シナリオ詳細
ツギハギだらけのこの世界で
オープニング
●無知の罪、無我の咎
夢を見ていた。
自分の頭に悪魔が入り込む夢だ。
悪魔は自分の身体を操って、善良な人々を次々に殺していった。
ライフルで脳天を撃ち抜いて殺した。
ナイフで心臓をえぐり出して殺した。
縄で吊り下げて殺した。
海に沈めて殺した。
土に埋めて殺した。
『何も悪いことをしていないのに』『自分からすべてを奪い取った天義』への憎しみを胸の中で殺して、崇高なる使命のために戦うことを誓った。
『旅人は世界を破壊するから』この世界から抹消しなければならないという、使命。
夢の中で、誰かが言った。
「憎しみはすべて忘れます。
不幸はすべて置いていきます。
この身はすべて、世界のために。
世界を蝕む外来種を消し去るために。
二度と私たちのような不幸が、繰り返されないように」
清らかな声で。
清らかな手で。
ディープシーの少女の首を絞めていた。
「――あああっ!」
自分の大声で目を覚ます。宿舎のベッドの上だった。
部屋に流れる古いカントリーミュージック。
酷い汗で服はぬれ、喉が渇いてしかたない。
ふと見れば、ベッドには自分を示す『ジェニファー・トールキン』というネームプレート。
プレートには聖銃士になるに当たって授与された『雷桜』の称号が刻まれている。
二段ベッドの上に寝ていたルームメイトが顔を覗かせ、優しく微笑んできた。
「おはようジェニファー。また怖い夢を見たの?」
「そうみたい」
枕元から眼帯をたぐり寄せて装着し、ベッドから出る。
カントリーミュージックがサビにかかり、男性ボーカルが情熱的に『あなただけ』と歌っている。
「ねえ。私たちは、大事な使命のために戦ってるよのよね?」
「んー? そうねー」
生返事をしながら、ルームメイトは服を手早く脱ぎ捨てた。ぽいぽいと行儀悪くベッドの下にある洗濯籠へ投げ込むと、レース生地のキャミソール一枚でベッドからぴょんと飛び降りてくる。そして、まだ寝間着姿のジェニファーへと優しく抱きついた。
「アタシがやってることなんて畑仕事とお掃除くらいだよ。この世界にために戦ってくれてるのは、ジェニファーのほう」
「そんな……」
額がくっつき、ルームメイトの前髪がジェニファーの鼻をくすぐった。
「私が戦えてるのは皆のおかげよ。私なんて……」
消え入りそうになる声に、ルームメイトは目を閉じた。
「よっぽど夢見が悪かったんだね。よし、いいでしょう。アタシのイコルわけてあげる」
机の上のピルケース缶から錠剤を取り出すと、『あーん』といってジェニファーの口へと押し込んだ。
わずかに触れた指と唇が離れ、ルームメイトは笑った。世界がふわふわと華やいだように見えて、ジェニファーも思わず笑みがこぼれた。
「ありがとう! 行ってくるわね!」
ジェニファーは元気よく服を着替えると、壁にかけたライフルをとって部屋を出て行った。
回り続けるレコード盤。
●『浄化作戦』
天義の片田舎ホープスに、その酒場はあった。
レコードミュージックの流れる店内には木の椅子とテーブルが並び、カウンターテーブル越しには酒瓶が並んでいる。
が、この店には店員も、客もいない。
どころかこの酒場を中心とした数軒の店や住居そして教会の住民たちはその何人もを失っていた。
「この村でも、『攫われて』しまったんですね……」
資料を読み、深く息をつくローレットの情報屋ラヴィネイル・アルビーアルビー。
彼女の調べに寄れば、ホープスの住民たちは数日前の夜に村へと入ってきたアドラステイアの武装集団によって拘束され、連れ去られてしまったという。
その原因は住民達の殆どが『旅人(ウォーカ)』であったことだと、ラヴィネイルは語った。
「アドラステイアの一部では、ウォーカーを魔種同様存在するだけで世界を破滅させるものだという『旅人害悪説』をとなえる層があります。
彼らは洗脳教育によって精鋭を集め、潤沢な資金や大量のモンスター兵力による武装集団を組織して周辺の村々を襲っていました。作戦名は『浄化作戦』。
主な目的は旅人の拘束と拉致。攫われた人々は一箇所に集められるといいます。
そこでどんなことが行われているのかはわかりません。けれど……このままには、できません」
集められているのは山のふもとにあるBグランドホテル。
三階建ての大きな建物である。
