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シナリオ詳細

再現性東京2010:星を見る少女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●A-net
 http://adept???.net

 希望ヶ浜の怖い噂を教えてくれ

 276:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx

 星を見る少女とか!

 ――それは、『飴村事件』と題された中身のない都市伝説についてのスレッドである。再現性東京の2010街である希望ヶ浜では『在り来たりな日常』を謳歌することを望む者が多いはずであった。だが、匿名掲示板で不可解なことに『誰も知らないのに、知っている様子』で架空の怪談が作り出されていったことをグレイシア=オルトバーン(p3p000111)は知っている。
「それで、グレイシアさんが気になったのは『星を見る少女』?」
「ああ。これは良く在る都市伝説の一種だろう。『マンションの一室の窓から見つめる女性』『オリオン座を見つめる少女』とも呼ばれている物だと言う」
 希望ヶ浜の中では日常的に使用されるインターネット、通称『A-net(アデプト-ネット)』を利用して調べた結果得られた情報である。
 それが飴村事件のスレッド内では何度もその情報が散見され、さも、その少女が飴村事件の被害者であるかのように取り扱われていたのだ。
「以前、対処に当たった怪ビルに彼女がいたことがあると言う情報や、其処から異世界に繋がっているという荒唐無稽な物もある」
「へえ……じゃあさ、あれだね?」
 その時、グレイシアは奇妙な心地になった。荒唐無稽なことを言い出す少女という存在が傍らにいることになれてしまっている自分がやけに情けなくも思えたのだ。

「――異世界に行ってみるしかない!」

●『飴村事件』
「と言うわけで、事件です」
「の、様だ」
 カフェテーブルに着席してノートパソコンを覗き込んでいるグレイシアの傍らでなじみがにんまりと微笑んで居る。
「飴村事件っていうのは『口にするのも憚られる恐ろしい事件』だと誰もが認識してしまう聞いてはいけない系怪談の一種だそうなんだ」
「……例えば、牛の――」
「寝れなくなるからだーめ!」
 グレイシアが告げようとしたように、そう言った怪談はいくつかある。誰も知らないはずなのに、どうしたことか『皆知っている』と認識する怪談、それが希望ヶ浜の匿名掲示板で流れている飴村事件だ。
 そうした匿名掲示板の中で語られる都市伝説は幾つも存在する。
 グレイシアが幾度も調査で目がとまったというのは『星を見る少女』と呼ばれる怪談だ。
 簡単に説明をすれば『星が美しい夜にある男が星を見ようとして、マンションの窓から外を見遣れば同じようにマンションの窓から星を見ている少女がいた。彼女は何時も星を眺めて居て、男は気になって会いに行くことを決心したが――訪れたマンションでは少女は首を吊っていた』というものである。そもそも、首吊りでは『星を見る』事ができないのでは無いかとよく言われるが……。
「どうやら、これを発端にした事件があるらしい」
「そうなのです。しかも、二個!
 ひとつめは星を見るために首を吊るという何とも恐ろしい事がね、起こっているみたいで。
 それから、もうひとつは『それは異世界に行くため』の行いだった……って事なのだよ」
 どういった物だろうかとなじみは困ったようにもごもごと繰り返す。
「異世界、って言って皆信じる?
 その『星を見る少女』が入り口になって、彼女と目が有った人は裏世界に連れて行かれちゃうっていうお話が掲示板に書かれていたんだ。其れに憧れて首を吊る人が多発してるし、その場所を聞いて、異世界へ連れてって貰おうとする人も凄く多いみたいでね」
 なじみ曰く、飴村事件の際と同じだがスレッドに描かれたことが全て『本当』の事のように起こっているのだという。
 何らかの夜妖の仕業なのだろうが――A-netを介するせいでそれがどのような存在であるかを掴めていないのだそうだ。
 A-net等の情報サービスを提供する『佐伯製作所』に調査依頼をする前に、事前にこの都市伝説の情報を解明してこようというのが本件である。
「とりあえず、首吊りについてはどうしようもないので……異世界――希望ヶ浜の裏世界側の調査をしなくっちゃいけないのです。
 裏世界がどんな場所かは分からないんだけれど、そこに行ったって人のレポートがあって……。
 石神駅みたいな、異世界の駅に連れて行かれたっていうのと同じだよね! 『星』を拾ったから帰ってこれるらしいんだ。
 だからね、皆は星を拾って帰ってきて欲しいんだよ。なじみさんも一緒に行きたかったんだけど足手纏いになるかも知れないから今回はお留守番」
 イレギュラーズだけで調査に行って貰った方が『足手纏い』が居なくて安全だと思うとなじみはそう言った。

