PandoraPartyProject

シナリオ詳細

さよならを告げる女。或いは、絵画争奪戦…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●さよならを告げる女
『空から月の消える夜、ゲルニカの絵画“さよならを告げる女”をいただきに参上する』

 幻想の地にある美術館“異界の月”に届いた予告状である。
 ガラスのボトルに入れられた状態で送られて来たことから、異界の月のオーナーはそれが怪盗“グラース”からの予告状であると判断した。
 その日から“異界の月”は臨時閉館。
 警備の人数も増強し、まさに鼠一匹出入りできない状態となっているのであった。

 さて、まるで要塞か何かのような有様となった美術館を前にして、1人の画家が途方に暮れる。
 その者の名は“ゲルニカ”。
 厚手のコートに身を包み、極彩色に染めた髪を背中でくくったその容姿は男とも女とも区別が付かない。
 どこか遠くを、ともするとこの世ではないどこかを覗き込むかのような眼差しをしているのが酷く印象的だった。
 片手に提げた鞄には絵の具や筆が山と詰め込まれているようだ。
 背に負った大きな布の袋の中にあるのは旅の途中で描いた絵や、未使用のキャンバスなどであろう。
「参ったな。あの絵を回収したいのだけど……」
 どうしたものか、と首を傾げてゲルニカはそう呟いた。
「オーナーには連絡が付かないし、そもそも交渉したところで絵を返してもらえるものとも思えない」
 絵の具に塗れた指をそっと顎に添え、ゲルニカは頭を悩ませる。
 ゲルニカがこの地を訪れたのは「自分の描いた絵を返してもらうため」だった。
 それというのも、各地でゲルニカの描いた絵が“不幸を呼ぶ絵”として悪名を高めているためである。
 なるほど確かに、死と破滅、廃退、廃墟、終焉などをモチーフとしたゲルニカの絵は、観る者の不安を煽るひどく不気味でほの暗いものばかりであった。
 異界の月の一等大きな展示室に飾られている“さよならを告げる女”もその1枚だ。
 それは、人から異形の怪物へと変異する女性を描いた絵画。
 数年前、展示会に出品したそれを購入したのが、異界の月のオーナーであるというわけだ。
「単なる噂であれば良いが……事実、死者も出ているそうだしな」
 自分の描いた絵で誰かが不幸な目に遭うというのなら、作者の責任として絵画を回収ないしは破棄するべきだろう。
 そう考えたゲルニカは、世に流通する自身の絵画を回収するための旅を続けているのだが……。
「なかなか思うようにはいかないものだな。怪盗グラースとやらの手に渡っては、在処も不明になるだろうし……どうしたものか」
 なんて、1人悩むゲルニカの背後。
 青い髪の少女が通りかかったのは、偶然か、はたまた運命であっただろうか。

●絵画争奪戦?
「大きな声では言えないのですが……皆さん、夜の美術館に行ってみたくないですか?」
 声を潜めてそう語る『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の目は座っていた。
 夜の美術館に忍び込む。
 ましてや、現在休館中の美術館である。
 言うまでもなく違法であろう。
「と、まぁ冗談はこのぐらいにして。実のところ、ゲルニカさんの絵を放置しておくと少々問題になりかねません」
 噂の通り、ゲルニカの絵は持ち主を不幸にするのである。
 ある種の呪物と言えばよいか。
 ゲルニカの絵には、それほどの可能性が秘められているのだ。
「と言うわけで、混乱に乗じてゲルニカさんの絵を回収してきてほしいのです」
 美術館の警備は厳重。
 各所に配置された警備員の数は、予備も含めれば40名を超えるだろう。
「美術館のルートは単純なものだ。入口を入ってすぐの場所にロビー。その先で左、正面、右と3つにルートが分岐している」
 3つのルートのどれを選んでも、最終的には最奥の階段に辿り着く。
 階段を上った2階にはルート分岐はなく、ただ直進するばかり。
 2階には主に絵画が飾られているという。
「窓なんかもあるけど、どれも鉄格子が嵌められているみたいです。また【透過】などで壁をすり抜けられないように魔術的な仕掛けもほどこされているそうで」
 さらに、どこかにある警備員詰め所では、館内のすべてを監視することが可能となっている。
 一たび発見されてしまえば、あちこちから警備員がその場に集まって来るだろう。 
「それから怪盗“グラース”なる人物の動向にも気を配る必要があるです」
 怪盗グラースがどのような容姿をしているのか。
 また、男か女かさえも不明だ。
 これまで多くの芸術品を盗んだそうなので、盗人としての腕はなるほど確かなのだろう。
「人を殺したことは無いそうですが、警備の者が【封印】や【石化】状態で発見されたことはあるそうです。詳しいことは不明ですが、何らかの薬物によるものみたいですね」
 つまり、一切の戦闘能力を持たないというわけでは無いようだ。
 とはいえ、好戦的な性格で無いことは明白。
 怪我人はいても、これまで死者は出ていないのだ。
 最も、グラースの命に危険が迫れば、その限りではないのだろうが……。
 誰だって自分の命が一等大事だ。
 それは生物として当然の本能なのだから。
「それと変装の達人という噂もありますね。まぁ、どちらにせよグラースとの遭遇は免れないでしょうね」
 つまるところ、これは絵画争奪戦だ。
 警備員たちの守りを掻い潜り、グラースと絵画を奪い合う。
「皆さん、仕事の時間です」
 ふふふ、とどこか仄暗い笑みを浮かべてユリーカは肩をくっくと揺らす。
 つい最近、怪盗が主人公の物語など読んだらしい。

