シナリオ詳細
<マナガルム戦記>残星惨禍
オープニング
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幻想のドゥネーヴ領。
元々の領主が病により倒れ、その後紆余曲折の果てにベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)が領主代行として治めている地なのだが――今宵、一つの問題が発生していた。
「ああ――今日もまた一つ、綺麗な星がある」
空。そこには満天の輝き。
美しき宇宙の祝福が広がる中において――しかし、その眼下は悲劇に塗れていた。
街中で流れているのは赤き鮮血。
倒れている者からは生の息吹が感じられず、ただただ自らの総てを垂れ流してる。
死。もはや黙して動かぬソレを作り出したのは……
「今日も一つ綺麗な星が一つ落ちた――かわいそう、かわいそうに」
空を見上げる一人の影。死体からは随分と離れた場所……高き家の上にいる。
その傍には使ったであろう弓が一つ。
かなり距離が離れているように感じるが、ここから当てるとは相当な名手か。
「星が落ちるのは生命の輝きだ。散らしながら燃え尽きる、彼らの息吹……」
しかしその人物は奪った命になど一切頓着していない。
只管に見上げている。空を、天を、星々を。
彼らの輝きを――抱きしめるかのように。
「愛しき天よ。空の欠片よ。君達だけ逝かせはしない……この地からも送ろう。君達の下へ」
言うのだ。
流れ星が――見えた時に。
●
「殺人鬼が潜伏しているみたいでな――民が怯えている。放置する事は出来ない」
机の上にあるは一枚の書類。
それは、先日またドゥネーヴ領で発見された死体の情報である。
この地に住まう罪なき市民だ。夜、酒場で楽しみ自宅に戻ろうとした際に……殺害されたらしい。
「凶器は弓矢だ。遠方からの狙撃で……既に幾人もの犠牲者が出ている。それも決まって――」
「……夜の、綺麗な星空が出る日にですか」
眼前。机を挟んで椅子に座っている一人は小金井・正純 (p3p008000)だ。
犠牲者は総じて『星が綺麗な夜』のみに殺されている。それに何らかの意味があるのか今の所、殺人鬼との関連性は分かっていないが……しかし既に殺人鬼が潜伏しているという以上にこの情報は市民にも噂として伝わっており――恐怖が生じている。
星が綺麗な夜に出歩けば、死ぬと。
「……だが実際の所『出歩かなくても』危険はあるんだ。
以前には、とある家の中にいた家族が……全員殺されていたこともあった」
「――無差別か」
詳細が書かれている紙を見据えるはオライオン (p3p009186)。
犠牲者となったのは三人。夫婦と、まだ幼い子供……全てが矢で貫かれ死んでいた。
夕食を楽しんでいた時に――全員――
「もはや意味など問うている暇も推察している暇もない。畜生には死、あるのみだ」
喉の奥から絞り上げるかのように言葉を放つオライオンには、怒りの感情があったのかもしれない。
平和に暮らしていた時を――誰かが無惨に奪う。
許しがたい行為だ。一刻も早く元凶を仕留めねば、次が生まれよう。
「……ええ、これは残虐です。止めましょう。恐らく今日の天候も穏やかです」
「幸いと言うべきか、民は夜になると籠る様になっている。我々が動けば、我々を狙って弓を放ってくる事だろう……今日も現れれば、だが」
正純が見据える空。空の果てまで雲一つなき天候は、今日の夜まで続くだろう。
――だからこそ今日も起こるかもしれない。
ベネディクトは頷き、彼らにも協力を頼んだ。この殺人鬼を止める為に。
どうか――民達に安らかなる夜をと。
- <マナガルム戦記>残星惨禍完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年02月15日 22時40分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「殺人鬼は潜む、か。我がドゥネーブ領にその様な者が現れるとはな――」
これ以上の犠牲は看過出来んと、言うは『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)である。
闇を好むというだけならば良し。ただそれだけで排斥などはせぬ。
だが無辜なる民を喰らうというのならば―――話は別だ。