●『裏世界についての書き込み』
 星を見て居る彼女が、連れて行ってくれた。
 一見すれば普通の街のようだった。草木が生い茂っていて、荒廃している以外は知っている希望ヶ浜だった。
 歩き回っているうちに、奇妙な奴と擦れ違うことが増えた。
 怖かったから、裏通りを抜けた。

 そしたら、学校があった。希望ヶ浜学園。
 入ったこと無かったけど、入ったら、その中にも奇妙な奴は多かった。
 隠れながら屋上に辿り着いたら、星を見ている彼女が生きて立っていた。
「星をあげるね」と言われて、俺は元いたビルに戻ってきていた。

GMコメント

 夏あかねです。『再現性東京2010:飴村事件』より派生しましたが繋がりはあんまりありません。
 <希譚>が『元から用意されていた存在』ならば、こちらは『今から作り出される存在』です。

●成功条件
『星』を手に入れて裏世界から帰ってくること

●『星を見る少女』
 一般的な都市伝説と相違ありません。ただ、彼女を見た者は『裏世界』に連れて行かれると言われています。
 少女が出るのはあるビルの一室です。鍵は開けっぱなしで、どうやら幾人かの出入りがあるようです。
 少女は黒髪黒目、特徴があるわけではありませんが、それが首吊りを終えたあとの体だと思えば綺麗すぎる程に不自然です。
 ――此の噂が書き込まれてから同じような遺体が見つかることが増えたそうです……。

●『裏世界』
 スレッド書き込みより。便宜上裏世界と称します。それは『飴村事件』という誰も知らないのに知っている風に展開される怪談の中に存在した書き込みです。
『星を見る少女』と目が合うと、裏世界と呼ばれる荒廃した希望ヶ浜に連れて行かれると言う情報です。
 希望ヶ浜で有ることには変わりないようですが、草木が生い茂り、人気はありません。ただ、『奇妙な奴』と称された何らかが闊歩しているようです。大凡、夜妖や怪異の類いで在る事が推定されます。
『裏』希望ヶ浜は通常の希望ヶ浜とは大きく違いは無いようですが、それでも、可笑しな部分は多々あります。文字化けをして居たり、
aPhoneが使えなかったり……。不便ではありますが、同時に恐ろしくはありますね。

 希望ヶ浜学園の屋上に辿り着けば星が貰えるそうです。
 ただ、奇妙な奴は希望ヶ浜学園の中にはとても多く存在するようです。
 また、飴村事件と同様にスレッド内に存在したことが現実に起こるという『夜妖』による何らかの仕掛けがあるようです。

●奇妙な奴
 敵勢対象と推測されます。詳細は不明です。

●『飴村事件』
 オカルト掲示板に『中身も存在しないのに皆知っている気がするとても恐ろしい口にしてはいけない怪談』として語られてる事件。
 どうしてかそれは目を引き、『それに纏わる夜妖の噂』を書き込みたくて仕方が無くなります。そして、その噂は本当に夜妖を生み出しているようですが……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

それでは、新たな『噂』を見つけにいってらっしゃいませ。

  • 再現性東京2010:星を見る少女完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月01日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
夏川・初季(p3p007835)
星さがし
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
九重 縁(p3p008706)
戦場に歌を
アイザック(p3p009200)
空に輝くは星