GMコメント

●ミッション
絵画“さよならを告げる女”を回収し、ゲルニカに届ける。
 
●ターゲット

・ゲルニカ
旅の画家。
長い髪を後ろでひとつに括っている。中性的な見た目をしており、性別不詳。
死と破滅、廃退、廃墟、終焉などをモチーフとした絵を得意とする。
つい昨今、各地でゲルニカの絵が“不幸を呼ぶ絵”として噂されはじめたことをきっかけに、回収の旅に出ることにした。
自身の絵によって不幸な目に遭う者がいるのなら看過できないというのがその理由である。
実際、持ち主の多くは行方不明になっていたり、既に死去していたりするらしい。
ともすると、ゲルニカの絵はある種の魔道具や呪いのアイテムになりかけているのかもしれない。

・怪盗グラース
性別、年齢ともに不明。
美術品を専門とする怪盗。
変装の名人という噂もあるが……。

怪盗の御業:神遠範に中ダメージ、封印、石化
 何をされるか分からない。分からないが、どうやら薬品か何かによる攻撃のようだ。

・警備員×40
美術館にいる警備員たち。
2人~3人ほどの組を作って美術館の各所を見張っている。
美術品を傷つけないよう、銃器や刃物の類は所持していない。
武器として金属の警棒を所持している。

●フィールド
美術館“異界の月”
入口を入ってすぐの場所にロビー。その先で左、正面、右と3つにルートが分岐している。
3つのルートのどれを選んでも、最終的には最奥の階段に辿り着く。
階段を上って2階には絵画が飾られている。
窓は各所にあるがどれも鉄格子が嵌めこまれている。
また館内には、【透過】などで壁をすり抜けられないように魔術的な仕掛けもほどこされている。
そのほか、館内のどこかには警備員詰め所がある。警備員詰め所では、常に館内各所の様子を監視しているという。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • さよならを告げる女。或いは、絵画争奪戦…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
束縛は鋭く痛む
クーア・ミューゼル(p3p003529)
めいど・あ・ふぁいあ
シラス(p3p004421)
双竜の猟犬
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
plastic
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
微睡 雷華(p3p009303)
雷刃白狐
佐藤・非正規雇用(p3p009377)
その真価を見せてやろう!

リプレイ

●“異界の月”美術館
 幻想の地にある美術館“異界の月”。
 半円形のそのシルエットを傍観しながら“ゲルニカ”は小さな吐息を零す。
 長い髪が風に揺れ、白く細い頬を撫でた。
「頼むぞ。皆」
 なんて、言葉を受けて『今宵のぬくもり』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は軽く手を挙げ応じた。
「任せておけ。それが君の責任というのなら、俺はそれを肯定する。作り出した己の作品に、生み落とした後まで責任を感じる者は多くない。俺も作品を断罪された時は、作品どころじゃなかったからな」
 ベルナルドもまた、ゲルニカと同じく画家である。
 そんな彼にはゲルニカの想いが、強く理解できるのだろう。
 曰く、ゲルニカの絵は持ち主に不幸をもたらす、なんてそんな噂を耳にしたから、ゲルニカは世に出回った己の描いた絵を回収して回っているのだ。

