シナリオ詳細
<Rw Nw Prt M Hrw>駆け出し盗賊危機一髪
オープニング
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ファルベライズ、地底湖――その一角を、男たちが懸命に走っていた。
「走れ走れ! 追いつかれるぞ!!」
「くっそ、何でこんな目に!」
文字通り命懸けで逃げ回っている男たちを追いかけるのは、何体もの『ホルスの子供達』。
そのうちの一体が、男たち目掛けて雷撃を放つ。
「うわっ?!」
奇跡的にその攻撃を回避する男たち。それに胸を撫で下ろしたのもつかの間、雷撃が直撃した地面が揺れた。
――ボコッ、ボコリ。
「な、なんだなんだ?!」
砂岩の地面が盛り上がり、罅割れ、崩れ落ちる。
「…………ひぃ?!」
立ち煙る砂埃の中から現れたのは、尻尾の先に岩を抱えたモンスター。
「あわわわわ……」
ホルスの子供達と新たに現れたモンスターに挟まれて、男たちが悲鳴を上げる。
「ひぃ! 誰か……誰か助けてぇーーー!!!」
●
「大精霊ファルベリヒトの話はもう聞いたかい?」
集まったイレギュラーズに『黒猫の』ショウ(p3n000005)が問いかける。
ファルベライズ遺跡、クリスタルの迷宮。イレギュラーズの調査の結果、その最奥に大精霊ファルベリヒトの祠があり、そこに存在するファルベリヒトの精神が『狂気』状態に陥っていることが発覚した。
ファルベリヒトが狂気状態に陥っているせいだろうか。最奥に近い場所に存在するホルスの子供達は狂気に近い状態にあり、最奥に近づきファルベリヒトを取り込もうとした大鴉盗賊団にも狂気に当てられ暴徒と化した者が多数存在しているという。
「ファルベリヒトの暴走を止めなければその力が更なる暴走を呼びかねない」
そしてその暴走はファルベライズ付近のみならずラサ全域に広がるだろう、と推測された。
「この間の『竜種』を模した『ホルスの子供達』の事もあるからね。あんなのが『外』へ飛び出したりしたら目も当てられないだろう?」
そう言って、ショウは軽く肩を竦めて見せる。
「そうならないためにもファルベリヒトの暴走を止める必要があるわけだけど、それ以外にも色々と対処するべきことがあってね」
この場に集まったイレギュラーズにショウが提示したのは、クリスタル遺跡から地底湖へと出てきた『ホルスの子供達』の討伐依頼だった。
「原因らしきもの……と言っていいのかはわからないけれど。それが判明したからと言ってホルスの子供達が『扉』の外に出て来なくなったわけじゃない」
地底湖の扉からは未だにホルスの子供達が現れ、それに刺激されたモンスターが暴れ出したりもしているらしい。
ホルスの子供達もモンスターも、外界に出すわけにはいかない。大鴉盗賊団がうろついているようなら、そちらにも対処せねば。
「地味な仕事かもしれないけれど、誰かがやらないとね。決戦の影で後顧の憂いを断つべく動く……そう考えて引き受けてくれないかな?」
●
モンスターの尻尾が地面を抉る。
ホルスの子供達の攻撃が空気を震わせる。
そんな中、ただひたすら逃げ惑う男たち。
「ごめんなさい、もう悪い事しませんからーーー!」
「誰でもいいから助けてーーー!!」
男たちの願いが届くかどうかは、イレギュラーズのみが知る――。
- <Rw Nw Prt M Hrw>駆け出し盗賊危機一髪完了
- GM名乾ねこ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年02月21日 22時40分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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ドゴン! と凄まじい音がする。砂煙が漂い、閃光が走る。
硬いもの同士が当たる音、何かが爆発するような音。
「助けてぇえぇぇ!」
「ヤバい死ぬ死ぬ誰かー!」
戦闘中と思わしき現場へと急ぐイレギュラーズの耳に届く、男の悲鳴。
「あ? なんか邪魔くせぇのがいんな」
ただひたすら逃げ回っているだけの人影を遠目に発見し、『新たな可能性』アンケル・ユルドゥズ(p3p009578)が呟いた。
こんなところに一般人がいるわけがない。依頼を受けたイレギュラーズや傭兵であれば悲鳴を上げて逃げ回るなどということはしないはず。とうことは消去法で大鴉盗賊団の一員ということになるのだが――それにしても。