リプレイ


 ――異世界とは、なんであろうか。

 なじみが揶揄うように『裏世界』と告げたその言葉を繰り返して『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)は「どんな場所なんだろう」と呟いた。
 希望ヶ浜と同じような場所だというお賭場を信じるならば『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は準備を怠るのは得策ではないと感じていた。荒廃した希望ヶ浜という事は、何かしら現実と関連のある場所なのだろう。ならば、と希望ヶ浜学園の敷地内や目立たぬ位置に紐を括り付け、突入場所となる地点にも目印として落書きを図や記号で行っておいた。
「今から行くのはええと、ここじゃない場所……てのは分かった。あとは流れでどーん!」
 そう勢いよく言った『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)はグレイシアが何しているのかを確認して「書いていいの!?」と瞳をきらめかした。彼女にグレイシアがとっている内容の意図が察されることはなさそうだが――楽しそうなルアナは『おじさまだいすき(はぁと) ルアナ』と書いた。
 ついでと言うように『ルアナだ』まで書いたところで「ルアナ」とグレイシアの叱るような声が降る。
「……強く咎めるつもりは無いが、落書きに名前を記載するのはどうなのだろうか……」
「え、えへへ……」
 二人が準備を整える様子を眺めながら『都市伝説“プリズム男”』アイザック(p3p009200)は周囲を見回して感嘆したように息を吐いた。再現正当虚うは自身が居た世界と似ている。そう感じることがあるのだ。アイザックはある世界では都市伝説であった。
 再現性東京と似たような世界よりやってきて、自身と同じような存在である夜妖が蔓延る世界を俯瞰している何とも言えない気分。
「しかし、語られるに足るかを本当の意味で決めるのは『ひと』だ。『おはなし』側じゃない。
 ……だから『ひと』側が見定める為、情報が欲しいのなら、手伝うのに抵抗はないよ」
 アイザックは危険産む問わずにして、怪異の誕生自体は止めようとは考えては居なかった、しかし、ヒト側に『産ませよう』とする『おはなし』は看過出来なかった。ヒトが決定権を持たずにしてお話が生まれ落ちることは赦しておけないことだからだろう。
 aPhoneをすいすいと滑らせて情報をチェックする『月下美人の花言葉は』九重 縁(p3p008706)。面白おかしく書き込まれる其れが現実になっていることなど人間は誰も想像していないだろう。
「別世界、裏世界……。ちょっと怖いものはありますね……」
「こういうオカルトめいた話は元の世界でも聞きましたが……とりあえずは生きて帰還しないと、ですね」
 地図の確認をする『星さがし』夏川・初季(p3p007835)。うさわのビルから希望ヶ浜学園までは一直線だ。ただ、道路や建物の関係上、多少の迂回は必要とされるが――それは『今から行く場所』にも大差は無いだろうか。
「しかし、『星を見る少女』ね……噂だけは聞いた事あったけどよ。
 眉唾だと思っていたが、なじみの情報っつーんじゃ放っちゃおけねえか。
 サクサクっと終えられりゃいいんだが……まぁ、そんなに甘かったら俺達にお鉢が回ってくる訳は無えよな」
 情報提供者側である綾敷・なじみは『裏咲々宮一刀流 皆伝』咲々宮 幻介(p3p001387)にとって良きビジネスの相手である。気安い彼女は友人と表現しても構わないほどに身近な存在でもある。
「しかし、『星』ねぇ……まさか実際に星を貰える訳じゃあるめえし、どういうモンなんだかな」
 星――とアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は呟いた。星とは時として希望や稀人の隠喩であるとされている。ならば、この星とは何であろうか。故郷では神代に天から落ちた禍星が甚大なる被害をもたらしたともされていた。良き意味合いもあれば悪い意味合いもある。星とはそんな存在だ。
「考えても意味が無いのかも知れないが……」
「そうですね……何かの伝承を元にしていたとしても、掲示板の流れ一つで変化してしまうと何かを掴むことも難しいです」
 縁はそう呟いてから小さく息を吐いた。寂れたビルの一室の扉は重厚な造りであった。その扉だけ、まだまだ真新しい印象を受けたものだ。まるで自身を誘い込むような雰囲気だろアイザックはぼんやりと感じていた。
「準備OKだよ!」
 明るいルアナの声にグレイシアが最後の『目印』を一つ付けてから立ち上がる。頷いた縁はドアノブに手を掛け、
「でも脱出できたという情報があるならまだよし。深夜の冒険へと繰り出そうではないですか」
 ゆっくりと、扉を開いた――


