シナリオ詳細
<Rw Nw Prt M Hrw>海賊は砂漠で甦る
オープニング
●力に縋る男の願い
「畜生、畜生、イレギュラーズどもめ……!」
男の声には、憤怒と怨恨が籠っていた。
男は、かつてザン三兄弟と言うシャチの海種が率いる海賊の一員だった。だが、ザン三兄弟は海洋の『大号令』に際して、第三次グレイス・ヌレ海戦でことごとく討滅された(実際は次兄ザン・コックは九死に一生を得ていたが、男はそう認識していた)。
生き残ったザン三兄弟の手下達は散り散りになり、男は海洋を出て傭兵に辿り着いたが、最早賊以外の生き方を選ぶことはできず、大鴉盗賊団の一員となった。だが、その大鴉盗賊団もファルベライズに眠る色宝を巡ってのイレギュラーズとの闘争により、大打撃を受けている。
イレギュラーズにより、ザン三兄弟の下と言う元来の居場所を喪い、逃れ逃れてようやく落ち着いた先の大鴉盗賊団まで危うくされている。その事実は、男に憤怒と怨恨の念を抱かせるには十分だった。
だが、男にはイレギュラーズに立ち向かえるだけの力はない。故に、男は力に縋った。例え残虐、残酷、残忍であっても、生きていける場を男にもたらしてくれていた力に――。
「ギャックの親分、コックの親分、ニーンの親分。どうか、俺の居場所を守るために力を貸して下せえ……!」
運よくイレギュラーズに先んじて手に入れられた色宝を、心臓の位置に埋め込んだ依り代たる人形が三体。男は、その前でひたすらに願い続ける。
果たして、人形は男の望んだ姿となり、むくりと起き上がる。ザン三兄弟の『ホルスの子供達』が生まれたのだ。
『ホルスの子供達』は、男に何ら声をかけることはなく、魔物のような意味不明の短い言葉だけを交わしあって、男の前を去る。
だが、男はそれで構わなかった。『ホルスの子供達』が死者の思い出を持たず、ただ男の望むようにふるまうことは男も知っている。そして、男が望んだのはザン三兄弟の蘇生ではなく、あくまでザン三兄弟の力なのだ。
「頼んますよ、ギャックの親分、コックの親分、ニーンの親分――!」
それでも、それを知っていたとしてもなお、男は『ホルスの子供達』が本人であるかのように、その背中へと語りかけた。
●ラダとユメーミル
ユメーミル・ヒモーテは女ながらにして盗賊団の首領、だった。だったと言うのは、かつて色宝の奪取を狙って失敗して捕らえられ、今は罪滅ぼしにネフェレストで奉仕活動に従事している身だからである。
「……久しぶりだな、ユメーミル。奉仕活動の一環として、協力してもらいたいことがあるのだが」
「ああ、久しぶりだねえ。一体どうしたってんだい?」
ラダ・ジグリ(p3p000271)はそのユメーミルの元を訪れ、早速用件を切り出した。ユメーミルからすればラダは色宝の奪取を失敗させたかつての敵であるが、別段敵意は抱いたりしていない。ある意味、ラダ達のおかげで盗賊から足を洗い、奉仕活動に従事する代わりに安定した衣食住を得られたとも言えるからだ。
そのユメーミルの様子に内心安堵したラダは、ファルベライズ中核のクリスタル遺跡に陣取るザン三兄弟の『ホルスの子供達』を排除する依頼を受けたこと、ついては、その際にユメーミル達の力を借りたいことを告げる。
「ザン三兄弟の『ホルスの子供達』は魔種相応の相手で、危険は予想される。だから――」
「アタシ達は、力を貸すよ」
断ってくれても構わない、と言おうとしたラダに被せるように、ユメーミルは受諾の意を示した。
「処刑されてもおかしくなかったところを、自由はないとは言え衣食住に困らない暮らしをさせてもらってる。
なら、アタシ達は命を懸けてもアンタ達に恩を返すよ。それに――」
「……それに?」
「もうすぐ、奉仕活動の期限が来るんだ。なら、最後に大仕事で終わるのも悪くないじゃないか!