「手筈は事前に打ち合わせした通りだ、小金井、オライオン――
危険な役目を任せるが十分に気を付けてな」
「ああ。今宵は街に住む者にとって『何もなき』良き日たらん為に。小金井、同道宜しく頼む」
「はい。共に参りましょう」
故に往こう。ベネディクトが声を掛けた先に居たのは『元神父』オライオン(p3p009186)と『地上の流れ星』小金井・正純(p3p008000)の二人。
オライオンが返答する『策』とはつまり、囮だ。
民を襲う通り魔的な者であるならば――奴の位置を特定するためにあえて撃たせる。
愉快犯か、何らかの目的があるのか知らないが……
「いずれにせよ放置する訳にもいかんし、な。恐ろしさが故か街の中は……夜とはいえ、一層の静けさに包まれていると感じる。連日事件が続いているならばこうもなるか」
「……こんなにも星が綺麗な夜なのに」
その夜を血で汚そうとするなど、正純にとっては許しがたき行いであった。
天の美しさを愚弄する行いだ。星に活力が満ちる時にこそ禁忌を侵すなど。
必ず止めてみせる。
天向く彼女の瞳に映りし――全てに誓って。
歩き出す。予定通り、正純とオライオンが漆黒の街の中を巡る様に。
殺人鬼は必ずいる。街中を闇雲に探しても見つからぬかもしれないが。
しかし――獲物を狙う獣の吐息さえ感じれば、後は狩人の領域なのだ。
故にオライオンが光を瞬かせ目立つように。あえて揺らして『此処にいるぞ』と。
「まずは相手を見つけねばお話になりません。
が、後は……住民がいないかも確認しておく必要がありますね。いないとは思いますが」
「っスね。俺達は目立たねぇように隅の方を動いてみるっス。しかし姿の見えない殺人鬼とは想像もしたくねぇ話っスね……」
同時。正純らとは別の目的をもって動くのは『血雨斬り』すずな(p3p005307)や『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)だ。『見つかる』役目は正純達に任せるとしても、その間にもやるべき事はある。
目を凝らし感覚を研ぎ澄ませ、すずなは関係のない住人がいないか警戒をするのだ。
無用な犠牲は出したくないし殺人鬼の目が囮以外の他に向くのも宜しくない。
いなければいないでも良し。その折は葵同様に殺人鬼の捜索を密かに行うだけである。
不審な足音は無いか? 奇妙な気配はないか?
反響する音から情報を耳から得つつ――すずなは敵の気配を探らんとし。
「弓矢を使うって事は……見晴らしが良くてかつ人目につきにくい絶好の建物が、絶対どっかにある筈っス。わざわざそこ以外の場所に陣取るとも思えないっスね」
或いは適度に高く足場が安定する場所、か。
いずれにせよ相当絞られる筈だと、呟きながら葵は建物の屋根を跳躍する。囮達よりも目立たぬ様に、慎重に。星の輝きが届かぬ影と影の隙間を縫う様に。
更に――葵が跳躍する屋根の物陰。そこに居たのは『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)の放った、ファミリアーによる猫であった。
「拙はこちらを……ええ、討ちましょう、必ず。ゆっくり過ごせる夜を――取り戻しましょう」
その猫の視界は眼下、囮と成っている者達に沿って動いている。
ルート上と付近の障害物に身を隠しながら警戒と索敵を行っているのだ。どこから弓矢が飛んでくるのか……それを捉える事が出来れば良し。自らも同様に身を隠しながら夜陰に乗じて移動を重ねている。
どこから来ても良い様に。穏やかなる夜を、この街に再び齎す為に。
――時計の針が刻一刻と進む。響く足音はゆっくりと、しかし緊張は走りて鼓動を高める。
どこから至るか分からぬ狭間は微かな音すら鼓膜に捉えさせ。
されど誰もが分かっていた。
この静寂は――永遠ではないと。
「ッ……来た!」
瞬間。気付いたのは『不退転』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)の耳だ。
優れた聴覚を宿す彼が音を拾う。闇夜を切り裂き飛来する一筋の気配を。
矢だ。それは、情報にあった命を奪う一撃。
狙われたのは正純かオライオンか――しかし、違う。確認すべきは『誰が撃たれたか』というよりも『どこから来たか』だ。風裂く音の射出点を彼は探るのである――全てを止める為に!
