PandoraPartyProject

シナリオ詳細

海の巨大嚢

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『海洋』首都リッツパークの港にて
「大変だ……船が、変な化け物に乗っ取られちまった!」
 港に泳ぎついた精悍な海種の男は、自らが乗っていた商船に起こったことを伝えると長距離遊泳の疲労から気を失った。

 事の起こりは今日の朝、母港まであと少しとなった頃だ。長い交易の旅の終わりを間近に控えたロブスター号は、急に舵が利かなくなった。
 どこかが故障したのだろうか、それとも海藻か何かが絡んだか。海種は船底を、それ以外の者は船の中を調べたが……その時彼らは、船底にがっちりと食いこんだ、不気味な『袋』を発見したのだ。

 ジャイアント・リゾセファラ。すなわち巨大フクロムシ。
 知っている者もいるだろう、フクロムシは寄生性の甲殻類であり、通常は同じ甲殻類のカニなどの体に寄生、宿主の行動を操って自らの繁殖を手助けさせる。
 が……ジャイアント・リゾセファラの宿主はカニだけじゃない。なんと船も乗っ取って、繁殖に都合のいい海域まで泳がせてしまうのだ! 船幽霊の仕業とされている事件の一部は彼らが原因だという説を一部の賢者たちが提唱していることは、博物学に造詣の深い者であれば知っているかもしれない。
 そのせいでロブスター号は沈没の危機にある。ジャイアント・リゾセファラは船体に食いこむように成長をするのだが、その寿命は決して長くない。一気に巨大化し、大量の卵を放出した後は死んでしまい、じきに船体から剥がれ落ちてゆく。もちろん、その後の船体は穴だらけ……最悪ではバラバラに砕けてしまう。

●ローレットにて
「その前に、船を救出してほしいのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はそう言った。そんな通報を受けた『海洋』の海上警備隊は、大規模召喚の影響か事件続きの周辺海域の警護に追われており、たった1隻のために貴重な戦力を割くわけにはいかない。そこで海洋貴族ソルベ・ジェラート・コンテュールの意向もあって、依頼がローレットに出されたのだという。
「状況は……そこまで緊急というわけでもないのですが、もたもたしてはいられないのです」
 そう語るユリーカによると、ジャイアント・リゾセファラは今は成長している最中。今なら倒してもすぐに船が沈むほどではないようだ。
 が……問題は、ロブスター号の周囲にはジャイアント・リゾセファラの卵嚢が大きく広がっているということ。近づくための船は手配済みだが接舷することはできないので、どうにかロブスター号に渡る方法を考えなくてはならないのだ。
「ただ、一旦渡ってしまえばそんなに困らないのです。というのもジャイアント・リゾセファラ、特に攻撃手段はないので……」
 それに依頼人の話によれば、最悪、船や積荷は諦めてもいいらしい。経験ある水夫たちを失うほうが、最終的にはよっぽど高くつく。
 なので、そんなに無茶はしないでほしいとつけ加えてから、ユリーカは集まる特異運命座標たちにぺこりと頭を下げるのだった。

GMコメント

 節足動物のくせに節も足もない謎生物、フクロムシ。
 どうも皆様、るうでございます。彼らの甲殻類やめました感は実は嫌いじゃありません。

●ロブスター号のジャイアント・リゾセファラ
 ロブスター号にとり付いた種のジャイアント・リゾセファラの卵嚢は、半径10m以上にもなります。卵嚢は海に浮かんでおり、プールの上にビニールを張ったような、立つことも泳ぐこともできない状態になっています(這うくらいなら可)。
 ジャイアント・リゾセファラの本体はロブスター号の船底の下にあり、それを破壊しない限りロブスター号のコントロールはとり戻せません。

●ロブスター号救出のための方法案
 どの方法を使っても救出できますし、もしかしたら他にもいい方法があるかもしれません。メンバー次第で取れる方法は変わってくると思います。

(1) 乗りこむ→本体破壊→船底修理
 どうにかロブスター号に乗りこんだ後、船底ごとジャイアント・リゾセファラを倒し、すぐさま壊した船底を塞ぎます。修理材料と道具の用意は依頼人がしてくれますが、材料のロブスター号への移動と修理作業は皆様の手で行なう必要があります。修理用のクラスやエスプリがない場合、ひどく水漏れしてしまうでしょう。

(2) 潜水→本体破壊→船体補修
 できる人は限られていますが、当然、水中から本体を破壊することもできます。ただし周囲にサメがいたりもするので気をつけてください。
 その後弱った船体を簡単に補修しておけば、沈没の心配はなくなるでしょう。