(こんな場所まで辿り着くとは、運が良いのか悪いのか……)
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が眉を寄せた。誰が見ても力不足とわかる男が二人、その実力からはありえない場所にいる。
放っておいても身の程知らずの盗賊が二人命を落とすだけ、ではあるのだが……。
「目の前で襲われている人間を放っては置けません」
仕方ないと言った様子で首を振るルーキス。
「自業自得だと思うけどまぁ……気の毒ではあるね」
『新たな可能性』イズマ・トーティス(p3p009471)の声に、『虎風迅雷』ソア(p3p007025)が微かに首を傾げる。
「でも悪い人たちなんでしょう?」
ソアの問いに、ルーキスが苦笑した。
「甘い性分だと自分でも分かっていますが、こればかりは」
「ふぅん?」
僅かな間の後、にぱっと笑うソア。
「うんわかった。じゃあ、後で思い切り叱っておかないとね!」
そう言うと、ソアは男たち目賭けて全速力で駆け出した――。
――逃げる、逃げる。
振り下ろされる剣を避け、飛んでくる魔法を避け……行きついた先は巨大アルマジロの目の前で。
「うぁあああ!」
振りかざされる尻尾に、思わず頭を抱え目を閉じる。
もうダメだ、そう思った。
けれど、覚悟したはずの衝撃はやって来ず……代わりに、声が聞こえた。
「運が良かったね、ボクが来たからもう大丈夫だよ」
恐る恐る目を開ければ、小柄な女性――ソアが巨大アルマジロの尻尾を受け止めていた。
「君たちの相手はこっちだ」
『ガアアアァ!』
飛来した小剣が目の前の巨大アルマジロを貫き、巨大アルマジロがくるりとその体の向きを変える。巨大アルマジロの視線の先にいるのは、ソアとは対照的な長身の女性――『艶武神楽』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)。
少し離れたところには、二体の巨大アルマジロと数体のホルスの子供達に囲まれている精悍な体つきをした壮年の男『灰色の残火』グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)の姿もある。
更に、走り込んできた白熊の獣種『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)がその大きな背で男たちを隠し、男たちを追いかけてきたホルスの子供達を挑発するかのように名乗りを上げその意識を自身に向けさせた。
突然現れた救世主……もとい、イレギュラーズに思わず呆然としかかった男たちを、アンケルが叱責する。
「そこで突っ立ってんじゃねぇ! さっさと退かねぇと死ぬぞ」
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)もどこか気だるげな口調で男たちに問いかける。
「盗賊さんら、命あっての物種ってことわかってはるよね?」
コクコクと頷く男たち。それを確認したブーケが微かに笑みを浮かべた。
「なら、さっさとお逃げお逃げ。死んで花実が咲くものか、ってね」
「こちらで敵を引きつけます、その間に早く」
そう言うと、ルーキスも名乗り口上でホルスの子供達の意識を男たちから引き離しにかかる。
「ほら、こっちだよ!」
ソアが半ば強引に男たちの腕を引っ張った。
「なんや、動けへんの? なら俺が向こうまでぶっ飛ばしてやってもええよお」
くすくすと笑い声すら聞こえてきそうなブーケの発言に慌てたように首を振り、男たちが駆け出す。
「死にたくなかったら変に逃げようとすんじゃねぇぞ!」
男たちの背中に向けて、アンケルが怒鳴った。
(連中、命の危険がないと思ってたんなら本当に馬鹿だな)
巨大アルマジロと対峙しながら、グリジオは遠ざかる足音を聞いていた。
何事にも「身の程」というものがある。それを超えるものに手を出そうとするからこういう目に遭うのだ。
(ま、生きて帰れたらその辺しっかり考えろや)
心の中だけで呟くグリジオの耳元で、囁きが聞こえる。
『さあ、はじめるのだわ』
『さあ、あそぼうよなのだわ』
どこか楽し気なその声に、グリジオはやれやれと言った様子で息を吐く。
「――さて、仕事といくか」
男たちを地底湖へと続く通路の片隅まで誘導し、ソアはくるりと彼らに向き直った。