「いたっ! あっちの方だ……逃がさないよ、絶対にッ!」
ランタン灯して視界を確保。一気に向かうは殺人鬼の潜む家の屋上へ。
いつまでも。何度でも人を殺して楽しむ様な事が出来るとでも思っていたのか――?
「いい度胸だと言わざるをえませんね。このドゥネーヴ領で狼藉を働き、あまつさえ御主人様の手を煩わせるとは……とても度し難いです」
更に『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は駆け抜ける。シャルティエとは異なり、灯りは無しに。暗きを見通す目によって殺人鬼のいるであろう方角を見据えながら。
石畳の上を高速が如く。短い間隔の足音が風の様に過ぎ去りて。
「――このリュティスが始末して差し上げましょう」
往く。
黒狼の従者たる責務と共に。
主の大地を汚す愚か者を――誅する為に。
●
初手の弓矢が放たれたのはオライオンに対してだった。
彼の抱くランタンの灯りに誘われたのか――しかし、警戒しており、なおかつイレギュラーズでもある彼であるならば凶刃……いや凶矢に一撃で倒れる事など無い。
「小金井――来るぞ! 東だッ! 更に、来る!」
身を翻し矢が至って来る方角に視線を。
――さすれば感じるものだ。遠くより至る、殺意の風を。
二か三、か。素早く放たれるソレは、恐らく正純をも狙ったもので――故に声を飛ばし。
「屋上です! 衣を纏う影があります――そちらへ!」
であればと正純は暗視の目を持ってして敵の位置の確認を。
同時に飛ばす声は遠方にすら届く神秘の声。それは味方へ届かせる意志。
奴は撃ってきた。こちらが獣の息吹を感じるまで待っていた狩人と知らずに。
それは――正純がどこぞの誰かとしか感じさせぬアノニマスの気配を灯していたからかもしれぬ。が、重要なのはここからだ。正純の声も届いて皆が殺人鬼を追わんと近付けば、流石に奴も気付くだろう。
いつもの一般人などではないと。これは誘き寄せる為の罠だったと。
そしてオライオンと正純の二人もそちらへと往くのだ。放たれた弓矢の傷はオライオンの治癒が塞いで。見えた影を逃さぬ様に。
「挟み撃ちにするっスよ。数はこっちが上――なら、逃がしゃしないっス……!」
「私の距離から――逃げられるとお思いですか?」
その中でも迅速なる動きを見せている一人が葵だ。
跳躍に優れる彼は場所が分かれば即座に直行。迎撃の矢が飛んでくるが、構うものか。
追い立てる。メンバーが揃えばこちらが劣る理由などないのだから――それまで奴の進路を妨害せんと移動を重ねて。
同時にすずなも往く。
正純の声を確認した彼女は、幾度も重ねる移動にて見る見るうちに前進を。
刃携え闇夜を駆けて。振り抜く一閃を――ここに。
「機動力という点では俺では直ぐには詰められんか。リュティス」
「はい、私にお任せ下さい。御主人様」
その光景をファミリアーによる鳥にて先行確認していたベネディクト――
彼は近くへと至っていたリュティスへと視線を向ければ、意を介した彼女が一段と強き跳躍を。
――あの殺人鬼の足を止めて参れば良いのですね。
主従の呼吸に相違はない。主は従者を信頼し、従者は主の信に応えるのみ。
一手で進む『二歩』の距離が彼我の差を詰めていく。高速は神速に。
瞬きの間に詰める距離は、一呼吸もあれば十分で。
「――おっと。早いモノだね」
さすれば殺人鬼も反応した。近くへと到達する葵とリュティスにそれぞれ矢を一閃ずつ。
近き距離でありながら、しかしそれは身の芯を捉えているものだ。当たれば激痛――
故に両名は殺意の一閃を掻い潜らんとする。追いつく事に力を注いでいたリュティスは、躱す事叶わずも、されどこの程度で主命を忘るる事などない。
