シナリオ詳細
<リーグルの唄>ピース・メーカー
オープニング
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奴隷事件、と言えば何を思い浮かべるだろうか。
近年で言えばラサで発生したザントマン事件が記憶に新しいだろうか――グリムルートなる神秘の首輪を使い、幻想種が売り捌かれたかの事件。ラサと深緑の問題にも発展しかねなかった陰謀と悪意の一件。
結局、紆余曲折とイレギュラーズ達の活躍の果てにあの事件は解決した……が。
忘れてはならない。
ザントマン事件はあくまでも大規模に発生した事例であり『あれが全て』ではないのだ。
――幻想西部テキスタン街。
国境付近に比較的近く、それ故に物資の流通拠点として賑わいを見せる街の一つであるここでは、今日もまた商人の往来や活気に溢れていた。
ただし――その水面下においては、いつもと異なる様子が蠢いている。
住民の多くは気付いていない。しかし確かに『ある』のだ。
光届かぬ様に陰で動く欲望の渦が。
「おぉ――こいつはいいな。幾らだ?」
「へへ、お目が高い。旦那なら……そうですね。これぐらいで如何でしょうか」
路地の裏を突き進んだ先。入り組んだ構造の中で行われているのは取引だ。
金銭で物を売り買いする。
ただし……対象と成っているのは食料や宝石などといった『物』ではない。
其処に並べられているのは――『人』であった。
少年少女。いや大人に至るまで様々な者達が鎖に繋がれている。
抵抗を奪った上でそれを物色するように見据えているのは――はたして貴族か資産家か。
……幻想王国は元々腐敗の気配が入り乱れている国家である。建国当時の英雄の威光が薄れている訳ではないが、長年に渡って続いている特権階級の甘い蜜は貴族達の骨を蕩けさせているのだ。
かつてのサーカス事件の折以降、現国王フォルデルマン三世に多少の……本当に多少の意識的改善は見られたものの――やはり抜本的にこの国が正しく清らかになった訳ではない。
『こういう』出来事は未だ続いているのだ。人々の生活の営みの影で。
「やれやれ……なんていう光景だ。こんな有り様を彼に見せる訳にはいかないな」
その中で動く影は、一人の貴族の男だ。
周囲には似た様に裕福な姿の者達がいる故に殊更に目立っている訳ではない。が、慎重に見据えれば彼が周囲を眺めている様子は、売り買いにきた商人や貴族達とは明らかに異なっていると気付けるやもしれぬ。
彼の名はホルン・G・トリチェリ。
幻想貴族バルツァーレク派の一人であり――彼の影の刃となる事を望んでいる者である。
●
「やぁ。君達がローレットのイレギュラーズかな? 歓迎するよ。
早速だけど――昨今幻想内で活発化している奴隷市の事を知っているかな?」
トリチェリ家の邸宅に招かれたイレギュラーズ達は、その当主自身から――依頼の説明を受けていた。しかしにこやかな表情の彼から語られる内容は……あまり朗らかな内容ではない。
奴隷市。
現在のラサのブラックマーケットでは奴隷を中心とした商いを行う事が難しいと判断されたが故か、腐敗が各地に蔓延っている幻想王国の方に活動を移しているのだと推察されている。
身寄りのない少年少女や、最近東の果てで見つかった鬼の種族……
そしてやはり迷宮森林などから攫われた幻想種など――多岐に渡る『人』が売り買いされているらしいのだ。
「こんな事件はガブリエル……いや遊楽伯爵にとって望むような状況じゃあない。可能な限り救いの手を差し伸べてやりたい所――なんだけれど、じゃあ憲兵を介入させようという訳にもいかなくてね」
ホルンが入手した情報によると、複数の貴族が利用している様であった。
名前こそ伏せるがそれこそ、それなりに有力な貴族も足を運んでいるらしいとの情報もあって。
そんな所に手勢を攻め込ませればどうなるか。
混乱が沸き立ち、未来の諍いの種になるやもしれない――
「だからこそローレットに依頼したくてね」
「なるほど――しかし具体的にはどうすればいいんだ? ブラックマーケットに侵入して、暴れ倒してくればいいのか?」
「それも良いね。だけど、真正面からいけば奴隷商人共も流石に激しく抵抗してくるだろう――捕まった奴隷達に被害が出るかもしれないのは彼も望む所じゃあない筈だ」