「ここまで来れば一先ずは安心かな」
ニッと笑ったソアの口元から、鋭い八重歯が覗く。
「それじゃ、大人しくしていてね。――逃げたりしたら食べちゃうよ?」
軽い脅しに再び必死で頷く男たちを確認すると、ソアは来た道を戻っていく。
●
巨大アルマジロに飛び掛かり、自身の抵抗力を破壊の力へと変えその頭部に叩きつける。巨大アルマジロの皮膚に触れた華奢な手甲が酷く硬質な音を立て、グリジオにその硬さを伝えてきた。
『―――!!』
巨大アルマジロが形容しがたい鳴き声を上げる。
『硬いのだわ』
『ビックリなのだわ』
囁く声に応じる間もなく振り下ろされる、巨大アルマジロの尾っぽ。咄嗟に後方へと飛び退けば、轟音が響くと同時に元いた場所に小さなクレーターができる。
尻尾の叩きつけをまともにくらえばただでは済まない。改めて気を引き締めようとするグリジオの耳に届くのは、双子姫の声。
『大きなお団子があるのだわ!』
『食べごたえ十分なのだわ!』
緊張感台無しの台詞に思わず崩れ落ちそうになったグリジオに、別の巨大アルマジロの尾が迫る。
振り回される尾をすんでのところで躱し、グリジオが口を開く。
「後でお菓子買ってやるから今は黙っててくれ……」
「大丈夫か」
よほど渋い顔をしていたのだろうか、ブレンダに問いかけられた。
「大丈夫だ」
「そうか」
グリジオの簡潔な答えにやはり簡潔に返し、ブレンダは手にしたリヴァイ・アポカリプスを振るう。叩きこむのは障壁となるモノを粉砕する破壊の一撃――その刃が巨大アルマジロにぶつかると同時、鈍く重い音が響いた。
「見た目通りの硬さ、力任せに斬るのは難しそうですね」
ルーキスの言葉にブレンダが僅かに肩を竦める。
確かに力任せに斬れるような硬さではない。特にルーキスが扱うのはそれぞれに白百合と瑠璃雛菊の意匠が施された二振りの刀。無理をすればその刃のほうが毀れかねない。
「純粋に『斬る』となると難しいだろう……な!」
会話の途中で振り下ろされた巨大アルマジロの尻尾をブレンダが得物で受け止めた。半ば強引に弾き返すも、ブレンダの身体に殺しきれなかった衝撃が走る。
「ならば『技』を以て応戦するのみです。――いざ、参ります」
ルーキスが巨大アルマジロの側面に回り込んだ。幸い、巨大アルマジロたちの意識はブレンダとグリジオに向いたまま――山茶花を花首から落とすような変幻の邪剣が巨大アルマジロの尻尾の付け根を斬りつける。
予期せぬ攻撃だったのか、巨大アルマジロが驚いたように立ち上がった。狙いすましたかのようなタイミングでグリジオのレジストクラッシュが炸裂し、ブレンダの放った飛刀が露になった腹部を射抜く。
『ギャアウウウゥン!!!』
痛み故か怒り故か。吠える巨大アルマジロに、ブレンダが語り掛けた。
「被害を広げる訳にはいかんのだ、悪いが無理矢理にでも大人しくしてもらう」
●
エイヴァンの巨体にホルスの子供達が殺到する。次々と突き出される刃、魔力が込められていると思わしき殴打。実力差に任せて回避と防御を試みるも、流石に全てを防ぎきるという訳にはいかず。
「ちぃとばかし大変そうやね?」
ブーケの声が届いたのだろうか、エイヴァンがちらりと仲間に視線を向けた。
「まあ何とか頑張るさ。……とはいえ流石に攻撃まではなかなか手が回らんな」
体力にも能力にも自信はあるが、受けた傷が多くなればそれを癒さねばならない。何よりホルスの子供達が正気に返る間を少しでも減らすために、彼らの怒りを自身へと向けさせ続けねばならぬ。
「ちまちまやり返しちゃあいるが攻撃はアンタ等頼みだ、頼んだぜ」
不敵に笑うエイヴァンに「あいよ」と応じ、ブーケがキンモクセイの若枝を一振りする。
その直後、エイヴァンに群がるホルスの子供達の一体の足元から晶槍が生じその身を串刺しにした。
「お待たせ!」
盗賊の男たちを避難誘導していたソアも合流し、戻ってきた勢いそのままにホルスの子供達への光撃を開始する。
ホルスの群れに飛び込んだイズマが魔術と格闘を織り交ぜた技で一体を叩き、続くアンケルの喧嘩殺法がとどめを刺す。
(生憎俺はぴよぴよ鳴くかわいいヒヨッコでね)
アンケルはついこの間まで盗賊だった。それが今はどうだ、何の因果が空中庭園へ召喚されイレギュラーズとしてここにいる。
都合がよすぎるなんて百も承知、綺麗ごとでは飯は食えないのだ。
(デカブツはセンパイ達に任せて子どもをぶっ飛ばす!)
