PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Rw Nw Prt M Hrw>あなたがいるならどこへでも

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●愛しい愛しいあなたの名を呼ぶ
 どうしてどうしてここまで入りこめたのか、少女にも分からない。
 誰にも見つからないよう、必死で姿を隠し息を殺し、時にはいかにも物騒な大人たちに紛れてみたり、見知らぬ子どもたちに紛れてみたりした。
 それがなんなのか、少女はよく知らない。どういう意図で集まったのかは、ちょっと予想できるけどやっぱりよく分からない。
 ただ自分の目的だけは知っていた。
 なにを探せばいいのかも、理解していた。
 だってさっきからずっと『呼ばれている』のだ。
 地底湖のほとりで。もうすぐたどり着ける。声はどんどん大きくなっている。耳に届くのではなく、魂に響くような声が。
 寂しそうに誘っている。
 期待に満ちて招いている。
『名前を呼んで』『私の名前をあなたは知っている』『呼んで』『見つけて』
 ええ、と恐ろしい魔物を横目に少女は駆ける。
 呼びたい。抱きしめたい。だって私は『その声の主の名前を知っている』。
 もう会えないと思っていた、あなた。

 ようやくその姿を目にとめた。
 にこにこと笑う女の子。自分と同じ年のころの。
「……ィ、シャ……」
 よく知る姿であなたは笑う。
「レイーシャ!」
「ぁあ……ぇ……」
 両腕を広げられ、その中に飛びこんだ。
 レイーシャ。去年事故で死んでしまった、隣の家の女の子。同い年の大親友。
 怪我をして遺跡から街に運ばれてきた人の手当てを手伝っているときに聞いたのだ。ファルベライズには死者を蘇らせる術があると。
 本当だった。本当だった!
「ずっと一緒にいて、レイーシャ!」
「ん……」
 にこにこと。
 笑うそれが『レイーシャ』ではなく、温もりも持たない土人形だと、少女は気づかない。

●一緒に地獄に落ちてもいいわ
「街から女の子がいなくなった。昨日から帰っていないようでね。それだけならいいんだけど、問題なのはその少女を地底湖付近で見かけたという情報が入ってきたことなんだよ」
 口早に『空漠たる藍』ナイアス・ミュオソティス(p3n000099)は説明する。
「どうやらその女の子……レレリア嬢は去年、大親友だったレイーシャ嬢を亡くしているらしい。その上で、ファルベライズで死者が蘇るという話を『断片的に聞いてしまった』」
 現在、ファルベライズで行われているのが死者の蘇生などではないことをイレギュラーズは知っている。
 あそこにいるのは魔物と、博士なる人物によりつくられた人形――『ホルスの子供達』と名づけられた土塊だ。
「生きていてほしいとは、僕も思っているよ。できれば誰かに捕らえられてつまみ出されるか保護されていてほしい。でも」
 そういった情報を、少なくともこの情報屋は手に入れていない。
 つまりは最悪の場合が想定される。
「レレリア嬢はよりによってホルスの子供達を、レイーシャの名で呼んでしまったかもしれない。
 お願いだ、親愛なるイレギュラーズ。彼女にとってこれは苦しいことかもしれないけれど。それでも。レレリア嬢を、連れ戻してほしい」

GMコメント

 初めまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 もう一度、君にさよならを。

●目標
・レレリアの奪還
・『ホルスの子供達』レイーシャの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●シチュエーション
 ファルベライズ遺跡群、クリスタルの遺跡へと繋がる通路が存在する地底湖の一角です。
 それなりに広く、空は見えません。

 中央小島の淡く虹色に輝く扉からはホルスの子供達がぞろぞろと出てきていますが、この戦場は少し離れているのでひとまず合流される心配はなさそうです。

●敵
・『レイーシャ』×1
 ホルスの子供達です。ふわふわしたワンピースに波打つ巻き毛の、14歳ほどの女の子に見えます。
 人間でいう心臓の部分にこぶし大の深緑の色宝が埋まっています。
 まだ『発生』して間もないのでほとんど片言でしか話せません。

