PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Rw Nw Prt M Hrw>カダーベル

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ホルスの子供たち
 さあ、ホルスの子供たちを作りましょう。

 粘土で固めた人形を依り代とします。
 数種類のハーブと人体を煮込んだ煮汁に漬け込んで固めた人形の体に色宝を埋め込みましょう。
 位置は何処でも良いですが、人形のことを思うならば心臓部が望ましいです。
 器とした人形に『名前』を与えましょう。死者の魂を結び付けるようにその面影を呼び覚ましましょう。
 色宝がその名前に起因して、姿を変え、死者を蘇生したかのように見せかけます。心は無く、想い出も持ちません。
 ただ――『その名前を呼ばれたから、今日から自分は呼ばれた名前の存在なのだ』と人形達は認識します。

●パサジール・ルメス
 ――嘗てパサジール・ルメスは『ファルベライズ』と呼ばれる地域に住み、精霊たちと心を通わせる精霊使いの一族であった。
 自然溶け合うように空と海のそれぞれの因子を持つものが多い多種族部族である彼らは砂漠に住う光彩の精霊ファルベリヒトと共に過ごしていた。
 ファルベリヒトは非常に力が強く、その一帯の守神を兼ねていたそうだ。
 ある日、恐ろしい伝承の魔物が現れた際に、民を守るべく戦った光彩の力は粉々に砕けてしまった。
 砕けた光彩の力は『小さな奇跡』を与える色宝(ファルグメント)に変化した。
 その悪用を恐れ、パサジールルメスの民は遺跡ごと封印したのだった――そして、彼等は旅に出た。
 ファルベリヒトの位置を悟られぬように――光彩の精霊が静かに眠れるように。

 その御伽噺をタンペット・ルメスは、リヴィエール・ルメスは、そしてレーヴェン・ルメスは知っている。
 ラサの子供達も幼い頃に聞いたことのある大精霊と人々の御伽噺。
 伝承の旅人達を尊ぶ物語。精霊を愛してゆく、未来のための物語。

 それが『本当のことであった』とタンペットとリヴィエールが感じたのはこのファルベライズ遺跡群での事だった。
 美しい、クリスタルの迷宮の中に入ったときに故郷へと帰り着いたと感じたのだ。

 だが――その最奥に存在した大精霊ファルベリヒトには『博士』と呼ばれた男が同化している情報が届けられた。
 あの心優しき精霊はその心を蝕まれ、ホルスの子供たちを作る事を是としたのだろうか。

『――いいえ、ちがうわ』

 誰かの声がした。リヴィエールは「え」と小さく声を漏らす。悍ましい気配を察したタンペットは「何か来るわ」と囁く。
 それは有象無象の影であった。ホルスの子供たちを作るための『犠牲者』たち。その工程に使用された存在が影となって残ったのだろうか。
 数が多すぎる、とリヴィエールは感じていた。50にも達するだろう其れはさほどの強さは存在しないだろうが、ファルベリヒトの戦場への増援に成り得る可能性がある。撤退経路を防がれていると言っても過言ではない。

『いいえ、違うわ。もう一度皆で幸福な時代を取り戻す為には必要だったのよ』
『そうだ。そうだぞ。パサジール・ルメスとファルベリヒトが共に過ごすために……必要な事だったんだ』

 声がする。リヴィエールは耳を塞いだ。無数の声の背後から、奇妙な姿をした怪物がのっそりと現われる。
 それは嘗ての戦いで相対した存在だ。月光人形のようにも感じられたその奇妙な存在。それが『ホルスの子供たち』であることを今ならば分かる。

「アメミット……!」
「どうする、リヴィエール?」
「アメミットと、あの影を倒さなくっちゃいけないっす。此の数の多さだと『ファルベリヒト』へ向かう皆の邪魔になる……!」
 最奥では狂ファルベリヒトと戦う者達の姿も見えている。
 此の影と、『ホルスの子供たち』アメミット。その何方もをこの場で防がねばならない。
 彼等の元に此の影が流れ込んだと思えば――リヴィエールは唇を噛んで「皆、お願いできるっすか」とそう言った。

●???
 ――あのやろう、と。彼は言った。
 苛立ちの余り口を噤み『クソヤロウ』の元へ行かねばならないと地を蹴った。

 その少年は褐色の肌を持ち、獣種であり、魔種であることを感じさせる。

 ジナイーダを愚弄して、ニーナを危険な目に合わせて、それでも『あのクソヤロウ』は何も感じないのか!