内部には武装したアドラステイア少年兵たちがおり、何かしらの方法で侵入し、ホテル内のどこかの部屋に囚われているホープス市民を救出しなければならない。
「偵察が行われましたが、ホテルには特殊な力が流れていて透視や物質透過を極端に弱める作用があるようです。おそらくは侵入を警戒してのことでしょう。
他にも音楽が大音量で流れていたり、侵入者の感知能力を妨害する動きがあります。
ですので……攫われた住民を見つけ出すには部屋に突入してひとつひとつ確かめていくほかないでしょう」
しかもそれはできる限り迅速に行わなければならない。
なぜなら、侵入は遅かれ早かれ気づかれてしまう上、現場に急行する聖銃士と聖獣舞台との戦闘がさけられなくなるためだ。
ベターなのは、住民を迅速に解放し、屋内の安全な場所に待機させつつ聖銃士部隊をホテルのベランダや窓から迎撃。更に屋内に残った少年兵たちも通路側から迎撃していくというものだ。
この両面への迎撃がかなり忙しくなるため、救出と並行するのは難しいのである。
「この現場へ差し向けられる部隊は『雷桜部隊』――雷桜の聖銃士ジェニファー・トールキン率いる聖獣たちによる部隊だと思われます。物量による圧迫を得意とする部隊ですので、くれぐれも気をつけてくださいね」
- ツギハギだらけのこの世界で完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月10日 22時02分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●風よ聞いてくれ
耳にざわつく冷たい風が、『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)髪をさらっていこうとする。
いつかみた少女の瞳と、瞳の奥でゆれた迷いを思い出して、ココロは深く深く呼吸をした。
「間違った人を正したい……と考えてるのかしら?」
後ろに立った『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)に、振り返ることなく答える。
「いいえ。あるいは……そうなのかもしれません」
「全員を一度に救う事なんてできない。そう考えている?」
「いいえ、あるいは……そうなのかも」
イーリンは小さく首を振って、ココロへと歩み寄る。
「あの『ジェニファー』と言う子を助けたいのね?」
肩に手を置くと、ココロは振り返った。
もう退かない。もう譲らない。放たれた矢のようにまっすぐな心を瞳に燃やして。
「はい」
答えた。
「『わたしがそれを望むから』」
『雷桜の聖銃士』ジェニファー・トールキンと関わりのあるローレット・イレギュラーズは少なくない。
『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)もまた、その一人であった。
(迷ってるみたいだった。
自分がやってることがこれで本当にいいのかって悩んでるみたいだった。
でもこのままじゃジェニファーは悩んだまま旅人を殺しにいってしまう。
これ以上の悪いことは……させたくない)
願いや祈りが尊いのは、それが叶うかもしれないからだ。
願いや祈りに力があるのは、それを叶える人間がいるからだ。
リュコスは願い、祈り、そして、行動することにした。
「止めないと」
改造馬車の上で、ビジネススーツのネクタイをどこか窮屈そうにつまむ『破戒僧』インベルゲイン・浄院・義実(p3p009353)の姿があった。
馬車はなだらかな山道を登り、ホープスから離れたホテルへと進んでいる。
(いつの世も争いの種は「正義」か。
ならば先達として教えねばなるまい。正義を倒すのは悪ではなく、また別の正義であると。
拙僧の正義とは、誰もが理不尽に命を脅かされることのない世界であるのだから……)
小さく手を動かし、祈る義実。
そして胸ポケットから煙草を取り出すと、ジッポライターで火をつけた。
祈りと共に吐き出される煙。
馬車の外を流れていくそれと景色をぼうっと眺めながら、『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)は目を細める。