(3) 人だけ助ける
 どうしてもどうにもならない時は、ロブスター号の乗員だけを救出できれば十分です。彼らは卵嚢を不気味がっているので、彼らに卵嚢の上を這わせる場合、何も害がないと説得してやる必要はありますが。
 この方法では大成功以上の結果になることはありませんし、MVPや称号も出ません。

●Danger!
 救出に向かう船にはロープ等が用意されているのでまず起こらないとは思いますが、泳げない人が無謀なことをした上に誰も助けにいけなかったりすると、パンドラ残量に拠らず死亡してしまう可能性があります。
 わざわざ警告する必要もないと思いますが念のため。

  • 海の巨大嚢完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月04日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
ジェーリー・マリーシュ(p3p004737)
くらげの魔女
ミラーカ・マギノ(p3p005124)
森よりの刺客

リプレイ

●海原の彼方に
 特異運命座標らと船体補修用の資材をたっぷりと乗せて、救助の船は海原をゆく。
 空は晴れ、危険な天候の予兆など何ひとつない。陸はとうの昔に彼方に過ぎ去って、海の中でも魚やらサメやらトビンガルーやらが、気分よさそうに泳ぎ回っている。
 そこには、『くらげの魔女』ジェーリー・マリーシュ(p3p004737)が長年――そうだ、外見こそ儚げな少女ではあるが、姿からは想像もできぬほどの歳月だ――見てきた海が広がっていた。けれども昨今の海はといえば、それとは少し違うよう。
「……まぁ、昔も平和な海というわけでもなかったけれど、最近は前よりも大荒れね……。もう少し静かになるように、お婆ちゃんも手伝ってあげるわ!」
 舳先に立ち、まるで抱擁するように両手を広げる彼女の視線の先の波間には、ぽつんと小さな点が浮かんでいた。それが次第に近づいてくるにつれ、点とその周囲の海の様子が、次第に皆の目に明らかになってゆく。
(あらまあ、中々楽しい状況で)
 『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)の目が細められた。
 ジャイアント・リゾセファラとやら、甲殻類ではなく船に寄生するとは、随分とひねくれた生き物のようだ。そればかりか今の彼女は、卵嚢があまりに巨大になりすぎて、せっかく乗っとった船の速度を彼女自身で殺してしまいっているように見える。ルーキスが心配していたような、すばしっこい逃げ足はありそうにない。
 だからロブスター号への接近は、今のところ順調に進んでいるかのように見えた。いや、実際に何もかもが順調であったし、今後もそれが続くだろうことは間違いとも思われたのだ。
 ……その光景を目の当たりにするまでは。

●船を喰らう怪異
 かぷかぷわらう かわいいこ
 いったいおまえは なぜおどる
 ははのこころが わかるのか
 ぷかぷかうかぶ いとしいこ
 ぜんたいおまえの むいみさに
 おそれをいだく ははのめよ

 『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)の奇妙な歌が、その海の上に響くのだった。奏でる声は美しく、しかし囁く歌詞の意味を思えば、どことなく慄然たる何かを感じさせられる。それはまさしく目の前の光景と、不可思議なシンクロを見せていたようにも思われるのだ。