「御覚悟を」
これ以上の逃亡はさせまいと。
傷を厭う間など不要と更に踏み込み――瞬間。
「捕まえるよ……! 犠牲はもう出させたりなんかしないッ! ここで止める!」
更に介入したのはシャルティエだ。リュティスと足止め役を入れ替わる様な形で戦場へ。
防に優れる彼ならばそうそう致命たる一撃を受けたりはしない。
故により深く一歩を詰めるのだ。
ここで逃せばまた街の者が犠牲になろう。もしかしたら次は『間に合わぬ』かもしれぬ。
――そう想えば足に力が宿るものだ。
「ああ、ぁあ。潰える星と運命を共にしない輩がこんなにも多いとは……」
それに何より、許せない。
聞こえてくる言葉。それらは殺人鬼の言葉であり『ここを見ていない』言葉だった。
「……あの目……何かずっと違うものを見ているような、遠い目をしてる……気がする」
まるで目の前の物なんて無価値だと思ってるような。
だからか? だからこんな事が出来るのか?
「……止めなきゃ。何を見てるかなんて分からないけど……彼が奪ってるのは、今を確かに生きてる尊い命なんだから……! 目前の命を蔑ろにするなんて……絶対駄目だ!」
「通行人が居なければ屋内、大人も子供も見境無し、と。
想像はしておりましたが、やはりろくでもない輩の様で――なによりです」
決意を固めるシャルティエに続いて、このような人物を討つに躊躇いはなしと辿り着いたステラは言葉を零すものだ。
繰り出す一撃。それは直死の一撃にして、必ず殺す意志を携えた魔性。
強大にして絶大たる一閃が殺人鬼を屠らんと直進する。
「幸い、一般人の方々は屋内に籠っておられる様ですし、今の内に決着を」
同時、ステラが見るのは近くの家の窓だ。
流石に戦闘に気付いている者はいるようだが、恐る恐る窓越しに様子を確かめる程度であって外に出てくる様子はない。これも普段からベネディクトがしかと統治を果たしているが故か――さて。
「やれやれ、我が民ながら皆統制が取れているようで何よりだ……!」
いずれにせよ民の期待に応えるべくと、追いついたベネディクトが槍の轟閃を。
殺人鬼の包囲は出来ている。奴もそれなりに跳躍する技術には優れているようだが……しかし他を凌駕する程でなければイレギュラーズ達を突破など出来ない。降り注がれる弓矢は身を削れど、オライオンの治癒も至れば致命には至らず。
「ふふっ、成程……だけどこの程度で終わるとでも?」
されど奴は不敵に笑った。
直後に屋上から落ちる様に動けばその下へと一直線。
倉庫の様な扉の前へと至れ、ば。
「さぁ。ここからが本番だよ」
荒々しく扉を開け放つ。
その先に居たのは――狼達だ。唸り声を鳴らして『敵』を見据える。
それはイレギュラーズ達。腹をすかした獣達が――獰猛な気配を醸し出し。
「狼、ですか。成程。しかし……飼い犬に成り下がったモノの牙は、ぬるいのですよ」
が、すずなは言う。
こんなモノは奥の手になどなりはしないと。狼の牙は、気高いからこそ意味がある。
――それを教えて進ぜよう。
「さぁ。違うというならこの刃を潜り抜けてみせなさい。
尤も――誇りを明け渡し傀儡と化した者らに、抜けられるとは思いませんがね!」
構える刃。一寸の恐れもなく――彼女らは激突した。
●
狼達が街の中に放たれる。狙うは眼前、イレギュラーズ達。
これを機に殺人鬼は逃げる……という訳ではなさそうだ。いや元より奴は常に矢を放つ為に距離を取ろうとしていただけで――逃げる心算など無い。
「あぁ、あぁ。星が。また星が消える。あれだけの輝かしさを残しながら……!」
見据える天。再び発生した一筋の煌めきを殺人鬼は見ながら。
嘆く。嘆くと共に捧げる。
天に矢を。命を今こそ、星と共に――と。
