PandoraPartyProject

シナリオ詳細

欲望・絶望・引導

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●世に我欲の種は尽きまじ
「成程、ご依頼の内容は承りました。……随分とお考えになられたのですね」
「ふん、含むものがありそうな言葉だな。まあいい、請け負ってくれるのだろう?」
 『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)のどこか含みのある問いかけに、その場に居合わせた『貴族の1人』が鼻を鳴らし問いかける。三弦は「それはもう」と頷き返す。
 依頼あってのローレットであり、依頼あっての世界の維持、パンドラ収集が成り立つ。それが良きにつけ悪しきにつけ、ローレットは不偏不党であることでその存在を維持できている面が強い。つまるところは、今目の前に提示された依頼は少なくとも多少なり善性を持つ三弦にとって余り歓迎されないたぐいのものであるということだ。
「改めて本題に入ろう。僕たちは人の体の部位を集めるのが趣味でね」
「眼球、耳、手、内臓、血液……色々さ」
「とはいえ、僕たち自ら手を汚すのは危うい」
「そこで君たちの出番というわけ!」
「幻想種の子供を解体してきてくれないか?」
 さきの貴族とは別の貴族たちが、口々に語りだす。誰もが顔を隠しているのは身分を開示する気がなく、連名での依頼は依頼料の軽減というよりは罪の意識とリスクの分散というところか。……そして、幻想種か。幻想王国内の個体であれ、深緑の個体であれ。不用意無差別に相手を選べば間違いなく深緑との関係を害する類のもの。
「自分達の欲が満たせれば、ウチと深緑の関係は度外視かゆ……ヘドが出ゆ」
「ほう?」
「君は幻想種だね。祖国での悪行は気が引けるかい」
「それとも、君が代わりになってくれるのかな?」
「少々トウが立っているが、僕達はそれでも構わないよ」
 同席していた『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)が顔を顰めて貴族達を見やると、彼らは口々に不平を挟む。情報屋が首を縦に振った案件に異論を挟むなどイレギュラーズにあるまじきこと。すわ一触即発かと思われたところで腰を上げかけた三弦に、パパスは目で制して話を続ける。
「わたちはお前達に体を捧げてやる気はねえゆ。かといって依頼を無碍に断る気も更々ねえゆ。……思い当たりがひとつあゆから精々楽しみに待つがいいゆ」
 パパスはそう言って三弦に目配せすると席を立つ。パパスは深い溜息と共に、「あの里だけは、思い出したくなかった」と1人ごちた。

●命脈の垓(はて)
「綺麗な子が斬れるって聞いてぇ」
「足とかも持って帰る依頼ですからー」
「イイね、悪いことして貴族サマの覚えも良くなるとかサイコーじゃん!」
 鏡 (p3p008705)、ピリム・リオト・エーディ (p3p007348)、極楽院 ことほぎ (p3p002087)の3人は、依頼が張り出されると我先にとカウンターへと詰め寄った。割と珍しくない光景に、三弦は色々察したような表情をした。そして、彼女から差し出されたのは深緑国内でも辺境に当たる位置、そこにあるらしい集落の地図。
「私の世界には『姥捨山』という概念があります。廃れて久しいですが、わかりやすく言えば働き口にもならない、生きる能力に乏しい老人を山に捨てる風習ですね。それにやや近いですが、深緑の辺境では生まれついた時点で生存能力に乏しい幻想種を打ち捨てる風習が残っている地域がある……と、パパスさんが教えて下さいました」
 生きる能力を持たぬならば死ぬしかない。
 生かして置けるだけの社会的素地に乏しい――資源的、思想的面で――場所であれば、自然に克てぬ者を共助のもとに置く理由も無い。イレギュラーズと触れ、多くの外来文化を取り込んだ深緑の大部分は斯様な思想と無縁だろうが、辺境ならばあり得る話だ。
「それでも、人は生きるために死力を尽くします。そうやって打ち捨てられた子供達の居る場所、通称『命脈の垓』……今回はその地の襲撃が任務です。そして、実は既に集落の周辺の村とは渡りをつけてあります」
 曰く、『生きる力に乏しい者がまかり間違って世代を繋げば、さらなる悲劇も考えられる。それだけは避けたい』とのこと。
 今回根切りにしようとも、いずれ弊習が残る限りはまた同じような集落は生まれるだろう……なればこれは正当な『循環』であると。
 人間種も、幻想種も、根底では何も変わらない。自分が間違っているという事実を塗り固めるために、正しいという担保だけを無条件に欲している。