 まるで海原の一角が、ロブスター号を中心に膿んだかのようだった。
 周囲一面に広がっている、柔らかで黄色い卵嚢の膜。命を育むはずのその機能とは対照的な、死の国を思わせる光景は、なるほど『ドゥース&デセール』ミラーカ・マギノ(p3p005124)が思うに、迷信深い船乗りを恐怖に陥れたとしてもおかしくはあるまい。最初から正体の説明を受けており、危険性も倒し方も判っているはずの『落ちぶれ吸血鬼』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)ですら、ただでさえ不機嫌そうな表情をさらに不快げに歪ませるのだから。
「……無抵抗の虫けらなんて、不備がなければなんとかなるでしょう……」
 そんなことを小声で呟いていたりはするが、彼女がただでさえ好きというわけでもない海をますます嫌いになりそうだということは、本人に訊かずともよく見てとれた。
「船を惑わす呼び声の正体にしては情緒ないのが原因よね。やっぱり、もっと海の魔女とか美しい人魚とか……ごほん」
 言いかけてから意識をロブスター号に向け直したミラーカの趣味が一瞬露見しかけた気がしたのはひとまず置いとくとして、言葉だけ聞けば幽玄の美を感じる『船幽霊』とのギャップが気になったのは彼女だけじゃない。
「わかるわかる! 冒険譚では結構見るわよね船幽霊。でも……ここまで見た目のインパクトがあると、原因が判ってもロマンが薄れる気がしないわね」
 『白銀の大狼』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)が、やけに楽しげにはしゃいでいた。彼女は未知の存在の正体が判明して安全を確保できるようになる代償は、そこに畏れとともに抱いていたロマンだと考えていたタイプだが……うん。この巨大フクロムシの場合、これはこれで変なロマンが生まれそうな気がする。
 その別のロマンとやらは、この青い海のどこかにいるはずの、船に匹敵する巨大甲殻類の存在のせいで生まれるものなのではないかと、ふと『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は思わないでもなかった。実際、どこかに巨大ガニと死闘をくり広げる英雄譚はありそうだったし、それはきっとミニュイの耳を楽しませてくれたろう。
 だが、未知なる冒険に思いを馳せる時は、今じゃない。
「まずは向こうの船に行ってくるよ。その間、資材の準備をよろしく」
 それだけ言いのこしてミニュイが翼を広げれば、「は、はい!」と背筋を伸ばして答える『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)。単純な特異運命座標としての経験だけで言えば決して乏しいわけではないのに、どうしてか頭の中にあるのは、足手まといにならないようにしないと、という心配だ。
「飛ぶか泳ぐかできればよかったんですけどね」
 それが彼女の悩みの原因だ。だが彼女に、悩む時間はそう残されていない……何故ならルーミニスの楽しげな声が、彼女に仕事を急かすからだ!
「フフフ……誰が一番多く運べるか勝負よ! 甲板まで持ってくるだけでも部分点にしましょうか!」
「あっ、待ってください! わたしは向こうの船の人に協力をお願いしてくる仕事が……きゃー!?」
 どんがらがっしゃーん。
 その時、利香のドジっ子属性が、この上ない形で発揮されたのだった。
 足元のロープを踏んづけた哀れな利香は、あられもない姿で頭から甲板にダイブした。

●海の上のロブスター
 そんな騒ぎは、隣接するロブスター号の船内にまで聞こえていたらしい。ちらほらと船室から姿を現した、今まではできることもなく死を待つばかりだった船員たち。利香をロープで吊るしてやってきた飛行隊の先頭で、ミニュイは彼らを見おろしながら軽く頭を下げてみせる。
 わき立つ船員たちの声。
「救助隊だ……!」
「カインの野郎、あの距離を何にも襲われずに陸まで泳ぎきったのか……!」
 そんな歓声が響く中、その間からひときわ立派な身なりの男が進み出てきて、空と救助船に向けて呼びかけた。
「俺はこの『ロブスター号』の船長、シュリンプ・スカーレットだ! 貴船による勇敢な救助作戦に、この船を代表して感謝を述べさせてくれ! 船員たちは、船がいつ沈むかと不安に晒されている。一刻も早く、皆を安全な貴船に収容していただきたい!」
 それができればどれだけいいことか。ふわふわとロブスター号に降り立ったクローネは、ジト目で船の上を見まわした。
 ……早く終わらせたい……。
 でも、できれば船ごと帰してほしいというのが依頼人の意向であるなら、それを無視するわけにもいかないのが困ったところだ。
「……一応は、下のを落としたら補修するつもりでいるッス……」
「なんだと!? 船も助かるのか!!」
 伝えたら大喜びしあっている船長と船員たちに付きあう時間も勿体ないとばかりに、彼女は一緒に抱えてきた道具を彼らへと押しつけた。それから……。
「……船との心中は御免蒙るので、修理資材もたくさん持ってくるっす……」
「じゃあ、やってくる」
 いちど利香をロブスター号に置いた後、ミニュイは再び翼を広げ、元いた船へととんぼ返りする。
 2度、3度。往復をくり返しながら荷物を運んでゆくのは、多くはそこまで苦じゃないが……ふと気づく。この、大きすぎて抱えて飛べない板は、どうやって運べばいいだろう?
「それは外から打ちつける板だから、後で海に落としてくれればいいわ。といっても私も直しかたはよく知らないし、指示は出してもらわなくっちゃいけないけれどね」
 ジェーリーがそんな答えを返すと、ミニュイはこくりと頷いた。そして最後の道具をロブスター号へと運んでいった頃には……そこではミラーカと利香による、船員たちへの講義が始まっていた。