少しでも弱った敵を少しでも早く……獲物を求め視線を走らせたアンケルの表情が一瞬強張った。
――ホルスの子供達に、かつての失った家族の姿が重なる。
「もう、一体!」
自慢の雷撃で次々とホルスの子供達を殴り倒していたソアと、とあるホルスの子供達の視線が交差した。
「……あ」
ソアの心に住む『誰か』と同じ姿、同じ眼差し。振り上げた拳が、止まる。
「ずるい……ずるいよ、こんなの」
顔を歪めるソア。
「あんまりマジマジ見んとき。知った顔があってもやりにくいだけやろ?」
そんな二人にほんの僅かに目を細め、ブーケがやんわりと指摘した。そして、あえてアンケルの目の前のホルスの子供達をクリスタルキュアで串刺しにしてみせる。
(そう言えばホルスの子供達は名前を呼ぶとその人の姿になるんだったか)
ブーケの言葉を聞きながら、イズマは今更ながらにそのことを思い出した。
(俺は、そこまでして誰かの残り香を求めようとは思わないね)
己が血飛沫から生み出した刃でホルスの子供達を襲いながら、イズマは思う。
ただ、ソアにせよアンケルにせよそれは同じに思える。二人とも、誰かの名を呼んだりなどしていない……ということは、ここにいない別の誰かがその名をホルスの子供達に与えたのだろうか。
そのせいで、望まぬ対面をしてしまったのだろうか――?
イズマがちらりと向けた視線の先には、拳をより一層きつく握りしめるソアの姿があった。
(博士と言う人はなんて悪いものを作ったのだろう)
ソアの柔らかな肉球に爪が食い込み血が滲む。
「もう頭に来た!」
ホルスの子供達を……その向こうに見える博士の存在を睨みつけ、それまで以上に苛烈な光撃を開始するソア。
「もう戻ってこないこと位解ってんだよ!」
アンケルもまた、何かを振り払うように双剣を振るう。
「デビュー戦で負けるわけにはいかないんだわ!」
ヒヨッコにはヒヨッコなりの矜持がある。吠えるアンケルにブーケの口角が微かに上がった。
「そうそう。その調子でこんなんの相手はさっさと終わらそうねぇ」
イレギュラーズの猛攻に、ホルスの子供達は次々と土塊へと還っていく……。
●
『ギャアアアン!』
悲鳴のような咆哮と共に巨大アルマジロの身体が地面へと崩れ落ちる。
「これで少し大人しくなっていてくれ。あとで君たちの住処に帰してやるからな」
巨大アルマジロに息がある事を確認し、ブレンダは残る二体へと向き直った。
「流石に頑丈ですね」
「もう一押しだとは思うんだがな」
二体の巨大アルマジロから視線を放さないまま、ルーキスとグリジオが言葉を交わす。
身体のあちこちに罅のような傷が浮かぶ巨大アルマジロたち。しかし巨大アルマジロと対峙し続けた三人もまた、消耗していた。
『ガアアア!』
巨大アルマジロが尻尾を振り回す――三人の反応が、ほんの一瞬遅れた。
硬い尾が、三人の身体を薙ぎ払う。
「――ッ!」
それまでのダメージの蓄積もあったのだろう、その衝撃に耐えきれず膝をつく。
それでもまだ――。
満身創痍で立ち上がる三人に、巨大アルマジロが視線を向けた。
「――待たせたな!」
次に来るであろう攻撃に備え得物を構えようとした三人を庇うように飛び込んできたのは、ホルスの子供達を撃破したイレギュラーズの仲間たち。
エイヴァンが三人と巨大アルマジロの間に割って入り名乗りを上げる。
(喧嘩の仲裁役……、いや、喧嘩両成敗か?)