 ぶらん、と宙に浮かんだ女のシルエットは余りにも不自然だった。首吊り死体――ロープが括り付けられたカーテンレールはその体重に傾ぐこともなく、依然として確りとした強度を保っている。手足をだらりと垂らした女は眠っているかのように美しいまま存在して居た。
「これが星を見る少女……」
 幻介は小さな声で呟いた。何とも胡散臭い話だとは感じていたが、彼女を見ればその気持ちも払拭される。怪異だ。間違いない。そも、首吊り死体がこんなにも美しく存在して居るわけがないのだ。頭の位置は天を目差し星を見上げるようである。首が持ち上がることは有り得やしないのだから。
「……このすれっどを読んでいる感じなら、連れて行ってくれるのは……」
 慣れない手つきでaPhoneを触っていた津々流は彼女を真っ直ぐに見詰めていた。裏世界があるならば現実世界は『表世界』だ。表裏一体の造りをしていると考えるべき奇妙な異世界に構える津々流へと『ぐるり』と女の顔が向いた。
「びゃあ」とルアナが叫んだと同時――女の姿は消え失せる。ゆっくりと歩み寄った津々流は窓の外を見てぱちりと瞬いた。先程まで無数に輝いていた街の灯りは消え失せて、鬱蒼とした夜が其処には存在して居る。朽ちたビルディングや歩道橋に伝う蔦。それが希望ヶ浜に慣れていない津々流にとっても『異世界』であるのは容易に察することが出来る。
「さて、『奇妙な奴』であったか。それらから姿を隠して進まねばならないな」
 グレイシアに小さく頷いたルアナは事前に掲示板に「裏世界に行ってくる! 奇妙な奴って音で周囲を感知してるなら隠れたらやり過ごせるよな」と書き込んでいた。「子供くらいの大きさから成人サイズまでなら人間と変わりないか」と続けて書き込めば、それが当たり前のようにスレッドが続いていく。スレッドの『住人』達のノリの良さも手伝ってその情報は固定されたかのようにも感じていた。
「チームを分けて行動するか」
 幻介に初季は頷いた。鴉と鼠で周辺の索敵を行う初季は「一先ずこの部屋からの脱出ですね」と呟いた。地を這う鼠はビルの中にも奇妙な奴が入り込んでいるのだと知らせてくれる。その奇妙な奴とは何であるのかが分からない以上、相対することがないようにルートを調べておきたいが――
「……静かに。近そうです」
 縁はぴたりと足を止めた。そう、ルアナが言った通りに『音』を頼りにして居る者。それは耳が良く、発達した聴力で探しているのかも知れない。息を潜めて確認する。ずるずると何かを引き摺る音。地を這う鼠が道の端に良ければ黒い靄の様な存在が通り過ぎていく。
 aPhoneを静かに起動させていたアイザックは電波が立って居ない事に気付く。カメラ機能やライト機能は使用できるようだ。
「――行ったか」
 アーマデルはそう呟いた。念のために感知できる範囲でその音が聞こえる内は動かずに居た訳だが何とも得体の知れない存在だ。
「コチラを感知していないから敵意も何も感じなくて、感知することが出来なかったよ」
「ええ。音はしましたが……そうですね、観察しても黒い靄が動いているという事しか分からなかった。対話出来るかも――いえ、それが生命体なのかすら分からなかった」
 此処はどんな世界なのかと縁とアイザックは顔を見合わせた。グレイシアは「場合によっては、此方での行動が現実に影響を与えるやもしれん」と指したのは部屋の外に存在した落書きだ。ルアナが楽しそうに描いた『おじさまだいすき』の文字が躍っている。
「わ、本当だ……」
「何か変わった物があれば、一度見ておきたい……もし見つけたら、声を掛けるように」
 ルアナはこくこくと頷いて、ビルの外に見えた窓を見遣る。「……あそこの窓がぐにゃーんとしてるとかそういうやつ?」と指した其れにグレイシアはううんと小さく唸った。
「…出来れば、吾輩が近くで観察できるものが望ましいな」
 よく見遣れば文字の違いなどが多く目立つ。バベルの効果を発揮していないという事だろうか。『えーふぉんてん』と呼ん津々流は目を耳、鼻を生かして『奇妙な奴』を探し続ける。偽書を使用しての弱い情報収集ではそれが『何らかの集合体』で在る事を察する事ができる程度であった。
「情報の集合体か、実物がないようにも思えるな」とグレイシアは津々流へと応えた。
「じゃあ、やっぱり……此処は全て何らかの情報なんだね……。あまり、『食べてみる』のは得策じゃなさそうだけれど」
 調査を行いながら進む三人の前線を威力偵察を行い続ける幻介は出来れば戦闘避けていたいと索敵を続けていく。攻撃を使用することがなきようにと考える幻介はふと、呟いた。
「そういや、こんな『噂』を耳に挟んだ事があるんだが。
 何でも、死んだ筈の大切な奴が遠目に現れて、逃げるから追い掛けていくと二度と帰って来れねえとか……まさか、ソイツもこの『裏世界』に関係してたりしてな?」
「死者かあ……」
 ルアナは小さく呟いた。津々流は黄泉に取り込まれるんだねと呟く。此処が黄泉であれば、其れは恐ろしい事だが帰り道が分かるならば――安全なのかもしれないが……。

