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シナリオ詳細

Music on the snow

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは新緑からのお誘い
 冬。
 その季節はどこの地域にも等しく訪れる。
 吹き荒ぶ雪が落ち着いた後は、白銀の世界で満ちている。
 寒さで息を白くしながらも、音楽を好む者は好きに音や歌を響かせた。
 ある程度雪をよけ、切り株に布を敷いて座る者が一人。傍らには牛が座り込み、その背中には猫が二匹座っていた。
「……また、やってみたいなぁ……」
 木製のハープをかき鳴らし、ハーモニアの少年――――ネイザーはぽつりと呟いた。
 傍らの牛が鳴く。
 何となく、尋ねているように聞こえて、少年は答える。
「夏に、お客さんが来ていたでしょう?」
「モーゥ」
 分かってくれたらしい。
「また、色んな人達と音楽を通じて知り合いたいなって思ったんです」
 動物との触れあいや、音楽や曲を奏でたり唄ったりして共に楽しい時間を過ごした彼らのことが、今でも思い出せる。
 今は寒い季節だけれど、ローレットに依頼してみたら誰か来てくれるだろうか。
 白銀の世界での音楽会。
 扱う楽器や防寒対策に気をつければ出来なくはないだろう。
「モーゥ」
 牛がもう一声鳴く。
 近くの枝に止まっている小鳥が囀っている。
「呼んでみてもいいかな?」
 返事は動物達の鳴声による大合唱。

●お誘いという名の依頼です
 情報屋の男はいつになくニコニコしており、イレギュラーズと共にやってきた『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)は思わず眉を顰めた。
「……何? その顔」
「いや、青春だねえって思ってさ」
「は?」
「依頼だよ。一緒に森の中で音楽会をやろう、という……ね。
 なんでも、以前イレギュラーズと遭遇したハーモニアの少年が深緑に居るらしくてさ。その彼が、もう一度イレギュラーズと歌を唄ったり合奏したりしてみたいんだって。いやぁ、若いっていいよねぇ」
「おっさんくさい事言わないでくれる?」
 はい、と差し出した手に乗せられる依頼の紙。
 その概要を、ほむらを始めとしたイレギュラーズが目を通す。
 場所は深緑。雪に囲まれた森林の中で行なわれる。
 当日は暖を取る為のかがり火などは用意するとの事。
 やりたいのは歌や楽器の演奏など。踊りでも良いという。
 かがり火があるとはいえ、寒い事に変わりは無いので防寒対策は取って欲しいそうだ。
 観客は牛や猫などの小動物で、人があまり居ないから気ままに音楽を楽しんで欲しい、という事も書いてあった。
 他の注意事項としては、寒さに弱い楽器などにも注意を、との事。
 時間は正午頃から開始。時間は夕暮れ前まで。音楽の傍ら、おしゃべりもできたら嬉しい、という言葉に「可愛い」と思った人も居たとか居なかったとか。
 ほむら達はその依頼を受ける事にして、準備の為に一度自分達の住居へと戻るのだった。

GMコメント

 久しぶりに日常系の依頼となります。
 楽しんでいただけましたら幸いです。
 ハーモニアの少年ネイザーは、「Song of Green Day」に登場したハーモニアの少年です。該当シナリオを参照せずとも問題ありません。

●達成条件
 音楽会を共に楽しむ

●開催場所について
 場所は深緑。
 森林の中に少し開けた広場があります。開催場所はそこになります。
 広場までは看板があるのでイレギュラーズは迷わず到達する事が出来ます。
 広場の中央にはネイザーが準備したかがり火があります。大きさは一メートル弱四方ほどになります。イレギュラーズがかがり火を少し大きくする手助けをしても構いません。
 雪はありますが、広場の分は地面が見えるようによけられています。周囲には雪山が出来ており、ソリで遊べそうな高さです。

●音楽会について
 歌、踊り、演奏など、音楽に関係していれば何でも良い。
 音楽と音楽の間の時間に、談笑を挟んでも良い。
 楽器が無い場合、手拍子での参加も可。

●ネイザー
 ハーモニアの少年。音楽と動物が好き。
 夏にした交流が忘れられず、この度、再びの交流を望んだ。
 ハープの他、木製のオカリナや木琴(木製の打楽器)などを使用する予定。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • Music on the snow完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年02月28日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
エリス(p3p007830)
呪い師
クロエ・ブランシェット(p3p008486)
奉唱のウィスプ
ナイアル・エルアル(p3p009369)
新たな可能性
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
マキシマイザー=田中=シリウス(p3p009550)
漆黒の堕天使