 レレリアを傷つけることはありませんが、周囲の砂魔晶のこともイレギュラーズのこともまとめて敵だと認識します。

 物理攻撃力、体力、回避に優れた非常に強力な個体です。
 近距離・中距離で範囲攻撃持ち。

・いとしいあなた(P):通常攻撃に【猛毒】【恍惚】

・『砂魔晶』×20
 通りすがりの魔物です。ひし形の箱のような見た目をしています。
 レイーシャのこともイレギュラーズのことも敵とみなし、襲ってきます。

 防御技術、特殊抵抗に優れます。

・通りすがりの魔物(P):体力が10%以下になると戦線から離脱する

●ホルスの子供達
 博士と呼ばれる錬金術師の作品。土から作られる人形。
『一度壊れても、何度でも名前を呼ばれたならば生き返ることができる』という特徴を持つ。

●NPC
『レレリア』
 要救助対象。
 レイーシャが蘇ったと信じて疑いません。
14歳の華奢な少女。ここにくるまでに転んだらしく、膝に怪我を負っています。
 レイーシャが倒れるたびに彼女の名を必死に呼びます。
 本当に本当に大好きな親友です。

 皆様のご参加、お待ちしています。

  • <Rw Nw Prt M Hrw>あなたがいるならどこへでも完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月21日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
山賊
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
マルク・シリング(p3p001309)
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
エルス・ティーネ(p3p007325)
青鋭の刃
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀

リプレイ


 砂魔晶が浮遊する中、少女が強張った表情で同じ年頃の、どこか虚ろな目をした女の子に抱きついていた。
「レレリアだね?」
 柔らかくマルク・シリング(p3p001309)に呼ばれ、レイーシャにしがみつくレレリアが顔を上げる。
「大丈夫かい? ローレットが助けにきたよ」
 父性を感じさせる微笑みを傷跡が残る顔に浮かべ、『揺るがぬ炎』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が手を伸べた。
「……レイーシャも?」
 応えようと細く息を吸って、しかし『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は紡ぐべき言葉を見失う。
 少女にとってはそれがすべてだった。怯えていた双眸に怒りの炎が宿る。
「私はレイーシャとここにいる!」
「そうかよ!」
 ハッと鼻で笑った『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が疾走、その背を『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が追い越した。
「ホルスの子供達。泥でできた人形か」
 呟く声に嫌悪が宿る。美貌の眉間にも縦線が刻まれていた。
 抜き放たれた汰磨羈の刃は彗星となって空を走り、膠着状態が崩れたと知ってグドルフに向かってきていた砂魔晶を突き刺す。
 即座に引き抜き、再び凄まじい速度での一撃を放った。
「れ、れ……あ……」
 言葉を覚えたばかりの赤子のように、舌足らずで不安定な発音で完璧な少女の形をとった泥人形はひとりの名を呼ぶ。
「聞こえねえなァ!?」
 躊躇いなくグドルフは斧を振るった。少女の小さな手が、体側で斧を受け流す。
「レイーシャ!」
 たまらず叫んだレレリアが瞠目した。『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は少女の正面に立っている。
「峰打ち御免……!」
 白百合の意匠が施された美しい刀の背が、レレリアに振り下ろされた。少女は小さな声を上げて気を失う。
 彼女が倒れ切る前に、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が手を差し伸べて支え、抱きあげた。
「あんまり痛くなかったと思うけど、緊急時だからゴメンね!」
 眉尻を下げたイグナートとルーキスは刹那だけ視線を交錯させ、頷きあう間も惜しんで走る。
 獲物を逃がすまいと二体の砂魔晶が追走してきた。
「追ってきた!」
「任せてください!」
 言うが早いかルーキスが反転、刀を構える。
「これより先に進みたくば、俺を斃してみせよ!」
 ふぉん、と風のような音を発し、砂魔晶がくるりと躍った。停止した砂魔晶から放たれた光線がルーキスを襲おうとする。
 そのうちの一体が、背後から桜色の矢で射られた。地底湖の一角で桜吹雪が舞う。
「レレリアさんには近づけさせません」
 決然と言い放ったユーリエの手に光の弓が現れる。彼女の背後を狙おうとした砂魔晶を、『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)の鎌が一閃した。
「レレリアさん……。どうか偽物であっても、あなたの親友を傷つけることを許して頂戴ね」
 祈るように目を伏せたエルスは、次の瞬間には敵を視界に収めている。
 ここで自分たちが敗れれば、レレリアと『レイーシャ』がどうなるか、想像できるからこそ戦いを放棄することはできなかった。
「残酷だ」
 偽りの再会と確かな離別。ウェールの胸にも悲哀が炎となってこびりつく。放たれ、複数の砂魔晶を蹂躙する狼と黒虎の焔がその感情に同調するかのように身をよじった。
 杖を握るマルクは思案する。
「この通りすがりの魔物に、まずはご退場いただくとして」
 さて、と。
 見る先は、グドルフと交戦するレイーシャ。
 そしてイグナートに後方へと運ばれ、岩陰に寝かされたレレリアだ。
「女の子がひとりで地底湖に。入りこめないこともないだろうけど」
「けど?」
 光の加護をマルクに付与したユーリエが首を傾ける。
「『呼ばれた』のかもしれないと思ってね。……ありがとう、ユーリエさん。助かる。これで全開戦闘ができるよ」
 頷いたユーリエは奥歯を小さく噛む。
 親友の死を受け入れられなかった少女と、名を呼ばれて存在を得る泥人形。
 惹かれあったとしても、それはあまりにも――。

