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シナリオ詳細

闇夜の反逆者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 満ちた月が空にかける。
 明かりを反射させた雪が大地を輝かせている。
 陣地の外――歩哨らしき2人が立っていた。
「計画は順調か?」
 片方が声をかける。
 壮年に入りかけているであろうか。ガタイの良いその男は、歴戦の装いを見せていた。
 その手にライフルを握りながらも、その視線は静かに油断なく周囲を見定めている。
「ええ、幸いにして気づかれておりません。
 行商を装うための馬車も、荷台の準備も出来ております。
 向こうもこちらを受け入れる準備が出来ているようです」
 もう片方も答える。その視線は真っすぐに相手の方を見ていた。
「よし……決行する。祖国には悪いが、我らには最早耐え切れぬ」
「……承知いたしました。
 ですが……分隊長、よろしいですか?」
 片方の言葉に頷いて、もう片方が一歩前に進んで答えた。
「分かっている。だが……貴官は耐えられるか?」
「それは――いえ、ここまでしたのです。もはや後戻りを出来る段階にはありません」
 悲嘆した様子でふるふると首を振った。
 そのまま何かを決めたように、顔を上げて真っすぐに相手を見据える。
「よし、それでいい。――まずは少尉殿を殺す。そして、そのまま国を出る」
 片方がその場を後にする。それを見届けた片方も踵を返した。
(――申し訳ございません、分隊長。
 俺は、貴方ほど覚悟を決められなかった)
 雪と土の混じる大地を踏みしめる音が、夜の闇に微かに聞こえてくる。


「エッダ・フロールリジ(p3p006270)大佐――貴官に国軍からの要請が届いている」
 ユリアーナ(p3n000082)の言葉にエッダの表情が普段(イレギュラーズ)のそれから、鉄帝国軍人(フロールリジ)のそれに代わっていく。
「これは私よりももっと遥かに上からの――そして貴官の兄君からの要請でもある。
 どうやら、我が国の内部から幻想へと降伏しようという者がいる」
「内通者か」
「いや、内通者としては少々どころではなく下位にすぎない。降伏したところで敵に益はあるまい。
 だが……問題は彼らに『上官殺し』の罪がかけられる可能性があることだ」
 そう言うと、ユリアーナがそっと資料を差し出した。
「これがその分隊の情報だ。計画は分隊内に周知されている。だがそれに耐え切れなくなった隊内の者から告発者が出た。
 君には――そして君達には彼に接近し、計画を阻止した上、その首謀者である分隊長の捕縛を願いたい」
「私が選ばれた理由は……」
「貴官は軍人である。そして同時にイレギュラーズ『でも』ある。
 今回の要請は鉄帝軍人として要請する物だが、外部に出ず、双方にいらぬ緊張を呼ばぬ者に願いたい」
 今はまだ冬だ。もう少しすれば春になるだろうが――それでもまだあちらを刺激するわけにはいかない。
 それゆえに、エッダという二つの立場がある方がいいということのようだ。
「どうだろう、フロールリジ大佐。この件、行ってくれるだろうか?」
 幾つかの書類を手渡して、ユリアーナがエッダを見つめていた。

GMコメント

 さてそんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 リクエストいただき誠にありがとうございました。
 それでは、さっそく詳細を始めましょう。

●オーダー
【1】アヴェリナ少尉の生存
【2】リヴァノフ分隊長らによる計画の阻止。

●戦場
 鉄帝=幻想間最前線、野戦陣地の一つ。
 歩哨が立てられ、本来の警戒は抜群。
 小隊長の腕がそこそこ良いものと考えれます。
 皆さんはスムーズに該当分隊の進路に到着できます。
とはいえ隠密行動が何よりも重要です。

●NPCデータ
・リヴァノフ分隊長
 上官を殺し、その混乱に乗じて南の国境を越え、向こう側の協力者に庇護されようとしています。
 リプレイ当時、実際に行動を起こすべく、少尉の下へ向かおうとしています。
 サブマシンガンとサーベルを持ち、現場指揮能力に長けた軍人です。
 マシンガンによる中距離戦闘を主体とします。
 【連】【追撃】能力に長け、物攻、EXA、CT、防技に長けています。

