PandoraPartyProject

シナリオ詳細

デモネの聖痕

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「見えるか?」
 囁いた男は聖都フォン・ルーベルグを拠点として活動する探偵、サントノーレ・パンデピスである。白髪交じりの黒髪を乱雑に纏めた男は草臥れたコートを寒々しい冬風に揺らがせ真っ直ぐに小高い壁を指さした。
 外界とは隔絶されたその場所はアドラステイアと呼ばれている。
「見える」と『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は小さく頷いた。
 幼い少女に「そうかそうか」と頷いたサントノーレは「まあ、ちと頼みたいことがあるんだ。あの『壁の街』関連のな」と声を潜める。
 付近の街の酒場でホットミルクでも飲みながら事情を話そうと提案したサントノーレは壁からの視線を遮るように林に紛れ、足早に遠ざかった。

「まずは1杯奢るぜ。何、仕事の話を聞いてくれるんだ。俺だってケチじゃねぇ。
『悪魔』の話だ。天義の村に居た修道女ブリジッダって奴がいてな、元からクズであったのは代わりねぇが存在も希薄なモンスターがその影響を受けて暴れ回ってたんだ。ま、解決した話だが」
 リンツァトルテ・コンフィズリーから噂を聞き調査を行ったサントノーレが『悪魔』に魅入られた様に殺戮を働いた修道女の一件をイレギュラーズに依頼してからと言うものの、彼はその『悪魔』について調査を行っていたらしい。
「アドラステイアの聖銃士の一人に『デモンサモナー』なんて洒落た名前で呼ばれる奴がいるんだが、まあ、コイツが『悪魔』って名付けたモンスターを使役して内に秘めた衝動を顕在化させてるってんだ」
 例えば、内なる衝動で『残虐なる行い』を好んでいた修道女はこの悪魔と称されたモンスターの影響を受けて凶行に及んだのだという。
 調べによればその被害者へと『デモンサモナー』は「此れも全ては星の乙女を是とした国の仕業である」とアドラステイア移住の勧誘を続けているらしい。
「まあ、モンスターを嗾けてその影響で修道女やら聖職者が暴れ回ってますつっても、大半の人間は気付きもしないだろ。
 そもそも、そのモンスター自体も普段は影に潜んで姿を隠してる。……まあ、そうするために特化した存在って事なんだろうが」
 サントノーレは溜息を吐いた。悪魔だなんだとそれらしい名前を与えているのが実に下らない。
『クソ聖職者』の『内なる欲求』が浮き彫りになるというのも何とも言えない現状だ。
「……で、今回のお願いだ。そのデモンサモナーとやらがまた悪魔を嗾けた痕跡があった。
 相手は聖職者だ。オルッツォという男は小さな村では其れなりに人望のある聖職者らしい。まァ、裏じゃ身寄りの無い子供を保護した振りをして暴行を働いて死んだら捨ててるクズなんだが」
 身寄りが無い子供であるが故に、そうした危害を加えられても誰も気付かない。里親が見つかったとでも言って事が露見しないうちに何処ぞの谷にでも投げ捨てれば良いとでも考えたのだろうか。ずさんな計画だ。いつかは露見するに決まっている――その、『いつか』が今来たのだ。
「クズ野郎に慈悲なんざ見せたくはないが、一応オーダーは捕縛だ。
 力が有り余って殺しちまっても構わないが、俺は一発即死よりももっとクズには痛い目を見て欲しいタイプでな。まあ、処遇は任せるから殴って来てくれないか」
 子供は保護しよう、とサントノーレは言った。其の儘野放しにしていればアドラステイアに連れて行かれるだけなのだから。


 聖職者オルッツォは村の人々に愛された存在であった。優しげな笑みを浮かべ、敬虔なる神の徒であり、身寄り無い子供達の里親を見つけるために慈善活動も行っていた。
 朴訥な青年は口癖のように「皆で幸福になるために神は試練を与えたのだろうね」と微笑んで居た。
 傷だらけになってから保護された子供達の世話をし、口も聞けぬ幼い子供を愛してくれる里親の元まで責任持って送り出す――そんな彼の行いを誰もが称賛していた。
 だが、その様子を疑問に思った者も居る。
 里親と共に、オルッツォを訪ねてくる子供は一人も居なかった。