大体、海賊なんかに砂漠生まれのアタシ達が負けてられないよ!」
ユメーミルは、快活な笑顔をラダに向けた。
●あたかも海の中であるような
ファルベライズ、クリスタル遺跡内部。行く手を阻む大鴉盗賊団の団員達を、ユメーミルの部下達が抑えて道を切り開く。
イレギュラーズ達とユメーミルは、扉にたどり着くとすかさず開いて、中に突入する。
「何なんだい、これは!?」
ユメーミルが、驚愕の声を上げる。イレギュラーズ達も、同様であったろう。
その部屋は、まるで海の中を思わせたのだから。
だが、呼吸は普通にできるし、足場はしっかりとあって沈むことも浮くこともない。
「『ホルスの子供達』の心象風景と言う奴か……」
イレギュラーズの誰かが、ぼそりと独り言ちる。
だが、驚いてばかりはいられない。ザン三兄弟の『ホルスの子供達』の姿が、五十メートルほど向こうにあるのだから。
戦闘が、始まろうとしていた。
- <Rw Nw Prt M Hrw>海賊は砂漠で甦るLv:20以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年02月21日 22時40分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●偽りの海賊達を前にして
「うぅ、気持ち悪い……周りは海そのものであるのに泳げぬというのは……辛い!」
海中と錯覚させながら海中のように泳げぬと言う状況が余程のストレスなのであろう。海種である『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は不快そうに呻いた。
「……ともあれ、そうばかりも言っては居られまい」
だが、クレマァダはストレスに苛まれながらもキッとザン三兄弟の『ホルスの子供達』を見据えた。海洋の負債と言うべき彼らは、海洋の者が倒して濯がねばならない。
「海のようで海でない……海の匂いがしないな。変な感じな場所だ」
『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)も、クレマァダほどではないにしても、この部屋の状況には違和感を覚える。
「アレは本物の海も忘れちまった……いや、忘れるも何も、ニセモノだったな」
海を愛するカイトはザン三兄弟が海を忘れたのを残念に思ったが、『ホルスの子供達』はあくまでザン三兄弟達本人が蘇ったのではではないことを思い出し、ゆっくりと首を横に振る。
「見た目は海中、不思議な空間だね」
『柔らかく、そして硬い』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は、海洋出身でない故か年の功故か、この異様な状況にも落ち着き払っている。ただ、それでいてこの環境に惑わされないように用心は忘れない。
「へー、遺跡の中に海……の景色があるのか。いいじゃん、俺こういうのも好きだぜ。
アンタたちはどうだろな、ザン三兄弟」
楽しげにつぶやいたのは、『日向の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)だ。そしてミヅハは眼前のザン三兄弟に向けて問いかけるのだが、『ホルスの子供達』からは意味不明の言葉しか返ってこない。
「……あの『大号令』の海賊達なら粋なセリフが聞けたんだろなぁ」
果たして残虐、残酷、残忍で鳴らしたオリジナルのザン三兄弟がミヅハの期待したような言葉を返したかは不明だが、ミヅハは何処か残念そうに『ホルスの子供達』を見やった。
「ここは、海……?」
『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)は不思議そうに独語した。タイムが察するに、この部屋の状況はザン三兄弟の心の中の風景だったのだろう。
(この三人も、誰かにとって大切な人だったのかしら? それとも利用されているだけ?)