・ナザロフ兵長
 今回の件を『上』へ告発した青年です。
 リプレイではリヴァノフと共に行動をしていますが、皆さんのために歩哨の動きを事前にリークしています。
 スナイパーライフルとやや長めのナイフを持つ軍人です。
 物攻、EXA、防技に長けています。

・リヴァノフ分隊×8
 今回のリプレイにて、リヴァノフと共に国外逃亡を果たそうとする分隊の面々です。
 リプレイ当時、リヴァノフと共に行動中です。
 ライフルとサーベルを持つ軍人たちです。

・アヴェリナ少尉
 リヴァノフ分隊が殺害しようとしている人物です。
 謹厳実直、質素倹約、上には恭順で勇猛果敢とおおよそダメな点がありません。
 ただ、ほんの少しばかり強引で部下にも倹約を押し付けるため、兵士達の一部が不満を持っていました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 闇夜の反逆者完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談9日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
飛島 飛鳥(p3p002704)
鴉羽
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
※参加確定済み※
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星

リプレイ


「ようこそ皆。ここが、最前戦だ」
 漆黒の闇の中、軍帽を目深に被った『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は堂々と立っている。
「……なんて、貴方達にこんな態度は無粋でありますかね」
 微かに笑って、エッダは軍帽を脱ぎ、仲間たちの方へと微かに笑いかける。
(無粋じゃなくてそうしてほしいんでありますがなぁ……)
 心の内で『号令者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)は同じ鉄帝の軍人として複雑な思いを秘めながら、空へとフクロウを飛ばす。
 エッダはそのまま視線をハイデマリーの後ろに向けた。
 その視線の先には2人。
「……それじゃあ、行くでありますかね」
 他の4人にも視線を巡らせてエッダは走り出した。

 木々を疾走し、闇を抜けてその先へ。やがて見えてきた陣営の前に立ち、8人は立ち止まる。
「クラースナヤ・ズヴェズダーが都市で人の尊厳を護ろうと戦うように、自分らの戦場はここでありますよ。
 お見せするのは初めてでありますね、ヴィーシャ」
 ぽつりと呟いて『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)に。
「成程、これがエッダの選んだ戦場ですのね……」
 歩哨の影はない。手元には歩哨のスケジュールが記されていた。
(前情報から判断する限りは無理なく勝てるとは思うけれど……)
「エッダもマリィも無理はしないようにね」
 その言葉に『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)が頷いた。
「ヴァリューシャ、君にはギフトでパスを繋いだから150m以内であれば私と会話可能だよ。
 何かあればいつでも連絡しておくれ! 頼りにしてるよ」
 今度はヴァリューシャが頷く。
「それに、ここからは守ることも念頭に入れて動かないとね……」
 拳を握り調子を確認してから、マリアも準備を整える。
「軍人もタイヘンだねぇ。トラブルの解決を外に頼まなきゃならないなんてさ」
 余裕を隠さぬ『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はそう言って首を竦めた。
「オレたちがひぃ、ふぅ、みぃ……9人殴り倒してオシマイに出来たら楽なんだろうけれど、アトシマツの方が忙しそうだね」
 リーク済みの情報から倒すべき数を考えて、次の事に思いを馳せる。
「ふむ、脱走兵、というやつでしょうか……
 その為にで、上官殺しをさせる訳にはいきませんね?」
 少し考えていた様子の『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)が続ければ。
「逃亡ではなく上官に異動を嘆願すればよかったでしょうに……」
 刀を抜く『鴉羽』飛島 飛鳥(p3p002704)はやれやれと思う。
「ええ、とはいえ軍にも色々あるのでしょう。
 それでも、これは阻止しなければならない事です」
 大剣を担ぐ『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は先程のエッダの反応を軽くスルーしてる。
 なに、上官でもないのだからさもあらんというわけである。


