PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<リーグルの唄>かごの中の鳥は、

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●逃走劇
 はぁ、はぁ、と激しい息遣いが聞こえる。
 手を繋いで走っているのは、双子のきょうだいの姿だ。手と首には重いリングと鎖を引きずり、それを引きずるたびに肉に食い込み、痛みが発するけれど、それでも走り、逃げ続けなくてはならない。
 周りには、老若男女、そして様々な種族――幻想種や旅人(ウォーカー)、鬼人種の者もいた――の人々が、同様に息を切らせて逃げ、或いは木々の間に身をひそめ、隠れていた。
「走って! 逃げるんだ!」
 誰かの声が響く。言われなくても、彼らは走った。逃げなくてはならない――あの連中から。今すぐ、遠くへ。

 彼らは、ある日突然、何者かにかどわかされていた。自分たちをさらったそいつらが、ラサで活動していたブラックマーケットの奴隷商人だと知った時には、彼らは商品(どれい)として、幻想王国へと向かう馬車の中にいた。
 近頃のファルベライズによる動乱の結果、ラサのブラックマーケットもまた、その影響を受けずにはいられなかった。商売をやりにくくなったと感じた奴隷商人たちは、その商売場所を幻想王国へと変えることにしたらしい。
 かくて幻想王国のアンダーグラウンドにて、秘密裏に『大奴隷市』が開催されることになった。奴隷たちをかどわかした奴隷商人も、その奴隷市に参加するために、はるばる幻想王国へと向かっていたのである。
 ……そこで、奴隷商人にとっては最悪の、奴隷たちにとっては千載一遇の事態に見舞われる。突如として、狂暴化した巨大な魔物が、奴隷商人の商隊を襲ったのだ。護衛の傭兵たちは魔物への対処に割かれ、大規模な戦闘が行われた。
 ――その隙をついて。奴隷たちは一斉に逃げ出したのである。魔物の討伐後、奴隷たちの逃走を知った奴隷商人たちは怒り狂った!
「探せ! 一人残らず見つけ出せ! 抵抗するなら殺しても構わん!!」
 号令一下、傭兵たちは奴隷たちを追って、森の奥深くへと向かって行ったのである――。

「……だいじょうぶ?」
 双子の片割れが、もう片割れに声をかけた。はぁ、はぁ、と荒い息をつきながら、二人は巨大な木のうろに隠れている。
 幻想王国よりしばし離れた森の奥。昼なお薄暗い鬱蒼とした森の中、ばらばらに逃げた奴隷たちは、果たして無事に逃げおおせただろうか。それとも、商人たちに見つかったか……。
「うん、だいじょうぶ」
 双子の片割れが、頷く。今は少し休んでいるが、何時までも此処に留まっているわけにはいかない。
「……でも、逃げて、どこに行くの……?」
 双子の片割れが、そう言った。もう、帰る場所などないのだ。でも、それでも……。
「今は逃げるしかないよ……行こう」
 そう言って、双子の片割れが、もう一人の手を引っ張った。
 先の事は分らない。でも、今は逃げなくては。奴隷として一生を終えるより、まだ暗闇を進む方が、いくらかはマシなはずだった。

●強襲
「すみません! 今すぐ出られる人はいますか!? 緊急です!」
 と、ギルド・ローレットにて声を張り上げるのは、『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)であった。
 ファーリナのいう事には、アルテナ・フォルテ(p3n000007)をはじめとする一部のローレット関係者は、近頃幻想王国にて行われるらしい『大奴隷市』の情報をキャッチし、ひそかに調査を進めていたのだという。
 その結果、幻想王国へと向かう奴隷商人の一部を発見し、尾行と調査を続けていたのだが、その奴隷商人たちを突如魔物が襲撃。
 その隙をついて奴隷たちが、森へと逃げだしてしまったのだという。
「本来は、奴隷市へと近づいた所でアクションを起こす予定だったのですが……まぁ、こうなっては仕方ありません。今すぐ森へと向かい、奴隷として連れ去られた方々を保護してください!」
 もちろん、行って探して連れてくる……と言うだけでの仕事ではない。森には、奴隷商人たちの放った傭兵たちがうろついており、彼らとの戦闘は避けられないだろう。
「外に馬車を待たせてます! すぐに向かってください! 逃げ出した皆さんの事、くれぐれもよろしくお願いしますよ!」
 そう言って、ファーリナはイレギュラーズ達を送り出したのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 逃げ出した奴隷たちを見つけ出し、保護しましょう。