 少年は、唇を噛んだ。あの『クソみたいな影』が流れ込むことは避けたい。『ジナイーダ』を傷付けるかも知れない。
 いや、今から『ジナイーダ擬き』を傷付けるのは自分か。
「……させるかよ、クソ博士」

GMコメント

 夏あかねです。パサジール・ルメスと共に。
 当シナリオは『<Rw Nw Prt M Hrw>Hor-em-akhet』より時系列が前になります。

●成功条件
 ウンブラ及びアメミットの討伐

●現場情報:クリスタル迷宮最奥付近
 ファルベリヒトの祭壇付近。狂化したモンスターが数多く存在して居ます。
 周囲には色宝が存在し無数に点滅し続けています。何らかの思念を感じ取ればその地形が変化する可能性があります。
(ウンブラ達が思い浮かべるであろう思念は『過去の幻影』です)

●狂アメミット
 頭は鰐、鬣と上半身が獅子、下半身は河馬。歪な生き物です。体長にして3m程です。
 とても強靱な肉体と、高いEXF。ブレイク可なバリアを所有。バリアについては数ターンに1度張り直しの動作を見せます。
 死者を積極的に『得よう』とばたばたと動き回るようです。これはホルスの子供達のようです……。

●ウンブラ *50
 無数の影。ホルスの子供たちの失敗作のようです。
 其れ等全てがパサジール・ルメスの血縁者の臓物で煮詰めて作られた『ホルスの子供たち』の元となった人形の試作品です。
 戦闘能力は余り高くはありません。数が多いことが特徴だと言えるでしょう。

●味方NPC:タンペット・ルメス
 パサジール・ルメスの少女。案内役。黒髪に金色の瞳、眼鏡を掛けている一見大人しそうな少女ではあるが暗器使いとしての腕は随一です。ある程度の戦闘行動を取ります。指示には従います。

●味方NPC:リヴィエール・ルメス
 パサジール・ルメスの少女。タンペットとは友人です。
 冒険者として相棒のパカダクラ、クロエに騎乗しての戦闘を行えます。ある程度の戦闘行動を取れる程度です。指示には従います。

●味方?NPC:???
 褐色肌の少年です。善く善く見れば獣種。善く善く見れば魔種のようにも見えます。
 非常に憤っており、戦場のサポートを行ってくれるようです。名乗ることは伏せているようですが――彼は、紛れもなく……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!&重要
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 また、作戦が失敗した場合、決戦シナリオ『<Rw Nw Prt M Hrw>Hor-em-akhet』に援軍が送り込まれます。(※増援が増えた状態でシナリオがスタートします)
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <Rw Nw Prt M Hrw>カダーベル完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年02月23日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
ニア・ルヴァリエ(p3p004394)
太陽の隣
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞

リプレイ


 絶えず点滅し続ける色宝の輝きに僅かに視線を泳がせながら、狂乱のファルベライズ遺跡の中核へと踏み入れる。
「嫌なにおい……!」
 そ、と口元を覆った『虎風迅雷』ソア(p3p007025)。警戒を露わにして眼前を見遣ればゆっくりと歩み寄る無数の影が見えた。
「うっ、人体の臓物を煮詰めて……だと? これが全部、元はルメスの民だって言うのかよ」
 イレギュラーズの周囲を取り囲んだのは影。それらがホルスの子供達の『なり損い』であり、嘗ては生きて居た人々である事を直に感じ取れば『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の中に激情が沸き立ってゆく。
「……ふざけんな! 博士は人を、命を何だと思ってやがる? くそ……反吐が出るぜ」
 ホルスの子供達、それを作り出した『博士』と呼ばれた存在達。言葉に反応し、対象の記憶から『外見』を転写する技術。色宝と呼ばれた精霊の力が為し得たそれを『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は『面白い』と称した。
 嗚呼、けれど――物語に残虐は付きものでもそれを皆が許容できるかと言えば定かではないのだ。例えば、アルヴァとソアが感じ取ったホルスの子供達の『嫌な気配』。ホルスの子供達の作り方は数種類のハーブと胕の煮汁に土塊を漬け込むのだという。それも、ファルベリヒトに近しい存在であったパサジール・ルメスを利用して。
「……リヴィ、タンペット」
 そっと名を呼んだ『君が居るから』ニア・ルヴァリエ(p3p004394)は小さく笑う。自身の親友と友人は『あの影』の子孫――パサジール・ルメスなのだから。
「友達の”お願い”なら、今度こそきっちり果たさないとね」
「ああ――って、あれ!? 何だあのアメミットとかいうヤツ! シンプルに気持ち悪ぃな」
 それは頭は鰐、鬣と上半身が獅子、下半身は河馬。伝説上の生物とも言われたアメミットと呼ばれた生物だ。『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はあんぐりと口を開いたまま其れを見遣る。
「50ですか……いやー、途方もない数ですね。それでも私達、皆が力を合わせればきっと――!」
 これ以上進ませないようにしましょうと『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)はそう言った。勇猛果敢なる騎士の娘はウンブラをまじまじと見遣る。
 頷くニアにソアは「鰐頭が影を欲して居るみたい」と囁いた。
「――させないんだから!」
 地を蹴ってソアがアメミットの歩み寄り早くウンブラの元へと向かって行く。緊張したようなタンペットの背を叩いてニアは言った。
「ちょっとばかし因縁もあることだし。さあ、リベンジといかせてもらおうか。――あたしが生きてる内にあんたの得たいモノが得られるとは思わない事だね!」
 地を蹴るニア、その刹那のことだ。群れとでも呼ぶしかない、その影達へと向けて攻撃が放たれる。風を切るように蹴撃が飛び込み、影の一つが壁へと叩き付けられた。
「あら」と四音が横を見遣れば直ぐ傍に褐色肌の少年が立っていた。垂れた犬耳を持った獣種だ。
(……何だ? イレギュラーズじゃない……?)
 葵の視線を受け止めた少年は「イレギュラーズ、か」と小さく呟いた。その時点で彼がイレギュラーズではない事が分かる。其処から感じる異質な気配に『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)は「……魔種ね?」と小さく問い掛ける。
「……ああ、そうだね」
「リュシアンくん……」
 魔種、それでも『再会を誓う』シルキィ(p3p008115)にとっては知った顔だった。嘗てのファルベライズでの戦いで、少年が戦線へと乱入したことでイレギュラーズは逃げ果せた。故に、シルキィにとっては恩人だ。
「リュシアンくん、だったねぇ。お礼も言えずじまいだったから、また会えて良かった。あの時は、助けてくれてありがとう」
「別に、助けたつもりじゃない。ただ、博士(あいつ)の思い通りになる事が嫌なんだ」
 ふい、とそっぽを向いた少年にシルキィはふ、と小さく笑う。礼を言いたいから言っただけだと口を開けば彼はそっぽを向いた。
「キミが良ければ、今は共闘してもいいかなぁ? ここを切り抜けなきゃいけないのは、お互い様だからねぇ」
「……お前は良いのか? 魔種だぞ。魔種、ローレットは魔種を殺すんだろ。何時だってそうしてきてただろ」
 ふい、と視線を逸らしたリュシアンにアシェンは「魔種でも構わないのだわ」と首を傾いだ。彼女にとってそれは初の対面だが『彼が断らなかった』時点で共闘は為し得るのだと認識されたのだろう。
「魔種になった方が全部悪い人だなんて思っていないもの。それに、今進まなくてはいけない私達と目的は同じのよう……?」
 そっぽを向いた少年は何も答えなかった。ただ、ウンブラとアメミットに向けて鋭い一撃を投じただけで。