 ゲルニカの描いた絵を狙い、怪盗“グラース”が現れる。
 予告上を送り付けられた美術館のオーナーは、その日以降、美術館を閉鎖した。都合40名の警備員を雇い、しっかりと対策を打っている。蟻1匹さえ立ち入らせない、とそんなオーナーの意気込みが伝わって来るほどの厳戒態勢。
 事実、正面入り口には2人の警備員が立っている。
 そんな男たちの元へ歩み寄る影が2つ。1人は獅子面の大男『ほんとにほんとに』佐藤・非正規雇用(p3p009377)。もう1人は小柄な猫耳金髪少女『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)である。
「すいません、寝坊しまして……俺の持ち場どこッスかね?」
「失礼。正面入り口の警備を担当するクーアと、えっと、ある……ばいと? です。交代の時間を過ぎてしまいましたが、引継ぎ事項はありますでしょうか?」
 揃い制服を着た非正規雇用とクーアの2人が、警備員に声をかけた。
 
 非正規雇用とクーアの手引きで、館内へと侵入したイレギュラーズは3手に分かれて、ゲルニカの絵を確保に向かう。
 入口の警備員は少しの間『鳶指』シラス(p3p004421)の作った【幻影】と【ドリームシアター】に交代してもらったところだ。
「本物の不幸を呼ぶ絵か、面白えじゃん」
 シラスの作った幻影は最大1分で消失する。そうなれば、館内を監視している警備員たちも慌て始めることだろうが問題はない。もとより陽動こそが、今回の任務の要なのだから。
「不幸を呼ぶ絵、か。本当に絵が力を持ったのか。其れとも、誰かが都合よくこじつけたのか……」
「俺はあの絵を模倣したが、だくだくと湧き上がる黒い感情に身を焼かれる思いがしたのは確かだ。まぁ、そういう感情に任せて描くのも悪くねぇもんだったがな」
 『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)とベルナルドが言葉を交わす。シラスを合わせた以上3名は、分帰路をまっすぐに進み、最短距離で絵の元へ向かった。

 一方、左の通路では既に混乱が起きていた。
 クーアと非正規雇用が、警備員を相手に大立ち回りを開始したのだ。
 戦闘音を聞きながら、右通路の3人は密かに前進を続けていく。
「警備員との接触はなるべく避ける。どうしてもって時も、命までは奪わないようにね」
 彫像の影に身を隠した『海を越えて』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)の眼の前を、警備員数名が慌ただしく駆け抜けていく。
 左通路の応援へと向かったのだろう。
「……あぁ、殺すは手間掛かるので昏倒させ物陰に隠すまで、ですね」
 するり、と物陰から腕を伸ばして『影』バルガル・ミフィスト(p3p007978)は警備員の口と首を掴んでその場に引き倒す。
 ほんの数秒。
 たったそれだけで警備員の意識は刈り取られた。
「それと、警備員詰所を見つけた時は、出来そうなら押し入って確保……」
 もう1人の警備員は『雷刃白狐』微睡 雷華(p3p009303)の手により気絶させられ、オブジェクトの影に押し込まれた。
「今の人たち、もう少し先の方から現れたよね? そっちに詰め所があるんじゃない?」
 なんて、そう告げたドゥーは通路の先を指さした。

●美術館での攻防
 ドタバタと、通路を駆ける音が響いた。
 そして鳴り響く不協和音。
「こちら左通路。侵入者だ」
「ギターなんぞ弾きやがって。ここはライブハウスじゃねぇんだぞ!!」
「いいから取り押さえろ! 連中が怪盗グラースかもしれん!!」
 警棒を手にした警備員が怒声をあげた。
 そんな彼らに視線を向けて、獅子面の巨漢がにやりと獣の笑みを浮かべる。
「今日は俺たちの特別ライブに来てくれてありがとう! 音の芸術を聞かせてやるぜ!」
「ところで佐藤さん。いちおう念の為確認しますが……えっと、この場を丸ごと焼いちゃ駄目なのです?」
「あ? 駄目だろう。普通に考えて」
「どうしても?」
「……駄目だろう?」
 なぜ、美術館の完全焼失をほんの僅かでも良しと考えたのか。
 非正規雇用には、クーアの考えが理解できなかった。
 けれど、彼女の実力やスキルがこの場において有用であることには変わりない。クーアは金の髪を振り乱しながら、頭上へと拳を掲げて見せた。
 警備員の振り下ろす警棒が彼女の頭部にあたる直前、その手より閃光が放たれる。
 暗い通路が真白に染まり、警備員たちを飲み込んだ。
「夜は眠りの、夢の世界。夢魔たる私の独壇場」
「いい調子だ。この調子で、できるだけ多くの警備員を引き付けんぜ!」
 非正規雇用の頬を警棒が殴打する。
 彼を殴った警備員は、直後非正規雇用の大きな拳で殴り返され地に伏した。
 殴って、殴り返されて。
 騒ぎは次第に、大きくなっていったのだ。