巨大アルマジロの至近に飛び込み外三光を放ったイズマが、一撃離脱の要領で一気に距離を取る。
その直後、イズマが元いた場所を巨大アルマジロの尻尾が勢いよく通り過ぎていった。
(やぱり半端な距離に立つのは危険だな)
気を引き締めるイズマ。
「でっかいアルマジロさん、目は可愛いのに装甲がいっちょん可愛くなくて逆に笑えてくるわァ」
敢えて距離を取ったブーケの手元で、キンモクセイの枝が翻った。硬い皮膚をも貫く不可視の刃が巨大アルマジロを散々に斬りつけ、巨大アルマジロが苦し気に身を捩る。
「後は任せてええやろか? 出来れば殺したくはないし」
だってロマンやん? そんなブーケの言葉にブレンダが頷いた。彼女の得物が姫騎士の奏鳴曲を奏で、巨大アルマジロの意識を刈り取っていく。
残るは巨大アルマジロは一体。頑丈と言っても手負いの状態、消耗しているとはいえ八人のイレギュラーズ相手に対抗できるはずもなく……ほどなく戦闘は終結した。
『終わったのだわ!』
『お菓子なのだわ!』
途端に聞こえ出す囁きに、グリジオが今度こそガックリと項垂れる。
「頼むからもう少しの間だけ大人しく……」
願いが聞き届けられたか否かは、グリジオのみが知る話――。
ひとしきり暴れ叩きのめされたせいだろうか、目を覚ました巨大アルマジロたちはとても落ち着いた様子だった。
小さな目も、暴れていた時より心なしか丸みが増しているように見える。
「眠ってるところを邪魔されたらそりゃ怒るよな……そのうえ殴って悪かったな」
『グルルルル……』
イズマの言葉が理解できたわけではないのだろうが、答えるかのように巨大アルマジロが小さな鳴き声を上げた。
「私たちの戦いに巻き込んですまなかったな。これからは静かに暮らしてくれ」
ブレンダによる傷の手当ても大人しく受けた巨大アルマジロたちは、器用に地面へと潜っていく。
「達者で暮らすのだぞ」
地中へと消えていく巨体を、ブレンダはそう言って見送った。
●
イレギュラーズに救われた盗賊の男たちは、ソアの言いつけを守り地底湖へと続く通路の途中でその身を隠すようにしながら待機していた。
……ただ単に、恐怖で動けなかっただけかもしれない。
「お前ら弱ぇな、それでも盗賊かよ?」
アンケルの言葉に反論する気配もない。
「欲に負けて身の丈に合わない仕事を選ぶからこういうことになる」
そう言うエイヴァンの口調には、多分に呆れが含まれていた。
「駆け出すにしてももうちょいまともな方向に舵切した方がよかったんじゃねぇか?」
生きるために命を削るなど、それこそ本末転倒だ。
「これに懲りたら大穴狙いの仕事をするより、コツコツ努力して普通の暮らしをした方が良いと思うがな」
エイヴァン自身そういう生き方は苦手な自覚はあったが、何事にも向き不向きというものがある。
「まあ、命を懸ける場ぐらい真面目に選ぶべきという教訓にはなっただろう?」
その巨躯に委縮してのこともあるのだろうか、エイヴァンの言葉を神妙な様子で聞く男たち。
「どうします? また盗賊家業に戻りますか? 返答によってはこのまま自警団へ突き出しても良いですが」
続けてルーキスが問いかける。反省し、盗賊から足を洗うというのであればそのまま見逃してもいい。そうでないのなら――。
いずれにせよ、街までは送り届けるつもりだった。折角助けた命だ、帰り道にうっかり死なれても困る。
「……ここまで逃げ延びられたその逃げ足は誇っていいと思う」
顔を見合わせる男たちに、イズマが声を掛けた。
「でも悪いことは止めたほうがいい」
忠告に、どこか辛そうに顔を背ける男たち。それを見たアンケルが、大げさなほど盛大な溜息をつく。
アンケルには分かっていた。彼らはそうやってしか生きられなかった。他の選択肢など存在しなかったのだ。
(だからこれはオレの気まぐれだ)
男たちをジロリと睨み、アンケルが口を開く。
「盗賊辞めてぇなら、ツテで店を紹介してやる」