 ……嗚呼、それもそのはずだ。子供達は誰一人として里親の元へと出されては居らず、元より負った怪我はオルッツォによるものだったのだから――
 痛め付けても、子供は泣くだけだった。
 告発しようとも、その記憶が子供達を更に苦しめ口を噤むばかり。

 そうして『遊び甲斐がなくなった』と。
 ひとり、ふたりと谷に投げ落とされ死んでいった。

 ――どうして、こんな目に合うのだろう。

 ――たすけて、神様。ぼくたちは、幸せになるために、生まれてきたんでしょう?

GMコメント

 夏あかねです。

●成功条件
 聖職者オルッツォの捕縛(殺害しても構いません)

●聖職者オルッツォ
 天義のとある小さな村の聖職者。朴訥とした青年です。
 内なる衝動は子供らへの暴力。その激しい暴力は子供達を死へと至らしめる者です。
 彼のその本性は露見して居らず、村の人々からは彼は良き聖職者として愛されています。

 その戦闘能力は憑依した『悪魔』によって向上しており、傭兵レベルとなっています。

●『悪魔』*5
 モンスターの一種。とても存在は希薄に見える精霊を思わせます。
 影に潜んで姿を隠します。神秘攻撃が中心。ブレイク所持。とにかく暴れ回るのが特徴です。

 また、この悪魔は『デモンサモナー』と呼ばれたアドラステイアの聖銃士が召喚しているようです。
 本来は悪魔などではなく、ただの使役されたモンスターなのでしょうが、その能力が精神干渉に類似するために一般人は影響を受け内なる衝動を発露させてしまうようです。

●教会
 時刻は夜、其れなりの広さは存在して居ます。オルッツォの背後には幼い子供が2人、転がっています。オルッツォによる暴行の結果、酷い怪我を負っています。
 子供の保護についてはオーダーに含めませんが、保護を行った場合は聖都の信頼できる孤児院に預けようとサントノーレは提案しています。

●参考:デモンサモナー
 この場には居ませんがアドラステイアの聖銃士の一人だそうです。その立場から、子供で在る事が推測されます。
 悪魔を嗾け、その周囲で不幸になった人々をアドラステイアへと勧誘しているようです。
 前回は拙作『あなたが死ぬまで数えてあげる』にて修道女ブリジッダへと悪魔を取り憑かせていました。

●同行NPC:サントノーレ・パンデピス
 情報収集及び撤退路等々の確保要因。自分の身くらいは自分で守れます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • デモネの聖痕完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月09日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
薫・アイラ(p3p008443)
CAOL ILA
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ

リプレイ


「あっ、サントノーレ先生、久しぶり! ……なんて再会を喜んでる場合じゃないよね」
 肩を竦めた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)にサントノーレは「焔ちゃん、久しぶり」と無作法にも彼女の頭にぽん、と掌を置いた。乱雑に撫で付ける仕草で挨拶を一つ、サントノーレは神妙な面立ちで小さく頷く。
「……ブリジッダは利用されてたってことになるよね。ブリジッダは元々悪い人だったかもしれない。けどうしろでもっと悪いことを企んでいた人がいる……許せないよ」
 呟く『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)。彼女と、そして『地上の流れ星』小金井・正純(p3p008000)はサントノーレが調査していた『悪魔』について心当たりがあった。サイコキラーであるとされた修道女ブリジッダ。彼女の心の隙間に入り込むようにモンスターの狂気を放っていたアドラステイアの聖銃士がいるという情報は彼女らの心を存分に掻き乱した。確かに、その修道女は元よりそうした衝動を心に秘めていたかも知れないが、それを表だった物にしたのは紛れもなく『悪魔』のせいであろう。
「さて、まさかまた悪魔憑きとは。そして、その悪魔を使役しているのがアドラステイアの聖銃士。
 ……天義側に不義を植え付け、かつ困った者たちをアドラステイアに。マッチポンプとはまさにこの事。その尻尾を掴むためにも、子供を助け、かの神父を捕らえましょう」
 アドラステイアを許すことは出来ないと強い語調で言った正純に大きく頷いたのは『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)。アドラステイアには親を亡くした子供達が大勢住んでいる。子供だらけの、子供だけの王国に先生(しどうしゃ)として父と母を名乗った大人が多数いるのだ。
「アドラステイアに子供を奪わせたくはない。あの教義は理解できない。
 ……自分らの幸せを得るため他者の幸せを蔑ろにするなんて、そんなの違うから」
「そうだね、アドラステイアは許せない……」
 それは天義の聖職者として、貴族として。『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)にとって許せぬ事ばかりであった。表では良い顔をし、裏では身寄りの無い子供を集めては暴力を振るう。それは聖職者の風上にも置けず、人としても言語道断の行いである。
「話は聞いたけど、理由もなく子どもに酷いことをし続けてるなんて、そんな人許せないよ! これ以上傷つけられる子供を増やさないためにも絶対に捕まえないと!」
「うん。こんな非道な行為、絶対に許さないんだから! 捕まえて罪を償わせてあげる!」
 憤慨する焔とスティアの傍らで『お嬢様』薫・アイラ(p3p008443)はサントノーレから齎された情報が記された依頼書をまじまじと見詰めていた。
「昼は慈善家、夜はサイコキラー……さながら天義製の『キラー・クラウン』といった風情ですわね。
 もう少々平易な表現を用いるとすれば――如何な理由があっても道義的に許しがたい、という事ですわ。一人のお嬢様として、見過ごす訳には参りません」
 アイラにとって道義的に許しがたい其れは書面で見ても胸に悪い。『永久の新婚、されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)は静かに目を伏せて唇を震わせた。
「如何なる時、如何なる場所、如何なる動機があろうとも子供を犠牲にするのは許されざる事。
 わたくしは来たばかりですけれど、この世界に於いてもきっとそうなのでしょう……いえ、たとえ誰が許そうともわたくしが許しませんけれど」
 依頼に私情を挟む事は無い。至上の成功を良しとするのは当たり前だ。だが、より善き成功のためにも個人的な心情のためにも子供を護る事は心に決めてある。
「ゴミの処ぶ……あら失礼。捕縛引き渡しの旨はよしなに、という事で」
「塵……ええ、そうですわね。それにしても、容易に悪魔に憑かれてしまうとは、聖職者にしては随分とお安い信仰をお持ちでらしたようですわね。
 お嬢様であるわたくしからの彼へ助言致しましょう、何事も質の高い物を持つべきですわ」
 各々の考えを耳にしながら『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)は「アドラステイア」と小さく呟いた。全てはその場所に繋がっているらしい。
「話を少し耳にした程度ではありますが……何というか、碌でもなさ過ぎでは……」
 頬を掻いたステラは「まあ、今回の捕縛対象も全然負けてはいませんけれど」と付け加える。碌でもない物同士のコラボレーションは早々に止めねばならないと一行はオルッツォの教会へと向かった。