●成功条件
 最低でも一人以上の『逃亡奴隷』を保護し、戦場を離脱する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 幻想王国のアンダーグラウンドで開かれるという『大奴隷市』。そこに向っていた奴隷商人たちの商隊にトラブルが生じ、奴隷たちが脱走しました。
 かねてよりその動向を追っていたローレットは、彼らをこの場で保護することを決意。イレギュラーズの皆さんを派遣します。
 皆さんは、この森に向い、『逃亡奴隷』達を保護し、森から離脱してください。
 ただし、内部には奴隷商人たちが派遣した傭兵たちが徘徊しています。戦闘は避けられないでしょう。
 作戦決行時刻は昼。周囲は明るいですが、足元などは少し動きづらいかもしれません。また、木々に覆われた森は、視界の見通しが少し悪いでしょう。
 依頼開始時点の配置になりますが、南側の街道沿いに、奴隷商人たちの馬車が存在します。
 逃亡奴隷たちは、そこから北に向かって、バラバラに逃走しています。ただし、森の最北には大きな崖があるため、そう遠くないうちに、逃亡奴隷たちは追い詰められてしまうでしょう。
 傭兵たちは、南から、東西北に向ってバラバラに逃亡奴隷たちを捜索中です。
 イレギュラーズの皆さんが、東西南北どの地点から侵入しても構いません。とはいえ、北から侵入するのは、多大な準備が必要となるかもしれません。


●敵NPC
 傭兵部隊 ×???
  奴隷商人の雇った傭兵部隊です。常に3~5人のグループで行動し、逃亡奴隷たちを探しています。
  全員、主に剣で武装した近接攻撃タイプです。ひとりひとりの戦闘能力は皆さんと比べるべくもないですが、総数が多いため、いちいち相手にしていては、此方が疲労しますし、逃亡奴隷たちを先に発見されてしまう可能性があります。

 奴隷商人 ×3
  今回の奴隷商隊を率いる奴隷商人です。戦闘能力はありませんが、周囲に複数の傭兵を引き連れています。
  彼らは南の街道から動くことはありません。別に相手をする必要はないかと思います。

●救出対象NPC
 逃亡奴隷 ×12
  逃走した奴隷たちです。OPの双子のように二人一緒に逃げていたり、グループで逃げているものもいれば、単独で逃げているものもいます。
  老若男女、人種を問わず、様々な人々が居ます。彼らの多くは、故郷を失い、帰ることもできない立場のモノのようです。
  皆バラバラに逃げ居てるので、どうにかして捜索する必要があります。
  なお、皆さんは、特殊なプレイングなく、誰が逃亡奴隷で誰が傭兵なのかを判別がつくものとします。(多分、ファーリナから似顔絵とかをもらっています)。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加、プレイングをお待ちしております。

  • <リーグルの唄>かごの中の鳥は、完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月11日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
アレックス=E=フォルカス(p3p002810)
天罰
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女
斑鳩・静音(p3p008290)
半妖の依り代
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
微睡 雷華(p3p009303)
雷刃白狐
白妙姫(p3p009627)
慈鬼

リプレイ

●木々を越えて
 森の中に響き渡る足音。怒号。息遣い。
 追うものと追われるもの。二者の欲望と絶望、そしてささやかな希望が渦巻く領域に、イレギュラーズ達はやってきた。
 イレギュラーズ達は、大きく4チームに分かれると、北、西、東から、それぞれ森へと侵入する。戦力の分散は、戦闘面では大きなデメリットを負うが、逃亡中の奴隷たちを探すには適した作戦であった。この場合、多少の戦闘面での不利よりも、人命救助のメリットを採択した形になる。
 とりわけ、『柔らかく、そして硬い』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は単独で先行し、戦闘面での不利と引き換えに、隠密性と行動の自由度を確保していた。これもまた、逃亡奴隷たちを速やかに保護するためである。
「奴隷商人、か。人を金としてみる連中……」
 ムスティスラーフは苦いものを吐き捨てるように言った。思い出す。家族の事を。欲望にまみれた手によって壊された、あの日の平穏を。
「まってて。必ず、助けて見せる。僕みたいな思いは、絶対にさせない」
 無数に響き渡る、『助けを呼ぶ声』。人助けセンサーはきっと、あちこちからそれを拾う事だろう。まずは近い所から……ムスティスラーフは、地を滑るように飛んだ。悲痛なる叫びは、ムスティスラーフの頭に響いていた。