「狂っているのでしょうか? 拙には中々理解が及びませんね、言動が不明瞭です」
「星の日にだけ殺しをするなんて、やり口が洒落てるってのがシャクに触るとは思ってたっスけど……やっぱこういう奴を放置してたら想像通りの結末になっちまうっス」
なんとしてでもここで止めねぇと――そういう葵はステラと共に狼の殲滅を。
弾道、回転、速度、跳ね返り……全てを計算され尽くしたシュートの一撃は狼の群れの中心点で炸裂するのだ。それはまるで駆け抜ける――地上の流れ星の様に。
同時。葵の一撃を受けて隙を見せた狼が一匹をステラは強襲する。
横っ面に一撃。構う暇はないとばかりに一蹴し――そのまま一匹ずつ念入りに。
確実に倒して進むのだ。
「斯様な群れなど壁にもなりませんよ。その首、頂戴させて頂きます」
更にすずなの一閃。風の様に舞い、流れるような撃にて狼の首元を穿てば。
道を切り拓かんとするのだ。殺人鬼までの――道を。
狼達も大口開けてその牙を突き立てんとしてくるが、この程度がなにするものぞ。
「どくんだ……! 君達に用はない。僕達は、奴だけが狙いなんだから……!」
そしてある程度の数はシャルティエが止める。
崩れぬ盾。この狼、狙っているのは自分達の様だが……止めねば彼らもまた一般人達の所へ往くかもしれぬから。
だから彼は踏み止まる。己が全力を尽くして――犠牲は絶対に出させない。
「ふん――殺人鬼、貴様の理由にも衝動にも思考にも興味はない。
貴様が何を考えていようが狂っていようが正常だろうが……
ただ此処にあるのは無惨にも殺された人々の無念……気づいているか?」
――目に見えぬとも貴様の周りに憑く死者の魂が怨嗟を吐いているのだ。
更に続くオライオンの言には魂が籠っている。
殺人鬼の理解など必要ない。しかしそれでも彼は言わずにはおれず。
「狂っているのならばそれで構わない。なにも思わぬまま弓引くその眼を潰してやろう」
「――ふ、ははは。狂っている? 天の星の輝きに気付かず!
彼らの散り際にも気付かない愚か者共に分からせなければ――ならないんだよ」
周囲に力を宿す英雄の詩を紡ぎ、纏わせる浄化の鎧が守護と成りて。
最早言葉は不要かと、オライオンは皆の活力を満たす力を振り分けるのだ。なぜなら。
「――お前の衝動を、星のせいにするな」
正純は既に結論を出しているから。
「星がその輝きを終えるのは、長い旅路の果てだ。それを哀れだと、可哀想だと侮るな。
星を理解した気になって、星に勝手な感情を抱いて、星の想いだと勝手に代弁して……
お前は一体なんのつもりだ?」
彼女は奴の狂気を否定する。真っ向から。
星はお前の言うような事など望まない。
私の言葉は。
「星の言葉と知れ」
「――なんだお前は」
「星々を祀る巫女」
愛す心を抱き、その輝きが遠くにあるからこそ。
手に届かないからこそ――星の気高さを知る者。
見据えろ。天に頂き、座す海を。空に眩き美神の星が宿る一端を。
この祈り 明けの明星 まつろわぬ神 に奉る。
――天津甕星。星神の名を冠する祈りの一撃が、星を謳う愚か者に降り注いだ。
「ぬ、ぅ、ぉ、ああああ!!」
「痛いでしょうか? しかし――
殺意には殺意を返せとよく言いますし、こちらもお返しせねば失礼というもの」
覚悟はよろしいでしょうか? と、間髪入れずに往くはリュティスだ。
主の危機に慄いた狼達を飛び越え、彼女が目指すは致死の一撃。
散々に己の理屈で殺してきたのなら。
「殺されても、仕方なしです」
不吉たる蝶の行く末が奴の心の臓へ。
激しい激痛が殺人鬼を襲い――絶叫と共に振るうは、最後の弓矢か。
雨の様に降り注ぐ。しかし、その一撃を掻い潜りながら進むのは。