ホルンは遊楽伯爵と親しい人物であり、彼の為にという思考の下で動いている。
奴隷市場は壊滅させたい。しかし真正面からでは……
だから。
「君達には内部に潜入してもらおうと思っている――『奴隷』としてね」
「何?」
「あくまでも振りさ。
内通している人物がいるから、その人物に武器を後で届けさせるよ。
そして――内側から崩壊させてもらう」
成程。警戒の内側に潜り込め、という事か。
予想外の場所から攻撃を受ければ奴隷商人達にも混乱が巻き起こるだろう。確かに真正面から攻めるよりも効果が見込めるかもしれない。それに、囚われている奴隷達とも接触できるだろう……彼らの救出も見込むのであれば話が出来る機会は貴重だ。
或いは全員でなくても構わないだろう。
内側で騒ぎが起こったと同時に――外からも攻めるという手段もアリだ。
「頼んだよ。遊楽伯の領域で無作法を見過ごすことは出来なくてね――君達が頼りだ」
ホルンの言葉。幾度となく語られる『遊楽伯』の単語には、それだけ彼の事を想っているという事か。
いずれにせよ奴隷市場など見過ごせない。
さて如何に攻めたものか――方針を決めるとしよう。
- <リーグルの唄>ピース・メーカー完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年02月28日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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奴隷など――嘗ての獄人とて同じようなもの。
ヤオヨロズに迫害されていた歴史を視れば、そこまで特別嫌悪を示す程ヤワではないと『お姉様の為』花榮・しきみ(p3p008719)は思考する。しかし己だけの事情であるならまだしも……
「お姉様に害成す可能性がある事象がこの世に在るなど、到底許しがたい事です」
故に潰そう。商人達に、お姉様を触らせなどしない。
トリチェリの手引きによりイレギュラーズは内部へ潜り込む者――と外から混乱を巻き起こす外部の二班に別れる計画を立てた。内へと入るのは、しきみを始めとして『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)と『武の幻想種』ハンナ・シャロン(p3p007137)、そして『never miss you』ゼファー(p3p007625)の四名である。
「ひひっ。これはまた上玉ばかりで……
よし、牢にぶち込んでおけ。取引まで時間があるからな」
奴隷商人が彼女らを一瞥すれば――成程、怪しんですらいないようだ。
トリチェリの手引きは確かに機能しているのだろう。誘導され、牢の中へと入れられれば。
「奴隷かぁ……様々な事に酷使される使い捨ての『ひと』だっけ。
よくもそんな事を考える物だよね……信じられないよ」
見張りの者に聞こえぬ様にルアナは小さく呟くものだ。
人が人に価値を付けるという傲慢の極み。尊厳も人権も無視して売買し……一部の者の私腹を肥やす為だけに酷使されるなど、想像するだけでも許しがたい事だ。とはいえ……ルアナも自覚している。
自分だけが怒っても、奴隷制度が無くなる訳ではないのだ。
「でも……わたしにだってできる事はあるよね」
それは彼女が視線を向けた先にいる――奴隷の者達。
彼らを救う事だ。全ては無理でも、目の前の人に手を差し出す事は出来る。
救いの糸を。希望の光を。
「ねえ貴方達皆――動く事は出来る? 大丈夫、私達は貴方達を助けに来たのよ」
「手をこっちに。枷を今外しますね」
そしてゼファーとハンナも監視の目がない事を確認し動き出す。
ハンナはルアナと協力して枷を次々に解錠していく。特にハンナの技能は卓越しており……ほぼ触れたと同時に解除される程だ。見回りなどを警戒して、枷はそのままに鍵だけを開ける。こうしておけばいざという時は一斉に枷を捨てて移動可能なのだから。
その間にゼファーは奴隷達と言の葉を交わす。
それは状況の整理だけに非ず。会話をする事により緊張や不安を和らげる為でもある。
「……んっ? 大丈夫? こわい?