「タンペットとリヴィエールはアメミットから近いウンブラを一体ずつ確実に仕留めてくれ。あとは、無茶だけはしてくれるなよ?」
「任せて」
 頷くタンペットにアルヴァは微笑んだ。アメミットの周辺のウンブラへと向けて攻撃を放つ。その為に戦略眼を生かしたアルヴァは低く空を駆け移動し続けていた。褐色肌の少年――シルキィがリュシアンと呼んだ少年はイレギュラーズに構うことなくウンブラだけを見詰めている。
(あの獣種の男の子は魔種だって……?)
 警戒に喉が鳴りそうだとソアは其れを堪えるように息を飲んだ。彼女にとって魔種とは敵であった。だが――協力するというならばそれ以上の攻撃など必要は無い。
(でも今はいいの、もっと大事なことに立ち向かわないと! 今は力を合わせてこの場の怪物を倒す方が先!)
 暴れ回るアメミットに、其れの傍で行き場無く歩き回ったウンブラ達。それを倒すことが先で在る事をソアは、そして葵は識っている。
「イマイチ信用しきれないっつーか、多分信用すべきじゃないんスけど……とりあえずこの場においては、あの様子だと敵って感じではないっスね。まずは明確に敵と分かってる分を片付けねぇとな」
「そう、だね。こっちに攻撃してこないなら今はアメミットとウンブラを優先しないと……!」
 リュシアンがいつイレギュラーズに攻撃をするかは分からない。だからこそ葵は警戒を緩めることはなかった。それだけ、魔種との溝は深い。
 ウンブラへと向けて惜しみなく放ったのは弾力、回転、速度、跳ね返りなど全てが計算され尽くした上で放たれるシュート。的確に味方を摺り抜けてウンブラたちへと襲い掛かる。黄色い流星マークが飛び跳ねて、描いた白銀の軌道を追いかけてアメミットの眼前へと飛び込んだのはニア。
「――もう一度だ、アメミット!」
 その手に握った風断ちは決意の証。
『今から』を護るという想いを込めた短刃は悪しき風を断ち切るようにアメミットの『風』を断つ。心を惑わせ加護を断つ。
 アメミットから与えられた災いを退けるように微笑み深く、四音の唇が三日月の形を楽しげに描いた。
「圧倒的な数と、強力な個体という厄介な状況ですが……協力してあたれば、きっと対処可能な相手ですよね。ええ、私も精一杯頑張ります」
 その背に輝くは美しき光翼。舞い落ちた羽は刃のようにウンブラへと襲い掛かる。
 滅海竜より毀れ落ちた破滅を鍛え上げたは過ぎた力か。ぎゅうと握りしめた姫獅子は蒼焔に似た闘志を宿し宝剣を振り下ろす。
「――行きます!」
 叫ぶ様に、ハンターの如く乱撃を繰り返す。鮮やかな紅は蒼き光の少女に似合わない。金絲が柔らかに宙を躍る。
 地を踏み締めて、レオンハート王立騎士団の意匠を輝かせ、リディアは蒼穹の宝石より授かる勇気を胸に飛び込んだ。
「さあ、ボクが相手だ」
 地を蹴って。武器に頼ることなくその卓越した身のこなしを自身の防御の神髄であると自負しながらソアが繰り出す強襲は落雷の如く。
 ウンブラ達を巻き込むように。影の中で踊る雷虎は黄金の色彩の中で爪立てる。
「助けられなくてごめんな、すぐ楽にしてやるから」
 呟きと共に、直線上で放ったのは深く強かに的を抉る死の凶弾。
 それが命を二度奪うことになると識っている。
 其れでも構わない。アルヴァは勇気と、正義と――そして、死に急ぎを胸に抱いてウンブラ達を見据えていた。
 人々は死した後にもこうして何かを残す。それが、他者に愚弄されているとなれば誰が納得できるのか。
 アルヴァの悔しさを感じ取ってタンペットは唇を食む。彼女も、リヴィエールも『彼等と同じ血が流れている』筈だから。
「ご先祖様が――……」
「識っている人じゃないだけマシ、何て言っても居られない!」
 アルヴァの苦しげな言葉に、タンペットは頷いた。そうだ、彼等もファルベリヒトも静かに眠っていられたはずなのに。
「色宝が過去の幻影を読み取るんなら、君たちの苦しみや悲しみが反映されるのかもねぇ。
 けどね、わたしは『未来への道』を思い浮かべるよ。
 ……思い出は美しいものだけれど。再会を誓った"あの子"は、わたしが立ち止まる事を望まない!」
 進む道は険しくて。決して平坦とは言えないけれど。それでも、立ち止まることは諦めることだから。
 死者を得ようとして動くアメミットの周囲に存在するウンブラへ熱砂の嵐が襲い掛かる。
 其れ等全てはアメミットも包み込み、真白の水晶に映り込んださいわいの未来を目指す。
「パサジール・ルメスのお二人にとっても酷なことかしら……?」
「そうっすね、けど……此処で全てを見逃して、皆が酷い目に合う方があたしは嫌っすよ」
 アシェンの問い掛けにリヴィエールはそう頷いた。ニアの傍らで読み語らう様に異国のマザーグースを指先で捲り上げる。
 世界法則は計算式に置換する。乙女の頭脳は其れ等全てを読み解いて、放たれる弾丸を淀みなく進ませる。
 ――子供みたいに涙で頁を汚すのは恥ずかしいわ。けれど涙を流せないのも寂しいかしら……?
 ええ。ええ。泣けなくなるのは悲しいでしょう。
 死は最も恐ろしく、最も全てを奪い去る。その死者を愚弄するように突き動かす博士の行いに『彼』も苛立ったのだろうか。
 視線を送れば其処に彼は存在して居る。無数に襲い掛かってくる影達をなぎ倒し、迷うことなく敵へと蹴撃を浴びせ続ける。無言の儘、その苛立ちを武器にして。
(ああ……それ程の激情。その顛末を眺めていたい。屹度、素敵な物語なのでしょう?)
 うっとりと。笑みを浮かべた四音はその翼で混乱したように互いを殴り続けるウンブラを見詰めてくすりと笑みを零す。
 切れ長の柘榴の色に乗った恍惚は困惑極めた影達が互いを攻撃し続ける様子を見据えるだけ。
「数の多さが仇となりましたね? 存分に同士討ちしてください。
 互いに傷つけ合うなんて悲しい光景ですねえ。ふふ――仲間の命を守ることこそ私の使命。お任せください」
 甘い声音に躍る狂気。鋭く突き刺さった其れに掻き消える影達は、無数に第二の死を迎えるように天へと手を伸ばし、霧散する。