リプレイ

●君に会いに行こう。この雪道を歩いて。
 その場所までの道は簡単だった。何せ看板があったから。
 雪に埋もれし森の中。されど、人が通れる道幅分は整備されていた。少年がしてくれたのか、あるいは別の住人か。
 『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)は、後ろを振り返り、「大丈夫?」と声をかける。
 彼が特に心配しているのは『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)だ。Я・E・Dは持参した大きな鍋の他、大量の食材を持ち込んでいる。既にカット済みの為、あとは鍋に入れて火にかけるだけでいいらしい。ちなみに、使う水も用意できているようだ。
「大丈夫。問題ない」
 大きな荷物を抱えているにも関わらず大きく頷くのを見て、少し不安が残りつつも信じる事にしたほむら。
 進む視界の中で、少しばかり見えてきた明るい光。おそらくは、あそこが件の依頼人である少年が居るのだろう。
 『漆黒の堕天使』マキシマイザー=田中=シリウス(p3p009550)が移動の合間に話しかけてくる。
 聞けば、この世界に召喚されてさほど日数が経ってないそうだ。
「ここは深緑って国で耳の長い種族が住んでるってことでいいのかな?」
「うん、そんな感じに捉えてくれて大丈夫だよ」
 彼の質問に答えてくれたのは、ハーモニアの男性である『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)だ。音楽会と聞いて、密かに心躍らせている彼は、どんな音楽を皆と楽しめるのか、楽しみで仕方がなかった。
 辺りの景色を確認しつつ、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は今回の依頼について思いを馳せる。
(戦いばかりでは疲れるしな)
 たまにはこういうのもいいかもしれない、と。
 気楽にしようと考える彼。
 彼の前には少女が二人。冷えないように厚着をし、手袋を嵌めて、心躍らせている様子を見せている。
「動物さんに会って撫でてみたいです」
「いいですね。私も話をしたりしたいです」
 女の子という事で話が弾んでいるのか、『地平線の彼方』クロエ・ブランシェット(p3p008486)と『呪い師』エリス(p3p007830)の話は先程から途切れる事が無い。
 『新たな可能性』ナイアル・エルアル(p3p009369)は冬服で体が少し重いのを感じながらも、この世界に来てから初めて見る雪景色を楽しんでいた。
(悪くない景色だな)
 自分達を待つという少年が用意してくれた場所もそんな風に悪くない景色だろうか。そう思うと、足がついついステップを踏みそうになる。
 彼らの様子を後方で見ながら、『新たな可能性』イズマ・トーティス(p3p009471)は微笑んでいた。
 この寒さ、彼には耐性があるから問題は無い。そして、楽器もいくつかを持参してきた。手に持てるサイズのみを持ってきているので、音楽会の開催時には様々な音で楽しむ事が出来るだろう。
 皆の歌や演奏を共に聞き、楽しめる時間を想像するだけで、彼は心弾む思いであった。
 気付けば、依頼に書かれていた場所まで見えてきており、皆の足がついつい速くなる。
 やがて辿り着いた広場には、ハーモニアの少年と、彼を取り囲むように集まる小動物達が鎮座していた。
 暖を取っていたかがり火の前から入口まで移動して、少年は笑顔でイレギュラーズを出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。ご依頼を受けてくださってありがとうございます。
 ネイザーといいます。今日はよろしくお願いいたしますね」
 深緑の住人にしては少し日に焼けた肌が印象的な少年だった。ニコッと笑う少年――――ネイザーに、イレギュラーズもまた、「よろしく」と返すのだった。