心配ないわよ――ああそうね、だったらおまじないを掛けて挙げましょうか」
それでも小さい子供は……やはり精神的に丈夫という訳でもなさそうだ。助けが来たと分かっても尚震える子を抱き寄せて――ゼファーは『絶対に大丈夫』という意味の印を、その子の手の平の上に。
不安そうな顔に、今にも泣き出しそうな顔。
そんな表情を浮かべることにすら疲れた顔。
ここには多くの――奴隷がいる。あぁ……
「……不本意だけれど、懐かしくも思えるわね。この空気は」
かつて。
貧しい村で生まれ、人買いに売られ……ひっそりと終わる筈だった事を想えば。
どうしても――脳裏のどこかに過ってしまう。
自らも『こう』だったのではないかと。
「お仕事が終わったら迎えに来ますから――それまで少しだけ、良い子にしてて頂戴な」
「おや? どうやら怪我があるようですね……これは治療しておきましょうか」
優しく言葉を掛けるゼファー。同時に、しきみが気付いた。
腕の所に切り傷の様なモノがある。深くは無いが、放置して菌が入れば痛かろう。
「ご安心を。私たちはさる御方の命を受けてやってきたローレットと申します。
皆さんを――確かに救うために参りました。従ってくだされば、その御命は保証致します」
柔らかき光。暖かさを感じる治癒術をしきみは行使しながら言葉も紡ぎ。
内側での準備を進める。
外での動きに――いつでも呼応出来るように。
そして――外の方でも準備は進められていた。
「奴隷事件、かぁ……花丸ちゃんは直接関わってた話じゃないけど、終わってないって事だよね。だったら――花丸ちゃんのすべきことは決まってるよ!」
ファミリアーの鳥を使役しながら『はなまるぱんち』笹木 花丸(p3p008689)は言う。
少しでも泣いている誰かを必ず助けるのだと。
その為に空よりブラックマーケット周辺を観察し、突入のタイミングを見計らう。特に見据えるべきは逃走に使えそうなルートだろうか――そこを辿って商人達が逃げる可能性は十分にあるのだから。
「まぁとりあえずぶっ飛ばせば宜しいのなら簡単な事で――えっ、潜入と救出?
成程。ではなるべく派手に暴れる必要がある訳ですね」
結局結論は一緒ですね。言うは『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)だ。まぁ間違ってはいないのだが……ともあれステラもまた花丸と同様にファミリアーの動物を使役する。
ただしステラの方はネズミだ。目立ちにくい動物にし、マーケットの中へと。
隠れながら移動させて内部に侵入。牢の場所が分かればそこへ到達させいつでも『タイミング』を教えられるようにするのだ――こちらも内部のしきみが使役している動物を預かっている。簡単な意思疎通であればこれでも十分で。
「おぉ。しきみさん達は無事に牢の方へと辿り着いたようです。後はこちらの開始次第でしょうか」
「オーケー。順調だな……けどよ、チッ。胸糞悪ぃ!
ラサでも豊穣でも……奴隷商人てのは変わらねぇな!」
同時。吐き捨てる様に『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は呟くものだ。
花丸からの上空情報を共有しながら進むべきルートを構築する。一度事が始めれば、後はノンストップで行動しなければならないのだから――頭に情報を詰め込んで。
「ったく……どの国もさ。幻想に厄介事ばかり持ち込みやがってよォ。
奴隷なんて時代遅れの商売にいつまで固執してんだ」
そして『鳶指』シラス(p3p004421)が準備を整える。内部の者達もどうやら全ての奴隷の枷を外す事に成功し、後は内通者から武器が届くのを待つばかりのようだ。それもそう遠くはない事だろう。
しかし真っ当か否かはともかく、貴族達なら人間からもっと上手に『絞る』だろう。
結局奴隷などというのを買う者は――単なる悪趣味共というだけ。
人間として下劣なだけだ。
「――片端から潰してやるぜ」
こんな商売がまかり通ると思うなよ。
腐敗のある幻想とはいえ――ソレを許せぬ人間もまた、存在しているのだから。
●
「あのね。貴方達を逃がすために、邪魔になってる商人さんとかをやっつけるから……それまではじっと大人しくしていてね。うん、ここにいてくれればいいの。大丈夫。わたしも、仲間もみんな強いんだから!」
そして予定通り届けられた武器をルアナは身に纏い万全とする。
幸いにして奴隷達は大きな怪我をしていない様だった。商品として、最低限の保護はしていたつもりなのだろうか……ただ、鞭か何かで打たれたような跡は在ったため、軽い手当はしておいた。
……ここから無事出す事が出来たならしっかりとした医者に掛けたい。
その為にも――まずはここを突破する必要がある!
「さぁってぇ? なんか外が騒がしくなって来たわねぇ」
同時。ゼファーが気付いた。商売の喧騒ではない――何か別の声が生じていると。
「オラオラー! 誰に断って商売してんだオラー! ンダコラー! スッゾオラー!
