PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<希譚>ゾンビとヒヨコとお守りと<呪仔>

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 その日は、どんよりとした曇り空だった。
 希望ヶ浜石神地区。一言で表すならば『田舎』である。人間はちらほらとしかおらず、建っていても空き家ばかり。人口の流出は激しく、地区でひとつだけ学校がぽつんと立つ――そんな場所だ。そんな場所になぜか、8名のイレギュラーズは立っていた。
「この時期に肝試しですか……」
 はは、と乾いた笑みを浮かべるブラウ(p3n000090)。ひよこ姿でいたい彼も、流石に再現性東京では人の姿を取るらしい。おかげで普段より表情は分かりやすいが、彼は誰がどう見ても乗り気でなかった。
「いやいや、肝試しが怖いなんてそんな。だって僕、もうすぐ16歳になる訳ですし? ねぇ?」
 イレギュラーズたちの視線が刺さるからか言い訳をするが、やっぱり声は震えているのだ。
 さて、何故ブラウが再現性東京へ赴くことになったのか。そしてここに居る8名のイレギュラーズはどうして同行しているのか。それは『何故か』『いつのまにか』とあるお守りを持っていたからである。

 元々はと言えば、イレギュラーズたちは希望ヶ浜で別の依頼を受けていた。軽い調査依頼である。その帰り道でばったりと出くわしたのがブラウだった。
『依頼の下調べなんです。一緒に来てみますか?』
 誰かが興味を示していたかブラウはそう提案したのだが、今思えばあそこで乗らなければこんなことにはならなかった。しかし乗らなければブラウは行方知れずになっていたやもしれない。
 ブラウが赴こうとしていたのは現在いる希望ヶ浜石神地区。なんでもここでゾンビが出るらしい。というのもカフェ・ローレット――ローレット希望ヶ浜支店みたいなもの――へそれを倒して欲しいという依頼が舞い込み、ここ最近はその対応に人員が割かれているのだ。
 ここへ辿り着いた9名はゾンビ討伐に至らないまでもその規模を調査すべく歩き出した、は良いのだが。早々に1人が「なんだこれ」とお守りを皆の前へ出した。
 ある者は手に握り込んでいたり。
 ある者はポケットに入っていたり。
 またある者はカバンについていたり。
 発見される場所は様々であったが、最初の1人を皮切りに次々とお守りが見つかったのである。
 どうしてこんなものをに手にしているのかと皆が困惑していると、そこへゆらりと人影が近づいてくる。すわゾンビかと身構えるも、そこに立っていたのはヨボヨボの老婆だった。
「あんたたち、余所モンかい?」
 どうやら数少ない地元の住人らしい。老婆は一同が持っているお守りも見たことがあるようで、それを受けることができる神社の行き方も教えてくれた。
「そのへんに棄てるんじゃあないよ。バチが当たるってもんだ」
 ぶっきらぼうなその言葉も老婆なりの心配か。言うだけ言って去ってしまった老婆の背中を一同はぽかんとしながら見送った。
「……行きましょうか」
 ブラウがそう呟き、イレギュラーズたちものろのろと動き始める。ただでさえこの石神地区は『真性怪異』なる不可思議な存在がいるのだ。今回は調査なのだし必要な事が分かれば長居する必要もない。

 神社までの道のりはかなり簡単だった。なにせ『この道を真っすぐ歩くだけ』である。だがしかし――遠い。ものすっごく遠い。
 神社に着く頃にはすっかり日が暮れ、神聖であるはずの場所は不気味さを色濃く出している。ここで冒頭の発言に戻るのだ。
 この時期に肝試しですか、と。
 しかし返さなければ何が起こるか――何を持ち帰ってしまうか――わからない代物である。一同は意を決して足を踏み入れた。