「これ以上、我がドゥネーヴ領の人間に被害は出させん。
そして、ここ以外の場所でお前の勝手たる欲望の被害を出させる気もない――終わりだ」
ドゥネーヴの長たる、ベネディクトだ。
黒狼の地にて不遜を働き続けた報いを。民を殺した報いを――その槍に。
振るう一撃がこの戦いの幕を齎した。
●
殺人鬼の命は絶たれた。配下の狼達も主が敗れれば統制を失った蟻の様に。
順次処理されれば――これでようやくドゥネーヴの夜に平穏が取り戻されたのだ。
「今夜の流れ星は、殺人鬼の分……一つっス」
眺める空。満天の星空に流れる一閃は、流れ星。
それは命の煌めき。空の果てにもある確かな脈動。
葵が眺めていれば……依頼の始まりにあった闇夜の緊張は誰にもなかった。
静けさこそが愛おしい。
「星はただ、そこにあるのです。幾年も前から現在に至るまで……」
正純もまた天を見据えながら呟いた。
夜空の星が瞬く程に彼女の身を蝕む。魂を締め付けるかの如き呪いだ。
だけど――だからこそ彼女は誰よりも星を身近に感じている。
あのような上辺だけの殺人鬼などとは異なる感覚。
星の煌めきも、星が潰えるのも……この胸の内に。
『地上の流れ星』――地星はきっとどこまでも、天星と共にあるのだから。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
星の美しさに血の流れは、きっと不要なのです。
――ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
『殺人鬼』の撃破
●戦場
幻想のドゥネーヴ領の街中です。時刻は夜。
星々が良く見える程天候はいいので、ある程度は視界に問題はありません。灯りなどがあればよりよく視界を確保できることでしょう。一般市民は殺人鬼に怯えており、基本的に夜には自宅に留まっています。
●『殺人鬼』プライマリア
『星が綺麗な夜』に殺しを行う殺人鬼です。
厳密には更に『流れ星』を確認した数だけその日に殺しを行っています。
三つ流れ落ちれば三人殺します。
なぜ行うのか、理由は不明ですが殺人鬼と相対すると『星』に対する狂気的な感情を目の当たりにする事でしょう――奴は天で美しき星々が命を散らしている際に、地上で命の危機も無く怠惰に過ごしている輩が許しがたいのです。
恐らく人間種か鉄騎種ですが、そこまでの詳細は分かっていません。男女かも不明です。
弓の名手で、長距離でも正確に標的に命中させる事が出来る腕前を持っています。風を読む力にも長けており奴の放つ弓は思わぬ角度からも襲来するかもしれません。
また移動能力や跳躍力にも長けており家の屋上などを迅速に移動できます。
戦場の街中のどこかの高所にいます。基本的に街中を歩いている標的がいればその人物を優先して殺します。(いない際は家の中に籠っている者でも標的にするようです)
自分が狙われていると分かった場合でも星が散った数(流れ星が流れた数)の殺しは完遂してから逃げようとします。どうしても無理だと判明したら逃走一択かもしれませんが。
●狼(殺人鬼の番犬)×10
殺人鬼の所有してる狼達です。
自分が万一憲兵などに狙われた際の事を想定して、とある場所に十匹備えている存在です。殺人鬼がその場所に到達すると、敵戦力として狼が十体増えます。
殺人鬼を追おうとする者を優先して攻撃する性質があるようです。
反応とEXAに優れますが、耐久力はそこまででも無いようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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