タイムは思案するが、考えていてもそれが判明するわけではない。この戦いを終わらせるために、タイムはそちらに意識を集中する。
「御婦人の火力、期待してるよ! 仕事終わったらデートしてね!」
「ででっ、でえとだってえ!?」
イレギュラーズ達に同行している元女盗賊、ユメーミル・ヒモーテに軽い調子で声をかけたのは、『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)だ。これまで男性に縁のなかったユメーミルは、突然のデートの誘いに顔を真っ赤にして慌てふためいた。
海賊から盗賊へと堕ちるだけ堕ちていったザン三兄弟の元手下とは違い、ユメーミルは罪を償い自由を得ようとしている。であれば、応援しない理由はない。ついでにデートの約束を取り付けようとする夏子だったが……。
「こんな状況でいきなり何を言い出すんだ、夏子。ユメーミルも落ち着け」
苦笑交じりの『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)によって、誘いは中断させられた。このままではユメーミルが使い物にならなくなりそうだったからだ。
ユメーミルにとって、今回の銭湯が罪を償う奉仕活動最後の大仕事となる。ならば、頼んだ以上はケチがつかないよう、しっかり成功させたい。そのためには、ユメーミル自身にもしっかりしていてもらわねば話にならない。
「応じるも断るも、まずはこの戦いを終わらせてからだろう……ユメーミル、死ぬなよ?」
「そのとおりだね。アタシは生き残ってアイツらと一緒に自由になるんだ。こんなところで死んでられないよ!」
ラダの言葉に落ち着きを取り戻したユメーミルは、自信満々の様子でラダに笑顔を返した。
「再生怪人か。一度破った相手に勝てない道理は無いとも。
ご丁寧に海まで再現するとは、現世はよほど過ごし難いとみえる。」
『フォークロア』スカル=ガイスト(p3p008248)は、ザン三兄弟の『ホルスの子供達』に不敵な笑みを向ける。もっとも、『ホルスの子供達』はオリジナルのザン三兄弟より実力は上ではあるのだが、スカルの方も『再生怪人』と称した以上、その程度は織り込み済みである。
それでもなお、スカルは自分達の勝利を疑うことはない。
「かつて海洋に仇をなした海賊ね……どんな敵だったのかは私は分からない。
だけど、そんな海賊を模して作り上げた偽海賊などに容赦はいらないわね?
真の海賊である私が、本当の海賊の流儀を教えてあげるわ!」
『キャプテン・マヤ』マヤ ハグロ(p3p008008)は高らかに叫びながら、鞘から引き抜いた『名工の剣』の切っ先をザン三兄弟の『ホルスの子供達』に向けた。
●盾を奪う
「砂の大地で海賊と相対するとは……数奇なものですね……」
本来ならば対峙し得ない場所で対峙し得ない相手と戦うという事実に『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は奇妙さを感じつつも、最初に動いて戦闘の火蓋を切った。
「――ですが、死者は眠るべき、たとえ望まれたとしても、存在するのは許されない!
模倣といえど残虐、残酷、残忍なる海賊達よ、大いなる意志の下に、砂の海に沈みなさい!」
語気鋭くザン三兄弟の存在を否定しながら、シフォリィは『ホルスの子供達』との距離を詰め、ギャックの前に立ちはだかる。のみならず、受けた者さえ魅了する美しい刺突を繰り出した。『フルーレ・ド・ノアールフランメ』の漆黒の刀身が、ギャックに突き刺さる。
(――シャチの海種。細かい違いはあれど己と同じ因子を持つ者ら。
なのにこれほど違う我ら。たとえホルスの子といえども)