GMコメント

●成功条件
 お守りを返納して脱出する事

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

●フィールド
 石神地区にぽつんとある神社です。夜です。
 『衝立神社』という名前でそれなりの広さがあるようですが、無人であるようです。生き物の存在も感じられません。長く放置されてきたのでしょう。
 神社のどこかに『古札収書』というお守りを返納できる場所があります。これを見つけ出し、返納して神社を脱出するまでが依頼です。
 神社なので突飛な施設はありません。手入れのされない地面は雑草が生い茂り、建物の中は埃が積もっています。明かりはありません。

 神が未だ残っているのかも怪しいですが【お守りを返さなければ何が起きるか分かりません】。

●エネミー
・ゾンビ
 典型的なあのゾンビです。ちょっと腐ってるみたいです。元人間であり動く屍。かみさまの狂気に触れてしまったモノ。
 神社に何体いるかは不明ですが、ふらりと現れて襲い掛かってきます。老若男女問わず、数は多いです。
 動きはそんなに素早くないですが、勢いつくと早いです。のろっと動き出して段々早くなる感じ。

●NPC
ブラウ(p3n000090)
 情報屋の少年です。ひよこの獣種ですが、現在は再現性東京にいることもあって人の姿を取っています。こんなこともあろうかと! ということで再現性東京らしく小さな懐中電灯を1つ持っています。
 それなりに不幸体質ですが、依頼成否の判定には関わってきません。彼の不幸は描写のフレーバー。
 ただし非戦闘員なので誰かが守ってくれないと死にます。

●ご挨拶
 愁と申します。ホラーは苦手です(n回目の告白)。
 無事に返納して脱出しましょう。
 ご縁がございましたらよろしくお願い致します。

  • <希譚>ゾンビとヒヨコとお守りと<呪仔>完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月09日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ニゼル=プラウ(p3p006774)
知らないこといっぱい
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
えくれあ(p3p009062)
ふわふわ
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
影縫・纏(p3p009426)
全国大会優勝
糸色 月夜(p3p009451)

