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シナリオ詳細

<神通麓>雪蛍、灯るひ

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎ゆきのきせつに

ゆきのかみさま ひとぎらい
いのちあるもの とおざける
くらい くらい ちのそこで
ほたるかぞえる ひぃふぅみ 

ゆきのかみさま ひもきらい
ねつをもつもの とおざける
しろい しろい じふぶきで
よるをかぞえる ひぃふぅみ

ともる ほたる しんねんの
ひがしに ひがうまれかわる
まつりのひには やってくる
しろでおおう しのかみさま



 しんしんと振る雪に閉じた静かな夜。囲炉裏の音だけが軽快に爆ぜる傍らで、職人は組んでいた木枠から離した手で自身の腕を撫で摩って考える。
 止まない雨。足りない提灯。怪我で途方に暮れた日のことを。
 訪れない秋。減らない花火。人手があればと嘆いた日のことを。
 あれからまたひとつ季節が巡り、新しい年を迎えた。こうして次の祭事に向けて忙しくしていられるのも、あの日助けてくれた彼らのおかげだ。
 ふと。元気にしているだろうか、と故郷で帰りを待つ親のような心持ちすら抱いた職人は、机を片付けて墨をすり、筆を執る。絵の具ではなく、絵筆でもなく。そして梅の花が舞う雪路のような便箋に、彼にしては珍しくすらりすらりと文を認めていった。

 拝啓 厳寒の候、いかがお過ごしでしょうか——



⚫︎鎮めるひ、初めてのひ

「——ご多忙と拝察いたしますが、ご検討くださいますようお願い申し上げます。敬具」

 いつになく真面目な顔で締めまできっちり読み上げた案内人は、眉間を揉んで息を吐いた。

「はぁ……もー、堅っ苦しくない?『蛍のお祭りがあるから遊びにおいで。旅館で温泉も浸かれるし、また花火も上がるし、これまでご縁がなかった人も歓迎するよ』って要するにそういうコトだってさ」

 鎮火(しずめび)という祭事があるのだという。
 その世界において火薬など火に関するものは自我を持ち、それを司る神様に頼らなければ人の手に負える代物ではなかった。その加護のお礼として夏には花火を上げて盛大な祭りを開催する。
 逆に、冬に行う祭りは年に一度の火の神様の休日にあたり、日の出と共に村では竃から何からあらゆる火を消し、火の有り難みを心身共に感じる1日となっている。

 夏の太陽をも司る神様の休暇となれば、当日の天気は曇りか雪かで決して晴れることはなく、とにかく寒い。
 しかし煮炊きも風呂を沸かすこともできないので、山の上の温泉に浸かり、温泉で茹でたり蒸したりした料理などをいただきながら寒さを凌ぐのである。
 そして夜は当然、明かりひとつ無い真っ暗闇だ。この時、提灯代わりになるのが『雪蛍』である。

 雪蛍は鎮火の頃になると何処からか現れ、翌日になれば何処かへ消えていく生き物だ。
 ゆらゆらと青白い光を帯びて飛ぶ姿はまるで人魂のようで、実際に里帰りの霊魂も混じっていて縁深い者の元へとやって来るのだそうだ。鎮火の日以降に追いかけると死者の国まで誘われてしまうため、正確な生息地は不明なのも合わせて不思議な存在だ。
 個々の性格もあるが、おおよそ人を怖がらないので、当日までに用意した籠へ呼んで生活を共にすることになる。

 雪蛍が死者の里帰りと言われる理由として、この鎮火の日は死者の国の管理者であり、冬も司る雪の神様が年に一度、日も火も消えた表の世界へ出てくる日でもあるからだ。
 翌朝、日の出の中に一斉に解き放たれた雪蛍と共に死者の国へ帰るまで、吹雪に紛れて遠巻きに人々を見ているんだとか。

 また日が沈めば村中で火を起こす。花火を上げて火の神様の目覚めを促す初火(ういか)の儀式とし、これにて冬の祭事はめでたく終了となる。

「とまぁ、謂れと流れの説明はココまで。だけど最初に言った通り、難しいことはそれを担当する『職人』がやってくれるし、キミらは蛍と温泉と花火を楽しめばそれで良し! オレも久しぶりに遊びに行っちゃおーカナ☆」

 あとは案内でも見ながら計画するとイイよ、とやたらとポップな(おそらく手作りの)チラシを手渡して案内人はさっさと退場してしまうのだった。

NMコメント

冬に温泉に浸かりながら見る蛍や花火もいいんじゃないでしょうか。
とりあえず私は温泉に行きたい。氷雀です。雪見風呂最高。
ソロでもペアでもグループでも、どうぞ気軽にご参加ください。