クレマァダは感傷を抱きつつも、シフォリィを追うようにザン三兄弟に向けて疾走し、両手で掌底を放つ。掌底から放たれた衝撃波はシフォリィの刺突から立ち直っていないギャックを襲い、海に溺れたかの如くジタバタとのたうち回らせる。
「緋色の鳥からは――逃げられない、逃さない!」
さらにカイトが続いて、ニーンに急接近するとその前に立ちはだかる。俊敏なニーンを放っておけば戦況を引っ掻き回されるのは明白であり、その足を止めておく必要があったからだ。カイトに立ちはだかられたニーンは、邪魔な奴めとでも言わんばかりに意味不明な言葉で呻いた。
「まずはアンタからだ。その足を止める!」
スカルはギャックから十メートルのところまで前進すると、『BB』の銃口をギャックの足下に向けて何発も放つ。銃弾はギャックの脛に命中し、ギャックはその場で棒立ちとなった。その隙に、マヤ、ムスティスラーフ、ラダ、ユメーミル、ミヅハの集中攻撃がギャックを襲う。
「作り物の海賊たちよ! 我が名はマヤ・ハグロ! あなた達が勇敢なる海賊なら、この私と正々堂々戦いなさい! それとも、卑怯なことしかできない愚か者かしら?」
ポケットからラム酒の入ったスキットルを取り出し、一気に飲み干して意気を大きく高めたマヤは右斜め前に進み出ると、ザン三兄弟に向けて名乗りを上げつつ『名工の剣』を大上段に振りかぶり、縦に振り下ろした。その斬撃は衝撃波の如く飛翔し、ギャックに命中する。
「時間との勝負だからね。出し惜しみはしないよ」
反発のジュエルで低空飛行しながら前進したムスティスラーフが、口を大きく開く。開いた口の中に緑色の光が収束していくと、その光が極太の光線となって放たれ、ギャックに直撃する。
「ユメーミル、一緒に仕掛けるぞ!」
「ああ、任せておきな!」
ラダはユメーミルと共に左斜め前に移動して、味方を巻き込まないような射線を確保すると、全身の魔力を集中する。ユメーミルもそれに合わせるようにバスター・ビーム・カノンを構える。そして二条の極太の光線が、これもギャックに直撃した。
「狩りの時間だぜ! 神殺しの矢を受けろ!」
ヤドリギの新芽の矢は、異世界において神を死に至らしめた伝承を持つ。その矢を、ミヅハはギャックに向けて撃った。立て続けに攻撃を受けているギャックは避けられず、深々と矢はギャックに突き刺さる。
一度に五人からの集中攻撃を受けたギャックの身体には、縦に大きな斬撃の跡が刻まれ、新芽の矢が突き刺さり、亀裂が入り始めている。流石にこれは効いているのだろう、グラリ、とその身体を大きく揺らめかせた。だが、片脚を後ろに出して踏ん張り、辛うじて体勢を立て直す。
「無理はしないで欲しいけど……お願いね、夏子さん」
「ありがとね。任せておいてよ。大船に乗ったつもりでさ」
タイムはやや心配そうな様子で、コックの足を止める役割を担う夏子に聖なる加護を降ろし、夏子の守りを固める。愛らしい女性からの支援に、夏子は微笑みながらタイムに礼を述べると前に進み出て、コックを挑発しにかかった。
「相手したくねぇけど、永遠にソデしてあげるよ……どうせ相手するなら素敵な女性が良かったなぁ」
夏子は、不遜な笑みをコックに向ける。その笑みの意味を理解したのか、コックは夏子をきつく睨み付けた。否、コックだけではない。夏子が意図したかどうかは判然としないが、コックの側にいたギャックやニーンも明らかに夏子への敵意を抱いていた。
夏子にまとめて敵意を煽られたザン三兄弟だったが、遅れながらも反撃に移る。ギャックとニーンは夏子に仕掛けようにもそれぞれシフォリィとカイトに前進を阻まれており、ギャックはシフォリィを、ニーンはカイトを排除しようと試みる。だがシフォリィもカイトも回避の技量は極めて優れており、ギャックの戦斧もニーンの短剣も相手を捉えることは出来なかった。
コックは盾を構えつつ前進して夏子に強烈な体当たりをかけたが、盾役が敵に挑発されて護るべき対象の側を離れたこと、それ自体がザン三兄弟にとって致命的な事態と言えた。