●ロブスター号補修作戦
「……そういうわけで船の下の気味悪いのは、つまりはタダのでっかい虫。迷信深い人もいるかもしれないけど、恐ろしい予兆でも何でもなくて、ただの魔物よ」
「おいおい、結局は魔物じゃねえか!」
「大丈夫ですよ! ですので、落ちついて行動ください! 船も皆様もしっかり守るために私たちは来ましたから!」
 ミラーカの講釈を聞いていた船員が思わず悲鳴を上げれば、自分のほうがよっぽど落ちつきのない宥めかたを見せる利香。そして、すぐに自分でもそのことに気がついたのか慌てて赤面するさまが、また船員たちの張りつめた空気を緩ませる。
「安心しろよ! 別にその部分は疑っちゃいねぇ!」
「船まで助かるのなら願ってもない! 俺たちにもできることをさせてくれ」
 海に関することなら自負のあるはずの船乗りたちが……思わず自らの運命を特異運命座標らに委ねた。ならば彼らのその覚悟、いざ、ミラーカの演説において奮わせてみせん!
「それでいいわ! 屈強な船乗りが、虫ごときにビビってんじゃないわよ! 船は船乗りの寄る辺、家でしょ? 自分の家を守るため、手が空いてる人は手伝ってもらっていい?」
「当たり前だ!」
「俺らが俺らの家を守らずして、誰が守ってくれるってんだ!!」

 ロブスター号の盛りあがりと時を同じくし、救助船の上でもまた新たな作戦が発動しはじめていた。
 海面に顔を突っこんで、何やら水を波立てたカタラァナが、すぐに顔を上げて新たな唄を語る。
「音の感じだと、フクロムシの下に、大きな魚が何匹か。たぶんサメ。フクロムシを食べにきたのかな? あんまりおいしくないから、僕はカニにくっついてるとガッカリするけど」
 すると不敵に笑んだルーミニスの手から、何かが海へと投げこまれていった。
「だったら……美味しい肉や魚を食べさせてあげるわ。それとも……もっと新鮮な血のほうがいい?」
 さらに、躊躇いなく自身の手を傷つけたなら、それを染みこませたタオルを一緒に海へと投げ入れる!
 血を流しただけの甲斐はあったらしい。幾らかのサメがそちらに惹かれて泳ぎはじめる。
 もっとも……それだけで全てのサメを惹きつけたわけじゃないと、カタラァナのソナー感覚は語る。その後も続けて幾人かがルーミニスと同様に新鮮な血の匂いを海に垂らすが、一番大きな獲物はミラーカだったかもしれない……本人の言では「あたしはメイドさん(※式神)にサメを釣らせるために戻っただけだから!」とのことだが。
 けれど、それが完全にサメを排除する策ではないことはハナから承知済み。
「さあさあ、慌しい除去のお時間」
 クローネに再生の術をかけられるのを待って、ルーキスは海種たち2人とともに、次々に海へと飛びこんでゆく。サメの一部が縄張りを侵す者らに気づき、襲いかかってはくるが……カタラァナの歌声が生むのは指向性の超音波! サメは痙攣しはじめたものの、別の1匹が別の角度から!
 だが、ルーキスの青い翼が水中で開いたと思ったら、漆黒の翼持てし狼が現れてサメへと喰らいついた。
 無論、通常の狼にはあらず。それはルーキスが術にて招来した悪魔、グラーシャ・ラボラス。敵をひき裂き蹂躙する爪牙!
「……水の中でも威力は問題なし。いやはや悪魔様々ってね」
 ルーキスが地上に遣ったカラスによれば、そちらは問題は特になし。あとはこちらさえ仕事を終えれば、晴れて修理にとりかかれるという寸法だ。
 が……その時離れていたはずのサメたちの中に、興奮しはじめたものが現れた。……血だ。悪魔は力を与えた代償として、ルーキスに試練をもたらさんとするのか。
 だがサメたちが騒ぎだしたのと時を同じくし、救助船の周囲に別の血の香が漂った。
 サメたちが憎々しげに見あげれば、そこには周囲を旋回するミニュイの影。翼から撃たれる弾丸と化した羽根は、不用意に海上に背を見せたサメを、新たな血の囮へと変えてゆく。さらにルーミニスのバリスタが、捕鯨銛のごとく彼らへと刺さる!
「殺したいわけではないんだけどね。懲りたら逃げていってくれると助かる」
 だが、そんなミニュイの願いとは裏腹に、サメはますます大暴れしはじめるばかりだった。
「水のせいで威力が出ないなら、その分多めに吹き飛ばしてやるわ!」
 ミラーカの魔力が水中に衝撃波を生んで。
「餌ならこっちにありますよ!」
 利香の放ったトビンガルーが、ルーキスらの代わりに興奮したサメの餌食となって――。