 先回りを果たしたイレギュラーズがアヴェリナに状況を伝え、万全の態勢を整えた頃、エッダの視線の先に彼らは現れた。
「何者だ貴様ら……いや、何者であろうと変わらぬ、そこをどけ」
 先頭に立つ男――リヴァノフがライフルを構え、警戒を見せる。
 それ以外の面々も、多くが各々の武器を構えて臨戦態勢のままだった。
「――退くはずがないだろう、馬鹿者共め。逃げるなら後方にすればよいものを。
 未遂に終わるとて貴様らはもう許されぬ」
 ぴくりと、相手の表情が動く。ちらりと、彼は後ろを見た。
「……そういうことか、我らの計画が漏れたのか?」
「あぁ、そうだ。だが……口を開く機会をやろう。
 なぜ亡命をしようとした? よもや戦いを恐れたのではないだろう」
「答える義理はない」
 エッダの問いに応じるようにライフルが火を噴く――その寸前、眼前に躍り出る影があった。
 影――もといオリーブは長剣を高速で振り抜いた。
 リヴァノフを中心に、もう1人の兵士を巻き込む強靭なる横なぎは、武骨にして実直。
 何よりも強かな剛剣。飾り気のないけれど流麗なる剣捌きを受けたリヴァノフがサーベルで防ぐが、それだけでは押し切れない。
「ちぃ――展開しろ、薄い場所から突破するぞ」
 舌打ちと共に敵が後退――いや、自分に最適な間合いに移動していく。
 戦闘の開始は陣中には伝わっていないが、じきに騒ぎに気付くだろう。
 蒼雷を弾き、マリアが走り抜ける。
 蒼雷は漆黒の陣中に鮮やかな蒼の軌跡を描き、導きながらリヴァノフへと蹴撃となって突き立った。
 そのままくるりと跳ね返ると同時に、もう一度跳躍。刺突の如く蹴り飛ばす。
 それでも終わらぬとばかり、軸足を中心に回し蹴りを叩き込む。
 疾走する矢の如き突貫を浴びたリヴァノフは、一度で終わらぬ連撃に驚愕を覗かせる。
「一人ずつ狙っていくぞ――数はまだ我らの方が有利! 押し切れ!」
 いうやいなや、今度こそリヴァノフのライフルが火を噴いた。
 ばらまきとばかりに撃ち抜かれた弾幕は先手に動いていたマリアとオリーブを巻き込んでいく。
 掃射は二度にも渡るが、マリアはそれを神がかった直感で潜り抜け、オリーブは剣で弾幕を薙ぎ払って防ぎきる。
 ぽう、と陣中に微かな光が灯る。
 それは、イレギュラーズから見れば正面。
 敵から見れば後方――数人が光に気づいて振り返る。
「主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え」
 滔々と紡がれるは聖句。
 クラースナヤ・ズヴェズダーにおけるその一節。
 燃え上がるは聖火。
 放たれた一条の輝きが、9人のうち、5人を一直線に焼き貫いた。
「貧しい祖国を去って、豊かな国で平和に暮らしたいと願う気持ちは分からなくはないけれど、いささか計画が杜撰でしたわね」
 姿を見せたヴァレーリヤの声に、どよめきが起きる。
「悪いけれど、今は私も領地を頂いている身ですの。大人しく捕まって頂きますわ」
 告げるや否や、ヴァレーリヤは腰を落としてメイスを構えた。
「そういうコトだから、ハヤメに倒れてくれるとうれしいね」
 呪腕に帯びる漆黒の雷を宵闇に溶け込ませながら、イグナートは展開して抜けようとした一人の前に立ちふさがる。
 呼吸法を整え、真っすぐに放つ拳が、闇をより濃く塗りつぶしながら、その青年へと炸裂する。
 真っすぐに鳩尾辺りを撃ち抜かれ、その青年が痺れたようになりながら前を向いた。
 続けるように刀を走らせたのは飛鳥だ。
 美しき所作で撃ち抜くように振り抜かれた剣は不可視の刃となって一人の青年の身体に傷を残す。
(現状、彼らはまだ我が国の兵士。出来る限り不慮の事故は避けるべきでありますな)
 静かに、粛々と弾丸を装填するハイデマリーは引き金を引いた。
 放たれた弾丸は放物線を描き、驟雨の如く降り注いでいく。
 精密極まるハイデマリーの弾丸は敵のみを選りすぐったように撃ち抜くのみに終わらない。