 負傷した砂魔晶がふらふらと飛んで戦場から離脱する。
 深追いはせず、エルスは次の標的に向かって鎌を振り上げ、おろした。
「数が多い!」
 ある程度まで痛めつければ逃げていくようだが、それにしても多い。
「各個撃破していくしかなさそうですね……!」
 ひし形の箱から放たれる光線に腕を焼かれながらも、ユーリエは弓を引いた。眩い光の弓から深淵のような闇炎の矢が放たれ、直線状にいた砂魔晶をまとめて射抜く。
 体の一部を蝕まれるような痛みを噛み殺して、ユーリエは攻撃を続ける。エルスも大鎌の一撃一撃を全身全霊で放った。
「あ、あ、あ」
 力のない声を上げたレイーシャが右手を無造作に振る。
 生まれた風の刃はイレギュラーズも砂魔晶も区別なく傷つけた。グドルフを狙っていた砂魔晶が傾きながら後退、ウェールへと飛翔する。
「レイーシャ。その力は、レレリアが傍にいても使ったのか?」
 悲しい問いとともに、ウェールの手から狼のような焔が放たれた。春のように穏やかな焔は、相手の戦力を燃やす。
 燐光のように焔の尾をひきつつ砂魔晶が撤退した。
「気に入らぬ」
 砂魔晶が刺客からルドルフを攻撃しないように立ち回る汰磨羈は、吐き捨てる。
「博士とやらはなにを考えて、こんな紛い物を生み出した」
 知りたくもなかった。ある意味では、天義の月光人形よりたちが悪い『子供達』の誕生秘話など。制作の意図など。
「激しく気に入らぬ!」
 嫌悪と憤怒を燃やして、汰磨羈は通りすがりの魔物である砂魔晶に刃を叩きつける。ばき、と音を立てて砂魔晶の一部が欠けた。反撃とばかりに光線が放たれ、汰磨羈を負傷させる。
 構わずに砂魔晶に連撃を加え、戦場から追放した。
「ホントウに……ね!」
 戦闘音の隙間を縫って響く叫びに、イグナートは苦く同意する。
 打ち出された拳を回避するため、砂魔晶が後退した。ルーキスもイグナートと同じく、レレリアに砂魔晶が近づかないよう、牽制と攻撃を行う。
「く……っ!」
「ルーキス!」
 高速回転した砂魔晶がルーキスに突撃する。靴底で地を削りながらもルーキスは吹き飛ばされないように耐え、回転を終えた砂魔晶を斬りつけた。
「この程度、問題ありません!」
 じりじりと砂魔晶はレレリアから遠ざけられ、戦闘の中心であるレイーシャの方へと近づけられていく。
 マルクの杖先から治癒の光が広がり、仲間たちの傷を癒した。
「どこまで、レイーシャなんだろうね」
 魔水晶と睨みあっていたときも、恐らくその前から、レイーシャは口元に薄い笑みを貼りつけていた。レレリアが『笑っていてほしい』と願ったためだろう。
 砂魔晶とグドルフから攻撃を受けている今も、少女の口角は微かに上がっている。それ以外の顔を知らないと言うように。
「彼女にとって、一度失ったものを手にできるというのは、この上ない幸福だったでしょう。ですが」
「……レイーシャはきっと、こんな風に笑わなかったと思うのは、私たちがそう思いたいだけかしらね」
 砂魔晶を撃破しつつ、レイーシャにも気を配る最中、ユーリエとエルスは表情を険しくする。
 望まれたように振舞うだけの、泥人形。