GMコメント

 ご指名有難うございます。幻想種の子供達を残さず処分して帰りましょう。

●達成条件
『命脈の垓』の壊滅・幻想種の(死亡済みの)身柄確保(5名分もあれば成功)
(オプションA)幻想種達の『不具合部分』を切除した上で確保する(切除部分の処置は問わない)
(オプションB)集落の家屋の破損を極力控えた状態での依頼達成

●『命脈の垓』の幻想種×20
 幻想種としては非常に若く、ほぼ子供です。
 打ち捨てられた時点で生存機能が低いため集落内で手厚く保護しても長生きできず、そのような幻想種は定期的に打ち捨てられるために世代間の新陳代謝は活発といえるでしょう。
 肉体に対して欠損等あるため防技、抵抗、回避等どれかに非常に大きなマイナスを被っていますが、神攻と命中はかなり高めです。
 基本的にオールレンジ対応の魔術を使用し、衝術に類似した魔術(【無】なし)や魔砲の上位互換(【出血】【崩れ】【呪い】付与)など、様々に使用します。
 うち5名がヒーラー。村の統率を取っている連中なのでそれなり頑丈です。
 全員の遺体を確保するのはかなり難しい(馬車複数など必須)ので、程度問題になります。

●戦場
 集落内。
 当然ですが色々と『足りない』幻想種が作ったので全体的に作りが粗末です。

●パパス
 同行しません。情報提供のみです。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』『深緑』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
 (マイナスは幻想1:深緑4です)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 欲望・絶望・引導完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月15日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
※参加確定済み※
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
※参加確定済み※
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
鏡(p3p008705)

※参加確定済み※
玄緯・玄丁(p3p008717)
蔵人
バーデス・L・ロンディ(p3p008981)
忘却の神獣
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
袋小路・窮鼠(p3p009397)
座右の銘は下克上