 森の北方――大きな崖が長く走り、行き止まりとなっている地点。その崖を文字通りに飛び越えて、『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)、そして『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)は、森の上空へと到達した。
 木々の天辺あたりにまで高度を落とし、人助けセンサーが声を拾えるように、見落としが無いようにする。
「奴隷、のう……」
 クラウジアがふむ、と唸った。
(自活できぬ者が自ら志願するのであればまた別じゃが。今回はどう見ても誘拐の被害者。論外じゃな)
 クラウジアの思考通り、逃亡した奴隷たちは、誘拐されたり、強制的に連れてこられたものばかりである。となれば、奴隷商人に義理立てする必要もないだろう。まぁ、元からそんなつもりはないのだが。
「少しでも多く……奴隷の人達、見つける……する様に。頑張らなく、ちゃ」
 チックの言葉に、クラウジアは頷く。
「じゃ、な。まずはこのまま南に向おう……奴隷商人どもに発見されぬように気をつけてな」
 二人はそのまま、南方へと移動する。これは、奴隷商人により近い奴隷を、最優先で保護する必要があったからだ。北方に近いものであれば、敵に発見される可能性も低くなるだろう。言い方は悪いが、救助を後における。だが、南方に未だとどまっている奴隷たちは、敵に発見される可能性が高い。となれば、真っ先に彼らの安全を確保する必要が出てくることになる。イレギュラーズ達の目標は、すべての奴隷たちの保護。そのために危険を負ってまで部隊を分けだのだ。
「奴隷の人達、顔……ちゃんと、覚える、した」
「うむ。それにセンサーを併用すれば100%見つけることができるじゃろう……お、早速じゃな」
 南方側に、センサーに引っ掛かる声が聞こえた。二人はゆっくりと降下すると、巨木のうろに身を隠す、獣種の女性の姿があった。首には鋼鉄製の首輪をつけられており、引きずる鎖が痛々しい。
「あ、あなた達は……?」
 獣種の女性が声をあげる。
「怖がる、しないで……おれ達は、君達を、助ける……するために、来た。おれ達と一緒に、助ける……しに来た人、森の中……いる」
 チックの言葉に、クラウジアが続ける。
「歩けるかの? 申し訳ないが、他の子達も助けたい。少しついてきて歩いてもらう事になるのじゃが……」
「だ、大丈夫です」
 獣種の女性が頷く。
「なるべく、ゆっくり、歩く……する、から。辛い、時は……言う、してほしい。大丈夫。離れ離れ……絶対に、させない」
 チックの言葉に、獣種の女性は頷いた。それから、ゆっくりと立ち上がる。幸い、怪我などはしていない様だ。
「その首輪を外してやりたい所じゃが、今は時間がない。もう少し我慢しておくれ」
 クラウジアはそう言って、獣種の女性の手を引いた。それから獣種の女性のペースに合わせて、ゆっくりと北上を始めた。

