PandoraPartyProject

シナリオ詳細

虚無に帰す視線

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悪徳商人、魔種に堕つ
 ドレヴィング平原には、餅のような姿と味と食感をしたモチスライムと言うモンスターが、積雪時のみ現れる。このモチスライムの狩猟に関しては、資源保護の意味合いもあって年間の狩猟数には制限が課せられていた。しかし、世の中には規制の網を潜り抜けて私欲を満たさんとする者が少なからず存在する。
「おのれ、おのれおのれイレギュラーズめ……! よくも儂の商売の邪魔を……!」
 夜遅く、書斎で机をバンバンと叩きつつ荒れ狂う商人、ゲスーイ・チャンマートもその一人であった。悪徳商人として知られるゲスーイは、荒くれを雇いモチスライムを密猟させ、希少品として高く売りさばき一儲けしようと考えたのだ。だが、その企みはイレギュラーズ達によって失敗に終わる。
 荒くれ達に支払った前金を損したのもさることながら、せっかくの商売を邪魔されたことがゲスーイの癇に障った。それも、イレギュラーズなどと言う荒くれ共と大差ないならず者の手によって。
 金を価値観の全てとするゲスーイにとって、金を持っている者こそが崇高なのであり、依頼を受ける側の荒くれ共やイレギュラーズ達は見下すべき存在でしかなかった。そんな存在によって、崇高たる立場の自身の金儲けが妨害されたことが、何よりも堪え難く許しがたいのである。
「……!?」
 狂ったように机を叩き続けていたゲスーイだったが、突如ビクリと身体を震わせ、動きを止める。
「ハハハ……クハハハ。そうだな、儂の邪魔をする者は、特異運命座標だろうと何だろうと滅ぼしてしまえばいいのだ!」
 高らかに笑うゲスーイの瞳には、先程までは存在していた瘴気の色が失せていた。
 ――”呼び声”を受けて、世界に仇なす魔種と化したのだ。

●死んだ事実も識ることなく
「誰か、誰かおらぬか!?」
 魔種と化したゲスーイは、使用人を呼びつけた。書斎から響く声に、夜も遅くに一体何事かと使用人が主人の元に向かい、おそるおそる扉をノックする。
「おお、入れ」
「失礼します。一体……」
 だが、使用人は用件を尋ねることは出来なかった。ゲスーイの視線が使用人を捉えた瞬間、使用人の上半身がその空間ごと抉り取られたかのように消滅していたからだ。上半身を喪った使用人の下半身は、ぐらりとバランスを崩して倒れていった。
「うむうむ、良い具合だ。特異運命座標など、恐れるに足りん! ハハハハハハ!」
 ゲスーイは魔種となって得た能力を、使用人でテストしたのだ。その結果に満足したゲスーイは、上機嫌で笑い声を響かせる。
 だが、この時ゲスーイは気付いていなかった。窓の外から一羽の梟が、一部始終を目の当たりにしていたことを――。

●魔種ならば、討たねばならぬ
「かくて悪徳商人は魔種となりぬ――えらくつまらない理由で魔種堕ちしたものだとは思いますがね」
 ヒィロ=エヒト(p3p002503)と美咲・マクスウェル(p3p005192)を含むイレギュラーズ達を前にして、『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)ははぁ、と溜息をついてみせた。
 ヒィロと美咲はモチスライムの密猟を阻止する依頼に参加しており、ドレヴィングの街に引き渡した荒くれ共の供述から、モチスライムの密猟を企んだ黒幕がゲスーイであることを知った。そしてゲスーイを捕縛するために勘蔵に調査を要請し、それを受けた勘蔵がファミリアーを使えるイレギュラーズに偵察を依頼した結果、ゲスーイが魔種と化したことが判明した、と言うわけである。
「魔種になったのなら、倒しちゃうしかないよね? ね?」
 瞳に好戦的な光を宿したヒィロが、同意を求めるように勘蔵に尋ねる。
「……まぁ、そうですねえ。魔種案件となった以上は、放っておくわけには行きません。
 加えて、特異な攻撃が確認されている以上、十分に注意して下さい」
「……確かに、空間ごと抉り取ってくるのは厄介ね」
 美咲の面持ちが、神妙なものになった。その攻撃にどう対応するべきか、美咲の頭脳は思案を開始する。
「それでは、魔種ゲスーイ・チャンマートの討伐、よろしくお願いします」
 軍服で揃えているヒィロと美咲の装いに釣られたか、勘蔵はビッと敬礼してみせた。もっとも、勘蔵の敬礼は彼の持つ雰囲気もあってあまり様にはなっていなかったのだが。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回は、ヒィロ=エヒトさんと美咲・マクスウェルさんのアフターアクションからシナリオを用意しました。
 モチスライムの密猟失敗を受けて魔種となった悪徳商人の討伐を、お願い致します。