リプレイ

●悪徳は栄える
「お貴族様との縁もできる上、上手くやりゃボーナスまで貰えるなんて、ボロい依頼もあったモンだな!」
「幻想種の子供の脚が取り放題だなんて夢みたいですねー」
「弱い者いじめをノーリスクで合法的にやれるなんて、これ以上楽しいことはないわね♪」
 『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)、『不屈の恋』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)、『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)の3名は、迷宮森林を歩きながら口々に『期待』を語り合う。これから訪れるのは敵との交戦でも、強力な獣や魔物とのそれでもなく、ただの『蹂躙』であり『遊戯』。それが彼女らの考えている今である。
「貴族様の趣味は理解出来ねぇなぁ。いや、こっちの連中の趣味も大概か……」
「パーツコレクター、分かりませんねぇ。私は愛でるなら全身ですし……あ、でもピリムちゃんも脚コレクターですよねぇ。私はただ斬れれば十分」
 『座右の銘は下克上』袋小路・窮鼠(p3p009397)は依頼そのものを受けることに良心の呵責はない。が、仲間達の趣味も依頼人の趣味も理解できなかった。鏡(p3p008705)は自らにちらちらと視線を送るピリムを見返し、そう言えば彼女も『そういう』趣味人であったと思い出した。理解は出来ないが、結果として人斬りを合法的に行えるのならそれでいいと思っているフシがある。相手の強弱ではなく、斬ったという結果に意味を見出す点がメリーとは隔絶しているのだが。
「少しばかりやる気はありませんけど……いやいやちゃんとやりますよ? 僕も親に捨てられた口ですのでね」
「……? 玄丁くん、なんかいつもと雰囲気違いません?」
 ふと、鏡は『蔵人』玄緯・玄丁(p3p008717)が誰にでもなく言い訳を連ねる様、その合間に此夜煌へ向けた深い憂いとそれより深い所にある黒い感情を垣間見たように思えた。刀であるがゆえか、はたまた轡を並べたことが少なくない仲間ゆえか、脇差に向けた視線の意味を理解できなくもないのだ。
 ……そんなものをこれで斬るなんて、という武器に対する怨嗟のような感情を。
「ああ、本当に依頼人達も酷いよね! マリカちゃんに同族殺しをさせるなんて……♪」
(楽しそうな感じが隠しきれてねえんだよなあ……)
 『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)は上手く演技出来ていると思っているようだが、窮鼠は語尾の上がり具合や身にまとう空気から、彼女が十分に演技できていないことを見抜いていた。尤も、怯えた幻想種達ごとき騙すのに遜色ない程度の技術ではあるのだ。問題があるとすれば、そんな幻想種達のなかの『マシな部類』には絶対にバレるということだけで。
(こんな光景、を、愛子に、見せるわけには……いきません、ね)
 『忘却の神獣』バーデス・L・ロンディ(p3p008981)は胸元の布でしっかりと固定した『愛子(いとしご)』をしっかりと寝かしつけると、仲間達のやり取りにわずかに顔をしかめた。彼はそも、深緑には縁浅い。そこに住まう者達に意志を通じ、気持ちを交わしてやる義理は本来、存在しない。
 然るにバーデスは、仲間達が何をしようと咎め立てをする権利がない。『間引き』の風習、その必然性に罪悪感を覚えることも、それを悪と断ずることも。それは過当な干渉だ。
「捨てられてんのを必要としてるトコに届ける、つまり慈善事業じゃん!」
 可哀想、とか悲惨だ、とか。それどころか残虐だという意見ひとつ、居並ぶイレギュラーズから聞かれることはなかった。こういう依頼だと1人くらいは人道主義者サマが混じって喚き立てるのだが、とことほぎは期待外れ気味に息を吐く。楽でいいのだが。
「別に仕事の良し悪しで選ぶ気はねえけど、そこまで割り切れてると人生楽しそうだよな」
 窮鼠も人道主義者ではないので差し出口を挟むつもりはないが、彼女ほど気楽であればどれだけよかったか。
 これから始まるのは蹂躙であり、戦いと呼べるかも怪しい。されど、倒すべき相手は、抵抗するのだ。声を上げるのだ。それは確かに、命なのである。