●沈みゆく命
 そんな戦いがくり広げられる中……ジェーリーはそっと彼女に触れた。
「あらあら。この船をよほど気に入ってしまったのかしら? ……でもダメよ、皆怖がってるわ……離してあげてね」
 けれども、ジャイアント・リゾセファラは答えない。決して答えるわけがないのだ……離せば、死ぬのは彼女自身なのだから。
 彼女は、ジェーリーに何もしない。なのに彼女は、死なねばならない。
「……ごめんなさいね」
 ジェーリーの放った術の力は、彼女をいとも容易く傷つけた。ロブスター号の船体がみしみしと軋み、まるで彼女の代わりに悲鳴を上げているかのよう……けれどもそれも、カタラァナが超音波を船体状況の診断に使い、破壊すべき場所とそうでない場所を明らかにした後は、大きくな音を立てることはなくなる。
 じきに……彼女は命を閉じた。同時に、サメたちとの戦いも終わりを告げる。
「あー、サメのヒレって美味しいんだっけ?」
 翼を何箇所も血で染めたルーキスの捕食者の笑みの隣を、千切れた卵嚢が落ちてくる。奪うようにそれに噛みつき逃げてゆくサメを見送って、帰ったら美味しいものが食べたいなぁと独りごちるルーキス。
 別のサメのロレンチーニ器官を殴りつけ、驚いて逃げだすサメの後姿に、かわいいね、と微笑みかけてみせるカタラァナ。ふり向けばジャイアント・リゾセファラの本体が深い海の底へと沈んでゆくが、全てを運命に委ねるさまもまたフクロムシの潔さだとカタラァナは思う。彼女が求める綺麗さとは違うけれども。

 何にせよ、こうしてジャイアント・リゾセファラは倒されたのだ。彼女と、彼女を追って深海に向かったサメたちのはるか頭上からは、船乗りたちの歓声が響いてきた。

●生還を祝して
「そんなわけで、速やかに修理を手伝ってほしいッス……本体が死んで根が腐ったせいで沈没したとか、シャレにならないッス」
 クローネにそんなふうに急かされていたというのに、船員たちの表情は陽気そうだった。
「おうともよ! この船を守るのは俺たちだからな!」
「せっかく舵が効くようになったのに、修理不足で沈ませちゃあ勿体ねぇ!」
 この船の隅々までを熟知しているのは彼らだ。応急修理の陣頭指揮を取れるのは彼らしかいない……その事実が俄然、彼らをやる気にさせる!

「……浸水箇所を見つけたッス。この際地面の見えるとこなんて贅沢は言わないッスから、せめてアタシが救助船に戻るまで保って欲しいッス」
「安心していいわ! あたしとメイドさんの力でバケツリレーすれば……バケツが足りなーい!」
「持ってくるよ。他にも補修に必要なものがあれば」
「おっと、それには及ばねぇぜ! 簡単なものなら当然、ロブスター号にも配備済みだ!」
「運びます! 体力だけは自慢ですから……あれー!? なんでこんなとこにロープが!?」
「反響の感じだと、このへんに深い傷」
「任せなさい。材木を当てるくらいはお婆ちゃんにだってできるわよ」
「修理が終わったらみんなで酒盛りよー! 船乗りさんたちも一緒にどーう? 一度は怖い思いしたかもしれないけど、今なら武勇伝として笑いとばせるんじゃないかしら? 『船幽霊』から生きのびたって! ……あ、その前にはいバケツ」
「お酒より海の幸が食べたいなぁ! さーすがに、あれだけ齧られたら肉が足りないもの」

 船は、次第に航路へと復帰する。不恰好な修理のせいで、かつてほどの速度は出ずといえども、数日もすれば今度こそ、本当に母港に戻れるに違いなかった。
 特異運命座標たちは……やり遂げたのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 そんなわけでロブスター号は、無事にリッツパークまで戻ることができました。
 もっともロブスター号の完全復活のためには、改めて大がかりな修理が必要にはなるのでしょうが。
 しかし、再び彼女が海原を進む日を夢見ることができるのも、船員と積荷が無事だったお蔭で間違いありません。
 皆様、お力添えありがとうございました!

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