 もしも、助けて欲しいと乞われたならば、君のためならとそう望む。
 ニアはまじまじとアメミットを見た。リベンジ。それがニアとアメミットだ。
「……そんなナリでも、誰かがあんたの名前を呼んだのかもしれないけど……今はそんな事関係ないんだ。
 リベンジだ、って言ったろ。今度こそ……仲間も、タンペットも、リヴィだって。あたしの友達は、誰も傷つけさせやしないよ」
 それは決意だ。親友とも言えるリヴィエールに、彼女の家族のタンペット。
 二人を傷付けさせやしない。連れて行かせやしない。それが、ニアという少女の決意。彼女が立ち続ける理由。
「悔しかったら、あたしから倒すんだね。……何もかも、きっちりハッピーエンドで片付けて。
 ……これでも打ち上げ、楽しみにしてるんだ。だからこんな所で、負けてられない。絶対邪魔なんか、させないよ」

 ――はい! 打ち上げ楽しみにしてるっすよ! ニアの好きな食べ物とかも沢山食べましょう!

 ニアは小さく笑った。いつまで持つかは分からない。自身を支える四音が此方にかかりきりになっていることにも気付く。
 それでも、ウンブラの数は減った。アメミットを巻き込みながら確認する葵はニアの様子をちらと見遣る。
(早く加勢しないと――!)
 滲んだ焦りなど拭うように。色違いの眸に灯した闘志は堅実なる『ポジショニング』を忘れない。高い運動量と素早い判断力を生かし、跳躍しながらシュートを放つ。
 葵のボールを追いかけて、アルヴァは「こっちに援護を頼む!」と叫んだ。
 低く空を飛ぶ。一方はリュシアンが暴れ回っていることで何とかなりそうだ。だが、もう一方は――ニアは。
「……もう! 本当に大忙しだ」
 数が多すぎるとソアは唇を尖らせた。愛らしい言葉とは裏腹に、放たれた鮮やかなる雷撃が少女の獣性を顕わす様に包み込む。
「忙しいわ」
 呟くアシェンへとリディアは小さく頷いた。数が多い。アメミットを抑えるニアの側が瓦解するのはもう少しか――リディアは「リュシアンと言いましたか。アメミットが、」と口を開き掛け、
「分かった」
 素っ気なくも少年が小さく返した声にアシェンとリディアは顔を見合わせた。自身の指示を聞いて彼が動いたのだろうか。
 戦場を支えるべくニアの傍らに飛び込んだリュシアンは「一歩下がって」と低く呟いた。
「まさか、魔種に助けられるなんて――!」
 呻くようにそう言ったリディアにアシェンは「彼は、私達なんて目じゃないのね」と囁いて。
 アメミットへと放ったのは研ぎ澄まされた弾丸。黒色のアサルトライフルは体躯に恵まれないアシェンでも容易に使いこなすことが出来る。
 鋭く放たれた弾丸は悲劇を喜劇へ塗り替えるように。陳腐なバラッドを響かせるようにアメミットへと飛び込んで。
「こっちは大丈夫っス! すぐそっちのフォローに向かうわ」
「ええ。アメミット……! 覚悟を!」
 叫んだリディアはアメミットのバリアを払ったアシェンに続いてリーヴァテインに正しき審判の一撃を放つ。
 重く、それが『誰かの思い出』を断ち切った感触に鮮やかな空色の瞳を細め唇を噛む。
 ――『ホルスの子供たち』は誰かの思い出から生み出された。
 ならばパサジール・ルメスの影は。
「……ファルベリヒトの想い出……」
 アルヴァはそう囁いて溜息を雑じり入れた。シルキィの糸がアメミットを包む。
 ニアとリュシアンが支える中で四音が癒しを乞い、ソアと葵は只、只管に『誰かの思い出』を消し去るように。
 アルヴァは静かにリュシアンの背中を見詰めていた。
(魔種――それでも、此方に協力している。いや……『ここでイレギュラーズが敗北すると困る』のか……。