 狙い澄まされた弾丸はまるで命中することが定まった未来であったかの如く炸裂し、その身に強烈な傷となって刻み付けられる。
 ぱたり、ぱたりと2人ほどの兵士が鋼鉄の雨に身を崩して倒れこむ。
「さて。残念ながら拙は手加減を出来る程は強くありませんので、戦うからにはある程度お覚悟を」
 その手にを構える巨大な剣から魔力光が棚引く。
 振り抜かれた一撃は真っすぐに走り抜け、躱そうとした兵士の身体に向け、突然の変則軌道で追いかけ食らいつく。
 真っすぐに打ち出す斬撃は防御する暇さえ敵に与えることなく、その身に致命傷に近い斬撃を撃ち込んだ。
 仲間たちの連撃の終息を待つエッダは敵が動き出した瞬間を待っていた。
 舌打ちするリヴァノフに近づき、そのライフルが火を噴くより早く、エッダは懐に潜り込んでライフルを打ち上げる。
 続くように近づいた兵士達も巻き込んで、3人の分隊の動きを阻害し、次手をねじ伏せる。
「邪魔だぁ!」
 相手が苛立ちに叫ぶ。それを涼し気に受け流して、エッダはただそこに立っていた。
 リヴァノフの動きと指揮は、油断できるものではなかった。
 さすがは大陸最高の軍事大国で少なからぬ部下を率いる軍人である。
 だが、会敵直後に9人の兵士のうち、1人の動きが鈍く2人が倒れたことで数的有利が崩れ去ったこともあり、イレギュラーズの優勢は揺るがない
 再度、オリーブは敵陣へと踏み込んだ。
 シンプルではあるものの、基本に忠実に、丁寧に撃ち抜く斬撃は熟練のそれといえる。
 鮮やかに振られた振り下ろしをリヴァノフへ叩きつけた。
 一方、リヴァノフはその場で舌打ちすると、オリーブ、エッダ諸共に弾幕をぶちまける。
 それを受け切り、その勢いのままに反撃の斬り払いを打ち込めばリヴァノフの身体がぐらりと揺れた。
 バチリと音を立てマリアは敵陣の後方、後方で銃弾をばらまく一人に視線を向けた。
 蒼雷は静かにその出力を増大させる。そこより先は蒼き雷霆の領域。
 音を置き去りにして、その身を敵の後ろに出現させ、真っすぐに二度、三度と蒼き雷を打ち据え、徐々に速度を落としていく。
「今だ、ヴァリューシャ!」
 それは念話の叫び。
 敵の後ろで、メイスを構えたヴァリューシャは至近する。
「どっせえーーい!」
 気合の声と共に振り抜かれたのはメイス。
 燃え上がる紅蓮の火を置きながら、真っすぐな横なぎはその兵士の背中から強かに打ち据え――ひどい音がした。
 また一人、地面へと倒れたのを見ながら、イグナートはまた別の一人向けて漆黒の雷球を収束させながら至近していた。
 打ち込まれる弾丸の数々を躱して、向けた視線の女を真っすぐ貫くように雷吼拳では拳を真っすぐに潜り抜け、地面へと倒れていった。
 エッダはライフルをぶちまけられるのと合わせるように、掌底をリヴァノフめがけて叩き込んだ。
 真っすぐに撃ち込まれた打撃の連続はリヴァノフの身体を内側からむしばみ、かけられた呪いを冗長させていく。
 続けるようにハイデマリーは引き金を引いた。
 己が家の旗印――金獅子を冠するその弾丸は、真っすぐに戦場をつんざき、リヴァノフの腹部へと炸裂する。
 大きく揺らぎ、倒れかけるリヴァノフの腹部へ、もう一度と放たれた弾丸は、計算づくされたかのように確実にリヴァノフの傷を深めていく。
 倒れかけるリヴァノフの眼前へと躍り出たステラは剣を強く握りしめ、真っすぐに袈裟切りのように叩きつけた。
 袈裟切りの打ち込みを受けたリヴァノフの身体がぐらりと後ろへ落ちていく。
「首謀者は倒した! 投降しなさい!」
「ええ、投降してくださるならそれにこしたことはありません」
 オリーブの言葉に、最初に動いたのは、ナザロフだった。
 スナイパーライフルを地面に降ろして、イレギュラーズを見る。
 それが理由になったかの如く、いまだ健在の兵士達が投降を開始していく。