 此処がどんな場所かを知りたかった。アーマデルは異界に余り長居はしない方が良いと仲間達に提案していた。
「死者の領域で飲食すると戻れなくなる、と言うだろう? 飲食に限らず、異界のものを摂取し浸食されるほどに、常世のものから離れていくから」
 故に、覗き込みすぎるのは危険だと彼は言う。ルナ・ヴァイオレットに騎乗していた縁は「何処にもかしこにも『奇妙な奴』が居ますね。普通に生活しているように見える」と小さく呟く。
「ええ。おかしな感覚です。奇妙な奴は生活をしていて、学校にも通っていて……まるで、私達が『奇妙な奴』みたいです」
 初季の言葉にアイザックは「ああ、そうなのかもしれない」と呟いた。裏と表、世界が相反する場所であるならば、そもそも、表よりやってきた自身らは彼等にとっての異質な存在であるのではないか――と。この『裏』がどうして存在するのかは分からないが、この世界から『表』に出た者が居たならば『奇妙な世界』に『奇妙な奴』が居ると感じるのではないだろうか。裏の世界に飲み込まれて仕舞うように、気付けば足下さえも昏くなる。
「僕達は此処が何らかの怪異による場所だと思って突入した。けれど、怪異達の世界に僕達が踏み入れれば異質なのは僕達だ」
「ああ……だが、此処に誘ったのは『少女』だ。その理由が何処かにあるかも知れない――」
 アーマデルはぽそりと呟いた。「スレッドに書いてあったから?」と。

 怪談をゆっくりと昇りながら見知った場所だと幻介は感じていた。夜の校舎は静かだ。街に溢れる『奇妙な奴』も余り存在して居ないようにも思える。戦闘も出来る限りは避けてきた。ルアナが「スレッドに繋がるの」と呟いた言葉に、どうして其処だけ見られるのかと奇妙な心地であったが、新規書き込みを確認することで何となくそれらの性質を分かるような気がしたのだ。
 それらは通常通り生活している。姿を抜けば只の人間であるかのようだ。
 そして、それらの存在する世界はあまりにも希望ヶ浜らしかった。文字化けしており、バベルを用いても読むことの出来ぬ奇妙な空間。地図は同じ、裏世界で行った行動が表に何らかの影響を催すだろうという事は推測済みだ。
 グレイシアが『試した』行動がそれを示しているかのようである。津々流に言わせれば『裏と表だからこそなのかもしれない』と言うことだが――さて、何も変わらぬ希望ヶ浜学園の中は妙にしんと静まり返ってきた。
 先んじて此処を目指したであろう、縁、初季、アーマデル、アイザックとの合流を目指す四人は情報収集をし続ける。奇妙な奴は驚いたように『やけに人間的』に攻撃を行ってきた。此方を見て恐ろしいとでも言うように殴りかかってきたのだ。