 彼は『此の奥に存在する博士』を倒したくて仕方ない。ある意味、此方と思惑は同じならば最高の共闘相手、か)
 それが魔種であることが何よりも不満ではあるが。アルヴァは、そして、リディアはアメミットへと向き直る。
 随分と弱った者だ。無数に攻撃を重ね続けた刹那に。ニアは聞いた。
「――誰がこいつを喚んだんだろう」
 その応えは存在しない。それでも、誰かの思い出が其処に存在したのだと、そう感じずには居られなくて。
「リュシアンくん、後少しだからねぇ」
「……押し切るぞ」
 憤怒の気配に、僅かながら感じた切なさ。少年が抱いた恋心の終は『ジナイーダ』の影を見たときからずっと訪れていたのだけれど。
 それでも、彼女の為にと博士を追う少年の背を見詰めてシルキィは「頑張ってね」としか言えやしなかった。
 倒れ伏したアメミットの体から転がり落ちた色宝が割れた様子を眺めながら葵は「終わった」と静かに呟いた。


 しん、と静寂が落ちた。それも、一瞬だけだ。
「あの」
 背を向けた少年へとアシェンは声を掛け、言い淀む。一緒に戦って下さってありがとう、という言葉はどうにも似合わぬ気がして飲み込んだ。リュシアンを睨み付けた葵の視線が魔種との隔りを思わせる。
「何か、」
 堅苦しいその声音はイレギュラーズと魔種の関係性を理解しているようにも思える。
 ああ、そうだ。彼は冠位魔種『色欲』の直下に位置するのだ。
 リディアはそれでも礼は尽くすべきだと「協力を有難うございます」と静かにそう伝えた。もしも、彼がいなければ戦線の瓦解は早かっただろうと、そう感じていたからだ。
 魔種であると云う事に警戒心を露わにしたソアが一歩後退する。それでも、彼がイレギュラーズに対して襲い掛からないのは彼自身の感じる強い憤りが別の方向に向いているからなのかも知れない。
 その憤りも、矛先もアシェンには識りようがない――けれど、闇雲な憤怒でも思い立っただけでもない。彼のその考えは決意とも言える気がしたのだ。
「呼び止めてごめんなさい、ただ……お互いに望みが叶うと素敵ね!」
 振り返ったリュシアンの翡翠の瞳が瞠る。驚き、瞬いた彼は「まあ」と言葉を言い濁した。
 背を向け、走り去っていく彼を見送りながら四音は常の通りの笑みを浮かべて首をこてりと傾いだ。
「強い感情は物語を動かす大きな原動力となります。
 少年、貴方の激情が良き結末を迎えることを私は願っていますよ? くふ、くふふふ」
 ――その激情が行く涯が。交わることのない未来だとしても。今は只、共に在る目的を遂行できればと願って已まないのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

日向 葵(p3p000366)[重傷]
紅眼のエースストライカー
ニア・ルヴァリエ(p3p004394)[重傷]
太陽の隣
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮
リディア・T・レオンハート(p3p008325)[重傷]
勇往邁進

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 リュシアンは、今回のみ皆さんとの共闘を選び、皆さんにも選んで頂けて良かったです。

 ファルベライズ――此処に存在する様々な因縁の終焉が何処にあるかは、まだ……。

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