 「……私が口にすべきことはほとんどありません。軍規に則り、私は私の恐れにかられて上官を売ったのです。
 ですが……彼女は優秀です。そして、我々は凡庸です。我々には耐えきれず、彼女には耐えられたのです」
 告発者である青年――ナザロフはそう言うや、それっきり口を閉ざしていた。
 それでも彼が述べたことを、ハイデマリーは軍人として報告書に記した。
「無茶だけはしないでおくれよ?」
 自身も軍人故に――そして軍人としてのエッダを知る者として、マリアはそう声をかけ。
「分かってるよ、マリア。私は、冷静だ」
 たったそれだけ、それだけをエッダは答え、そのままアヴェリナのいる方向へ歩いていった。
 ヴァレーリヤは負傷した兵士達の治療に当たっていた。
「手当は不要だと言っているが」
「それでも、失われる命は少ない方がいいですもの」
 反乱の首謀者――リヴァノフへのてあてを終わらせると、静かな問答が一つ。
「アヴェリナ少尉。エッダ・フロールリジ大佐である。
 この陣地内で反乱があった。何か心当たりがあれば仔細に話せ」
 地獄の釜の底を開いたかのような顔でアヴェリナの方へ歩みを進める。
「何のことです? 反乱とは。意味が分かりません」
 女性――アヴェリナは敬礼をして、エッダに答えた。
 その所作は実に礼に沿っていて、実直さを省みさせる。
「我が隊は実直に、粛々と仕事を熟しております!
 部隊内部の風紀にも問題はないと考えております!」
 ハイデマリーの眼には、それが嘘には見えなかった。
 いや、事実嘘ではないのだろう。彼女にとっては。
 その思考の一方で、物資搬入リストを読み進める。
 物資は滞りなく、十分に必要な量が届いていた。
 横領も横流しもなさそうだ。
(むしろ、横領や横流しで済めばいいですが……物を使わなさすぎているのでは?)
 ある意味では、問題ない。ある意味では大問題だ。
 多くの物資が供給後、不要分として別の分隊へと分配されるために戻されていた。
「……ところで、このテントの外にいた兵士の顔を見たのだが……彼は何日目だ?」
 エッダは静かに声を上げた。
「何日目と申しますと?」
「眠らずに何日仕事をしている。いや、そもそも休息は取っているのか? 食事は?」
 一歩、前に出た。
「軍人に休みなどありませぬ。ただ持ち場で死力を尽くすのみ」
 そういうアヴェリナの表情には一点の曇りもない。
 誰よりも真っすぐに、誰よりも実直なのだろう。
「……彼以外にも、休みを取った者は何人いる」
 問題はそれほどにも苛烈に、実直に、限界ギリギリまで死力を絞りつくせる人間は、ほとんどいないということだ。
 一握りの『できてしまう』人間である彼女は、大多数のできない者の叫びが分からなかったのだ。
 何よりその手の実直さは上から見た時、あまりにも魅力的に見えてしまう。
「此度の反乱には、貴様の強引さから来るものもある。
 彼らは軍法にかかるが、貴様も相応の処罰を受けることになるだろう」
「なっ――」
 アヴェリナが目を見開いた。
 反論しようとする彼女を制して、エッダはその場を後にした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

飛島 飛鳥(p3p002704)[重傷]
鴉羽

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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