(みんなは殺さずに捕らえるつもりみたいだけど、洗脳されてる子を短期間で元に戻すのはたぶん無理じゃないかなぁ……)
アドラステイアという場所。その教義や仕組みは、簡単に破壊できないほどに強固なものだ。
『洗脳』が、たとえばフィンガースナップひとつでかかったり解けたりする催眠術のたぐいであれば話は単純ですむ。しかし言葉の通りの『洗脳』であるなら、こちらの言葉をそうそう受け入れてくれるとは思えなかった。
彼らは結局のところ、現実を信じているのだ。月の裏側も、太陽の中身も、世界のなりたちも知らない自分たちは誰かから聞いたもっともらしいそれを信じるしかない。
地動説と天動説が入れ替わった時だって、『正しさ』は役に立たなかったじゃあないか……と。
『物語』であったЯ・E・Dだからこその考え方、なのかもしれないが。
「旅人を集め、イコルで聖獣にでも変える心算か? これ以上命を好きにさせてなるものか」
そしてまた、別の角度の現実を信じている『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)という青年がいる。
同じ世界に生きているのに、必ずしも同じ現実を見ることができない。
そしてこういうときに効力をもつのは、結局の所、物理的な力になってしまうものだ。
いや、順序が逆か。
リゲルの場合、『そのために持った力』と言えよう。
「罪を犯した人には罰は必要でしょう。
ですが、無理矢理呼ばれた異世界で懸命に生きていることを罪と呼ぶのは許せません。
必ず、助け出してみせます」
馬車がとまり、ノルン・アレスト(p3p008817)とリゲルたちは一度馬車を降りた。
ホテルの裏側へと周り、仲間が一悶着起こしている間に潜入、探索するためだ。
アレストは左手に巻いたスカーフにそっと触れて、やるべきことを思い出した。
ちゃり、と鎖を鳴らしてたちあがる『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)。
(正義の為ならガキ共に村一つ攫わせてもいいたぁ随分高貴な神様だ、本当に。
ガキ共が何かしでかす前に、さっさと村人を助け出さないとな……)
彼のもといた世界の常識でいうなら、神は人類の敵だった。
中には神こそが正しい選択をしているのだと吹聴してまわりを巻き込んだ盛大な自殺をする者や、終末論をとなえて自棄になった人々から資産を巻き上げるような人間もいた。
神を信じていないわけじゃない。
神の信じ方が気に食わないのだ。
「……だから宗教は嫌いなんだよ」
●
Bグランドホテルは山のそばにできた三階建ての建造物である。
アドラステイアにほど近かったことから聖獣による侵略をうけ、トドメをさすようにアドラステイアの聖銃士や少年兵たちによって占領された場所とされていた。
とはいえ、あの独立都市が本当にすべてを自給できるわけではない。
周辺の土地を占領したことからも分かるとおり、やはり外部のリソースをある程度頼らねばならないのだ。
よって、商人が出入りすることもある。
「はぁ? 見てよこの荷物。ホテルの定期便よ。強盗ならお断り、こっちは人雇ってんだから。文句があるならホテルに居る私のパパのフーゴに聞いて頂戴!」
商用に改造した馬車をとめられて、イーリン(フィーアの偽名を名乗っている)が門番の少年兵と揉めていた。
少年兵といってもアサルトライフルをさげ二人体制で馬車をとめる厳重さである。
強行突破をはかろうものなら中に勤務している兵達も飛び出しひどい騒ぎになるだろう。
「はて、輸送しているのは食料ですが何か問題でも?」
あえて大声で、相手の感情を逆なでするようなトーンで話す義実。
相手の出方を見つつ、そしてできるだけ内側の兵士達の注意を引くのが目的だ。
ココロは馬車のなかで丸くなっているリュコスをそのままに、門番の兵士にそっとキシェフのコインを握らせた。
「……あなた、これを一体どこで」
「フィーアさんがいつも偉そうでうるさくてごめんなさい」
偽造の品とは気付かず、渋い顔をしてポケットへコインを入れる門番兵。
相方の様子が軟化したことにいらだったもう一人の門番が感情的になりはじめ、一階に勤務していた兵のうち二人ほどが門へとやってきた。
そこからは別の意味でひどいものだった。言った言わない、いるいない。目を覆いたくなるような言い合いが起こり、いまにもお互いが掴みあいそうな空気ができあがっていく。