●盾を喪いし三兄弟の命運
夏子の挑発は、その後の戦況を大きく左右した。ギャックは自身の技量では攻撃をほとんど命中させられないシフォリィの排除に固執するうちに、足止め役のシフォリィを含めクレマァダ、スカル、マヤ、ムスティスラーフ、ラダ、ユメーミル、ミヅハの八人に集中攻撃されることになった。本来はそれをコックが全て受け止めて耐えるはずだが、コックは夏子の挑発に乗ってギャックを護るのを放棄してしまっている。結果、避けるなり耐えるなりの身を守る術を持たないギャックは一分も持たぬうちに土塊へと還っていった。
ニーンは、一旦後退してカイトを振り払ってから、夏子に接近して短剣で突きかかる。息をつかせぬニーンの連続攻撃に、夏子は次第に傷を負っていく。だが、追いついたカイトの翼がニーンに触れると、ニーンは標的をカイトに変えた。
「お互い、やられて嫌なことはわかるってわけか」
互いに回避に長けている以上、まともに攻撃を命中させようとすれば相手が避けようのない攻撃を繰り出すしかない。だが手数ではニーンが上回っており、タイムの必死の回復を以てしても、カイトはパンドラを費やす所まで追い込まれた。だが、それもギャックが倒されると状況が変わる。
ギャックが倒されれば、イレギュラーズの攻撃の矛先はニーンに向いた。そして、いくら素早くて回避に長けているニーンと言えども、九人から攻撃を集中されては避けきれるはずもない。しかも、その中には単独でもニーンに攻撃を命中させうる者さえいたのだ。そうしてニーンも、すぐにギャックの後を追って土塊と帰した。
そしてこの時点で、勝負は見えたと言っていい。コック単独ではいくらイレギュラーズの攻撃を耐えられようとも、ただ耐えられるだけに過ぎない。ギャックのような一撃の威力も、ニーンのような手数もない以上、戦況を覆すのは不可能なのだ。
果たして、いくらかの時間は要したものの、コックの身体には様々な場所に刀傷や矢傷、弾痕に光線を受けた痕が刻まれ、無数の亀裂が入るに到る。
(そろそろ、ですね。終わらせてしまいましょう)
コックの限界が近いと判断したシフォリィは、『フルーレ・ド・ノアールフランメ』をコックに突き立てんとする。コックは大盾で受け止めるが、シフォリィの攻勢はそこで終わらない。すかさず『フルーレ・ド・ノアールフランメ』を引き抜くと、残る体力と気力を白銀の闘気に転換してその刀身に纏わせて、裂帛の気合いと共に再度の刺突を放つ。
二度目の刺突を盾で受け損ねたコックは、シフォリィの剣を胸板でまともに食らってしまう。ビキィ、ビキィとコックの身体に走る亀裂はさらに大きく、深くなっていった。
(海の想い出をこんな形で踏みにじるとはな。だが、それもここまでだぜ)
例え賊ではあっても、ザン三兄弟は海に生きて海に死んだ男達である。今ここにはいないザン三兄弟の元手下が、そんなザン三兄弟を『ホルスの子供達』として砂漠の中で戦わせたことを、カイトはザン三兄弟の生を穢されたように感じていた。しかし、それもあと少しで終わる。
カイトは自らの翼から幾本もの緋色の羽根を放ち、コックの身体に突き立てる。シフォリィの一撃によって広がった亀裂が、さらに拡大していった。
「再生怪人は所詮、再生怪人だったってっことだ。兄弟の後を、追わせてやる!」
スカルは魔術を動きに織り交ぜた格闘術で、コックに拳を叩き付けんとする。コックはそれを大盾で受け止めるが、既に幾多もの攻撃を受け止めてきた大盾を持つ腕はもう衝撃には耐えきれなくなっており、ピシイッ! と大きな亀裂が左腕中に広まった。あと少しの衝撃があれば、コックの左腕は間違いなく砕け散るだろう。
コックは最期の力を振り絞り夏子に盾で体当たりをかけようとするが、その前にタイムが動いた。