●準備は一手間だけど、それは一つの交流でもあり
 広場の中央にかがり火はあり、辺りの雪は大体が隅へと寄せられていた。人の高さまでこんもりと積もった雪山は斜面を描いており、何か道具があればソリ遊びでも出来そうな感じであった。
 かがり火の周りには座れるように用意された椅子が人数分。それから、荷物が汚れないようにと少し大きめのテーブルも置かれている。助かる、と皆が荷物を下ろしてテーブルに乗せていく。
 大きな鍋を抱えたままのЯ・E・Dが、かがり火の大きさを見て、何やら考えこむ。熱心に見つめているものだから、ネイザーから声がかかった。
「どうしました?」
「鍋を持ってきたから置きたいんだけど、火の大きさ足りるかな?」
 Я・E・Dが持参した鍋の大きさを見て目を丸くしたネイザー。彼はかがり火の大きさが鍋を十分に熱する事は出来なさそうだと考え、「難しいかと」と答える。
 話を聞いていたサイズより、提案が一つ。
「なら、もう少しかがり火を大きくしようか? これ以上広げると火事になる?」
「いえ、少し広げるだけなら大丈夫かと。注意は必要になりますが」
「わかった。それじゃあ、周りから枯れ枝とかを集めてこよう」
 彼の持つ妖精鍛冶屋の種火があれば強火にする事も出来るだろうが、本来は鍛冶をするのに特化したものだ。火事になる恐れを回避すべく、地道に枯れ枝を集める事にする。
「私も手伝います」
 エリスも挙手し、クロエもと名乗りを上げる。人手を得て、三人で周りから枯れ枝を探し、拾い集めていく。
「じゃあ、わたしは鍋の準備を……」
「俺も手伝う。鍋に食材を入れるなら、その重さに耐えられるような設置が必要だろう?」
 Я・E・Dの鍋の準備について、ナイアルが手伝いを申し出る。
 ならば男手が必要だろうという事で、あれよあれよという間にЯ・E・Dとネイザー以外の男達で設置してしまった。鍋が倒れたりしないように左右に二叉状の太い枝を設置して石で固定し、鍋の取っ手に太い棒を通して鍋を火の上に乗せる。
 丁度三人が集め終えた枯れ枝を使って火を広げると、火力が増した。
 具材と水を入れて煮込んでいくЯ・E・D。煮込んでいる間に何か歌や演奏を始めようという事になり、まずは主催者であるネイザーがお手本として木製のハープをかき鳴らした。周囲にいた動物達も、その音に惹かれるように再び集まり、イレギュラーズの間に入ったり、ネイザーの隣に座ったりしている。
 奏でられる旋律はゆっくりではあるが、高音のみで構成されている曲のようだ。そしてそれに合わせて少年の口が動く。
 唇から零れる歌声は澄んでいる。彼が唄っているのは、迎える人を好意的に受け入れる歌。
 始まりに相応しい曲が終わった時、皆から拍手が贈られる。
「じゃあ、まずは自己紹介からいこうか。最初に言いたい人はいるかな?」
 イズマが周りを見回す。
 「ハイ!」と元気よく手を上げたのはクロエだ。彼女は椅子からぴょん、と降りて立ち上がると、ハキハキとした声で名乗る。
「私はクロエ・ブランシェットと言います。皆さん今日はよろしくお願いします」
 屈託の無い笑顔に、誰もが目を細めて笑う。
 椅子に座る彼女と入れ違いで、次は自分だ、とウィリアムが立ち上がる。
「ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ。よろしくね」
 彼に続けとばかりに、次々と立ち上がって順番に自己紹介がされていく。
「俺はサイズ。よろしく!」
「俺はマキシマイザー=田中=シリウスっていうんだ! この世界に来てまだ日が浅いけど、今日はよろしくね!
 あ、俺の事はシリウスって呼んで!」
 二人の自己紹介の後、Я・E・Dが立ち上がる。視線は鍋と皆を行ったり来たり。
「Я・E・D……だよ。鍋を用意したのは、わたしは歌うとお腹が空いちゃうからなんだ。食事会と間違えているわけじゃないよ。大丈夫」
 何故か胸を張るЯ・E・D。それを見てネイザーが「面白い方ですね」と笑う。
 次はナイアルが立ち上がった。
「ナイアル・エルアルだ。自由に踊っていいみたいだから、是非踊らせてもらう」
「踊りなら私も負けません。故郷の歌と踊りを披露して見せます。
 あっ、名前を言うのが遅れました。エリスです。よろしくお願いします」
 ナイアルに負けじと、エリスも自己紹介を。
 ほむらが立ち上がる。
「暁月ほむらです。歌も演奏も不慣れで拙いですけど、よろしくお願いします」
 そう言って微笑み、頭を下げるほむらに対し、皆歓迎の笑顔を向ける。
 残るは一人。
 注がれる視線に、彼は苦笑を浮かべてみせた。
「はは、トリになってしまったね。イズマ・トーティスだ。よろしく」
 温厚な笑みを浮かべる彼に、皆大きく頷いた。
 自己紹介も終わり、鍋を確認する。容量が大きい事、中に入っている量が多い事もあり、なかなか煮えるに至らぬようだ。
 煮えるまでゆっくり交流をしていくのがいいだろう。
 歌や演奏、踊りなどを各自披露する流れとなっていく。