 音を置き去りにするような速度で放たれた蹴りを、グドルフは体をくの字に折って回避する。風圧は刃の鋭さだった。
「左に三歩!」
 両腕を掲げたレイーシャがなにをするか経験から把握し、懐に飛びこんで一撃を食らわそうとしたグドルフの耳を汰磨羈の指示が叩いた。
 即座に行動を変更、左に三歩動きた直後、レイーシャの腕が振り下ろされる。
 地面が方々で小さく膨れ、弾ける。いくつかに被弾しながらもグドルフは素早い身のこなしで半数以上を回避、逃げ遅れた複数の砂魔晶が被害を受ける。
「後ろ!」
「チィッ!」
 治癒を施しながらマルクが言い、グドルフが振り返ると同時に斧を構えた。
 小柄な見た目からは想像もつかない威力の拳が斧の側面と衝突、轟音を放つ。グドルフの踵がわずかに下がった。
「れ、れり、あ」
「ッラァ!」
 うわごとのように呼ぶ少女型の泥人形の脳天目がけてグドルフが斧を振り下ろした。レレリアは腕を重ねて防御。両断するつもりの攻撃は、少女の腕をわずかに傷つける。
「可愛げのねぇ人形だな」
 人間とも泥とも違う、不気味な感触がグドルフの手に残る。足元に振動を感じて即座に後退、伸びた土の盾を破壊する。
「れれ、りあ」
「お前の相手は俺だ、泥人形のバケモンが!」
 少女の元に向かおうとするレイーシャをぶった斬った。ゆらりと体を傾がせた泥人形はグドルフを地面から生やした杭で串刺しにしようとする。
 回避した彼に代わり、砂魔晶が下から貫かれた。
「恨まれ役、結構! こちとら山賊だ、恨まれてナンボってな」
 少女が今最も必要としているものを、命がけで見つけ出したこの泥人形を、グドルフは率先して奪う。
「思いも記憶も感情もねぇ出来損ないが。とっとと潰れちまえやッ!」
 傲然と嗤いながら、華奢な体めがけて斧を振った。