責任者どいつだオラー! ヤンノカオラー! ナンヤナンヤ――!!」
それは風牙が注意を引くためのもの。現れた商人達に対する罵詈雑言の圧。
不審者かと用心棒がてらの傭兵が出向けば――当然裏の方は手薄となり、更には。
「火事だ! 火事だぞ――!! 逃げろ! すぐそこまで来てるぞ――!!」
シラスも行動を開始した。火事と叫んで混乱を巻き起こさんと。
だがただ叫ぶ訳ではない。火事の『幻影』を用いて――さも本物の如く見せつけるのだ。
無論一分しか続かぬ幻の上に熱も臭いもない事は承知している……だが一瞬でも少しでも気を引く事ができればそれでいいのだ。様子を見に来た者があれば打ち倒し、暴れて本物の混乱を巻き起こしても良い。
「なんだ、火事?」
「おい、表の方で暴れてる奴がいるぞ! 傭兵!!」
「どうなってる。火事はどこだ!? 火元は!!?」
マーケット内にざわめきが。これは――貴重な時間だ。
だから花丸は往く。打ち上げるは聖夜ボンバー。爆発音と同時にきらきらと星が飛び出すパーティグッズにして――大きな『音』を鳴らす全ての合図。しかも一発ではない。ステラも若干タイミングを外して放てば二発の轟音。
「よーし。これだけやれば十分だよね! それじゃ、花丸ちゃんもいっくよー!」
「遂に暴れるタイミングですね。拙も待ち侘びておりました――」
さぁここからは内部を支援する為にも盛大に。
――飛び出てきた傭兵達へと襲い掛かる。ステラのバスター砲が雨の如く降り注いで、花丸は傭兵達の奥にいて守られているような形の商人へ――名乗りを挙げる様に注意を引けば。
「始まりましたね。それでは皆さん、先程申し上げました通り決して突出しないように」
「隠れられる場所があれば探して来ますので――奴隷の皆様はもう暫くこちらでお待ちくださいね!」
危ないので! とハンナはしきみの言に続いて奴隷達に注意喚起を。
どこか潜めるような場所があれば良いのだが、無い場合や遠い場合、むしろ牢の中に居てくれた方がありがたい。一番困るのがパニックに陥って突然飛び出す事だ。
だから――内部班は武器を取り出して周囲を見る。
彼らを守れるように陣取りながら。
「……あっ!? お前ら、一体いつの間に外にッ――がっ!」
さすれば真っ先に見つけた見張りを一人、しきみが一瞬で昏倒させてやった。
「お一人だけですか。思った以上に外に注意が引かれている様ですね」
「うん。さぁ、もう少しだよ。もう少ししたら――皆で一緒に、お外に出ようね」
ルアナの構える剣。
背後にいる奴隷達には笑顔を。これから先には希望が待っているのだと――示す様に。
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「何をしている! 賊、賊だ! 速く打ち倒さんか!!」
イレギュラーズの行動が本格化してからブラックマーケットには混乱が巻き起こっていた。
ステラが全力で投じる射撃行動は敵だけを正確に穿ち、花丸の拳が全てを貫く。無論傭兵達も迎撃に出る訳だが、奇襲に近い形となっているイレギュラーズの勢いの方が明らかに優勢を保っていて。
「敵は少数だ! 囲め! 囲んで奴らを……」
「この国がそんなにチョロいと思ったか? 簡単に商売できると踏んだのか?」
――あめぇよ。
背後を取ったシラスが商人の銃撃を躱し――手刀一閃。
不殺を狙い、その身柄を地面に転がさんとする。こいつらは捕らえられた方が色々都合がよいだろうと。流石に数の違いがある故に、どこまでも不殺前提とはいかないかもしれないが――しかし。
「くっ。奴隷達を移動させろ! 奴らは別に他の所でも売り捌け……」
「奴隷が――なんだって?」
内部から援軍が至れば話は別だ。建物の影から現れたゼファーが、槍を一撃。
力が籠っていた。五指の先まで魂が巡り、その瞳には破裂すれば殺意が溢れんばかり。
「正直全員ぶっ殺したいぐらい苛ついてるの。まぁ、なに……そうね……
万一『手が滑った』らあの世で恨んで頂戴な?」
剛閃連打。邪魔をする傭兵共を薙ぎ払わんばかりの勢いで――薙ぐ。