●楽しさも温かさも皆で分け合って
 真っ先に名乗りを上げたのはクロエだった。彼女は自己紹介の時と同じく一番手となった。
 彼女は立ち上がると、可憐な唇を開いて歌声を紡いだ。

♪北風さむーい冬は皆で寄り添おう

 その歌い出しから歌のリズムでも感じたか、ネイザーがハープで音をつけてくれた。
 彼女の歌うのに合わせて、荷物からタンバリンを取り出したイズマがリズムに合わせて叩く。

♪焚き火を囲んで仲良しこよし 歌を歌い
 雪解け夢見る花のように 心に希望を持ち続けて
 キラキラキラキラ 春はもうすぐ

 その歌は春を待つ歌だろうか。
 音楽や合いの手が入った事で、より春を待つ心が感じられた。
 贈られた拍手に「えへへ……」と照れ笑いを浮かべるクロエ。
 彼女の明るい歌に引っ張られるように、今度はエリスが立ち上がる。
「こちらも明るい歌でいきますね。それじゃあ、今度は私の歌と踊りを披露しましょう」
 元の世界では「封呪の巫女」としての役目を担っていた彼女だが、ここではその役目に囚われる事も無い。
 故郷の踊りを軽やかなステップで踏みながら、同時に歌う。彼女がかつて住んでいた故郷に伝わるのは、森の恵みに感謝する歌だ。
 その表情は生き生きとしており、彼女にとっての故郷がどんなものであったかを想起させる。
 彼女がステップを踏みやすいようにウィリアムの手拍子が入り、周りからも同様に合いの手が入る。
 タタン、とステップが終わった時、惜しみない拍手が贈られた。
「僕の居る所も森の恵みに感謝する歌があるので、親近感を覚えました」
 似たような曲を知って嬉しいのか、ネイザーの笑みはとても嬉しそうだった。
 彼女の踊りに触発されてか、ナイアルが「次は俺が」と告げて立ち上がる。
 慣れぬ冬服に慣れる為、まずはトントンと軽く跳ぶ。動物達も彼の動きを警戒せずに見つめてくれるので、一安心だ。
(観客が動物達、というのはかわいいな)
 自分の居た以前の世界では大体が人の観客であった。この場所で、人だけでなく動物も観客な事が、なんとなく嬉しくて、そして張り切る原動力になった。
「ちょっと誰か、何でもいい、演奏をしてもらってもいいか? 適当でいい」
「あー……不慣れだけど、俺でもいいなら」
「よし、じゃあ頼む」
 申し出たサイズに願う。
 サイズは、ここに来る前に作った小さめの鉄琴を取り出すと、それに合わせて用意した打つ道具で音を奏で始めた。
 高く響く音。しかし、軽やかに音が跳ねて、演奏しているサイズの気持ちも自然と上がっていく。ステップを踏みやすい、明るい曲。
 合わせるようにイズマのタンバリンによる低い音が奏でられる。周りもそのリズムから自然と手拍子も揃っていった。
 ナイアルの足がトントンと地面を蹴る。足の動きは次第に体全体に移り、地面を蹴るに至る。
 片足で地面を蹴り、もう片足を腰まで上げてくるりと回る。時に上半身を反らすなどして、緩急をつけて。
(以前の世界の俺の舞は、死んだ人を空に還すための神聖なものだった)
 祈りと感謝と鎮めの歌に乗せて、羽ばたく鳥のように軽やかにしなやかに舞い踊るもの。
 それが彼の故郷での踊りだった。
 だが、今、彼が居る場所は故郷では無い。
 自由気ままに踊っていい。その開放感に、心が澄み渡る。さっきまで重く感じていた服が羽のように軽くなって、ステップを踏む足も音につられて自然に動いていく。
 今心に満ちる感情を、どう喩えよう。
 喩え方が思いつかないままに彼は踊る。その動きはどんな者も虜にする程の美しさを持っていたのを、彼は知るだろうか。
 盛り上がる音。フィナーレと共に手を横に伸ばしてポーズを決めるナイアルへ惜しみなく贈られる賞賛の拍手。
 息を切らしながら、礼をして、椅子に座る。
「お疲れ様」
 ほむらが労い、彼は微笑みで返す。
「では、次は僕が」
 彼はライアーを構えると、ネイザーに「深緑の歌でもいいかな」と尋ねた。
 もちろん、と返された言葉に感謝して、奏で始める。弦を弾いて響く音。高く、低く、調整を繰り返してから彼は指を滑らかに動かした。
 その曲は冬が終わり、春を迎える喜びを伝えるもの。
 シリウスが唇から歌を紡ぐ。神に届ける為に与えられた方法のそれは、歌声というよりは、コーラスのような「ラララ」「ルルル」といったものであったけれど。
 でもそれで十分だった。ウィリアムが奏でる曲には、歌詞よりもそういったコーラスのようなものが似合っていて。
 終わった頃には、辺りは早く春を迎えたいという気持ちを覚えていた。
 ウィリアムとシリウスに贈られる拍手に、二人は顔を見合わせてはにかんだ。
 Я・E・Dが、「じゃあ、今度は私」と手を上げる。
「わたしが歌う歌は物語の原型。文字が無かった人々が口伝だけで伝えた民話だよ」
 そう言って彼女が告げ題名は『クモの女神』。
 短いメロディーに載せて繰り返しの文句を合いの手に入れながら歌う韻文形式の物語。
 寒い雪の国の人々が囲炉裏の前で歌い繋いできたもの。
 シリウスの口笛がメロディーを、繰り返す言葉の合いの手をエリスが入れて。
 そうして三人で紡がれた歌は、クモの女神を讃えていた。美しく、時に恐ろしく表現されるその女神が、曲を通じて伝わってくる。
 締めくくられた言葉に、ほぅ……と感嘆の声があちこちから零れた。
 クロエの一生懸命な拍手に、Я・E・Dもシリウスもエリスも満更ではない顔を浮かべてみせるのだった。
「歌ったところで、お腹が空いた。ちょうど煮えたから、皆で食べよう」
 見れば、鍋はぐつぐつと煮えたぎっている。
 深皿によそい、一人ずつ渡していく。
 寒い中で、温かい味が身に染みこむ。
 先程とは違う感嘆の溜息が、全員の口から零れた。