●誰も生きてはならぬ
 『命脈の垓』の子等に、長くを生きる生命力はない。
 翻ってそれは、短くとも与えられた生を享受するということへの本質的欲求と、寿命以外での死に対する激しい執着を同居させていることを意味する。
 ……然るに、集落の入口に現れた不穏当な連中の存在は、集落の面々の警戒心を大きく引き上げるに十分なものであったと言える。……メリーの駆る無骨なオフロード車、ことほぎ、玄丁、マリカ、窮鼠……その何れもが明らかに穏当な目的で現れたものではない、と一発で理解できた。肉体的に弱い者を下げつつ、集落内を統べる面々は可能な限り距離を置き。強烈な警戒心を背景に両者は対峙する。
「斯様な地に何の用か、外の方。迷われたのなら早急に――」
「さぁ、来てください。生に執着せんとするのなら、死を跳ね除けて踠いて見せてくれるかな! ここからは修羅になるからね!」
「お貴族サマがアンタ達の体が欲しいってよ! 再利用してやりに来たのさ!」
 玄丁は不敵に口上を述べ、ことほぎは楽しげに居並ぶ幻想種達を指折り数える。20に届かぬところを見ると、隠れ潜む者もいそうだ。
 警戒を厳にしていたリーダー格が彼の言葉に踊らされることは万に一つもなかったが、訝しげに状況を見守っていた、或いは即座に後退できる身体能力の無い者達はその言葉に感情を揺さぶられ、激しい怒りと嫌悪に表情を歪めた。
「ここにある者達は天命を知り死を享受する者の地です。我々はあなた方を天命とは認めません。……不心得者に鉄槌を」
 リーダー格の1人が合図をすると同時に、感情を揺さぶられなかった者達が一斉に杖を構えた。が、遅い。玄丁が放った毒手はリーダー格を狙い……その途上に立ち塞がった子供の身を強かに打った。叩き込まれた毒はほどなくしてその子を殺すだろう。癒やした所で火に油だ。
 だが、激痛に耐えつつ突き出された寸足らずの手は玄丁の胴に苛烈な魔力を叩き込む。痛かろうが苦しかろうが、死ぬ迄彼らは戦うことをやめぬだろう。悲惨でこそあれ、心根が腐っていない以上は。
「ここからヒーラーを狙えればよかったのに、後ろに回っちゃって……小賢しいったらないわね……?!」
 メリーはあわよくば前に出ず、極力後方からリーダー格の面々を倒せれば、と考えていた。が、後衛同士ともなれば必然、前に出ねば狙えない。そして、後ろに下がっていても前進してくる幻想種達は果敢に後衛にも狙いを定めてくる……本当に厄介だ。あれは自分に倒されるだけの弱者だというのに。
「ごめんなさい、マリカちゃんは貴族に脅されて仕方がなくやってるの……! 本当は同士討ちなんてしたくないのよ!」
 マリカはわざとらしく嘆きの声を吐き出し、相手に許しを請おうとする。どう見ても、明らかに、嘘が混じっている……『リーダー格ならば』それを見抜けぬ筈がない。されど、捨てられ死を待つ子等の何人かは、彼女の口車に乗った。そして、現れた亡霊の霧に飲み込まれ喉を押さえ、呻く。
「メリーが結界張ってくれたお陰で家の近くでも気兼ねなくぶっ放せるのはいーなァ……玄丁、そこどきな!」
「本当に楽しむ余裕もないなんて……無粋な……」
 ことほぎは嬉々としてディスペアー・ブルーを放ち、突出していた幻想種達を巻き込んでいく。範囲ギリギリにイた玄丁は咄嗟に退くことでことなきを得たが、先程まで命の削り合いに勤しんでいた相手が小さく呻き、そしておもむろに同士討ちを始めた様を見てげんなりとした表情を見せた。
 情緒もなく、ただ勝つための行い。命の奪い合いではなく奪うだけ、自らに刃の迫らぬつまらぬ戯れだ、と彼は認識する。が、直後、ことほぎに魅了された者の何名かが瘴気を取り戻し、イレギュラーズへ牙を剥く。リーダー格の治癒術式か。
「こっちは攻め一辺倒なんだ、相手がなんだろうと油断してたら負けんだよ、分かってんだろ!?」
「もう少し楽に戦えればいいのに……」
 窮鼠がなけなしの魔力を治癒につぎ込み、メリーと玄丁を治療する。メリーはヒーラーを叩きたかったのに、こうして矢面に立っている事実に酷く不満げに頬を膨らませた。
 ……少なくとも、『こちらは』防衛に回った面々を引きつけた。窮鼠は己の脚を軽く叩く。