 止まれ、とそう呟いたのは先頭を行くシラスであった。
 ベルナルドとアッシュが足を止め、暗がりの中へ目を向ける。
 一階、最奥。
 二階へと続く階段の手前には、2人の警備員が倒れている。
「既に別グループが進んだのか……いや」
「石化、してる?」
 首を傾げたアッシュの視界に、警備員たちの姿が映る。
 どうやら彼らは、意識を喪失しているようだ。その腕の一部が石化しているところを見るに、状態異常にかかっているころが分かる。
「薬の臭いか」
 と、ベルナルドは呟く。
「陽動によって生まれる隙は好機、ですが……恐らく、其れは招かれざる客にとっても」
「しかし陽動がどれほど上手く決まっても警備はゼロにはならないだろう。グラースも今頃二階の警備員に足止めを喰らってるかもしれない」
 急ごう、と。
 シラスがそう告げるよりも早く、青いコートを翻しベルナルドは駆け出した。

 扉を開けて、警備員が現れる。
 その眼前に駆け込んだドゥーは【威嚇術】を使用し、警備員の意識を奪った。咄嗟に振り下ろされた警棒が、ドゥーの肩を強かに打つが幸いなことに深手は負っていないようだ。
「ここが詰め所か。通してもらうよ」
 侵入者の登場に、詰め所の中でざわめきが起きた。
 薄暗い部屋。
 壁一面に並んだモニター。
 何らかの魔道具によって美術館内部の各所を監視しているのだろう。
「また侵入者だと!? 今日はどうなってるんだ! グラースは1人じゃなかったのか?」
「自分たちはグラースではありませんが……なるほど、そのモニターで館内を監視しているのですね」
「人数は7人……押し入って確保……できそうだね」
 戦意を滾らす警備員たちの元へ向け、槍を構えたバルガルとナイフを構えた雷華が駆け寄っていく。

 意識を失い倒れる2人の警備員。
 その間を抜け、クーアの元へと迫る男が1人。
 振り上げた手には警棒が握られている。非常灯の明かりを反射し、警棒はぎらりと鈍く妖しい光を発した。
「くっ……」
 渾身の殴打がクーアの頭部を捕らえる。
 手加減をしていては、一方的にやられるだけと警備員たちも学んだのだろう。
 金の髪に血が滲んだ。
 しかしクーアは、にやりと笑う。
「飛んで火に入るなんとやらなのです!」
 閃光。
 空気の弾ける音がして、奔った雷光が警備員の胴を撃ち抜く。
 一瞬、身体を痙攣させて警備員は意識を失い地に伏した。
「こいつら、強いぞ!!」
「分かってるよ! んなことは!」
 怒涛のごとく押し寄せる警備員たち。通路の前後を阻まれて、クーアと非正規雇用は逃げることも、進むことも出来なくなった。
 だが、それでいい。
 つまりそれだけ、警備員たちをこの場に集められたということだからだ。
「とはいえ、これ以上は身体が持たないぜ。撤退するか?」
 長い傭兵生活の賜物か、非正規雇用は逃げ足の速さと引き際の判断に長けている。
 掲げた太い両腕に、警棒による殴打が雨あられと降り注ぐ。
 ミシ、と骨の軋む音。これ以上の戦闘続行は危険だと、彼の脳裏で警鐘が鳴った。
 個々の実力であれば非正規雇用やクーアに遠く及ばぬ警備員たち。だが、彼らは職務に対する義務感と、連携でもってそれを補う。
「たしかにそろそろ引き際かもですねー」
「じゃあ決まりだな。外で体勢を立て直し、可能であれば再度侵入して仲間を迎えに行くぞ」
 額を伝う血を拭い、非正規雇用は身を低くした。
 次の瞬間、彼は跳ぶ。
 地面が揺れるほどの衝撃。美術館の床に深い爪痕を残した急加速により、眼前を埋めた警備員たちを薙ぎ払い、強引に道を作ったのだ。
「っし、行くぞ!」
「ところで、やっぱり燃やした方が」
「駄目だって!」
 などと言葉を交わしつつ、2人は外へと逃げていく。

