう作業に徹するもよし、犬になってしまって他の特異運命座標にしまわれるもよし。
お気に入りのわんこを見つけて、しまった後にお世話してあげるのも問題ありません。
終末の様なわんこ天国で何をするかは貴方次第。
このラリーLNは一章完結となる代わり、お一人様何度でも参加が可能です。
説明は以上となります。
それでは、よい旅を!
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