「もうあと少しよ! 夏子さん、何とかこれで耐えて!」
「助かるよ。ねえ、志も低ければ意識も低俗な木っ端に、好き勝手使われて終わるのってっどんな感じ……?」
タイムの治癒魔術が、満身創痍の夏子を癒やす。既にパンドラを使い切るほどの傷を負っている夏子だったが、タイムに癒やされるとしっかりとその場で足を踏みしめ、コックに問いかけつつ騎士盾『シリウス』を構えて守りを固める。だが、コックは意味不明の叫びを上げて突っ込んでくるだけだ。
ガシィン!! 盾と盾がぶつかる音が、部屋中に響いた。その衝撃に、ガクリと膝を突く夏子。
「はぁ、はぁ……おかげで、耐えきれたよ」
タイムの方を振り向き、夏子は脂汗を流しながらも笑顔を向ける。夏子の言うとおり、先にタイムによる回復が入っていなければ、夏子はこの一撃で力尽きていただろう。
そして、盾同士の衝突はコックにもダメージを与えていた。既にスカルの一撃によってあとわずかで砕けるところまで来ていた左腕に、さらにピシピシピシッと亀裂が入り、パァン! と砕け散る。ゴトッ、と鈍い音を鳴らして、盾が床に落ちた。
「終わらせるチャンスだ! 部下達にも分かるくらい派手な一発を入れてやれ!」
「ああ、任せておきな! ……こいつで、アタシ達は自由になるんだっ!」
「俺も合わせるぜ! これで仕留める!」
コックが盾を持てなくなり落としたのは、イレギュラーズ達にとっては好機だった。ラダの放った銀弾、ユメーミルの放ったビームが右前方から、そして二人にタイミングを合わせたミヅハの放つ比翼の如き二本の矢が左前方から、同時にコックを襲う。避けるも受けるもままならないコックの身体に、まずミヅハの矢が二本とも同じ場所を射貫き、ラダの銀弾がコックに突き刺さる。さらに『バスター・ビーム・カノン』の光条がコックに衝突して土煙を上げる。
「やったかい!?」
明らかに土塊に還る寸前のコックにこれだけ叩き込めば、さすがに終わっただろうと考えたユメーミルが、もうもうと舞う煙の向こうでコックが倒れた様を確認しようと目を凝らす。だが――。
「いや、まだだ!」
「何て、タフネスだよ……」
煙が晴れ、その中にコックが未だ立っていることを確認したラダが声をあげる。ミヅハは、これだけの攻撃を受けても未だ立ち続けているコックの耐久力に、呆れるように呻いた。
「確かに、呆れるほどタフだよね。でも、もう倒れたも同然だよ」
「うむ、お主らの攻撃、見事であった。あとは我らが終わらせよう」
「そうね、海賊の流儀もとくと味合わせたし、土に還してしまいましょう?」
だが、コックの身体にはあらゆる場所に細かな亀裂が走っており、所々土塊となって砕けて剥がれ落ちている。限界に到っているのは誰の目にも明らかだった。
ムスティスラーフはコックの頭上から蒼きタンザナイトの剣を大上段に振りかぶり、クレマァダは拳を構えて、マヤは『名工の剣』を真っ直ぐコックに向けて、コックに止めを刺さんとする。
三人の攻撃は、ほぼ同時にコックに命中した。落下する勢いを付けて振り下ろされた蒼き剣がコックの頭を真っ二つに割り、クレマァダの寄せては引きまた寄せる波のような拳がコックの右脇腹に突き刺さり、マヤの海賊としての誇りが篭もった横薙ぎの一閃がコックの左脇腹を斬る。
三人の攻撃は上から、右から、左からコックの身体をパキパキパキ、と細かく砕いていき、ギャック、ニーンに続いてコックも完全に土塊に還した。
●土塊に還りし者、自由を得たる者
(……強き者が、強きに拘れば結末はこんなものよ。愚かな。
だが、許そう。お主らもまた、我らが愛し子よ)
クレマァダは、今はただの土塊と化したザン三兄弟の身体を何とも言えないような複雑な表情で見下ろした。
(それにしても、彼らの元になったザン三兄弟と言うのはどんな海賊だったのかしらね?