 壁や床を蹴り飛び回る雷華。
 その手に握ったナイフを閃かせ、警備員たちの手首や足首を狙って斬り付けていく。
 命を奪わず戦闘力を奪うためだ。
「この中に怪盗がいたりするのかな?」
 なんて、呟きつつ雷華はその身に雷を纏った。
 さほど広くもない警備員詰め所が、ほんの一瞬真白に染まった。
 雷華が紫電を散らして駆ける。その度に巻き起こる風によって、詰まれた書類や持ち込まれていた飲食物の類が宙に舞う。
「速いぞ! 目を逸らすな!」
 縦横に飛び回る雷華を目で追って、警備員の1人が仲間たちへ注意を促す。
 けれど、直後、彼は意識を失い倒れた。
「敵は1人では無いということをお忘れですか?」
 警備員の気道を締め上げ意識を奪ったのはバルガルであった。
 警備員の大部分は出払っているため、詰め所の制圧はこのようにスムーズに進行していった。

「さて、仲間の位置把握、および怪盗らしき存在と絵画がまだあるかを確認、ですね」
 モニターの前に立ちバルガルが告げる。
「佐藤さんとクーアさんは撤退中のようですね。中央ルートを進んだ皆さんは、現在二階に辿り着いたところ……三階にも警備員がいますが、あれ?」
 モニターの一角では、警備員たちとクーアが交戦していた。
 それを見てドゥーは目を丸くする。
「クーアさんたちは撤退中……ということは」
「こいつがグラースで間違いないでしょうね」
 バルガルとドゥーは顔を見合わせ、頷きを交わす。
 それぞれの得物を手にすると、3人は警備員詰め所を跳び出した。
 
 二階へ辿り着いた3人は、そこでシラスは目を丸くする。
「クーア? 何でここに? 非正規雇用はどうした!?」
 鋭い手刀を警備員に浴びせ、クーアは「あぁ」と言葉を零す。
 チラ、と視線が窓の方へと向けて、彼女は答えた。
「ちょっと予定が崩れたのです。なので、こうして私だけ先行したんです」
 なんて言いながら、クーアはシラスたちの方へと歩み寄る。
 ゆっくりと手を挙げ、気安げな態度。
 付近の警備員たちは既に制圧済だ。警戒を緩めることは出来ないが、多少の時間的な余裕はある。
「……カストル」
 ぽつり、と。
 囁くような声音で、アッシュは告げた。
「うん? 何を……」
「カストル」
 今度ははっきりと、アッシュは境界案内人の名を口にした。
 “カストル”と“ポルックス”。
 事前に仲間内で決めた合言葉だ。
 けれど、クーアは再度の問いにも首を傾げるばかり。それ以上何も言わないアッシュを一瞥し、はて? と小首を傾げてみせる。
 思案したのはほんの数瞬。
 クーアは「それより」と、シラスに1歩、歩み寄り……。
「見た目の偽装は完璧だな」
 シラスの放った鋭い手刀が、クーア……否、グラースの手首を強かに打った。
「ベルナルドは先に行け。本物の絵画を探して確保してくれ」
「あぁ、ゲルニカの絵を創り手に尊敬の無ぇ怪盗なんざに奪わせてたまるかよ!」
 グラースの相手をシラスとアッシュの2人に任せ、ベルナルドは先へと進む。
 それを追おうとグラースも踵を返すが、直後その周囲を黒きオーラが覆いつくした。
 咄嗟に後退することでグラースは【スケフィントンの娘】を回避。それを放ったであろうアッシュを見やる。
「退いては貰えませんか。あの絵は蒐集品として懐に納めるには、凡そ常軌を逸しています。貴方の身にも、何が起こるかすら確かでないのです」
 青い右目がグラースを見やる。
 冷たい瞳だ。
 およそ感情と言うものが感じ取れない。冷静沈着に戦況を俯瞰する戦士の眼差し。
 加えて、回避を図った瞬間、懐へと潜り込んでくるシラスの存在。
 袖に隠した薬瓶を取り出そうにも、その隙がないことに舌打ちを零す。
 潜入、回避、逃走と脚には自信があるけれど、どうしたって直接相対しての戦闘は不得手であった。なにしろグラースは怪盗なのだ。
「斬った貼ったは怪盗の本分ではないのです」