 ――緊急ニュース。

 突然四人のaPhoneに通知が入る。「え」と最初に声を漏らしたのは津々流であった。
 先程、突如として交戦を強いられた場所で『現実世界で男が変死体になって発見された』というのだ。
 奇妙な心地でそのニュースを眺める四人は一先ず『現実に戻ろう』と顔を見合わせた。早く屋上に向かわねばならない。なんとも、嫌な心地だ。


 希望ヶ浜学園の屋上に彼女はいた。先程までビルの一室に存在した首吊り死体――その『生きた少女』が立っている。
「君は……」
 アイザックの声に気付いて少女は振り向いた。顔の部分は何かで真っ黒に塗りつぶされてどのような顔立ちであるかも分からない。だが、美しい少女なのだろうと感じていた――感じていた、否、『スレッドにそう書いてあったからそう認識した』のだろう。
 霊魂疎通を使用してみようかとアイザック考える。だが、彼女は該当しないか。そも、彼女は幽霊や其れに類する存在なのだろうか。
 相対したアーマデルはその声質を確かめるようにまじまじと見遣った。悪いモノではなさそうではあるが、さて。
「……名前は?」
 少女は答えない。少女の名前は『スレッドには定義されていないから』だ。名を問うても答えぬならば名前を名付ければ曖昧な存在の固定化を促すことが出来る筈だ。だが、彼女は首を振るだけだ。本来的には霊魂ではない、というのはアーマデルとアイザックの双方の結論だ。
(死者の霊ではなく、そも、『裏世界に存在する全てに霊という存在は居なかった』――この世界でどちらかと言えば異物の客人はこちらだからだろうか)
 緊張したように初季と縁は顔を見合わせた。追い付いた、と屋上へと辿り着いた幻介は何処か困った雰囲気の『B班』の様子を見て首を傾いだ。
「どういう状況だ?」
「その……敵意も害意もないようですが、どうにも名もなく、情報も余り得れないのです」
 肩を竦める初季にルアナは「ええー」と呟いた。グレイシアは少女が星を渡そうとする仕草を見て、「待て」と一声かける。
「此方に連れてきておいて、最後に星を渡して返すのは、一体どういう理由があるのか」
 問うたその言葉に彼女がピタリと止った。津々流は体を硬くする。どうしたことだろうか、彼女はその言葉を待っていたようにも思えた。
 縁は「貴方は囚われてしまった側なのか、それとも此処に既に居たのか。なぜ星を配っているのか、問うても良いですか」と問うた。
「此処に人を連れてきて、何がしたいのか……。問うことに、意味はないのかもしれませんが。
 もしなにかしたいことがあるなら、できれば力になってあげたいなって思います。貴女は悪い子ではないでしょう……?」
 ぞ、と背筋に何かが走ったが気のせいでありたかった。グレイシアへと強引に星を渡そうとする少女に縁が問い掛ける口が徐々に重くなっていく感覚を覚える。言葉を紡ぐことが此程苦であるとは如何にも、おかしな感覚ではなかろうか。
「――……おじさま?」
 渡された星がその効力を発揮する前に未知の物質であるからと、調査を用いたのはグレイシアであった。「待って」と声を掛ける津々流にルアナは「おじさま」と再度声を掛ける。
 昏睡するように倒れたグレイシアを支えたのは幻介であった。鮮やかな色彩を放った星が元の世界への回帰を手伝うように周囲を眩く包み込む。

 ――気がつけば、其処は先程まで立っていたビルの中だった。『星を見る少女』は存在せず、宙ぶらりんのロープだけが存在する。
「……おじさま!」
 ルアナが慌てたように横たわっていたグレイシアを揺さぶった。ゆっくりと目を開けた彼は「スレッド」と譫言めいて呟いた。

 636:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx

 裏世界の入り口は他にもあるんだって

 640:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx

 どこ?

 652:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3p000111

 スレッドに書かれてる通りだ

 ――全て、スレッドに書かれていることの通りに物事が進むと書き込まれたそのメッセージが新着で残されているだけだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)[重傷]
勇者と生きる魔王

あとがき

 お疲れ様でした。

 さあ、何が起こるんだろう……。

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