リプレイ


「このお守り、なんだろーね?」
「すぐ返さないと何か良くないことが起こりそうって……『お守り』なのに?」
 一体どういう代物なのか―― 『ふわふわ』えくれあ(p3p009062)と『知らないこといっぱい』ニゼル=プラウ(p3p006774)は顔を見合わせる。寂れた神社の前でもこの2人はどこかマイペースだ。
「う、羨ましい……い、いえ、怖いわけじゃありませんからね!」
 思わず呟いたブラウ(p3n000090)はっとして周りへ弁明する、が『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)はそんな彼へぐっとサムズアップした。
「大丈夫大丈夫! 会長なんて今年で22歳になるのに肝試し怖いから!」
「あ、本当ですか? 実はやっぱり僕も怖くて――」
「――あの、肝試しって何ですか?」
 本音をこぼすブラウの横からニゼルが純粋な問いを発し。茄子子とブラウは驚愕の眼差しでニゼルを見た。それらの視線にニゼルは目をぱちぱちと瞬かせ、どうやらそれが一般的に知られていることらしいと知る。
(まだまだ知らないこと、いっぱいです)
 そんなニゼルへ肝試しについて教える2人。その傍らでそれを拝聴した糸色 月夜(p3p009451)はふう、と息をこぼして――。
「……こォンのクソガキィ!!」
「ぴぃーーーっ!!」
 ブラウをとっ捕まえた。より具体的に言うなれば頭のぴょんぴょん、と跳ねたアホ毛を。
「テメェ、今日の運勢きちんと見てきたかァ!?」
「そんなもの見なくったって僕の運勢が悪いのは分かりきってることです!」
「そこは自信満々に言うことじゃないが!?」
「ちょっ嫌だ抜かないでこの年でハゲたくない!!」
 引っこ抜きそうな勢いで力を込められたアホ毛の危機を察するブラウ。だが月夜にとってそんなものは二の次だ。今日は観たいテレビがあったと言うのに録画もできない。あそこでブラウについてこなければ――いやブラウが誘ってこなければ今頃帰宅してテレビの前で準備しているところである。
「肝を冷やすだけなら良いが」
 ぎゃいぎゃいと騒ぐ2人を他所に『全国大会優勝』影縫・纏(p3p009426)は神社を見上げる。こんなまだ肌寒い時期に肝試しだなんて、肝と一緒に腹まで冷やしかねない。
(とはいえ、こんなお守りでもちゃんと返納しないと何が起こるか分かったものではないな)
 纏は手にしたお守りへ視線を落とした。1人1つ、いつの間にか手にしていただなんて気味が悪い。この辺りにはゾンビが出るとブラウも言っていたが、ただのゾンビであれば脅威にもならないだろう。
 ――そこまでの数がここへ潜んでいなければ。
「ええと……衝立神社、ですか。衝立って目隠しとか仕切りとか?」
 『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)は読みづらいその文字を読み上げ首を傾げた。何故この名前なのだろう。
(何かの境目なのでしょうか? 何の?)
 わからないことはもっとある。お守りとは本来、持っていると守ってくれるものであるはずだ。それに神社とはかみさまがいるところ。
 だというのにこの場所は、こんなにも荒れ果てて。神は未だにいるのだろうか。いないのならば何がいるのだろうか。
「ニルは、わからないことがたくさんです」
「僕もですよ。なんとも不気味なシチュエーションです」
 『戦闘巧者』ヨハン=レーム(p3p001117)は廃れた神社を見上げる。棄ててはいけないお守りをいつの間にか所持している、だなんて普通に考えれば怪しい。しかし本当に神が残っていて、頑張って渡してくれたモノだというならば無下にするのもそれはそれで本当にバチあたりである。
「まぁ、まずは『古札収書』を発見できるかどうかですね」
「そうだよ、さっさとお守り返して帰ろう! お化けとかに遭いたくないよ!」
「うん! がんばってかえそうね!」
 茄子子の言葉に頷いたえくれあははい、と手をブラウへ差し伸べる。はぐれたら怖いから、一緒に手を繋ごうと。
「あ、それ怖くなさそう! でも皆でやったら両手が塞がっちゃうか! せめて固まって動こうね!」