残虐、残酷、残忍だったとは聞いているけれど……)
マヤは、オリジナルのザン三兄弟の生前について想像の翼を広げる。
「……任務、成功ですね」
「そうだね。こんな部屋だけど、思ったより普通に戦えて良かったよ」
シフォリィは、重圧から解き放たれたようにふぅ、と息を吐く。ギャックの攻撃は当たればどんなことになるかわからないだけに、避け続けるのにかなりの神経を使ったのだ。ムスティスラーフはそんなシフォリィを労うように、ハンカチを差し出した。
「一度敗れた再生怪人など、こんなものだな」
「そうだな。所詮は海の男でない者が生み出したニセモノに過ぎん」
ザン三兄弟だった土塊を見下ろしたスカルがつぶやくと、カイトがそれに応じて拳を突き出した。スカルはそれに拳を合わせて返す。
「……これで、アタシ達は自由なんだな」
「ああ。おめでとう、ユメーミル」
「おめでとう。デートの件、返事は今すぐでなくていいから考えておいてね?」
「おいおい、そんな傷を負っていながらデートの誘いをするとはなあ……」
最後の大仕事を終えて生き残ったユメーミルが、感慨深げに独り言ちる。ラダは、そんなユメーミルの言葉に頷くと、自由を得ることを祝福した。
夏子はラダと同様に祝福の言葉をかけてから、戦闘前に中断されたデートの誘いを続ける。未だ傷も深いのにデートの誘いをかける夏子に、ミヅハは呆れたように苦笑いを浮かべた。
(彼女がこれから、新しい道を真っ直ぐに歩いていけますように――)
そんなユメーミル達の姿を眺めながら、タイムは心からそう願うのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんのおかげでザン三兄弟の『ホルスの子供達』は、全て土塊に還りました。
今回のMVPは、初手の名乗り口上でコックの盾役としての役割を放棄させ、さらにギャックやニーンの行動にも縛りを与えた夏子さんにお送りします。
GMコメント
ご無沙汰しております。緑城雄山です。今回は、全体シナリオ<Rw Nw Prt M Hrw>のうちの一本をお送りします。
ユメーミルとともに、ザン三兄弟の『ホルスの子供達』を撃破して下さい。
●成功条件
ザン三兄弟の『ホルスの子供達』、全員の撃破
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
クリスタル遺跡の中の一室です。風景は海中ですが、実際には地上と変わりません。
普通に呼吸は出来ますし、行動に水中適応などは必要ありません。また、それらのスキルで有利になることもありません。
足場はしっかりとあり、沈むことはありませんが、逆に泳いだり浮いたりすることもできません。
高度を取りたければ、飛行スキルが必要となります(飛行ペナルティーは、通常どおりかかります。また、簡易飛行、媒体飛行は戦闘中は用いることができません。プレイングで無理にこれらを使用しようとした場合、判定に重篤なぺナルティーがかかります)。
●初期配置
『ホルスの子供達』ザン三兄弟は一塊になっています。
イレギュラーズはそこから50メートル以遠であれば配置は自由です。
少なくとも最初はザン三兄弟からは動かないので、1ターン目にザン三兄弟を攻撃の射程に入れようと思えば、副行動で移動を行う必要が発生します。注意して下さい。
●『ホルスの子供達』ザン三兄弟
かつて海洋の『大号令』の最中、第三次グレイス・ヌレ海戦で海洋海軍に立ちはだかったシャチの海種の海賊です。
長男ザン・ギャックと三男ザン・ニーンは第三次グレイス・ヌレ海戦で討たれ、次男ザン・コックは後に魔種化してアクエリア島を襲撃した際に討たれました。