 イレギュラーズに攻撃され、レイーシャに巻きこまれ、砂魔晶は次々と逃走していく。
 回し蹴りをグドルフに放った泥人形の体が急に傾いだ。すかさず山賊の斧がレイーシャの胴を薙ぐ。
「此方も大方片づいた」
「そうかよ」
 機動力を削ぐために脚部を狙った汰磨羈が端的に報告する。グドルフの返答も短いものだった。
「れれ、りあ」
「ホルスの子供達……。望んだのは、こちらだけれど」
「死者を想う人の心を弄んだ産物だ。罷り通らぬと知れ!」
 最後の砂魔晶を撤退させたエルスは唇を噛み、汰磨羈は怒号とともに突撃する。
「れれりあ、す、き……」
「黙れ。どう足搔こうと御主は偽りの存在に過ぎぬ。疾く果てるがいい」
 グドルフの攻撃をかわしたところに加速した汰磨羈の一撃が的中する。少女の左足が斬り飛ばされ、尻もちをついた。
「過去に縛られてばかりでは、私たちはずっと前に進めないのよ!」
 悲哀が滲んだ声で叫んだエルスが大鎌を振り下ろす。レイーシャの周囲に渦巻いた風の刃がエルスに向かい、頬や腕を斬り裂いた。
「どうか君も、安らかに」
 風がやむのを見計らったウェールが狼焔を放つ。優しい焔を泥人形は腕を振って生み出した土の壁で防いだ。
 同時に発生した杭の群を跳ねて回避したイグナートが、一本の杭の頂点に立ち、拳を固めて飛び降りる。
「どれだけカナシイお別れでも、受け入れないとイケナイんだよ」
 黄泉返りを望むことはあるだろう。イグナートにもそれは分かる。
 それでもと、無垢な顔をした人形に拳を受けとめられながら、彼は苦さを呑み下す。
 イグナートと拮抗していた腕が、吹き飛んだ。
「こんな……、こんなにも、惨いことがありますか」
 目に涙をためながら、ユーリエは次の矢を作成する。少女の腕を奪った矢は、それが乾いた音を立てて地面に落ちると同時に形を崩した。
「れれりあ、いっしょ」
 戦闘の最中にも学習が進んでいる泥人形が、レレリアが望んだ言葉を歌うようにこぼす。体を壊されても悲鳴ひとつ上げず、たどり着くべき発音だけを目指すように。
 まるで眼前の脅威さえ目に入っていないような一途さで。
「これが、ホルスの子供達……」
 隙を窺うルーキスは刀を握り直した。泥人形は薄い笑みを浮かべ、言葉を繰り返しながらも攻撃の手を緩めていない。
 地面が、風が、レイーシャの意思ひとつで凶器となって動く。片腕と片足を失っても人形はまるで怯まず、瞳はときおりレレリアを探すように彷徨った。
「……なにか」
 仲間たちの回復を行いながら、マルクはレイーシャと視線を交わらせる。
「なにか、レレリアに言い残すことはないかい?」
「れれりあ、すき、いっしょ」
「……そうか。そうだね。きっと君には、それしかなかった。そうであることだけを望まれてしまった」
 深く息を吸って、マルクは杖をレイーシャに向けた。圧倒的な破壊力を誇る魔術が発動、土の壁の残骸と杭を吹き飛ばしながら命中する。
「あわせろ!」
 叫んだグドルフに各々が行動で答えた。
 踏みこんだエルスとイグナートが吹き飛ばされ、ウェールの狼焔が泥人形の巻き毛を焦がす。魔力と命を削って作られるユーリエの矢が消火の暇さえ与えない。
 防御の術を失ったレイーシャの首を、ルーキスの刃が落とした。同時に汰磨羈の刃が心臓部を抉り、露出した色宝をルドルフが肩ごと豪快に斬る。
「……れ」
 少女を模した泥人形が、倒れた。
 ごと、と音を立てて深緑の色宝が落ちる。こぶし大のそれは、攻撃を受けたことで一部が欠けていた。
 静寂が流れる。
「やれやれ、終わったようだねェ」
 大きく息を吐き出して、グドルフが斧を肩に担ぎ、「後の面倒はおめえらに任せるぜ」と、仕事は終わったとばかりに明後日の方を向く。
「皆、大きな怪我はないかな」
「レレリアがケガしてたから、治してアゲテ」
「連れてきます」
 あたりを見回したマルクにイグナートが頼み、色宝を回収したルーキスはまだ安全圏で気絶している少女の元に駆け出す。
 苦い表情で汰磨羈も得物を収め、エルスも大鎌を消した。ウェールは祈るように目を閉じる。
 ユーリエは涙の残滓を拭って屈み、色宝の一片を丁寧に拾う。