「グルル……」
「わ、こんな時に狼……? 迷い込んだのかな……」
 その頃、集落の後方に回り込んだ面子のうち、バーデスは獣の姿を取り、ゆらりと影から現れた。
 居合わせた幻想種の少年は驚きこそすれ、やはり森の住人らしくバーデスを恐れない。
 襲撃班と対峙するヒーラーまではまだ距離があるが、混乱をうめば儲けもの……バーデスは咄嗟の判断で、衝術によって幻想種を吹き飛ばした。転倒した少年は余程筋力に乏しいのか、立ち上がろうと両手を地につけ、しかし体を持ち上げることが出来ない。威嚇の声を上げるバーデスに、意を決したように魔砲に似た術式を飛ばしてくる。
「バーデスたそ、その子は自己責任で倒してくださいませー。こちらは1人、始末しますのでー」
「治癒役が司令塔なら、早々に片付けたいですからねえ……すみませんが、お願いしますねぇ」
 その横を、窮鼠から合図を受けたピリムと鏡が駆けていく。全力で踏み込み、その身を賭けて一撃をみまえばすぐにたどり着く距離。
 ピリムの2振りの『斬脚緋刀』がヒーラーの1人を強かに切り裂き、反応を示す間も与えられず鏡の無銘刀に両断される。滑らかな切断面を描く首筋は、悲鳴はおろか自らが襲われた事実すらも認識できてはいない。
「こんにちわぁ、可愛いアナタ……綺麗な目をしてますねぇ。でもその右手ぇ、まともな治療も受けられなかったんですかぁ、痛ましい……」
 鏡の声は、ただのガラス玉に光を透かした時のような、明るいがそれだけ、ただ空虚な響きを以て幻想種達に響く。身体の不具を指摘されたひとりは咄嗟に右手をかばおうとして、左手もろとも切り離された。
「まともに育っていれば……楽しかったんだろうけどね」
 玄丁は乱れた隊列に割って入るように前進し、2人目、3人目と連携してリーダー格を潰していく。背後では、ことほぎによって同士討ちを余儀なくされた者達が狂乱の声を上げ、戦列の崩壊に気を良くしたメリーが反撃とばかりに神気閃光をバラ撒いている。
 マリカなど、言葉に反してその口元を隠せていない。……本当に惨めで惨たらしい。
 バーデスに追い立てられ、無様に転がった子供はしかし、バーデスに殺してすらもらえなかった。殺傷の為の技巧を持たぬ彼は、その爪牙で命を奪うしかないだろうが……それすらも、どれほど時間がかかるというのか。
 怯えた目をしたその子が何事かを言うより早く、ピリムは無感情に脚とそれ以外とに切り分け、その生命を奪い取った。
 ……残るのは確かな静寂、ただそれだけ。