●成功条件
 魔種ゲスーイ・チャンマートの死亡

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 ゲスーイの屋敷です。中で戦うか外に誘き出すか、またいつ仕掛けるかについては、皆さんにお任せします。
 ただし、いつ仕掛けてもゲスーイに不意打ちをすることは出来ないとします。
 何らかの手段で外に誘き出せば広い庭で戦うことになるでしょうし、中で戦えば限られた空間の中で戦うことになるでしょう。

●ゲスーイ・チャンマート
 今回の討伐対象です。モチスライム密猟の失敗によって、魔種となりました。属性は傲慢。
 攻撃力と生命力がやたらと高く、防御技術と特殊抵抗もそれなりに高くなっています。
 一方、反応、回避はほぼ皆無です。

・攻撃手段など
 ヴォイドゲイズ 神/至~超/単 【必中】【防無】【災厄】【致命】
 ヴォイドゲイズ 神/至~超/単 【溜】【防無】【疫病】【致命】
  視線を向けた対象を虚無に帰す空間を発生させます。射程は最適なものを選択出来ます。
  基本は【必中】のバージョンを使ってきますが、威力を重視する場合は【溜】のバージョンを用いることがあります。【溜】のバージョンは視線をやや長く向けて意識を集中するため、威力は大きくなる代わりに【必中】が外れ、回避が可能です。
  これはメタ情報になりますが、パンドラを有しているイレギュラーズはこの攻撃を受けても、大ダメージこそ受けますがOPに出てきた使用人のように空間ごと抉り取られて消失するようなことはありません。
 高速詠唱
 精神無効

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • 虚無に帰す視線完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年02月28日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