健全、真っ当とは決して言えないが、モンスター相手に泣きながら逃げ惑うようなことにはならないはずだ。
「選べよ、ほら」
暫くの間の後、男たちはアンケルの提案を受け入れた。
(私も運は悪い方だがこの盗賊たちは運がいいのか悪いのか……)
険しい表情を作ったままで、ブレンダはふと考える。
運が良ければ最初からこんな目には遭わないのではないかと思う。しかし、ギリギリのところで自分たちが間に合った。
ならばやはり、彼らは運が良いのではないだろうか。
なにせ命を拾い、新たな生きる道まで手に入れたのだから――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
ホルスの子供達は全て撃破され、穏やかさを取り戻した巨大アルマジロは再び地中に潜り眠りにつきました。
盗賊団の男たちは盗賊家業からは足を洗う決意をしたようです。
ご参加ありがとうございました。
機会がありましたらまたよろしくお願い致します。
GMコメント
乾ねこです。
こちらは全体依頼<Rw Nw Prt M Hrw>、遺跡地底湖に出てきたホルスの子供達&モンスターを迎撃するシナリオとなっております。
●成功条件
・ホルスの子供達の撃破
・モンスターの撃破または鎮圧
※追いかけられている男たち(大鴉盗賊団)の生死は問いません
●地形
ファルベライズ『クリスタル遺跡』に繋がる通路が存在する地底湖のほとり、その一角。
地面にはモンスターの攻撃でできたと思わしき窪みが点在していますが、広さは十分にあります。
●敵の情報
ホルスの子供達と彼らに刺激され暴れ出したモンスター、そして逃げ惑う男たち(一応大鴉盗賊団のようです)が相手です。
ホルスの子供達とモンスターが戦っており、男たちはその間で懸命に逃げ回っています。
・ホルスの子供達(10~20体ほど)
それぞれに『誰か』を模しているようですが、詳細は不明です(特に気にする必要はありません。また自分が知っている『誰か』に似ている個体がいても構いません)。
並の盗賊かそれより少し強いくらいの集団で、全員が近接から遠距離、僅かながら回復もこなすオールマイティ型。
後述のモンスターと戦闘中。モンスターに撃破された個体もあり、正確な数は不明です。
・巨大アルマジロ(3体)
硬い鎧のような皮膚と伸縮自在な尻尾を持つ四足歩行のモンスター。大柄の男性ほどの大きさで、アルマジロというよりも恐竜のアンキロサウルスのような見た目をしています。
伸縮自在な尻尾の先が鈍器のようになっており、それを振り回したり叩きつけたりして戦います。また、尻尾の先に岩を生成しそれを投げつけることもあるようです。
本来は穏やかな性格で地底湖で静かに眠っていましたが、ホルスの子供達の攻撃に怒り暴れ出してしまいました。
仮に鎮めるとしても言葉が通じる相手ではなく、一度戦闘不能にする必要があります。
ホルスの子供達と戦闘中。数では劣りますが個々の能力自体が高いらしく、その戦況は拮抗しています。
・大鴉盗賊団の男たち(2人)
『願いの叶う色宝を山分け』という謳い文句に釣られて大鴉盗賊団に参加してしまった駆け出しの盗賊。元は街によくいる小悪党でした。
大鴉盗賊団配下の盗賊グループに組み込まれていましたが、置いていかれたのかはぐれたのか他の面子の姿はありません。
神懸かり的な(悪)運と回避能力(と逃げ足)でここまでたどり着いてしまいましたが、それも尽きようとしているようです。
ほぼ全ての能力が並の盗賊以下なので、放っておけば戦闘に巻き込まれて死亡します。
モンスターを倒すのか鎮めるのか、大鴉盗賊団の男たちを助けるのか助けないのかの判断は皆様にお任せいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
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