(……上々、ね)
イーリンは心の中で頷き、視界の端で動いた影を確認した。
表で仲間達がモメにモメている間、リゲルたちは身をかがめて建物内へと侵入していた。
一階の警備が手薄になったことで進行はかなり楽になったと言って良い。占領地であるという油断もあるが、ふつう入り口で濾過されるべきものが内側奥深くに現れるとは考えづらいものだ。
三階まで階段で上ってから、警備の様子をのぞき見る。
通路に立ち、どこか退屈そうにしている少年兵が二人。
リゲルは小声で仲間へ呼びかけた。
「アレストは解錠、マカライトとЯ・E・Dはそれぞれ別方向から順に探索だ」
外部のホテル関係者から調達した見取り図を開いてみると、鍵がかかっていそうな部屋の目星がついた。
そして部屋や窓の位置関係も。
「籠城する場所は決めてあるの?」
「いや……うん。今回の場合、建物内に立てこもるとかえって『詰む』危険がありそうだ」
敵が物量で攻めてくることを考えると部屋にこもって戦うのは不利だ。逃げ場を捨てることになる。もっといえば、あまり広い部屋がないせいで範囲攻撃を外から連発されたら簡単に全滅しかねない。
マカライトが鎖を握る。
「了解。なら、俺たちは三階全体をひろく使って戦うことにしよう。それよりまずは、見張りの連中を静かに黙らせないとな」
「賛成です」
アレストはピッキングツールを取り出し、いつでも施錠された扉に対応できるように構えると、マカライトが出すハンドサインに集中した。
3、2、1――。
●『雷桜の聖銃士』ジェニファー・トールキン
空にあがった救援信号をうけて、近隣のベースに待機していたジェニファー及び聖獣部隊は現場へと急行した。
魔方陣を目にかざして望遠すると、商用の馬車と数人の人間。そのなかの一人には、ひどく見覚えがあった。
「あの子……」
首筋に指を埋める感覚を思い出す。夢の中でみた、あの表情を。
「ちがう、ちがう、ちがう!」
ふっと湧き上がった考えを振り払い、ジェニファーは低空飛行状態へシフト。後続の聖獣たちに合図を出して加速した。
「憎しみはすべて忘れます。
不幸はすべて置いていきます。
この身はすべて、世界のために。
世界を蝕む外来種を消し去るために。
二度と私たちのような不幸が、繰り返されないように。
――ジェニファー・トールキン、打ち抜くわ!」
外で陽動にあたっていたメンバーへ聖獣の群れが殺到していくのを、窓の内から確認するアレスト。
すぐに飛行した聖獣たちが窓を突き破るなどして三階フロア内へと突入。
アレストは美しい扇『輝夜』を開くと、回復支援の構えをとった。
と同時に通路内へと転がり込んだ犬型の聖獣が、翼をたたんでこちらへと振り返る。
吼え、走り、飛びかかる――その動きを、割り込んだЯ・E・Dが手をかざすだけで吹き飛ばしていく。
否、Я・E・Dのかざした手から放射された魔力が通路を端から端まで突き抜け、聖獣たちを強引に振り払ったのだった。
「攫われた民間人は、どうなりましたか?」
「大丈夫。部屋におしこめてある」
籠城には適さない部屋でも、安全地帯として活用できる。リゲルの案内によって、予め救出した民間人は部屋角部屋へと移されていた。
「やり方疑ってねえなら鎧だのヤクだの使わず相手の目を見て闘いやがれ! 神様に囚われずに自分のやってることに目を向けろ!」
その一方で、マカライトは二階から駆け上がってくる少年兵たちとの戦闘にあたっていた。
階段の上よりカバーリングを適時行いながら鎖を放っていく。
対する少年兵たちも盾や障害物を活用して徐々にこちらへ迫っていた。
「こっちだってガキに手を上げたくねえんだよ……! それでもてめえらは馬鹿げたことやってんだよ! それを間違ってるって言ってやらねえと、本当にこの世が地獄になっちまうだろうが!」
そのまた一方で、三階で無力化しそびれた少年兵とリゲルがぶつかり合っている。
戦力的にはリゲルが圧倒的に勝っていたが、そこへ次々と割り込む聖獣たちによって自由に立ち回れない状態にあったようだ。
いや、その状態にあってもしぶとく戦い続けるリゲルのタフネスが抜きん出て優れているというべきだろうか。
「イコルは摂取し続けると聖獣になってしまう危険な薬だ!