 よろしく! と声は元気な茄子子。その足ががくがく震えてるって? 目の錯覚だよきっとメイビー。
 茄子子とえくれあの訴えにより、一同はぴったりと固まって動く。ニゼルがぼんやりと発光するとえくれあはわぁ、と目を輝かせた。
「ニゼルおにーさん、ぴかーってやってくれたら明るくてこわくないよ!」
「それなら良かったです。さあ、行きましょう」
 ふわりとニゼルは笑って、一歩を踏み出す。鳥居をくぐった『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は辺りを見回し、つと目を細めた。はっきりとはわからないけれど、なんとなく――。
(神様が寂しがってて、誰かに来てほしかったから……?)
 そんな気がする、と神と人の血を引く彼女は思った。だって、誰も、何もいなくて。手入れのひとつもされないで。ずっと独りぼっちで。
 けれど、まずはお守りを返さなくては。何かできるとしても、それからである。
「多分、帰りもこの辺りって通るよね?」
「そのはずだ」
 頷く纏に焔は視線を巡らせ、その辺りに落ちていた小石をいくつか拾い上げる。そして《神炎》で灯りをともし、道端へ転がした。これで帰りの道標になってくれるはずだ。燃えることもないからこの神域の神も許してくれることだろう。
(まだ、何もいなさそうかな……?)
 ブラウを囲いながら、自らを光源とするニゼルはきょろきょろと視線を巡らせる。皆がいるから灯りになっているけれど、これで敵にも気づかれてしまう様なら暗視にのみ頼った方が良いだろう。最初だけでもせめて、早く気づけるように。
「月夜おにーさんと纏おねーさんは、こわい人来たらわかるの?」
 すごい、とえくれあは感嘆の声を上げる。来たら教えて欲しいと言うえくれあに2人は頷いた。そこへそぅっと視線を向けるブラウ。月夜はそれに気付いて見返した。
「……その、すみませんでした」
「ア? 怒ってねェよ、安心しろ」
「えっ、怒ってないのに僕は毛を抜かれかけたんですか?」
「本当に抜いてやろうかテメェ」
 なんでもないです、と口を閉じるブラウ。月夜はその最中も敵の気配を探りつつ、目を眇めた。
 いるかいないか、と言われたらいるのだろう。エネミーサーチに引っかかってこそいないが、この神社は神域と呼べぬほどに気が淀んでいる。
(まァ、向かってくンなら蹴散らすまでだ)
 丁度テスト期間も終わったばかりの遊びたい、身体を動かしたい時期である。体を温めるには良いかもしれない。
「お守りが僕たちのところに来た理由ですけど……『古札収書』を探す過程で掃除も一緒に行って欲しいというモノだったり」
 しないか、とヨハンは荒れ果てた建物を見ながら呟く。手入れが全く行き届いていないこの場所は、もはや素人の手を加えた程度でどうにかなるものでもないだろう。大規模な修繕をすればどうにかなる『かもしれない』というレベルである。
(やっぱり、罠?)
 どれが正解でどれが深読みなのかも定かでない。考えるのは余所に、まずは全員で行って帰って来れるようにしなければ。
「あんまり離れすぎないでねー! 帰ってきた時人数違ったら会長泣いちゃうよ!」
「はーい!」
 茄子子の言葉に少し集団から逸れていたことに気付いたヨハン。戻るとニルが一緒に進みながらaPhoneを捜査していた。そういえばここは電波とか、どうなのだろう?
「辛うじて、少しだけ。時々圏外と出ます」
 繋がる時もあれば繋がらない時もある。そんな状態のようだ――と思っていると、唐突にニルのそれが鳴り始めた。一同がぴたりと動きを止め、視線が注がれる。ニルはこの場に全員いる事を確認し、かかってきた電話を出ずに切る。
 ただの悪戯電話なら良いが、そうであるにしろ夜妖などが絡んでいるにしろ電話に出て余計な事態を引き起こしたくない。それを見た一同は頷き、再び歩き出した。
「焔おねーさん、どうぶついないね」
「うーん……全然見当たらないね」
 えくれあの言葉に焔も辺りを見回す。というか先ほどからずっと探しているのだが、鼠1匹すら見かけない。何かしら野生化して住み着いていそうなものだが、植物たちだってまるで死んでしまったかのように静かだ。