「サントノーレさんに確認して貰いたいことがあるんだけど……」
「OK、何なりと。ココロちゃん」
 ウィンク一つでココロの問い掛けに応えたサントノーレ。教会には正面以外の入り口として裏口が存在してた。周辺の一般人からすれば『善人である聖職者』の元へと押し掛ける無法者だ。子供達も聖職者オルッツォが可愛がって居ると周辺の人々は認識しているはずである。故に、出来る限り目立たないように動きたいココロはマグタレーナと共に裏口へと回っていた。
「……子供達の保護を最優先に行いましょう」
 カンテラを揺らしたマグタレーナにココロは頷いた。子供達を連れ、避難すると共に距離をとる。マグタレーナの母性を生かして、子供達の心を静めることが目的だ。ココロはサントノーレに「直ぐに皆を連れてくるから」と言った。彼も風貌は怪しくとも味方だ。彼の傍に子供達を避難させておけば、戦闘に巻き込まれる可能性は低いだろう。
「分かった。……お嬢ちゃん達に任せるのは気が引けるけど、気をつけてな」
「サントノーレ先生からのお願い、ちゃーんと聞き届けるよ! 任せて!」
 にんまりと微笑んだ焔の唇が釣り上がる。地を蹴ったのはスティア。扉を開き「こんばんは」の言葉と共にオルッツォのもとへと飛び込んでゆく。
 子供とオルッツォの距離を出来る限り引き離すように――魔力の残滓を舞い散らせたスティアは旋律を掻き鳴らし神の福音を下ろす。
「これ以上、傷つけさせる訳にはいかないの! この子達はこの身を盾にしてでも護ってみせる!」
 突如として現われた銀髪の乙女に驚いたように目を剥いたオルッツォの足下から子供が怯えたように走り出す。鈴鳴らすように焔を纏わせたカグツチ天火の切っ先をオルッツォへ向けた焔はその周囲に神力で作る炎を生み出した。赫々たる炎と共に自身へと視線を集める彼の如く、焔は前線へと飛び込んでゆく。
「さぁ、子供を虐める悪い人はボクたちがこらしめるよ!」
「ええ。其処までですわ」
 静かにランプを揺らがせたアイラの眸は悪魔と名付けられたモンスターを見詰めていた。黒い肢体は闇に溶けるが如く、それをその双眸に映して『灯りが見える』という状況で子供達が希望を持てればと願うように指をぱちりと鳴らす。
「いかなお嬢様たるわたくしも、失われた命の火を再び灯す奇跡の手は持ち合わせませんが……これ以上の犠牲を食い止めるお手伝いは出来るものと存じます。――状況を鑑みますに、わたくしは悪魔の方にあたるのが佳いかと存じます。分かりましたわね?」
 清楚に可憐に。大胆不敵に。指を鳴らしたアイラは『幸運なる者』として、そして『お嬢様』として使用人達に囲まれて圧倒的な幸運で場を支配するが如く。無数のテーブルナイフを手にした使用人はアイラの指示を受けたようにナイフを投げ入れる。
「何だ、君たちは!」
「何だって……ッ、ぼくたちは、子供達を助けに来たんだ!」
 焔の元へと集まった悪魔達を巻き込むようにとリュコスの心の叫びは影となる。影は爪であり、牙となる。抗うように、しっちゃかめっちゃかずたずたに。自分が強いと顕わす様に影が悪魔達を切り裂いてゆく。
 倒れていた子供をそっと抱え上げ、マグタレーナへと手渡したのはステラ。「お任せします」と静かな声で告げて、鼠たちに小さく礼を言う。先行した小さな鼠による情報が子供達を巻き込まない布陣を作れたと、次は自身の番で在ると言うように機械式の巨大魔導具に魔力を走らせる。
 歩く要塞聖堂と、その名を付けられたギア・カソックに身を包んだステラが放ったのは直死の魔性。黒き大顎は徒花の如くオルッツォへと飛び込んでゆく。
「――そうか……『悪魔』達が言っていた……君たちが反逆者か!」
「反逆者……? ッ、そんなんじゃない! 大丈夫、直ぐに安全なところに連れて行くからね」
 ココロは子供を抱え上げ懸命に走る。マグタレーナも其れに倣い、倒れて泣き続けていた子供を胸に抱いて、外へと飛び出した。サントノーレの所へと、走るココロは「お願いしてもいい?」と肩を揺らして問い掛ける。
「大丈夫だ。……ガキンチョ、頑張ったな。ココロちゃ――あのおねーちゃんはオルッツォに用事があるからおっさんと待って居ようぜ」
「ええ。内部はとても危険ですから。……わたくし達が必ず守るから信じて」
 マグタレーナはそっと子供達を抱き締めた。我が子を諭すかの如く。包み込めば子供達のすすり泣く声が聞こえる。庇うことも厭わない。共に生きるために、自身こそ盾であるとマグタレーナはサントノーレへと静かに告げた。
「子供達は、お任せ下さい」