子供が人殺しをしなければならない世界など間違っている!
俺達と一緒に、外の世界へ行こう!」
「聖獣様を侮辱するのか、天義の犬め! おまえたちだって僕らを皆殺しにするくせに!」
「そんな事実はないんだ、なぜわからない!」
「嘘吐きめ、なぜ放っておいてくれない!」
平行する言葉と言葉。ぶつかり続ける刃と刃。
雷の翼を広げ、犬型の聖獣『ケルベロス』が突撃をしかけていく。
とめておいた馬車が一発で粉砕され、吹き飛ばされた義実が地面をひっかくようにして強制ブレーキ。
鳥型の聖獣たちが激しいカーブを描いて義実へ殺到するのを、義実は『彼らは任せろ』のサインを出してイーリンたちに支援の不要をうったえた。
「さあ来い、怪物たち。この身を打ち砕けるか試してみると良い」
並々ならぬ再生能力を沸き立たせ、聖獣の群れを一部引き受ける義実。
その一方で、ジェニファーはケルベロスと共にイーリンたちへの攻撃に入っていた。
「うちの弟子が世話になったらしいわねぇ?ああ、私は『フィーア』。貴方と同じ『何番目かの生贄』よ」
イーリンは相手の気持ちをあおるようなことを言いながら『カリブルヌス・改』を発動。
紫苑の髪と紅玉の輝きをたたえた瞳をもって、激しい力の奔流を解き放つ。
ケルベロスは真っ向から咆哮をぶつけると、イーリンとケルベロスの間で激しい爆発が巻き起こった。
その上を飛び越え、ココロを狙い撃ちにしようとするジェニファー。
が、横から飛びかかったリュコスがジェニファーを抱える形で地面へと押し倒す。
「ねえ、ほんとうは旅人をころしていいかなやんでるんでしょ!? そうじゃなかったらあんなに苦しい顔しないもん!
『旅人は悪いことをする』そう言われたから! でも言われたことがやりたいことじゃないでしょ!?」
「離して!」
リュコスを至近距離で撃ち、翼を乱暴に羽ばたかせることで強制的に離脱するジェニファー。
「無理して苦しいウソを自分について……そんなのだめだよ! そんな気持ちで殺すなんて……悪いことやったらだめだよ! どんどんジェニファーが苦しくなっちゃうんだよ!」
「あなたに何が分かるって言うのよ。これ以上不幸な人を出さないために戦ってるのがわからないの!?」
「そんなの嘘だよ! いまやってることは、不幸な人をふやすことなんだよ!」
「憎しみを込めた人殺しでさらに憎しみを上塗りすれば、世界はもっと蝕まれて汚れていく。既に気がついてるんでしょ?」
あがる砂煙のなか、ココロがぎゅっと拳を握りしめる。
向けたライフルの銃口がぴたりとココロの胸をさし、しかし引き金にかけた指が震えた。
「わたし達はこの世界の希望を積み立てる為にこうやって来てるの。穢れを消すより、希望で上書きしていこう!」
「嘘よ、ウォーカーが居る限り、世界は……」
「分かってるよ」
話し合いで解決しようなんて、思ってない。
けど想いを想いとしてぶつけなきゃ、投げられた石とかわらない。
「まずは見せてあげる、ジェニファー。あなたが何を『間違えたのか』!」
ココロが地面へ手のひらを叩きつけた瞬間。地面を通して吹き出したエネルギーがジェニファーを包み込む。
あのとき、引き金をひくのを迷わなければ。
迷わなければ?