そして当然ゼファーが至れば他の内部のメンバーも到来するものだ。
「こっちの方にはいかせないよ――私が相手なんだから!」
「奴隷の皆様は諦めてもらいます。どうしても連れて行くというなら……我々を倒してくださいね!」
ルアナが奴隷達の方へ行かせぬ様に名乗りをあげれば、ハンナもまた奥の牢を意識しながら銃撃一つ。魔力が練り込まれた希少な銃弾――バレット・オーバーロードを装填すれば、何物をも穿つ一筋と成りて。
「潰しても潰しても中々なくならない……もしかしたら人の世が続く限り――ずっと貴方達の様な存在が出てくるのかもしれませんね」
狙うは商人。ここで彼らを倒しても、きっと次が出てくるのだろう。
欲望があり続ける限り……でも。
「それでもこうして地道に潰していけば――悲しい事は減っていきますよね。
一つでも、二つでも潰せば…………うん。本日も頑張ります!」
たった一つでも。己の目に届く範囲だけでも救いの手を差し伸べる事に間違いはない。
世界の総てを救えなくても、今ここは救えるのだ。
「ひ、ひぃ! まさかあいつら……イレギュラーズか……!?」
「――悔い改めなさい」
商人も必死に銃撃による反撃を放つも、しかし一切臆す様子を見せないのがしきみだった。彼女にとってはこのような害虫を滅ぼす事こそが重要。お姉様の目に触れさせたくもない穢れた者共。
戒告を。
「お前は奴隷などを扱って間接的にお姉様を苦しめた」
「な、何の話――」
「その罪を自覚なさい。さもなくば」
痛みをもって、教えましょう。
四方より迫る土壁を顕現。押し潰す様に動きを止めた先で――蜜杯の呪いを。
ああお姉様の害になるかもしれない者よ。そんな存在は許せない。
お姉様の心を乱す事も許さない。優しい優しいお姉様の……
「為に」
絶叫一つ。害成す可能性は――全て許さない。
「今、武器を捨てるなら許してあげるよ! でもまだ戦おうって言うなら……
覚悟はしてるんだよね? 『これ以上』をやりあう覚悟が」
直後、脅す様に畳みかけるのは花丸だ。
未だ抵抗は見られるものの、しかし明らかにイレギュラーズの方に有利がある。
だから言う。今武器を収めるなら見逃してやる――と。特に。
「君達ももう、無理に戦う必要はないんじゃないかな?」
「あ……ああ、ぼ、僕達は……」
奴隷兵達はほとんど戦意喪失しているようなものだ。
元々盾の様に扱われる彼らが商人に忠誠心などある筈もなく、金があればという傭兵の義務感も存在しない。事態が劣勢と成り、商人達も終わりと思えば……
「それでも万一が怖いか? なあ――適当なところでやられたフリしてな」
しかしもし一歩が踏みだせぬならと、風牙は言う。
奴隷兵の懐に飛び込み、彼らにだけ聞こえる様に。
「あんたたち奴隷を解放しにきたんだ。寝てな」
腹に一撃。しかし全力ではなく、芯には通さず。
――奴隷兵の身体が揺らぐ。言う通りにするなら、追撃はしない。
倒すべきは奴隷売買を主導する商人と――その配下の連中だけだ。
「くそ! どいつもこいつも役に立たん奴ばかり……!」
「何を言っても結構ですが、さて如何しますか? このような雇い主にこれ以上付き合うか……それとも、全滅がお望みですか? もしも全滅がお望みだというのなら構いません、死合いましょう」
それならそれで構いませんがと、ステラは言う。
契約やプライド等あるでしょうが、命あっての何とやら――とも言う。
状況を交渉に。口に弁を乗せて傭兵達へと紡げば。
「あ、商人が逃げた!」
気付く花丸。全てを放って商人が逃げる様が――その目に捉えられた。
奴らの全滅はオーダーではない。奴隷達が無事であれば逃がしてもまぁいい、が。
「気に入らないのよね」
それを許さなかったのがゼファーだ。偶々逃げる方に彼女が陣取っていて。
死なせはしない。死なせはしない――けれど。
足を引っかけ転ばせて。無様に転んで広げた手の平に、踵一撃。
「あらごめんね――うっかり踏んじゃった」
悲鳴が轟くが知ったこっちゃない。うっかり指の骨が幾つか折れただろうが、知った事か。
だって――奴隷商は世界で一番嫌いな人種だもの!