●少しずつでも距離を縮めて
 温かい料理を少しずつ身に入れていきながら、演奏会は続けられる。時には雑談へと興じる事もあった。
 ほむらの歌を聞かせてと、ネイザーに言われて歌った唄は、大切な者を待つ、春の唄。希望が差し込む唄に、少年は「良い歌ですね」と笑ってくれた。
 雑談の合間には、近付いてきた牛が頭を撫でろとばかりに頭を向けてきたりするような場面もあったが、クロエやエリスに目一杯撫でられて満足したように低く鳴いた。
 暖を求めてやってきた猫達がナイアルやシリウスの膝の上に乗ってきたりもした。人懐こい性格なのか、額を撫でただけでゴロゴロと音を鳴らす程にリラックスする猫達。
 イズマが演奏の為にカウベルを鳴らせば、牛が彼に寄ってくる。君を呼ぶためのではなくてね、と説明する彼の顔を牛は問答無用と舐めてきた。
 あまりに何度も舐めてくるから、彼の顔はびしゃびしゃだ。ネイザーが止めてくれなかったら多分頭全部が牛の唾液だらけになった事だろう。
 持ってきたタオルで一生懸命拭く。一連のイズマの様子がおかしくて、思わずサイズが笑い声を上げた程だ。
 Я・E・Dは鍋料理に興味津々の兎に「ダメだよ」となんとか追い返そうとしている。結局、とっておいた食材の一部(葉野菜)を上げる事で納得して貰えた。
 そうして時間は過ぎて、終わりの時間が迫る。
 約束の時間であったとはいえ、別れの寂しさを誰もが覚えていた。
「きっとまた会いに来るね、ネイザーさん」
 クロエの言葉に、「楽しみに待っています」と返すネイザー。
 ナイアルが晴れ晴れとした顔でお礼を述べる。
「いい時間だった。ありがとう」
「うん、そうだね楽しかったよ。貴方はどうだった?」
 横から現れたЯ・E・Dが彼に問う。
 彼は迷わずにこう答えた。
「もちろん、とても楽しくて、素敵な時間でした」
 それぞれで別れの言葉を口にして、イレギュラーズは来た道を戻る。
 時々振り返れば、未だに手を振るネイザーと動物達の姿が見えた。
 進む度に振り返ると、小さくなっていく。
 胸の奥を言いようのない寂しさがチクチクと刺す。
「また会えるかな」
 それは、誰の言葉だったのか。
 もし、また会えるなら。
 今度はどんな時に会うのだろうか。
 そんな思いを抱きながら、イレギュラーズは日の暮れてきた道を歩いて行く。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。皆さんと共に楽しめて、ネイザーも満足したようです。
もしかしたら、また何か機会がやってくるかもしれませんね。

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