リプレイ

●反転の経緯を聞いて
 情報屋から悪徳商人ゲスーイが魔種に反転した顛末を知らされたイレギュラーズ達の反応は、様々だった。
「あまり、やすやすと反転されては、堪らない、な……呼び声に耐えられるものは、少なかろう、が。
 今回は、耐える気があったかも、怪しい、か」
 まさかそんな程度で反転するとはと、『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は溜息をついた。エクスマリアの感情によって形を変える金色の髪は、未だこの事態を信じられないと疑うかのように捻れている。
「いつだったかの一撃でふっとんだ魔種とは違うんだろうが、なんかこう、な……」
 何と言っていいのかわからず困惑している様子なのは、『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)だ。
「……やっぱ、先に殺しといたほうが後腐れないのかな?」
「試しに、で人を殺した罪は何よりも重い……」
「闇雲に力を振るうだけの存在は、ゴロツキと大差ありませんね」
 サンディの疑問に、『神は許さなくても私が許そう』白夜 希(p3p009099)と『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)がゲスーイは見逃すべきではないと言わんばかりに応じた。何しろ、反転してすぐに得た力を試すためだけに使用人を殺めているのだ。とても放置しておけるものではなく、希も寛治もゲスーイを討つ気は満々だった。
「……なるほど。確かに、そうだな」
 二人の言にサンディはコクリと深く頷き、ゲスーイを討つ意を固めた。
「こんな事件でジッカンするのイヤだけれど……最近魔種の活動が活発化してる気がするね」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は、ウンザリしたように顔をしかめた。
「カコンは早めに絶つに限る! ハデにぶっ飛ばして解決して行こう!」
 だが、イグナートの対処はある意味わかりやすい。魔種が出現するのであれば、出来るだけ速やかに討伐するまでだ。
「ハハハ……笑いが止まらねえ」
 可笑しそうに高笑いをしているのは、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)だ。これまでジェイクが相対してきた魔種には同情を誘う過去があったが、ゲスーイに限ってはただイレギュラーズへの逆恨みしかなく、哀れむべき要素は一欠片もなかった。
 そして、反転した経緯はどうであれ、魔種が現れたのならばジェイクとしては例外なく獲物として狩るだけだ。
「密猟と魔種堕ちで二回も報酬儲けさせてくれるなんて、良心的! まぁ自分が儲けてないから、商人としては失格だけど。
 あ、だから魔種なんかになっちゃうのかー。あはっ」
 『ハイパー特攻隊長!』ヒィロ=エヒト(p3p002503)も、ゲスーイの反転が可笑しくて仕方ないと言った様子で笑う。実際、ヒィロの言うとおりヒィロはゲスーイによって発生した二度の依頼で報酬を得られるわけだが、ゲスーイはモチスライムの件では儲けていないどころか損を出しており、今度は命を買い叩かれるも同然になったのだ。
(妨害した側から言うのもなんだけど……手広くやってたでしょうに、一回邪魔されるのがそんな堪えるもの?)
 たった一度妨害されただけで反転するものかと、『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)は首を捻る。だが、手広く悪どい商売を行い、それをことごとく成功させてきたからこそ、ゲスーイの増長した精神は失敗に対して脆かった。さらに言えば、よりによって妨害したのが金に使われる側――と、ゲスーイは認識している――イレギュラーズであったことが、ゲスーイのプライドをより深く傷つけたのだ。
「そのレベルなら、遅かれ早かれかなー。私らが関わっただけよかったかも」
 そんなことを知る由もない美咲は、どうせゲスーイはいつかは反転していたのだと割り切った。

●イレギュラーズの”口”撃
 ゲスーイの屋敷に乗り込むか、それとも屋敷から誘き出すか。その判断を負かされたイレギュラーズ達は、ゲスーイを屋敷から誘き出すことを選んだ。腐っても魔種であるゲスーイの領域にわざわざ乗り込むのは危険であるように思われたからだ。
「まず、マリアから、いくよ」
 エクスマリアは、手頃な石を掴むとゲスーイの屋敷の窓をめがけて勢いよく投げつけた。石はパリンと窓ガラスを割り、大きな穴を空ける。
「俺からは、こいつをくれてやる!」
 マリアに続いて、サンディが「イレギュラーズ参上! 覚悟!」と記されたカードを放つ。カードは窓ガラスに空いた穴を通り抜け、室内の壁に突き刺さる。
 窓ガラスが割れる音に何事かと様子を見に来た男が、サンディの放ったカードを見るや目を剥いてカードを壁から引き抜き、憤怒の表情で握りつぶした。その様子に男がゲスーイだと確信したイレギュラーズ達は、次々と”口”撃を開始した。
「モチスライム保護団体代表兼ローレットのジェイクだ!
 こんな所に俺達に密猟を邪魔されたって理由で魔種化した間抜けを退治しに来たぜ!
 俺達が憎いんだろ? 出てこいよ! 相手してやっからさ!」
 ジェイクは適当な団体をでっち上げてその代表を名乗ったが、頭に血が上っているゲスーイにその真贋を判別する余裕は無い。まんまとジェイクをモチスライムの密猟を邪魔した相手と見なし――実際には、この中で密猟を邪魔したのは美咲とヒィロだけなのだが――キッと鋭い視線を、イレギュラーズ達の方に向けた。
「オレたちにケンカを売ろうって身の程知らずが居るって聞いて出向いてやったぞ!
 本当にケンカする度胸があるならオモテに出ろよ!」
 続いてイグナートが、掌を表にして手を伸ばして指をクイクイと自身の方に曲げ、かかってこいとアピールする。
「あの密猟者達、ボク達が後を追ってきてるのにも全然気付かないで、簡単に奇襲されちゃったんだよね。
 ホント、あんなのを雇うなんて人を見る目が無い間抜けだよね!」
 ヒィロは、密猟を邪魔した時の様子を語って聞かせてゲスーイをさらに煽る。
「貴方の取引先は、全て貴方との取引を停止しました。
 残念ですがもはや、貴方は商人ではなくなり、今ある財を食い潰すだけの存在となってしまったのです。ああ、可哀想に!」
 実際には寛治の働きかけによってゲスーイとの取引を停止したのは半分ほどであったが、やはり今のゲスーイにはその真贋を判別することは出来ない。金を価値観の全てとするゲスーイにとって、金を稼ぐ手段を喪いただ減らしていくだけとなった事実は、堪えがたいものであった。
 立て続けに発せられた挑発を受けて、屈辱にわなわなと全身を震わせるゲスーイだったが、希の使用人への訴えがダメ押しとなった。
「ゲスーイ・チャンマートは、不可解な能力の実験に使用人を用い、殺害している。さらなる犠牲が予想されています。
 命が惜しいものは早めに投降するように。
 なお、ゲスーイの余罪に関する資料や供述と共に自首すれば、悪事に加担していたとしても酌量の余地はあるでしょう」
「……来るわ! 気をつけて!」
 何故使用人の殺害が発覚したのかを気にする余裕も無く、使用人に裏切られてはたまらないとばかりに、ゲスーイは目に力を込める。ゲスーイの様子に注意していた美咲は、仲間達に警戒するよう声を発した。
 まず上にボコッ! と、続いて下にボコッ! と、ゲスーイの前の壁に切り取られて消滅したような穴が空き、ゲスーイは全力でイレギュラーズ達に向かって駆け出した。