 ――夜の帳が落ちてきているから、死んだように眠っているだけだろうか?

「ブラウ君、特に僕から離れちゃダメですよ。こんな残業で頑張っても資金出ませんから」
「サービス残業は嫌です……よくやりますけど」
 ぽそ、と付け足されるひと言。なんでも自分の不運に何かしら起こって余計な時間を取られることが多いのだとか。
「お、ここで参拝できるンのか。休憩したい奴ァいるか?」
 月夜は汚れたお賽銭入れと鈴を見て一同を振り返る。比較的開けていて見晴らしも良いし、周囲の監視は食わず寝ずの生活ができる月夜がやれば良い。
「会長は早くお守りを返して帰りたいかな! まだ大丈夫!」
「うん、ボクもいけるよ!」
 比較的余力があるらしい。ヨハンが資料がないか探したいと言い、一同は建物の中を覗くことにした。その殿を行く月夜はふと立ち止まり、薄汚れた参拝所で手を合わせる。このような場所に金を入れても取り出す者はなく、鈴もすっかり錆びれてしまっているけれど。
(俺でよけりゃ一応覚えておいてやる)
 神は不死ではない。神が死ぬのは――信仰を失い、人から忘れられた時だとも。ならば1人くらい、欠片なりともこの社に祀られていた神を覚えていてやらねばなるまい。
 一方の建物へ入った面々はホラーゲームよろしくゾンビに襲われた。建物内部と言うことで少なく、一同でめった打ちにしてやったが心臓は全力疾走中である。
「こっわ……」
 顔を引きつらせたブラウも無事である。ニルは神社が壊れてしまわないようにと保護結界を展開した。
「いきましょう、何かあるかもしれません」
 ヨハンを先頭に一同は中へ。追いついた月夜は入口の警戒にあたると外にいる。ぱちぱちとヨハンの身体から発せられる青白い電光が部屋を照らした。中は非常に埃っぽく、いくつかの書籍はあるものの非常に状態が悪いものばかり。
「わ、これくっついちゃってるよ」
「それは無理ですね……あ、バラバラになっちゃった」
「うーん……読めません」
 などとそれなりの苦労もあったものの、この神社が以前はかなり大きく、初詣には沢山の参拝客があったこなどは知れた。ついでに間取り図のようなものも見つかったが、かなり掠れている。
「どうにか読めそう……?」
「まあ、持っておいて損はないでしょう。そろそろ出ましょうか」
「案内板とかも探した方がいいかな?」
 と意見を躱しながら出てきた一同は月夜と合流し、再び古札収書を探す。不意に焔が「あれ?」と首を傾げた。
「ボクたち以外にも人が?」
「本当だ、危ないですよって声かけなきゃ――」
「待ってブラウくん、あれはゾンビだよ!」
 焔が引き留めるより先に月夜がブラウの首根っこをむんずと掴む。同時にソレが光源のいる一同へ向いた。
「わあ! 一旦消します!」
「うわぁまた見えちゃった! 怖いキモイ無理!!」
 光を消すニゼル。悲鳴を上げる茄子子。えくれあはすかさず仲間を鼓舞し、ヨハンはブラウを守る為そばにつく。
(最近は騎士というより魔術師なのですが――まぁ守ってあげましょう)
 サンクチュアリを展開するヨハンの前方で、焔は火炎弾を飛ばす。接近されればヨハンにとて限界はやってくる。ならば近づかれる前に滅するのみ!
 その弾を追いかけるように纏のマジックミサイルが飛んでいく。しかしその戦闘音に少しずつ、他のゾンビも湧き出てきているようだ。
「がんばれー! いけ! そこだー!」
 茄子子は皆の力を高めるべく声を出し、能力を引き出せる位置へ――勿論守ってもらえそうな位置で――移動する。焔は迎撃しながら一同へ声を張った。
「皆、少しずつ動こう! ここで戦い続けてたら終わらないかもっ」
「それがいいね! 会長も限界があるからね!」
 余裕のあるタイミングでじりじり移動しながら迎撃を続けるイレギュラーズたち。ニゼルは「ごめんなさい!」と言いながら魔力を放出する。少しずつ近づかれこそしたものの、そこまでの怪我もなくゾンビの第一波を乗り切った一同はほっと息をついた。
「深追いは良くないですね」
 スティールライフでゾンビの動きを止めたニルは、更にその先の暗闇を見る。暗視でも非常に見えにくい闇。ゾンビの掃討が目的でない今、皆と離れるのは得策でない。
「いっぱい、いましたね……」
 ほうと息をつくニゼル。まだ潜んでいるのだろうけれど、それでも沢山いたと思う。それだけの人間が死んだということなのか。
「ヨハンくん、見つかりそう?」
「ええ、大分絞れましたよ。ここまで見当たりませんでしたし、間取り図のこのあたりは掠れていないみたいですから」
 ヨハンの示すままに移動を始める一同。途中で再びゾンビたちに出くわすが、もう止まっている場合じゃない。再び遠距離から攻撃する焔と共にヨハンは神気閃光でゾンビたちを圧倒する。
(多くなってきましたね。何か、何かしらの策を)
 深呼吸して、横合いから近づいてきたゾンビの攻撃からブラウを庇い。どこまでも冷静たれとヨハンは自分を律する。
「こっちくるな!」
 ファントムチェイサーで牽制した茄子子の前へ月夜が躍り出る。ここまで多ければ名乗り口上もさぞかし活躍することだろう。
(大事な情報屋に傷つけるわけにゃいかねェからな)
 あちらはヨハンがいる。ならば自身は敵をなるべくあちらへ向けないことが仕事だ。月夜は血しぶきを鋭く硬質化させてゾンビへ叩きつけた。
「っ……」
 ゾンビの振り下ろされた腕で強かに打たれたニゼルは、しかし意識が暗転する直前に意志を燃やす――可能性を起こす。こんなところで倒れる訳にはいかないから!
「どうか、これで……土塊に還ってください!」
 震えた足に力を込めると同時、茄子子からヒールが飛んでくる。持ち直したニゼルは近づいてきたゾンビへ聖なる光を撃ち込んだ。動きを止め、さらさらと消えて行くゾンビ。それに「おやすみなさい」と告げ、ニゼルは別のゾンビへ向けて魔力を練り上げた。
「次は――そちらか」
 耳を澄ませ、新たな敵の存在を感知する纏。後方からもやってくる敵を格闘術でのし、更に次と視線を走らせたところでニルが一網打尽にする。しかし動きの悪くなってきた一同に気付いたえくれあは仲間たちの中央へ走っていくと超分析でそれを緩和させた。
「もうすこしだよ!」
 ゾンビの第二波を乗り切った一同は休む間もなく進む。ニルはボタンで留められるポケットの中にお守りが入っていることを確認した。