「さて、切除に防腐処理にいらねえ部分の切除。新鮮なうちにやっとかねーと腐っちまうしなァ。血液は別口で保存しときゃイイだろ」
「脚は全員分頂きますよー。不具合がある子が多いんですから全員分拝借しても誤魔化しが利くでしょうー」
 ことほぎとピリムは嬉々として戦後処理を開始した。都合20の幻想種はほぼ全滅、家屋の被害状況は軽微。求められた最低ラインはこなしたことになるだろうか。……そう、「ほぼ」全滅、である。
「……? 脚の数が38本、不具合部分抜いたら30本程度ですねー。もしかして殺してないヒト、いますかー?」
 ピリムはことほぎや鏡といった人体損壊に呵責のない仲間と解体作業をすすめるうち、ひとつの疑念にたどり着く。そう、「足りない」のだ。全員殺した筈と思っていたが……その答えは、玄丁の傍らに転がりひゅうひゅうと過呼吸気味に息を吐く幻想種の子供だった。
 先天的か先の戦いからか、目元には大きな創傷があり、少なくとも網膜はまともに機能していないことがわかるだろう。
「おいおい、生かしてどーすんだ? 依頼はここの壊滅、全員殺すってことだろ?」
「……だって、まともに育てたら強くなれるよきっと、復讐とか、色々強い感情を持つだろうし。だから持ち帰りたい。ああ、依頼人じゃなくて僕を殺すために強くしたいんだよ?」
 ことほぎは不満げに口をとがらせて問う。玄丁は子供の襟首を掴んで引き寄せると、狂気すら滲んだ笑みを返す。鏡が彼に感じ続けた違和感はこれだ。弱者を殺す為ではなく、そこから芽を掘り返して自らの目の届く場所に植え替えたいという悪意溢れる願望の発露。玄丁のもつ戦闘狂の本性あってのものである。
「で? そいつをひと目に触れさせずに連れ帰る案はあるのか?」
 やや空気に剣呑なものがまじりかけたタイミングで、窮鼠は2人に割って入り、玄丁に問う。彼は「なにを馬鹿なことを」、とでも言いたげに首を傾げた。別に1人くらい、行きと帰りで人数が違ったところで誰も咎めないだろう。そんな表情だ。……彼は幻想の仕来りや貴族がどれだけ目端が届くのかを、十全に理解できていない様子。
「ピリム、脚全部突っ込んでも木馬に空きはあるだろ? このガキ突っ込んで持ち帰らせてやれよ。貴族に約束違いがバレんのも、こいつ殺そうとして玄丁とことを構えるのもハイ・ルール違反だ」
「違反は怖いですねー、私のでよければ乗せていきますよー」
 窮鼠はピリムに、ため息まじりにそう提案する。ピリムもそこは無下にする気はないようで、あっさりと承服した。幾ら何でも、ことが終わった後に面倒事を増やす必要もないと理解できたがゆえだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい、マリカちゃんは嫌だったの、でもイレギュラーズとして依頼人には逆らえないから……」
 そんなやり取りをよそに、マリカは1人、涙を流しながら命脈の垓に残留する霊魂に謝罪の言葉を吐き続けた。傍目に見れば、ここで起きた惨劇を心から悔いて、それでも抗えぬ事実を懺悔することで赦しを乞うているようにしか見えない。事実、その通りなのだろう。『彼女を見た者の正しい認識ならば』。
「だから『お友達』になってほしいの、悪いようにはしないわ……」
 霊魂達が彼女にどのような回答をしたのかは、定かではない。彼女以外には見えぬのだから。
 だが、闇の霧が僅かに漏れ出し、その場に僅かに滞留した事実こそが多くの言葉よりも雄弁な証拠だったのではなかろうか。
 ……数日後、ローレット。
 一同が報告に向かってからその後数日間、居合わせた貴族の何名かは夢枕になにかに立たれる、酷い悪夢を見た、などの報告が絶えなかったという。何事か事情を知らないかと怒鳴り込んできた貴族もいたが、情報屋は何一つ知り得ぬのだから応じることもなくすげなく追い返すしかしなかった。
「……そういえば家屋を出来るだけ壊すなって、あれなんだったんでしょうかねぇ?」
「アレはわたちが出したゆ。聞きたいかゆ、理由?」
 その日もまた、騒ぎの話が俎上に上がったことで鏡はふとそんな条件を課せられていたことを思い出した。そして、その言葉に反応するように顔を覗かせたのは誰あろうパパス。どこか不機嫌そうな表情だ。
「え、貴族の人達が再度襲うためでは……?」
「違ぇゆ。発想が物騒すぎゆ。……おまえ達があそこの子供を全滅させても、多分倫理観を霊樹集落の養分にしたような連中は捨てに行くゆ。だったら、次に来る連中はどこで雨風を凌ぐ場所を凌ぐと思ってんだゆ?」
 パパスはそれだけいうと、ギルドの扉から出ていった。……つまらない顛末だと、鏡は1人ため息を吐いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

メリー・フローラ・アベル(p3p007440)[重傷]
虚無堕ち魔法少女
バーデス・L・ロンディ(p3p008981)[重傷]
忘却の神獣

あとがき

 そもそも依頼人の倫理観が突き抜けてマイナスだったので融通利いてるフシはありますが、リプレイの通りかなりスレスレな行動をしていたということはご理解頂けると幸いです。過ぎたる欲は身を滅ぼすということで、ひとつ。
 プレイングの内容に準じて「すべて」行えますが、プレイングの内容によるアレコレは色々返ってくるのです。

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