 懐かしい声に呼ばれた気がして、レレリアは目を開いた。
「どこか痛いところはないですか?」
 無事に目覚めてくれたことにほっとして、ユーリエは問う。
 ぼんやりしていたレレリアが急速に覚醒していった。
「レイーシャ! レイーシャはどこ!?」
「去年死んだだろうが。ああそれとも、あの泥人形か?」
 跳ね起きたレレリアの進路を絶つようにグドルフが立ち塞がり、斧の先を地に突き立てる。びくりとレレリアの肩が跳ねた。
「おれさまが殺したぜ。この山賊グドルフさまがよ!」
「な、んで……」
 気絶する前の光景と現在の状況がレレリアの中で重なる。
 あの子に攻撃していたのは、殺したと言ったのは、この大男だ。
「恨みたきゃ恨めよ」
 口の端をグドルフが吊り上げる。
 震えるレレリアに、エルスが触れた。
「こんなことを言っても、許してもらえるとは思わないわ」
 膝を折ったエルスを、ゆっくりと少女は見る。
「だけどね、あなたの親友であるレイーシャさんを失うだけでなく、あなたまで失ってしまったなら……。私はとても、悲しかったの」
「私を、失う?」
「レイーシャはお墓の中で眠っていたけれど、色宝っていう石の力で、魂だけが引き寄せられて、無理やり復活したんだ。それで、君以外はすべて敵と思うようになって、生きていたころにはなかった力を振るえるようになった」
 ウェールは滔々と語り聞かせる。
 ほんの少しの嘘が、優しい真っ白な嘘が混じったお話を。
「一緒にいたいだろうけど、外に連れ出したら、俺たちが攻撃されたように、君のパパやママ、レイーシャの両親も狙われるよ」
「……うそ。レイーシャは優しい子なの。だから、そんなこと……」
「本当のレイーシャを知り、想うなら尚のこと。このような紛い物に騙されるな。それは、本当の親友から目を逸らすことになる」
 腕を組み周囲を警戒する汰磨羈が言う。
 小刻みに振動する少女の手が、エルスの頬に触れた。乾きかけた血がつく。
 イレギュラーズは誰も彼もが手負いだった。レレリアの目がその事実を確認する。
「死んだ人間は生き返らない。これはゼッタイ不変の混沌世界のルールだって、師父が言ってたよ」
 葛藤する少女とイグナートは目をあわせる。
「どれだけ似てても別のなにかなんだ。タイセツなヒトの代わりに別物に縋るのは……、責められないけど、それは、タイセツなヒトを忘れる悲しい行為だよ」
 ホルスの子供達。あまりに不完全な死者蘇生。
 彼もまた、少女と『同じ経験をした』。
 だからこそ、願う。
「ちゃんと、死んだレイーシャを偲んで、泣いてアゲテ欲しい」
 一筋の涙が、レレリアの頬を伝った。
「残された貴女は、レイーシャさんの分まで生きてください。きっと彼女もそれを望むはず。それに……、貴女の想いは、レイーシャさんにも伝わってると思いますよ」
 回収したいびつな色宝を、苦さとともにルーキスは握り締める。
「ね、私たちを許さなくてもいいわ。だけど、どうかあなた自身の命を……、あなたが、大切にしてほしいのよ。本物のレイーシャさんもね、きっと思ってることだと思うから」
 瞬きも忘れて落涙しているレレリアに、エルスが微笑みかけた。
「レイーシャ、も……?」
「『もう一度会いにきてくれて、ありがとう』って。レイーシャが言ってたよ」
 かくあれかしと望まれて、そう在っただけの泥人形に記憶も感情もありはしなかった。
 それでもマルクは、少女に告げる。心の傷が癒えるまでの、甘い薬のような嘘を傷口に触れさせる。
 ひく、としゃくりあげたレレリアの手を、ユーリエがとった。
「こ、れ、なに……?」
「あのレイーシャさんの心臓、色宝です。効力は失われていますが……。これは、レレリアさんが持っていてください」
 渡された濃い緑色の薄片を、レレリアはそっと握る。
「レイーシャさんはきっと、ずっとレレリアさんの傍にいますよ」
 労わるようにユーリエに撫でられて、脱力した少女はぺたんと座りこむ。
 数秒もしないうちに、少女の鳴き声が響いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
泥人形にさよならを。

ご参加ありがとうございました!

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