●虚無の視線は結界に阻まれて
「新田さん、お願い!」
 ヒィロが、破邪の結界を自らに展開しながら寛治を守る盾となる。
「首謀者の顔を見ても、感想は変わらないね……あんた、『気に入らない』」
「な……何だと!?」
 同時に美咲は、ゲスーイをギン! と睨み付けた。否、ただ睨んだだけではない。美咲は、一度に込められるだけの魔力を込めて、魔眼で睨んだのだ。ただ睨まれただけだと判断したゲスーイの身体に、苦痛と痺れが奔る。
「任せて下さい、ヒィロさん。……ああ、そうだ。貴方の取引先、まるっと私が新規顧客として頂戴しましたので、ご報告まで」
「きっ、貴様如きが、儂のおぉ!」
 無防備な姿を晒しながら、しれっと寛治がゲスーイに告げる。その一言が、ゲスーイの怒りをさらに煽り立てた。ゲスーイは寛治に視線を向けて、周囲の空間ごと抉り取って消滅させんとするが、そこにヒィロが割って入って寛治を庇う。
 バチイッ! 結界が、派手な音を立ててゲスーイの視線の力を弾いた。寛治もその前に立ったヒィロも無傷であることに、ゲスーイは我が目を疑った。
「ば、馬鹿な! 何故だあっ!?」
「悔しい? 今どんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち?
 そっちが闇商売のプロだったように、こっちは戦いのプロだから、この結果は仕方ないんだ。
 わざわざこっちの土俵に降りてきてくれて、毎度あり!」
 得意満面の笑みで、ヒィロはゲスーイを煽る。これは、ゲスーイの寛治への敵意が途切れた際に、自分が狙われるようにするためでもあった。
「力だけ得て、戦えると思い上がったのが、誤り、だ。逃しは、しない」
「うっ……ぐうっ!?」
 エクスマリアは、自身の蒼い瞳をゲスーイの目と合わせる。互いの目は合わせ鏡となって、交わした視線の間で無尽蔵に魔力が膨んでいく。やがてその魔力は呪法としてゲスーイに襲いかかり、その身体を蝕んだ。身体をビクッと震わせたゲスーイは、口からツウ、と血を吐き出した。
「おめえが死ぬまで、叩き込んでやる!」
「ぐおおおおおっ! 貴様あああっ!」
 後方に下がってゲスーイとの距離を取ったジェイクは、大型拳銃『狼牙』でゲスーイの頭に狙いを付けると、一撃必殺の魔弾を放った。魔弾はゲスーイの眉間に深々と突き刺さるが、ゲスーイは苦痛に咆哮を放ち仰け反るだけだった。もっとも、魔種が相手である以上、ジェイクも今の一撃でゲスーイを葬れるとは思っていない。ジェイク自身が言ったとおり、死ぬまで叩き込むまでだ。
「背中が、お留守だぜ!」
「ええい、卑怯な……っ!」
 ゲスーイの後方に回り込んだサンディは、『丑刻千人針苦無』の束を無防備なゲスーイの背中に投げつける。苦無はことごとくゲスーイの背に突き刺さり、仕込まれた呪詛がゲスーイを蝕んだ。
「まさか、タイマンやらせてもらえるなんて思ってたわけじゃないだろ?」
「おごおおっ!!」
 ゲスーイの罵倒を聞く耳持たずと言った態で受け流しつつ、サンディと同様にゲスーイの背を取ったイグナートは、手の指を折り曲げて虎が爪を出したような形とした。そして、 手首を旋回させながら掌打を繰り出す。掌底がゲスーイの背を強く打つと同時に、虎の爪を模した指がその身体を抉り込む。さらにゲスーイの体内に食い込んだ指先から、 練った気を送り込んで爆発させる。身体の内部から破壊される感覚に、ゲスーイはたまらず悶え苦しんだ。
「逃がさない。ここで、焼き尽くす……くたばれ」
「うああっ、熱いいっ!」
 ゲスーイから距離を取りつつ側方に回り込んだ希は、虚空より黒い光の束を召喚した。それは天からゲスーイを打ちのめしただけでなく、その身体を炎に包み、肉を焦がしていった。