 反逆者であると。悪魔がそう告げたという言葉を聞くだけで正純は苛立ちを隠せずに居た。幼子達を傷付け、自身の趣味や趣向を悪魔が誑かしたが故と罪なき子供を痛め付ける。それをどうして許せるか。
 子供達の前では余りそれを傷付けることも厭われた。その様な暴力的な場面を見せることも心優しい正純には是とできなかったからだ。だが、救出が終わったのならば容赦は無い。天星弓――星々によって鍛えられた神弓を番える。闇夜に光る眩き星、それは天に吼える狼の如く、地を駆ける。
 哭く、その弓はオルッツォの下肢を穿ち、膝を突かせる。だが、それでは観念しないとでも言うように聖職者は手にした槌で地を叩いた。
「どうして邪魔をする! 誰も困らないだろうがッ!」
「誰も困らない……? どういう意味です」
 正純の冴えた声音が響く。スティアはオルッツォが『子供達は身寄りが無く、どうなっても構わない』という意味合いを含んでいるのだと気付いて唇を噛んだ。悪魔による精神的な阻害が、焔とスティアの間で揺らいで見える。
 唇を噛んだスティアの傍らで戻ってきたとココロは息を切らし、只只管に癒しの輝きを反転させ、赤き光をオルッツォへと放つ。
「子供の傷を見れば、何をしてたかは想像がつく。――裁くとか許さないとか、そんな権利わたしにはない。だけど、ムカつく奴だ!」
 苛立つように、吐き出した。それを、胸の内に留めておくこと何て出来なかった。今、癒しの力が反転したのは自身が憤っているからか。心の壁に僅かな罅が入るような感覚を覚えながらオルッツォへ向けて怒りを向けるようにココロは攻撃を重ね続けた。
「聖職者として、貴方を許さない! 死んで終わりだなんてさせない。生きて償わせる。
 だから――私は、オルッツォさんからその言葉の続きを聞こうと思う。同じ天義の聖職者として、その非道な行いをして誰も困らないと、本当に思ったの?」
 スティアの周囲を包み込んだのは氷結の華。命は花弁となり、舞踊りながら散ってゆく。故に、スティア・エイル・ヴァークライトは命がどれ程儚いかを知っていた。その胸の内に沸き立った怒りはオルッツォの前で鮮やかな花となる。
 ステラは未来を奪うように、的の先をとり、背後を取り、そして裏切りの一撃を突き刺す。地を蹴って、繰り出すのは高度な両面戦闘だ。美しく冷たい蒼薔薇の如く、踊る様に悪魔達を刈り取り続ける。
 鮮やかなる金の髪が揺らぐ。その傍に立っていたリュコスは悪魔達の憔悴を見ながらも、此処で彼等を倒しても『召喚する存在』を突き止めなければ、全てを終わらすことが出来ないのだと唇を噛んだ。
「……もうこんなことはさせない。そのためにぼくたちが止めるんだ!」
 吼えるように叫んだ。慈悲の如く、オルッツォへとその影が噛み付いてゆく。その様子をまじまじと眺めるアイラはゆっくりと指先で合図を送った――彼女の傍に存在した死霊達はお嬢様に手間を掛けさせること泣く攻撃を行い続ける。影の如く、死角から切り裂いた其れは悪魔の体を霧散させる。
 精霊の如く、モンスターのその肢体はいとも容易く霧散し、その場に痕跡を残さない。故に、『誰かの心に付け入る悪魔』とでもいうのだろうか。
「ねえ、オルッツォ。デモンサモナーって知らない?」
「知るわけないだろう!」
「……じゃあ、側に居る悪魔は?」
「勝手に来たんだ。ある日、『もう隠さなくて良いよ』って!」
 オルッツォのこと場に、何も分からないのかと焔は唇を噛んだ。赫々たる焔と共に。彼が生きて、これから罪を償うときにまるで嘯くように悪魔が許してくれたと言うのだろう。魔の囁きに心を許した聖職者。それを是とする訳がないとスティアは首を振る。
 そうだ。『もう隠さなくて良い』と。甘言を与えただけなのだ。悪魔は――オルッツォもブリギッタも何方も其れは心に秘めていただけ。デモンサモナーはそうした人間を見つけ出してはそっとその傍に精霊を、悪魔と称する影に隠れし存在を与えてスイッチを押すだけなのだ。
「ブリジッタもそうでしたが、悪魔に惑わされたとて、その性は本来持ちえたもの。
 ええ、生まれ持ってしまったものを否定はしません。勝手にすればよろしい。
 ――ですが、勝手にした分の報いは受けろ。恐怖に怯え死んで行った子供たちのために」
 元からそうだから、と許せるわけでは無いのだと。正純は弓をゆっくりと番えた。ぴん、と張り詰めた気配と共に苛立ちがその周辺を支配する。
 唇が戦慄いた。苛立ちのように、息を深く吐く。そして、放たれた一撃が、男の意識を刈り取って、其の儘その体を地へとうち捨てた。