「あったー!」
 二度のゾンビパニックを越え、今にも消えそうな文字で書かれた古札収書を見つけた一同は明らかにほっと息をついた。返したらようやく帰れる。
「さあさっさと帰ろう!」
 一番乗りで返した茄子子はウキウキだ。ニゼルは周囲の警戒をするためブラウへ一緒に返して欲しいとお守りを差し出す。
「はい、返しておきますね!」
 受け取るブラウ。その後ろでえくれあとニルはお守りの返し方を調べてその通りに返した。ニルは恐々とそこを見つめる。
(何も……起きない?)
 本当に何も起きないのなら良いのだが、行きはよいよい帰りはこわいと謡うわらべうたもある。気を緩めてはならないと思っているのは皆同じようだ。
「安心して戻る道こそ、なンか追ってくるのがホラー鉄板」
「ひえっ、なんてこと言うんですか」
 声を震わせるブラウに月夜の呆れた視線が向けられる。そうやって油断していると来るんだぞ、と。
 まあ、何が追ってくるかと言えば――。
「ゾンビだよね! 皆、急いで!」
 焔がここまで残した灯りを手掛かりに入口へと戻る一同。殿をつとめる月夜や遠距離攻撃を持つ纏、ニゼルなどがゾンビを牽制して距離を離していく。神社自体の広さも相まって入口へ戻る頃には十分引き離せたようだった。
「もう、おってきてない?」
「はい。ニルにも見えないくらい、遠いところまで」
 えくれあの問いにニルが頷く。ニゼルはぐったりとした表情で今しがたくぐった鳥居を見上げた。
(結局お守りを僕らに渡したのは誰なのかな? 何がしたかったんだろう……?)
 ゾンビを倒して気を滅入らせたかった、なんて理由だったら悪趣味だ。
「あのゾンビたちもなんだったんだろう……」
 焔は神社の奥へ目を凝らすが、もうあの影は見えてこない。あれは天罰によるなれの果てなのか、それとも全く別の要因か。
 ふるりと震えた焔は頭を振った。何はともあれ、神社がここまで荒れてしまっている光景は見るに忍びない。あのゾンビたちがいなくなったら出来る範囲で掃除などしに来てみようか。
「何はともあれお守り返せたし帰ろう! 無事に帰りついて布団で寝るまでが遠足だからね!!」
「あれ、これって遠足でしたっけ……?」
「僕、今日寝られるかな……」
 茄子子の言葉にヨハンは首を傾げ、ブラウは暗い顔で呟いたけれども。
 ひとまずは――完、である。

成否

成功

MVP

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ!
 一体何だったのでしょうね……。

 それでは、またのご縁がございましたらよろしくお願い致します。

PAGETOPPAGEBOTTOM