●魔種ゲスーイの消滅
 元々悪徳商人でしかなく、戦闘に慣れていないゲスーイは、イレギュラーズ達にしてやられていたと言っていい。ゲスーイにとって不幸であったのは、使用人を殺害した場面を目撃されていたために、イレギュラーズ達にその対策をしっかりと練られてしまっていたことだ。つまり、寛治がゲスーイの攻撃を引き付け、ヒィロが盾となって受け止めるというパターンを構築されてしまい、ゲスーイはそこから脱却することを許されなかったのである。
 ただ、さすがにイレギュラーズ達が、と言うよりも、ヒィロが無傷というわけにはいかなかった。寛治を狙ってもヒィロに庇われて、そのヒィロが結界で視線を無効化してくるのだと理解すると、格闘戦――と言うよりも、ただのパンチで殴りつけた来たからだ。
 技量だけで言えばヒィロの方が圧倒的に上であり、事実巧みに直撃を避けていた。それでも受けた傷はエクスマリアと希が癒やしていたが、エクスマリアの気力が尽きると美咲がその分を補うべく回復に回ってもなお、ヒィロの受けている傷は重く深くなっていった。
 一方、寛治、ジェイク、サンディ、イグナートによる攻撃はことごとくゲスーイを捉え、明らかに傷を負わせているのだが、ゲスーイは動きを鈍らせることなく戦闘を継続している。結果、戦局はヒィロを回復する希と美咲の気力が先に尽きるか、ゲスーイの生命力が先に尽きるかが焦点となっていった。