●さよならを告げる女
 美術館二階、最奥部。
 何かに呼び寄せられるように、ベルナルドはまっすぐその部屋へと踏み込んだ。
 暗い部屋の奥。黒い壁に飾られた一枚の絵画。
 人から異形の怪物へと変異する女性を描いた絵であった。
「これか……」
 そっと、ベルナルドは「さよならを告げる女」に手を伸ばす。なるほど、死や破滅、、廃退、廃墟、終焉をモチーフとしていることもあり、不気味な絵だが、その色使いには作者の強いこだわりや情熱を感じる。
 絵を確保し、ベルナルドは踵を返した。
 瞬間、彼の眼前を通り過ぎる影が1つ。
「なっ⁉」
 それは、下のフロアでシラスとアッシュが食い止めているはずのグラースだった。
 咄嗟に絵を引き寄せることでベルナルドはそれを回避。
 しかし、その鼻先を甘い薬品の香りが擽った瞬間、ぐらりと視界が揺れた気がした。
 今だクーアの姿に変じたままのグラースは、忌々し気に顔を歪めベルナルドと背後とを交互に見やる。
 シラスやアッシュが追い付いて来ることを警戒しているのだろう。
 事実、通路の先からは複数人分の足音が聞こえていた。
 ともすると、バルガルや雷華たちも合流したのかもしれないし、目を覚ました警備員たちがこちらへ向かっているのかもしれない。
「ちぃ……その絵をこっちに渡してもらおう!」
 時間的のロスを嫌ってか、グラースは身を低くして衣服の間から次々と薬瓶をばらまき始めた。
 周囲に漂う異臭を感じ、ベルナルドは鼻と口を手で覆った。
 その瞬間、地を這うようにグラースが駆ける。伸ばされた手が「さよならを告げる女」にかかったその瞬間……。
「ちょっと、待った!!」
 壁際に潜んでいたドゥーが、その身を晒しグラースを威嚇。
 一瞬、グラースの身体が硬直した。
「大人しく捕まってよね。人殺しとかはしていないそうだし、命まで奪わないから」
「ぐっ、気配を消していたのか。存在感の薄い奴め」
「警備員が集まって来たからね。俺だけでも先行して来るにはこうでもしなきゃね」
 数の上でも戦力の上でも、これでイレギュラーズが上回った。
 戦闘に長けるわけでもないグラースでは、これ以上の継戦は難しいだろうか……。しかし、グラースにはグラースの意地がある。
 予告状まで出しておいて、獲物を奪わず帰ることは出来ないのだろう。指先で弾くようにして、ベルナルドの顔に向け香水瓶を投げつける。
 瓶が砕け、ベルナルドが怯んだその隙にグラースの手が絵画を掴んだ。
「わりぃな。こいつは貰っていくぜ」
 クーアの姿。
 けれど、聞こえたのは男性の声だっただろうか。
 絵画を奪ったグラースは一目散に踵を返し、通路の先の暗がりへと駆けていく。逃走経路はしっかりと計画しているのだろう。
「くそっ、追わなきゃ……」
「いや、待て」
 慌てて後を追おうとするドゥー。ベルナルドはそれを呼び止めた。
「本物はこっちだ。贋作を掴ませてやったからな。すぐにはあれが、偽物だと気付きはしねぇだろうぜ」
 そう言ってコートの内から取り出したのは、本物の「さよならを告げる女」であった。
 ドゥーの【威嚇術】にグラースが怯んだその瞬間、彼は自身の描いた贋作と本物を入れ替えていたのだ。
 ぽかんとした表情を浮かべたドゥーに向け、ベルナルドはくっくと肩を揺らして笑った。

成否

成功

MVP

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
束縛は鋭く痛む

状態異常

佐藤・非正規雇用(p3p009377) [重傷]
その真価を見せてやろう!

あとがき

お疲れさまでした。
怪盗グラースとの絵画争奪戦に見事勝利。
依頼は成功となりました。

この度はご参加、ありがとうございました。
また、どこかで怪盗グラースと逢うこともあるかもしれませんね。
縁があれば、いずこかでまたお会いしましょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM