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シナリオ詳細

<グラオ・クローネ2021>チョコレイト・コスモスに誘われて?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 早朝――漸く空が白み始めるかどうかという時間帯。ばーん! と音を立ててローレットの扉が開いた。
「大変なのです! 緊急の依頼なのです!」
 開いた扉から飛び込んできたのは『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。
「よかった、人がいたのです。誰もいなかったらどうしようかと思ったのです」
 そんなことを言いながら、ユリーカはたまたまローレットにいたイレギュラーズに歩み寄る。
 何事かと視線をむけたイレギュラーズにユリーカが訴えた。
「チョコレイト・コスモスがピンチなのです、助けてほしいのです」
 チョコレイト・コスモスとは、その名の通りチョコレイトのような色と香りをしたコスモスである。
「王都に割と最近できた『レッカー・ブルーマ』というお店があるのです。エディブルフラワーのお店で、食べられるお花の詰め合わせが綺麗だと評判なのですが」
 エディブルフラワー、つまり食用花を専門に扱うその店ではグラオ・クローネに合わせチョコレイト・コスモスを食用として栽培していたらしい。
 そして迎えた今日、グラオ・クローネ当日。育てたチョコレイト・コスモスを収穫すべく夜明け前にその栽培ハウスへと向かった店主が見たのは、ハウスの中をうろつく黒い影。
「最初は泥棒かと思ったらしいのですが、よく見たら人型の黒い靄だったんだそうです」
 しかも、店主に気付くとその手を伸ばして襲い掛かってきたという。
「それが次から次へと湧いて出てきたらしいのです……恐ろしいのです」
 黒い靄は『何が幸福だ……』やら『グラオ・クローネなんて滅びてしまえ……』やら呪詛めいた言葉を呟きながらハウスを徘徊し続けているらしい。
「このままではチョコレイト・コスモスが収穫できないのです。お店も営業できないし、せっかくのグラオ・クローネ限定のお花詰め合わせが……」
 とても残念そうに頭を振った後、ユリーカは改めてイレギュラーズに視線を向けた。
「皆さんの力で黒い靄を何とかしてほしいのです! 靄が何なのかわかりませんが皆さんならきっとできます!」
 力説するユリーカ。ちなみに何をもって「できる」と言っているのかはまったくの謎である。
「靄を何とか出来たらお店も営業できるのです。お店に戻って楽しんでくるといいのです」
 店では食用花の詰め合わせはもとより、食用花をあしらった菓子なども販売しているのだとか。
 ……グラオ・クローネの贈り物として購入するのも、いいかもしれない。
「限定品を楽しみにしてる人たちのためにもよろしくお願いするのです!」

GMコメント

 乾ねこです。
 こちらは<グラオ・クローネ2021>、通常シナリオとなっております。

●成功条件
 ・チョコレイト・コスモスの被害を極力抑えつつ黒い靄の排除する。
 ※黒い靄がハウスの外に出た場合は失敗となります。ご注意ください。

●戦場
 王都郊外にある、花の栽培ハウスです。
 ハウスはガラス張りで大きさは横約10m、縦約50m、高さ約3m。横は2mおき、縦は10mおきくらいに幅1mほどの通路があり、花々の世話や収穫ができるようになっています(数字は大雑把な目安です。現実でのハウス栽培を思い浮かべていただければ)。
 今はチョコレイト・コスモスの花が女性の腰より少し高い位置で咲いており、上部はともかく足元(特にチョコレイト・コスモスを挟んだ向かいなど)の見通しは悪いです。

●敵の情報
 栽培ハウスに沸いた人型の謎の黒い靄が相手です。何体もウロウロしており新たに湧き出したりもしますが、全てが別個体なのかあるいは同一個体なのかすら不明です。
 グラオ・クローネに充実した一日を送れそうな人には攻撃的になり、そうでない人には(同類認定してか)鬱陶しいほどまとわりついてきます。
 各種攻撃をしてきますが、イレギュラーズであればあまり気にする必要がない程度の威力しかありません。
 物理的なダメージのほか、「これでもかとばかりにリア充っぷりをアピールする」だとか「これ以上ないほどの哀れみの言葉をかける」等、精神的なダメージを与えるのも非常に有効です。何なら彼らの思い(?)にとことん寄り添ってみるのも手かもしれません。

●エディブルフラワー専門店「レッカー・ブルーマ」
 パッと見は可愛らしい普通の花屋に見えますが、各種食用花を扱うお店です。
 生花もあれば、日持ちするようにドライフラワーになっているものもあります。
 毒を持たない花であれば大抵の花は扱っており、グラオ・クローネの一押しは摘みたてのチョコレイト・コスモスだそうです。
 店の一角には喫茶室を兼ねた菓子コーナーがあり、食用花を購入するだけでなく各種フラワーティーを楽しんだり食用花をあしらったケーキやクッキーといったお菓子を食べたり、それらを持ち帰り用に購入したりもできます。
 黒い靄への対処を終えた後は、こちらのお店にてお買い物等をお楽しみください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


 戦闘シーンとお店のシーンの比率は皆様のプレイング内容によって変動します。万が一失敗した場合はお店のシーンの描写はありません。
 また、商品を購入されてもアイテムとしては発行されませんのでご了承ください。

 それでは、皆様のご参加お待ちしております。

  • <グラオ・クローネ2021>チョコレイト・コスモスに誘われて?完了
  • GM名乾ねこ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
セレーネ=フォン=シルヴァラント(p3p009331)
正剣
矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)
忠義はかくあるべし
八剱 真優(p3p009539)
忠義はかくあるべし
アナト・アスタルト(p3p009626)
殺戮の愛(物理)天使

リプレイ


 ガラス張りの室内に、柔らかな朝の光が降り注ぐ。
 ビターチョコのような濃い色、ミルクチョコのような淡い色。色合いの異なるブラウンの花――チョコレイト・コスモスが光を受けて輝く。
 ほんのりと漂う甘い香りは、今を盛りと咲くチョコレイト・コスモスのせいだろうか
『憎い……憎い……』
『なんでグラオ・クローネなんて存在するんだ……』
 チョコレイトを思わせる花と香りに満ちたガラス張りの栽培ハウスの中を、それに不似合いな人型の黒い靄が何体も徘徊していた。
「ふむ、なるほど」
 靄を目にした『正剣』セレーネ=フォン=シルヴァラント(p3p009331)が納得したかのように呟く。
「随分とわかりやすい不信さだな」
 矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)の目が半眼になった。
「……多分怨霊の類なんじゃないかなぁこれって!」
 『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)のツッコミに景護が頷く。
「おそらくは淀みかけの怨念といったところだろうな」
「ある意味当然の感情も積もり重なり増大していけばこうもなるんだね」
 カインの声音に少なからず宿るのは、靄に対する憐憫の情。
「チョコレイト・コスモスの収穫を邪魔するなんて……なんて『愛』のない方々でしょうか!」
 よよ、と泣き崩れるような素振りをする『殺戮の愛(物理)天使』アナト・アスタルト(p3p009626)。
「彼等もあのままじゃ苦しいんじゃないかなぁ」
 『もふもふねこ巡り』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が独り言のように呟いた。
「こういったものは、生った側とて苦しいと聞く。晴らしてやるのがなさ」
「『グラオ・クローネ中止のお知らせの中止』を彼等に知らしめてやりましょう、景護!」
 景護の言葉を遮るようにして『曇り知らずの高気圧龍姫』八剱 真優(p3p009539)が言った。
 グラオ・クローネとは、人の幸せを膨らませてくれるとても素敵な風習だと伝え聞く。その幸多き日を妨げるとは……。
 真優の意を受けた景護がその場に片膝をつき首を垂れる。
「中止の中止……御意。鮮明に理解させましょうぞ」
 俄然やる気になる景護とそれに頷き返す真優。ふらふらと徘徊していた黒い靄たちの動きがピシリ、と固まった。
『……お前ら……』
 朝日溢れる栽培ハウスに、怨嗟のこもった声が響く――。


「我が主の意である。砕け散ってもらう」
 景護は名と共に受け継いだ太刀を抜き放ち、黒い靄に視線を走らせた。
「オオオォオオォォオオ!!」
 靄が近づいてくるのを確認し、鬼人の咆哮をあげる。釣られた黒い靄たちが、景護に一斉に襲い掛かった。
「景護!」
 真優が叫んだ。景護は真優が物心ついたころから共に過ごしてきた従者……否、半身ともいえる存在。それが自分の命とはいえ――敵意に晒され、傷を受けている。
「景護、大事ありませんか?」
 ただひたむきにその身を案じる真優に目配せし、大丈夫だというかのように頷く景護。
「はは! どうした、貴殿らの恨みつらみ、その程度の薄さか!」
 景護の挑発に逆上したか、靄たちの攻撃が苛烈になる。
「景護……貴方をただ見るしかできないこの身が、どれ程歯痒いことか」
 辛そうに目を伏せた真優が、その癒しの力を行使した。
「せめても、この身をもって貴方の献身に応えられれば――!」
「真優様……」
 感極まった景護が、靄たちの攻撃に晒されながらも主の名を呼ぶ。
「私を欲するならば、いつでも言ってくれて良いのですよ」
 純真無垢な瞳で景護を見つめ、真優が続けた。
「それで貴方が満足できるのなら、私はいくらでも……!」
 本人たちにしてみれば頼り頼られ合う純粋な主従愛――しかしまあ、そんなことは黒い靄にわかるはずもなく。
『ウワアアアお前ら爆発しロ!!!』
「その程度では真優様の手厚い癒しで支えられる俺には、効かぬぞ!」
 殺到する怨嗟を、景護は太刀を構えたまま笑い飛ばした。
「俺を倒すことなくば、貴殿らの望みは叶わぬと知れ!」
『お前らなンか……お前らナんカ……』
 靄の攻撃は景護の余裕を崩すことすらできない。届かぬ怨嗟を吐きながら黒い靄が消えていく。

(グラオ・クローネを憎むなんて、許せません! 恋する者の一人として、絶対に止めないと!)
 澄んだ空の色をした瞳に決意を浮かべ、『天色に想い馳せ』隠岐奈 朝顔(p3p008750)はこう言った。
「私、グラオ・クローネで好きな人にアタックするんです」
 その声が聞こえたのだろうか、数体の靄が朝顔に向き直る。
『そんな相手がいるやつに……』
『そうだ、そんな相手なんてイナイ』
 黒い靄が朝顔に手を伸ばす。
 バックステップでその手を避けた朝顔が、キッと靄を睨みつけた。朝顔の体内でアドレナリンが爆発する。黒い靄たちの上半身の身を狙い、朝顔はハンターの乱撃を放った。
 朝顔の容赦ない攻撃に、黒い靄が悲鳴を上げる。
「貴方達には、私が幸せそうに見えますか?」
 朝顔の口から、普段より心持ち低い声が漏れた。その脳裏に浮かぶのは、唯一無二のあの人と……それから。
 浮かぶ面影に、朝顔の表情が歪む。
 彼を幸せにして、慰めて、救って。素敵なところばかりで、自分よりも彼に愛されていそうな人。
「狡いよって言いそうになるんです」
 彼の唯一の何かにもなれない自分。どこまで頑張れば報われるのだろう? 渦巻く感情は醜くて、その海で溺死しそうなほど、苦しい。
「……貴方達の気持ちが分かるのが嫌だけど。だからこそ、私は慰めはしない」
 そう告げて、朝顔は自身の真名と同じ名を持つ大太刀を振るい、黒い靄を払っていく。
 貴方達だって幸せなグラオ・クローネをしたいはず。慰めるだけでは、そんな日は来ないだろうから。
「これは、貴方達が前を進む為の痛みと知って!」

 黒い靄がフラフラと扉へと近づいていく。
「ダメだよ!」
 カインの放った神聖な光が靄を貫いた。
「これだけの情念があるのにそれをこんな形でしか使えないなんて情けない、情けないよ!」
 靄とはいえ、実体化するほどの「思い」があるというのに。
「なんでそれを妬んだり僻んだりするほうに使っちゃうのさ?! もっと前向きにならなきゃダメだよ!」
『そんなの俺タチにできるわけな』
「羨み妬む暇があるなら勝ち取る為に動くんだよ。欲する者はまず与えよ、だよっ」
 最後まで言わせず言い返すカイン。自らは動かず欲するばかりでは何も得られない――真っ当すぎるカインの叱咤に耐えきれず、黒い靄が目を逸らした。
『……デモ、どうしたらいいか……』
「例えばこの店にある様なお洒落なのをプレゼントしたりとか、そういうのだよそういうの」
 ボソボソと呟く靄に、活を入れついでにダイマし更に神気閃光をぶっ放すカイン。
 失敗を恐れ内に籠るからこんな事件を起こしてしまうのだ。この黒い靄たちには是非とも健全に玉砕する勇気を注入してやらなければ――!
「何かを得るためには行動しなきゃ。失敗から得られるものもあるんだから」
 カインの叱咤激励に、何体かの黒い靄が顔を見合わせる。
 ……ソウイウモノカナ?
 ……ソウイウモノカモ。
 ジャアトリアエズ……。
『――得るためニ戦うベシ!』
 なんだか活性化したように見える黒い靄にニコニコ笑顔で頷いて、自身の能力を目一杯まで強化するカイン。
「わかったなら現世にお帰り!」
 カインの容赦ない一撃を浴び、黒い靄たちが消滅した。


「愛を知らぬ哀しき者達なのですね……可哀想に」
 胸の前で両手を組み、アナトは黒い靄に語りかける。
 愛を知らずグラオ・クローネの邪魔をしようとする哀しき者たち……しかしそれでも。
(愛し諭しましょう。それが「バール」教の教えですもの)
 アナトが靄に向けて両手を広げる。
「ご安心くださいませ。我が『バール』教は愛を説く教え、どのような方にでもアガペーでもって愛します」
 アナトの説得に、何故か互いに目配せしあうような素振りをする黒い靄たち――いや、彼らの頭に目など見当たらないのだが。
「そういう訳で愛を知らぬ貴方達に朗報です」
 アナトは靄たちの反応など気にせず続ける。
「ここに私手作りの愛天使アナトチョコがございます。これを貴方方に進呈します」
 差し出されるチョコ。
「さあ、良きグラオ・クローネを。貴方方が幸福であります様に」
 慈愛に満ちた微笑みを浮かべるアナトに何を思ったか、黒い靄たちが後退りする。
「まあどうなさいましたの? ……私のお話を聞いていただけなかったのでしょうか」
 悲し気に目を伏せたアナトが突然靄との距離を詰め、手にしたトゲ付き鉄球とバールを振り回すようにして乱撃を放った。
『グェ』
 その上半身に鉄球の直撃を受けた靄がうめき声をあげる。
 アナトの豹変ぶりにドン引きした結果反応が遅れたか、黒い靄は次々と彼女の餌食になっていく。
 今にも消滅しそうな靄を捕まえ、アナトがニッコリと微笑んだ。
「さあ、チョコをお召し上がりくださいませ」
 どこからか取り出した悪い子用のアナトチョコを、靄の口……と思われる場所に無理矢理突っ込む。
『?!!!?ーーー!?』
 声にならない声を上げる黒い靄。
「アハハハ! ええ、この潰し、ひしゃげて、粉砕する感触……これこそ我が愛! さあさあ、もっと愛させてくださいませ!」

「グラオ・クローネかあ……うーん、ろくな思い出がない」
 『浮草』秋宮・史之(p3p002233)はちょっと遠い目をして呟いた。
 海洋の女王陛下にフィアンセに……いつもいつも捧げる側、チョコを貰えた試しなど一度もない。
 だから、黒い靄に同情してしまう。
 自分だって一度くらいは貰う側になってみたい。というか、なっていいはずだ。
「とはいうものの心当たりなんてないんですなこれがこんちくしょー!」
 切なさ満載の叫びをあげて黒い靄に向き直る史之。
「今日は影さんもいっしょにチョコパしよ?」
 やけくそ100%で名乗りを上げ、近づいてきた靄に綺麗に包装されたプレゼントを差し出す。
「俺、料理だけは得意だから、ガトーショコラ作ってきたよ」
『……いいのカ……?』
 困惑気味の黒い靄に、史之が力強く頷いてみせる。
「ん、待てよ? 結局あげる側になってないか、俺」
 ハタと気づく史之。靄の動きがぴたりと止まった。
「まあいいや、美味しいもの食べて成仏して――」
『あげるヤツが、いるのか』
 靄の問いに史之は何気ない様子で答える。
「酷いと思いませんか? 許嫁なんてホワイトデーも要求して……」
『リア充爆発しろ!!!』
 黒い靄の攻撃でプレゼントが吹っ飛んだ。
『許嫁がいるようなヤツに俺たちの気持ちがわかルかー!』
 残念ながら、同じ貰えない者でも「そういう相手」がいるか否かで立ち位置が全然違うのだ。
『バカにしやがっテー!』
『上かラ憐れンで楽しいカー!』
 ――この後、史之は黒い靄たちから驚くほどの猛攻を受けつつ戦うことになったらしい。

 人好きのしそうな笑顔で見つけた黒い靄に声を掛ける。
「やぁ、ヨゾラだよ」
 その美貌に当てられてかソワソワとした様子を見せる黒い靄。
「あ、この外見だけど男です」
 笑顔のまま告げれば、靄はあからさまに態度を変えた。
『なんダ、バカにしに来たノか!』
 卑屈さ満載、闇雲に放たれた攻撃を敢えて受け止めるヨゾラ。そしてそのまま言葉を紡ぐ。
「グラクロを滅ばす願いは叶えらえないけど、君等が楽になる手伝いならできるんじゃないかなって」
 恨み言を吐くでもいい。花やハウスに被害が出ないなら八つ当たりでも構わない。
「君等がもし浄化されたいなら……それは叶えたい」
 文字にすればぐぬぬ、と言ったところだろうか。図星を突かれたらしき靄たちから見透かされた悔しさとも恥ずかしさとも取れるような気配が伝わってくる。
「きっと苦しいんだよね」
 黒い靄の頭のあたりに手を伸ばし、撫でてみる。しっかりとしたものではなかったが、手の平に何かが触れるような感覚がした。
「あ、折角だからチョコとかクッキー食べる?」
『俺ハ……たダあいつ等が羨ましくテ……』
 チョコを手にプルプルと震える黒い靄。靄の呟きをうんうんと聞きながら、ヨゾラは靄の身体をぎゅっと抱きしめた。
『アあ、温かい……』
 呟きを残し徐々に消えていく黒い靄。
「さよなら。次は可愛い猫にでも生まれ変わってくるといいよ」
 靄を見送った後、ヨゾラは思い出した。そういえば猫はチョコを食べられないではないか。
(――まあいっか!)
 数瞬の間の後、あっさりと開き直るヨゾラであった。

「もし、そこの方。もし宜しければどうしてこのような事をなさっているのかお聞かせ願えませんか?」
 彷徨う靄に、セレーネが問いかける。
「実は私、グラオ・クローネという行事を存じ上げておらず……」
 その言葉を疑っているのか警戒心を隠そうとしない靄に対し、チョコレートを取り出すセレーネ。
「道中、美味しそうなお菓子が売りに出されていましたので購入はしてみたのですが……」
 宜しければこれでも摘まみながら、お話を聞かせて下さいませんか?
『…………』
 いくらか条件はありそうだが黒い靄は問答無用で襲い掛かってくるわけではない様子。やりようによっては会話が通じそうな相手なら、話を聞いてみよう。
 セレーネの思いが通じたのか、黒い靄がポツリポツリと語りだす。
 曰く、プレゼントを贈り合う相手もいない。
 曰く、皆浮かれているのに自分はぼっち。
 曰く、とにかく周りが幸せそうなのが気にいらない……等々。
 靄たちの主張を否定することなく聞き続け、セレーネはほう、と息を吐いた。
「成程、特別な日だからこそ……そのように感じてしまう事もあるのですね……」
 グラオ・クローネという行事がきっかけで、隠れていた負の感情に気付きそれが溢れ出す、というのはあり得る話な気がする。
「それでどうでしょう、ひとしきり話して気持ちが楽になったりはしませんか?」
 セレーネの問いかけに首を振る黒い靄。なかなかに根が深そうな問題である。
「そうですか」
 少しだけ考える素振りをして、セレーネは改めて黒い靄に視線を向けた。
「では大声をあげて、私に向かって攻撃してみるとかどうでしょう?」
 見ている限り、靄たちに防御に徹したセレーネを害するほどの力はない。ひとしきり暴れれば彼らの気も少しは晴れるのではなかろうか。
「いわゆるストレス発散ですね。花達に被害が出ないようにしてくださるならお付き合いしますよ」
 数体の靄が頷き、セレーネに襲い掛かる。最後の靄が消えるまで、セレーネはそのストレス発散に付き合ったのだった――。


 食用花として知られるバラや菊、パンジーやサイネリア。色とりどりの花の中心に据えられるのは、本日の主役チョコレイト・コスモス。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
 性別不詳の麗人、「レッカー・ブルーマ」の店主がイレギュラーズに頭を下げた。
「折角ですので、ゆっくりしていってくださいね」

 甘味を求め、あるいは贈り物を求めて散っていくイレギュラーズ。
(バール様への贈り物です)
 早速チョコレイト・コスモスを手にするアナト。史之もまた、チョコレイト・コスモスを手に取り小さな花束を二つ作り始める。
(やっぱり女王陛下には捧げたいし、おいしいものを食べてにこにこしてる許嫁はかわいいし……)
 結局今年もあげる側。でもきっと、そのほうが性に合っているのだろうと思い直す。
「あの、オレンジのマリーゴールドの食用花ってありますか?」
 朝顔が尋ねれば、店主はほんの僅かに首を傾げて見せた。
「贈り物用ですか?」
 問い返されたのは、その花言葉を知っていたからだろうか。
「チョコレートに添えたいんです」
「……生花もいいですが、ドライフラワーでもいいかもしれませんね。見栄えもそう変わりませんし、お湯を注げばフラワーティーとしても楽しめますよ」
 店主が答える。さて、朝顔が選んだのは――?

 喫茶室ではヨゾラが優雅にフラワーティーを楽しんでいた。テーブルに並ぶのは食用花をあしらったケーキやクッキー。
「チョコレイトの名を冠する花……どんな味なのかな?」
 ケーキに乗った花を摘むヨゾラ。口の中に微かな苦みが広がった。
「味もチョコレイトのようだったら良かったんですが」
 甘味を運んできた店員が苦笑する。
「でも甘いものに付け合せるには悪くないんですよ」
 言い添える店員に、カインが声を掛けた。
「このお店のオススメは? あ、お菓子一通りください!」
 やがて運ばれてくるお菓子の山に目を輝かせるカイン。
(ふふふ、甘味は宝だよ。冒険者への正当な報酬なんだよ……)
 持ち帰り分も購入せねば。密かに決意するカイン向かいでは、景護が主のための贈り物を吟味していた。
「甘さは控えめに。軽くはなく、味の芯を感じるものが良いのだが」
 景護の希望に店員が提示したのはビターチョコを使ったガトーショコラ。
「景護、此度もご苦労様でした」
 やってきた真優が彼を労い、手ずから摘んだチョコレイト・コスモスを授ける。
「光栄に存じます。御身のご無事もあり、何よりかと」
 景護もまた、買ったばかりの甘味を献上した。

 特別な日の、とある一幕。
 貴方に幸福を。灰色の王冠(グラオ・クローネ)を――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
皆様のおかげでエディブルフラワー専門店「レッカー・ブルーマ」は無事開店、お客様で賑わう一日となったようです。

ご参加ありがとうございました。
ご縁がありましたら、またよろしくお願い致します。

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