(……そろそろ、決まってくれないと危ないですね)
 あと、何発こうして四十五口径を撃てるか。寛治も気力の消耗を感じはじめていた。余裕を装っていても、さすがに心中が焦りでざわめきだす。だが、寛治の放った弾丸がゲスーイの脳天に突き刺さると、ゲスーイはガクガクと足を痙攣させ、体重を支えきれなくなって片膝を突いた。ゲスーイの生命力の限界が、見え始めたのだ。
「やれやれ、無駄にしぶとかったな」
 気力の消耗を感じていたのは、ジェイクも同様だ。それだけに、終わりが見えた今はしっかりと決めておきたい。狙い澄まして放たれたジェイクの魔弾は、ゲスーイの心臓を貫いた。ゴポッ、とそれまでとは明らかに違う量の血を、ゲスーイは吐き出した。
(やっと、勝負が見えてきたか……しかし、恐ろしくタフだったな)
 サンディは変わらず、『丑刻千人針苦無』の束をゲスーイの背中に投げつける。既にハリネズミのようになっているゲスーイの背に、さらに新たに幾多もの苦無が突き立てられ、呪詛がゲスーイを蝕んだ。既にゲスーイは上半身を支える余裕もないのだろう。頭をゆらゆらとふらつかせた。
「魔種になんてならずに、自分を鍛えるべきだったね!」
「ぐ、ああああっ!!」
 イグナートも、気力を使い果たして肩で息をしている。だが、それでもゲスーイの正面に回り込むと、鋭い突きの連続で正中線上の急所を何カ所も打ち貫いた。 そのあまりの激痛に、ゲスーイは今まで以上に大きな絶叫をあげた。
「随分と、手こずらせて、くれた。でも、もう、終わり」
「ごぽおおっ!?」
 イグナートと入れ替わるようにゲスーイの背後に回り込んだエクスマリアは、やはり肩で息をしつつも『娃染暁神狩銀』の刀身をゲスーイの背に突き立てた。ゲスーイの身体を貫き前面から生え出るように現れた『娃染暁神狩銀』の先端は紅く染まっており、ゲスーイはさらに多くの血を口から吐き出した。
「貴方は……最後まで私が支える……!」
「ありがとう、希さん! ボクも、最後まで頑張るよ!」
 希はヒィロに、天使の救いの如き癒やしをもたらした。満身創痍であったヒィロの傷は幾分か癒え、多少身体の痛みが楽になったヒィロは希の癒やしに応えるべく、礼を述べてしっかりと足を踏みしめた。
「おのれ、おのれえええ! 儂は、こんなところでええええ!」
 ここで終わってなるかと、ゲスーイは身体をよろめかせながらも最期の力を振り絞って寛治に殴りかかる。
「うぐっ……新田さんはやらせないよ!」
 だが、やはりヒィロが盾となってその拳を受け止めた。かはっ、とヒィロは口から血を吐くが、先に希からの癒やしを受けていたこともありまだ倒れはしない。
「最後は、この前の荒くれ達と同じようにトドメをさしてあげる! ね、美咲さん!」
「……ぐうっ!? 貴様っ!」
「ええ、ヒィロ。……塵は塵に、屑は屑らしく、吹き散らされるといい!」
「う、ぐわあああああっ……!」
 そして、ヒィロの闘志も衰えることはない。むしろ、ヒィロは残る気力を全て闘志に換えて、ゲスーイに叩き付けた。その圧力に、ゲスーイが金縛りに遭ったように硬直する。美咲はその間に全身に魔力を漲らせ、魔法による猛攻を仕掛けた。絶え間なく浴びせられる魔力はゲスーイの断末魔が小さくなるにつれ、徐々にその身体を削り蝕み、ついには一片と残らず塵に還した。
(……ただの悪徳商人ですらこんなに脅威になっちゃうんだから、やっぱり魔種って怖いし悍ましいよね。
 欲望塗れなのはボクも似たようなものだけど……こうはなりたくないなぁ……)
 ガクリ、と気が抜けてその場にくずおれたヒィロは、塵となったゲスーイがいた場所をジッと見つめながら、勝利を喜ぶよりも先にそんなことを考えたのだった。

成否

成功

MVP

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

状態異常

ヒィロ=エヒト(p3p002503)[重傷]
瑠璃の刃

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって、魔種ゲスーイは見事に討伐されました。
 ラストをあれで締めたかったので本文中では書きませんでしたが、ゲスーイの悪事の証拠などについては、入手したことにして頂いて構いません。

 MVPは何方にするか迷いに迷いましたが、高命中からの【怒り】付与でゲスーイをパターンにハメる起点となった新田さんにお送りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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