⚫︎世界観
神話が色濃く根付いている、日本の江戸時代に似たところ。
職人の技が神様と人間を繋いでいます。
以下のシナリオと同じ世界ですが、読まなくても大丈夫です。
『本日、提灯日和』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3907
『千の幸が咲く夜に』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4176


⚫︎登場NPC

提灯職人
雨避けの提灯の作り手で、人と雨の神様の橋渡しをする役目を担う。
昨年、腕を怪我してその責務を完遂できずにいた自分を助けてくれたイレギュラーズに恩を感じており、祭りに合わせて温泉へ招待してくれた手紙の主。
雪蛍を呼ぶ『籠』も提灯の括りになるらしく、ひと仕事終えたところです。
籠を配った後はイレギュラーズの様子を窺いつつ宿内外を散策する予定です。

花火職人
男女を問わず、十数人の青年から老年までが所属する職人集団。
人と火の神様の橋渡しをする役目を担う彼らは、みな火薬の声が聞こえる能力を持っており、親方と呼ばれる男性が彼らを仕切っている。
親方は初火の儀式の打ち上げは弟子一同に任せ、よく見える位置を陣取って酒を飲んでいることでしょう。

境界案内人
温泉に興味がある様子。
姿が見えないのでひと足お先に浸かっている可能性大。

???
頭の天辺からから爪先まで真っ白な幼子、または少年、あるいは青年、もしくは老人。
姿が曖昧で、顔はよく見えません。
鎮火前日、当日〜翌朝までの間、ふらりと庭先に現れるかもしれません。


⚫︎やれること
4日程度で次章へ移行していきます。

【第一章】鎮火前日〜日の出まで
宿の庭先にて雪で遊んだり、遊ばれてみたり
雪蛍を観賞したり、戯れたり、故人を偲んでみたり
提灯職人の配る籠に呼んでみたり
籠の数は足りていますが、自分で作ってみたい人は声を掛けてあげてください
まだ火が使えるため、屋内は暖かいです

【第二章】鎮火当日〜日の出まで
温泉(男女別の露天風呂)
飲食(温泉卵・温泉饅頭の他、蒸し料理や茹で物、熱燗など)
他にも籠に入った雪蛍とのんびり語らったり
庭先へ雪蛍を見に出たり、蛍籠と一緒に散歩したり
宿の明かりは全て蛍籠で、貸し出しもされています
屋内外問わず寒いので厚着をするのがオススメ

【第三章】
・タグ【朝】
雪蛍を籠から放ったり、その光景を眺めたり
決意を固めたり、何かにお別れを告げたり
『???』が問いかけてくるかもしれません
「雪は好きかい?」「蛍は好きかい?」
「いつか冷たくなってしまうものを愛するのは何故?」

・タグ【夜】
寒さに震えながら花火を待ってみたり
花火を窓越しに、庭先から、露天風呂から見上げたり
花火が終わると雲が晴れて星空が広がります
花火の親方は梯子を使って宿の屋根に登っています

【朝】は随時、【夜】はプレ募集を閉めてからのリプレイ返却とします。

  • <神通麓>雪蛍、灯るひ完了
  • NM名氷雀
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月11日 15時35分
  • 章数3章
  • 総採用数9人
  • 参加費50RC

第3章

第3章 第1節

カルウェット コーラス(p3p008549)
旅の果てに、銀の盾

 カルウェット コーラス(p3p008549)は朝からそわそわしていた。木陰を覗いたり、宿の裏手に回ってみたり、まるで猫の子でも探すように。
「不思議なこと、ひとつふたつあるなら、ふたつめ、きっと、今日会える」
 昨日出会った不思議な子。不思議は、楽しい。迷子なのかも、違うのかも。ひとりぼっちなのかも、違うかも。ぐるぐる考えて、たぶん、答えはここにないから。
「会って、お話、してみたい。寂しいなら、寂しくなくしたい。きっと、友だち、なれる、する」
 庭先に戻ってきたカルウェットが昨日の場所へ目を向けると、幼子のような白の尋ね人が蛍を見上げていた。
 雪を蹴って来る存在に気付いたのか、目も無い顔が静かに見据えて問う。
「雪は好きかい?」
 掠れた声にカルウェットは素直に頷く。
「蛍は好きかい?」
 ぴかぴか、きれい。濃い桃色をした瞳が昨夜を思い出して柔らかく微笑む。
「いつか冷たくなってしまうものを愛するのは何故?」
 難しいこと、まだわからない。でも——
「夜に約束、ある。花火みる、職人さん会える、楽しみ」
 ——確かに脈打つ、今があるから。
「これ、ボクが作った籠。あげる、する」
 少し歪な分だけ心が籠もった作品と真っ直ぐな願いを差し出して。
「お友だち、なる、してください。ボク、カルウェット。あなたは、だぁれ?」
 神様、と短く答えてそれは瞬きのうちに消えてしまった。しっかり、籠と一緒に。