 一方、西から森へと侵入したのは、『雷刃白狐』微睡 雷華(p3p009303)、『特異運命座標』白妙姫(p3p009627)の二人だ。慎重に先を進む二人のその背後には、飛行種の男性奴隷の姿があった。すでに一名救助しつつ、さらなる救出にうつっているのである。
「……聞こえる。複数の足音。それに、足を引きずるような音……近いぞ?」
 白妙姫の言葉に、雷華は頷いた。
「こちらも確認した……たぶん、傭兵たちに見つけられたんだね。戦闘は避けられないか」
 雷華は白妙姫の目くばせするよ、頷いた。それから背後の飛行種の男性奴隷に、
「ここに隠れてて。すぐに戻るから」
 と、言い聞かせると、ゆっくりと手に武器を握った。慎重に――歩みを進める。聞こえてくる怒号。悲鳴。焦る気持ちを抑え、静かに状況を覗く。
 そこにいたのは、三名の武装した傭兵の男。足元には、鉄騎種と鬼人種の男女がそれぞれ跪かされている。
(……どうする?)
 雷華が小声で尋ねるのへ、
(先手必勝じゃ。奴隷に手を出される前に制圧するぞい)
 白妙姫が応える。二人は頷いた。
 とん、と白妙姫は跳躍。一気に飛び出すと、木の幹を斬って加速! 打ち刀、『朧月夜』を携え、傭兵の男のうち一人に飛び掛かった!
「う、お?」
 悲鳴をあげる間もなく、男が転倒する。白妙姫の刃が閃き、そのみねが男の首元を激しく叩いた。ぐるん、と白目をむいて男が意識を失う。
「ちょ、い、やっ、と!」
 小気味よく声をあげながら、白妙姫は隣にいた男を蹴りつけた。腹部に蹴りを受けた男が、激しくせき込む。
「が、はっ!? な、なんだ!?」
 途端! どん! という激しい音があたりに響いた。それはまるで、雷が落着したかのような音である。その方を見れば、その身に雷をまとい、残るもう一人の傭兵の男を地へと叩きつけた、雷華の姿がある。
「殺しはしない――でも、無力化はさせてもらう!」
 轟! 吠えるかのような音が響き、雷華は最後の傭兵の男へと飛び掛かった。飛び蹴りが、男のあごを捉える。「うげ」と男がカエルのような悲鳴を上げた次の瞬間、回し蹴りが男の身体を捕えた。そのまま男は意識を失い、地にその身体を横たえる。
「白妙姫さん、二人は?」
「おうおう、無事じゃ無事じゃ」
 ぱたぱたと手を振る白妙姫の足元には、呆然とこちらを見つめる、逃亡奴隷の二人の姿があった。
「よし。奴らに何かされなかった? 怪我は?」
「は、はい。大丈夫です」
 鉄騎種の男が声をあげる。
「おお、警戒せずともよいぞー? わしらはほらー、どう見ても? 正義の味方じゃし? 奴隷商人ー? 悪い奴よなー許せんよなーはっはっはー」
 徐々に甲高い声になりつつ、白妙姫。
(まぁ、先日一人、奴隷を手に入れてしまったんじゃがの、わし! うん、黙っておこう! 世の中知らん方がいい事もたくさんあるしの!)
 胸中でそんなことをぼやきつつ、逃亡奴隷の二人の状態を簡単にチェックする。
「うむ、疲労はたまっておるようじゃが、怪我はなさそうじゃな。安心するが良い……まぁ、しばらく森の中を移動してもらう事には変わりはないのじゃが」
「まだ他にも、逃げ出した人たちがいるんだよね? その人たちも助けたいんだ」
 雷華の言葉に、逃亡奴隷たちは当然だろう、という面持ちで頷いた。同じ境遇の相手、それなりに情はわいているらしい。
「よし……白妙姫さん、二人を飛行種の彼の所まで連れて行って。こっちはちょっと後片付けをしたらすぐに行くよ」
「うむうむ。ほれ、二人とも。こっちじゃよ」
 と、白妙姫が二人を伴い歩いていくのをしり目に、雷華は大ぶりのナイフを取り出した。
「殺しはしない……でも、無力化させてもらう、って言ったよね」
 雷華は、倒れた傭兵たちの脚へ、ナイフを滑らせる。命をとるほどではない。だが、手当てをしなければ些か差し支える程度の傷。こうしておけば、意識を取り戻した彼らが、再び捜索に戻るには相当の時間がかかるだろう。
 些か暴力的な場面である。そう言った事象にさらされていたであろう逃亡奴隷たちには、あまり見せたくない光景だったから、雷華は白妙姫に頼み、逃亡奴隷の二人を先行させたのだ。
「さて……他のチームも首尾よく見つけてくれてればいいけれど……」
 雷華は空を見上げる。作戦開始から比べて少しずつ、太陽はその場所を動いていた。

●森からの脱出
 作戦は刻一刻と進んでいく。逃亡奴隷たちの回収は、イレギュラーズ達の作戦通りスムーズに、確実に進んでいた。が、やはり戦闘面での戦力低下は否めなく、可能な限り戦闘を回避してはいたものの、どうしても遭遇してしまう場合はある。逃亡奴隷たちを守りながらの戦闘であり、常よりも負担は大きい。イレギュラーズ達はその身を盾に、傷を増やしながらも懸命に戦い続けていた。
「ギルド・ローレットである! 助けを求める者は我がもとへ集え! 依頼により貴様らの保護に来た! そして奴隷商に雇われている傭兵に告ぐ。逃げるというならば良いだろう。だが、邪魔だてするというのならば、その首は野晒しと心得よ。我が忌み名は天罰、その意味を知るがよい」
 『天罰』アレックス=E=フォルカス(p3p002810)の咆哮は、多くの逃亡奴隷たちの救いとなったが、同時に傭兵たちの注目も一身に浴びる結果となった。これはアレックス達、東より侵入したチームにとっては大きな試練となったが、同時に他のチームにとっては、遭遇する敵が少なくなったというメリットでもあった。
 とはいえ、アレックス達の戦いは苛烈を極めることとなる。後背に3名の逃亡奴隷たちを庇いながら、今新たに2人の双子の奴隷を発見した。だが、それと同時に、5名の傭兵部隊とも遭遇してしまったのである。『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)が苛立ちや害意のような感情を探知していたため、事前に接触は予測出来てはいたが、双子のきょうだいとの位置関係から、戦闘は避けられそうになかったのだ。
「そこの双子! 私達の後ろへ行け! 足が痛むかもしれないが、少しだけ、辛抱してくれ!」
 アレックスの言葉に、双子のきょうだいは頷いて、此方へと走りくる。逃亡奴隷たちを庇いながら、アレックス、そして『半妖の依り代』斑鳩・静音(p3p008290)、ニルは武器を構え、傭兵部隊を迎え撃った。
「数が多い、のです……皆様、どうかお気をつけて」
 ニルの言葉に、二人は頷いた。
「私が切り込む。貴様らは後ろからまとめて敵を薙ぎ払え」
「おっけー、だよ!」
 静音が構える。その手の中に生まれるは、神聖なる光だ。
「ニル、大勢を巻き込んで、一気にやっつけよう!」
「かしこまりましたのです」
 すぅ、とニルは大きく息を吸い込んだ。一気に駆けだす。ニルは傭兵たちの中心へと到達すると、その手に生まれた黒い月を解き放った。暗い月が照らす、暗光に照らされた傭兵たちが、その身に不運と災厄を刻まれていく。じりじりと、傭兵たちの肌を焼く、暗光。
「人を、もののように売り買いする。そんなことは良くないのです。それを手伝う、あなた達も……!」
 ニルの放つ暗い月が、さらにその闇と光を増す。ぐぅ、と押し付けられるような圧力を、傭兵たちは感じた。
「くそ、邪魔しやがって、こいつ等……!」
 傭兵たちが月の光を受けながらも前進、イレギュラーズ達へと刃を振るう。振り下ろされる刃を、ニルは魔法陣を描き、その障壁で受け止めた。
「ニル! 今助けるよ!」
 放つ静音の聖光が、罪人たちを貫くかのように解き放たれた。聖光は傭兵たちを撃ち抜き、ニルにその刃を向けた傭兵などは、その衝撃に後方へと倒れて意識を投げ出す。
「ありがとう、ございます」
「大丈夫! 其れよりまだ気を抜かないで!」
 静音の言葉に、ニルは頷く。一方、アレックスは一気に踏み込むと、雷光を神の槍とし、解き放つ。宙を走る雷光は傭兵の身体を貫き、その衝撃で傭兵の意識を吹き飛ばした。
「後ろにはいかせるな! 彼らは戦う力を持たない!」
 叫ぶアレックスへ、傭兵の刃が迫る。冗談から振り下ろされた刃を、魔眼より生み出した障壁で受け止めた。衝撃が、アレックスの身体に伝わる。やはり消耗は激しい。あまり長々と戦ってもいられまい。
「ねらって、撃ちます」
 ニルはそう言って、傭兵の男へと狙いを定めた。指を鉄砲に見立てて構える。その指先から発生する青い衝撃波が、傭兵の男を撃ち抜いた。激しく体勢を崩して転倒。そのまま意識を手放す。
「ニル、ナイス! こっちもやるよ!」
 静音の放った符が、空中で毒蛇へと変貌する。毒蛇はシャァ、と声をあげながら傭兵の男に食らいつき、その身に毒を送り込んだ。身体を苛む激痛に耐え切れず、傭兵の男がくずおれる。
「アレックス!」
「言うまでもない!」
 とどめの雷光が、傭兵の男を貫いた。ばたり、と倒れて、それで戦いはひとまずの終わりを見せる。
「よかった……君たちは、大丈夫?」
 静音がぱたぱたと歩み寄るのは、双子のきょうだいだ。二人とも、疲労の色は濃い。いや、それよりも、どこか深い絶望の色が、その眼に見えるのが分かった。
 なにか事情を抱えているのだろうな、と静音は瞬間的に理解した。だから静音は、二人をまとめて抱き寄せると、優しく、こういった。
「大丈夫、皆で無事にここから抜け出して美味しいもの食べよ。辛い事もいっぱいあったと思うけど、先ずはここから生きて抜けだそ。これからの事は、美味しいもの食べながら考えれば良いんだよ」
 ね? と、静音は笑う。双子は、急に抱きしめられたことにきょとん、とした様子を見せていたが、やがて少しだけ微笑んで、頷いた。
「きっと、おいしいものを食べれば、いい事がおもいつくのです。ニルには、おいしいというものが分かりませんが……」
 小首をかしげながら、ニルは言う。
「とにかく、いまは、逃げましょう。ニルたちが、みんなを助けます。足元には気を付けて……何かあったら、ニルが教えますから。ついてきてください」
 ニルの言葉に、逃亡奴隷たちが頷く。かくして一行は、一路、西へ――。

 作戦は終盤へと差し掛かっていた。各チームが逃亡奴隷を見つけ出し、合流と撤退のフェイズへとはいる。
 全員が西を目指して移動していた。一方、流石に奴隷たちを救助しているもの達の存在に遅まきながら気づいた奴隷商人たちも、増援を森へと送り込む。逃げるものと、追うもの。その戦いも、いよいよ終わりを告げようとしている。
 チックとクラウジアは、追手との闘いに火花を散らしていた。敵の数は、此方より多い5名。流石に人数差もあってか、些か手間取っていた。
「皆、には……近づく、させない……!」
 チックの指先から放たれた魔性の茨が、傭兵の足をからめとる。その茨のとげを突き刺しながら、絡みつくツタで足を止めた。
「よいぞ、チック殿! そのまま抑えよ!」
 クラウジアは、仮想宝石を親指ではじいた。宙を飛ぶ宝石が傭兵の男に接触した瞬間、詰め込まれた魔力が爆発、魔力の奔流が強かに傭兵を打ち据え、意識を吹き飛ばす。
「ダウン……とはいえ、流石にキツイものよな。チック殿、まだやれるかの?」
「弱音を吐く、出来ない……!」
 チックも懸命に戦闘を続ける――と。その刹那、森を切り裂いて放たれた緑色の閃光が、傭兵の男に直撃、打ち倒したのだ。
「すまない、合流が遅れたね……!」
「ムスティスラーフ殿か!」
 緑の閃光の主。それは、単独行動をとっていたムスティスラーフであった。
「ニル君たちも、もうすぐこっちに合流できるよ。でもその前に、こいつらをやっつけてしまおうか!」
 ムスティスラーフは叫び、再度口から緑色の閃光をうち放つ。閃光は傭兵の男を貫き、そのまま意識を吹き飛ばした。
「これで、おわり……!」
 チックの放った牙持つ妖精が、傭兵の男へと齧りついた。その痛みに、傭兵はダウン。戦場は見事制圧された。
「皆! 大丈夫!?」
 静音の声が響いた。アレックス、そしてニルの姿もそこにはある。そして、逃亡奴隷たちの姿も。
「速く、脱出しましょう。この先に、雷華様たちも、居るはずなのです」
 ニルの言葉に、仲間達は頷く。逃亡奴隷たちの様子を気遣いながらも、一行は足を速めて西に移動した。
「おお、主等か! どうやら首尾は上々という奴のようじゃのう!」
 道中、白妙姫と雷華とも合流する。
「こっちも二人とも無事。助けた子達も、皆ね。さぁ、早く離脱しよう。追いかけっこは、しばらくこりごりだよ」
 雷華の言葉に、皆は頷いた。敵の気配を感じ取り、可能な限り戦闘を避け、急ぎ道を行く。逃亡奴隷たちを護衛しながらの逃亡は疲れるものではあったが、一行は力と気力を振り絞って、森の出口を目指した。
 やがて、光と共に森の出口が現れる。一行は警戒を続けながらも、森から飛び出た。周囲に敵の姿は見受けられない。どうやら未だ、森の中を探しているようだ。
「長居は無用だ。行くぞ」
 アレックスの言葉に、仲間達は頷く。
 かくして一行は、救助した奴隷たちを連れ、帰還するのであった。

成否

成功

MVP

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍により、逃亡奴隷たちはみな無事に保護されました。
 領地などで引き取れる方は、引き取ってあげてもいいかもしれませんね。

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