なぜ、迷った?
「私は、なにを、間違えたの……ネヴィア……」
優しい笑顔のルームメイトの顔がよぎって、光の中に意識は消えた。
●戦果
損害が無かったと言えば嘘になる。
が、そのかわりに得た者は大きかった。
攫われた民間人の救出と、倒した聖銃士ジェニファー・トールキンの捕獲に成功した。
ホテルに勤務していた少年兵たちは聖獣部隊と共に撤退してしまったが、きっとまたどこかで戦うことになるだろう。
ジェニファーへの対応はサントノーレへと任されることになるという。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――ホープス市民全員の救出と生存が確認されました。
――ジェニファー・トールキンの捕獲に成功しました。
GMコメント
■オーダー
・成功条件:ホープス市民2人以上救出、生存させる
・オプションA:ホープス市民をすべて発見し救出、生存させる
・オプションB:?????
■フィールド
Bグランドホテルは三階建ての大きなホテルです。
ここへ向かう道は曲がりくねった山道一本きりで、そちら側に広いベランダが設置されています。
アドラステイア少年兵がこの場所の警備をしており、こちらを発見した場合仲間や応援を呼び寄せつつ様々な角度から襲いかかってくるでしょう。
・潜入か強襲か
この作戦は、住民救出までの間は兵の目を盗んでこっそり潜入していくか、派手に正面から突っ込んでいくかのどちらかを選べます。
チームを複数に分けて陽動と潜入で分けるといったプレイも可能ですが、その場合戦力の集中がおこるので損害に注意してください。
入り口は正面にひとつ。裏に施錠されたものが一つ。
他にも窓などがありますが、警備兵は常に巡回しているので無人のタイミングを狙うのはあまり簡単ではありません。こっそり入るにも索敵や安全確認が必要でしょう。
部屋は沢山あり、特殊な力場が発生しているために透視スキルがあっても中身をのぞき見たり壁抜けするのが難しくなっています。
攫われた住民を見つけるには、ひとつひとつの部屋を確認する必要があるでしょう。
■エネミー
●ホテルの警備兵
・アドラステイア少年兵
旅人害悪説による洗脳教育をうけた少年兵たちです。
彼ら的には正義や信念や世界のためにローレット・イレギュラーズと戦います。
立場的にはウォーカーを多く抱え、大召喚にも深く関わっているローレットは憎き敵です。
●ホテルに差し向けられる応援戦力
・『雷桜の聖銃士』ジェニファー・トールキン
雷桜の称号をもつ聖銃士です。飛行と射撃による強襲を得意とし、スピードや機動力を武器に対象の抹殺を行います。
・低級聖獣
固有の名前を持たない聖獣たちです。鳥や犬等の動物をモチーフとした姿をしており、特徴も没個性的です。
数がとにかく沢山おり、その物量と勢いによって守りを食い破るという戦法が主となります。
序盤は範囲攻撃でぶっ放すのに向いていますが、浸透されてからは味方が群がられている前提でスキル選択をする必要があるかもしれません。
・聖獣『ケルベロス』
飛行能力と電撃系攻撃に優れた犬型聖獣。
身体から雷の翼が生えている他、頭が殻のようなものに覆われ全身がやや発光している。
雷を発生し操る能力を持ち、雷の翼を拡大させてなぎ払ったり特定の場所に雷爆弾を打ち込んだり、雷を壁にして防御したりと器用にたちまわります。
固体戦闘能力が高く飛行もするため注意が必要。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●独立都市アドラステイアとは
天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia
●聖銃士とは
キシェフを多く獲得した子供には『神の血』、そして称号と鎧が与えられ、聖銃士(セイクリッドマスケティア)となります。
鎧には気分を高揚させときには幻覚を見せる作用があるため、子供たちは聖なる力を得たと錯覚しています。
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