男が知っているザン三兄弟は第三次グレイス・ヌレ海戦時のものですので、ザン・コックの『ホルスの子供達』は魔種ではありませんが、それぞれオリジナルよりも実力は高く、三人で魔種1人以上相当の実力を発揮します。
なお、攻撃手段などはオリジナルのものであり、ここに載っていないスキル・特殊能力を持っている可能性はあります。
・ザン・ギャック
ザン三兄弟長男。バ火力タイプです。攻撃力に優れており、一撃の威力は甚大です。
攻撃手段など
バトルアックス(通常攻撃) 物至単
爆彩花(アクティブスキル) 物至単 【防無】【反動80】
クラッシュホーン(アクティブスキル) 物至単
豪鬼喝(アクティブスキル) 物至列 【痺れ】【飛】
オーラキャノン(アクティブスキル) 物遠単
・ザン・コック
ザン三兄弟次男。タンクタイプです。HPと防御技術に優れ、タンクとして行動します。
攻撃手段など
シャムシール(通常攻撃) 物至単
ブロッキングバッシュ(アクティブスキル) 物至単 【痺れ】
オーラキャノン(アクティブスキル) 物遠単
茨の鎧(アクティブスキル) 自付与 【反】【自付】【副】
ディフェンドオーダー(アクティブスキル) 自付与 【自付】【副】
・ザン・ニーン
ザン三兄弟次男。スピードタイプです。高命中高回避、高機動力高EXAでトリッキーに動きます。
攻撃手段など
ダガー(通常攻撃) 物至単
ソニックエッジ(アクティブスキル) 物至単 【乱れ】【凍結】【麻痺】
オーラキャノン(アクティブスキル) 物遠単
スニーク&ヘル(アクティブスキル) 物至単 【ブレイク】【防無】
衝撃の青(アクティブスキル) 神遠単 【飛】
●ユメーミル・ヒモーテ
元盗賊団の頭領です。かつて自身の「素敵な男性との幸せな結婚」と言う願望を叶えるために色宝の奪取を狙い、イレギュラーズ達に阻まれた結果、ネフェレストで部下ともども監視のもと奉仕活動に従事しています。
今回は、ラダさんの要請を受けて皆さんに協力することになりました。
怪力を誇るため攻撃力は非常に高く、命中、生命力、特殊抵抗も高い水準にあります。一方、回避と防御技術は低めです。ただし、イレギュラーズでないためパンドラはなく、実力も皆さんやザン三兄弟よりは一枚劣ります。
装備によって2つの戦闘スタイルを切り替えることができるため、今回の彼女の戦闘スタイルをどうするかは皆さんで決めて下さい。決定は誰か1人がプレイングに記入すればOKですが、同数が相反する内容を記入した場合、あるいは誰も記入しなかった場合はGMの判断で決定します。
・”グレート・ウォール・シールド”装備
身体をすっぽり隠してしまうほど大きな盾を両手で持ち、基本的には防御に専念して誰かを庇い続けるスタイルです。
本来低めの防御技術が、大幅に強化されます。
攻撃面は、幸運にもEXA判定に成功すれば、シールドバッシュを繰り出すくらいです。
・“バスター・ビーム・カノン”装備
練達製の据え置き型ビーム砲を装備し、火力支援を行うスタイルです。
武器のデータとしては、神超貫 【万能】【弱点】【溜】/物至扇(※白兵武器として使用時)となります。
一撃の威力は大きいのですが、高速詠唱がないためクールタイムが発生する(ただしクールタイムの間は白兵武器として使える)ことと、範囲が「貫」ではありますが誰かが防御を固めて盾となった場合、そこから後ろには攻撃が通らないのがネックです。
●ユメーミルの部下、男を含む大鴉盗賊団
互いに、この部屋の外で戦闘中です。その結果がイレギュラーズ達の戦闘に影響を与えることはありません。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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