万感の思いを乗せて、ついでに『うっかり』もう一撃乗せてしまった。
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戦いは収束する。傭兵は散り散りになって……
奴隷達は全員無事だ――外と内から攻撃を仕掛けたのが功を奏したか。内側に全員集っていた場合は、そこに敵戦力が集中して守りにも力を裂く必要があった。が、外からも圧を賭けた事と誘導した事により、内への注意は逸れていて。
「この人たちの身柄の安全と、これからの生活を考えなきゃまた同じことになっちゃう。子供なら孤児院とか。働ける年齢ならばどこかで仕事の口を探して貰いたいんだけどな……トリチェリさんにどうにかならないか、尋ねてみようか」
「ああ、それがいいな――奴隷を解放しただけで終わりって訳じゃねぇ。
それに……それくらい出来そうな貴族だしな、あいつは」
ルアナは無事に解放できた奴隷達にリュックに入っていた食べ物を別けて。
その処遇については――風牙も同様にトリチェリに委ねるのが良いだろうと。
なんとなく、あの男は油断ならない気配を醸し出している……悪人ではなさそうだが、信ずべき善人とも言えないような……ただ、遊楽伯の派閥の一員なら悪い様にはしないだろうと。
「……まぁ、あの方は大丈夫……だとは思いますがね。少なくとも今回に関しては」
しきみもまた、己が直感に近い感覚――天からの祝福にて見た彼の印象は、白だった。
一応は信頼できる人物であろうと判断している。どこまでも純白とは……断言できないが。
「希望する人がいるなら花丸ちゃんのトコで面倒見てもいいけどね! ちょっと……ほんのちょっと……いや大分遠いトコだけど、うん! なんとかしてみせるよ!」
花丸の領地――カムイグラの領地でも可能であれば受け入れると。
異国の地ではあるが、良い所だ。信じられない人の所よりはきっと良い筈だとにこやかに。
「さて――戻りましょうか。どの道一度、報告に戻らないといけませんしね」
「さぁキリキリ歩きなさいよ。ちょっとでも逃げようってもんなら――分かるわね?」
そして奴隷達の調子も整ったならと、移動をハンナは提案し。
捕縛された商人はゼファーが槍でつつきながら歩かせる。今度はお前らが牢に入る番だと。
「しかし……奴隷売買がまた行われるなんてな。
何が起こってんだか……不穏な事件がまた、起こらなきゃいいんだが……」
そしてシラスは天を眺める。
奴隷商人が偶々幻想のブラックマーケットに来た――
それだけの事情で終われば良いと、切に願いながら。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
幻想で行われている不穏な影……何かの予兆でしょうか……
ともあれこの場における事件は皆様の活躍により解決しました。
ご参加どうもあ有難うございました!
GMコメント
ンッふっふ。奴隷市シナリオですぞ!
ご縁があればよろしくお願いします!( ・◡・*)
●依頼達成条件
1:奴隷の全救出。奴隷兵は除く。
2:奴隷商人の勢力をある程度叩く。(全滅させる必要はありません)
1は必ず達成してください。2は可能な限りで大丈夫です。
●フィールド
幻想西部テキスタン街……のブラックマーケット。
表通りからは多少以上離れた所に存在しています。
入り組んだ道を進んでいくと『奴隷市』が開催されている様です。
奴隷達は一か所に纏められており『潜入』を選んだ場合は、そのメンバーは同じ場所へと運ばれていきます。まさか内部で何か起こるとは思っていないのか、すぐ近くには監視はいないようです。
●敵戦力
・奴隷商人×3
商売人ですが、自衛出来る程度の戦闘能力は持っている様です。
小型の銃を持った中~遠距離タイプ。
・傭兵×12
奴隷商人や商人を護るために配置されている傭兵達です。
主に接近戦を行うタイプが多いようですが、数名遠距離型がいます。
流石に雇われているだけあって、奴隷商人よりは確実に戦闘能力が優れています。
・奴隷兵×3
元々は彼らも商品だったのですが、兵として従わせられています。
簡易な槍を持っていますが戦闘能力は優れていません――主に傭兵や商人の盾にされるための存在でしょう。
●奴隷×8
囚われている奴隷達です。牢に入れられています。
シナリオ開始時は今日の奴隷市が開催される前なのか、まだ売り場には出されていない為一か所に纏まっています。全員腕と足を拘束されている為、そのままでは逃走は困難でしょう。
拘束具はさほど頑丈ではないので、攻撃などで破壊は可能です。
が、破壊しようとすれば大きな音が出て気付かれる事でしょう。
鍵を開けるスキルやギフトなどを持っていたら暫くまだ気付かれないかもしれません。
●『潜入』要素
このシナリオでは外から襲撃を掛けるか、内部にホルンの手引きで潜入するか選ぶ事が出来ます。内部に潜り込んだ者は囚われている奴隷達と同様の場所(牢)に入れられます。
この時点では武器はありませんが、暫くすると内通者が武器を持ってきてくれます。
その後は全力での戦闘が可能です。ご武運を。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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