 教会の裏手でカンテラの光が揺らいでいる。マグタレーナとサントノーレは疵だらけの子供達の介抱をしながらイレギュラーズ達の訪れを待っていた。
「サントノーレ。あの子たちだいじょうぶだよね」
 そっとサントノーレの袖を引っ張ったリュコスにサントノーレは大きく頷いた。怪我は酷いがココロとスティアによる手当もあり、オルッツォから引き離したことで安心しきった顔をしていることにリュコスは胸を撫で下ろす。
「大丈夫さ」とサントノーレはリュコスの頭をぽんぽんと叩いた。子供達の事が気になるのは自分と境遇が被るからだ。何もしないまま自分だけいなくなった状況で、他の兄弟達への罪滅ぼしと後悔を重ねるように子供達のことが気になって鳴らない。
「サントノーレ先生、その、子供達は先生に任せてもいい?」
 焔の問い掛けに、マグタレーナの胸に抱かれて眠っていた子供達をちらりと見たサントノーレは「OK」と頷いた。彼も元・聖騎士だ。自身が信頼できると考えた孤児院に預ければ今よりもぐっと境遇は善くなるはずだ。
「場所は教えてもらっておいて、今度皆で様子を見に行ったりしてもいいかな」
「勿論だ。こいつらもお前さん達が遊びに来てくれりゃ喜ぶだろうよ。名前もちゃんとした奴を孤児院で付けて貰ってな、幸せになって欲しいこった」
 サントノーレに焔はそうだね、と頷いた。子供達には名前は存在して居なかった。それもオルッツォが『何れは本当に親になる方に付けて貰いましょう』と仮の名を与えていたからだそうだ。
「サントノーレさん、その……オルッツォの手に掛った子達を探しに行くことは出来ますでしょうか?
 オルッツォにキッチリ吐いて貰いましょう。状態がどうであれ、キチンと埋葬してあげるべきですし」
「村の墓地だと流石にアレだろうから……そうだな、よさげな埋葬地を探しておくか」
「はい。お願いします」
 ステラは静かに頭を下げた。オルッツォが意識を戻したならば尋問し、直ぐにでも適当にうち捨てられたであろう子供達を丁寧に埋葬してやりたい。
「……以前の事件の爪痕は深いとはいえ、ここまでとは」
 正純はアドラステイアや天義のことを思い浮かべてから、はた、と首を振った。
「いえ、己が恵まれていただけで昔からこうだったのかもしれませんね。
 サントノーレさんはこれからも調査をお願いしますね。少しでも、多くの子供たちを救うために」
「任せてくれよ、正純ちゃん。あの馬鹿者をどうにかするのは俺達天義の国の奴と――お前さんたちみたいな、正義の心を持った奴、なのかもな」
 そう笑ったサントノーレに正純は小さく頷いた。気付けば空は白む。新しい朝がやって来たのだと、木々の間から穏やかな陽を受入れて。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加有難う御座いました。
 サントノーレは皆さんにまた調査をしてくると誓ったようです。

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