成否

成功


第3章 第2節

青燕(p3p009554)
蒼穹の翼

「待ちきれなくて出てきちまったけどやっぱさみぃ……鼻水出そう」
 青燕(p3p009554)にとっては初めての冬の花火。赤くなった鼻を摩っては寒いと溢し、それでも懸命に空へ向ける視線は期待に満ちていて——ぱっと灯った小さな光に釘付けになる。
 ひゅるる、と駆け上がっていくその火の玉は高く高く、たくさんの人の思いをのせて視界を埋め尽くすほどに大きく弾けた。赤や緑、紫、白に金、そこからは我先にと新しく花開く。
「なんか、一瞬で咲いて一瞬で散っていくのが寂しいよな。そこがいいんだけど」
 やけにしんみりした青燕の声が空気を揺らす轟音に紛れていった。

 最後の一発が消えて暫く、煙も晴れ、夜闇に慣れた目に映る満天の星はまたしても青燕の天秤をぐらぐらと揺らす。
「すっげぇ綺麗だなー……」
 あとはゆっくりしていようと思っていたのに。あんな空飛んだら気持ちいいだろうな。うん、ちょっとだけならいいかもしれねぇな。苦手な寒さに好奇心が勝った瞬間だった。
 澄んだ空気の中を青みを帯びた羽で急上昇し、くるり、くるり、煌めく星の海を泳ぐように自由に飛び回る。これは思った以上に気持ちがいい。
「あ、あそこにいるの提灯職人じゃねぇか?他にもいるっぽいけど、あれが花火の親方か」
 見下ろす宿は雪色に染まり、屋根の上で酒盛りをする人影は随分目立った。このまま布団に入っても寝付けそうにないしな。ひらりと青燕の軌跡は弧を描いた。

成否

成功


第3章 第3節

カルウェット コーラス(p3p008549)
旅の果てに、銀の盾

 約束という言葉の魔法か。夜も夜とてカルウェット コーラス(p3p008549)はそわそわしていた。
 提灯職人に連れられ、屋根の上で再会した花火職人の親方は既に酒瓶と仲良しで、よう嬢ちゃん、と調子良く手を挙げた。
「久しぶり、元気、してた?」
 挨拶は空を焼く豪音で掻き消されてしまったが、お陰様でこの通りよ、と親方が赤と緑で咲いた花へ流した視線で応えた。
「花火、綺麗ーー! 神様にも、見せる、してーー!」
 夏を知るカルウェットは思ったままに褒め、届けたい願いを託して声を張る。怪訝そうなふたりの職人には、今朝の出来事を一生懸命に話して聞かせた。
 ははぁ、白い神様ねぇ。珍しく神妙な口振りの親方。
「ボクも職人、近づける、したかな。二人みたいに、カッコよい、なりたいぞ」
「……お前さんが籠に込めたものが神様に目に留まったのかも知れない」
 技術はまだまだでも心はもう職人だ、と頭を撫でる手を捕まえてカルウェットは強請る。これはわがまま。だけど、許してくれる、はず。
「じゃあ、約束、もうひとつの……忘れてないからな? 名前」
 おやまぁ、と後ろで野次馬が瓶を揺らす。ここで逃げたら格好良くはないな。提灯職人は「一賀(イツカ)、だ」と深く息を吐くように答えた。
 それから確かめるように何度も呼ばれて提灯職人・一賀は耐え切れず酒を呷り、親方はどっと声を上げて笑った。寒いけど、とてもとても、幸せな時間だった。

成否

成功


第3章 第4節

 日暮れの頃になると雪蛍はすっかり姿を消していた。重く閉ざしていた雲も今は薄くなり、赤紫色の名残りが見え隠れしている。もう一押し。そんな印象だ。


 遠く、光の玉が上がる。
 ひゅるるる、と高音を後ろに引き連れ、速く疾く、何処までも登っていきそうなそれが、弾ける。咲く。雪の後の澄んだ空気に大輪が花開く。
 ぽ、ぽ、ぽ。上空の花火を合図に、地上の家々に火が戻ってくる。人々の安堵した声が漏れ聞こえ、明るい営みが息を吹き返す。
 僅かに残った雲が押し退けられ、遅れて響く轟音が腹の底まで伝えてくる。はじまりのひを。


 垂れ落ちた最後の残滓が狐の姿を得て跳ねていく。彼の神様も冬の夜に長居したくはないらしい。山間から顔を出す数時間後までのお別れだ。
 あとにはひと粒ひと粒が金剛石のような星々だけが夜空に瞬いていた。

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